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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第2章  Fランククエストと隠されし店
51/123

Locus 45 

 そこでは激しい戦いが繰り広げられていた。

 ボラシティプラントは、鋭い牙を持つ(あぎと)による噛み付きに加え、数多の太く長い蔓状の根を振り上げ、まるで鞭のように振り回してシエルを叩き落とそうと攻撃している。


 対してシエルは浮遊飛行を駆使して、ボラシティプラントの攻撃を縫うようにして回避し、避けきれない攻撃はライトシールドで防ぎ、隙を見つけてはライトアローやレイビームで攻撃して、ボラシティプラントのヘイト(敵愾心(てきがいしん))を稼ぎ注意を引き付けていた。


 両者のHPバーを見てみると、ボラシティプラントのHPは残り7割程であるのに対し、シエルのHPは残り5割を切っていた。


 ……あれ?

 先制してシエルが攻撃していたはずなのに、シエルの方がHPが減少している。

 

 先制攻撃なんか目じゃないという程ボラシティプラントの攻撃の手数が多いのか、将又(はたまた)ボラシティプラントの生命力か防御力がシエルの攻撃力より高いのか……まぁ何にしても、このままではシエルが危ないので、ボラシティプラントを攻撃してシエルから注意を逸らさなきゃな。


 シエルに声を掛けると、シエルの回避行動に隙が生じてボラシティプラントの攻撃をもろに食らう可能性があるから、声を掛けるのは攻撃してボラシティプラントの注意が俺に向いた時でいいよな。


 俺はそう考え、素早くボラシティプラントの背後に回り、攻撃を加えた。


「レイスラッシュ!」

「ダブルスラッシュ!」


「ギシャァァァアアアアア!!」


 ボラシティプラントの背後から数多の根の根元を真一文字と×の字型に斬り付けると、ボラシティプラントから盛大な悲鳴が上がり、シエルへの攻撃行動が止まってボラシティプラントの頭部がこちらを向く。


 俺はボラシティプラントの注意がこちらにい向いたことを確認すると、即座にシエルに声を掛けつつ、ボラシティプラントのヘイト(敵愾心(てきがいしん))を稼ぐように根に攻撃を加えていく。


「シエル! 引き付け役、ありがとう! 今は後方に下がって、回復に(つと)めてくれ」


「・・・・・・」


 シエルから『は~い』という返事が伝わってくる。


「それと、回復し終えたらまた戻って戦いに参加してくれ。今度は俺が引き付け役をするから、シエルは後方からの支援を頼む」


「・・・・・・!」


 シエルから『わかった!』という返事が伝わってくると、俺の後方へと飛んでいった。


「シャァアアア!」

 

 ボラシティプラントは俺の後方へと下がったシエルを逃すまいと大口を開け、シエルの方へと首を伸ばしていく。


「っと、おまえの相手はこっちだ!―――ネックハント!――ッ!?」


「ギシャァアアア!」


 俺はシエルにボラシティプラントの攻撃がいかないように、シエルの方へと伸ばされた首くらいまでなら十分に攻撃が届くだろうと、全力で跳躍しながらネックハントで斬り上げた。


 すると、ネックハントによる攻撃で跳躍の勢いが減ったにも関わらず、俺の体はボラシティプラントの頭部より高い所にあった。

 

 え……何で? と思ったが、そんなことよりもこのチャンスを生かした方が良いと思い直し、大口を開けた頭部へと攻撃を当てる。


「ヘッドクラッシュ!」


「ギシェシュグム!?」


 ヘッドクラッシュによる打ち下ろしでボラシティプラントが開けていた大口を強引に閉ざし、地面に叩きつけ、シエルの方へ攻撃しようとするのを阻止する。


 ボラシティプラントのHPバーを確認してみると、まだ5割以上残っている有様だった。

 弱点属性である斬属性の攻撃でもコレってどんだけ硬いんだよ!

 でも、なら何故弱点属性でもないシエルの攻撃で、ボラシティプラントのHPはここまで減っているんだ?


 ……考えられることは1つ。

 シエルが知らず知らずの内に、ボラシティプラントの弱点箇所を攻撃していた可能性だ。

 それなら、俺達がブライトネスビートル等を倒している間に、こんなに硬いボラシティプラントのHPを半分まで削ることができたことに、納得がいく。


「キシャァァァアアアアア!!」


 そんなことを考えていると、ボラシティプラントは威嚇するかのように咆哮を上げ、根を鞭のように振り回しながら俺に、襲い掛かってきた。


 ボラシティプラントは、根を鞭のように(しな)らせながら、時に下から(すく)い上げるように、時に薙ぎ払い、又ある時は振り下ろすように縦横無尽に振り回して、攻撃してくる。


 俺に襲い来るボラシティプラントの攻撃が視界に入ると、見切りのスキルによって攻撃到達予測線が視覚化されていたが、ボラシティプラントの攻撃速度が予想より早く()つ、攻撃の手数が多かったために完全には避けきることができず、更に再生のスキルがあるにも関わらずジワリジワリと、HPが減少していっている。

 こちらも負けてはいられないと隙を見ては攻撃しているが、与えられるダメージは少ない。


 このままでは、シエルが戻ってくるまで持ちそうにないかもしれないと考え、この状況を打破するためにアーツを使う。


「ソードダンス!」

「ウィークネスアイ」


 アーツは問題なく発動し、俺の体全体とノービスソードを銀白色の燐光で包み、ボラシティプラントの弱点が赤く光り、視覚化される。


 視覚化されたのは、天然の鎧のようになっている棘々とした茂みの奥、ただ一つだった。


 茂みの奥?

 俺はボラシティプラントの攻撃を(さば)きつつ、それとなく茂みの奥を注視してみた。

 棘々した茂みは細かく生えており、辛うじて断片的に茂みの奥を見ることはできるが、それ以上はよく分からなかった。

 

 あの茂みの奥を攻撃するには、剣や矢等では途中で止まってしまいそうだ。

 槍とかがあればまだ違ったんだろうけど、無いものねだりをしても仕方無い。


 そうすると、シエルのようなレイビームみたいな形の無い攻撃……エネルギーを放出するようなスキルやアーツなら、あるいは……。


 そう考えていると、ふいに視界が真っ赤に染まった。


「ッ!?」


 どうやら思った以上に深く考え込んでいたらしく、状況把握が(おろそ)かになっていたようだ。

 俺は次に来るであろう衝撃に備え、防御姿勢を取ろうとすると、突然赤く染まっていた視界が元に戻った。


 なんだ?

 そう思いつつも回避を続け、まずは自分のHPを確認してみるが、変化はない。

 次にボラシティプラントの方を見てみるが、相変わらず見切りのスキルによる攻撃到達予測線が視覚化されているので、見切りのスキルが使えなくなっているわけでもない。

 それならいったい……?


 そう思いながら辺りを見回してみると、ボラシティプラントの根に黒い剣身が突き刺さっているのが見えた。


 なるほど! ネロか!

 恐らくあの黒い剣身を射出し、ボラシティプラントの根に当てて軌道をずらしたのだろう。

 よくよくボラシティプラントのHPバーを見てみれば、残りが4割弱になっている。


 見えないところで着実にダメージを積み重ねていった結果なのだろう。

 ネロに対してコレといった指示は出していないが、自分で考えて行動できるとは、なんてできた獣魔なんだ!

 とても生後数時間だなんて思えないけれど、今は助かっているし良い成長傾向だということにしておこう。


 そう考え、回避を優先させつつ隙を見てはまた、攻撃を再開させていった。

 ソードダンスのおかげで、さっきより余裕を持って回避ができ、さらに与ダメージ倍率の増加に伴い微量ではあるがダメージも増加しているようだ。


 ちまちま、ちまちまと小さなダメージを積み重ね、ボラシティプラントのHPバーが3割を切った時ソレは起こった。


「キシャァァァアアアアア!!」


 ボラシティプラントは、振り回していた根の動きを止め、腹の底に響くような咆哮を上げると、口から大量の紫色をした霧(煙?)を吹き出した。


 俺は咄嗟に左手で鼻と口を押さえたが間に合わず、全身が筋肉痛の時のようなだるさと鈍い痛みが、俺を襲う。

 視界の端を見てみると、紫色をした泡のようなアイコンが付いていた。

 どうやら毒のバッドステータスに掛かったようだ。


 まずいな……。

 せっかくソードダンスで余裕を持って回避できるようになったのに、毒のスリップダメージのせいで間接的に再生によるHP回復のアドバンテージが無くなったことになる。


 いや、それだけじゃない。

 全身のだるさや筋肉痛のような鈍痛のせいで、若干動きのキレが悪くなっているように感じる。


 例え、素早く動けたとしても滑らかに動けなければ、補足しやすい単調な動きになってしまい、そう遠くない内に致命的な攻撃を受けることになってしまう。

 それでなくとも、今現在ソードダンスを使う前のようにボラシティプラントの攻撃を回避しきれず、ジワリジワリとダメージが蓄積してもう残りのHPが半分を切ってしまっている。

 

 どうする……この状態で賭けに出るべきか、それともアレを使ってしまうべきか。


 そう考えている間もジワジワと俺のHPは減り続け、残りのHPが3割に差し掛かった時ふいに、俺の体全体が『ポゥ』と光りそして消えた。

 

 HPを確認してみると7割近くまで回復しており、思考にも若干の余裕が戻ってくる。


 今のは恐らくシエルのキュアライトだ。

 ということは、シエルが戻ってきたのだろう。

 シエルが戻ってきた今なら賭けに出ても、ノーリスクとまではいかないだろうが、かなりリスクを減らせるということになる。

 それにアレを使うならこんな状況ではなく、もっと苦戦している時とかに使いたいしな。


 そう考え、俺はウィークネスアイを使ってボラシティプラントの弱点を見つけた時に思いついた作戦を実行するために、近くに居ると思しきシエルに声を張り上げる。


「シエル! 今からボラシティプラントの弱点に攻撃を仕掛けるから、その後に続いて同じ場所にレイビームを打ち込んでくれ!」


「・・・・・・!」


 シエルから『わかった!』という返事が後方から伝わってきた。


「次に、ネロ。潜伏状態が解けるきっかけになるかもしれないから、返事をせずそのまま攻撃を続行してくれ。それと、さっきはフォローありがとな。正直助かった」


 そうネロに指示を出してから、先程のフォローのお礼を伝え、普段戦闘中には使わないポーションを取り出し、一気に飲み干した。


 20パーセントの確率で毒の状態異常を回復する劣化・複合ポーションもあったが、この辺り一帯にまだ先程ボラシティプラントが吐き出した毒霧が(ただよ)っていたし、それにまたボラシティプラントが毒霧を出せば意味がないと思い、別のポーションを使うことにした。


 ポーションをつかったことで俺のHPが9割近くまで回復したのを確認すると、俺は作戦を実行するためアーツを使った。


「よし、それじゃいくぞ!―――バーサーク!」


 ソードダンスの銀白色の燐光とバーサークの赤いオーラが混ざり、俺の体全体と武器が鮮やかな赤、紅色(くれないいろ)の燐光に包まれる。

 

 俺は問題なくアーツが発動したことを確認すると、目標となる茂みを注視しつつ外さないように気を付け、更にアーツを使う。


「スパイラル……」


 アーツを使う意思に反応して、俺の体全体を包んでいた銀白色の燐光が消え、ノービスソードの剣身に赤い螺旋状のエネルギーを纏まとい、馬上槍(ランス)の形状を生成する。


「シェイバー!」


 突き出しと同時に、ノービスソードの剣身を起点に赤いエネルギーが急速旋回しつつ発射され、エネルギー状の部分を膨張させ、狙い違わずボラシティプラントの棘々した茂みへと放出されていった。


「ギュシュァァァアアアアア!!」


 ボラシティプラントから凄絶(せいぜつ)な悲鳴が上がり、あれほど減らすのに苦労したHPが急速に減っていき、残り5分弱のところで止まった。

 

 やっぱりか……。

 これは恐らく、弱点の前にある茂みにある程度攻撃の威力を減衰(げんすい)させられたのだろう。

 しかし、そのことはすでに予想済みだ。


 そうやってボラシティプラントのHPバーを確認していると、シエルから『レイビーム!』と唱えているのが伝わってきて、先程俺が攻撃してボラシティプラントの茂みがなくなって弱点が剥き出しになっている所に、直径15cm程の光線が照射された。


「ギャシャァァァアアアアア!!」


 ボラシティプラントから更に断末魔の絶叫のような悲鳴が上がり、数多の根と長い首のような茎をのた打ち回らせている。

 ボラシティプラントのHPバーを確認すると、残り数ドットの所でHPの減少は止まっていた。


「はぁ。レッドボアといい、ボラシティプラントといい、なんでこんなにしぶといんだろうな」


 俺はそうぼやきながら、ボラシティプラントに止めを刺すべく歩き出そうとすると、ふいにボラシティプラントが『ビクンッ』と大きく跳ね、そして光の粒子へと変わっていった。


 ボラシティプラントが消えた後には黒い剣身が地面から生えていたので、恐らくネロが止めを刺してくれたのだろう。


「ふぅ~。予想外に手間取ったな。ネロ、ラストアタックありがとな。助かったよ」


「キュキュウ!」


 俺がネロにお礼を言うと、何時の間に戻って来たのか、俺の影からネロの元気な鳴き声が聞こえてきた。


「シエルも回復と攻撃ありがとな。おかげで考えに余裕が持てて、下手を打たなくて()んだよ」


「・・・・・・~♪」


 シエルから『どういたしまして~♪』と言っているのが伝わってくる。


 本当に、今回戦ったボラシティプラントはレッドボアに匹敵するしぶとさがあった。

 ああいうしぶとさって今回みたいに、強いモンスターとその取り巻きみたいなモンスターを分断する場合、必要ではあるんだけど俺もシエルもそれほど防御力は高くないんだよな。


 そう思い、俺はネロにある提案をするために、声を掛けた。


「なぁネロ、さっきのボラシティプラントって防御が硬くて手強かったよな」


「キュウ!」


 ネロは俺の意見に賛同するように、元気良く鳴いた。


「ならさ、ボラシティプラントの影を記憶して置かないか? 何かの拍子にボラシティプラントの影を使ったり、使わずに消しちゃうのは少しもったいない気がするし、それにネロがボラシティプラントの影を使えば、俺達に足りないディフェンダーを補うこともできるしさ」


「キュ? キュキュ~~~……キュウ!」

 ネロは俺の影から上半身を出して、小首を傾げ、何かを考えるように腕を組みながら瞑目(めいもく)した後、(うなず)いた。


「これは……やってくれるのかな? ありがとな、ネロ」


「キュウ!」

 

 俺はネロがボラシティプラントの影をどのように記憶するかは分からないが、念のため気配察知と発見のスキルを使い付近にモンスターが居ないことを確認してから、ネロに影記憶をするように頼んだ。


「それじゃ、ネロ。始めてくれ」


「キュキュウ! キューーーウ!!」


 ネロが鳴き声を上げると、ネロを中心に(ほの)暗い光を発する方陣が出現し、その方陣の中にいるネロの影が四方八方に伸び、今まで倒したモンスターの影に変化していった。


「キュゥウ!」


 ネロの鳴き声を合図に今度は、ネロの周りにあった仄暗い光を発する方陣が四方八方に伸びたネロの影の一つに滑るように移動し、ボラシティプラントの影を囲むように膨張した。

 そして方陣が一瞬強い光を発すると方陣もネロから伸びていたモンスター達の影も消えていた。


 どうやらこれで、無事ボラシティプラントの影を記憶できたようだ。

 

 記憶したボラシティプラントの影を実際に使ってどういう風になるか気になったが、今それをやるとMPがもったいないと思い、今後の戦闘で存分にその雄姿を見ようと思う。


 その後俺達は手早くHPとMPを回復し、西の森の奥へと強いモンスターを探しに進んでいった。



~おまけステータス:影装変化:ボラシティプラントVer~


name:ネロ

sex:?

race:シャドービーストLv5

HP:150  MP:250

STR:32

VIT:50 

AGI:10

INT:10

MID:46

DEX:32

LUK:10


種族スキル:〔影装変化〕、〔影記憶〕


スキル:〔影魔法Lv6〕、〔影抵抗Lv1〕、〔影耐性Lv5〕、〔潜影移動Lv5〕、〔宿紋化Lv0〕、〔潜伏Lv4〕、【索敵Lv0】、【捕食回復Lv0】


固有スキル:〔専化影装〕



【  】内は影装変化中に使えるパッシブスキル

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