Locus 69
「さて、それじゃボスと戦う前に相手の情報の共有をして置くとするか。リオン、頼む」
「あ、はい。識別したところあのモンスターの名前は、ジャイアント・デュアルセンチピードって言います。レベルは15、属性は地、耐性は毒・麻痺・斬属性、弱点は火・打属性と魔法全般みたいですね」
「なるほど。ってことは、毒や麻痺を使ってくる可能性があるってことかぁ」
「だな。毒は最悪、回復薬や回復魔法でどうにかなるが、麻痺がやっかいだな」
「ですねぇ」
「それと、弱点部位ですが……ここから見た限りでは、各頭にある大顎の付け根にある筋肉? の下側と、Yの字型に分かれている二股の付け根の部分、それと頭とは逆の先端部……つまり尾部が弱点となります」
「う~ん、そうなると……尾部の弱点は僕達プレイヤーでは狙い難いですねぇ」
「そうだね。そこの所は空中を移動できる、シエルやネロにまかせた方が良さそうだね」
「だろうな。……よし! それじゃ戦いの方針を伝えるぞ!まず、遠距離攻撃できるルイリ、リオン、シエル、ネロで、ここからあのジャイアント・デュアルセンチピードを攻撃。その攻撃を合図に戦闘を開始する」
「分かりました」
「はい」
『はーい!』
シエルは右手を上げ、元気良く返事を返す。
「ホオォォォー!」
ネロもシエルを真似てか、同じ用に右翼を上げて了承の意を伝える。
「よさそうだな。では次に、戦闘開始後すぐに散開して、俺とリュクスとリオンが前衛、ルイリとシエルに後衛、それとネロに遊撃として戦ってもらう。前衛の位置取りは、紫目のムカデ頭をリオンに、黄色目のムカデ頭をリュクスに、そして俺はどちらにでもすぐに応援と弱点攻撃をできるように紫目と黄色目の間を受け持つ」
「分かりました」
「了解です」
「うむ。それから後衛のルイリには攻撃支援を中心に、シエルには全体の回復と攻撃の支援を頼む」
「はい!」
『がんばるー!』
「ネロは、遊撃だから全体を視野に入れつつ、全体のカバーと攻撃を頼む」
「ホオォォォー!」
「それと、魔法は物質系だとあの甲殻に阻まれて、あまりダメージを与えられないだろうから、非物質系の魔法での攻撃を中心にしてくれ」
「ん? 非物質系? 何ですかソレ?」
『ひぶっしつ~?』
シエルは頤に人差し指を当て、小首を傾げては、何ソレと言わんばかりのキョトンとした表情を浮かべる。
「ホオォ~?」
ネロも小首を傾げ、よく分かっていないような鳴き声を上げる。
「なんだ、知らなかったのか? 魔法には、大きく分けて物質系と非物質系の2種類があるんだぞ」
「物質系っていうのはね。簡単に言えば、確たる形を持つってことだね。例を上げて言うなら、シエルが使うライトアローやネロが使ってるシャドーエッジ、それと各属性にあるシールド系魔法なんかがそうだね」
「逆に非物質系っていうのは、定まった形の無いもの……つまり、火魔法のファイアーボールや水魔法のアクアストライク、それに各属性にある回復系魔法等がそうですね」
「なるほど~。それじゃ今回で言うところの非物質系魔法ってのは、シエルのレイビームやネロのシャドーウェーブのことですね」
「まぁ、そういうことだな。因みに、甲殻等の硬いものに物質系魔法が効かないわけじゃなくて、ただ単に与えるダメージ量が非物質系魔法よりも減衰されるってだけだから、勘違いするなよ? 逆を言えば、精霊や死霊系等にダメージを与えるなら非物質系の魔法より、物質系魔法のほうがダメージ量が多いってだけなんだからな」
『んん~?』
「ホオォ~?」
シエルとネロはまだよく分かってないのか、揃って首を傾げ、唸るような声を出している。
「つまり、だ。シエルはレイビームを、ネロはシャドーウェーブを主にして攻撃してくれってことだよ。」
『うん、わかったー!』
「ホオォォォー!」
「後は……そうだなぁ。あんな大きさでも虫系のモンスターだから、甲殻の隙間になら刃も通るだろうし、その辺りを狙って攻撃するといいかもね」
「だな。よし、それじゃこれ等を基本に、その後は各自の判断で臨機応変に対応してくれ。遠距離攻撃組みは、準備が整い次第攻撃を始めてくれ。それを合図に、戦闘を開始する。これが恐らくこの攻略最後の山場だ、気を引き締めていくぞ!」
「了解です!」
「分かりました!」
「はい!」
『はーい!』
「ホオォォォー!」
そうして、ネロに魔法を使う俺、シエル、ネロにメンタルブースター・シャドウを掛けてもらった後、俺達はタイミングを合わせるように詠唱していき、このインスタンスダンジョンの守護者である、ジャイアント・デュアルセンチピードに遠距離から一斉攻撃を仕掛けていった。
「ダブルアロー」
「スナイプショット!」
「グッ?!」
「ギヂッ?!」
ルイリの弓を基点に2本の矢が鋭い角度を描くように飛んで行き、持ち上げられて鎌首のようになったジャイアント・デュアルセンチピードの腹側の甲殻の隙間に突き刺さり、驚きを含んだくぐもった悲鳴を上げさせる。
「クアドラプルマジック」
「エネルギーボルト!」
『レイビーム!』
「ホオォォォー!」
「「ギシャァァァーーーーーー!!」」
そのすぐ後に4条の青白い雷が放出され、ジャイアント・デュアルセンチピードの甲殻を焼き焦がす。
シエルは薙ぎ払うように、左から右へ光線を照射し、ジャイアント・デュアルセンチピードの甲殻を更に焼いていく。
そして、畳み掛けるようにネロから放出された薄黒い波紋のような影の波動が、ジャイアント・デュアルセンチピード全体を包み込むかのように拡散し浴びせ掛け、HPバーを削り取っていく。
HPバーを見てみると、驚いたことに2割弱しかダメージを与えることができていなかった。
シャイニングノポポよりレベルが1つ上だとしても、シャイニングノポポと戦った時より俺以外はレベルも上がっており、更に今回はルイリまでも加わって攻撃していたにも係わらず、コレしかダメージを与えられないなんて、コイツどんだけ硬いんだよ!
そう思っていると、カインさんからの突撃の合図が掛かる。
「よし、それじゃいくぞ!」
「「「はい!」」」
『は~い!』
「ホオォォォー!」
俺はカインさんに返事をしつつ素早く装備スキルを入れ替え、メニュー画面を開いたままあるアーツを使うための準備を進めていく。
「バーサーク!」
バーサークが発動し、赤いオーラが俺の体全体と武器を包み込む。
「ソードダンス!」
ソードダンスも問題無く発動し、銀白色の燐光が俺の体全体と武器を包み込み、バーサークの赤いオーラと混じり合い、鮮やかな赤……紅色に染め上げる。
紅色の燐光に包まれたのを確認すると、すぐ様開けたままにしてあるメニューを操作し、あるアーツを見た。
すると考えていた通り、警告文が出ていない状態になっていた。
よし、これならいける!
そう俺は思いながら、そのアーツを有効化しメニューを閉じて、ジャイアント・デュアルセンチピードの方へ駆け出しながら、アーツを使う。
「炎撃武攻!」
アーツを使った瞬間一時的に紅色の燐光の赤みが増し、そして元の紅色に戻った。
これで発動した……のか?
まぁ、試してみれば分かることか。
そう考え、俺は先に近付いていったカインさん達を一気に追い抜かし、カインさんに気を取られていた紫目の方のジャイアント・デュアルセンチピードへと向かって行った。
そして、その向かって行った運動エネルギーを乗せた踏み込みと力の向きを収束するように、左足から腰へ、腰から胸へ、胸から右肩へ、右肩から右腕へと螺旋状に練り上げた一撃を打ち出す。
もちろん、打ち出す瞬間に右腕に回転を掛けることも忘れない。
ドヴァァァァァン!!
「っ?!!」
「ギャシャァァァーーー!!」
打撃がジャイアント・デュアルセンチピードに当たった瞬間、拳とジャイアント・デュアルセンチピードの甲殻とが接触している所から、凄まじい爆炎吹き上がる。
爆炎と突進による運動エネルギーの乗った打撃により、ジャイアント・デュアルセンチピードは大きく仰け反りながら、盛大な悲鳴を上げる。
HPバーをちらりと見てみれば、今の一撃で5分程HPバーが減少しているのが分かった。
俺は凄まじい爆炎に驚きつつも、すぐ様気を取り直しそのままジャイアント・デュアルセンチピードの反撃を避けながら殴る蹴る等の攻撃を加え、じわじわとそのHPを削っていく。
「キシャァァァーーー!」
そうやって紫目の方を攻撃していると、黄色目の方の頭が俺を攻撃してこようと大顎を開き威嚇するように鳴き声を上げ、こちらに向かってくる。
「そちらには行かせないよ!―――フルスイング!」
「ギャシャァァァーーー!」
リュクスは、紫目の頭の救援に来ようとしていた黄色目の方の胴体の下に素早く潜り込むと掬い上げるように棍棒を振るい、黄色目の頭を紫目の頭とは反対方向へ跳ね飛ばす。
「こちらは僕にまかせて、カインさんは狙って下さい!」
リュクスはそう言うと、跳ね飛ばした黄色目の頭へと向かって行き、追撃を仕掛けていく。
「分かった! いくぜ―――キーンアックス!」
「「ギャシャァァァーーー!!」」
赤く光るエフェクトを迸ばせながら突進の運動エネルギーを乗せた力強い振り下ろしにより、紫目と黄色目に分かれている胴体の付け根の部分が見事に斬り開かれ、2つの頭から悲痛な叫び声が上がる。
HPバーを見てみると、さすがは弱点部位なだけあってHPの減りが大きく、今までの与えたダメージも含めて5割近くまで減少させることができていた。
しかし、そのせいで敵愾心を最も稼いでしまったカインさんに、ジャイアント・デュアルセンチピードの意識が向いてしまう。
カインさんの方は、先程のアーツの技後硬直で動けないようで、近付いてくるジャイアント・デュアルセンチピードから逃げる様子はない。
「させないよ!―――フラッシュアロー!」
パァンッ!
「「ツッ?!!」」
ルイリは今動けないカインさんの方にジャイアント・デュアルセンチピードがそれ以上近付かないよう即座に矢を放ち、その矢がジャイアント・デュアルセンチピードの胴体に瞬く間に到達すると、次の瞬間矢の中程の所から弾け飛び、大きな音を立て破裂した。
ジャイアント・デュアルセンチピードはその破砕音にビクリッと体を震わせ、ほんの僅かだが明確な隙を見せる。
「シエル! ネロ! 今よ!」
『いくよー!―――レイビーム!』
「ホオォォォー!」
「「ギシャァァァーーーーーー!!」」
ジャイアント・デュアルセンチピードが見せたこの隙に、密かに背後に回っていたシエルは尾部の弱点を攻撃し、ネロはカインさんが斬り付けた傷口を更に斬り開くようにシャドーエッジを殺到させていった。
HPバーを確認してみれば、弱点部位への魔法ダメージだったおかげか、シエルとネロの攻撃でジャイアント・デュアルセンチピードのHPが残り3割まで減らすことができた。
おっ? かなりの巨体で更に双頭なんて奇形だったから、もっと苦戦するかと思ったけど、このままいけばすぐ倒せそうだな。
もっとも、そう思えるのはカインさん達がいるおかげだろうけどな。
もしも、俺達だけじゃこうはいかないから、やっぱり数は力ってことなのかな?
「「キシャァァァーーー!!」」
そうやって考えていると、ジャイアント・デュアルセンチピードは突然雄叫びを上げ、柔らかな緑色の光に包まれ、HPが5割強まで回復した。
そして、黄色目の方の胴体を少し外側に傾げ、紫目の方の胴体を黄色目の方へ近付けて、黄色目の方へ胴体を寄り添わせるように傾げた。
俺はそんなジャイアント・デュアルセンチピードの行動を目にすると、見切りのスキルによってふいに目の前が真っ赤に染まった。
俺は即座に避け切れない攻撃が来ると悟り、『下がって!』っとカインさん達に注意を呼び掛けつつ、防御姿勢を取りながらその場を離れる。
ギュオン!!
ジャイアント・デュアルセンチピードは反動を付けると勢い良く時計回りに回転し、その長大な体をまるで鞭のように振るい、俺達を襲った。
「ぐぁ!」
「っぐ!」
「うわッ!」
元々離れた所から攻撃していたルイリは、ジャイアント・デュアルセンチピードの範囲攻撃の射程外に居たためダメージは無く、またシエルとネロも俺の注意喚起にすぐ反応して上空に逃げたためダメージは無いようだった。
だが、前衛組の俺やカインさん、リュクスは退避する距離が足りず攻撃に巻き込まれ、それぞれが全く別の方向に弾き飛ばされる結果になってしまった。
俺はすぐ様HPを確認するとバーサークの影響もあってか、実に7割以上のダメージをもらっていた。
更に悪いことに、何時の間にか状態異常:毒に掛かっており、再生で回復できる回復量を阻害していた。
カインさん達の方を見ると、リュクスは大体4割程のダメージを受けていたが、状態異常のアイコンは特に無かった。
しかし、カインさんの方を見ると、ダメージ量はせいぜい2割程と前衛の中では一番ダメージ量は少なかったが、麻痺と毒2つの状態異常アイコンが付いてしまっていた。
まずいなぁ。
この中で最も攻撃力が高そうなカインさんが動けなくなった。
恐らく、リュクスかルイリなら麻痺を治すポーションなんかを持っているかもしれないが、カインさんを回復している内に接敵される可能性が高い。
そうなれば、成す術無く攻撃に曝され状況が余計に悪化し、最悪の場合そのまま全滅する可能性すらある。
今はまだ、シエルとネロががんばってジャイアント・デュアルセンチピードの気を引いてくれているが、それもそう長くは続かないだろうしな。
今動くに支障があまり無い俺が行ってもいいが、残りHP3割だと勝算の無い行動は即、死に繋がり兼ねない。
俺はそう考えていると、ふいに俺の体全体がぽぅっと光り、そして消えた。
どうやら、シエルが俺にキュアライトを掛けてくれたようだ。
HPを確認してみると7割弱にまで回復していた。
そしてその結果、重傷者を回復したことにより、ジャイアント・デュアルセンチピードの敵愾心を見事に稼ぎ、シエルはさらに攻撃を加えつつジャイアントセンチピードの引き付け役をしている。
シエルの献身?により、ジャイアント・デュアルセンチピードがすぐこちらに来ることは無くなったが、その代わりシエルに攻撃が集中し、危ないことになっている。
どうにかして、ジャイアント・デュアルセンチピードを倒すなり、敵愾心を稼ぐなりして気を引かなければならないのだが、さて……。
とりあえず、意識を向けさせるには弱点を攻撃するに限るよな。
なら、確認のためにももう1度ウィークネスアイで弱点の位置を調べてみるとしよう。
もしかしたら、さっきは見えなかった弱点があるかもしれないしな。
「ウィークネスアイ」
すると、先程見えた3箇所の他に更に2箇所の弱点が赤く発光するのが見えた。
それは、カインさんが斬り裂いた双頭の付け根部分をYの字の下の棒の部分だとすると、残りは上の部分のVの字の2箇所となる。
もしもカインさんと同じように斬ることができればどうなる?
答えは簡単だ。
全ての線を繋ぐように斬れば、後ろの胴体と前の胴体とで泣き別れになる。
そうすれば、あの厄介な範囲攻撃を封じることができるし、うまくいけばそれだけで倒すことができる可能性もあるな。
俺はそう考え、心の中でシエルに礼を言い、ネロに伝言を伝えてもらえるように頼んだところで、カインさんの回復が終わったようだった。
俺は納剣していたノービスソードを抜剣し、こちらに向かって来るカインさん達に先程分かったことを伝える。
「カインさん、さっき改めてウィークネスアイを使ったら、突入前には見えなかった弱点場所を見つけました」
「おっ! そりゃ朗報だな。」
「それで、どこなんですか?」
「それは、カインさんが斬り裂いた双頭の付け根部分をYの字の下の棒の部分だとすると、残りは上の部分のVの字の2箇所だな」
「なるほど、だから守護者部屋に突入する前には分からなかったんだな」
「はい。それに、俺の考えでは恐らくカインさんが斬り裂いた部分と残りの2箇所を繋ぐように斬れば、後ろの胴体と前の2つの胴体を完全に斬り離せると思うんですよ。そうすれば、あの厄介な範囲攻撃を封じることもできるんじゃないかって」
「ふむ……つまり、あのモンスターは部位破壊ができると、そうリオンは思うんだな?」
「部位破壊……言いえて妙ですね。はい、現にカインさんの攻撃で斬り裂くことができているんですし、やってやれないことはないと思いますよ。それに、弱点部位であることには変わらないのですから、大ダメージを与えるという点でも、問題無いですよね」
「確かにな。よし、それじゃその案でいってみるとするか!リュクスはこのことをルイリに伝えて、俺達が麻痺を食らった時に備えて後方支援に回ってくれ」
「分かりました!」
そうして、俺とカインさんはシエルを執拗に攻撃しているジャイアント・デュアルセンチピードの方へ、リュクスは後方のルイリ方へと駆け出して行った。
『シエル、まだ大丈夫そうか?』
『うん、まだへいきだよー』
『そうか、ならもう少しそいつの引き付け役を頼む』
『は~い!』
俺は心の中でシエルと相談すると、カインさんが俺に声を掛けてくる。
「それで、これからどうやってあの危険地帯を抜けて行く気だ?あの提案をしたってことは何か策があるんだろう?」
「策って程のものじゃないですけど、俺がネロに合図を送ると、ネロが拘束性のある魔法を使ってくれることになってます。その拘束系魔法が掛かっている隙に、その弱点部位を全力で攻撃するって位ですね」
「ふむ、まぁそれなら、いけそうか?」
「それと、カインさん達がこちらに来る前に何回か、その弱点部位を攻撃させておきましたから、近くで見れば、その弱点部位が何処かっていうのも分かると思いますよ」
「ほぅ、そりゃありがたいな。よし、それじゃ、そろそろ行くとするか、俺が反対側に行ったら合図出してくれ、そうしたらこっちも準備するからよぉ!」
「分かりました。気を付けて下さいね」
そうして、カインさんは移動を開始していき、少しして無事俺がいるジャイアント・デュアルセンチピードの後方の反対側に回り込むことができた。
俺はソレを確認すると、すぐ様ネロに合図を出し、その時を待つ。
そして、その時はすぐに来た。
ジャイアント・デュアルセンチピードの影が不自然に膨張すると、その影の中から巨大な顔のない真っ黒のワニのような顎が出現し、ジャイアント・デュアルセンチピードの長大な胴体に噛み付く。
「「ギギャ?!!」」
ジャイアント・デュアルセンチピードから驚きを含んだ鳴き声が上がると、身を捩ってどうにこのシャドーバイトの拘束から逃れようするが、無理な体勢のせいで顎の牙が食い込んだのか、一時的にその動きを止めることになる。
今だ! 俺は心の中でそう叫ぶと、素早くジャイアント・デュアルセンチピードの弱点部位に接近し、同じところを斬り裂くようにしてアーツを使っていく。
アーツを使う意志に反応し、俺の体全体を包んでいた銀白色の燐光が消え、紅色の燐光から赤いオーラへと様相を変える。
「スラッシュ!」
「ダブルスラッシュ!」
「レイスラッシュ!」
「サークルスラッシュ!」
「「ギャシャァァァーーー!!」」
同属性による連続攻撃でチェーンボーナスが発生したのか、斬る回数が増すたびに、ザクザクと斬れる範囲が広がっていき、そのたびにジャイアント・デュアルセンチピードから悲痛な叫びを上げ激しくのた打ち回る。
そしてそのたびに、シャドーバイトに『ピキピキ』と皹が入り、少しずつ拘束する力が弱まっていく。
ふと反対側を見てみると、カインさんも同様にジャイアント・デュアルセンチピードの弱点部位を斬り開いており、もう少しで完全に斬り離すことができそうだった。
しかし、後少しというところで連続使用したアーツによる技後硬直で止まってしまい、斬り離すまでに至らない。
くそっ! せっかくここまでやったのに、このままじゃさっきの範囲攻撃の二の舞になる!
何か、何かこの状況を突破できるものは……。
そう考えを巡らしていると、唐突に『バツンッ!』という音と何かが破砕したかのような『バキィィィン!』という音が聞こえた。
「「ピギャァァァァァーーー!!」」
何事かと思い音のした方を見てみると、そこには何時の間にか完全に3つに切断されていたジャイアント・デュアルセンチピードの成れの果てが居た。
完全に切断されたため傷口からは、夥しい量の紫色をしたエフェクトが迸り、宛も大量の出血を想起させる。
更に、切断されたそれぞれの胴体はまるで陸に上げられた魚のように、『ビタンッビタンッ』と跳ね回りその凄惨さが、如実に現れていた。
そして、頭の無い胴体は次第に動きが鈍くなっていき、最後には光の粒子へと変わっていった。
残った頭の付いた胴体の方を見ると、驚いたこと各頭の上にはHPバーがあり、その両方に出血のアイコンが付いているのが見えた。
俺は、もしかしたら完全に切り離したことにより、別種の個体になったのかと思い、素早くスキルを入れ替え、識別を使って見てみた。
ジャイアント・ポイズナスセンチピード:Lv15・属性:地・耐性:毒・斬・弱点:火・打・魔法
ジャイアント・パライズセンチピード:Lv15・属性:地・耐性:麻痺・斬・弱点:火・打・魔法
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
Extra Locusは、今のところ掲示板回的な何かです。
また、随時投稿していく予定でもあります。
現在は3つまで投稿してありますが、まだ読んでいないという方は、気が向いた時にでも読んで頂ければ幸いです。
それでは、良いお年を。




