Locus 67
「はぁ~、お疲れ様でした。最後が一番きつかった気がしますよぉ」
「おう、お疲れさん。たしかにな。光線の薙ぎ払いとか、どうしろっていうんだよ! まったくよぉ」
「ですね。お疲れ様でした。」
『おつかれさまー♪』
「ホオォォォー♪」
「お疲れ様でした。それに、攻撃をしても全然ひるみませんでしたね。アレってやっぱりあの最後に付いたアイコンのせいなんですかねぇ?」
「あーアレかぁ……状況からみてもそんな感じがするけど、どうなんだろ? カインさんは何か分かりませんか?」
「ん? それってどう状況で、付いたアイコンだったんだ? その時ちょうど盲目食らっていたから、見てないんだが……」
俺はルイリの方へと視線を向けると、ルイリも俺に視線を向けてから頷き、カインさんにその時にあった状況を説明していった。
「ふむ、なるほど。その状況で、光が上から降り注ぎ、その光の下には人が跪いて祈っているというアイコンが付いたなら、たぶんソレはアヴェンジングブレスによるものだな。」
「アヴェンジングブレス、ですか?」
「ああ。β時代では、死霊系のモンスターや死霊術師なんかが、よく使っていたアーツでな。自分が死亡した時に効果を発揮して、自分と同じ系統の種族か眷属なんかに対して掛けることができるんだそうだ。」
「へぇー、そんなアーツがあるんですか」
「うぅ……死霊系モンスターかぁ」
「でだ、そのアヴェンジングブレスが掛かると、一定時間VITとMIDの値を大きく上昇させ、ひるむことも無くなり、自分を殺した対象を優先的に攻撃するようになるらしい。更にコレは未確認情報だが、何でもその自分を殺した対象に対してのみ、与えるダメージ量も増加するって話だ。」
「なるほど! だからあの時、ネロに攻撃が集中してたんですね」
「うわぁ……。ソレはなんていうか、その~えげつないですねぇ」
「まぁな。祝福なんて言葉が付いてはいるが、どちらかと言えば呪いに近い効果だしな」
「そうですね、確かに呪いって言われた方が、しっくりしますね」
「そういえば、リュクスがシャイニングノポポ達の方に投げた瓶ってなんだったんだ? 何か青い液体が飛び散ったら、そちらに誘引されていたみたいだったけど」
「ああ、アレですか。アレはモンスターを引き寄せる誘引香の原液ですよ。原液のままだとモンスターを誘引する効力が高くなる反面、効果範囲が狭くなるし揮発性分が高くなるので効果時間も短くなるしで、結構使い所が限られてきちゃうんですけどね」
「へー。ってことは、アレってリュクスの自作なのか?」
「あ、はい。最初の頃僕は、生産職としてプレイしていたので、薬品作りは結構自信があるんですよ。最も、とある称号関係で少しへまをやらかしちゃって、今では戦闘職に方向転換しっちゃったんですけどね」
「とある称号関係?」
「リオン、こいつはな。生産職に有利な洗礼系の称号を取った後、同じように何か初めてやる時に、神に祈れば別の洗礼系称号も取れると思って、行動した口なんだよ」
「あぁ……なるほど。アリルが言っていたのって、リュクスのことかぁ。それは何というか……ご愁傷様です」
「うぅ……。もうそんなに広まっているんですかぁ」
「ま、まぁ! そんなに、落ち込むなよ。その生産職に有利な洗礼系の称号の効果は知らないけど、戦女神の洗礼だって効果の見方を変えれば、スキルが成長し易くなる訳なんだし、生産にだって十分寄与できるんだからさ、元気出せよ」
「スキルが成長し易くなる?」
「リオン、ちょっと待て。ソレはどういうことだ?」
「え? 言葉の通りの意味ですよ。戦女神の洗礼の効果は、全ての取得経験値の上昇ですから、スキルの取得経験値も上がるはずですよ? 現に、ちょっと生産をしたらレベルが4も上がったりしましたから、間違ってはいないはずですよ」
「……なるほど、盲点だった! 言われてみれば、β時代より若干スキルの成長具合が早いとは思っていたが、そういうことだったのか!」
「ということは、つまり?」
「つまり、生産系スキルのレベルが上がり易いってことは、それだけ品質や効果の高い物を作り出し易くなるってことだな」
「おおっ! リオンさん、ありがとうございます! 僕何だか、希望が持てた気がします!」
「そっか、そいつは何よりだ」
「はい、本当にありがとうございます! よぉーし、やるぞぉー!」
「はいはい! リュクスのやる気が出たのは良いけど、まだこのダンジョンの攻略中だからね。一旦話はここまでにして、まずはこの部屋の探索をしてみましょうよ。あのお立ち台も気になるけど、他にも何かあるかもしれませんしね」
「あ、すみません。嬉しくて、つい……」
「まぁ、気持ちは分からなくは、ないがな。よし、それじゃ手分けして、探索していくとするか!」
そうして、俺達はルイリの発案の元、シャイニングノポポ達が踊っていたこの部屋を探索していった。
その結果、部屋の両隅に1つずつ、計2つの宝箱を見つけることができた。
その後、ルイリに罠の有無を調べてもらい、罠が掛かっていないことを確かめ、宝箱という名の土塊を順次崩しながら掘り出していった。
そして、中から出てきたものは、一抱え以上もある大きな岩と、12本の小瓶だった。
因みに、出て来たものの鑑定結果は、こういうものだ。
イベントアイテム 頑丈な岩塊:硬く重い岩の塊。対応する場所に置くことで、何かが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
消耗アイテム アンチライトポーション:対光薬水。服用することで、1時間光属性によるダメージを半減させる効果を持つが、影属性によるダメージを倍化してしまう。
効果:1時間光属性からのダメージ半減+影属性からのダメージ倍化
「えーっと、宝箱から出てきたものに、イベントアイテムがあったんですけど……」
「ほう。それで、どんなものだったんだ?」
「だいたい一抱え位の大きさの岩塊ですね。もう一つの方は消耗品で、服用することで1時間光属性からのダメージを半減して、影属性からのダメージを倍化するものですね」
「ふむ、岩塊か……」
「リオン、説明には何てあったの?」
「説明には対応する場所に置くことで、何かが起こる……かもしれないってあるな。それと、このイベントアイテムをダンジョン外に持ち出すと自然消滅するっていう注意書きもだな」
「対応する……場所? それって、あのお立ち台ですかね?」
「まぁ、そう考えるのが妥当だろうな。ルイリ、お立ち台に罠が仕掛けられていないか、確認してみてくれ」
「あ、はい。それじゃ、見てきますね」
「ルイリの確認が終わったら、リオンはあのお立ち台の上に、その岩塊を実体化させてみてくれ。予想通りなら、何かしらの変化があるはずだからな」
「分かりました」
それから、ルイリがお立ち台を調べて罠が無いことを確認した後、俺はカインさんの指示通りお立ち台の上に岩塊が乗るように、イベントアイテムを実体化させた。
すると、こちらの予想通り、岩塊の重さ?によってお立ち台が押し込まれ、土が剥き出しの地表位まで下がっていった。
そして、モンスターハウスで聞いた何かが這はいずるような、『ズズズズズズズズッ……』という微か音がどこらか響いてくるのが聞こえ、そして消えた。
因みに、岩塊はお立ち台の上に乗せた後、動かすことはできなくなり、そのまま放置する流れとなった。
「これで、あの光る根の密集していた所が開いたのかな?」
「まぁ、それは実際に見に行ってみるしかないね」
「だな、それじゃあの三叉路に戻って、確認してみるとするか!」
「あ、ちょっと待って下さい。宝箱から出た消耗品の分配はどうしますか?」
「あーソレがあったか。すまんすまん」
「12本あるみたいですし、4等分でいいんじゃないでしょうか?」
「だね」
そうして、俺達は消耗品を各自3本ずつ受け取り、手早くHP・MPの回復を行ってから隊列を組み、先程光る根が密集している壁のある三叉路へと戻っていった。
◇◇◇
「あれ? 光る根そのままみたいですよ?」
「え? あ、本当だ!」
「ふむ、ということはつまり……さっきのギミックで開放された場所が他にあるってことか。まぁ、Dランククエストでギミックが1つだけってのは、少し難易度が低いと思っていたところだから、予想外ではないな。」
「それじゃ、まだ行っていない通路を進んで、さっきのギミックで開放したっていう場所を探してみましょうか」
そうして俺達は引き続き隊列を組み、道中のモンスターを駆逐しつつモンスターハウスからの通路から見て、右側の奥が薄暗くて見通せない方の通路を進んで行った。
道なりに少し行くと、また左右に分かれた通路にぶつかることとなった。
今度の通路は左右両方共、見かけ上だけでいえばほぼ違いは無く、3~4m進んだ所で曲がり角になっており、その先までは分からなくなっていた。
「さて、どっちにします?」
「そうだな……リオン、また頼めるか?」
「え?! また、俺が決めるんですか?」
「大丈夫、大丈夫。例えどんな所に繋がっていようと、責任転嫁なんかしないからさ、パパッっと決めちゃってよ!」
「リオンさん、ファイトです!」
『んと? がんばってー!』
「ホオォォォー!」
「うーん、まぁそういうことなら。……それじゃ、今度は右で」
「それも、勘ですか?」
「そうなるな」
「よし! それじゃ、行くか!」
こうして、またもや俺が進路を決定することとなり、リュクス達の妙な声援を受けつつ新たに進む通路を決定し、移動して行った。
進行方向にいるモンスター達を倒しながらしばらく歩いていくと、袋小路になっていた。
「行き止まりか……。すみません、俺の勘外れたようですね」
「まぁ、そういうこともあるさ」
「ですね。それに、進路決定を僕達がリオンさんに委ねたのですから、リオンさんが責任を感じる必要はありませんよ」
「……ありがとうな」
「いえいえ」
「それじゃ、一応あの行き止まりになってるとこ調べて来ますね」
「ああ、頼んだ」
ルイリはそう言うと、袋小路になっている壁を触りながら、何かを調べている風だった。
「あの、カインさん。ルイリは何を調べているんですか?」
「あれは隠されたものが無いかを調べてるんだ」
「隠された、ものですか?」
「ああ。β時代のダンジョン探索で、色々学習させられたことの1つでな。何の変哲の無い行き止まりの壁や、何も無い小部屋なんかを良く調べてみると、他の壁を動かすスイッチがあったり、隠し部屋への入り口があったりなんかしたんだ。だから、念のためこういう何も無さそうな行き止まりでも、調べてみるのがダンジョンを攻略する上で、結構大事になってくるんだ」
「なるほどぉ」
そうやってカインさんと話をしていると、ルイリは何かを発見したのか、突然腰の短剣を抜き放ち、その刃を壁に突き刺した。
そして、突き刺した短剣を一通り縦横無尽に動かした後、短剣を壁から引き抜いて納剣し、先程まで短剣を動かしていた壁に向かって勢い良く蹴りを入れ、土壁を打ち壊していった。
土壁がある程度崩されていくとそこには、1つの土塊……宝箱があった。
「カインさん、宝箱が1つありました!」
「そうか、そいつは何よりだ! それじゃ、リオンまたよろしくな」
「あ、はい。分かりました」
その後、俺はルイリの所へ行き、隠し部屋から出てきた土塊を崩して、その中身を出していった。
今度出てきたものは、どこぞの勇者の最初の相棒のような棒切れが出てきたので、素早く鑑定してどんなものが出たのかを確認していった。
武器アイテム:槌 名称:アクティブクラブ ランク:3 強化上限回数:15回
ATK35 M・DEF5 DEX10 要求STR:25 耐久値:320/320
与DP倍率:斬0 打1.2 突0.1 魔1.1
説明:活性樹の枝から作られた、棍棒。
心安らぐ良い香気により、所有者の集中力と精神力を高める働きを持つ。
「お待たせしました。えっと、今回出たものは棍棒になります」
「ほほぅ。なら、今回出たアイテムはリュクスが持てば良いな。たしか前は槌系の武器を使っていたから、大丈夫だろう」
「え? いいんですか?」
「うん、私もそれで良いと思うよ。それに、さっきのモンスターハウスで出たアイテムの所有権を放棄してたしね」
「だな。それに、槌系の武器アイテムをもらっても、俺等じゃ満足に使えないから、丁度良いしな」
「俺もルイリの意見に賛成だな。ってか、リュクス槌も使えたんだな」
「あ、はい。最初に生産職をプレイすることを前提に考えて、槌を選んでいましたからね」
そうして、宝箱からでたアイテムはリュクスがもらうことになり、無事アイテムの配分が終わった。
その後再び隊列を組んで、先程の分かれ道まで戻り、反対側の通路を進んでいった。
しばらく出て来るモンスター達を倒しながら進んで行くと、先程のシャイニングノポポ達が居た部屋と同じ位の部屋に辿り着いた。
その部屋の入り口には、モンスターハウスの罠を突破した後に壁の向こうから宝箱が出現した時のように、土壁の残骸らしきものが散乱していた。
これは恐らく、先程のシャイニングノポポ達が踊っていた部屋にあった、お立ち台のギミックを可動させた時のものだろう。
そう思いながら、部屋の中を見てみると、入り口とは反対の方の壁際に4つの石像が置かれており、部屋の中央には正五角柱の大きな台が置いてあった。
更に、その台の5つの頂点には、それぞれ何かを置くためのような台座が付いている。
俺達は用心深くその台に近づいて行くと、その台の中央に何やら文字が彫られているのに気が付き、その文字を読んでいった。
因みに、その文字というのは、こういうものだ。
『正しき連環を作り上げよ さすれば、道は開かれん』
ダンジョンと言えば……。




