キラーピザ
日曜をむだに消化劇場
「#キラーピザ」
ぜひおたのしみください。
ピザ職人が死んだ。全身が焼け爛れた凄惨な死体となって。竃が出火原因による焼死と思われたが、事件現場に火事の痕跡は見られないという奇妙な事件。職人は、ピザのイメージとはかけ離れたスリム体型だが、失敗作でも廃棄できないほどピザを愛していた。彼はなぜこんな死に方をしたのか…#キラーピザ
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今日は家賃の集金日だが、住人が1人不在だった。外出した気配はなかったのに。家財道具などはそのままなので夜逃げとは考えにくいし、ピザが箱のままあったから食前の運動に散歩にでも出たのだろう。あの巨体には大して効果はないだろうが…大家はそう考えていたが、住人は戻らなかった。#キラーピザ
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大家の事情聴取から、失踪した住人には訪ねてくるような知人もなく、仲が良さそうなのはいつもピザをデリバリーしに来る青年くらいだと分かった。わかりました、と立ち去りかけた刑事は踵を返す。ところで、箱のまま手つかずだったピザは。ああ捨ててしまいましたよ。そこに…あれ、ない。#キラーピザ
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積んでいるピザが1箱多い気がする。そう思ったが、気のせいだろうとバイクを出す。もしその通りだったら、上客にサービスだと渡しておこう。何故かいつもスタイルの良い美女を侍らせている中年太りのオッサン。印象を良くしておかないと、あの客のように急に注文が途切れるかもしれない。#キラーピザ
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下心ついでに、情事を拝見しようと隠しカメラを忍ばせてピザを渡した。俺のした悪事はその程度だったが、なぜかあの客の失踪事件の捜査で訪れた刑事に洗いざらい吐くハメになってしまった。隠しカメラから送られてきていた映像を一緒に観たが…そこには信じられない場面が収められていた。#キラーピザ
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箱を開けた瞬間、ピザが大きく膨らみ、一瞬で2人を飲みこんだ。しばらく暴れていたが、やがてピザは萎んでいき、女だけがごろんと転がり出た。その全身は焼け爛れている。太った中年はどこへ。まさか…「なるほど。デブは消化して、そうじゃなければ吐き出すのか」ピザが、デブを食った。#キラーピザ
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刑事が本当に捜査していたのは、某国から密輸された生物兵器だった。それは殺人トマト。運び屋を締め上げると、すでに普通のトマトに紛れて市場に出回ったと吐いた。そしてあるピザ職人に辿り着いたのだが…「もう死んでいた。ちょうどこの女のように。自ら作ったピザに殺されるとはな…」#キラーピザ
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刑事は公安の所属で、ピザの対処に当たるのも特殊チームとのことだった。その全員が太っていた。「この日のために訓練を積んだ結果だ」訓練って。「ピザの早食いだよ」ちょっと待ってください、まさか。「そうだ。ピザにはピザをぶつけるんだよ…ピザを丸ごと平らげられる、ピザデブをな」#キラーピザ
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恐ろしい光景だった。現れたピザを猛然と食う特殊部隊、それを丸ごと食い返すピザ。すでに何人もの隊員が消化されてしまった。だが本当の恐怖は、ピザが自らスライスされ、具となった人間の手足を生やすことで機動力を得てからだった。ピザ人間に捕食、もしくは焼き殺されていく人間たち…#キラーピザ
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特殊部隊は全滅し、俺を守る者はいなくなった。ピザ人間が迫る。「こっちだ、ピザ野郎」そう叫んだのは、この短期間で丸々と太ったあの刑事。ピザ人間たちは俺は後回しでいいと判断したのか、あるいは知性より食欲が勝るのか、太ったせいで息が上がりながら逃げる刑事を追いかけていった。#キラーピザ
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どうする気なのかとこっそり後を追うと、刑事がピザを誘いこんだのは核シェルター。密封して、外に出られないようにするつもりだ。刑事は内側から扉を閉じようとしたが、その手を俺が掴み、引っ張り出して扉を閉めた。「追って来る度胸があるとは思わなかった」誤算は最高の勝算となった。#キラーピザ
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殺人ピザはシェルターでゆっくりと冷えて固くなっていくことだろう。発端である殺人トマトも押さえたし、二度と現れはしまい。俺はといえば、失った上客の代わりに新たな上客を得た。早く痩せなければとぼやきながら、すっかり好物になってしまったピザを刑事は複雑な表情で頬張っている。#キラーピザ
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時は流れ…核戦争の危機は目前だというのにシェルターは使用不可とする政府に民衆は反感を抱き、理由の開示を求めたが機密だと一蹴された。だが遂に、1人がシェルターに忍び込んだ。俺は民衆を救う英雄となるのだ。願望と欲望を込めて開かれる扉。パンドラの箱の中にあったのは…
#キラーピザ 終