Locus 55
あの後、昨夜に考えた移動法を試した結果、力加減を誤り何本かの木を倒壊させてしまったり、そのことに驚いて余所見をして木にぶつかりそうになったので慌ててノービスソードを振り木を無駄に両断してしまった。
慣れないことをリミットブレイク中にするのは危ないと気付き、素直に地面を走っていき、進路上のモンスターを悉く一刀のもとに斬り倒し、無事グレイスさんのログハウスへと辿り着くことができた。
もしも、『SLO』内に環境保護団体とかがいたら、間違いなくブラックリスト入りしていたような森林破壊をやらかしてしまった。
1日で森林の樹木は元に戻るらしいから、あまり心は痛まずに済むが、次からはこういうことがないよう気を付けて行動しようと思う。
視界の端を見てみると残り14秒になるところだった。
俺は直ちにリミットブレイクを解除すると、金色の燐光と電光が消え、俺の体に途轍もない負荷が襲い掛かってきた。
まるで自分の体が鉛か何かの重金属で出来ているかのように酷く重く感じ、普通に立つことすら困難な状態になった。
ステータスを見てみると、説明にあった通り最大HPとMPは半減しており、他のステータスの値が1/5(端数切り捨て)になっていた。
体験してみれば分かるが、MPが0になった時の衰弱状態の方がよっぽどマシだと思える程、今の状態が辛い!
まぁ人間というのは、慣れる生き物だ。
だから少しの間この状態に慣れるまで、ココで休むことにしよう。
幸い、ココはグレイスさんが張った隠蔽と隔離の結界の中なので、モンスターに襲われるなんてことはないだろうしな。
そうして、地面に腰を下ろそうとすると、ふいに軽快な音とファンファーレが鳴り、インフォメーションが流れた。
『ピロン! パパ~ン♪ これまでの行動により、〔称号:異常なる怪力者〕を入手しました』
『ピロン! パパ~ン♪ これまでの行動により、〔称号:異常なる俊足者〕を入手しました』
ふむ、ちょうどいい。
休憩がてら、ヴェアリアントゼライスのドロップアイテムと先程の戦闘で習得したものの確認をしようと思っていたところだから、一緒に説明を読み込んでいくとしよう。
そうして俺は手始めに、先程の戦闘で習得したものの確認をしてみた。
習得したのはアーツだった。
□ 炎撃武攻:高速打撃により、大気との摩擦で炎を吹き、打撃に火属性を帯びるようになった、格闘系武技。
一定時間肉体を使った全ての打撃に火属性が付与され、打属性倍率を200%増加させる。
持続時間は、STR・VIT・AGI に依存する。
消費MP:10 リキャストタイム:60秒
警告:現在のステータスでは、このアーツの使用条件を満たしていないため、このアーツの効果を発動することができません。使用条件を満たしてから、有効化し、使用して下さい。
使用条件:STR100・AGI100・DEX100
う~ん……この警告文を見るに、どうやらリミットブレイクのおかげで習得できたアーツのようだ。
なぜなら、元の俺のステータスにバーサークとソードダンスを重ね掛けしても、DEXは100以上にならないからだ。
だから、現在習得はできていても、使用することができていないという奇妙な状態になってしまっている。
打撃で炎を吹くとか、すごくおもしろそうなのに、使うことができないなんて残念極まりない。
それにこの説明だと、肉体を使った全ての打撃に~となっているから、たぶん頭突きや肘鉄、蹴りなんかでも、火属性が付与されるんじゃないかと思われる。
できれば、今すぐにでも実際に使って確かめてみたいんだけど、無いもの強請りをしていてもしょうがないし、DEXが100になるまで我慢しておくことにしよう。
よし、次はドロップアイテムを鑑定してみよう。
素材アイテム 変異ゼライスの核晶:ヴェアリアントゼライスの核晶。ヴェアリアントゼライスの核が急激に熱され、結晶化したもの。欠けることなく結晶化しているものは珍しく、優れた魔法の媒体として非常に高値で取引される。
素材アイテム 変異ゼライスの強酸粘液:ヴェアリアントゼライスの酸性を含んだ粘液。溶剤や薬の材料にもなり、そのまま投げ付けることで対象にダメージを与えることができる。火に反応して毒性を帯びるため、取り扱いには注意が必要。
強化アイテム 水錬鉱:ランク3以上の武装具のステータスのDEXの値を上昇させることができる鉱石。
強化アイテム 鈍錬鉱:ランク3以上の武装具のステータスの与DP倍率の打属性の値を上昇させることができる鉱石。
消耗アイテム 変異の欠片:対象の本質を変異させる特性を持つ、奇妙な欠片。レベル上限に達したスキルや魔法、武装具に使用することで、新たな派生先を発生させることができる。
但し、既に全ての派生先が発生していた場合、この欠片は消滅する。
どうやら今回ドロップした強化アイテムは、今までの○○石といった強化アイテムの上位互換のようなものみたいだな。
ランク3以上のという制限はあるが、名称が○○石から○○鉱に変わっているので、恐らく上昇するステータス値も○○石より上がっているのだと思う。
今の俺の武装具は、ランク3以上のものはないので使うことはできないが、機会があれば使ってみることにしよう。
といっても、ウェポンマテリアル・剣が入った武器以外は、自分で強化することができないから、他人任せになるんだけどな。
さて、問題はこの消耗アイテムの『変異の欠片』……なんだけど。
説明に有る通りだと、レベル上限に達したスキルや魔法、武装具に使用することで、新たな派生先が発生するらしいのだが。
現在、その条件を満たすものはノービスソード+10しかなく、既に次の派生先が発生している現状で、新たな派生先がまだあるだろうか?
他のゲームなんかだと、大抵1回以上進化してから複数の派生があるものだ。
それに、せっかく自らの行動で発生した派生先があるのだし、ソレ以上進化できなくなったり、行き詰ったりした時に使った方が良い気がするんだよな。
…………よし、決めた。
今回は使わず、進化できなくなったり、行き詰ったりした時に使うことにしよう。
それじゃ最後に、入手した称号を見てみよう。
〔称号:異常なる怪力者〕:種族Lv10までに、STR300を超えた異常なる者の証。
効果:スキル〔怪力乱神〕を取得。
〔AS〕アクティブスキル:〔怪力乱神Lv0〕
アーツ<オーガスピリット>が使用可能になる。 MAXSLv50
□ オーガスピリット:一定時間INTの値を0にし、STRの値を1+(0.1×SLv)倍にする。
このアーツを使用した瞬間、それまでに使用者に掛けられた全ての効果を無効化する。
また、このアーツが発動している間、他のアーツや魔法を一切使うことはできない。
持続時間は、STR・VIT・LUK の値に依存する。
消費MP30 リキャストタイム:5分
〔称号:異常なる俊足者〕:種族Lv10までに、AGI300を超えた異常なる者の証。
効果:スキル〔韋駄天〕を取得。
〔AS〕アクティブスキル:〔韋駄天Lv0〕
アーツ<アクセルドライブ>が使用可能になる。 MAXSLv50
□ アクセルドライブ:一定時間INTの値を0にし、AGIの値を1+(0.1×SLv)倍にする。
このアーツを使用した瞬間、それまでに使用者に掛けられた全ての効果を無効化する。
また、このアーツが発動している間、他のアーツや魔法を一切使うことはできない。
持続時間は、AGI・VIT・LUK の値に依存する。
消費MP30 リキャストタイム:5分
……こいつはまた、使いづらそうなアーツだな。
俺に掛かっている全ての効果を無効化するということは、ステータス下降系のアーツや魔法、バッドステータスだけに限らず、有用なステータス上昇系等のアーツや魔法も消し去ってしまうということだ。
更に、このアーツを使用している最中は、他のアーツや魔法を一切使えなくなるということは、プレイヤーのリアルスキルのみで戦わなければならないということになる。
そして何より、スキルレベルが0の今では、ステータス値が1倍にしかならないので、スキルレベルが上昇するまで縛りプレイのようなことをする必要がある。
だが、スキルレベルさえ上がってしまえば一長一短ではあるが、使う機会はそれなりに出て来ることになるはずだ。
だから、ある程度安心して戦える移動時なんかの時に、レベル上げをしていこうと思う。
よし、それじゃ十分に休めたことだし、そろそろグレイスさんに収集したアイテムを納品しに行くとしよう。
まだ体は酷く重いが、反動状態になったばかりの時に比べれば、多少マシになったような気がするからたぶん大丈夫だろう。
そうして、俺はヨロヨロと立ち上がり、疲れ切った体を引き摺るようにして歩いて行く。
そして、ログハウスの扉を4度叩き、中に居るグレイスさん達に帰って来たことを伝えた。




