Locus 81
さてと、予定していたことは大体やったけど、まだ個室スペースを利用できる時間が30分以上残ってるな。
このまま外に出ちゃっても良いけど、根が貧乏性なせいか少しもったいない気がする。
う~ん、よし。もう少し何かできないか、考えてみるとしよう。
やっぱり30分以上はでかいからな。
そうして俺はメニューを開き、今持っているアイテムで何かできないかと確認していき、あるアイテム名が表示されている所で目が止まる。
そういえば、また何かの時に何とも言えない罪悪感を感じたくなくて、必要な数より結構余分に取って来たんだったな。
説明文には観賞物になるとあったけど、確か混ぜると他のものの効能を高める働きもあったよな。
一応もう1度、見て置くとしよう。
素材アイテム エネルゲンマッシュルーム:ノココの生命力が茸状に結晶化したもの。見た目は、仄かな青白い光を宿したクリスタル状のマッシュルームで、とても美しい。結晶状であるため、観賞物としても扱われる。他のものと混ぜ合わせることで、他のものの効能を高める働きがある。
……うん、やっぱりあったな。
よし、それじゃ残った時間はコレを使って、生産をしていこう。
とりあえず、さっき作ったHPポーションに混ぜて、どの位効果が上がるか見てみるとしよう。
そう思い、俺は先程作ったHPポーションを取り出し、木のコップに中身を空けていく。
そしてその中に、実体化したエネルゲンマッシュルームを入れ、串焼き用の串をマドラーの代わりにして、掻き混ぜていく。
……しかし、一向に混ざっていく様子がない。
あれ? 混ざらない?
てか、溶けない?
てっきり、角砂糖みたく水溶液に入れれば、溶けるものだと思ってたんだけどな。
読みが外れたか……。
う~ん、それじゃ今度は少し砕いてから、入れてみるとしよう。
接する面積が増えれば、溶けやすくなるかもしれないしな。
そうして俺は、HPポーションの入ったコップからエネルゲンマッシュルームを取り出し、水で軽く濯いだ後、布巾でエネルゲンマッシュルームを包み込んだ。
布巾がエネルゲンマッシュルームに付いた水を吸い取っている間に、精製キットの金床とハンマーを実体化させていった。
水気を拭き取ったエネルゲンマッシュルームを別の布巾に包み、布巾を袋のようにして持ち、金床へ持っていく。
そして金床から落ちないよう手で袋の口を手で押さえながら、自分の手を打たないよう慎重にハンマーで袋を叩く。
ゴッ! ガツッ! バキッ! バキャッ! ゴキャッ!
時折袋の中を見て、まだ砕け方が粗い結晶があれば袋の奥に押しやり、更にハンマーで叩いて小さく割っていく。
その後、ある程度満遍なく砕くことができたら袋から出し、再びHPポーションの入ったコップに入れて混ぜる。
…………。
ま、混ざらない。
全然溶けていく気配が感じられない。
もしかして、まだ粒が大きいのかな?
現実の氷砂糖も粒が大きいと溶け難かったし、有り得るかもしれないな。
もっとも、こちらは全く溶ける兆しすら無いけどな。
仕方無い、今度はもっと細かく砕いてみるとしよう。
目安は……砂位かな?
そうして俺は、砕いたエネルゲンマッシュルーム入りのHPポーションを濾し器に掛け、割れた結晶とHPポーションを分離した。
そしてそのまま、濾し器ごと水で浚って結晶に付着したHPポーションを洗い流す。
その後、また布巾で水気を取り、布巾の袋に入れて砂状になるまでハンマーで叩いていく。
この時、手を誤って打たないように注意は怠らない。
ゴッ! ガッ! クシャッ! パキャッ! ガツッ! ガッ! ガッ! ガッ! ……ドッドッドッドッドッドッ!
ハンマーの手応えが何処を打っても同じ位になり、袋の上から触っても他よりも粒が大き過ぎる結晶が無いのを確認する。
確認が取れたら袋から出して、またHPポーションが入ったコップに入れ、今度こそ溶けてくれよっと思いつつ、マドラー代わりの串で掻き混ぜていく。
だがやはり、串から伝わる感触からは、ただ水溶液の中にある砂粒を掻き回しているだけで、少しも溶けていっている感じが無かった。
ダメかー。
もしもまだ粒が大きいなら、粉状にしろってことになるけど、今ある道具じゃコレ以上細かくなんてできないぞ。
まぁ、ここまでやってダメなら、手法自体が間違っている可能性の方が高そうだな。
説明には『他のものと混ぜ合わせることで~』ってあったから、混ぜられない・混ざらないなんてことは無いはずだから、他に正しいやり方があるのだと思われる。
……やっぱり結晶を溶かすなら、熱した方が良いのかな?
そうすると、HPポーションを沸騰させて茹でる……とか?
いやいやいやいや、そんなことしたらHPポーションの成分が壊れたり、変質したりし兼ねない。
だからと言って、結晶を融解させる程熱しようものなら、HPポーションに触れた瞬間、HPポーション自体が焼失してしまいそうだ。
はぁ~。時間はまだあるけど、どうしようかなぁ……?
そう思い、何気なく周囲を見渡すと、シエルとネロが先程の合成素材の余りの細枝と小枝で大きめの枠を作り、その中に小石を入れ、交互に弾いて遊んでいるのが見えた。
…………そうだ、合成だ!
『合成』は、2つ以上のものを1つのものにすることで、別々のものを加えて1つにする『混ぜる』ことと、ほぼ同じだ。
だから合成を使えば、HPポーションとエネルゲンマッシュルームを混ぜ合わせることができるかもしれない。
ただ気掛かりなのは、今まで同種同士で合成をしたことしか無いから、別種同士で合成できるか分からないことだ。
……まぁ今回色々やって、HPポーションは通常のものより少し減った状態だし、エネルゲンマッシュルームに至っては粉々の状態だ。
なので、もし失敗してアイテムが消滅しても、そんなに惜しくは無いから、気軽に合成をしていってみるとしよう。
そうして俺は再度、濾し器でHPポーションとエネルゲンマッシュルーム(砂状)を分離して、合成を行った。
因みに、態々2つを分離したのは、視線選択をする際、HPポーションで砂状の結晶を視認することができないからだ。
「合成!」
すると、視線選択したHPポーションと砂状の結晶が一瞬白い光に包まれて消えると、木製のコップに入った、明るい透明感のある緑色をした液体が出来上がっていた。
成功したん、だよな?
とりあえず、ポーション用の瓶に移し替えて、鑑定してみるとしよう。
【製作者:リオン】
消耗アイテム ライフポーション:生命力が豊富に溶け込んだ、薬水。飲み干すことで生命力を回復させることができる。
効果:HP45%回復 使用期限:34日4時間59分
おおっ! 15%も回復量が上がってる!
気付けば簡単なことだったけど、ソコに行き着くまでが大変だったから、苦労が報われるな。
だけど、合成が成功した時も思ったが、このライフポーションの臭いがHPポーションだった時よりもかなり、青臭い気がするんだよな。
……うん、もはや臭気と言っても過言ではないな、コレ。
でも、見た目は透き通ったライトグリーンで、すごく綺麗なんだよな。
よし!それじゃ一応ここで試飲して置くことにしよう。
もしも、戦闘中に飲もうとして、味がひど過ぎて回復できず、死に戻ったりなんかしたら笑えないし。
それに、臭いがすごいだけで、それ程不味くはない可能性も無くは無いだろうしな。
そう考え、俺は意を決してライフポーションを口に含み……そして、後悔した。
「んん゛ぅっ~?!!」
俺はよく分からない悲鳴のような奇声を上げ、無我夢中で駆け出し、流し台へと向かって行く。
流し台に着くと、すぐ様ライフポーションを吐き出し、更に備え付けられていた水で口を何度も濯ぐ。
何回か口内を水で洗うと、次第にライフポーションの痺れるような凶悪な苦味が取れ、どうにか人心地つくことができた。
何だアレ?!
いくらなんでも苦過ぎだろう!
例え回復量が15%も上がっていようとも、アレでは絶対に飲み干すことなんてできない!
HPポーションを青汁味だとするなら、ライフポーションは青汁とゴーヤ汁とよもぎ汁と抹茶等といった苦いものを混ぜ、濃縮したような味と言えば良いのかな。
とにかく、舌が痺れてまともな味が分からなくなる程苦いのに、脳天を突き刺すような苦味だけはしっかり感じ取れるというのが、本当にひどい!
残念だけど、コレはお蔵入りかなぁ。
作っても飲めなきゃ意味ないしな。
あ、でも、こんなに不味いなら、気付けには使えるかもな。
このゲームにも状態異常の気絶はあるから、何時か試してみるのも良いかもしれない。
ま、使われる方には、たまったものじゃないだろうけどな。
それにしても、他のものの効能を高める働きって、味にも臭いにも作用するとは、思わなかったなぁ。
……ん? 待てよ?
それなら味や臭いが普段感じ取れないような、蒸留水だったらどうなるんだろう?
まぁ、まだ素材のエネルゲンマッシュルームもあることだし、実際にやってみれば分かることか。
そうして、今度はポーション瓶1杯分の蒸留水とエネルゲンマッシュルームとを視線選択して、合成していった。
「合成!」
すると、視線選択した蒸留水とエネルゲンマッシュルームが一瞬白い光に包まれて消えると、そこには薄らと青白く光る水が出来上がっていた。
【製作者:リオン】
素材・消耗アイテム ライフウォーター:生命力が豊富に溶け込んだ水。飲むことで生命力を回復することができる。
効果:HP100回復 使用期限:364日23時間59分
ふむ、ベースが蒸留水だったからか、回復量が%ではなく固定値になったな。
味の方は……うん。通常の蒸留水と特に変わったところはなさそうだ。
後はコレをベースに何を作るかだけど……。
下手にポーションを作ろうものなら、さっきのライフポーションのようになるのが目に見えているから、他のものにしなくちゃな。
苦くなくて、蒸留水……水と合う飲み物。
飲み易いものが良いから、甘く口当たりが良さそうなものとかかな?
甘いものは、砂糖と蟻蜜、それとリンゴがあったよな。
……よし! 作るものは決まった。
デトックスウォーターを作ろう。
作り方は確か、水に果物を切って入れて、4時間以上漬け込むだけで、果物の香りや味が漬けた水に風味みたいに移って、ただの水より美味しくなるんだったよな。
現実では漬け込み時間が必要になって来るけど、ココでは料理のアーツの状態促進を使えばすぐに、出来るだろうし。
それに、エネルゲンマッシュルームの効果で味も香りも強くなれば、ジュースとそんなに変わらないものができそうだから、十分に飲み易そうな飲み物になるだろうしな。
でも、ポーション瓶1つ分のライフウォーターでは、上手く漬け込むことができそうにないから、先にエネルゲンマッシュルーム1個で、どの位までの蒸留水をライフウォーターにすることができるかの実験をして置くとしよう。
とりあえず……上位合成する時必要だった下位素材は10個ずつが多かったから、10杯刻みで合成していこう。
そうして、蒸留水をポーション瓶10杯分単位で鍋に出して合成していき、ポーション瓶30杯分を合成すると、今までと少し違う説明のライフウォーターが出来上がった。
【製作者:リオン】
素材・消耗アイテム ライフウォーター:生命力が溶け込んだ水。飲むことで生命力を回復することができる。
効果:HP80回復 使用期限:291日23時間59分
どうやらエネルゲンマッシュルームにも、効果を最大に及ぼせる限界は存在したようだ。
まぁ、無ければゲームバランスが崩壊するだろうから、当然と言えば当然だよな。
因みに、ポーション瓶1杯分の水を計量カップで計ったところ、およそ100mℓ入ることが分かった。
つまり、エネルゲンマッシュルーム1個で、蒸留水2ℓをライフウォーターにすることができるということだ。
そうやってエネルゲンマッシュルームについて調べていると、終了5分前の合図のベルが鳴った。
もうそんな時間かぁ。
やることがあると、時間が過ぎるのが早いな。
そう思いつつも俺は素早く料理キットや精製キットの金床とハンマー、それに素材や作ったもの等を片付けて行き、ネロに移動することを伝えて、シエルを装飾化する。
忘れ物が無いかを確認をしながら、この後の予定を立てていく。
せっかくだから色んな果実でデトックスウォーターを作ってみるとしよう。
同じ甘いものの砂糖と蟻蜜なんかでも、差異はあったんだから、もしかしたら種類の違う果物で作れば効果も違うかもしれないしな。
それと、今回の生産で結構エネルゲンマッシュルームを消費しちゃったから、またあの嫌な感じを味わうことになるけど、我慢して取りにいって来るとしよう。
午後2時に、アリルとの待ち合わせがあるから、念のため12時30分にアラームが鳴るように設定して置こう。
…………よし、設定完了。
忘れ物もなさそうだし、そろそろ行くか。
時間超過で、追加料金とか払いたくないしな。
そうして、俺はギルドを出て行き、街の食材屋を目指して歩いて行った。
やっと生産が……一先ず終わったぁ。
(うд≦。)ぐすっ。
次はアリルとの再会かぁ……。
4日で仕上がるかなぁ……心配です。