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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第4章  夢現フィールドと再起の遺構
98/123

Locus 88

 2週間ぶりの投稿になってしまいました。

 すみません。

 では、どうぞ


 

「うわぁ……」


「お、大きいですね」


「今まで見た中で、一番大きいよね」


『おぉー、おっきー!』


「キュゥウー!」


「何を食べたら~、ああなるんでしょうか~?」


「う~ん。栄養豊富な食べ物とか?」


「いや、そうじゃないでしょ!」


 俺がユンファの言葉に答えると、案の定アリルから突っ込みが入った。

 流石は我が妹様は、分かってらっしゃる。


「まぁ、じゃれ合いはその辺にするとして。真面目な話、どう対応しようか?」


「ん~……これ見よがしに、地下水路(ここ)のボスですよ! って見た目だし、ここまで他のモンスターも全部倒したから、ここが最奥(さいおう)で間違いないはず。見落としていることはないと思うけど、一応クエスト詳細(しょうさい)を確認しておこうか」


「だね」


 そうしてクエスト詳細を見てみると、何時の間にか第1条件をクリアしており、新たな条件が表示されていた。

 

『キークエスト【復活! 古の遺構】  0/3


・モンスターから循環の制御球を取り戻せ  0/1  ●○○


・?????


・?????                                                                                                    』


 前の条件はどうやったら見れるのか気になり、色々と試していたら条件の後ろにあった染色された●を押すことで、第1条件とその達成度も見ることができ、モンスターの討伐率は83%になっていた。 


 新しい条件に、モンスターから循環の制御球を取り戻せとあったので、念のため皆で自分のドロップアイテムを見ていったが、そういう名前のアイテムは見当たらなかった。


「ありませんか。ということは、あのモンスターが持ってる可能性が高そうですね。ナギ、いつものをお願いします」


「ういうい♪ え~っと、名前はゼラチナス・ダーティウィッパーでレベルは18。属性は水で耐性は水と打属性。弱点は、火と斬属性だね。何か丸いものを幾つか持ってるみたいだけど……ごめん。ココからじゃ分かんないみたい」


「えっ!?」


「「「え?」」」


「……リオンさん? もしかして、アレ何だか分かるんですか?」


「ああ、そうだけど。えっと、普通に分かるものじゃないのか? 識別を使ったんだろ?」


「そうですよ。でも、あの距離であんな風に巻きつかれてると、識別の焦点が合わないんですよ。焦点が巻きついているゼラチナス・ダーティウィッパーに引き寄せられちゃうんです」


「そうなのか? 俺はそういうこと今までなかったから、よく分からないんだけど」


「それはたぶん、リオンさんが望遠能力のあるスキルを持ってるからじゃないかな? 望遠能力があると、焦点が他に引き寄せられること無く、しっかり見えるようになるようですし」


「望遠能力…………あぁ! そういえば、(ふくろう)の目にはそんなのもあったっけ」


「やっぱり持ってたんですね」


「しかもそれって、初期GPで取れる当たりスキルの1つじゃないですか。あ~あぁ、こんなことならあの時取っとくんだったなぁ」


「当たりスキル?」


「そそ。初期GPで取れるスキルの中には、複数のスキルを統合進化させたスキルや初期GPでしか取れない使い勝手の良いスキルのことをそうやって言うんだよ」


「中でも~、アイテムボックスや~の目系のスキルがその最たるものですね~」


「へー」


「~の目系スキルは、大体望遠能力が付いてますから、照準(しょうじゅん)が合わせ易くなるみたいですよ」


「ボクもそれを知ってからは、一応~の目系スキルを習得できるように行動してるんだけど、まだまだ先は長いのが現状なんだよね。はぁ、失敗したなぁ」


「まぁ、それはともかくとして、リオンさん。見えたもののことを教えてもらえますか?」


「ああ、分かった」


 その後、俺が識別で得た情報を皆と共有し、更に戦闘での役割を決めていく。


 因みに、~の目系スキルを習得するには、最低でも3つ以上の条件を(そろ)えなければ進化できないらしい。

 例えば、梟の目に進化させるためには、遠見(とおみ)というスキルを進化させ望遠にし、更に夜目を習得してその2つのスキルのレベルをマックスまで上げ、DEXの値を50以上にしなければ、統合進化させることができないそうだ。


「耐性が水属性ってことは~、今回も魔法はお預けですね~」


「そうなるね。でもキークエストは今回のとこをクリアしても、まだ後2つあるんだし、きっと魔法を使う機会が(めぐ)って来ると思うから、元気出しなよ」


「はい~。ありがとうございます~」


「弱点が斬属性ということなので、今回ユンファは前衛でお願いしますね。配置割りは、前衛に(リーゼリア)、リオンさん、ユンファ。後衛に、アリル、シエルちゃん、ネロちゃん。遊撃にナギでしょうか」


「だね! できれば前衛組の誰かが、引き付け役をしてくれると、全体的に動き易くなると思うんだけど……難しいかな?」


「あ、それなら俺がやるよ。今までの戦闘で(おとり)に使えそうなアーツとかを習得したから、たぶんいけるはずだしな」


「そうなんですか? それでは、危なくなったらフォローはしますので、リオンさんよろしくお願いしますね」


「ああ、その時は頼むな」


「それじゃ後は、戦闘開幕時の魔法攻撃についてだね」


「魔法攻撃について? いつも通り、範囲魔法を撃つんじゃないの?」


「まぁ(アリル)はそうなんだけど、せっかく弱点が斬属性って分かってるんだから、ネロちゃんには範囲魔法よりもシャドーエッジを使ってもらおうと思ってね」


「ああ、なるほど」


「ん? ちょっと待った、アリル。その言い方だと魔法にも斬属性があるみたいに聞こえるんだけど」


「うん、そうだよ。種類によっては違うけど、武器みたいな斬・打・突属性が付いた魔法もあるんだよ」


「そうなのか?! ……知らなかった」


「お兄ちゃん、勉強不足だよ! ちゃんと掲示板とか見てる? 結構知ってると得な情報とかあるし、時間がある時に見て置くと良いよ」


「そう、だな。分かった、今度見て置くとするよ」


「うん、よろしい! それで、斬・打・突属性が付いた魔法のことだけど……例えば私が使ってる風魔法だと、ほとんどが斬属性付きなんだよね。イメージ的にも鎌鼬(カマイタチ)で切り裂くみたいなのが多いから、分からなくはないでしょ?」


「まぁ、そうだな」


「もっともエアハンマーみたいに、打属性が付いた魔法もあるから、全部が全部斬属性付きって訳でもないんだけどね」


「なるほどなぁ。それでネロのシャドーエッジも剣身で切り裂くから、その斬属性が付いているってことなんだな」


「うん、そういうこと」


 因みに、風の基本魔法エアカッターと、影の基本魔法シャドーエッジには斬属性が。

 水の基本魔法アクアストライクと、地の基本魔法ストーンバレットには打属性が。

 光の基本魔法ライトアローには、突属性がそれぞれ付いているそうだ。


 火の基本魔法ファイアーボールは、純粋な熱エネルギーとしての面が強いせいか、斬・打・突属性は付いておらず、魔属性のみとなっているらしい。

 その分、ステータスが魔法よりになっていれば強いようなので、属性が1つだからといって弱いということは無いようだ。


 この話から推察(すいさつ)するに、俺の持つ無属性魔法の基本魔法、エネルギーボルトもファイアーボールと同じように、魔属性のみになるんじゃないかと思われる。


「それじゃ、後は補助魔法(バフ)を掛けたら戦闘開始だね」


「あ、そうだ! 今回の戦闘開幕時の魔法攻撃に俺も参加するよ。囮役なら少しでも敵愾心(ヘイト)(かせ)いだ方が良いだろうしな」


「あれ? お兄ちゃん魔法なんて使えたの? 初めて聞いたんだけど……」


「まぁ、言ってなかったし。それに、範囲魔法の方はまだ試し撃ちもしてないし、射程が分からないから今回の攻撃も範囲魔法じゃないけどな」


「そうなんだ、納得。一応聞いて置くけど、水属性魔法じゃないんだよね?」


「ああ」


「そか。それなら、大丈夫だね」


 そうして前衛組にアリルがスピードブースター・ウィンドを、後衛組みにネロがメンタルブースター・シャドウを、そしてシエルが全員にマインドブースター・ライトを掛けて準備を整える。

 それから程無くして、後衛組みから一斉に魔法による先制攻撃が発射されていく。


「いくよー! ―――グラビティボルテックス!」


『ライトバースト!』


「ホオォォォー!」


「ッ?!」


 アリルが宝玉が嵌った方の杖の先端をモンスター達に向けながらグラビティボルテックスを放つと、ゼラチナス・ダーティウィッパーの周囲を切り裂くように突如として竜巻が発生する。

 ゼラチナス・ダーティウィッパーが既に中心にいるためか、中心から動くことができず無防備に、高速で流れる気流によって無惨に切り裂かれていく。


 シエルがライトバーストと唱えると、拳大の光球が今まさに身動きが取れない状態のゼラチナス・ダーティウィッパーの触手の中心に現れる。

 そして次の瞬間煌々とした白い光の爆発が発生し、ゼラチナス・ダーティウィッパーの触手とその触手に抱えられていたゼラチナス・ダーティエッガーを強烈な熱光線で焼き焦がす。


 更に、アリルの先制攻撃により現れた黄色い核目掛けて、ネロのシャドウエッジが続々と射出され、ゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体を次々に切り刻んでいく。

 

 ゼラチナス・ダーティウィッパーはアリル達の魔法攻撃のダメージで(もだ)えるかのように、触手と胴体を震わせている。

 HPバーを見てみると、驚いたことにゼラチナス・ダーティウィッパーにはHPバーが2つもあったが、魔法による連続攻撃により1本目のHPバーは既に半分以上無くなっていた。

 シエルのライトバーストによって焼き焦がされたゼラチナス・ダーティエッガーを見てみれば、レベル16の個体は残り7割程で、レベル15の個体は残り5割弱といったところだった。


 さて、それじゃ俺も攻撃に参加するとしよう。

 立派な? 囮役になれるようにできるだけダメージは多い方がいいはず。

 その方が、ゼラチナス・ダーティウィッパーの注意を引き付けることもできるだろうしな。


 だけど、それでMPを減らしすぎれば後々困ることになるから、調整が難しいんだよな。

 あの時よりもMPは倍近くあるが、再精が賦活になったばかりだからそのことも考慮(こうりょ)して、ここは5つ……いや、4つにして置くかな。


 そう考え、俺は少しでも与えるダメージが上がるようにアーツを使い、ゼラチナス・ダーティウィッパーの大きな胴体目掛けて魔法を放つ。


「バーサーク!」

「クアドラプルマジック」

「エネルギーボルト!」


「ツッ!!」


「「なっ!」」

「ちょっ!」

「っ!」

「は?」


 俺の体全体が赤いオーラに包まれたことを確認し、すぐ様前方に(かか)げた左手の平から極太の4条の紫電が(ほとばし)り、狙い通りゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体部分に着雷する。

 ゼラチナス・ダーティウィッパーの体の大半が水でできているせいか、将又(はたまた)ネロが付けた傷から進入したのか、着雷した4条のエネルギーボルトはゼラチナス・ダーティウィッパーの体中を駆け巡り、その身を内から焼き焦がす。

 そして、その雷に近い性質のためか『ビクンッ! ビクンッ!』と体全体を(ふる)痙攣(けいれん)させて、数多の触手もダラリと垂れ下げている。


 流石に感電に近い状態だったのだろう、大事そうに抱えていたゼラチナス・ダーティエッガーからも触手を離してしまっていた。

 HPバーを確認してみると、ゼラチナス・ダーティウィッパーの1本目のHPバーが残り2割弱になっていた。

 更に、ゼラチナス・ダーティウィッパーが離したゼラチナス・ダーティエッガーの方も見てみると、やはり一緒に感電したのか、ダメージが入っており、レベル16の個体は残り3割程で、レベル15の個体は残り1割を切っていた。


 今までバーサークを使って様々なアーツを使い、アーツの発光色が混ざることはあったが、まさか魔法にまで影響を及ぼすとは思いもしなかったな。

 更に言えば、雷のような純粋なエネルギーだからといって、感電に近い症状(しょうじょう)を引き起こしたのは、ゼライス系特有の体の大部分が水で出来ているような構造をしていたからだろう。

 もし、そうでないとするなら、以前のジャイアント・デュアルセンチピード戦の時に同じ症状がでなかったのが、おかしいことになるからな。


 ……いや、待てよ?

 だとしたら何でジャイアント・デュアルセンチピードと戦った時は、発光色が混じらなかったんだ?

 あの時も確か、バーサークで威力を底上げしていたはずなのに。

 ジャイアント・デュアルセンチピードと戦った時と今とでの明確な差異は……クラスチェンジしたこと位だな。


 つまり何か?

 クラスチェンジしないノービスの状態だと、目に見えない何かに、制限が掛かっているということ……なんだろうか?

 まぁ、今考えることでも無いし、このことは1度保留にして置こう。


 それよりも今は、状態異常のアイコンは出ていないが、まだビクビクと痙攣して動きが緩慢(かんまん)なようだから、今の内にあの(ゼラチナス・ダーティエッガー)をできるだけ破壊して置くことにしよう。

 集団戦の基本は、倒せる相手から狙うのが定石(じょうせき)だし、何かの拍子(ひょうし)孵化(ふか)でもされれば、相手側の戦力上昇に(つな)がるしな。


 そう思い、アドヴァンスドソードを抜剣し、まださっきの紫電による驚きで動きを止めていたアリル達に声を掛け、ゼラチナス・ダーティウィッパーへと駆け出して行く。


「それじゃ、行くぞ! いつまでもポケッっとしてないで、今の内に移動しててくれよな」


「えっ? あ、はい。分かりました。皆、作戦通りお願いします!」


「ほいさ! 了解だよ!」


「いけない(モンスター)は~、()っしないとですね~」


「っは! お兄ちゃん、絶対後でさっきのこと聞くからね!」


『よぉし! いっくよー!』


「ホオォォォー!」


 残念!誤魔化されなかったか。 

 そんなことを思いながら、後ろから正気を取り戻したアリル達の声を聞きつつ、囮役を(まっと)うするためのアーツや魔法を使っていく。

 

「フォーチュンブースター・ノート!」


 瞬間俺の体全体が青白い光に包まれ、バーサークの赤いオーラが薄紫色に変わり、そのすぐ後またいつもの赤いオーラに戻ると、俺の視界の端にLUK↑のアイコンが付く。

 

「リベレイトフォース・ソード!」


 ヒィィィン!


 アドヴァンスドソードの剣身から鋭い音が発生し、次の瞬間まるで水に()れたような透明な輝きを剣身に宿していた。


「ミラージュボディ」


 一瞬焦点が狂ったように俺の視界がボヤけて戻ると、俺の視界の端に人の形をした絵が2重になっているアイコンが付いた。

 たぶんこれで、俺の分身が投影されたのだろう。

 俺自身には投影体は見えないが、これで少しは(まど)わされてくれると良いんだけど。

 まぁ、無いよりはましなはず! ……と思いたい。


 そう考えつつ、ゼラチナス・ダーティウィッパーの触手から離れたゼラチナス・ダーティエッガーの1つを素早く斬り付け、光の粒子へと変える。

 ゼラチナス・ダーティエッガーには自我というものがまだ無いようで、自力で動くこともまだ無く、容易に倒すことができた。


「リープスラッシュ!」


 更に現在居る場所から最も近く視界にも入っているが、垂れ下がっている触手のせいで近づけない、別のゼラチナス・ダーティエッガーに斬撃を飛ばし、ダメージを与える。

 流石に弱点属性であっても、1撃では残り3割全てのHPを削り切ることはできなかったようで、光の粒子にはならなかった。


 すると、ダメージを与えたゼラチナス・ダーティエッガーの上空から黒い剣身が飛来して、光の粒子へと変えていった。

 どうやら、ネロが俺の考えに気付き、援護(えんご)してくれたようだ。

 まだ生まれて2日目なのに、すごい理解力だなぁっと感心していると、今までヘタっていた触手に本来の力強さが戻るのが見えた。


 視線をゼラチナス・ダーティウィッパーに向けて見ると、感電に似た症状から回復し、まさに(かたき)を見るような視線を、爛々と輝く大きな黄色い核から感じられた。

 そして、その直後数多の触手の数本を用いて残ったゼラチナス・ダーティエッガーを拾い上げ、それ以外の触手は持ち上げ憎き敵を()つべく、次々と俺に向け振り下ろされて来る。


 迫り来るゼラチナス・ダーティウィッパーの触手が視界に入ると、見切りのスキルによってゼラチナス・ダーティウィッパーの攻撃到達予測線が、赤いラインとして視覚化される。

 視覚化された赤いラインはミラージュボディが効いているようで、俺の方に振り下ろされる触手の内のおよそ4分の1が俺が居ない明後日(あさって)の場所へと流れて行っているのが確認できた。

 

 俺は視覚化はされても順番までは分からない攻撃を自己判断で取捨選択し、予測線の少し外側に()れるように避け、斬り付け、(ある)いはアーツを用いて斬り飛ばす等をして、囮と前衛としての役割をこなしていく。

 しかし、やはり相対する数が多いせいか、賦活の効果を超過したダメージが、……じわり……じわりと本の(わず)かずつ、俺のHPを削っていく。

 

 そうして少しすると、何時の間にか接敵したリーゼリア達が、ゼラチナス・ダーティウィッパーの背後?に回っているのが見え、そして一斉に触手を斬り裂き、ダメージを与えていく。

 そして、その攻撃を援護するようにアリルのエアカッターやネロのシャドウエッジが発射され、シエルも耐性属性ではないレイビームを放っている。


 HPバーを見てみれば、現在の俺のHPが9割を割っているのに対し、ゼラチナス・ダーティウィッパーは2本目のHPバーに差し掛かっていた。

 だが、ダメージそのものは通っているのに、触手自体に付いた傷や斬り飛ばした触手は時間経過で治ってしまい、一向に攻撃の手数を減らすことができておらず、次第に攻めあぐねているようにも見える。

 

 まずいな……。

 このままだと、防戦一方になる可能性が出て来る!

 俺自身はまだ、囮として十分かもしれないが、あっちの様子を見ていると、致命打を与えられない以上、例えフォローに回ってもらっても封殺(ふうさつ)される危険性があるな。


 う~ん……よし!

 ここは、あのアーツを使ってみるとしよう。

 今までも何かと助けられて来た実績(じっせき)? もあるし、困った時は弱点看破に限るな。

 使わずに倒せれば良かったんだけど、さすがボス?なだけあって、普通に攻略し難い強さがあるな。

 

 そう俺は思い、きっと今回もこの状況を打開できることを願いつつ、ゼラチナス・ダーティウィッパーの猛攻を回避専念に切り替えながらアーツを使って見る。

 

「ウィークネスアイ」


 すると、俺の視界内にあるゼラチナス・ダーティウィッパーの弱点が赤く微発光し、その場所を視覚化させる。

 赤くなった所は、ゼライス系特有の核と、各触手の根元にある(こぶ)のような所、そして天井に張り付いている吸盤(きゅうばん)の外周部分だった。

 

 ふむ……やはり天井に張り付かれているから、一番下にある弱点を攻撃するにしても跳躍(ちょうやく)する必要があるな。

 跳躍は、空中で身動きができなくなって、(すき)が大きくなるから、本来は極力しない方が良いんだけど……今回ばかりはそうも言ってられないか。

 それなら役割を(あらかじ)め決めて置いた方が無難だろうから、ミラージュボディが切れる前に、連絡して置こう。


 そうして、俺はある程度方針を固めた後、パーティチャットで他の皆に連絡を入れる。


『皆、戦闘中だが、少し聞いて欲しいことがあるんだ。大丈夫か?』


『私は良いけど、お兄ちゃんの方が危ないんじゃない?』


『私もリオンさんに比べれば、それ程大変では無いですが、何か分かったのですか?』


『ボクもまだいけるよ!』


『私もです~』


『俺もまだ大丈夫だが、あまり時間を掛けてはいられないから、簡潔(かんけつ)に言うな』


『はい、お願いします』


『さっきゼラチナス・ダーティウィッパーの弱点部位を見つけるアーツを使って見たところ、3つ? の弱点部位が分かった』


『おおー!』


『流石お兄ちゃん! ()えてるね』


『それで、その弱点は胴体の中にあるでかい黄色い核と、各触手の根元にある瘤と、天井に張り付いている吸盤の外周が、ソレに当たる』


『ふむふむ』


『あら~。攻撃を当てるには~、少し難しそうですね~』


『今までの経験から考えると、核に当てられるなら与えるダメージは最も大きそうだ。だけど、ゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体の中を、その核が自由に動けるみたいだから、今回は放置で良いと思う。だから作戦としては、俺がこのまま囮役を続行し、ゼラチナス・ダーティウィッパーの注意と触手を引き付けている間に、前衛組のリーゼリアとユンファ、遊撃役のナギに、触手の根元にある瘤を、後衛組みに天井に張り付いている吸盤の外周部を攻撃してもらいたいんだ』


『なるほど、理に(かな)ってますね。私は、その案で良いと思います』


『ボクも賛成(さんせい)! さっきから触手に攻撃してるけど、全然手応えが感じられなくて、ヤバイ気がしてたんだよね』


『でも、ダメージは与えられているんでしょ?』


『そうなんだけど、それより攻防に使える相手の触手が一向に減らないから、長期戦になるとこっちが危なくなっちゃうんだよ』


『ですね~』


『そっか、それならお兄ちゃんの案に乗るのが良さそうだね』


『話は(まと)まったみたいだな。それじゃ、シエルにも一応作戦は伝えて置くから、俺がゼラチナス・ダーティウィッパーに魔法を撃ったら、たぶん一瞬怯(いっしゅんひる)むはずだから、ソレを合図に始めてくれ』


『ういうい!』


『はい!』


『了解だよ!』


『分かりました~』

 

 そうして、先程の作戦を心話でシエルに伝え、ネロにも教えるように頼み、リーゼリア達が互いの攻撃範囲に入らないよう散開したのを確認すると、触手による攻撃の隙を突き、パーティチャットで合図を出しながら、作戦開始の魔法を放つ。


『それじゃ、いくぞ?』

「ダブルマジック」

「エネルギーボルト!」


 魔法を使う意志に反応して、前方に掲げた左手の平から、通常のエネルギーボルトの1.5倍程太い、2条の紫電がゼラチナス・ダーティウィッパーへと放たれる。

 そして着雷した瞬間、紫電はゼラチナス・ダーティウィッパーの体内を駆け巡り、また痙攣を起こすように『ビクリッ!』とその巨体を震わせ、()いで全ての触手の動きが止まる。


「いきます! ―――スラッシュアッパー!」

「いくよ! ―――ライジングエッジ!」

「はいです~! ―――アッパーライン~!」


「ッツ?!」


 アーツの名は違うが一様に、跳躍しながらゼラチナス・ダーティウィッパーを斬り上げ、弱点の1つである各触手の根元付近の瘤まで飛び上がる。

 

「レイスラッシュ!」

「サークルスラッシュ!」


「トライスラッシュ!」

「スラッシュバイト!」


「ワイドスラッシュ~!」

「リバースライン~!」


「ッツ!!!」


 リーゼリアとユンファは触手の根元の瘤目掛けて、範囲攻撃で斬り付け、更に範囲攻撃を出すことで滞空(たいくう)時間を延ばし、続け様に弱点である瘤を切り裂き、ダメージを与えていく。

 ナギの方は範囲攻撃が無いのか、的を(しぼ)る様にして1つ1つの瘤まで飛び上がり、スラッシュバイトの2撃目を振り下ろしにすることで、通常より落下速度を速め、次の標的に素早く移っていっている。

 

 弱点の瘤は切り裂かれると、中から暗青色のエフェクト(ほとば)らせ、目に見えて(しぼ)んで小さくなっていくのが分かる。

 再度ウィークネスアイでその萎んだ瘤を見てみると、赤く発光することはなくなっていた。


 ふむ、弱点ではなくなったのか。

 それなら、いったい何が変わったんだ?

 

 そう思いつつ、またゼラチナス・ダーティウィッパーの攻撃を避けながら、時折斬り付け、隙を見ては斬り飛ばしていると、瘤が収縮した触手が、今までは時間経過で治っていた傷が治らなくなっていることに気付く。


『前衛組! 弱点の瘤を攻撃したことで、ゼラチナス・ダーティウィッパーの触手の傷が治らなくなったみたいだ。だけど弱点攻撃ばかりしていると、敵愾心(ヘイト)がそっちに(かたよ)るかもしれないから、適当に切り上げて、触手の数を減らすことに専念してくれ』


『それは朗報(ろうほう)ですね。分かりました』


『よーしっ! バリバリ減らすぞー!』


『やっと~、光明が見えて来ましたね~』


 そうして少しすると、リーゼリア達は俺が言った通り弱点攻撃を止め、瘤が縮んだ触手を斬り付け、斬り飛ばし、その数を徐々に減らしていった。

 しかし、やはり手数が違うと与えるダメージも多いようで、俺に向いていたゼラチナス・ダーティウィッパーの注意が、前衛組の方へ向いてしまう。


「おっと、連れないな。余所見をせず、こっちを見てくれよ! ―――ダブルマジック――エネルギーボルト!」


「ッツ?!!」


 俺はそんなゼラチナス・ダーティウィッパーにリーゼリア達が武器で接触していないのを確認すると、すぐ様魔法を撃ち、その動きを強制的に止めさせる。

 因みに、リーゼリア達の武器が触手に接触していないのを確認したのは、万が一にも俺の魔法で感電したりしないようにするためだ。

 

 そしてこのタイミングを狙っていたかのように、パーティチャットでアリルから声が掛かる。


『準備できたよ! 念のため一旦、ゼラチナス・ダーティウィッパーから離れてね』


 その言葉を聞き、俺は即座に全力で後方へと跳躍し、ゼラチナス・ダーティウィッパーから距離を置く。

 すると丁度俺の体全体を覆っていた赤いオーラが消えた。

 どうやら、バーサークの効果が切れたようだ。

 リーゼリア達の方も問題無く離脱できたようで、ゼラチナス・ダーティウィッパーの触手が届くような位置には居なかった。

 HPバーを確認してみると、俺のHPは残り6割を切っていたが、そのかいあって、ゼラチナス・ダーティウィッパーの方は残り7割未満になっていた。


 今まで自分(ゼラチナス・ダーティウィッパー)を痛め付けていた敵対者が、一斉に離れたことに戸惑(とまど)いを感じたのか、追撃をしようとはせず、残った触手を掲げて迎撃の体勢を取る。


 しかし次の瞬間、そんなゼラチナス・ダーティウィッパーを嘲笑(あざわら)うかのように、アリル達による魔法の一斉攻撃が行われる。


「それじゃいくよ? ―――リリース! エアカッター!」


「ホホオォォォーーー!」


『リリース! ライトバースト!』


「ッツ?!!」


 ある意味、ゼラチナス・ダーティウィッパーにとっての死角ともいえる、天井に張り付いている吸盤の外周に次々と風の刃や黒い剣身が殺到して行き、止めとばかりに3つの光の爆発が巻き起こる。

 HPバーを見てみると、流石弱点部位であるためか、ガリガリとHPが減っていき、残り5割弱というところで減少が止まった。

 すると、ウィークネスアイにより見えていた、弱点部位である天井に張り付いていた吸盤の外周の赤い光が消えるのと同時に、吸盤の力が失われたのか、ゼラチナス・ダーティウィッパーの巨体が下に落下した。


 グチョッ! ビタンッ! ……ベシャンッ! ガカッ!


 湿った音を響かせたゼラチナス・ダーティウィッパーは、落下直後はほぼ逆立ちするように直立していたが、次第に一方に傾き、その巨体を横転させ、更に硬い物音を立てる。

 シエルのライトバーストで焼かれた吸盤は黒く変色し、花の(つぼみ)のような形の硬いものに変質したようだ。

 HPバーを見てみると、流石に打属性の耐性があるせいか、落下によるダメージは特に受けていなかった。

 

 しかし、後生大事に抱えていた(ゼラチナス・ダーティエッガー)の方は、打耐性を持っていても、ゼラチナス・ダーティウィッパーの巨体に押し潰されてダメージを受け、残りHPが1割を割っていたレベル15の個体は光の粒子になって消え、レベル16の個体の方は残りHPを2割位まで減少させたが、なんとか健在のようだった。


『やった! 予想通り、落ちた!』


『アリルちゃん、ナイス!』


『これで後は、いかに早くHPを削り切るかですね』


『てか、アリル。シエルがライトバーストを連発したように見えたんだけど、何かやったのか?』


『え? あーうん。せっかくだから同種の魔法を溜めて、一気に放つアーツを教えてみたんだよ。使えれば戦闘が有利になるだろうし、できなくても現状特に困らないから、できれば(もう)け物って位でね』


『なるほど~。だからあんな短時間に~、爆発が連続したんですね~』


 そうやってパーティチャットで話していると、ゼラチナス・ダーティウィッパーは何を思ったのか、まだHPが残っていたゼラチナス・ダーティエッガーを触手が生えている中心部に持っていく。

 すると、まるで口のような穴が開き、その中にゼラチナス・ダーティエッガーを入れていった。

 HPバーの方を注視してみると、残りHPが5割を切っていたゼラチナス・ダーティウィッパーのHPが徐々に回復していく。


『え?!』


『食べた……の?』


『なるほど。卵より、自分の命を優先しましたか』


『まぁ、自然界では自分で生んだ卵を食べて、()えを(しの)いだりする動物もいるし、そうおかしいことでもないけどな』


『そうなんですか~』


 そして大体7割位まで回復すると止まり、ソレは起こった。

 

 突然、ゼラチナス・ダーティウィッパーの巨体がブルブルと振るえ出し、次第に触手の色に赤みが増し、そのつるんとした形状もトゲトゲとした攻撃的なものに変化する。

 変化した触手は毒々しい赤紫色をしており、何処と無く不気味な様相を(かも)し出している。


『うわっ! ここで発狂モードかぁ』


『まずいですね。発狂モードに入られると、大体攻撃力や攻撃速度が上がりますから、対処が難しくなるんですよね』


『でも~、その代わり~、思考パターンが単純化したり~、防御力が下がったりしますから~、ある意味チャンスでもありますよ~?』


『だね! 取り合えず最初は様子見で、ある程度攻撃パターンが分かったら、攻撃するって方針で良いんじゃないかな? あの巨体なら触手以外は重くて動けなさそうだしさ』


『まぁ、そうだな』


 そうやって話ていると、何時の間にやらゼラチナス・ダーティウィッパーは攻撃体勢に入っており、トゲトゲした赤紫色の触手を振り上げ、勢い良く縦横無尽に振り回して来た。


 俺はさっきのパーティチャットで話していた方針に従い、見切りのスキルを駆使して、まずは回避に徹して行く。

 その中でふと、このゼラチナス・ダーティウィッパーに似ている、イソギンチャクのことを思い出した。


 そういえば、イソギンチャクって刺胞(しほう)っていう毒針を持っていたっけ。

 毒は個体によって違うが、確か大きく分けて2種類しかなかったはずだ。


 1つは溶血毒。

 溶血毒素が赤血球の膜を破壊して、ヘモグロビンを溶出させ、ものによっては赤血球以外の様々な細胞を破壊する特性も持っている。


 もう1つが神経毒。

 神経細胞に特異的に作用する毒のことで、所謂(いわゆる)麻痺を起こすものだな。


 今までの経験からだと、特定の状態異常を起こす攻撃を仕掛けてくるモンスターは、偶然かもしれないけど、体の何処かが特定の状態異常に(まつ)わる色をしていた。

 毒なら紫色、麻痺なら黄色、といった具合にだ。

 このことから推察するに、あの赤みが増す現象は、溶血毒をモデルにした毒を有するサインなのではないかと思われる。

 

 なら、状態異常として引き起こされるものは何だろうか?

 以前切れ草を鑑定した時に見た説明では、血管を破壊して~っとあった。

 だから、溶血毒素の赤血球以外の様々な細胞を破壊する特性=血管という細胞を破壊すると仮定できる。

 つまり、引き起こされる可能性のある状態異常は、出血ということになる。


 今はまだただの可能性だけど、態々体験までして調べる必要は無いし、ここは一応他の皆に注意を(うなが)して置くとしよう。

 攻撃を受けたくない要素が増えれば、行動もより慎重になって、攻撃を受けることも少なくなだろうしな。


 そう思い、パーティチャットで発狂モードに入った際に変わった触手について話していった。


『毒、ですか……』


『ああ、今のところただの可能性だけど、気には留めて置いて欲しくてな』


『分かりました。態と受けるつもりはありませんが、なるべく攻撃は回避することを念頭に置いて、行動しますね』


『それにしても、リオンさん。よくそんなこと知ってましたね』


『まぁ、雑学は結構好きだからな』


『雑学……。お兄ちゃん、洗礼のことといい、今回のことといい、節操が無さすぎだよ!』


『まぁまぁ~、アリルちゃん~。落ち着いて~』


 そうこうしている内に大体の攻撃パターンが分かった。

 攻撃パターンは、触手による振り下ろし、薙ぎ払い、押し潰し、突き刺し、拘束の5パターンだった。

 中でも拘束が厄介で、一定時間以上立ち止まっていると狙われ、執拗(しつよう)に追い掛けてくるというものだった。

 幸い、触手の根元の瘤さえ切り裂いていれば、触手は再生しないので、瘤が萎んでいる触手を優先的に斬り飛ばし、触手自体の数を減らす方向で行動していく。


 そうやって触手を斬り減らし、ゼラチナス・ダーティウィッパーのHPが残り2割を切ったところで、パーティチャットで提案が出された。


『そろそろMPも体力的にも厳しいので、一気に倒しに行きませんか?』


『それは良いけど、どうやって?』


『そうですね……。リオンさん、魔法はまだ撃てますか?』


 そうリーゼリアに言われ、触手からの攻撃を避けながら、MPを確認する。


『えっと、後数回分ならどうにかな』


『それでしたら、リオンさんの魔法を合図に一斉攻撃に転じましょう。ですが、あの魔法に当たると感電に似た症状が出るようですし、一度触手の行動範囲から出た方が良いかもしれませんね』


『了解だよ!』


『分かりました~』


『私もモチ、OKだよ!』


『では、そのように。リオンさんの方も、よろしくお願いします』


『ああ、分かった』


 その後、俺達は触手の行動範囲から離脱し、心話でシエルに一斉攻撃のことを伝え、そのことをネロに教えてもらうように頼む。

 そして、バーサークを掛け直し、魔法を撃つ準備を整え、一斉攻撃の合図である魔法を放つ。


「ダブルマジック」

「エネルギーボルト!」


「ッツ?!!」


 前方に掲げた左手の平から、2条の紫電がゼラチナス・ダーティウィッパーへと放たれ着雷した瞬間、紫電はゼラチナス・ダーティウィッパーの体内へ吸い込まれるように駆け巡り、また痙攣を起こすように『ビクリッ!』とその巨体を震わせ、再度全ての触手の動きが止まる。 


「いきます―――チャージスラッシュ!」


 リーゼリアはゼラチナス・ダーティウィッパーへと駆け寄ると、突進の運動エネルギーを乗せた2本のカットラスを×の字型にするようにして斬り裂く。

 その後、両手に持ったカットラスを流れるように振るい、続け様に触手を斬り付けダメージを与える。


「いくよ! ―――ブランディッシュエッジ!」


 ナギは感電して動けないでいる触手の密集地帯に、独楽(こま)のように横回転しながら、草を刈るチェーンソーのように次々と触手を斬り払っていく。


「それでは~、いきますよ~! ―――インフィニティスライサ~!」


 何時の間にかゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体の横に移動していたユンファは、パルチザンを片手で持って腰を落とし、∞のような斬撃の軌跡(きせき)を残しながら、止まること無く斬り(きざ)み続ける。

 斬り刻まれたゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体は次第に液状化を始め、ユンファの足元へと流れ出して行く。


「よーしっ! 私もいくよー! ―――リリース! エアカッター!」


「ホホオォォォー!」


 アリルとネロが放った幾つもの風刃と黒い剣身は、まだ無事だった触手の根元にある瘤へ殺到して行き、その(ことごと)くを斬り付け、或いは瘤ごと斬り飛ばす。


『リリース! レイビーム!』

 

 ジュッ………………バカンッ!!


 シエルが突き出した両手の平に3つの光球が現れると、その光球から3条の光線が照射され、ユンファが斬り刻む反対側のゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体を焼き溶かし、次いで爆発する。

 爆発した跡を見れば、ゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体に直径3~4mはありそうな穴を作り出していた。


 これは恐らく、3つのレイビームが1点を焼いたため、ゼライス系特有の水で出来ているような体がレイビームの熱で瞬時に蒸発し、水蒸気爆発のような現象が起こったのだろう。

 たぶん偶然の産物だろうが、結果オーライというやつだな。


 ゼラチナス・ダーティウィッパーのHPバーを見てみれば残りは1割も無く、このままいけばすぐに倒し切れそうだった。

 

 そうして全体を一望(いちぼう)するように見ていたのが良かったのだろう。

 1箇所に留まり続けて攻撃しているユンファに対し、まだ無事だった触手がユンファ目掛けて振り払われるところだった。


『ユンファ! 避けろ!』


「「「え?!」」」


 そうパーティチャットで(さけ)びつつ、ユンファの横に狙いを定め、少しでもダメージを軽減させるため魔法を使う。


「っく! ―――プロテクトシールド!」


「ウィンドシールド!」


『ライトシールド!」


「ホオォォォー!」


 俺と同じ考えに至ったのだろう。

 アリルやシエル、ネロもシールド系の魔法を使いユンファの隣に、(あたか)もクラブとハートが重なったような、魔法の集合シールドが生み出される。


 パキャァーーーン!!


「はぅ~っ!」

 

 だが次の瞬間、魔法の集合シールドは(はかな)く砕け散り、若干勢いを減じた触手にユンファが撃ち飛ばされた。


『ユンファちゃん! 大丈夫?』


『はい~、なんとか~』


『ふぅ。それを聞いて、安心しました』


『は~、本当だよ。すっごいびっくりしたんだからね!』


『シールド系の魔法助かりました~。ありがとうございます~』


 そうしてユンファの無事が確認されると、その隙を突くかのように、ユンファが気になり動きを止めていたリーゼリアに触手が忍び寄り、拘束する。


「あっ! ……っくぅ……ちょっ! そこはっ!」


 リーゼリアはなんとか触手の拘束から抜け出そうとするが、うまくいかないようで、何故か顔を赤く染めながら、必死にもがく。


「あー! リーゼちゃんを離せー! ―――ライジングエッジ! ――スラッシュバイト!」


「ッツ!」


 比較的リーゼリアに近かったナギが素早く近付き、リーゼリアを拘束しながら持ち上げている触手を切り裂き、何とかリーゼリアを助け出す。

 しかし、拘束による継続ダメージは大きく、リーゼリアのHPは少しの拘束で半分にまで減少していた。

 また出血の状態異常に掛かったようで、肌がむき出しになっている所から赤いエフェクトが断続的に明滅しており、流血を想起させた。

 

 (はか)らずとも俺の予想が当たっていた結果になったが、できればこんな結果は知りたくなかったな。

 

 そう考えていると、リーゼリアの体全体が一瞬ぽぅっと光り、次いで頭上から青い光が降り注いだ。

 リーゼリアのHPバーを見てみると、半分未満になっていたHPが満タンにまで回復しているのが確認できた。

 どうやら、シエルとユンファが回復魔法を使ったようだ。

 まだ、出血の状態異常にはなっているが、これでもうしばらくは持つはずだ。


「分かってはいたけど、認識が甘かったな。とりあえず、もぅさっさと逝ってくれ」

 

 そう独りごちり、今撃てる最大の魔法を、ユンファが斬り崩したゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体へと放った。


「トリプルマジック」

「エネルギーボルト!」


 俺の放った3条の紫色の雷閃は、狙い違わずゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体に着雷。

 そして今までと同じように紫電が体内を駆け巡り、『ビクリッ!』とその巨体を震わせ、全ての挙動を止める。


 しかしダメージは今一歩足りず、痙攣するように動きは止めているが、光の粒子にはならなかった。

 これは恐らく、ユンファが斬り裂き液状化させたゼラチナス・ダーティウィッパーの胴体だったものが、アース線の役割を果たし、威力が分散させられたためだと思われる。


 唯一今までと違うのは、ゼラチナス・ダーティウィッパーの核がある体内に直接撃ち込んだことにより核も痺れ、横倒しになっている巨体の上方に『プカリ』と浮かんでいること位だろうか。


 また、仕留め損なったか……。

 何だか最近こんなんばっかだな。

 まぁいいか、幸い核も近いところにあるし、直接斬ってくるかな。


 そう考え行動しようとすると、ふいにパーティチャットから声が掛けられる。


『リオンさん、アシストありがとうございます。最後は私が殺りますから、少し待ってて下さい』


『あ、ああ。そうゆうことなら、任せた』

 

 なんだろう? なんとなく『やる』のイントネーションが違った気がしたんだが……気のせいだよな?


 そう思いながら、油断無くまだ動けないでいるゼラチナス・ダーティウィッパーに注意を払っていると、痺れて体表付近にまで浮かんでいる核のすぐ上に、リーゼリアが飛び乗ったのが見えた。


「うふふふふふふ。よくも……よくもあんな所を……っ! これで、終わりです! ―――アサルトダンス・ヘキサディア!」


 リーゼリアはまるで踊るような流麗な動きで、ゼラチナス・ダーティウィッパーの核を切り刻む。

 生み出される斬撃の軌跡は6つ。

 宛も美しい六方星を描くように振るわれた瞬間、ゼラチナス・ダーティウィッパーの核はガラスが割れるような音を立て砕け散る。

 それと同時に残っていたHPが瞬時に0になり、ゼラチナス・ダーティウィッパーの巨体全てが、光の粒子へと変わり、俺達の視界を埋め尽くしていった。



 できれば、次話はもう少し早く投稿できるようにしたいのですが、何分仕事が忙しく、また遅くなるかもしれません。

 予めご了承下さい。

 

 尚、前回の本編の後、Extra Locus8と9を割り込み投稿しました。

 時間があるときに読んでもらえれば幸いです。

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