Locus 62
12体か……少し多いな。
そんなことを考えていると、ルイリから声が掛かる。
「リオン、助けに行くよ」
「分かった。それで、どう動く?」
「……そうだね、私は麻痺したリュクスや今戦っているカインさんの回復に向かうから、リオン達は引き付け役をお願い。それと、カインさん達を回復している最中に攻撃されると厄介だから、護衛役も欲しいかな」
「分かった。なら、その役はネロに頼もう。ネロ、ルイリがカインさん達を回復している間、モンスターが近付いてこないように守って欲しい、できるか?」
「キュウ!」
ネロは声を押し殺すように鳴き、そして頷く。
「うん、ありがとう。それと、ルイリ達を守るときはボラシティプラントに変化して、攻勢に出る時は専化影装で攻撃するようにしてくれ」
「キュッ!」
ネロは俺の指示を了承するように右前足を上げ、短く返事をする。
「よし。それじゃ俺とシエルは引き付け役だな。ルイリ達を安全に移動させるため、最初に攻撃してモンスター達を引き付けるぞ。シエルはレイビームで滞空しているモンスターを薙ぐように攻撃してくれ。俺は、カインさん達の近くにいるモンスターに当たるように攻撃して注意を引くから、その後シエルは空中にいるモンスターを優先的に倒すようにしてくれ」
『うん! わかったー』
シエルはコクリと頷くと、無邪気な笑みと共に返事をしてくる。
「それから、ルイリ」
「ん、何?」
「これから戦う上で、何か気を付けることがあれば、教えて欲しい」
「気を付けることか……。そうだなぁ~まず、あの滞空している黒い虫は麻痺毒を使ってくるから、刺されないようにした方がいいね。それと、今カインさんが戦っているキノコっぽいのはHPが3割を切ると、たまに閃光を放つ胞子を出してくることがあるから、注意が必要だね。最後に、動きが遅い木の人形だけど、攻撃すると攻撃が当たった所とその周辺が黒ずんで硬質化? するみたいなんだよね。まぁ硬質化してもダメージは通るには通るんだけど、倒すまでに時間が掛かるってことが難点なんだよね」
「そうなのか……。それならその木の人形は、全員で攻撃した方が早く倒せそうかな?」
「う~ん、あっ! そういえば、その木の人形ね。何かすごく脆い所があって、そこを攻撃できた時は1~2回の攻撃で倒すことができたんだよ。ただ……その脆い場所は個体によって違うみたいだから、狙って攻撃できないんだよね」
「なるほど! 弱点みたいな所があるんだな。それなら、やりようはあるな」
「え、ほんと?」
「ああ、俺が使えるアーツに、弱点の場所を見つけるものがあるから、たぶん大丈夫だと思う」
「そっか、それなら木の人形は、リオンに任せるよ」
「任された! それじゃ、シエルの攻撃に合わせて俺も攻撃するから、シエルの好きなタイミングで始めてくれ」
『は~い♪』
「ルイリとネロは、俺とシエルが攻撃したら移動を頼むな」
「分かった。護衛よろしくね、ネロ!」
「キュウ!」
そうして俺達は、カインさん達を助ける作戦を立て、行動を開始していった。
『いくよー!』
シエルからの合図を受け、即座にノービスソードを抜剣しつつ、威力の底上げを図るため、アーツを使う。
「トリプルマジック」
そしてアーツを使った直後、魔法を使う意志に反応して、視界に直径20cm程の青白い円が現れ、その円の中にのみモンスターが入るように調整をする。
『レイビーム!』
「エネルギーボルト!」
「「「「「「ジジッ?!」」」」」」
「「「二゛ョコ?!」」」
「なっ?!」
「っつ?!」
シエルは両手を前に突き出すと、その両手の前に直径10cm程の光球を生み出し、光球から光球より少し大きい光線を滞空しているディガーインセクト達に照射し、薙ぎ払う。
そのすぐ後に、3条の青白い雷が放出され、おおよその狙い通りカインさんには当たらず、ライティングノココ等のみを焼き焦がす。
シエルのレイビームによって、ディガーインセクトの内の4体が地に落ち、その内の1体とまだ滞空できている2体の内の1体に盲目のバッドステータスを与えていた。
HPバーを見てみると、レベル11の個体は約4割、レベル12の個体はおよそ3割強HPが減少していた。
レイビームを放った後、シエルは『いってきまーす!』と言って、まだ滞空しているディガーインセクトの方へ滑らか且つ、素早い動きでスーっと飛んで行った。
一方ライティングノココ等は、カインさんが与えていたダメージもあって、ライティングノココBとEは今の魔法による奇襲で、光の粒子となって消えていった。
そして、残りのライティングノココDは、仰向けの状態で転がっており、必死に起き上がろうと短い手足をバタ付かせている。
HPバーを見てみると、残り3割強といったところで、これならルイリに聞いていた閃光も使われないだろうから、しばらくはほっといてもたぶん大丈夫だろう。
そう考え、俺は素早くスキルを入れ替え、後方からゆっくりと近付いて来ている、アクティブパペットの方へと向かっていった。
◇◇◇
「よし! いくよ、ネロ」
「キュキュウ!」
俺とシエルの魔法による奇襲でモンスター達の注意がカインさん達から逸れたことを確認すると、ルイリはネロを伴い、カインさん達の方へと駆け出して行った。
「カインさん、リュクス、援軍を連れて来たよ」
「おう! ルイリか。結構遅かったな」
「ウイイしゃん、おあえいあしゃい」
「ふふっ、ただいま。まぁ、リアルの事情とか、先約があるとかでみんな断れれちゃったんで、しょうが無かったんですよ。リオンもアリルから今日は用事があるって聞いたから、駄目元で最後に聞いてみたら、用事は終わってたみたいだったので、やっと来てもらえましたけどね」
「なるほどなぁ。やっぱ急な誘いじゃ、人も集まらないか。まぁ、それはともかく、お疲れさん。これで何とか攻略が進められるようになるな……ってルイリ、その足元の黒い兎みたいのはなんだ?」
「ああ、この子は、リオンの獣魔のネロですよ。カインさん達を回復させている間の、護衛役でもありますね。それじゃネロ、よろしくね」
「キュウ! キューーーウ!!」
ネロはルイリに頷きながら鳴き声を上げると、ネロの影がネロを包むように発生・膨張し、直径1m程の影の繭を形成する。
そして次の瞬間、その影の繭の外殻が砕け散り、中から通常の配色とは違うボラシティプラントが、姿を現す。
「キシャァァァアアアアア!!」
ネロはモンスター等を威嚇するように雄叫びを上げると、数多の蔓状の根をルイリ達を守るように広げていく。
更に、シエルのレイビームにより地に落ちて、比較的ネロの近くに居たディガーインセクトC・Eを蔓状の根で滅多打ちにし、光の粒子へと変えていく。
「は~。リオンが変化してとか言っていたから、何かに姿が変わるとは思っていたけど、これ程とは思わなかったなぁ。でも、コレなら安心して回復に専念できそうね」
「むしろ、下手をすると俺等の出番ないかもしれんぞ」
「あはは、確かに。さて、それじゃ私はリュクスの方を回復させてきますね。カインさんもリオン達がモンスターを引き付けている内に、回復しておいて下さい。それから、戦えるようになったら、戦線復帰して下さいね」
「ああ、分かってる。……が、あの勢いだと俺の参戦は必要なさそうだけどな」




