Locus 64
体調不良が直ったら、筋肉が切れました。
(つω;`)いたひ。
「なんだ……あれ?」
俺が誰とも無くそう呟くと、その答えは意外なことにすぐ隣から発せられた。
「えっ? ……あぁ。なんだ、何かと思えば、宝箱じゃないですか」
「はっ?! 宝箱?! あの土塊がか?」
「はい、そうなんですよ。カインさん達がいうには、β時代からあったダンジョンでも同じタイプの宝箱があったみたいですし。それに、リオンさん達が来る前に、僕も実際に開けたことありますしね。間違いないですよ」
「へぇ~。まぁ、見た目ただの土塊みたいだし、初見じゃ分かり辛いよなぁ」
「そうですね。僕もカインさん達に言われるまで分からなかったですし、カインさん達もβ時代では最初の頃、ただのオブジェクトだと思って素通りしてたらしいので、アレはもったいなかったって、悔やんでましたよ」
「なるほどなぁ。因みに、他にはどんな形状の宝箱があるとか、知ってるか?」
「え~っと、又聞きでいいなら、いくつか」
「どんなのがあるんだ?」
「まず、今回みたいな土塊を除くと、大きな花の蕾や、砂を固めたような岩に、中が見えない氷塊。それに、エジプトのピラミッド内にあるような石棺とか、これぞ正統な宝箱っていう外見のもの等があったそうですよ」
「ほうほう、勉強になるなぁ。って、そういえば何でその宝箱が、モンスターを倒した後に壁の向こうから出てきたりするんだ?」
「さぁ? そこまではちょっと僕では分かりませんけど……カインさん達なら何か知っているかもしれませんね」
「そっか。それじゃ、カインさん達の所に行って聞いてみようか。カインさんやリュクスに俺のテイムモンスターや獣魔の紹介もしたいからさ」
「はい!」
そうして俺達は、カインさん達の居る方へ歩き出し、合流した。
「カインさん、ルイリ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様」
『おつかれさま~♪』
「ホオォォォー♪」
「シエルもネロも、お疲れ様。引き付け役と護衛役、ありがとな。助かったよ」
『どういたしましてー!』
「ホオォォーホオォォー!」
そうやって、互いに先程の戦闘を労っていると、カインさんが何かを思い出したかのように、こう切り出した。
「そういえば、こっちに来るまで二人して、何を話していたんだ?」
「ああ、それはですね。リュクスにあの土塊が宝箱だって教えてもらっていたんですよ。それと、さっきこの広場? にいたモンスターを倒し切ったら、どうして崩れた壁の向こうに宝箱が出たかが分からなかったので、カインさん達に聞いてみようってなって」
「なるほどな。なら、その答えは簡単だ」
「どうしてなんですか?」
「それは、この開けた場所が、モンスターハウスっていう罠の一種だからだよ」
「モンスターハウス?」
「ああ、ゲームによって違うが、大体モンスターハウスってのは、沢山のモンスターが眠った状態で留まっていて、そのまま放置すれば素通りできるが、プレイヤーが一歩でもその部屋や一定範囲内に入り込むと、一斉に起き出し襲い掛かって来るってものだ」
「それで、これもゲームによって違うけど、このゲームではモンスターハウス内のモンスターを全滅させることをトリガーに、宝箱……つまりご褒美が現れるっていう仕組みみたいだね」
「ほほう、なるほどなぁ。それで、その宝箱の中身だけど……まだ開けてないんだな」
「うん、私達の中でリュクスが一番LUKの値が高いし、職業も冒険者だから、リュクスが来るまで待ってたんだよ」
「え、えぇー! また僕が開けるんですかぁ?」
「ん? 何で嫌そうなんだ?」
「だ、だって! 今までもそう言われて、いくつかの宝箱を開けてきたんですけど……。出てきたものが、素材か消耗アイテムだけだったんですよ。だから、なんとなくその、申し訳なくて……」
「そんなこと、気にしなくていいんだぞ? 俺やルイリだとLUKが低すぎて、ゴミのようなアイテムしか出ないんだし、使えるものが出てくるだけでも恩の字って位なんだからな」
「う、うぅん……で、でもですねー」
リュクスは、カインさんが説得するように話すが、一向に首を縦に振る様子がない。
「ん~……それなら、リオン。開けてみない?」
「へ? 俺?」
「うん。リオンも確かジョブが冒険者だったでしょ? それに、このままリュクスが渋り続けると、時間が無駄に過ぎていっちゃうしね。だから、頼めないかな?」
ルイリがそう言って俺に頼んでくると、リュクスから期待の眼差しが俺に飛んで来ているのが分かる。
「別に、構わないけど……一応参考に、皆のLUKの値を聞いてもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。私は、21だね」
「俺は、18だ!」
「ぼ、僕は、32です」
「それで、リオンはいくつなんだ?」
「えっと……42です」
俺はすぐに思い出せなかったため素早くメニューを開き、ステータスのLUKの値を確認して、その数値を答えた。
「おお! リュクスより高いね。これなら、期待してもいいかも?!」
「だな! それに、リオンなら何かやらかしてくれるような、期待感が持てるよな。あの時みたいに!」
「うん、うん♪」
「あの時、ですか?」
「そそ、実はね……」
「まぁ、そのことは後でいいじゃないか。ルイリ、宝箱には罠はなかったんだよな?」
「あ、はい。さっき見ておきましたけど、なかったですね」
「よし! それじゃ、リオン。後はまかせた!」
「リオンさん、お願いします!」
『がんばれー!』
「ホオォォォーーー!」
「あ、ああ。それじゃ、行ってくる」
そうして、俺は皆から妙な声援を受けつつ、先程壁の向こうから出てきた土塊の宝箱を、次々に開けて……というか、崩しながら掘り出していった。
そしてその結果、短剣と何かの針束と腕輪を入手することができた。
因みに、これ等がその鑑定結果だ。
武器アイテム:短剣 名称:パライズスティンガー ランク:3 強化上限回数:10回
ATK30 確率で麻痺付与 要求STR:15 耐久値:230/230
与DP倍率:斬0 打0.8 突1.2 魔1.0
説明:ディガーインセクトの針を用いて作られた、刺突短剣。
突き刺すことで、対象に麻痺を付与することがある。
柄尻は着脱可能となっており、筒状になっている柄に別の毒液等を流し込むことで、新たな状態異常を与えることもできる。
但し、刃がないため斬ることはできない。
素材アイテム 穴掘り虫の毒針:ディガーインセクトの針。針自体に麻痺毒を含んでおり、取り扱いには注意が必要。武器の材料になる。
装飾アイテム:腕輪 名称:アクティブバンクル ランク:3 強化上限回数:10回
DEF3 M・DEF5 DEX10 要求STR:8 耐久値:180/180
説明:活性樹の枝から作られた、腕輪。
心安らぐ良い香気により、所有者の集中力と精神力を高める働きを持つ。
「えっと、短剣と針束、それに腕輪がでましたよ」
「おおー! 素材と消耗品だけじゃなかったんだね♪」
「さすがはリオンだ! 期待通り良い仕事をするじゃねぇかw」
「す、すごいですねぇ。本当に出しちゃうなんて」
『おめでと~♪』
「ホオォォォーホオォォォー♪」
「えーっと……ありがとう? とりあえず、コレ等ってどうしましょうか?」
俺がそう皆に聞くと、まず最初にリュクスが所有権を放棄した。
なんでも、今までに出た消耗品は優先的に回してもらっていたし、今回あまり活躍もできなかったからもらえないと断って来た。
それから3人で話し合った結果、俺が短剣をルイリが矢の材料として針束を、そしてカインさんが腕輪をもらうことになり、無事アイテムの配分が終わった。
「あ、そういえば、まだちゃんと紹介してませんでしたね。シエル、ネロ、ちょっとこっちに来てくれ」
俺がそう言うと、シエルとネロは俺の方に近寄って来て、シエルは高さ1mの所で滞空し、ネロはシエルの下辺りまで飛んで来て、地面に着地した。
「それじゃ、紹介しますね。こっちの金髪の幼女がシエル、黒い梟がネロです。ネロは普段黒い兎の姿をしていますが、スキルによって今みたいに変化することができるんです。それで、こちらが俺の友達のカインさんとその友達のリュクスだ。仲良くしてくれよな」
『よろしくね~♪』
シエルは、にこやかに笑いながら二人にお辞儀をした。
「ホオォォォー!ホオォォォー!」
ネロは、頭を縦に2回振りながら、2度鳴き挨拶をする。
因みに、現在のネロのステータスはこのようになっている
name:ネロ
sex:?
race:シャドービーストLv10
HP:200 MP:300
STR:40
VIT:19
AGI:55
INT:44
MID:24
DEX:39
LUK:19
種族スキル:〔影装変化〕、〔影記憶〕
スキル:〔影魔法Lv13〕、〔影抵抗Lv1〕、〔影耐性Lv5〕、〔潜影移行Lv1〕、〔宿紋化Lv1〕、〔潜伏Lv12〕、〔再生Lv4〕、〔再精Lv5〕、〔索敵Lv3〕、【飛行Lv1】、【梟の目Lv2】、【闘争の心得】
固有スキル:〔専化影装〕
「ははっ! こりゃまた、丁寧にありがとよ。俺はカインってもんだ。これからもよろしくな」
カインさんの外見は、山人族特有のやや背が低い、がっしりとした体格と褐色の肌をしており、髪は燃えるような赤毛で目は明るい緑青色をしている。
服装は、モスグリーンの上下に黒いブーツと黒い手甲を付け、モスグリーンの上着の上からは、肩周りの動きを阻害しないように、前面と背面を防御する金属鎧のブレストプレートを付けている。
頭には、赤を基調として波打つ金色の縁取りと、2本1対の角が特徴的な、バイキングが被るような金属光沢のあるヘルムを付けている。
武器は、背に両刃の大きな斧と、腰にサブウェポンと思しき片手でも扱えそうな、小さな斧を引っ下げている。
「今紹介してもらった、リュクスと言います。こちらこそよろしくね」
リュクスの外見は、柔らかそうな栗色のショートヘアに、兎人族らしい髪色と同じ栗色をした長いうさ耳が頭から生えている。
肌はキメ細かく色白で、顔の大きさは全体的に小さいが整っている。
顔立ちはどちらかといえばキレイ系というよりカワイイ系らしく、小柄な体躯とあいまって、大抵の男ならば守ってやりたくなるような雰囲気を醸し出している。
目の色は、深緑を思わせるエメラルドグリーンで、クリっとした瞳が印象的だ。
服装は、薄い灰色の長袖の上に胸当てを付け、その更に上からカーキ色の半袖のローブを羽織り、手には茶色のグローブを付けている。
下半身は、黒いズボンに膝下まである、脛と足の甲を金属板で補強した茶色のブーツを履き、腰には小物を入れるようなポーチやポーションホルダー等をいくつも付けている。
武器は、取り回しがし易そうな、短槍を手に持っていた。
……しかし、その~何と言えばいいのか分からないが、リュクスとは今日初めて会ったはずなのに、妙な親近感が沸くのは何故なのだろうか?
う~ん、やっぱりいくら考えても分からないし、この事は一先ず置いておくことにしよう。
「それじゃ、リュクス。もう知っていると思うけど、一応自己紹介しとくな。初めまして、俺の名前はリオンで、職業は冒険者をやってる。それと種族は、真竜と人族の混血のハーフドラゴンだ。改めてよろしくな」
「はい! えっと、改めましてそして、初めまして。僕の名前はリュクスと言います。職業はリオンさんと同じで冒険者をやってます。種族は兎人族です。こちらこそ、よろしくお願いします。……あ! それと、よく間違われるんですけど、僕は男ですからね。間違えないで下さいね」
「えっ、あ、ああ。分かった」
なるほどなぁ、あの妙な感じの正体はソレか!
リュクスを最初に見た時、可愛いのは分かったが、女性に対する反応ではなかったので、おかしいと思ったんだよな。
よかったぁ~。俺正常だわ。
そうやって、心中で安堵の声を上げていると、ふいにルイリがこのダンジョンに入った時に言っていたことを思い出した。
「そういえば、ルイリ」
「ん? 何?」
「このダンジョンに入った時、何か前来た時と構造が違うみたいなこと言ってたけど、結局どうだったんだ?」
「ああ、それね。カインさんに確認してみたら、タイミング的に4段階目に入ったあたりで、ダンジョン内のモンスターが活性化?したみたいでね、一度リュクスと一緒にダンジョンの外にまで退避したらしいよ。その後簡単に回復とかしてから、もう一度入ったらダンジョン内の構造が変わってたんだって。それで、このダンジョンがインスタンスダンジョンだって分かったみたいだよ」
「インスタンスダンジョン?」
「うん。つまりは、パーティー等の少人数グループ毎に、一時的に生成されるダンジョンのことだね。それぞれのグループ毎にダンジョンが生成されるから、インスタンスダンジョン内では一緒にダンジョンに入ったプレイヤー以外の人達とは遭遇しないようにできているんだよ。まぁ、でもそのインスタンスダンジョンをクリアする条件を何処かのパーティが達成しちゃうと、そのダンジョン内にいるプレイヤー全員を強制的に排出しちゃって、そのダンジョンは消滅しちゃうんだけどね」
「へー、そうなのかぁ……あ! それなら、そのダンジョンをクリアする条件を満たさないで、一旦パーティ全員でダンジョンを出れば、中にある宝箱とかも復活するってことにならないか?」
「あー……たぶんなるだろうね。でもそうしたら、せっかく倒したモンスターも復活することになるから、次入っても無事でいられるか分からないし、地形や罠なんかも変わるから、デスペナルティ覚悟のレベル上げとかでない限り、やる人は少ないだろうね」
「なるほどなぁ」
「よし、それじゃ話は一旦ここまでとして、そろそろ攻略を再開するぞ。時間はまだあるが、この先何があるかも分からないから、ある程度余裕を持って行動したいしな」
「了解でーす」
「分かりました」
「はい!」
『はーい♪』
「ホオォォォー!」
そうして、俺達はカインさんの指示の元、インスタンスダンジョンの攻略に乗り出して行った。
基本の隊列は、斥候役のルイリと防御力の弱いルイリを咄嗟に庇えるカインさんが前衛で、魔法の使える俺と通常の槍より短いながらも、ある程度離れて攻撃ができるリュクスが後衛となり、シエルとネロは上空からの牽制と遊撃役として、隊列に組み込まれた。
そして移動中は、ルイリが罠がないかどうかを確認しつつ、モンスターを警戒・探索。
その後、モンスターがいたら視認できる距離まで近づき、俺がモンスターの弱点を見つけ出して皆に伝え、前衛はモンスターが後衛に行かないように押さえつつ戦い、ルイリは後衛のリュクスと交代して遠距離攻撃をし、俺とシエルとネロは魔法で前衛を支援しながらモンスターを攻撃していき、どんどんモンスターを倒していった。
そうやって、進路上のモンスター達を倒しつつ少し行くと、何やらやけに光る根が密集している壁に突き当たった。
壁の左右には分かれるように2つの通路があり、右側の通路の奥は薄暗く見通すことは出来ない。
対して左側の通路は、少し進むと曲がり角になっており、その先までは分からなくなっている。
「さて、どっちに行きましょうか?」
「正面の光る根の密集地帯が気になるんですけど……たぶん進めませんよね」
「まぁ、そうだろうな。こういうものの場合は大抵何処かに、この密集している光る根を動かすギミックがあるものだしな」
「それじゃ、それを探すしかないですね」
「んー……ここは、さっきの宝箱で活躍したリオンに、決めてもらうってのはどうです?」
「うん、悪くないな。リオン、行き先どっちかを決めてくれ。行き先がどんな所になっても、責任を取れとかいったりしないからよぉ」
「えぇー……リュクスは、それでいいのか? 俺が決めちゃって。」
「あ、はい。大丈夫ですよ。カインさん達も異存はなさそうですし、僕から言うことはないですよ」
「そうか、それなら……左側かな」
「因みに、その理由は?」
「勘……かな?」
「よし、それじゃそっちに行ってみるとするか!」
こうして、ルイリの提案の元俺が進路を決定して、左の通路を進んで行った。
道なりに歩いて行くと、先程見えた角を右に曲がった。
それからしばらく行くと通路が少し広くなった場所があり、そこには案の定モンスターが数体いたが、素早く倒し先に進んで行く。
すると今度は大きく左に曲がるように進行する通路になっており、油断なく隊列を乱さないように、進路上のモンスターを駆逐しつつ、移動して行った。
そして、通算4度目になる左曲がりの通路を通って行くと、先程のモンスターハウスよりは幾分か狭いが、通路よりはだいぶ大きな部屋?があった。
その部屋の中を曲がり角から慎重に覗いてみると、4体のライティングノココとその4体の中心にあるお立ち台? の上に立ち、他のライティングノココよりも2周りは大きい白くてふわふわした現実の山伏茸のようなモンスター達が、楽しそうにくるりくるりと踊っていた。
白いふわふわしてそうな大きなノココは、白い麻呂眉とカイゼル髭を付け、ここからでも聞こえる、渋いダンディなバリトンボイスで『ニョポッ♪ ニョポッ♪』と鳴きながら、テンポを取ると周りのライティングノココもそれに合わせるようにして踊りを続けている。
よく見ると、山伏茸のような白いふわふわがな頭部に朝露のような水滴が付着しており、その雫に洞窟内の光が反射し、白いふわふわした大きなノココが動くたび、キラキラとした輝きを放ち、何処となく気品のようなものまで、感じられる。
俺はそんなノココ達のダンスを視界に入れつつ、この後に待つ戦闘を有利に進めるため、識別を使って見た。
シャイニングノポポ:Lv14・属性:光・木・耐性:光・物理・弱点:影・魔法
ライティングノココA・B・C・D:Lv12・属性:光・耐性:光・弱点:斬・影
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