Locus 74
ログインしました。
現在の時刻は午後8時30分を少し回ったところ。
さて、それじゃ予定通りまずはいらないものを売って、それからヴェアリアントゼライスに溶かされたプレアダガーを直しに、鍛冶屋へ行こう。
その後は、また共同生産ギルドに行って、合成のLv上げと今日消費した回復アイテムの補充をすることにしよう。
俺はそう思いながら、いつものようにシエルを装飾化から解除しようとして、ふと今居る場所がディパートの街の中であることを思い出し、シエルを装飾化から解くことを止めた。
そして、ネロだけに出てくるように言い、ネロが俺の影の中に入ったことを確認してから、移動することを伝え、冒険者ギルドへと向かって行く。
冒険者ギルドへ向かう道中、やはり段階迷宮を探しに行ったプレイヤーが多いのか、すれ違うのは主にNPCばかりで、時たま1~2人程のプレイヤーが居るだけだった。
これなら、ハイディングやハイドストークを使ったり、一々物陰に隠れながら移動しなくてもよさそうだな。
仕方無いことだとはいえ、さっきもこの位人が居なければ、もっと早くにログアウトすることもできたのになぁっと考えている内に、無事?ギルドに到着した。
そして、そのままギルドの中に入って行き、ギルドの受付の横にある買取スペースでいらないアイテムを売ってRに換え、ついでにその場で納品できるクエストをこなしていく。
そしてその後で鍛冶屋に赴き、プレアダガーを修復してもらった。
所持金:25048R⇒71275R⇒69475R
因みに、特に何も考えず今朝と同じ鍛冶屋に行ったら、鍛冶屋のおっちゃんは俺のことを覚えていたらしく、『どうやったら1日で、こんなにボロボロにできるんだ? 』と呆れられてしまった。
また、今朝にお願いした時よりも状態がひどかったようで、修復の代金が若干割高になっていた。
よし! それじゃ、次は共同生産ギルドだな。
結構前に行ったっきりで、場所がうろ覚えだから、ここは検索してから行くことにしよう。
そう思い、メニューを開こうとすると、今までに聞いたことのない音が聞こえ、インフォメーションが流れた。
『ティロロン♪ メールを受信しました。』
ん? メール?
いったい誰からだろう?
というか、互いにログインしているなら、フレンドコールでいいのに、なんでメールなんだ?
もしかしたらフレンドコールできない状態なのかもしれないけど……自分で言っといて何だけど、ソレってどういう状態かなぁ?
まぁ、いいや。
考えていても、答えなんて出ないし。
さっさとメールの内容を確認することにしよう。
そうして、俺は素早くメニューを開き、送られてきたメールを開け、その内容を読み込んでいった。
差出人は、クレアさんからだった。
メールの内容は、防具ができたという報告と、防具を受け取りに来るにしても、手持ちが少なくてすぐに受け取れないにしても、『メール』で連絡を入れて欲しいとのことだった。
因みに、頼んでいた防具4部位の代金は、総額で丁度4万Rだった。
ふむ、またメールかぁ。
少し引っ掛かるけど、まぁ特に否は無いし、その通りにしておくとしよう。
そう思い、俺はクレアさんに受け取りに行く旨をメールに打ち、送信した。
すると、少ししてからクレアさんからの返信が届いた。
返信の内容は、今は『ソチラ』に居ないので、下記の指示通り移動して、『コチラ』に来て欲しいというものだった。
因みに、その指示とは以下の通り。
1:南区にある宿屋の『荒ぶる仔豚亭』に、1泊して部屋に入る。
2:部屋に備え付けられている、『夢現の雫』というソフトドリンクを飲み干し、部屋のベッドに入り、目を瞑る。
3:2の後、部屋から出て、階下に下りて行く。
注:尚、2のベッドに入る前に、必ずテイムモンスターは装飾化すること。
う~ん、謎だ。謎すぎる。
『ソチラ』とか『コチラ』とかの意味がよく分からないし、何故に宿屋で泊まる必要があるのだろうか?
というか、このゲームに宿屋なんてあったんだな。
普通の街であれば宿屋とかは、あってもおかしくはなさそうなんだけど、ゲーム内でまず寝る必要性が無いから、あっても利用することが無いと思うんだよな。
まぁ、もしかしたら他のゲームみたく宿屋に泊まると、即座にHPとMPが全回復するのかもしれないから、そういうことならポーションの節約として、利用するプレイヤーがいてもおかしくはないかな?
……はぁ。
まぁ、いいや。
そのことも含めてクレアさんに会えば、きっと教えてもらえると信じて、この通りに移動していくとしよう。
それに、純粋に出来上がったっていう防具を早く見てみたいって思いもあるしな。
そうして俺は、当初の予定を変更し、クレアさんのメールにあった指示に従って、移動を開始していった。
南区にある『荒ぶる仔豚亭』なる宿屋の場所が分からなかったので、俺は検索を行いマップデータに表示された黄色い光点を目指して歩いて行った。
マップデータに表示された光点に向かいしばらく歩いていくと、指示にあった『荒ぶる仔豚亭』を見つけることができた。
『荒ぶる仔豚亭』は、大通りから少し外れたところにあり、何も知らなければそのまま通り過ぎてしまいそうな、宿屋だった。
『荒ぶる仔豚亭』は、ファンタジー世界によくある3階建ての木造建築で、1階部分が食堂兼、酒場になっていた。
看板には暴れている仔豚をデフォルメした絵が描かれており、その存在を主張している。
俺がその見つけた宿屋へと入って行くと、宿の女将と思しき恰幅の良い女性から声を掛けられた。
「いらっしゃい! 食事かい? それとも泊まり?」
「えっと、泊まりでお願いします」
「あいよ。1泊素泊まりなら、300R。食事付きなら、500R。料金は前払いだよ」
「それじゃ、素泊まりで……はい、300R」
「うん、確かに。それじゃ、これ部屋の鍵ね。部屋はそこの階段を上がった所だよ。鍵に付いてる番号が部屋の番号だから、間違えないようにしなよ。それと外出する時は、部屋の鍵をカウンターに預けていっておくれよ」
「あ、はい、分かりました」
所持金:69475R⇒69175R
俺は鍵を受け取るとそのまま食堂兼、酒場の奥にある階段を上がって行き、鍵に付いていた番号と同じ208の部屋を探しながら宿屋の2階部の廊下を歩いていった。
程なくして自分の持つ鍵の番号と同じ部屋を見つけ出し、俺はその部屋の扉を鍵を使って開け、中に入っていった。
「キュキュ? キュウ!」
すると、ネロは他に人が居ないことを察知したのか、俺の影から顔を出し周囲を見回した後、影から飛び出して行き、何が楽しいのか簡素なベッドの上で飛び跳ね、宛らトランポリンのようにして遊び始めた。
「ネロ、遊ぶのはいいけど、変な方向に飛び跳ねるなよ」
「キュキュウ!」
ネロは飛び跳ねながら器用に敬礼のようなポーズを取りつつ返事を返して、またポーンポーンとベッドの上で飛び跳ねていく。
大丈夫かな? と思いつつも、俺は部屋の中を見ていった。
部屋の中はあまり広くなく、目測でおよそ3坪(畳6枚分)弱といったところだった。
内装は、採光用の大きな窓が1つと、簡素だが清潔そうなベッドが1つ、部屋の1/6を占める程大きい天板を持つテーブルが1つと、そのテーブルに背もたれが付いた椅子が1脚。
そして、テーブルの上と採光用の窓と入り口を除く2方向の壁に、光を灯すような魔道具があり、クレアさんのメールにあった『夢現の雫』というソフトドリンクもまた、そのテーブルの上にあった。
もちろん、風呂やトイレといったものは存在しない。
消耗アイテム 夢現の雫:宿屋提携グループ『Inexus』の創始者の1人、ヒナリエッタが作り上げた由緒正しきソフトドリンク。古い友人から相談を受けて作り上げたという、逸話が残されている1品。飲み干して眠ることで、夢と現の境界を曖昧にした世界へと、誘われるという……。
んー……一応鑑定はしてみたものの、説明文を読んでもよく分からないものだということが分かっただけだったな。
まぁでも、由緒正しきソフトドリンク(笑)らしいし、こんな客間に堂々と置いてあるんだから、少なくとも毒ではない……はず。
それに、クレアさんの指示に『飲み干して』とあるから、どちら道飲まなきゃならないんだけどな。
……よし、覚悟完了!
それじゃ……ネロが欲しがるかもしれないから、ネロを宿紋化してから飲むことにしよう。
決して、日和った訳じゃないぞ! うん。
そうして、俺は未だベッドの上で飛び跳ねていたネロを捕まえた後、ネロに宿紋化してもらい、クレアさんの指示にあった『夢現の雫』というソフトドリンクを飲み干した。
『夢現の雫』はベリー系の味がするもので、甘くすっきりとした味がして意外と美味かった。
その後、クレアさんの指示通りにベッドに入って、目を瞑った。
すると、目を瞑って1~2秒過ぎたあたりで、まぶたの上から強い光が当たってくる感覚がした。
って強い光?!
俺は即座に目を開き、周囲を見渡し状況の把握に努める。
部屋の中は、先程目を瞑る前と全く変わっていなかったが、採光用の窓から『強い陽光』が差し込んでいた。
「はあ?! 日が昇ってるぅ?! なんで?!」
俺はやや混乱しつつも、もしかしたらゲーム内で眠り1晩経ってしまったのかと思い、過去ログと時計を確認するがログインした時と変わらず、『午後』を指しており、これで俺が寝てしまった可能性が潰えてしまった。
そのまま少し時間が過ぎていくと、こんな状況になったそもそもの原因は、クレアさんから届いたメールにあることに気が付き、またまだクレアさんからの指示が残っていたことを思い出す。
とにかく行動しよう。
このままここに留まっていると、精神衛生上良くなさそうだし、それにクレアさんに会えばこの状況のことを聞くこともできるはずだしな。
そうして俺は、言いようの無い若干の焦りを感じつつ、クレアさんから出された最後の指示に従い、部屋から出て宿屋の階下へと降りて行った。
するとそこには、簡素なテーブルと椅子に座ったまま優雅に紅茶を飲んでいたクレアさんが居た。
そして俺が来たことに気づくと、まるで悪戯が成功した子供のような笑みを湛えながら、俺に声を掛けて来る。
「こんばんは、リオンさん。わざわざご足労頂き、ありがとうございます。そんな所で立ち尽くしていては、他の方に迷惑でしょうし、こちらで一緒に紅茶でもいかがですか?」
作中では、正式サービスからまだ1週間経っていないという、驚愕の事実!
(`・ω・)b!




