Locus 54
体の内側から何かが破砕するような音がし、次の瞬間俺の体全体から金色の燐光と電光が迸り、バーサークの赤いオーラと混じり合い、夕陽のような黄昏色に染め上げる。
HPとMPを見てみると、説明にあった通り全回復していた。
更に、視界の端には180.00と表示され、小数点以下の数字が目紛しく変わり、刻々と小数点以上の数字が減少していく。
恐らくこれは、リミットブレイクの残り時間を表しているのだろう。
ここからは、時間との勝負だ。
1秒でも早く倒し、近くのセーフティ……いや、グレイスさんの家へ戻らないとな。
そう思いながら、ヴェアリアントゼライスに向かって、やや前傾姿勢になりつつ跳躍。
10m以上離れていた距離が瞬時に詰まり、先程作ったクレーターの縁に到達する。
「ッ?!」
クレーターの縁からヴェアリアントゼライスが居るクレーターの中心に向け、再度跳躍してヴェアリアントゼライスにノービスソードを構えながら殴り掛かる。
出し惜しみはなしだ。
「パワースマッシュ!」
ドパァアン!
アーツを使っての振り下ろしにより、ヴェアリアントゼライスの体に大穴を空け、半分以上のジェルを周囲に吹き飛ばす。
俺の攻撃に合わせ、ヴェアリアントゼライスの核は後方に下がってしまっていたが、今の打撃の余波でダメージを与えたらしく、HPバーが1割程減少していた。
更に追撃を加えようとすると、ヴェアリアントゼライスのジェルがボコボコと隆起し、俺の目の前が赤い斑模様に染まる。
「っつ!」
反射的に後方へ跳んで避けようと思ったが、余計な時間を掛けてはいけないと思い直し、プレアダガーも抜剣してコレ等を迎撃する。
体の末端付近はノービスソードで、体の中心付近はプレアダガーを使い、撃ち出されて来るジェル弾を次々と叩き弾いていく。
パパン! ベチッ! パン! ベチベチッ! パン! ベチッ! パパパン! ベチッ!
「ツッ?!!」
3発程被弾したが、さすがステータス3倍は伊達ではないようで、HPは1割も減ってはいなかった。
但し、耐久値のあるプレアダガーには酸属性のジェルは、効果覿面だったようで、先程までの美しい銀白色の剣身は今では見る影もなく黒ずみ、刃の部分は所々溶けてボロボロになってしまっている。
耐久値はまだ残っていたが、このまま使い続ければ完全に壊れてしまうだろうし、もうコレ以上は使わない方が良さそうだな。
くそっ!
せっかく耐久値を全回復させたところだったのに、また修復させに行かなきゃならないじゃないか!
ヴェアリアントゼライスがこちらに来た時や、戦闘中でも草や地面を溶かしていたのは知っていたはずなのに……。
思慮が欠けた自らの行動が招いた結果だが、苛立っていることには代わりない。
完全に八つ当たりになるが、どうせ倒す必要があるのだし、ここで発散すれば良いかな。
そう考え、プレアダガーを素早く鞘に納め、ノービスソードをやや大振りに振り上げ、ヴェアリアントゼライスへと振り下ろす。
「スマッ――っ?!」
「ッ!!」
俺が追撃を掛けようとしてノービスソードを振り上げると、ヴェアリアントゼライスが瞬時にジェルをギュっと縮め、ノービスソードを振り下ろす途中の俺の手に間欠泉のような奔流をぶつけ、ノービスソードを後方へと弾き飛ばす。
――迷うのは一瞬。
俺はままならない怒りをその両手に込め、最初の半分程の体積になったヴェアリアントゼライスに拳を次々と打ち込んでいく。
もちろん、インパクトの瞬間拳に捻りを加え、威力を上げることも忘れない。
「っぅぅぉおおおおおおお!!」
「ッツ?!!」
ドパパパパパパパパパン!!
捻りの加わった拳による連続打撃により、ヴェアリアントゼライスのジェルが着実に飛び散り、その体積を減らしつつ、じわりじわりとHPも削っていく。
すると、ヴェアリアントゼライスのショッキングピンクの核が怪しく光り、飛散したジェルが少しずつ俺の体に纏わり付いてくる。
どうやらヴェアリアントゼライスは、武器だけでは飽き足らず、俺の動き自体をも封殺したいらしい。
なら、その選択は間違いだったと思い知らせてやろう。
そう思い、俺はより苛烈にヴェアリアントゼライスのジェルを打ち、その体積を減らしていく。
「っぉおおおおおおおおお!!」
ドパパパパパパパパパパン!!
ヴェアリアントゼライスのジェルが腰まで纏わり付き、動きを封じつつ俺のHPを徐々に減少させる。
しかし、再生のスキルによるHP自動回復の効果と拮抗し、一定数減っては増えてを繰り返すばかりで、一向に俺のHPは9割を下回ることはない。
こうなると根比べになりそうだ。
ヴェアリアントゼライスのジェルに俺が完全に覆われ、封殺されるのが早いか。
俺がヴェアリアントゼライスのHPを削り切るのが早いかの勝負になる……のかな?
そんな風に考えつつ、俺は更に激しくゼライス2体分程の体積にまで減ったヴェアリアントゼライスに、上半身のバネと捻りを加えた打撃を叩き込んでいく。
「っぉおおおおおあああああああ!!」
ドパパパパパパパパパパパン!! 『ピロン!』
ヴェアリアントゼライスのジェルが胸元まで包み込み、俺の打撃が届かなくなる頃には、再生のスキルでは回復しきれないダメージ量が着々と蓄積され、現在の俺のHPは7割弱といったところだ。
対するヴェアリアントゼライスのHPバーは残り5割を切っている。
そして、ヴェアリアントゼライスの今の体積は、普通のゼライスの大きさより幾分か小さいものにまでなっていた。
ヴェアリアントゼライスは、ジェルに体の大半を覆われ動けないでいる俺を嘲笑うかのように、ショッキングピンクの核を爛々と輝かせ、ゆっくりと俺の方へと近付いて来る。
『この時を待っていた!』
俺のHPをじわりじわりと削りながら、体を覆うジェルが肩口にまで上がるのを横目に見つつ、首を自由に動かせる内にヴェアリアントゼライスの方に頭を向ける。
そして、狙いを外さないようにしっかりとヴェアリアントゼライスを見据え、ソレを放つ。
「ガァァァァァアアアーーーーー!!」
―ツッ?!!―ジュ!―――ズガァァァァァアン!!
俺の口からスキルを使う意志に反応して、黄昏色の直径5m以上もある極太の光線が照射され、狙ったヴェアリアントゼライスをその周辺ごと焼き尽くす。
そして次の瞬間、俺の体を覆っていたジェルが光の粒子となり消えていった。
竜の息吹によって巻き起こされた土煙が晴れるとそこには、ヴェアリアントゼライスの姿はどこにもなく、代わりに先程の光線により擂鉢状に陥没した地面が高熱にさらされ結晶化し、陽光を浴びてキラキラとした光を放っているだけだった。
「ふぅ~。なかなかハードな戦いだったなぁ…………って、ゆっくりしていられないんだったな」
俺はそう言いつつ、視界の端を見てみると、残り時間は後134秒になっていた。
あれ?
何か体感時間だともっと戦っていたと思ったんだけどな。
まぁいいか。
そんなことより、後2分もあれば十分グレイスさんの家まで戻れるだろうから、さっさとノービスソードを拾って行くとしよう。
そうして俺は、ヴェアリアントゼライスによって後方へ弾き飛ばされたノービスソードを拾い、ソードダンスを使って東の森へと疾走していった。




