Locus 79
総合生産ギルドに着いた俺は、早速カウンター窓口へと行き、200Rを払って2階の個室スペースへと進んで行った。
所持金:28675R⇒28475R
因みに、何故午前中いっぱいの3時間にしなかったかというと、生産活動をした上で、何かしらの素材が足りなくなった場合に、買出しに行くことができるようにするためだ。
さて、ヴァルスが教えてくれた、経験値アップの付与は有限なので、先にレベルの低い……というか、0の合成のLv上げからやっていくことにしよう。
そうして俺は素早く装備スキルを入れ替え、地道に拾い集めた小石1スタック(スタックはアイテム1マス分のこと)、石2スタック、小枝1スタック、細枝2スタックを実体化していき、その間にシエルとネロの装飾化と宿紋化を解き、声を掛ける。
「シエル、ネロ、おはよう。あんまり出してやれなくて、ごめんな」
『おはよー! ……あれ? ねぇねぇ、なんでおそとまっくらなの?』
「キュウ! キュキュ? ……ンキュ?!」
シエルとネロが俺に挨拶を返すと、シエルが総合生産ギルドの個室スペースにある採光用の窓の外を見て、疑問を口にし、次いでネロもその事に気付き、驚きの声を上げる。
「ん? あぁ、このフィールドでは昼夜が逆転しているから、本当は昼でもこっちでは夜なんだよ。」
『そうなんだー……ふしぎだね~』
「キュキュウー……」
「そうだな。それじゃ、俺は生産活動に入るから、シエルとネロには狭くて悪いけど、その辺で遊んで待っててくれるか?」
『はーい!』
「キュウ!」
そうやってシエルとネロに聞くと、元気の良い返事を返し、部屋の一角へと行って、何をやっているかよく分からないが、何やら楽しそうにわちゃわちゃと遊び始める。
うん、今日もうちの子達は良い子だな。
そうほっこりしつつ、俺は実体化した小石と石を手に取り、これから合成していく手順を考える。
合成は確か、2つ以上の物を1つの物にするスキルだったよな。
小石1個の大きさは大体ビー玉より少し大きい位で、石の大きさの大体1/5程だ。
このことを念頭に入れて合成するなら、小石5個から合成を試した方が良さそうだな。
それとLUKは、あらゆる事に影響するみたいだから、フォーチュンブースター・ノートを掛けて置くと良いかもしれない。
DEXは結構あるとは思うけど、1度で成功するとは思えないから、例え本の僅かでも成功確率は高い方が良いはずだから、やれることはやって置くことにしよう。
因みに、合成の使い方は、既にヘルプで予習?済みだ。
合成は、合成したい物を手で触れるたり乗せたりするか、合成を使う意志を込めてから10秒が経過する前に、視線選択で合成したい物を選択することで、合成することができるみたいだ。
消費MPは、合成したい物のランクと数によって変動するらしい。
また、ヘルプに記載されているスキルの使い方の説明は、既に習得・取得しているスキルの情報が、自動で更新されていく仕様になっている。
そうして俺はフォーチュンブースター・ノートを自分に掛け、小石5個を水を両手で掬う時のようにして乗せ、合成していく。
「合成!」
両手に乗せた小石が一瞬白い光に包まれ、そしてその白い光が消えると、そこには……何も無かった。
どうやら失敗したようだ。
合成のスキルの説明でも、失敗すると合成に使った素材が消えるとあったから、まず間違いないだろう。
まぁ、最初から成功するとは思っていなかったし、何回かやっていればその内成功するだろうから、根気良くやっていくしかないな。
メニューを開けてMPを見てみると、最大MPから5減少した数値を示していた。
ふむ、どうやら小石だと1つにつき、MPの消費は1で済むようだな。
流石は、ランク1の素材なだけある。
これなら、賦活での回復だけで、十分に賄えることができそうだし、賦活のLv上げにもなるから、どんどん合成していくとしよう。
そうして俺は実体化させた小石を5個をまた手に取り、合成していく。
「合成!」
俺がそう唱えると、両手に乗せた小石がまた一瞬白い光に包まれ、そして消えると、そこにはまた何も無かった。
また、失敗か……。
少し意気消沈したが、まだ始めたばかりだし、そうそう上手くいくものではないかもしれないけど、次こそは3度目の正直! っと、気合いを入れ直し、再び合成を行っていく。
「合成!」
すると、両手に乗せた小石がまた一瞬白い光に包まれてから消えると、そこには1つの石ころが出来上がっていた。
「やった! 出来た。」
そう言いつつ、思わずガッツポーズを取ってしまう。
出来た物は何の変哲も無い、街の外に行けば幾らでも拾えるただの石だが、やっぱり自分の手で作り上げた成功物だと、何と無く嬉しいものがあるよな。
よし! この調子でどんどん合成していこう。
そうして俺は小石を石に合成できるだけ合成していき、小石が残り4個になる頃には、合成のレベルが3にまで上昇していた。
次は石を合成していくとしよう。
石の次はたぶん小岩じゃないかと思っている。
理由は、Fランククエストの畑の石拾いでも、石より大きい採取物で、石系統の物は小岩だったし、強ち間違っていない気がする。
ただ、畑の石拾いの時に見た小岩の大きさは、大人の頭程より少し大きく、石5個ではその半分が良いところなので、もし小岩を合成するなら石10個を合成するのが正解なように思う。
まぁそれでも、もしも石5個で済むなら、合成の回数が増えることになるのだし、一応確認はしておくべきだろうな。
そう思い、今度は石を5個両手の上に乗せ、合成した。
すると、両手の上に乗せた石5個が一瞬白い光に包まれ、その光が消えた後には1つの石ころが出来上がっていた。
あれ? 失敗した?
いやでも、失敗したら合成に使った素材は消えているはずなので、コレは成功したと見るべきか?
う~ん、それにしても見た目的には、素材で使った石と何も変わっていないように見えるけど……。
まぁ、鑑定してみれば何か分かる可能性はあるはずだから、一先ず鑑定をしてみてから判断するとしよう。
【製作者:リオン】
素材・消耗アイテム 分身石(5):合成によって、物理法則を超越した、ただの石ころ。投げて攻撃することが可能だが、威力はあまり期待できない。
また、物によりけり特定回数だけ、使用した後手元に戻って来るという不可思議な性質を持っている。
ATK 3
はっ?!
えっ、ちょっと待って。
……何でただの石ころが、物理法則を超越してるんだよ?!
おかしいだろ、ソレ!
てか、魔法なんて不思議現象がある世界で、物理法則がある意味って……。
はぁ~。あーもぅ、訳が分からなくなって来たし、もう分身石はそういう物だと思って置くことにしよう。
その方が変に考えるより、よっぽど精神的にも良いだろうしな。
それじゃ気を取り直して、少しこの分身石を実験して置こう。
この分身石の説明を読む限りじゃ、使用……といってもまぁ、投げるしかないんだけど。
投げた後、使用者の手元に戻るとあるけど、投げた石自体がどうなるかが、重要になってくる。
なぜなら、もしも投げた石が残れば、もう1度合成素材として使える可能性があるからだ。
さて、何処に投げたらいいだろうか?
あまり強く投げれば、総合生産ギルドの備品を壊し兼ねないから、やっぱり何も無い所にアンダースローでゆっくり放るのが良さそうかな。
そう考えた俺は、個室スペース内で何も無い一角を目掛けて、アンダースローで分身石を放り投げた。
カッ、カツッ、カララララララ……
分身石は、2~3回ほどバウンドしてから床を転がり、個室スペースの壁際で止まった。
そしてそのまま、見守ること約3秒。
壁際まで転がった分身石が『フッ』っと消え、先程分身石を投げた手の中に、何時の間にか戻って来ていた。
戻って来た分身石を見てみると、( )内の数字が減っており、4の数字に変わっていた。
ふむ、なるほどな。
つまりこの分身石は、( )内の数字を消費して、手元に戻って来る代物のようだ。
そして分身石の説明にあった、物によりけりと特定回数というのは、この( )内の数字引く1の回数だけ手元に戻って来るということなのだろう。
投げた石自体が消えてしまうのは少し残念に思うが、考え方を変えれば、敵対者に拾われ再利用される心配が無いことになる。
だから、ある意味安心して投げることのできる物だと分かっただけで、良しとして置くことにしよう。
さてと、時間も押してることだし、さっさと合成の続きをしていこう。
そうして俺は、石10個を小岩1個に次々と合成していき、その後は小岩10個を岩1個に合成させていった。
岩の大きさは、インスタンスダンジョンにあったものとほぼ同程度で、一抱え程の大きさだった。
岩を更に10個合成させようとしたが、机の上に乗り切らなさそうだと気付いた。
少し考えて、まず岩をサイコロの5の目のように配置し、その上に4つの岩を下に置いた岩の3つを台座のようにして置いていった。
そして、先程置いた4つの岩の更に上に1つの岩を置き、無事机の上に10個の岩を乗せることに成功した。
よし、それじゃ合成させるか。
俺は少なからず達成感のようなものを感じつつ、合成するという意志を込め、視界にあるピラミッドのように積まれた岩10個を視線選択し、合成させる。
「合成!」
すると、机の上に積まれた岩10個が瞬時に白い光に包まれ、それが消えると同時に『ゴガンッ!』という音を響かせて、先程の合成の素材に使った10倍以上も大きい岩が机の上に出来上がっていた。
目測での大きさは大体、バスタブの2倍程だろうか。
どうやら、机の天板から少し上の所で合成が成功し、その落下のせいであのような大きな音がしたようだ。
俺はそう思いながら机の上でバウンドして、床なんかに落ちないよう素早く支え、辛くも机からの落下を防ぐことに成功する。
しかし……。
何やら机から聞こえてはいけないような『ミシミシミシミシッ!』という、何とも不安を掻き立てるような音が聞こえてきてしまっていた。
まずいっ!!
早くなんとかしないと、最悪机が壊れかねない!
どうする?どうしたら良い?!
そうやって考えるも、すぐには良い考えは思いつかない。
とりあえず、現状この机に負荷を掛けている大きい岩を持ち上げて、机の負荷を減らすとしよう。
そう考え、机の上に乗った大きな岩を持ち上げるが、完全に浮かすことができず、机の1方へと重さが掛かり、『メキメキッ』っと更に聞こえてはならない音が聞こえてくる。
っく! やばい。
このまま1方向に負荷がかかり続ければ、そう遠くない未来に、机の天板が陥没するなり、亀裂が入るなりして、取り返しがつかなくなる!
そうなる前に何か手を考えないとな。
今の状態は俺の力が足りないから、中途半端に持ち上げる結果になっているんだから、力……筋力が上がれば、たぶん持ち上げられるはず。
「バーサーク!」
そう思った瞬間アーツを使い、俺は中途半端に持ち上げていた大きな岩に抱き付くような形で持ち上げ、どうにか机を破損させることを回避することができた。
だけど、問題はまだある。
この大きな岩をどうにかしてしないと、今度は俺自身が机の二の舞になるということだ。
バーサークの効果時間以内にどうにかしないと、本当にやばい!
まぁ、街の中だから死にはしないとは思うが、このゲーム変なところでリアルさを追求しているから、絶対に無い……とは言い切れないのが、困るんだよなぁ。
かといって、何かしらのアーツや魔法で破壊すればこの個人スペースの備品だけにとどまらず、部屋自体も壊してしまいそうで、危険極まりない。
それに、もしそんなことをすれば、最悪出禁になるかもしれないし、態とでないにしろ、恐らくそれなりの罰金を支払うことになるだろうから、極力やりたくない。
もっとも、この夢現フィールドでの出来事はあくまで夢であるということだが、それでも何かしらの影響が無いとも言い切れないので、そんな分の悪い賭けなんてしたくない。
破壊がダメなら、収納できればいいのだけど、先程収納しようと手探りでこの大きい岩をタップして、通常のインベントリである見えない肩掛け鞄に入れようとしたのだが、どうにも元のSTRで持ち上げられない物は収納できない仕組みになっているようだった。
それなら、もう1つの収納することができる虚空庫を使えば問題無いのだが、合成する分には特に必要ないと思い、装備スキルに虚空庫を入れていないのである。
片腕さえ自由に使えれば、虚空庫のスキルを装備できるんだけど、今片方の手を放せば支えを失い、この大きな岩が床に落ちてしまうことは明白だ。
故に、この方法も使うことができず、それなら先程の机にまた一時的に乗せ直せば……とも思ったが、持ち上げて支えることが精一杯な状態なのに、ゆっくりこの大岩を下ろすこと等絶対に無理だ。
縦しんばある程度ゆっくり下ろせたとしても、机には乗り切らずバウンドして床に落下して、床や机を壊す未来しか見えてこない。
あぁ、もぅ本当に、1人じゃこの状況はどうにもならないよ。
……ん?
1人?
そうだ! 1人だから出来ないんだ!
1人で出来ない事なら、他の誰かに助けてもらえば良いじゃないか!
そう考え、俺はこの現状を打破するため、すぐ様行動に移す。
「シエル、ネロ! 頼む! 力を貸してくれ!」
『ん~? どーしたのー?』
「キュゥ?」
「うっかり、合成で岩を大きくし過ぎたんだ。それで持ち運ぶにしても、何処かに置くにしても何か壊しそうだから、虚空庫に収納したいんだ。だから、収納するまで少しこの岩を支えてくれないか?」
『うん、いいよー! それで、どうすればいいのー?』
「キュキュウ!」
『ネロもいいってー!』
「そうか、ありがとな。それじゃまず、ネロはボラシティプラントに影装変化して、この岩に蔓状の根を巻きつけて、支えてくれ」
「キュウ!」
ネロの姿は持ち上げている岩のせいで見えないが、了承するように元気良く鳴き声を上げると、影が膨張していくのが少し見えた。
「シュルァァァー!」
ボラシティプラント特有の鳴き声が聞こえると、俺が持ち上げている大きな岩に幾つもの、蔓状の根が巻き付いていき、安定させるように支え始める。
「うん、大丈夫そうだな。それじゃ、シエルは俺が『せーの』って合図したら全力の念力でこの岩を持ち上げてくれ。たぶん、10秒も持ち上げてくれれば、虚空庫に入れる準備ができるだろうから、それまで頼むな」
『わかったー!』
「それじゃーいくぞ? ……せーの!」
俺がそう合図すると同時に、今まで持ち上げていた大きな岩からの重みが若干軽減されるのが分かった。
『ふぬぬぬぬぬぬ!!』
シエルは両手を上に上げ、万歳の格好をしながら、両目をギュっと瞑り、俺がお願いした通り、全力の念力で持ち上げてくれているようだ。
俺はこの分なら問題なさそうだと思い、右手を大岩から放し、素早くメニューを開き、今までに無いスピードで装備スキルを変更する。
そして、装備スキルを無事入れ替えられたことを確認すると、虚空庫の入り口を大岩の真下辺りに展開して、放していた右手を元の位置に戻す。
「シエル、助かった。もう大丈夫だから、念力を止めてくれていいぞ。ネロも支えてくれてありがとな。助かったよ」
『は~。おもかったー。どういたしまして、だよ!』
「シュァァァアアアアアー!」
そうやってシエルとネロにお礼を言い、バーサークの効果が切れる前にどうにか、虚空庫に合成で大きくし過ぎた岩を虚空庫の入り口へと下ろしていき、無事何も備品を壊すこと無く、収納することができたのだった。
本編を4日ごとに投稿していくと、Extra Locusの方を中々書くことができない事実に気が付きました。
・゜・(*ノДノ)・゜・
因みに、通常のバスタブ1杯でおよそ200ℓの水が入ります。
(/Д・\)チラッ




