Locus 84
西区にあるトワイライトを出てから、俺はいつも使っている通りを先導し、皆で雑談を交えながら獣魔屋に向かって歩いて行った。
そうしてしばらく進んで行くと、ふいにアリルから疑問の声が上がる。
「ね、ねぇ、お兄ちゃん? 何かどんどん人気が少ない道を進んでるけど……本当にこっちで合ってるんだよね?」
「そう言われれば~、さっきから誰ともすれ違いませんね~」
「リオンさん、道間違えていたりしませんか?」
「ああ、大丈夫だよ。この道はよく使ってるから、こっちで間違いない」
「よく使ってる? こんな人気の無い道を……ですか?」
「あー……その、シエルをテイムし立てだったり、一身上の都合? で、よく呼び止められたりしたから、それが嫌でな。それで、こんな人気の無い道を選んで移動してたんだよ。でもそのおかげで、獣魔屋を見つけることができたんだから、世の中分からないもんだよな」
「一身上の都合?」
「えっと、そこのところはデリケートな問題だから、あまりー……」
「はっはーん」
そうやって、話を濁そうとすると、アリルから何とも言えない不吉な予感がする声を挟まれる。
「ど、どうしたんだ? そ、そんな声を出して……」
「お兄ちゃん、さてはまたナンパされたんでしょう? ……男の人に」
「グッ!」
「え?」
「はい?」
「あら~?」
俺はアリル相手では無駄な抵抗と分かりつつも、一応反論をしてみる。
「ソ、ソンナ、コトハ……ナイヨ?」
言葉が片言になり、声が震えているのは気のせいだ。
うん、きっとそうだ。
「誤魔化してもダ~メ! その反応を見れば、一目瞭然だよ。お兄ちゃんは昔からモテルよね……男の人に」
グサッ
「確かに言われてみれば、リオンさんって美人って感じですよね。……女性的な意味で」
ザクッ
「声も男の人にしては、少し高めな感じですしねー。ソレってもう声変わりしてるんですか?」
ドスッ
「肌も白くてキメ細かいし~。顔からも弄った違和感もありませんし~。もしかして~、素顔でソレなんですか~?」
ガハッ
まぁ確かに、認め難い事実ではあるのだが、他人の口から言われると想像以上に心的ダメージがでかいな。
昔から、男にしては肌は白くキメ細やかで、顔も女顔なせいか、よく近所の人なんかに女の子に間違われたり、初対面の同世代の男子に一目惚れとか、されたりしたっけ。
俺が男だと知ると、驚いたり、ショックを受けたり、男でも良いからとか訳分かんないこと言って来たやつもいて、反応は様々だったな。
俺も好き好んでこんな容姿になった訳でもないので、正直ほっといて欲しいところだ。
それとも、外見で男と分かるように筋肉付けたり、髭を生やしたりした方が良いのかなぁ……。
でも俺、筋肉は付き難い体質だし、髭は一向に生えて来る気配もないんだよなぁ。
……はぁ。
止めよう、コレ以上考え出すとロクなことにならなさそうだし、精神的にも辛いしな。
それに、何だか呼ばれてるような声がするし、そろそろ復帰するとしよう。
そうして逃避していた意識を元に戻すと、次第に声が言葉として認識できるようになっていく。
「……ちゃ…! お……ん! お兄……ん! もぅ、お兄ちゃんてばっ!」
「あ、あぁ悪い。どうした?」
「どうしたじゃないよ! いきなり、遠い目をしてボーっとするから、心配したんだからね」
「あー、それはすまなかったな」
「そんなに、さっきのことを気にしてたの? 大丈夫だよ。私、お兄ちゃんのこと大好きだし、もし、仮に、万が一、嫁の貰い手が無くても私が貰って上げるからね!」
「いやいやいやいやいやいや、妹よ、ソレはおかしいぞ。それに、話がぶっ飛びすぎだ。何でそうなった?」
「そうだよ、アリルちゃん! それを言うなら嫁じゃなくて、婿だよ!」
「ナギ、おかしいって言うのはソコじゃないと思いますよ」
「あらあら~。仲良しさんですね~」
「愛さえあれば、どんなことでも乗り切れるよね! ね、お兄ちゃん!」
「いや、ダメだろ。法律とか……。アリル、気持ちは嬉しいが、兄弟姉妹では結婚できないんだぞ。っというか、妹を嫁にするとか、どんな変態だよ」
「うぅ……お兄ちゃんに振られた」
「よしよし」
そうして俺が至極全うなことを言うと、アリルは泣き真似をし、それをナギが慰めるという若干おバカなやり取りをしながら進んで行くと、今回の目的である獣魔屋へと到着した。
獣魔屋の近くには、俺達のように事前に場所を確認するために来たと思われる人がちらほら見られた。
そして、獣魔屋の扉の近くまで行くと、獣魔屋の窓からカウンター付近に値段表のようなプレートが備え付けられているのが見えたので、そのことをアリル達に伝えた。
因みに、見えた内容はこんなのだ。
・獣魔の卵 30万R
・モンスターフード:既製品 500~3000R
・モンスターフード:素材持込 300~2500R
「なるほど、獣魔の卵は結構するんですね」
「まぁ、単純に考えれば手数が増えて、個体によっては魔法も使えるんだし、値段的には妥当なところかなぁ」
「光と影の魔法2個分もしくは、四属性魔法3個分かぁ……う~ん、悩むねー」
「それに~、モンスターフードがあるのは聞いていましたけど~。どういう効果があるのかが~、気になりますね~」
「だな。こんなことなら、あの時しっかりと聞いておけばよかったよ」
「とりあえず、私は保留かな。獣魔は欲しいけど、卵買ったら所持金がほぼなくなっちゃうし、開店初日なんかは混雑しそうだから、ゆっくり選ぶなんてこともできなさそうだしね」
「私もですね。1人に付き、基本1体としか契約できないみたいですし、選ぶ時はじっくりと時間を掛けたいので、客足が少し収まるまで待ちながら、お金を貯めることにします」
「んー……ボクはすぐに買っても良いんだけど、やっぱり選ぶ時間は欲しいから、少し落ち着いてから買いに行こうかな」
「確かに~、1度しか契約できないんでしたら~、慎重にいきたいですし~。私も~、少ししてから行くことにしますね~」
どうやら方針はすぐに買いに行かず、金策しつつ客足が少し落ち着くまで様子見することに決まったようだな。
俺はあまり時間を掛けずにあっさりと決めたが、フィリアは30分近く悩んでいたし、やはり選ぶ時間は多い方良いんだろうな。
女の買い物は長いと聞くし、1人に付き1個までという縛りがあるなら尚更だろう。
「さて、それじゃ今回の目的の獣魔屋までの案内は終わった訳だし、このまま解散で良いのかな?」
俺がある程度、アリル達の会話が終わったの見計らってそう提案すると、アリルからすぐに不満の声が上がった。
「ええー! せっかく久しぶりに会えたんだし、もっと一緒に遊ぼうよー! それとも……この後に何か用でもあるの?」
「いや、特に用とかはないけど……リーゼリア達は良いのか?」
「私は良いですよ。それに、リオンさんの戦闘スタイルにも、興味ありますし」
「ボクも夜までは特に予定ないし、行けるよ!」
「私も大丈夫ですよ~」
「満場一致だね! それじゃ、何しよっか?」
「とりあえず、獣魔の卵を買うための資金調達が必要だろうから、狩りに行くにしてもクエストを取ってから行けば良いんじゃないか?」
「だね。その案採用! それで、どんなクエストを受けようか? 何か希望とかある?」
「いえ、私は特にないですね」
「ボクもこれといってはないよ」
「私もですね~」
「う~ん……それじゃ、言いだしっぺってことで、お兄ちゃん! 何かやりたいものって無い?」
「えっ、そうだなぁ。やりたいこと、やりたいこと……。あ、そういえばクエストかどうか分からないんだけど、汎用魔法の習得はやりたいかな?」
「汎用魔法? 何ソレ?」
「聞かない魔法ですね」
「リオンさん、それってどんな魔法なんですか?」
「興味が湧きますね~」
そう質問され、俺が答えようとすると、その前にアリルから待ったが掛かる。
「お兄ちゃん、ちょっと待って! そういうスキルや魔法に関してのことは、誰が何処で聞いてるかも分からないから、とりあえずパーティを組もうよ」
「パーティを? 何で?」
「ああ、なるほど。つい先日解放されたパーティチャットを使うんですね」
「リアちゃん、正解! パーティチャット内でなら、堂々と? 内緒話ができるから色々と便利なんだよね」
「へー、そうなんだ。何かちょっとだけ、わくわくするな。それで、どうやって使うんだ?」
「それは簡単だよ。パーティを組んだ後、『パーティチャット オープン』って音声入力すれば、パーティを組んでいる時やパーティメンバーが生存している限り、心の中で話すようにすると、会話できるよ。それじゃ、その魔法のことを知ってるお兄ちゃんがパーティーリーダーね。ほらほら、パーティ申請ちょうだい」
そうして、アリルに言われるまま皆にパーティ申請を出していき、申請を皆が受諾して、無事パーティを組むことができた。
そして、先程説明にあったように音声入力をして、パーティチャットを使ってみる。
『えっと、これでいい……のかな? ちゃんと聞こえてるか?』
『うん! 聞こえてるよ。結構あっさり使えるんだね。本当に初めてなの?』
『ああ、そうだけど……もしかしたら、シエルと会話する時の感覚に似てるから、すぐに使えたのかもな』
『え?! シエルちゃんと会話ができるのですか? いったいどうやって?』
『あー……称号スキルが進化したら、心の中で会話できるようになったんだ。だから、悪いけど俺以外とじゃ、会話は無理だと思うぞ』
『えー、そうなんだー。ちょっと、がっかり』
『残念ですね~』
『まぁそれはともかく、ここで立ったまま無言で居ると怪しまれちゃうから、移動しながら話そっか。ということで、お兄ちゃん後はよろしく!』
『分かった。だけど、俺も知っていることは少ないからな』
そうして俺達は冒険者ギルドに向けて移動ながら、パーティチャットで汎用魔法のことについて話していった。
汎用魔法とは、普段の生活に欠かせないようなものや、遠出なんかの時に重宝する魔法の総称であること。
汎用魔法は全部で6つあり、各ギルドや、教会、役場等によって管理されていること。
ディパートの街なら、各ギルドで火と水、教会で光と地、街役場で風と影の汎用魔法を管理していること。
希望すれば習得も可能だが、風と影の汎用魔法は悪用される可能性が大きいことから、習得前の審査が若干厳しいものになるらしいということ。
そして汎用魔法は元々、今では廃れた古代文明の魔法術式で、術式と魔力消費が極小さく、最適化されているため、各属性を使用していても魔力干渉を引き起こすことがないこと。
そうやって俺が知っている汎用魔法のことを話し終えると、アリル達はやや興奮したように、声を上げる。
『なるほど、汎用魔法とはそういうものなんですか。聞いた限りですと、戦闘向けではなく、生活向けや冒険中の移動か何かに使えるものという印象ですかね』
『だね。でも、モノは使いようとも言うし、何より魔力干渉を引き起こさないっていうのが、魅力的だよね!』
『うん、うん。それに、もしもクエストが発生せずお金を支払って習得するタイプだとしても、いつか何かの役に立つかもしれないし、取っといて損は無いんじゃないかな? お金ならまた稼げば良い訳だしさ』
『ですね~。それからやっぱり~、ファンタジーならではの~、戦闘には使えないような~、ちょっとした魔法っていうのも~、欲しいですよね~♪』
『それじゃ、皆で汎用魔法の習得をするってことで、良いのかな?』
『うん、オッケーだよ!』
『あ、丁度ギルドも見えてきましたね。リオンさんすみませんが、パーティを組んでいるとクエストの受諾はパーティリーダーにしかできませんので、私達は後ろの掲示板付近で待ってますね』
『え、そうなのか? ……なぁ、アリル。もしかして俺をパーティリーダーにしたのって、このことを見越してとかじゃない、よな?』
『え! そそそそ、そんなの、あ、あたりまえじゃないですか。も、もぅ、お兄ちゃんたらかわいい妹を信じられないの?』
アリルはそうパーティチャットをしながら、俺に若干ぎこちない、満面の笑みを浮かべている。
『…………』
ツイッ
俺が無言でアリルの顔をじっと見つめていると、アリルはその圧力に耐えかねてか、目を逸らした。
やっぱり、黒か。
『……はぁ、まぁいい。分かったよ。それじゃ行って来るな』
そう言って、ギルド内へ入ってからアリル達と一旦別れ、俺は冒険者ギルドの受付カウンターの列に並んでいった。
少し待つと順番が来たようなので、さっそく汎用魔法について聞いてみる。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。本日はどのようなご用件で、当ギルドにいらしたのですか?」
「えっと、汎用魔法の習得をお願いしたいのですが……取り扱ってますか?」
「はい、ございますよ。汎用魔法の習得になりますと、こちらが指定した依頼をこなして頂く必要がありますが、よろしいでしょうか?」
「それって、クエストってことですよね。はい、大丈夫です」
俺がそう受付の人に答えると、ふいに目の前にウィンドウが現れた。
『キークエスト【復活! 古の遺構】が、発生しました。
このクエストは1度しか受けることができず、無操作状態で一定時間が経過、または失敗すると、2度と発生および受注することができなくなります。
参加上限人数:10人
成功条件:3日以内に、10人以下で、3箇所にある遺構を正常に可動させる。
失敗条件:
①:クエスト受注後から、3日以内に3箇所にある遺構を正常に可動させられない。
②:クエスト進行途中に、パーティメンバー全員の死亡。
③:参加上限人数の超過で、クエストに臨む。
このクエストの自然消滅まで、後04.59.99
このクエストを受注しますか? Yes/No 』
徹夜で作文? したため、誤字脱字、誤植、変換ミスが怖いです。
何かお気付きな所があれば、お知らせ下さい。
嗚呼、枕。
作者はもう疲れたよ。
春の日差しが柔らかくて、もぅすごく眠いんだ……。




