2020年6月分
№1709~1744
【ついのべ三題ったー「人肌」「無作為」「未対応」】
1709.『モザイクな温もり』
#twnovel「なんだか人恋しくなって」「心の病ですね。人肌を処方しておきます」少し前から、献血のように微量の皮膚を提供してもらい、無作為に貼り合わせて作った人工的な人肌を治療に用いる事例が増えている。「濃厚どころか接触自体禁止になって久しいですからねえ」保険が適用されるのが待たれる。
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【「好きって言ったら怒る?」という台詞で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わるお話】
1710.『ちょっぴり気が弱いあなた』
#twnovel「好きって言ったら怒る?」どうしてそんなこと訊くの、と思ったけど、そういえば何を言っても怒ってばっかりだった気がする。少し考えて、やっぱり「怒る」と答える。「そろそろ、それ以外の言葉で伝えなさい」まあ、言葉以外では貰ってるんだけどさ。銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。
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【「こんなところで、どうしたの」という台詞で始まり「静かで優しい夜だった」で終わるお話】
1711.『どうしようもNight』
#twnovel「こんなところで、どうしたの」ベランダに佇む俺に、彼女はそう言った。「なに、夕涼みだよ。月もきれいだからね」俺の言葉に、「ええ、本当に」と返し、彼女は何だか上機嫌で去っていった。家に入れないからベランダにいることはバレなかった。鍵、マジでどこいった。静かで優しい夜だった。
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1712.『半額のささやき』
#twnovel ダイエット中だし冷やし中華にしようかな、と伸ばした私の手を、半額の焼肉弁当が止めさせた。『ネギは野菜だよ。野菜と一緒なら実質カロリーゼロだよ』『騙されちゃダメだよ。世の中そんなに甘くないよ』どっちが天使か悪魔か知らないが、世の中の話なら焼肉弁当を手にする。世の中は肉だ。
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【ついのべ三題ったー「アメンボ」「フルボッコ」「ボタン」】
1713.『アメンボフルボッコボタン』
#twnovel「これがアメンボフルボッコボタンです」「…どうして」「ボタンを押すだけでアメンボをフルボッコにできます」「どうしてこんなことを!アメンボが何したっていうんですか!」「あいつが悪いんだ!ずっと英名はwater spiderだと思ってたのにwater striderなんて中二くさいこと言うからッ!」
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1714.『チー牛顔』
#twnovel「すいません、三色チーズ牛丼の特盛りに温玉付きをお願いします」耳に入ったので思わずそちらを見ると、へぇー本当にそういう顔してるわ、と思った。聞いたら食べたくなっちゃった、と同じく注文した隣の彼女もそういう顔になっていた。すべて悟ったが、抗えない。きっと俺も、そういう顔に。
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【「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった」で終わるお話】
1715.『怒られてもいい』
#twnovel きっと仕方の無いことなのだ。何をしても喜ばせることはできず、怒らせてしまう。だからこそ、怒られてもいいと思ったことをしようと、それを贈った。「好きって言ったら怒る?」と訊いたから怒ったのかな。それでもいいから、今は君を見つめさせて。銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。
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【「髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない」で始まり「その後どうしたかなんて野暮なことは語るまでもないだろう」で終わるお話】
1716.
#twnovel 髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれない。いや、これくらいじゃまだ気付くかな。もう夏だしもっといってみようか。チキンレースみたいでだんだんハイになってきた。あれもうこれしか残ってないのか。だったらいっそ。その後どうしたかなんて野暮なことは語るまでもないだろう。
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【ついのべ三題ったー「火星」「夏休み」「お茶」】
1717.
#twnovel 夏休みは火星でお茶しようぜ。そんなアホみたいなお誘いがあるか、と思ったが、どうせコロナ休校のせいで夏休みの消滅は決まっているのだ。ヨシ!と返信。はぐらかしたままこうなったから、ずっと冗談の言い合いを続けている。でも、お付き合いの返事ぐらいは、面と向かって言いたいじゃん。
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1718.
#twnovel「処刑されるのは構わない。だが村に戻り、妹の結婚式を見届けたい。その間、我が友セリヌンティウスを人質としよう」メロスの提案を聞き入れた王は、セリヌンティウスを呼んだ。彼はモニターを押しながら現れた。「お前の妹に事情を話したらリモート結婚式にするってさ。良かったなメロス!」
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【『路面電車』を舞台に、『爪痕』と『霧』と『運河』の内二つをテーマにした話】
1719.
#twnovel 何かやたら傷だらけだな。それが、この路面電車への最初の感想だ。霧の深い夜、もう歩いてられんと飛び乗ったものの、あちこちに爪痕のようなものがあって嫌な予感がする。その予感は私自身が爪痕を残すことで的中した。霧で線路が判らないのをいいことに、電車は縦横無尽に走り出したのだ。
1720.
#twnovel 運河に沿って走る路面電車。その行き先には今日も霧がかかる。霧に隠れていてもどうせわかる。海がある。ゴールへ必死にたどり着いたはずが、更に広い世界に放り出されるのだ。何度も。この霧を生み出しているのは乗客の溜息だ。足元を見せない優しさか、足元を掬うための罠かはわからない。
1721.
#twnovel ここの運河は『悪魔の爪痕』と呼ばれているんですよ。悪魔がその大きな手で、海岸を抉ったかのように見えるからでしょうね。この路面電車が向かう先も、運河に沿って五つに分かれています。これからあなたがするのは悪魔の選択。気付きましたか、鈍いことです。さあ、誰を選ぶんでしょうね。
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【#サカイメの書架応募 お題「夏休み」】
1722.
あの夏の日、どこまでも歩いていこうと僕たちは決めた。ここを出たら、何があるのかと目を輝かす君と、何もなくてもいいやと思った僕。その違いに気づいて、僕は君についていくのをやめた。夏休みは今年もどこにも行かない。今年も戻ってきた君に、何かあったかい、と訊かないと。
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【#サカイメの書架応募 お題「ねこ」】
1723.
猫ってのは逃げていくもんじゃないのかよ。暑くて網戸を開けたら、その隙に部屋に入ってきやがった。摘み出そうと追いかけるが捕まらない。姿を見せないと思ったら、飯の時間にはふらりと現れる。部屋にいる間、窓は開けっぱなし。ここって眺め良かったんだな。呟くと猫も啼いた。
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【twnvday2020/6/14 お題「おかえり」】
1724.
#twnvday「おかえり」と言ってくれる母さんがいる、ここだけが俺の居場所だ。そう喚いても、母さんは首を横に振るだけだった。俺は母さんの本当の子ではないという。同じ生き物ですら。俺がいるべきは、この森から眺めてきた、あの明かりの灯る人里らしい。振り返る俺に、母さんは促した。「おかえり」
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1725.
#twnovel 流れてきたらRT。流れてきたらRT。インターネットの普及は壁も戦争もなくさなかった。逆に増えた。今日も俺は、旗を掲げたインフルエンサーのフォロワーとして徴兵され、発言を拡散する。流れてきたらRT。この弾丸が誰に届くのかも知らない。流れてきたらRT。従軍先が多すぎて読む暇がない。
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【「好きって言ったら怒る?」という台詞で始まり「繋いだ手は今度こそ振り払われずに、きゅっと握り返された」で終わるお話】
1726.
#twnovel「好きって言ったら怒る?」その問いに、私は「それ今じゃなきゃダメ!?」と片手で崖のふちにしがみつきながら怒った。「好き?」と訊かれ「だからそれ今!?」と怒鳴り返すと伸ばした手を引っ込められた。そして私は、魂を売った。繋いだ手は今度こそふり払われずに、きゅっと握り返された。
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1727.
#twnovel ふと、これまで追い抜いて来た人々は、なれるかもしれなかった自分なのではと思う。ダメだったよと笑い合ったり、それなりの成果で手を引いたり。それを振り切って、それでも修羅の道を行くのは、突き動かす何かが胸の内にあるから。幸せに背を向けて手を伸ばす。さあもっかい十連ガチャだ。
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【「背中についた爪の痕が、痛いのか熱いのかわからない」で始まり「笑顔からこぼれ落ちる涙が光を纏って美しいと思った」で終わるお話】
1728.
#twnovel 背中についた爪の痕が、痛いのか熱いのかわからない。痛いはずなのだ、さっきまでここにいたのだから。歴史が変わったから消滅するとは言っていたが、随分しっかり爪痕を残してくれたものだ。光に包まれた最後の姿が目に焼き付いている。笑顔からこぼれ落ちる涙が光を纏って美しいと思った。
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1729.
#twnovel 屋台からテイクアウトしたラーメンにトッピングがなかった。百円かえして!とチャルメラの音を頼りに追いかけ、やっと見つけた屋台のおやじは「うるせーんだよ!」と怒鳴られていた。クレーマーをしゅんとして見送ったあと、こっちに人懐っこい笑顔を向けるおやじに、俺はおかわりを頼んだ。
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【『漁港』を舞台に、『銀色』と『鞄』と『野の花』の内二つをテーマにした話】
1730.
#twnovel 港にジェラルミンケースが流れ着いていた。僕がそう言っても「そんなものはない」と誰も取り合ってくれない。みんなだって見ているはずなのに。確かにあったのに。「いや、それはお前が間違っている」そんな。「ジュラルミンケース、だ。ジェラルミンケースなんてものはない」イラッとした。
1731.
#twnovel あいつには人魚の恋人がいるのさ。鞄いっぱいに花を詰めて海に出る彼を、漁港の人々はそう嘯く。船に乗せてほしいと頼んでも、特別な用事だからちょっとね、とはにかんだ顔で断られた。今日も花を撒いて戻ってくるのだろう。彼の恋人のように、いつか戻らない日が来ることを私は恐れている。
1732.
#twnovel 銀色の花?ああ、そりゃきっとこの漁港の名物料理のことですよ。魚の身を花びらに見立てましてね、花が咲いたように並べるんです。そこから?いえそれで終わりですよ。お客さんそんなの料理じゃないってクチですか?それ以前の問題?生でも食えますよ、バリバリと。ん。お客さん…人間かい?
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【「溶けたアイスが手首を伝う」で始まり「もう随分昔の話だ」で終わるお話】
1733.
#twnovel 溶けたアイスが手首を伝う。ちょっと早く来すぎただろうか。いつも気が利かないところばかり見せているから、時間前に来て、ついでにアイスでも買っておいてやろうとしたらこれだ。まあ急に気が利きすぎても不審がられるか。相手を手ぶらで迎える。アイスは腹に収まった。もう随分昔の話だ。
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1734.
#twnovel「節約術の話するってのにいきなり外食スか」「まあ聞け。ここのニンニク炒飯、後味が夜まで続くんだよ。それをアテに晩酌できるから食費が浮くんだ」「はあ」「でもそのままだとニンニク臭くて人に会えないからビールで後味を洗い流すんだ。すんません、瓶で一本」「何の話してたんですかね」
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【「拝啓、愛しい人。どうしていますか」で始まり「焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった」で終わるお話】
1735.
#twnovel 拝啓、愛しい人。どうしていますか。あなたが高級生食パンを求めて出て行ってからだいぶ経ちますね。私は相変わらず1斤84円の食パンと暮らしています。なーにが高級生食パンじゃという反骨精神は最高の調味料です。負け惜しみではないです。焦げたトーストは、苦いのにやたら美味しかった。
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【ついのべ三題ったー「ドーピング」「カマキリ」「鉄棒」】
1736.
#twnovel カマキリの異名を持つ鉄棒選手が、まさかドーピングをしていたなんて。筋肉がないような細っこい体でその力はどこから、といつも話題になっていたが、クスリのおかげだったのか。じゃなきゃ握っただけで鉄棒が斬れたりはしないよなあ。何であれだけの物損が不問でドーピングが問題なんだよ。
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【「きっと仕方の無いことなのだ」で始まり「やっと言えた」という台詞で終わるお話】
1737.
#twnovel きっと仕方の無いことなのだ。ようやく手にした答えのはずだったのに、とかくこの世は仕方の無いことが多すぎて、何にそう思ったのか忘れてしまう。そんな仕事帰り、散らかり放題の部屋に、疲れ果てた心と体で向き合い、万年床に倒れ伏しながら、仕方の無いことだと呟いた。「やっと言えた」
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【ついのべ三題ったー「爆竹」「日曜日」「景色」】
1738.
#twnovel「我々は日曜日解放戦線。日曜日続行を要求する」そう言って彼は腹に巻いた爆竹を見せた。さもなくば自爆すると言いたいのだろうが、それどっちにしろ明日仕事行かなくてよくなるやつだよね。私の論破に簡単に屈した彼は、黙って隣に腰を下ろした。ここは日曜の夕方に限っていい景色になる。
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【『植物園』を舞台に、『強運』と『刑事』と『キャベツ』の内二つをテーマにした話】
1739.
#twnovel その刑事は強運で知られる。ガサ入れでは隠された大麻を必ず見つけ出す。しかも買っただけとは言い訳できない、獲れたてのものを。時には犯人が「そんなはずないのに」と恨み言を漏らす。そんな刑事のルーティーンは、ガサ入れ前に植物園を訪れること。その度に何か持ち帰っているようだが、
1740.
#twnovel 私はこの植物園で生まれたんですよ。キャベツから。幼い頃、そう聞かされました。もちろん今ではそんなはずないとわかっています。ちゃんと両親を探し出して私を捨てたことを確認しましたし、それに彼らもキャベツ畑で生まれ変わりはしませんでしたから。そこに埋まっていますよ、刑事さん。
1741.
#twnovel キャベツは地面から生えると知っていた僕は運が良かった。スーパーでしか野菜を見たことがない同級生たちは、この植物園に違和感を覚えないらしい。だからあの木に成るキャベツを食べてしまった。そんなキャベツ、食べても何ともないなんて強運あるはずがない。運が良いのは僕の方だ、僕の…
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1742.
#twnovel 久しぶりに食堂に行くと「コロナ鍋」なるメニューが増えていた。「こんな冗談でも言ってないとやってられなくてね。ちゃんと、こういう状況ならではのお肉使ってるよ」何の肉。「中止になるイベントが多いから、どうしても出ちゃうものがあってね」それはありすぎるよ。ヒントは。「譲渡会」
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1743.
#呟怖
久しぶりに食堂に行くと、目当ての看板娘の姿がなかった。コロナ鍋のためにどうしても切らないといけなくてね。しんみりする店主に、鍋じゃなくて禍でしょとは言い出せなかった。ああせっかくだし鍋をいただこうか。わかったと相好を崩した店主が肉鍋を運んでくる。あんたが食うならきっと喜ぶ。
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【「まだこんな場所があったのか」で始まり「そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ」で終わるお話】
1744.
#twnovel まだこんな場所があったのか。大量の本を取り揃えてあるここは、私の秘密の場所だった。あのとき鉢合わせたおじさんは、私を叱ろうとした大人ではなく、かつてここに入り浸った少年だったのかもしれない。こうしてエロ本を置いていく側になってみると、そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ。
2000本まで、あと256本。




