Locus 5
俺がスキルの説明を読み込んでしばらくすると。
「おにぃぃぃちゃぁぁぁぁぁん!」
という大声と共に、腕をブンブン振りつつ此方に近づいて来る、碧銀の髪をした妹の面影を持つ美少女がいた。
梟の目を使い、その人物をズームして見てみると、色の配色は違えど紛れもなく千歳そのものだった。
俺は、返事をするように手を振り返して、妹の到着を待った。
「ふぅ~到着!お兄ちゃん久しぶりだね。元気にしてた?」
「ああ。久しぶり、そっちこそ元気にしてたか?」
「うん! 私は元気いっぱいだよ!」
「そうか、それは何よりだ。えっと……それで、アリルの後ろにいる人達が?」
「うん? うん! そうだよ、私のβ時代のパーティーメンバーとその友達なの」
「そうか……初めまして、俺はリオンって言います。妹が世話になってます」
そう言い、俺はアリルが連れてきた人達に頭を下げた。
「いやいや、そんな畏まらなくっていいってば、アリルちゃんにはこっちもお世話になってるしさ」
「そうですね。β時代からよくメイン火力としてお世話になりっぱなしですからね」
「そうそう。よく俺もミスったときはフォローしてもらってるしな」
「えっ……あ、そのこれはご丁寧にどうも……じゃなくてっ! えっ!? アリルちゃんのお兄さんって、リオンさんのことだったんですか?」
ん? その声は先程聞いたことのある声で、俺はその声の主を見る。
「えっ……フィリア? なんでここに」
その後の話で、フィリアをこのゲームに誘ったリアルの友達が、β時代アリルと共にパーティを組んでいた人だと分かった。
世間は狭いな。
「それじゃ、お兄ちゃん紹介するね。この3人が私がβ時代にパーティを組んでた人達なの」
妹のこの言葉を発端に、各自の自己紹介が始まった。
「はじめまして、私はルイリと言います。フィリアとはリアルフレです。武器は弓と短剣を使ってます。パーティ内での役割は斥候役で、戦闘では主に中衛をやってました。種族は犬人族の狼人族です。よろしくね」
ルイリは、やや吊り目で髪(毛?)は黒で目の色は、赤色をしていた。
狼人族ってなんのことか聞いてみると、犬人族の中のレア種族らしい。
ルイリも特定条件を満たし、種族スキル選択時に狼人族のスキルを取得したら種族も狼人族になったそうだ。
「初めまして、僕はアレスと言います。武器は槍と盾を使ってます。パーティ内での役割は壁役で、種族は竜人族です。どうぞよろしく」
アレスは、さわやかなお兄さんといった印象だった。
髪はハニーブロンドで目の色は橙だ。
竜翼や竜尾も髪と同じ様な色合いをしている。
竜角は2本あり、前頭部から後ろに伸びるように生えていた。
「はじめまして、だな。俺は、カインと言う。アレスとはリアルフレだ。武器は斧を使ってる。パーティでの役割は攻撃役で、スタイルは手数よりも1撃の威力を重視している。種族は山人族だ。よろしくな」
カインは豪快な性格のようだ。
山人族特有の褐色の肌と筋肉質な体、髪は燃えるような赤毛で、目は明るい緑青色をしていた。
「えとえと……改めまして、そしてはじめまして、私はフィリアって言います。ルイリちゃんに誘われて、このゲームを始めました。ルイリちゃんとはリアルフレです。武器はメイスを使っています。今後は回復系クラスに就きたいと思ってます。種族は森人族です。どうぞよろしくお願いします」
フィリアは迷子常習犯(確信!)だが、礼儀正しい子という印象だ。
色白の肌に、森人族特有の長い耳。
髪は薄桃色で、目は金色をしている。
「フィリア姉とは、はじめましてだね。私はアリルって言います。リオンお兄ちゃんのリアル妹でっす。武器は杖を使ってます。パーティでの役割は重火力アタッカーです。風系を主に使ってます。スタイルはカイ兄の逆で、1撃の威力より手数を重視してます。種族は羽人族だよ。よろしくね」
妹のアリルは、人懐っこい笑みが似合う元気っ娘だ。
外見は碧銀の髪と青色の目で、背中に羽人族特有の淡い緑色をした、3対の透明感のある羽を持っている。
「それじゃ改めまして、そして初めまして、俺はリオンと言います。アリルとはリアル兄妹です。武器は剣を使っています。まだこれといって今後何のクラスに就きたいか決まってませんが、楽しめるようなクラスにしたいと思います。種族は一応、人族ですが真竜と人との混血であるハーフドラゴンです。よろしくお願いします」
そう締めくくり、一礼をした。
「「えっ?」」
「真竜と人との混血?」
「ハーフドラゴン?」
「お兄ちゃん。その話もっと詳しく!」
上からルイリとフィリア、アレスさん、カインさん、アリルの台詞だ。
そう皆に詰め寄られ、なんとなくプレッシャーを感じつつも、特に隠すことではないと思い話した。
ステータス割り振りの時、ステータスポイントを平均的に割り振ったこと。
種族選択で人族を選択したこと。
種族スキル選択時に新しいスキルがあって、それを選択したこと。
そこまで話したら、俺のこのケースは人族のレア種族に当たるのではないかという見解がされた。
ルイリの種族が狼人族になった経緯と状況が酷似していたからだ。
もうすでに、各種族にレア種族が存在していることは、掲示板を介して分かっているらしい。
しかしまだ、全ての種族のレア種族は分かってないようなので、掲示板にこの情報は書き込んだほうが後々角が立たないとのこと。
今回は、俺が掲示板にどういった風に書き込んだらいいか分からなかったので、レア種族でもあるルイリが代わりに書き込んでくれることになった。
因みに、今分かっているレア種族はこちら。
人族:
ハーフエルフ(ヒューマンとエルフの混血)
ハーフニンフ(ヒューマンとニンフの混血)
ハーフドラゴン(ヒューマンとドラゴンの混血)
ハーフフェザリアン(ヒューマンとフェザリアンの混血)
ハーフヴァンパイア(ヒューマンとヴァンパイアの混血)
獣人系:
狼人族(ワードックのレア種族)
虎人族(ワーキャットのレア種族)
極熊人族(ベアーマンのレア種族)
妖精系:
闇森人族(エルフのレア種族)
古代羽人族(フェアリーのレア種族)
鬼人族:
悪鬼人族(オーガノイドのレア種族)
「……よし、完了っと」
どうやらルイリの掲示板代筆?が終わったようだ。
「代筆ありがとう。」
「いや、こっちも新しいことが分かったし、こちらこそありがとう。それに今度からは、自分で書き込めるようにしようね。掲示板の情報見て真似ればいいんだしさ」
「ああ、そうだな。次からは自分で書き込めるように勉強しとくよ」
「うん。その意気その意気」
「しかし、なんでもかんでも掲示板に書き込むと荒らしと言われてしまいますよ?」
「そうなんですか。……どうしよう」
「そこは、私にお任せだよっ! お兄ちゃんが新しいこと分かって、これは掲示板に書き込まなきゃいけないかな? って思ったことがあったら、私に聞いてくれればいいんだよ!」
「なるほど、そりゃ名案だな!」
「アリル、いいのか?」
「うん! お兄ちゃんは大船に乗った気でいて大丈夫だよ。」
アリルは向日葵のような笑顔で俺に言った。
「そうか、ありがとな。なんかあったら連絡させてもらうよ」
「わ、私も何かあったら、ルイリちゃんに聞きますからね。そのときはよろしくね?」
「うん。分かったよ」
「話もまとまったことだし、せっかくだから皆で狩りにでも行こうよ」
アリルがそう提案すると、異論は誰からもないらしく、皆で狩りに行くことになった。
そして、皆が移動を開始する時になり、俺はあることを思い出した。
「あ。悪いんだけど先に行っててもらえないかな? ちょっと寄りたい所があるんだ」
「ん? 寄りたい所って?」
「あぁ……アリルは知ってると思うけど、昔じぃちゃんに護身術習ってただろ。あの時習う前に必ずしてたことあったから、あれをやっておきたくてな」
「あぁーーーあったね。すっかり忘れてたよ」
「忘れてたって……おまえ。じぃちゃんが聞いたら悲しむぞ」
「えへへ……」
アリルは、所謂テヘペロをした。なまじ美少女な分、似合っていてあざとい。
「笑ってもごまかされないぞ。ったく」
「んーっと、つまり昔からやってたこと……習慣? を、やりに行きたいってこと?」
「それって何なんです?」
「それは、俺も興味あるな。何なんだ?」
「わ、私も気になります!」
「いや、そんな特別なことじゃないんだけどな。武道を習う前に、神棚の神様に向かって詣ることだよ。武道が上達しますようにとか、怪我なく励めますようにとか。一応『SLO』の世界にも神様って居るらしいし、行ってみようかなって思ってさ」
皆は少しの間、呆気に取られたようだったが、すぐに気を取り直し皆付いていくと言いだした。
「いやでも、ほんっとただの自己満足だそ?」
「いいのいいの。私も行きたくなったの! 今までさぼってた分もやっとこうと思うし」
「私は純粋にただの好奇心だね。リオンなら何かやってくれそうな予感がするしね」
「ですね。僕も大半は好奇心ですが、リオンさんなら何かやってくれそうな気がしますし」
「だな。そう気にするなリオン。何かあれば儲け物って位の気でいればいいんだよ。こういうのはよぉ!」
「そうですよっ!こういうのはその場のノリで行くのが良いと思いますよ」
「ってそんな期待されても、知らないからな! はぁ~それじゃ、行こうか」
そして、皆で教会の中に入っていった。
教会に入ると、最初に目に映ったのは、荘厳かつ美麗なステンドグラスだった。
ステンドグラスには、7人の女性が佇んでいる絵が形作られていた。
皆一様に、ステンドグラスに見入っていたが、少しすると気を取り直し、奥に居る神父の方へと足を進めていった。
「こんにちは」
俺は神父に挨拶をした。
「おや、こんにちは。今日はどういった用でいらしたのですか?」
神様に詣りに来たんだけど、ここは教会だし詣るじゃおかしいよな……ここは祈りに来たが合ってるかな。
「祈りに来たんですけど……」
「そうですか。では、どの神に祈りにいらしたんですか?」
「えっ……どの神?」
「ええ。私の後ろにあるステンドグラスには、7柱の神々を模して絵が形作られていますので。ふむ……この後のご予定は何を?」
「えっと、この後は皆で狩りにでも行こうと思ってます」
「それでしたら、戦女神のユーフォリア様に祈るのが良いでしょう。ステンドグラスに向かって左から3番目がユーフォリア様になります」
神父にそう言われ、ステンドグラスを見ると、蒼い鎧と白い羽飾りの付いた蒼い兜を身に纏い、白銀の剣と盾を持った銀髪のセミロングの女性が描かれていた。
「それじゃ、お祈りをしようか」
俺は皆にそう言うと、ステンドグラスに描かれている、戦女神ユーフォリアに祈りを捧げた。
すると、俺の脳内で音が鳴り響き、インフォメーションが流れた。
『ピロン! パパーン♪ これまでの行動により、〔称号:戦女神の洗礼〕を入手しました』
「「「「「「えっ!」」」」」」
あまりのことで、皆の声がきれいにハモった。
俺はすぐにメニューを開き、その称号の説明を読んだ。
〔称号:戦女神の洗礼〕:初めての戦いに赴く前に、戦女神ユーフォリアに祈りを捧げた証。
効果:取得全経験値上昇(微)
同じ称号を持つ者同士でパーティを組むことで、この効果は重複する。
レア種族というか、隠し種族というか、それとも隠され種族というべきか……悩み所です。