Locus 44
……茂み?
そうだ! 茂みだ!
今まで虫系のモンスターが空中を舞っていた時、その下には必ず別のモンスターが居たんだ!
ただの偶然かもしれないならそれでもいいが、もしも別のモンスターがあの茂みに擬態しているのだとしたら、厄介極まりない!
ここは一応、あの大きな茂みがモンスターかどうか調べてみることにしよう。
擬態ってたしか、動物が身を守ったり、敵を攻撃したりするために、色や形を周囲の他の物に似せて隠れることだよな。
それなら……。
そこまで考えると俺は、素早くメニューを開いてスキルを装備し直し、件の大きな茂みを見てみた。
すると、大きな茂みは薄っすらと赤く微発光しているように見えた。
やっぱりか……。
そう思い、その薄っすらと赤く微発光している大きな茂みを識別してみた。
ボラシティプラント:Lv9・属性:-・耐性:打・水・弱点:火・斬
プラント……って、動物じゃなくて植物かよ!
でもまぁ、モンスターだから動く生物? ではあるのだから、どちらかといえば動物なのかなぁ?
とそんな益体の無いことを考えながら、シエルとネロに先程立てた作戦の一部を変更して指示を出す。
「シエル。発見のスキルによってあのブライトネス等が飛び回っている下の大きな茂みが、ボラシティプラントというモンスターだと分かったから、シエルはあの茂みを最初レイビームで攻撃して、注意を引き付けつつ戦ってくれ」
「・・・・・・!」
シエルから『わかった!』という返事が伝わってくる。
「次に、ネロ。シエルがボラシティプラントを引き付けてくれている間に、ブライトネスビートルを俺が叩き落すから、ネロは地に落ちたブライトネスビートルの止めを頼む」
「キュウ!」
ネロは俺の指示に承諾するように、元気良く鳴いた。
「あ、それとネロ。俺は戦闘になったらかなり動き回ると思うから、ネロは周囲にある木々の影に移った方がいいと思うんだけど、どうする?」
「キュ? キュ~……キュキュウ!」
ネロは俺の影から頭を出して、小首を傾げながら少し考えるような仕草をした後頷き、俺の影から出て周囲の木々の影へと移動し入って行った。
「よし、それじゃシエルの攻撃を合図に仕掛けるぞ。シエル頼んだ」
「・・・・・・!」
シエルから『まかせて!』と心強い返事が伝わってくると、前方のモンスター達がいる方へとふよふよと飛んで行った。
「ネロ、俺達も移動するぞ。逸れないように、気を付けろよ?」
「キュウ!」
それから少しすると、シエルから『いくよー!―――レイビーム!』と唱えているのが伝わって来た直後、シエルから大きな茂みへと直径15cm程もある光線が照射された。
「ギシャァァァアアアアア!!」
レイビームにより、枝葉を焼かれた大きな茂みから盛大な悲鳴?が上がり、擬態が解け、ボラシティプラントの真の姿が現れる。
全高が2m強もあり、色は全体的に濃緑色をしている。
下から50cm位の所までは、複雑に絡み合った数多の太く長い蔓状の根が生えており、宛も多足生物のように動かし、自分を襲撃した者を探し回るようにして徐々に移動している。
下から50cm程の所から上から1m程の所までは、棘々とした茂みが生えていて他者を容易には近づけさせない天然の鎧のようになっている。
上から1m程の所から頭頂部付近までは、目測で直径30cmはありそうな太く長い濃緑色の茎があり、茎の先端は大きく膨れ中程まで裂けており、その裂けている内側には鋭い牙のようなものがズラリと並んでいた。
そして茎から頭頂部までには、まるで血管のようなものが所々に浮かび上がっていて、不気味さを一層際立たせている。
「キシャァアアア!」
「・・・・・・!?」
ボラシティプラントは自分を攻撃した敵対者であるシエルを見つけると、茎(首?)を上空へと伸ばしシエルをその鋭い牙で噛み付こうと攻撃する。
シエルはその攻撃を浮遊飛行の速度を上げて回避しているように見える。
しかし、完全には避けきれていないのか、ジワジワとシエルのHPが削られていく。
今は日が落ちてるからシエルの種族スキルの陽光活性(昼)は意味をなさないから、これは急いでブライトネスビートルを倒さないとちょっと危ないかな。
俺はそう思いつつ、その状況を横目に見ながら素早くノービスソードを抜剣し、ボラシティプラントとシエルの戦いに巻き込まれないように少し離れたところで滞空しているブライトネスビートル達の背後に近づき、これ等を地面に叩き落すべくアーツを使い攻撃を仕掛ける。
「スマッシュ!」
「ヘッドクラッシュ!」
「パワースマッシュ!」
「ギッ!?」
「ガッ!?」
「ヂッ!?」
ブライトネスビートル達は驚きの混じった悲鳴を上げつつ地面に叩きつけられ、転がり、パワースマッシュで攻撃したブライトネスビートルBは、地面に叩きつけられるのと同時に光の粒子へと変わっていった。
残りの2体のブライトネスビートルは手足をジタバタとさせ、必死に起き上がろうともがいている。
「ネロ!」
「キュキュウ!」
俺の声を合図に、ネロはよりHPが減っているスマッシュで叩き落としたブライトネスビートルAの影から2本の黒い剣身を射出し、甲殻の間と腹にシャドーエッジを突き刺し、光の粒子へと変えた。
残りのブライトネスビートルCの方を見ると、起き上がることを止めて仰向けの状態のまま自身の周りに6本もの光の矢を生成し、撃ち出す寸前だった。
っ! まずい!
俺は速やかにアーツを使い、コレを迎え撃つ体制を整える。
「マジックミューティレイト!」
問題なくアーツが発動し、俺が持っているノービスソードの剣身を青白いオーラが包み込む。
「ギギィ!」
マジックミューティレイトを使った直後、ブライトネスビートルCが俺に向け、6本の光の矢を放ってきた。
俺を射抜かんと襲ってくるライトアローが視界に入ると、見切りのスキルによって到達予測線が視覚化される。
俺はその到達予測線に割り込むようにしてノービスソードを振り、放たれた6本のライトアロー全てを次々と斬り壊す。
パキキキキキキィィィン!!
「ッギヂ!?」
ブライトネスビートルCが驚くような鳴き声を出し、硬直している所に2本の黒い剣身が刺し込まれた。
ネロのシャドーエッジだ。
俺がブライトネスビートルCのHPバーを確認するとまだ、3割弱残っていたので、ネロを褒めつつブライトネスビートルCに止めを刺すべく近づき、攻撃を放つ。
「ナイスだ、ネロ! これで止めだ!―――スマッシュ!」
「ギヂヂヂィ!」
ネロのシャドーエッジで文字通り地面に縫い止められているブライトネスビートルCに、逃れる術は無く、もろにノービスソードによる打ち下ろしを受けて甲殻ごと拉ぎ潰れながら苦悶が入り混じった悲鳴を上げ、光の粒子へと変わっていった。
「ふぅ~。ヘッドクラッシュが不発だった時は焦ったけど、何とか被害を出さずに倒せてよかったな。それじゃ、ネロ!シエルの応援に行くぞ! まだ大丈夫だとは思うけど、早いに越したことはないからな」
「キュウ!」
ネロは元気良く返事をするように鳴き、俺はネロを伴ってシエルがボラシティプラントと戦っている方へと向かって行った。




