Locus 78
ログインしました。
現在の時刻は、午前8時40分少し過ぎ。
周囲を軽く見渡して見ると、ログインした場所は、クレアさんの言った通り荒ぶる仔豚亭の1階部分……その壁際だった。
そしてログインするとすぐに、インフォメーションが流れた。
『メールボックスに未読メッセージが1件あります』
メールかぁ、誰だろう?
もしかしてもう、胸当てができた……とか?
いやいやいや、それは早すぎるだろう。
っと、心の中で自分に突っ込みを入れつつ、メニューを開き、メールの内容を読み込んでいった。
メールはアリルからで、内容は今日の午後2時の待ち合わせの時に、アリルのフレンドも一緒に案内をお願いできないか?っというものだった。
何故こんな急に、人数が増えたのか少し気にはなったが、特に否はなかったので、大丈夫だという内容の返信を打ち、アリルに送って置いた。
さて、それじゃ昨夜に考えた予定通り、行動していくとしよう。
そう思い、俺は荒ぶる仔豚亭を出て行き、大通りへのと歩いて行くと、昨夜の飯時でないにしろ、かなりの人でごった返しているのが見えた。
俺は脇道からその様子を見つつ、少し考え、そういえばインスタンスダンジョンが解放されてからまだ半日位しか経っていないことに、気が付いた。
もう転科も防具の新調も終えたので、フードを深く被って行動すれば、金色の幼女を連れていた銀髪の初心者プレイヤーだとは、思われ難いだろう。
しかし、このごった返しのような人混みの中を歩くのは、心情的に勘弁して欲しい。
だからといって、また人を避けるように遠回りをしながら、移動していくのも何か無駄に疲れそうで嫌だ。
解決法としてすぐに思い付くのは、家屋の屋根に上り、屋根伝いに移動して時に屋根から屋根へと飛び移ったりすれば、良いということだ。
だが、それをすれば誰かに見つかった時に騒がれたり、それを見た人の記憶に残り易かったりと、色々弊害が出る可能性も捨て切れない。
それに、フードを被ったまま日中にそんな行動をすれば、不審者ですと、喧伝しているようなものだし、何より俺がその行動を取るだけの度胸がまだない。
ん~……どうしたものかなぁ?
そう考えていると、ふいに昨夜ヴァルスに言われたことを思い出す。
そういえばアッチなら、今ほどプレイヤーがいないかもしれないし、昼夜が逆転してるから、屋根伝いに移動したとしてもそれほど目立つことがないだろうから、向こうで生産や合成のレベル上げをすればいいかもしれないな。
総合生産ギルド内でなら、外が夜であろうと関係は無いし、それにヴァルスの言っていた良い事ってのも気になってたしな。
よし、善は急げだ!
そうして俺はまた来た道を戻って行き、再び荒ぶる仔豚亭の中へと入っていった。
すると、また宿の女将と思しき恰幅の良い女性に声を掛けられる。
「いらっしゃい! 食事かい? それとも泊まり?」
「泊まりでお願いします」
「あいよ。1泊素泊まりなら、300R。食事付きなら、500R。料金は前払いだよ。」
「それじゃ、食事付きで……はい、500R」
「……うん、まいどあり♪ それじゃ、これ部屋の鍵ね。食事はどうする? ここで食べてくかい? それとも部屋まで持ってく?」
「あ、それじゃここで頂きます」
「あいよ。それじゃ、その辺の椅子に座って、少し待ってておくれ。……定食1丁ー!」
女将さんは俺に少し待つように言うと、カウンターの奥に向かって大声を張り上げる。
そして、時間にして30秒が過ぎた頃、カウンターの奥から木で出来た配膳板に乗った定食らしきものが置かれ、それを女将さんが俺の所まで運んでくる。
「はいよ、お待ちどう様。うちの宿屋自慢の1品だ。たんとお上がりよ」
そう言うと俺の返事も聞かず、またカウンターの方へ戻って行く。
配膳板に乗っていたラインナップは、焼き立てっぽい良い香りのする丸パン2つに、カリカリのベーコンが添えてある目玉焼き。
木のボウルに入ったシーザーサラダに、口がやや広いカップに入ったオニオンスープ。
そして、馴染みの無い、しかし何やら良い匂いのする黒っぽい液体が入ったコップがあった。
おおっ! これはかなり美味しそうだ!
そう思いつつ俺は早速良い香りのするパンを手に取り、パンを1口大にちぎり、口に運ぶ。
丸パンは思いの他柔らかく、素朴な味わいだが、噛めば噛む程甘みが増していく。
カリカリベーコンは、余分な脂が出ておりギトギトした感じはなく、また焼き過ぎることも無い、絶妙な焼き加減だった。
カリカリベーコンに添えてある目玉焼きは、トロトロの半熟で、カリカリベーコンの塩気と薫香が良く合い、更に食欲を増進させる。
シーザーサラダを食べれば、シーザーの甘酸っぱさと、生野菜の水気が口の中に行き渡り、いままでの味に満たされた口内をリフレッシュさせてくれる。
口がやや広いカップに入ったオニオンスープは、たまねぎの甘みがしっかりと出ており、単体で飲んでも美味いが、パンと一緒に食べるとその美味さが1段と跳ね上がっていく。
〆に馴染みの無い、何やら良い香りのする黒っぽい液体が入ったコップを手に取ると、まるで沸かし立ての麦茶に似た香ばしい良い匂いがした。
実際に飲んで見れば、味の方は何処と無くほうじ茶に似ており、俺の好みにも合っていてとても飲み易い。
気が付いてみれば、配膳された食器は空になっており、とても満足のいく食事だった。
俺の腕では、こんなに人を夢中にするような料理はまだできないので、こういう料理を目標に、何時かは作ってみたいと思う。
そうして、目標の1つを再確認すると、俺は席を立ち部屋に上がる前に、女将さんに美味しかったですと感想とお礼を言い、そのまま部屋へと向かって行った。
所持金:29175R⇒28675R
部屋に入ってから少し、先程の料理の美味さの余韻に浸った後、これからやる事を思い出し、部屋に備え付けてあった夢現の雫を飲み干して、ベッドに横になり、目を瞑った。
すると、目を瞑って1~2秒過ぎたあたりで、まぶたの上から当たっていた強い光の感覚が無くなった。
目を開けてみると、採光用の窓の外から夜天に綺羅と輝く星々と、煌々と夜に包まれた街を照らす月が出ているのが見えた。
ベッドから起き上がり、ふとヴァルスに言われた良い事って何だったんだろうと思い、視線を巡らせてみると、視界の端にEXP↑(微)というアイコンが付いていた。
そのアイコンを更に見ていると、視線選択がされたのか『59.55』と表示され、小数点以下が1秒ごとに刻々と減少していっているのが分かった。
なるほど、コレがヴァルスが言っていた時間限定の良い事か。
表示された時間を見るに、およそ1時間の経験値アップが付与されるようだ。
(微)ということは、それ程多い訳ではないようだが、塵も積もれば何とやらとも言うし、それに戦女神の洗礼もあるから、効果は2倍と考えれば、それはそれですごいと思えるな。
グッジョブ! ヴァルス!
さて、この付与に時間制限もあることだしさっさと移動しよう。
シエルは街中での移動にまだ適さないから、出せないけど、ネロの方は総合生産ギルドに着いてから出した方が時間の節約になるから、悪いが後で出すことにしよう。
そうして、俺は泊まった部屋を出て行き、荒ぶる仔豚亭を後にし、総合生産ギルドへと向かって行った。
あ、食いしん坊レポート? を書いたら、生産できなくなった……。
(´・ω・`)すまぬ。。。




