さーあ、かあさんのいる空へ
カモメになった 文太くん
文太は小学三年生です。とうさんと三つになるユミちゃんの三人家族で、港近くに住んでいます。
港には大きな倉庫があって、とうさんは船に荷物をつんだり、おろしたりするのが仕事です。
文太は学校から帰ると、とうさんが働いている仕事場へ妹のユミをむかえにいきます。
「ただいまーっ」
「おかえりー」
文太が大きな船の上にいるとうさんに向かって手を振ります。
文太もユミも海が大好きです。ふたりは毎日、海に突きでた岩の上に腰をおろし、肩を寄せあってお話しをします。
やさしかったかあさんのことを話していると、カモメが、
「アイーア、アイーア」と、鳴きながら、二人の目のまえを飛んでいきました。
「カモメのように空が飛べたらなあ。かあさんのいるところへ飛んでいきたいなあ」
「おかあちゃん、あの雲のうえにいるの?」
ユミは海の上に浮かんだ雲を指さしながら、文太に尋ねました。
「そうだよ」
文太は、かあさんが病院で亡くなるまえに、
「文ちゃん、ユミちゃん、おとうさんの言うことをよーく聞いて、きょうだい仲良くするのよ」
そう話していたことを思いだし、急に悲しくなってしまいました。
そのとき、うしろからだれかが文太とユミの肩をたたきました。
「寒いから、早く家に帰ろ」
振り返ると、とうさんが立っています。
とうさんは、着ている服を脱ぐと、ふたりにかぶせました。大きなとうさんのぬくもりに、ふたりはうれしくなりました。
夕日が空をまっ赤に染めています。
あくる日も、そのよく日も、文太とユミは岩の上に腰をおろし、水平線に浮かぶ船や、沖に舞い飛ぶカモメを見つめていました。
カモメは、さっと舞い降りたかと思うと、黄緑色のくちばしにサカナをくわえ、ふたたび空高く舞い上がります。
しかし、やがて春がくると、カモメたちは空遠く、北の海へ帰っていくのです。青い海も灰色の海に静まりかえってしまいます。
とうとう、春がやってきました。
ある日、二人はいつものように遠く海をながめていました。
「あたたかくなったね。春だね」
文太がいいました。
「もう、カモメさんとも会えないね」
そう言うと、あたたかい光の中でいつのまにか、ユミはうとうとしながら、やがて眠ってしまいました。
そのうち、文太も眠くなってきました。
そのときです。どこからか、やさしくささやく声がします。
「文ちゃん」
だれだろうと思っていると、文太とユミのまわりに、大きなカモメや小さなカモメがたくさん、輪になって立っています。
「ふたりとも、とても良い子だから、おかあさんに会わせてあげよう」
「ほんと、ほんとに!」
「じゃあ、二人とも立ってごらん」
文太はうれしさのあまり、飛びあがりました。
目をさましたユミも、なにごとだろうかと、目をパチクリさせています。
「ボクがするとおりに、両手をバタバタさせてごらん」
一番大きなカモメがそういって、羽根をバタバタさせました。
「そう、そう。じゃあ、今度は大きな声で、
『アイーア、アイーア』って、叫んでごらん」
最初ははずかしかったのですが、カモメに教えられたとおりやっているうちに、文太は自分が本当にカモメになったような気がしてきました。
「さあ、飛び立つぞ」
一番大きなカモメはそういうと、北へ向かって最初に飛び立ちました。他のカモメたちも後につづきます。
今度は文太の番です。両手を力いっぱいバタバタさせました。
すると、体が綿のように軽くなって、宙に浮きあがったのです。
「うわーっ、空っていいなあ」
船や家、倉庫が次第に小さくなっていきます。
「かあさんに会えるぞーっ」
文太はそばを飛んでいるユミに言いました。
しかし、すぐに、悲しくなってしまいました。なぜなら、かあさんには会えるのですが、そばにはとうさんがいないのです。
「やっぱり、とうさんがいるところがいいよーっ」
文太は泣きだしそうな声をあげました。
すると、いちばん前を飛んでいるあの大きなカモメが、笑いながらこたえました。
「うしろを見てごらん」
振り返ると、カモメになったとうさんも、うしろから飛んできています。
「とうさん、ユミちゃん、はやくー」
雲のあいまから、明るい光といっしょに、かあさんのやさしくほほえんだ顔が見えます。




