Locus 60
ま、間に合った……。
ある程度近付くと、ルイリも俺達が到着したことに気付き、声を掛けてきた。
「おっ来た来た。久しぶり、リオン。手伝いに来てくれて、ありがとね」
「久しぶり。まぁ、用事が終わった後で、特に予定も入ってなかったから来ただけなんだけど」
「そうなんだ。それでも、私達は助かるからお礼は受け取っておいてよ」
「ああ、分かった」
「それで、そっちの光ってる子がもしかしてシエルで、獣魔の方がネロだっけ?」
「よく知ってるな。まぁ、シエルは昨夜進化して、姿形は変わってるけど、確かにシエルだよ」
「まぁ、フィリアが楽しそうに話してくれたからね。それで、そのネロって子は? やっぱりフィリアみたいに仕舞っているのかな?」
「あーいや、普段は他のプレイヤーに見えないように隠れてもらっている。せっかくだし、紹介するよ。ネロ、ちょっと出て来てくれるか?」
俺が自分の影にそう呼びかけると、ネロが影の中から出て来て、俺の前へと素早く移動する。
「キュウ!」
「おお~。聞いていた通り外見はほぼ黒い兎なんだね」
「それじゃ紹介するな。シエル、ネロ、こっちは俺の友達のルイリだ。仲良くしてくれよな」
「今紹介された、リオンの友達のルイリだよ。シエル、ネロ、今後ともよろしくね」
『よろしく~♪』
シエルは、両手を上げて無邪気な笑みを浮かべた。
「キュウ! キュウ!」
ネロもシエルの真似なのか両前足を上げ鳴き声を上げる。
互いの紹介が終わると、おもむろにルイリがこんなことを言って来た。
「そういえば、リオン。同じエリアにいたにしては、結構時間が掛かったね。もしかして北側のセーフティエリアにいたのかな?」
「いや、南側にいたんだけど、何か普段よりもモンスターが強くなってて、しかも積極的に襲ってくるから、少し手間取ったんだ」
「そっか、もうそこまで進行してるのか。これはちょっとまずいかもしれないかなぁ」
「進行? いったい何のことだ?」
「えーっと、今私達が受けてるクエストに係わっていることなんだけど……。どこから話せばいいかな?」
「できれば最初からで、頼む。長くなるようなら、簡潔に」
「ん、りょ~かい」
ルイリの話をまとめるとこういうことだった。
事の発端は、カインさんからの狩りへの誘いだったそうだ。
その時は集まりが少し悪く、ルイリとカインさんとカインさんのフレンドの3人で行くことになったらしい。
全員が合流してから、狩りのついでにクエストも取っていけば、お金も稼げて一石二鳥になるからと提案したところ、各自でクエストを受けることにしたそうだ。
それからパーティを組み、ルイリとカインさんは傭兵ギルドに、もう一人は冒険者ギルドへ行ったようだ。
クエストを選んでいると、今までに見た記憶がないクエストがあるのに気付き、カインさんに教えたところ、カインさんは少し考え込むようにした後、冒険者ギルドに行ったフレンドに連絡を取ったそうだ。
そして驚いたことに、冒険者ギルドの方でもルイリが見つけたクエストと同じものが出現していたらしい。
これは何かあると3人共考えたようで、当初の予定だった狩りを止めて、そのクエストをやることにしたそうだ。
そのクエストというのは、Dランククエストで、内容は指定された場所を巡回して、異変・異常がないか調査するものだったらしい。
結果を言えば異変や異常は無く、そう報告するとあっさりクエストクリアになったそうだ。
クエストクリア後、ルイリ達はこのクエストがDランクの割には、易し過ぎるから何かまだ達成できてない条件あるはずだと考え、同じクエストを何度も受けてみたり、巡回するルートを変えてみたりと思い付く限り色々と試してみたが、進展は一切なかったらしい。
そうして、半ば諦め掛けていた頃、フィリアから獣魔についての相談を持ち掛けられ、何があったかを聞いたそうだ。
そして、その過程でまだ試していないことを思い付き、実行したところ現在受けているクエストが発生したようだ。
因みにその条件とは、傭兵ギルドと冒険者ギルドに出されている西の森に関する共通のクエストを全てクリアするというものだったらしい。
中でも、酔いどれオーガからドロップまたは、交換できるものの納品クエストが一番大変だったようで、もう二度とやりたくないと、ぼやいていた。
それで、現在ルイリ達が受けているクエストというのが、なんとL・クエストなのだそうだ。
L・クエストの内容は、西の森の何処かにできた魔素溜まりを本日中に、消滅させることらしい。
魔素溜まりとは、何らかの要因により特定地点で魔素が偏り、収束して自我を持ち、魔素で構築・実体化させた領域と、その自我を持った魔素核を守るモンスターが出現する場所のことだ。
つまりは……ダンジョンだ。
魔素溜まりを消滅させるには、魔素溜まりの中の領域に入り、自我を持った魔素核……ダンジョン核を破壊しなければならないそうだ。
そしてここで、進行についての話に繋がる。
この魔素溜まりというのは、全部で6段階の変化を起こすもののようで、魔素溜まり内のダンジョンに入れるようになるのが、3段階目かららしい。
因みに、6段階の変化は以下の通り。
1段階:魔素溜まりができ、特定地点周辺でMPの自然回復速度が通常よりも早くなる。
2段階:魔素溜まりの中に異界領域ができ、特定範囲内でMPの自然回復速度が通常よりも遅くなる。
3段階:魔素溜まりの中のダンジョンに、ダンジョンコアを守る守護者が生まれ、ダンジョンの入り口を魔素の渦として視認化することができ、この時点でダンジョン内に入ることが可能となる。
4段階:ダンジョン内の守護者の魔力がダンジョン外に漏れ出し、魔素溜まり周辺のモンスターが強化され、凶暴化する。
5段階:魔素溜まり周辺の強化・凶暴化したモンスターが、何かに誘われるように、魔素溜まりの中のダンジョンに入っていき、ダンジョンに喰われる。
6段階:魔素溜まりの中にあるダンジョンの入り口が完全に実体化し、ダンジョン外へダンジョン内のモンスターが溢れ出し、周囲の生態環境を不特定期間狂わせる。
それで、俺の話から今では4段階目に入ってしまっていることが分かったそうだ。
そして、ダンジョン内のモンスターを全てダンジョン外に吐き出すと、魔素溜まりは自然消滅するのだそうだ。
ルイリが言うには、このL・クエストをクリアするためにはいくつかの条件があるらしく、その条件の中に6段階目に入りダンジョン外にモンスターが溢れ出すと、クエスト失敗扱いになるというものがあるらしい。
そして、ここまでの進行段階速度から鑑みて、日没までにダンジョンコアを破壊できれば、6段階目に入る前にクエストをクリアできるそうだ。
それから、何故このL・クエストに他者の手伝いが必要になったかというと、ルイリ達のパーティは奇しくも物理オンリーのパーティで魔法による攻撃手段が無く、ダンジョン内のモンスターに思うようにダメージを与えられず、予想以上に攻略に手間取ったかららしい。
それと、このクエストがL・クエストという特殊なクエストであることから、このクエストの発生方法や、発生させた者達の素性を安易に他者にバラすようなことは避けたかったため、このクエストの手伝いに誘う第一条件は、信頼ができることや口が硬いことだったようだ。
もちろん、L・クエストという特殊なクエストを発生させたからには、自分達でクリアしたいとも考えたそうだ。
まぁ確かに、他人の嫉妬は恐ろしいものだし、かく言う俺もあまり変に目立つのは好きではないから、そういう基準で手伝いを頼むという行動は理解できる。
それから、第二条件は魔法が使えることで、回復魔法が使えれば尚の事良いらしい。
この二つの条件を満たすフレンドに頼んでいったそうなのだが、リアルの都合でログインしてなかったり、先約があったりで誰も捕まらず、最後に駄目元で俺へと連絡したのだそうだ。
何でも、アリルに断られた時に、俺が今日は何かしらの用事があることを聞いたのだとか。
「状況は分かった。つまり、そのダンジョン核を破壊する手伝いをすればいいんだな。それで、具体的には何をすればいいんだ?」
「うん、まずは私達のパーティに入ってもらって、ダンジョンの入り口付近でモンスターを間引いてるカインさん達と合流。その後、簡単な隊列を決めてダンジョンの攻略をしていこうと思う。それと、戦力は多いことに越したことはないから、シエルとネロの参戦もお願いしたい」
「えッ?! でも、経験値とか良いのか? フルパーティだと、かなり分散しちゃうんじゃないか?」
「その辺りは、あまり心配しなくても大丈夫じゃないかな。私達もリオンも戦女神の洗礼を持っているから、取得経験値にブーストが掛かっているし、それ程分散しないはずだよ。それと、事前にテイムモンスター等が参戦することの予想を立ててたし、カインさん達の了承ももらっているから、安心しなよ」
「そうか、なら良さそうだな」
「それじゃ、そろそろカインさん達の所に行こうか。日没までにはまだ3時間以上あるけど、何があるかなんて分からないしね」
「そうだな、それじゃ案内よろしくな」
そうして、広場で追いかけっこをしていたシエルとネロを呼び、ルイリの案内の元カインさん達のいる魔素溜まりを目指し移動していった。