Locus 76
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クレアさんの知り合いの鍛冶師の場所に向かう道中、ただ移動するだけでは退屈だろうと、クレアさんがコチラ……夢現フィールドについて色々と教えてくれた。
まず、夢現フィールドといつも最初にログインするフィールド……通常フィールドとの間では、メールでしか連絡を取り合うことができないらしい。
何故かというのは、まだ分かっていないが、とある推測は立つようだ。
ソレは、この2つのフィールドを管理するサーバが別であり、この2つのフィールドの間でリアルタイムの通信……フレンドコールを行うと、サーバに負担が掛かり、最悪ダウンしてしまうのではないか? とのことだった。
それでも、夢現フィールド内同士であれば、問題無くフレンドコールでも連絡を取り合うことができる、ということは分かっているみたいだから、普通にプレイする分には、特に支障はないそうだ。
次に、夢現フィールドで体験できることは、通常フィールドで既に起こったことでなければ、体験することができないようだ。
これは、夢とは現実で起こったことを整理し、それを基に夢という形にするものだからっということなのだそうだ。
つまり、通常フィールドで起こった突発イベントや、解放されたシステムはこの夢現フィールドでも反映され、それ以外はこの夢現フィールドでは起こることも起こすこともできないらしい。
また、この反映されることにも、例外があるそうだ。
それは、所謂解放クエストや個人で受けると2度と受けることのできない限定クエスト等が、ソレに当たる。
まぁ、考えてみれば当然だが、1度しか受けられないクエストや既にクリアして内容を少なからず知っている解放クエストをもう1度受け、尚且つその報酬までもらえてしまえば、ソレはゲームとしての公平性を失うことになってしまうからな。
そして最後に、『夢現の雫』ができた経緯を語ってくれた。
クレアさんが調べた結果、この『夢現の雫』は当時ヒナリエッタの友人が最高位の管理職に就いたことが切っ掛けで、作られたのだという。
曰く、仕事に忙殺され、日中は外出できない。
曰く、休みを取ろうにも取れば取っただけ、国が危うくなる。
曰く、結果的に部屋の中に引き篭もるようになり、日光を浴びることができない。
曰く、ほぼ座りっぱなしであるため、運動不足になりまともに動けないようになった。
等々。
そして、これらを解消するため作れたのが『夢現の雫』なのだそうだ。
因みに、この『夢現の雫』の効果が出てる間は、この夢現フィールドでNPCが死んでも、本当に死ぬことはないらしい。
そうやって話している内に、どうやら目的の場所に到着したようだった。
着いた場所は、南区にある露店が集まる……通称:露店通りの1角に、件のクレアさんの知り合いという鍛冶師がいた。
「お、来たか」
「お待たせしましたか?」
「いや、在庫の整理とかしてたし、大丈夫だ」
「そうですか。それでは、紹介しますね。リオンさん、こちらが知り合いの鍛冶師のヴァルスです。ヴァルス、こちらが先程言っていたフレ兼お客様のリオンさんです」
「今しがた紹介に上がった、ヴァルスだ。鍛冶師をしている。種族は鬼人族だ、よろしくな」
ヴァルスは、溌剌とした兄貴といった印象の人だった。
ヴァルスの外見は、夜天のような藍色の髪で、目の色は明るい琥珀色をしている。
肌は浅黒く、額の中央のやや上部から斜め上に伸びるように、1本の角が生えていた。
服装は、黒を基調として赤いラインが炎ように入っている作務衣を着、頭には白を基調とした薄い藍色の模様が付いた手拭いを頭に巻いている。
そして足には、黒い地下足袋を履いていた。
「はい! はじめまして、リオンと言います。こちらこそよろしくお願いします、ヴァルスさん」
「あー……俺に対しては敬語を使わなくていいぞ。そういう堅苦しいのは、好きじゃねぇしな。ヴァルスって呼んでくれ。俺もリオンって呼ぶからよ」
「え、あ、うん。よろしく、ヴァルス」
「おう。それで、インゴットの件だっけか。まず、その鉱石ってやつを見せてくれるか?」
「分かった……これなんだけど、どうかな?」
俺は素早くメニューを開き、インゴットにしたい黄銅鉱を実体化させ、ヴァルスに手渡す。
「……おいおい、マジか! なんだコレ! 今までに見たことないぞ、こんな鉱石! リオン、こいつはいったい何処で手に入れたんだ?!」
「……流石リオンさん。鍛冶屋でインゴットにできないと聞いたことから、もしやと思いましたが、本当に一般に出回っていない鉱石を出すとは!」
「えっと……その」
俺は咄嗟にここだと言い掛けて、正確には通常フィールドの方だと思い出し、口籠もる。
「あ、すまん! 今の質問には答えなくて良い。ただで教えて良い情報じゃないしな」
「いえ、あの……?」
「う~ん……そうだなぁ。リオン、取引しないか? その鉱石を採った場所を教えてくれたら、今回の鍛冶の依頼はただでやる。更に、今後ランク3までの素材のみを使った依頼は、技術料のみで請け負う。それに、ランク4以上の素材持ち込みなら、割引もする。どうだ?」
「え、いや、そんな悪いよ」
「いーや、この情報にはソレだけの価値がある! この鉱石が採れる場所が分かれば、この鉱石や他の産出物も恒久的に採れるようになるからな。妥当だと思うぞ?」
「そうですよ、リオンさん! 生産職にとって今まで触ったことのない素材が採れる場所というのは、それだけ魅力的なんですよ。それに、この条件ならリオンさんがヴァルスの所を利用する限り、お互い嬉しい関係を構築できますし、お得ですよ!」
「ん~そういうことなら、話すけど……そんなに大した場所じゃないぞ?」
「ああ、それでも頼む。それで、何処なんだ?」
「私も聞きたいですけど、情報料どうしましょう?」
「クレアさんには、さっきたくさんのことを教えてもらいましたから、別にいりませんよ?」
「……そうですか。そういうことなら、お言葉に甘えましょうか」
「それで、場所は……ココ、ディパート内で入手したんだ。といっても通常フィールドのディパート内で、だけどな」
「はぁ?! ココで、だと?! もしかして、道具屋とか雑貨屋での掘り出し物で買ったのか?」
「いや、一応採取という形で、入手したんだ」
てか、掘り出し物なんて商品あったんだな。暇な時にでも行ってみよう。
「採取、ですか? 採掘ではなく?」
「はい。……あ、そういえば2人は、何処かの戦闘系ギルドに所属してる?」
「ん? ああ。俺は、冒険者ギルドだ」
「私もですね。それがどうかしましたか?」
「実を言うと、この鉱石を採取したのが、ギルドで出されてるクエストでなんです」
「クエスト? 採取依頼にそんな鉱石が採れるものなんてあったか?」
「……いえ、記憶にはありませんね。あったら、既に誰かがやって発見してるはずですし、話題にも上がってくるはずです」
「だよな?リ オン、いったいどういうことだ?」
そうして俺は、2人に黄銅鉱を入手するまでのことを話した。
冒険者ギルドに登録後、適当にできそうなクエストを探し、Fランククエストの畑の石拾いを選択したこと。
畑の石拾いは、1時間以内にいくつの石が拾えるかという仕事内容だったこと。
報酬は、拾った石の種類によって変わり、小石1個で1R、石1個で10R、小岩1個で50R支払われる出来高払いであったこと。
そして稀に、石以外のものも拾え、それはもらってもいいということ。
そこまで話すと、察しが付いたのか、2人は納得した風に声を上げる。
「なるほどな。確かにソレなら採掘じゃなく、採取扱いになるな」
「ええ。しかも、普通こんなクエストで鉱石を入手できるなんて誰も思いませんし、こんなクエストを好き好んでやるプレイヤーもいませんから、話題にすら上がってこないと。やはり侮れないですね、このゲーム。隠し要素が多すぎますよ」
「だな。まぁそのおかげで、退屈とは無縁でいられるんだけどな」
「それで、どうする? この夢現フィールドでは初めてになるけど、まだ時間もあるしそのクエストを受けてみるなら、案内するけど?」
「……そうだな。一応この目でどんな鉱石が採れるのか、知っといた方が良いから見に行ってみるか。だけどその前に、リオンの依頼のインゴットを作成しとくな。1時間も掛かるクエストなら、先にインゴットを作って置いた方が後々楽だろうし。それで、いくついるんだ?」
「ありがとう。助かるよ。3つだけど、頼めるかな?」
俺はそう言うと、素早くメニューを開き、黄銅鉱を全て渡した。
「分かった。それじゃ、ちょっと待っててくれ。見ててもいいが、失敗しないためにも、その敷き布には入ってこないでくれよ」
そうヴァルスは言うと、メニューを開き、次々に携帯炉とハンマー、金床、やっとこ、レンガの受け皿のようなものを実体化させていった。
そして、携帯炉に先程渡した黄銅鉱を選別し、そのほとんどを入れ、携帯炉の下にレンガで造られた受け皿を置いていく。
すると、携帯炉の底から赤熱した金属の液体が、携帯炉の下のレンガの受け皿へと落ちていった。
携帯炉から全ての液化した金属が受け皿に落ちると、少し冷め固体化して明るい黄金色をした金属になっていき、その後やっとこでそのレンガの受け皿から金床へ運び、やっとこで抑えつつレンガの受け皿をハンマーで壊して外していく。
ハンマーでレンガの受け皿を外すと、レンガの破片が表面に付いた黄銅鉱の塊が出来上がっていた。
ヴァルスは、その後また黄銅鉱の塊を携帯炉に入れ、液化しない程度に赤熱化させてから取り出し、ハンマーで叩くということを2~3回繰り返していった。
そうして最後にまた液化するまで赤熱化させて型に入れ、型がいっぱいになると、携帯炉に付いているコックを閉め、他の型に換えていく。
そして、それらを冷まして型から外し、ようやく黄銅のインゴットが出来上がった。
「ほい、お待ちどうさん。確認してみてくれ。それとこれ余った分な」
そう言われ手渡されたインゴットと黄銅鉱を受け取り、さっそくインゴットを鑑定してみた。
【製作者:ヴァルス】
素材アイテム ブラスインゴット:黄銅鉱を精錬し鋳型に流し込んで固化した金属塊。明るい黄金色の金属光沢が美しく、様々な用途に使われる。
「うん、ちゃんとできてるみたいだ。ありがとな」
「良いってことよ。それじゃ、クエストの方の案内よろしくな」
「それなら、私も興味がありますので、同行させて頂きますね。案内の方、よろしくお願いします」
「分かりました。あ、それと回数限定ではあるけど、たくさん拾うと良いことがあるから、がんばって拾ってくれよな」
「ん? あ、ああ。よく分からんが、そう言うならやってみるわ」
そうして俺達は、ヴァルスが露店を閉めるのを待ち、その後冒険者ギルドへ行き、Fランククエストの畑の石拾いを受諾し、ジャックさんの畑へと向かって行った。




