Locus 51
ここまでお読み頂き、そして評価して下さり、ありがとうございます。
何時の間にやら、200万PVを突破していました!
本当に、ありがとうござます。
「ふぅ~。これからどうすればいいかなぁ?」
これ以上目立たなくする方法は簡単だ。
シエルに装飾化してもらえば良い。
しかし、ソレだけだと根本的な解決にはならない。
なぜなら、シエルの今の姿を見て、獣魔であると誤認されてしまっているからだ。
もしもこのまま誤解が解けなかった場合、明後日に開店する獣魔屋で、獣魔は1人につき基本1体としか契約できないことが、明らかになる。
そうすると、俺がシエルとネロを引き連れていると、おかしいことになってしまう。
ネロは、見た目ただの兎だが、こんな黒い兎はモンスターとしても動物としても、このディパートの街の周辺には居ないので、テイムモンスターだと言い張るのにも無理が生じる。
結果、実際は別におかしいこと等ではないが、他のプレイヤーの認識では獣魔を2体連れているように見られてしまうため、俺だけおかしく見えてしまうのだ。
だからと言って、ネロとの約束で明後日の正午には自由に移動させるということになっているから、このままずっと我慢を強いるのはかわいそうだし、俺としてもネロとの約束を反故になんてしたくない。
最も良い解決法は、シエルがテイムモンスターであると証明することなのだが、シエルは昨夜に進化して姿が変わっているため、ディパートの周りにいるモンスターの姿ではないので、信じてもらえる可能性は低い。
本当にどうしたらいいのだろうか……。
そうやって思い悩んでいると、ふいに「ポーン ポーン」という音が聞こえてきた。
俺は視線を動かすと、視界の端にあるFCと書かれたアイコンが出ているのが見えた。
俺が視線入力で、そのアイコンを選択するとウィンドウが現れ、『アリルからフレンドコールが来ています。』というウィンドウが出た。
アリルか……昨夜出したメールの返事かな?
ちょうど良いから今の状況を説明して、知恵を借りることにしよう。
「フレンドチャット オープン」
『あっ、お兄ちゃん! 今大丈夫? 無事なの? 今何処に居るの?!』
アリルはフレンドチャットが繋がるや否や、矢継ぎ早に質問をしてきた。
「ど、どうしたんだ? 藪から棒に」
『だって! 今ディパートの街で黄金の光を纏った空飛ぶ幼女を連れた、銀髪の初心者プレイヤーのことで、掲示板の話題が持ち切りなんだもん! これって、お兄ちゃんのことだよね?』
もうそんなことにまでなっているのかぁ。
情報が回るのが早いというべきか、単に暇なのか……どちらにしても、俺にとっては最悪な状況だな。
しかし、よくその情報だけで、俺がその注目されているプレイヤーだと思ったのだろうか?
一応聞いてみるか。
もしも、誰にでも気づけるようなことが原因なら、ソレを直せば件のプレイヤーが俺であるということを、特定することが難しくできるかもしれないしな。
「たぶんそうだろうけど、どうして俺だと思ったんだ?」
『え? うん。それはね、昨日お兄ちゃんから来たメールに書いてあった、シエルちゃんの進化後の姿と話題に上がっている空飛ぶ幼女の特徴がとても似ていたからだよ』
そういえば、アリルに出したメールに今のシエルの姿がどういうものに変わったのか、結構詳細に書いたっけ。
それならば、その情報がなければ他のプレイヤーは、俺を特定するのは難しいだろうな。
でも、何もしなければ何時かは、突き止められてしまう可能性がある。
これは、早急に対処しなければならないな。
「なるほどな。それじゃアリルは今、俺がどういう状況に置かれているか分かっていると、思っていいんだよな」
『うん! 大丈夫だよ』
「そうか、それじゃ単刀直入に聞くけど、どうすれば今の誤解を解くことができると思う?」
『誤解って、シエルちゃんが他のプレイヤーに獣魔だと、思われてることだよね?』
「ああ」
『一番簡単なのは、シエルちゃんがテイムモンスターだって証明できれば、良いんだけど……その姿じゃ難しいんだよね。』
「そうなんだよな。今のシエルの姿じゃ、この辺りに居るモンスターじゃないから、説明しても信じてくれなさそうなんだよな」
『う~ん……それじゃ、獣魔とテイムモンスターとの違いと、テイムモンスターを持っている人になら分かる共通点とかが分かれば、どうかな?』
「ふむ、獣魔とテイムモンスターの相違点と、テイムモンスターを持っている人になら分かる共通点か……」
獣魔は卵から生まれるが、これは元々モンスターの卵であるから、相違点とは言えない。
それに、生まれてしまった後である今、最初がどうだったかだなんてことを言って、信じてもらえるはずがない。
スキルも種族が違えば、自ずと持っているものも違ってくるものなので、これも相違点にならない。
唯一姿が、この辺りに居るモンスターと違うが、今回に限りそのこと自体が俺の首を絞めている。
更に言えば、不幸なことにネロの姿は、でっちあげようと本気で思えば、そのモンスターにとってはかなり迷惑且つ、残酷なことになるが、できなくはない。
他には何かないかと考え、シエルとネロに初めて出会った時のことを思い出す。
「……あ」
『何か分かったの?!』
「ああ。たぶんコレで合っていると思うし、テイムモンスターを持っている人になら分かることでもあるな」
『そ、それは?』
「それは、獣魔の宿紋化とテイムモンスターの装飾化だ。獣魔の宿紋化は、獣魔全てに共通するスキルのはずだ。現にフィリアの獣魔にもあったから、まず間違いないだろう。そして獣魔の宿紋化に相当するのが、テイムモンスターの装飾化になる」
『ほうほう。それじゃ、シエルちゃんがその装飾化するところをみんなに見せれば、証明できるんだね!』
「まぁ、そうなんだが……大勢の前でそんなことをするのは、かなり気が引けるんだけどなぁ。いや、やらなければずっと不審がられることになるから、証明はしなきゃいけないのは分かる。だけど、大勢の前で晒されるのはちょっとなぁ」
『だ~いじょ~ぶ! その辺りは考えがあるから、心配しなくていいよ』
「ほ、ほんとか!」
『うん♪ 要は、シエルちゃんが装飾化するところをみんなが見られれば良いわけだから、シエルちゃんが装飾化するところを動画に撮って、掲示板に出せばいいんだよ!』
「なるほど……って、このゲーム動画撮れたのか!」
『うん、そうだよ! それに、SSも撮れるよ。』
「なっ……し、知らなかった。はっ! それじゃあの時見た、綺麗な風景や、上手く作れた時の料理なんかの画像なんかも撮れたってことじゃないか! ぐぅ、なんてもったいないことをしたんだ!」
『あはは。まぁ、気づかない人は気づかないから、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。それより、ほら! 解決法が分かったんだから、早く掲示板に出そうよ。そうすれば、その分気も楽になれるよ』
「……それも、そうだな。それじゃアリル、動画とSSの撮り方を教えてもらえるか」
『えっとね、メニューのヘルプの一番下に、カメラのマークとビデオカメラのマークがあるから、SSを撮りたい時はカメラのマークを押して、動画を撮りたい時はビデオカメラのマークを押せば撮れるよ。細かい操作とかは実際にやってみて、覚えた方が良いから、がんばってね』
「分かった。色々助かったよ、ありがとな」
『えへへ~♪ どういたしまして! あ、それと獣魔のことは、メールに書いてあった通りに、明後日の正午まで隠していた方がいいよ。面倒事が増えるだけだしね。後は……獣魔屋の名前も公開した方がいいけど、鋭い人は文体が同じだって気付いちゃうから、獣魔屋の名前を教えてくれれば、私の方で代筆しとくよ?』
「おお! それは、助かるな。是非頼むよ。獣魔屋の名前はクロスオーバーっていうんだ」
『クロスオーバーだね。了解だよ! それで、話は変わるんだけど、今度その獣魔屋さんに案内をお願いしたいんだけど、いいかな?』
「うん? 別にいいけど、今日は予定があるから、無理だぞ?」
『それは大丈夫。私もこれから約束があるから、今日は行けないの。だからそうだなぁ……明日の午後2時に、また西区にあるトワイライトってお店で待ち合わせしよ』
「分かった、予定を空けて置くよ。明日の午後2時に、西区のトワイライトって店だな」
『うん♪ それじゃまたね。楽しみにしてるよ、お兄ちゃん!』
「今回は本当に助かったよ、ありがとな。それじゃ、またな」
そう言い合い、フレンドチャットを終えた。
その後俺は、アリルに言われた通り、動画にシエルが装飾化し、装飾化からモンスターの姿に戻るところを撮り、掲示板に乗せる前に問題がないか確認して、シエルが噂されている獣魔ではなく、テイムモンスターが進化したものだという文章と一緒に、掲示板に出しておいた。
もちろん、シエルに装飾化してもらう時もシエルの名は声に出さず、俺の声色もわざと変えて、俺だと分かり難くしている。
これで後は、この動画を見てこの騒動が沈静化してくれるのを待つばかりである。
それに、明後日には獣魔の店も開店し始めるので、興味は獣魔の方に流れていくだろうしな。
それでもまだ何か言われたら、先程掲示板に乗せた動画と同じことを見せれば、少なくとも嘘ではないと納得してくれると思うし、獣魔と契約すればテイムモンスターみたいに装飾化はできないと分かるはずだから、たぶん大丈夫なはずだ。
それと、シエルを連れていなくても銀髪の初心者プレイヤーということで、声を掛けられるかもしれないから、カモフラージュとしてフード付きのマントでも買っておこうかな。
昼間に買いに行くと他のプレイヤーに見つかり易いから、日が沈んでからに行くとしよう。
余計な出費になるが、まぁ仕方ないよな。
はぁ、なんだか戦闘をするより疲れた気がするが、気を取り直して当初の予定通り、無属性魔法を使える人の所を訪ねることにしよう。
そうして俺達は、そのまま屋根伝いに移動していき、東門の近くの人気のない所で地上に降りた。
そして、シエルに装飾化してもらい、そのまま何食わぬ顔で、東の森へと歩いて行った。
100万PV突破から、まだ10話ちょっとしかしてないはずなのですが、いったい何が……。




