Locus 83
「よっ! アリル、久しぶり。元気にしてたか?」
「うん! お兄ちゃんも久しぶり。あ、装備変えたんだね。似合ってるよ」
「ありがとな。アリルも……うん、よく似合ってる。かわいいよ」
「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん♪」
アリルの外見は、碧銀の髪と青い目をしており、羽人族特有の淡い緑色をした3対の透明な羽を背に持っている。
腰まであった碧銀の髪をツインテールにし、頭の上には明るい空色を基調に、白いラインが丸く入った大きなキャスケット帽を被っている。
服装は、袖無しの白いワンピースにセピアブルーの胸当てを付け、腰には白い金具で胸当てと連結された、濃紺色の前が開いた変則のスカート?のようなものが付いている。
更にその上からは、瑠璃色を基調とした瑠璃紺色の紋様と縁取りが付いた、肩出しのローブを羽織っており、両手には指貫きされた瑠璃紺色のグローブをしている。
そして足には、薄藍色のニーソックスと膝下まである濃紺色のブーツを履いている。
「それで、そっちの子達が言ってた友達か?」
「うん! そうだよ。正式サービスから仲良くなって、ずっと固定パーティで遊んでるの。それで私がお兄ちゃんに会いに行くって言ったら、見てみたいって言うし、私もお兄ちゃんのこと紹介したかったから、丁度良い機会だと思って一緒に来たんだよ」
「なるほどなぁ。それなら、きちんと挨拶しとかなきゃな。初めまして、アリルのリアル兄のリオンと言います。いつもアリルが、お世話になってます」
そうやってアリルと一緒にいた3人に挨拶をすると、それを発端に、アリルのパーティメンバーが俺に自己紹介を始めていく。
「はじめまして、リーゼリアです。皆からはリアと呼ばれています。種族は、鬼人族です。よろしくお願いします」
リーゼリアの外見は、薄紫色の髪を侍の髷のように高い所で括り、変則のポニーテールにしている。
目の色は灰色で、鬼人族特有の角は2本あり、両目の上の額上部から若干小振りの円錐形をした角が生えている。
服装は、薄紫を基調に黒の縁取りがある、半袖の詰襟服の上に鉄色をした板を組み合わせて作った胸当てとネックガードを付け、両手には黒いグローブを付けている。
下半身には黒いホットパンツとニーソックスを穿き、更に肩や腕、腰周りや足等の要所を防御するポイントアーマーを身に付けている。
「はじめまして! ボクはナギって言います。種族は、洗熊人族です。よろしくお願いします!」
ナギの外見は、透明感のある水色のショートヘアに、ライトピンクの目をしており、頭の上には髪と同じ毛色の熊耳がある。
そして時折後ろから、水色と白のストライプ柄の熊にしては長く、猫よりは短い尻尾がチラリと見える。
服装は、黒のチューブトップの上に、薄緑を基調とした黒の縁取りがあるパーカーのようなものを羽織り、鳩尾の辺りまで前を閉めている。
下半身は、青緑色のかぼちゃパンツのようなズボンを穿き、足には膝下まである黒いブーツを履いている。
なんでこんなに露出が多いのかと、少し心配になる子だ。
「はじめまして~。ユンファと申します~。種族は水人族です~。よろしくお願いします~」
ユンファの外見は、ウェーブが掛かった亜麻色のロングヘアーと、目は新緑を思わせるライトグリーンをしている。
語尾を延ばす口調と、やや垂れ目なせいもあってか、全体的におっとりとした印象が持てる子だ。
服装は、ベージュにレンガ色の縁取りがある布鎧を付け、両手には指貫きされた茶色いグローブを嵌めている。
下半身は、白を基調として涙滴型を思わせるような紋様が、裾付近に円形を描くように付いているフレアスカートを穿いている。
足には金属板で補強された茶色の革靴を履いている。
因みに、武器は室内に居るせいか、俺以外装備してはいなかったため分からない。
そうやって互いの自己紹介が終わると、アリルから声を掛けられる。
「それじゃ、お兄ちゃん。シエルちゃんとー……ネロちゃんだっけ? 出してもらえる?」
「え? ……あ。もしかして個室を取ったのって、そのためか?」
「うん! 進化したシエルちゃんにはまだ会ったことないし、SSや動画で見たシエルちゃんがと~ってもかわいかったから、会えるの楽しみにしてたんだよ」
「でも、室内のそれも個室っていっても、昨日の今日だぞ? それに……(アリルだけって訳でもないし、シエルはともかくネロは獣魔なんだけど、分かってるのか?)」
俺がひそひそと小声でアリルに話し掛けると、アリルもそれに習って小声で返答を返してくる。
「(もちろん分かってるし、大丈夫だよ。リアちゃん達がそういうことを言いふらすタイプじゃないってことは、付き合いを通じて分かってるし、一応明日の獣魔屋が開店するまでは、口止めをお願いすれば問題無いと思うよ。それに獣魔がどんなものなのか実物を見てもらった方が、分かり易いだろうしね)」
「(まぁ、そうかもしれないけど……)」
「(ねっ、ねっ。お兄ちゃん、お願い!)」
そうやって俺があまり気乗りせず口篭もっていると、最終手段とばかりに、アリルは上目遣いで俺を見上げ、合掌をしながらお願いをしてくる。
「(……っ! はぁ。分かったよ)」
俺はそんなアリルからの『お願い』を受け、その姿に少しドキッとしつつ、取り繕うようにお願いを聞き入れる。
アリルは兄の贔屓目無しでも、十分美少女の部類に入る。
そんな子が上目遣いで、お願いすれば大抵の男なら、二つ返事で何でも言うこと聞きたくなるだろう。
そして俺も例に漏れず? 昔から妹に『お願い』されて、断れたことが無かった。
もっともこれが、美少女だからなのか妹だからなのかは、分からないがな。
そうやってアリルと内緒話?をし終えると、リーゼリアからおずおずと声が掛かる。
「え~っと、お話は終わりましたか?」
「うん! シエルちゃん、出してくれるって。あ、それとー……」
俺はアリルとリーゼリアが話しているのを聞きながら、左耳に付けていた金色のカフスイヤリングを手にとると、何時の間にかアリルが俺のすぐ近くに来て居ることに気付く。
「ん? まだ、何かある……」
そう言い掛けると同時に、アリルは何を思ったのか、俺が着ているシャツを無造作に掴み、一気に捲くり上げる。
「って、うわっ! 何するんだ、いきなり!」
俺はアリルに捲くり上げられたシャツを慌てて元に戻しながら、アリルにそう問いかける。
「え? 何ってそりゃ、ネロちゃん……獣魔が宿主に入ってる状態を見てみたかっただけだけど?」
「だったら、先に断りを入れろよ! びっくりするだろ!」
「えー、いいじゃない減るものでもないし、それに兄妹なんだから恥ずかしく無いでしょ?」
「百歩譲って兄妹だから恥ずかしく無いとしても、ここにはアリル以外も居るだろ」
そう言って、アリルの後ろにいる女の子達を見てみると、オロオロと挙動が怪しい者、唖然とする者、苦笑する者と反応は様々だが、皆一様に頬を朱に染めていた。
「でもでも、断りを入れたらお兄ちゃん、絶対に見せてくれなかったでしょ?」
「うっ……まぁ、そりゃ~なぁ」
「それなら、こういう手でも使わないと見れないんだから、仕方無いよね。それに、これだって獣魔がどういうものかの説明にもなるんだから、実物がそこにあるなら、実際に見てみることも必要でしょ?」
そうして、最終的にはアリルに押し切られ、現在何故かアリル達4人の少女達の前でシャツを捲くり上げ、腹を……正確には腹に入った宿紋を見られながら、アリルが獣魔についての説明をしていた。
嗚呼、どうしてこんな状況に……。
そう思いつつ世のままならなさを憂い、現実逃避気味に黄昏ていると、アリルの説明が終わったのか、頬を上気させている内の1人のナギから質問の声が上がる。
「ねぇねぇ、お兄さん。この宿紋? を宿した時って、痛みとか何かありましたか?」
「ん? いや、そういうのは特に無かったな。それより、お兄さんはやめてくれ。実の妹以外からそう呼ばれると、何か変な感じになるし、せっかく名前があるんだから、そっちで呼んでくれよ」
「分かりました! それじゃ、リオンさんで」
「あの、リオンさん。それじゃ私からも1つ良いですか?」
「ああ、答えられることならな」
「えっと……獣魔が宿紋化する場所ってどうなっているんですか?」
「そのことか。それなら宿紋化のスキル説明にあったことだけど、残念ながら獣魔の好みによって決まるみたいだな。だから、実際に個別契約して獣魔が孵化するまで、分からないってことになる」
「そう、ですか……獣魔の好みですかぁ」
「あんまり、参考にならない答えで悪いな」
「あ、いえ。事前にそういうことが分かっただけでもありがたいので、十分ですよ」
「そっか、それならよかった」
「それじゃ~、リオンさ~ん。私からも、いいですか~?」
「ああ、どうぞ」
「それじゃ~……獣魔と個別契約する前は~、卵の中にどんな獣魔がいるかとかって~、少しは分からないんでしょうか~?」
「残念ながら、全く分からないみたいだな。店主のランドルさんでも、把握できていないらしいから、獣魔を選ぶ時は完全なランダムになるそうだ」
「なるほど~。ありがと~ございます~」
そうやって少女達からの質問を答え終わると、アリルから次のオーダーが入る。
「それじゃ、お兄ちゃん。次はそのままネロちゃんを出してみてよ」
「え、このままなのか? どうせ出る時はシャツを下ろしていても出られるから、もうシャツを下ろしてもいいだろ?」
「ダ~メ! 獣魔が宿主から出る時、宿紋がどうなるかが見たいから、そのままでいてね」
「はぁ~、仕方無いなぁ。それじゃ、出すぞ」
「うん!」
「あ、はい」
「はーい!」
「分かりました~」
「ネロ、出て来てくれないか?」
そう俺が呼び掛けると、何時かの時のように腹から1cm程の中空で波紋が起き、その波紋の中心部から、黒い毛皮と青い目と紋様を持つ、ネロが飛び出して来る。
「キュウ!」
「おっと!」
俺は、飛び出て来たネロがアリル達にぶつからないように空中で捕まえ、アリル達によく見えるように抱える。
「「わぁー! かわいい!」」
「なるほど~。宿紋が消えるに連れて、獣魔も実体化? するんですね。興味深いです」
「あらあら~。ふわもこですね~♪」
「キュッ? キュッ? キュキュキュッ?!」
ネロはいきなり知らない人に囲まれたせいか、軽いパニックを起こしたような反応を見せる。
「あー……いきなりこんな状況なら、多少パニクリもするかぁ。ネロ、大丈夫だから、落ち着いて」
そう言いつつネロの頭を撫でてやると、安心したのか挙動が大人しくなる。
「それじゃ、ネロも落ち着いたみたいだし、紹介するな。この黒い兎がネロ。俺が契約している、獣魔だ。それとー……こっちの半透明の幼女がシエル。俺のテイムモンスターになる。シエルは進化して姿が変わったけど、元はソル・ウィスプってモンスターだったんだ。よろしくな」
俺はネロを紹介する傍らに、シエルを装飾化を解き、シエルの紹介も合わせて行う。
「おおー! やっぱり、シエルちゃんかわいいー! ……おっと、紹介がまだの子もいたんだった。はじめまして、ネロちゃん。私はアリル、お兄ちゃん……ネロちゃんの宿主の妹だよ。よろしくね! それと、シエルちゃん久しぶり!私のこと覚えてるかな?」
「キュウ!」
『うん、おぼえてるよー! ひさしぶりー!』
シエルは、アリルの問いに返事するように頷き、覚えていることを伝える。
「あれ? この子って、昨日掲示板で話題だった子じゃないかな? ほら、空飛ぶ金髪幼女の」
「あぁー。そういえば、そうですね。ってことは、リオンさんが噂の銀髪の初心者プレイヤー?」
「確かに~。リオンさんは銀髪ですし~、服装も変えられますから~、有り得なくはないですね~」
「まぁでも、そんなことよりも、今は自己紹介をすませる方が先決かな? このままだと、アリルちゃんにネロちゃんやシエルちゃんを独占? されちゃいそうだしね」
「ですね」
「だね~」
その後、他のメンバーも次々に自己紹介をシエルやネロにしていった。
それから程無くして皆の自己紹介が終わると、何かを思い出したかのようにアリルが声を上げる。
「あ! そういえば、ここに来てから話しかしてないね。このままじゃ営業妨害? にも成り兼ねないし、そろそろ何か注文しよっか。話はその後でも良い訳だしさ」
「そうだな、そうしようか」
そうして、俺達はテーブルに備え付けられていたメニューを手に取り、各々好きなケーキセットを選んでから呼び鈴を鳴らし、注文をしていった。
少し経つと、注文したケーキセットが運ばれて来た。
ケーキセットを運んで来た店員が部屋から出て行くのを確認した後、俺は素早くライフジュースを取り出しながら、アリルに話し掛ける。
「アリル、ケーキセットを食べながらでいいから、ちょっと相談に乗ってもらえないか?」
「ん、相談? もしかして、その瓶のことかな? カラフルで綺麗だね~」
「ありがとな。これ等は、俺が作った回復……飲料なんだが、つい後先のことを考えずに作りすぎちゃってな。いい機会だから、前に聞いた市場に出そうかと思ったんだけど、俺市場の相場のこと何も知らないからさ、アリルにどの位でなら売れるか、教えてもらいたいんだ。それと、試飲して感想ももらえると嬉しいかな」
「なるほど、そういうことならリアちゃん達にも飲んでもおうよ。感想も多い方が、何かしらの改善点とか見つかるかもしれないしね」
「だな。ってな訳で、良ければ、3人にも試してもらえないか?」
そう言いつつ、俺は更にライフジュースを実体化させて、テーブルの上に並べていく。
「えっと、いいんですか?」
「ああ、少しでも感想は多い方が良いからな。是非頼むよ」
「そういうことなら、いただきまーす!」
「では、私も頂きますね~」
そうやって全員に7本のライフジュースを渡すと、アリル達はすぐには飲まず蓋を開けて瓶の口付近を手で扇ぎ、中の匂いを嗅いだり、瓶の外側から光に透かしたりして観察していき、その後で各自気になったライフジースを口にしていく。
反応を見ると、皆一様に『美味しい』と言いながら飲んでいる中、アリルはライフジュースを1口飲んだ後、ライフジュースが入った瓶をじっと見つめ出す。
そして、何かに気付いたようかのようにパッと顔を上げ、やや焦ったような顔で俺に声を掛けてくる。
「お、お兄ちゃん? コレ、なんだけどさ……。ほ、本当に市場で売るの?」
「え? ああ、そのつもりだけど……何か問題でもあったのか?」
「え、あー……う~ん、問題といえば問題かなぁ?」
「それって、どんなことなんだ?」
「その前に、いくつか聞きたいことがあるから、まずそっちを答えてくれるかな」
「あ、ああ。分かった」
「うん、じゃ聞くけど。お兄ちゃんはこのライフジュースをたくさん作りすぎちゃったから、市場に出したいっていってたけど、確かお兄ちゃん虚空庫を持ってたよね? それに入れといちゃダメなの?」
「あーソレな。俺も考えなかった訳じゃなかったけど、ソレだとスキルのレベルを上げるにはアイテムを作り続けたり、改良しなきゃいけないから、今は良くてもそのうち入り切らなくなるんだよ。それに最終手段として、スキルのレベル上げのためだけだと割り切って、捨てるって手もあるけど、やっぱりせっかく作ったからには、使って欲しいじゃないか」
「確かに……。なら、お兄ちゃんは今、別にお金に困っている訳じゃないんだよね?」
「ああ。特には困ってないな。困ったら困ったでクエストを受ければ良いわけだしな」
「そっか……それじゃ最後に、お兄ちゃんはこれから生産プレイヤーとしてプレイしていく気はある?」
「いや、流石にそれはないけど……結局この質問って何だったんだ?」
「それも含めての答えになるけど、お兄ちゃんが作ったこのライフジュースね。味も美味しいし、匂いも良い、見た目も綺麗だし、回復も固定値だけど高くて、今現存する回復アイテムでは、たぶん1番だと思うの」
「おおー。そこまで良いのか」
「うん、それでね。そこまで良い回復アイテムだと、市場に売りに出せば、確実に売れると思う。回復量が1番低いライフジュースでも1個500Rで十分に売れるはずだし、それこそ回復量200のミックスに至っては1000Rを下らないんじゃないかな」
「え!? いくら何でも、それは少し高すぎやしないか?」
「そんなことないよ。お兄ちゃん、よく考えてみて? 種族やスキル構成によって差はあるけど、大体レベル15でHPは300位あるんだよ。それでミックス1個で200回復するから、およそ7割弱HPが回復することになるし、普通のHPポーションの2倍は回復する計算になるんだよ。それに、種族レベルが1上昇すると一律でHPが10上がるから、諸々を計算しても種族レベルが40になるまで、通常のHPポーションより回復量が高いことになるから、それなりに長く使えることになるんだよ!」
「あー……なるほど、確かに」
「何より、通常のHPポーションは、青汁のような不味い味に、青臭い匂い、それに見た目も濁った緑で、更に回復量もライフジュースに比べたら低く見えるから、それ等全てに勝っているんだから多少高い方が自然だよ。下手に安くすると、転売とかの標的になったりするし、お兄ちゃんもそういうのは嫌でしょ?」
「まぁ、そうだけど。そこまで良いアイテムなら、何でアリルは市場に出すことに、反対っぽいんだ?」
「それはね。新しいシステムの解放で、作ったアイテムに製作者の名前が載るようになったじゃない? それでね、回復量が高かったり、アイテムの性能が良いと自然と注目されるようになるの。そうすると、どうしてもバカなことやらかすプレイヤーってのが、出て来るんだよ。詳しく言うと、掲示板やら人海戦術とかで製作者を突き止めて、製作者本人に自分達だけのためにアイテムを量産しろとか、製法を開示しろとか言ってくるの」
「えっ……それはまた、身勝手な言い分だな」
「そうなんだけどね。でも、事実そういうことが何回かあって、噂では止めてった人もいるって話だよ。だから、生産プレイする気じゃないなら、市場に出すのは止めた方が良いと思うよ。お兄ちゃんに嫌な目に合って欲しくないし、もっと一緒にこのゲームを楽しみたいしね」
「そうかぁー。それなら市場に出すのは止めるとして、他に解決案とかは何かないか? 現状維持だと、その内手詰まりになっちゃうだろうしさ」
「う~ん、すぐに思い付くのは、信用できる人限定で売るとかかな? それでも、その売った人が死んだ時にデスドロップとかして、誰か別の人に拾われれば、遅かれ早かれ同じことになっちゃうんだけどね」
「……難しいな」
まさか、自分で解放したシステムに首を絞められることになるなんてな。
でもだからこそ、先が予想できないことが起こるから、このゲームは面白いんだよな。
まぁ何にしても、どうにかしないと最終手段の廃棄しかなくなるから、こうして考えている訳なんだけど……何も思いつかない。
さて、どうしたもんかなぁ?
そうやって頭を悩ませていると、ふいに間延びした優しげな声が上がる。
「それでしたら~、ギルドに登録して~、会員登録すれば良いと思いますよ~」
「会員登録? 何か知ってるの、ユンファちゃん?」
「はい~。私はまだ入ってないのですが~、各生産ギルドにあるブランド会員に登録すれば良いと思いますよ~。もっとも~、今ではその内容から匿名会員なんて言われてますけどね~」
「匿名会員か……その話詳しく教えてくれないか」
「いいですよ~。このブランド会員というのはですね~、新しいシステムが解放される前からあった制度なんです~。その名の通り会員登録した個人だけのマークを作って~、製作したアイテムに貼り付けて売り出すんです~。鑑定で製作者の名前が載らなかった時は~、そのマークを目印にして目当てのアイテムを購入したそうですよ~」
「なるほどなぁ。でも、それが何で匿名会員なんて言われるようになったんだ?」
「実はですね~、新しいシステムが解放されてから~、このブランド登録に意味があるのかという問い合わせがあったそうなんです~。ブランド登録には少なからず手数料が発生しますからね~。それでですね~、今までブランドマークでやってきた~、目立ちたくない腕の良い職人さんから鑑定で製作者の名前が分かるようになっては~、すぐに身ばれに繋がり兼ねないからどうにかしてくれと~、要望があったそうなんですよ~」
「あ、そういうことか。つまり、その要望に答えた結果、ブランド登録をして、ブランドマークをアイテムに貼り付ければ、鑑定を使っても製作者の名前は分からなくなったから、匿名会員なんて言われてるってことだね!」
「その通りです~。アリルちゃん~、正解~!」
「へー、それならこの問題解決にぴったりだな。それでそのブランド登録は、どうやってやればいいんだ?」
「えっと~、その登録したいアイテムを作るのに使ったスキルのギルドに登録して~、会員登録したいって受け付けに言えば大丈夫ですよ~。会員登録の際~、多少の質疑応答やブランド登録後に納品するアイテムに対して審査があるらしいですけど~、それさえクリアすれば~、鑑定でも製作者の名前が載らないアイテムが出来上がるそうなんです~」
「納品? 市場とかには出さないのか?」
「いえ~、そうではなく~。市場に出す場合は~、その登録したギルドに納品すれば~、本人の代わりに出品してくれるみたいなんですよ~。そのあたりのことは~、実際登録する時に説明されると思いますので~、ギルドに直接聞いてみて下さい~」
「分かった、教えてくれてありがとな」
「いえいえ~。私も~、リオンさんの作ったその~……ライフジュース? が気に入ったので~、是非登録し終えたら~、決めたブランドマークを教えて下さいね~♪ 絶対に買いにいきますから~!」
「あ、それならボクにも教えて下さい! このジュース美味しいし、回復量も高いから常用したいんで!」
「それなら、私もお願いできますか? 飲むならやっぱり美味しいものが良いですし、この味も気に入りましたので」
「お兄ちゃん、私のこと忘れないでね?」
「ああ、分かった。マークができたら、皆にも連絡入れるな」
そうやってケーキセットを突きながら話をしていき、話が終わる頃には丁度食べていたケーキセットも無くなった。
そして、その後身支度を整え、シエルを再び装飾化して、今回の目的である獣魔屋へとアリル達を連れて向かって行った。




