Locus 47
オウルってことは、やっぱり梟か。
たしか梟って、全種肉食性で兎や鼠等の小動物を捕食するんだよな。
ネロの元の姿は、まんま黒い兎だから餌にでもしようとしていたのかな。
まぁ何にしても、うちの子に手を出したからには、しっかりと後悔して逝ってもらうことにしよう。
俺はそう思いつつ素早くメニューを開き、装備スキルを入れ替え、影装変化中のネロのステータスの確認をした。
name:ネロ
sex:?
race:シャドービーストLv7
HP:170 MP:270
STR:35
VIT:54
AGI:12
INT:12
MID:49
DEX:35
LUK:12
種族スキル:〔影装変化〕、〔影記憶〕
スキル:〔影魔法Lv8〕、〔影抵抗Lv1〕、〔影耐性Lv5〕、〔潜影移動Lv7〕、〔宿紋化Lv0〕、〔潜伏Lv8〕、【索敵Lv0】、【捕食回復Lv0】
固有スキル:〔専化影装〕
さすが壁役として覚えさせた影なだけあって、VITの値が最も高く、次いでMIDの値が高い。
物理攻撃力に影響するSTRと攻撃命中に影響するDEXも高い方なので、攻撃するにしても問題はなさそうだ。
ただ、AGIとINTの値が低いため回避や魔法といった行動には期待できそうにない。
もし魔法を使って攻撃するのなら、元の黒い兎の姿に戻ってからの方が良さそうだな。
それと、元の姿に戻るとまた攫われる可能性があるので、念のためセーフティエリアに入るまでは影に入っているように指示しておくことにしよう。
そうして、影装変化中のネロのステータスを確認した後、今後の行動の指示をどう出すか考え、その作戦をシエルとネロに手早く伝える。
「今回は俺が引き付け役と遊撃をするから、シエルはあの鳥……ストライフオウルを追尾性のあるライトアローを中心に攻撃してくれ。弱点属性が突属性になっていたから、良く効くと思うしな」
『は~い』
「それと、属性が風になっているから、魔法による攻撃があるかもしれない。だからまた全員に、マインドブースター・ライトを掛けておいて欲しい」
『わかった!』
「次にネロ、今のまま影装変化している時は、INTの値が他よりも低いから魔法は使わず、物理攻撃のみでストライフオウルを牽制・迎撃してくれ」
「シュァァァー!」
ネロは俺の指示に承諾するように、頷き声をあげる。
「それから、もし魔法を使うのなら元の姿に戻ってからにしてくれ。但し、元の姿に戻るとまた攫われる可能性があるから、元の姿に戻り次第、潜影移動を使って身を隠すことを忘れないようにしろよ。後、元の姿に戻ったら順次全員にメンタルブースター・シャドーを掛けてくれると助かる。」
「……シュルゥァァァー!」
ネロは攫われる時のことを思い出したのか、一度身震いするような動作をしてから、コクコクと頷きながら返事をするように声を上げた。
「それじゃストライフオウルの注意が俺に向いたら、順次行動を開始してくれ」
俺はそう言いながら、足元に転がっている小石を7・8個素早く拾い、片手で拾った小石の全てを掴み込み、上空で滞空しているストライフオウルに視線を向け、距離を測る。
うん、まぁ届かなくないな。
そう思いつつノービスソードを抜剣し、小石を掴み込んだ片手を振り上げ、ストライフオウルの方目掛けて投げつける。
「ホォッ!?」
投げつけた小石等は、目論見通り上空で滞空しているストライフオウルの周囲を通過するようにバラけ、ストライフオウルをその場に留めることに成功する。
「いくぞ!―――バーサーク!」
俺はストライフオウルを牽制するために投げた小石を横目に、即座にバーサークを使い、体を深く沈ませ、ストライフオウルの方へアーツを使い跳躍する。
「スラッシュアッパー!」
「ッ!?」
ストライフオウルから驚く気配が伝わってくるが、慣れない頭上への跳躍攻撃のせいか、完全には当てられず、剣先がストライフオウルの腹の羽毛の一部を切り払うに終わる。
しかし、ボラシティプラントの時もそうであったように、斬り上げが終わってもすぐ、予想通りに体が落下し始めることがなかったので、この内にアーツを使い追撃を放つ。
「デュアルピアース!――ッ!?」
「ホキャー!」
瞬時に突き出された2連撃の初撃がストライフオウルの胴体に当たり、悲鳴が上がる。
しかし、デュアルピアースの2撃目の攻撃は、初撃の反動のせいでストライフオウルとの距離が開いてしまい、当てることができなかった。
ストライフオウルのHPバーを見てみると、今の攻撃で4割程HPが減少していた。
どうやらボラシティプラントとは違い、弱点属性で攻撃すればきちんとダメージが入るようだ。
「ホオォォォー!」
そうやってストライフオウルの方を落下しながら見ていると、ストライフオウルが8つの風刃らしきものを生成し俺に向けて発射した。
俺に次々と殺到してくる風刃が視界に入ると、見切りのスキルにより攻撃の到達予測線が視覚化される。
俺はその到達予測線が俺に当たっている風刃のみを狙い、ノービスソードを振り冷静に斬り壊していく。
パキン! パキン! パキキィン!―――スタッ!
あれ? 風刃ってたしか8つあったよな。
俺が斬り壊したのが4つ、俺に当たらず後方へと飛んで行ったのが2つ……残りの2つは何処だ?
そう思い、着地後すぐに辺りを見回そうとすると、俺の両斜め後方から、ガラスが割れるような破砕音が立て続けに2つ聞こえてきた。
すぐ様後ろを振り向くと、シエルの生成したライトシールドとネロが生成したと思しき黒い凧型盾のシャドーシールドが、ストライフオウルが放った残り2つの風刃と、対消滅していく所だった。
「シエル、ネロ、フォローありがとな」
『どういたしまして~♪』
「・・・・・・」
俺が後方にいるシエルとネロにお礼を言いつつ視線を向けると、シエルのHPバーが少し減少しており、ネロは先程出した指示通り魔法を使う時は元の姿で且つ、攫われないように潜影移動を使ったためか、その姿はない。
フォローの礼に対する返答がないのは、潜伏場所をストライフオウルに察知されないためだろう。
……ん?
シエルのHPバーが減っている?
何故? …………まさか。
俺に当たらず後方に飛んで行った2つの風刃は、最初から俺を狙ったものではなく、俺の後方にいたシエルとネロを狙ったものだった?
もしもそうだとしたら、このストライフオウルというモンスターは、とても賢いか戦い慣れていることになる。
なぜなら、普通落下中の人は空中では回避行動がとれないから、狙われればなす術無く攻撃が命中する。
さらに、空中で回避ができない人を隠れ蓑に使い、その延長上にいる他の仲間を攻撃し、他の仲間からの援護を阻止している。
着地後、予め対象の死角を突くように発射された2つの風刃を見ないで避けることは難しく、現に俺は避けられずにいた。
そして、これらの攻撃全てが命中しても猶、まだ対象が生存しているようなら……。
と、そこまで考えると、言いようの無い悪寒が背筋を伝った気がしたのと同時に、『うしろ!』っとシエルから注意を喚起させる叫びが心に響く。
「ッ!――っく!」
俺は咄嗟に、地面に腹這いになるように身を伏せ、避けようとするが、完全に避けきることができず、背中に軽い衝撃と痛みが走る。
HPを確認してみると、バーサークのせいもあり、2割強のダメージを負っていた。
『このー!―――ライトアロー!』
シエルの怒ったような声と共に、光の矢が9本発射され、上空へと戻っていくストライフオウルに次々と襲い掛かって行く。
しかし、緩急を付けた見事な飛行により、幾つか掠りはしたものの、完全に命中するものは1本も無く、次々と回避されてしまっている。
またライトアローを回避した後の隙を突くように、様々な場所から4本ずつ断続的に発射されるシャドーエッジをも難なく避けていく。
俺は起き上がりながら、ストライフオウルのHPバーを確認してみると、残りのHPは半分程になっていた。
これは少しまずいな。
今までの戦いを思い返してみると、シエルの攻撃は掠りはするが、完全に命中はせず、残りのMP全てを費やしても、倒しきることはできそうにない。
そもそもMPが0になったら、日が昇っていない今シエルに攻撃する手段は無くなる。
ネロはMPは豊富にあるが、今の所ストライフオウルにダメージを一切与えられていない。
それに、ネロの影装変化はついさっき解いたばかりだから、リキャストタイムが終わるまで再使用はできない。
それで無くとも、今夜集まった影を使って変化したところで、地上のモンスターでは攻撃が届かず、飛行できるモンスターに変化しても、ストライフオウルよりどちらも小さいから、攫われて餌食にされる可能性が高い。
俺はと言えば、おいそれと使える中・遠距離攻撃の手段を持っておらず、今ある最も有効な攻撃法の跳躍攻撃は先程ストライフオウルに使ってしまったから、次から使っても即座に察知され逃げられる可能性が高い。
何より、空中でアーツを使った攻撃をすると、アーツの反動で初撃以降の攻撃が届かなくなる。
唯一の救いと言えば、ストライフオウルの防御力がそれほど高くないこと位だろうか。
何にしても、このままでは詰んでしまうのが目に見えているから、何とかしてストライフオウルに攻撃を当てる方法を考えなきゃな。
俺はストライフオウルから時折飛んでくる風刃を悉く斬り壊しながら、ストライフオウルに攻撃を当てる方法を考える。
攻撃が避けられるなら、攻撃を避けられない時に攻撃するのはどだろうか。
つまり、ストライフオウルが攻撃する時に合わせて攻撃するということだ。
ストライフオウルが先程のように直接攻撃をして来てくれれば、タイミングを見計らいカウンターを決めることができるだろうが、それではストライフオウルが直接攻撃を仕掛けてくるまで待たなければならない。
そうすると場合によりけりシエルのMPが枯渇し、戦線離脱を余儀なくされる可能性があるからストライフオウルの直接攻撃を待つのはよろしくない。
それならば、ストライフオウルが魔法を撃つ時ならどうだろうか。
ストライフオウルが放つ風刃をも飲み込む程の攻撃でなければ逆に、こちらがやられてしまう可能性があるが、幸いにもそれだけの攻撃を出せる手段はある。
ただ、これ1つだと外してしまった時に詰んでしまうから、他にも取れる手段を考えないとな。
う~ん・・・・・・あっ。
そういえば、昼間にフィリアとこの西の森に来た時も、攻撃を避けられない工夫をしたっけ。
ということはアレも使えるな。
後は……っと考えをまとめていき、2段構えならぬ多段構えの作戦を立て、シエルとネロに指示を出し、作戦を開始する。
幸い、作戦行動開始のトリガーになる、ストライフオウルの魔法攻撃は、然程待つことも無く来た。
ストライフオウルの周囲に次々と風刃が生成されていくのを視認すると、ストライフオウルが風刃を発射する時に攻撃できるようにタイミングを見計らい、体を深く沈ませてストライフオウルの方へアーツを使いながら、跳躍する。
「スパイラル……」
アーツを使う意思に反応して、剣身に赤い螺旋状のエネルギーを纏い、馬上槍の形状を生成する。
跳躍の頂点に達すると、ストライフオウルが俺を見ながら目を剝き、生成した8つの風刃を俺に向ける。
「ホオォォォー!」
「シェイバー!」
ストライフオウルが俺に向かって8つの風刃を打ち出すのとほぼ同時に、引き絞っていたノービスソードを突き出し、剣身を起点に赤いエネルギーが発射され、急速旋回しつつエネルギー状の部分を膨張させ、ストライフオウルが放った8つの風刃を飲み込みながらストライフオウルへと放出されていった。
「ホォッ!?」
ストライフオウルは驚愕したような鳴き声を上げると、スパイラルシェイバーの赤いエネルギーを避けるためか、羽ばたくことを止め、両翼を折り畳み、地面に落下するようにしてその場を離れる。
だが、どうにか掠らせること位はできたようで、ストライフオウルのHPバーを見ると残り2割を切っていた。
はぁ~。
予想はしていたこととはいえ、やっぱり避けられたか。
これでも俺の持つ切り札の1つなんだけどなぁ。
そうやって着地しながら少し凹みつつ思っていると、ふいに俺の体全体とノービスソードを包んでいた赤いオーラが消えた。
どうやらバーサークの効果時間が切れたようだ。
「ホオォォォー! ホオォォォー!」
さも怒り心頭といったような鳴き声のする方を見ると、上空3m程の所で滞空するストライフオウルの周囲に再び、風刃が生成されようとしていた。
「シエル!」
俺は手で目を庇いながら、先程指示した作戦を実行するためシエルの名を呼び、合図を出す。
『フラッシュライト!』
シエルが俺の合図と共にフラッシュライトを使うと、ストライフオウルの眼前に直径3cm程の光球が出現した。
その瞬間、目を焼くような凄まじい閃光が、光球から発せられた。
「ホキョ!?」
ストライフオウルから驚いているような鳴き声が上がり、何かが地面に落ちるような音がした。
俺の目を庇っている手の影が一時的に濃くなり、それ以外の場所は閃光に照らし出され、真昼の時よりも明るくなり、そして元に戻る。
閃光が消えてすぐ、ストライフオウルの方を見ると、ストライフオウルは両目を両翼で押さえた格好で地面にうつ伏せで倒れていた。
HPバーを確認してみると、黒い雲のような盲目のバッドステータスアイコンが付いている。
「ネロ!」
俺がネロに合図を出すと、ストライフオウルの影から4本の黒い剣身が発射され、ストライフオウルの両翼に風穴を開ける。
「ホキャー! ホキョー!」
ストライフオウルは、悲鳴を上げながらまだ盲目状態であるにも拘わらず、ネロのシャドーエッジの刺さった両翼をバタバタと羽ばたかせ、空へと逃げようとする。
「ッ! 逃がすか!―――ガァァァァァアアアーーーーー!!」
俺の口からスキルを使う意思に反応して、口の大きさよりも明らかに太い光線が飛び出し、狙い通りにストライフオウルに命中させると、HPバーを砕け散らせながら光の粒子へと変わり消えていった。
「ふぅ~。どうにか倒せたな。シエル、ネロ、お疲れ様。それと、フォローありがとな助かったよ」
『おつかれさま~♪』
「キュキュウ! キュキュウ!」
それにしてもやっぱり、俺達は持久戦になるとすぐ詰みそうになるよな。
それに俺自身シエルとネロに遠距離攻撃を任せっぱなしというのは、性に合わない。
今回の狩りではアレを試すことはできなかったけど、まぁ俺達に足りないものの再確認とネロのLv上げもできたしいいよな。
さし当たって、シエルとネロに再生と再精を習得してもらって、明日からビーンさんに教えてもらった無属性魔法の使い手である人を訪ねることにしよう。
そう今後の予定を考えていると、ふいに音が鳴り、インフォメーションが流れた。
『ピロン! 種族Lvが10に達したことにより、パッシブスキル:〔虚空庫〕の能力の一部が解放されました。詳しくは、スキル欄にある虚空庫のスキル説明をご確認下さい』
『ピロリン♪ クラスLvが上限に達しました。種族Lvがロックされました。これ以後クラスチェンジするまで、取得経験値は蓄積され、種族Lvが上がらなくなります。種族Lvを上げたい場合は、クラスチェンジを行って下さい』
『ピロン! パパーン♪ これまでの行動により、〔称号:初心者の心得〕を入手しました』
『ピロン! 保有称号数が10に達したことにより、ステータスポイントを10ポイント入手しました。ステータスポイントの割り振りは、別途ステータス画面から行って下さい』
『ピロン! シエルの種族Lvが10に達したことにより、パッシブスキル:〔念力Lv0〕を取得しました』
『ピロリン♪ テイムモンスター:シエルの進化条件を満たしました。テイムモンスターの進化は、別途テイムモンスターのステータス画面から行って下さい』