Locus 4
―――――目を開けると、俺は広場に立っており、そこには現実離れした光景が広がっていた。
中世ヨーロッパにあるような建物、様々な武器を持っている人々、そしてなにより……多種多様な種族。
線が細く色白で耳の長いエルフ、色黒の筋肉質で髭面のドワーフ、頭にケモ耳・尻尾を生やした獣人、額から2本の角を生やしたオーガノイド、そして現実ではありえない髪色をした人々。
俺はそんな光景を突っ立ったまま眺めていたが、広場の人がどんどん増えてきたので、移動することにした。
妹からの連絡もまだないし、あればあってから行動すればいいかと思い、俺はこの中世ヨーロッパ風の街の散策に出かけた。
少し気ままに歩いていると、ふと良い匂いがしてきた。
匂いの発生源に向かうと、そこには串焼きを売っている屋台があった。
串焼きを焼いてる人のマーカーは青、つまりNPCだ。
このゲームではマーカーの色により、どういう存在であるかが分かるようになっている。
マーカーの色が青ならNPC、緑ならPC、赤なら敵だ。
又、犯罪を犯したNPCやPK等をしたPCでもマーカーが赤になるらしい。
俺は串焼きを焼いてるおっちゃんに、近づいて行き話しかける。
「こんにちは、美味しそうな串焼きですね」
「おぅ! らっしゃい。そうだろうそうだろう、この串焼きはこの街自慢の一品で、うちの屋台秘伝のタレを使って焼いてるんだぜ」
そう男臭い笑みを浮かべつつおっちゃんは言った。
「ほほ~う。んじゃ試しに一本下さい」
「まいどあり! 一本50Rだぜ」
俺は、お金を払おうとして、どうやって払えばいいか分からなかった。
「ん? どうした?」
「いや、Rはあるんだけど、どうやって払えばいいか分からなくて……」
「あぁ! あんた異邦人かい。なら知らないのはしゃーないな。んじゃ払い方を教えてやるよ」
「えっ! ありがとうございます」
「いいってことよ。んで金の払い方だが、金を払う意志を込めて、いくら実体化させたいかと思えば、実体化できるぜ」
俺はこの説明で、なんとなくスキルやアーツを発動するときに似ているなぁと場違いなことを思った。
言われた通りに、このおっちゃんに50Rを払いたいと思うと、右手の中に硬貨が出現した。
その硬貨は、銀色をしていて表面には薔薇の花が描かれていた。
裏面には数字の50を中心に、おそらく薔薇の花びらが、数字の50を囲むように描かれていた。
「おお! 出てきた。んじゃこれでいいかな?」
そう言いつつ、先程出現した硬貨をおっちゃんに渡した。
「ん……確かに、んじゃほれ」
そう言っておっちゃんは串焼きを手渡してくれた。
俺はその香ばしい匂いに釣られ、一二も無くその串焼きを口に入れる。
口いっぱいに広がる、甘辛いタレの味、プリップリでジューシーな肉の歯ごたえと旨み。
「美味い!」
「だろう!」
俺は残りの串焼きを頬張り、もぐもぐと咀嚼し、飲み込んだ。
「ごちそうさま、んでこの肉って何の肉なんですか?」
「ん? これか? これは、モノコーンラビットの肉だぜ」
「おお! そっか、モノコーンラビットの肉かぁ……」
料理スキルもあるし、串焼きなら結構簡単にできそうだよな。
この屋台のタレはないけど、材料さえあればコレに準ずる位のものはできそうだ。
「んじゃ、おっちゃん俺行くよ」
「おぅ! またよろしくな」
そう言って俺はおっちゃんの屋台を離れ、街の散策に戻った。
しばらく、町並みを眺めつつ歩いていると、なんだか辺りを見回してキョロキョロしている人物を見つけた。
マーカーの色は緑、プレイヤーだ。
そのプレイヤーはエルフの女性かな? 薄桃色の髪から飛び出している長い耳が見える。
ふむ……一応何をしているか聞いてみるか、見た感じなんか困っていそうだし。
そう思い、俺はその女性に近づいて行き、声を掛けた。
「あの……どうしたんですか? そんなに辺りを見回して」
「えっ! あっはい。えっと、その……み、道に迷ってしまって……その、う~」
そう言い彼女は顔を赤くし、恥ずかしそうに俯いてしまった。
「あはは、迷子ですか。ん~そうだ、良ければ中央広場まででしたら、案内できますけどどうですか?」
「えっ……でもなんか悪いですし」
「大丈夫ですよ。俺もそろそろ戻ろうと思ってた所なんで」
彼女は一瞬びっくりしたような顔付きをした後、そわそわと視線を彷徨わせつつ、おずおずと言った。
「で、では、よろしくお願いします」
「うん。じゃ行きましょうか」
そうして、彼女と共に中央広場へと歩き出していった。
しかし、何故どもる?
中央広場へ行く道中、お互いに自己紹介をした。
彼女の名前は、フィリアというそうだ。
髪は薄桃色のセミロングで、金色の瞳をしているエルフだ。
背中にはメイスを背負っている。
『SLO』にはリアルの友達に誘われてプレイすることになったらしい。
今後のプレイスタイルとして回復系のクラスに就きたいとのこと。
そうやって話ている内に、中央広場へと到着した。
「ほんとうに、ありがとうございました」
フィリアは深々と頭を下げるながらお礼の言葉を述べた。
「いや、困ったときはお互い様ってことで、もう迷子にならないようにな」
「あははは……前向きに善処します」
フィリアは約束を守らない政治家の様な返事を返してきた。
「そのもの言いから察するに、さては迷子常習犯だな?」
フィリアは笑いながら、俺のジト目から目を逸らし、こちらを見ようとしない。
「あの……もしよろしければ、これも何かの縁ってことで、フレンド登録してもらえませんか?」
フィリアは明らかに強引な話題転換をしたが、フレンド登録をするのに特に否はなかったので、フレンド登録をした。
互いに登録が終わると、ふいにどこからか「ポーン」「ポーン」という音が聞こえてきた。
軽く周囲を見回してみると、視界の端にVCと書かれたアイコンが見えた。
俺はフィリアに断わりを入れ、視線入力でそのアイコンを選択して音声入力で回線を開いた。
「ボイスチャット オープン」
『あっ、お兄ちゃん? 今何処に居るの?』
「おっ千歳か? 結構掛かったんだな。」
『うん、そうなんだよ。β時代の時よりも色々変わってて、どれにしようか目移りしちゃって、かなり時間が掛かっちゃたの。待たせてごめんね、お兄ちゃん』
「いや、千歳から連絡来るまでこの街を散策できたから、大丈夫だぞ」
『そっかぁ、よかったぁ』
「それで今居る所は、中央広場の……教会付近だな」
俺達がいる場所の後ろには、教会らしいステンドグラスが張られた建物があり、尖塔の上には何かの聖印らしきものが見えていた。
『じゃぁ、教会の入り口付近で待ち合わせしよ? 今ちょうどβ時代にパーティ組んでた人達もいるし、お兄ちゃんを紹介したいから』
「ああ、分かった、待ってる。あ、それと俺の見た目は髪が銀灰色で目が赤紫のヒューマンで名前はリオンだ」
『了ー解でっす♪ 私は、碧銀の髪に目が青色のフェアリーで、名前はアリルだよ』
「分かった、んじゃ教会の入り口で待ってるな」
『うん! すぐ行くね』
そう千歳―――いや、アリルは言いVCの回線が切れる。
俺はフィリアの方を向くと、ちょうどフィリアもVCが終わったところのようだった。
「フィリア、俺の連れがそろそろ来るって連絡があったから、待ち合わせ場所に行くな」
「あ、はい。私の方も連絡がありましたから、ここで待つように言われてますので、気にせずに行って下さい」
フィリアに連絡した人は、フィリアのことがよく分かってるらしいな。
その場から動かないように指示を出す所とかが、特に!
「ん。それじゃまたな、何かあれば連絡をしてくれ」
「はい! ありがとうございます。ではまたです」
フィリアと別れを交わし、俺は待ち合わせの場所に行った。
アリル達を待っている間に、俺はスキルの説明を読み込んでいく。
やはり、スキル取得時との説明内容が変わっていて、より詳細に分かるようになっていた。
種族スキル:〔混血・竜の息吹〕
1日1回使用可能。毎日午前0時00分にリキャストタイムが完了する。
威力はINTに依存。ブレスの属性は、火・水・風・地・光・影の内から1つを選択する。
但し、属性を1度決めるとそれ以後の変更はできない。 消費MP:0
俺は属性を光に選択し、決定ボタンを押して、続きのスキル説明を読み込んでいく。
種族スキル:〔竜言語Lv0〕
種族スキル選択でハーフドラゴンを選択すると、自動で取得する。
亜竜・真竜との会話および、竜言語の読み書きが可能になる。 MAXSLv10
〔ES〕エンハンススキル:〔STR増加Lv0〕
10+(SLv)分STRにプラス補正。 MAXSLv100
〔ES〕エンハンススキル:〔AGI増加Lv0〕
10+(SLv)分AGIにプラス補正。 MAXSLv100
〔AS〕アクティブスキル:〔鑑定Lv0〕
SLv上昇と共により高いランクのものの詳細情報が調べられるようになる。 MAXSLv100
〔AS〕アクティブスキル:〔剣Lv0〕
5+(SLv)分、剣のATKにプラス補正。
装備中の剣の耐久値消耗率を軽減。 MAXSLv30
〔AS〕アクティブスキル:〔料理Lv0〕
5+(SLv)分DEXにプラス補正。
料理成功確率が上昇。
食材アイテム等を用いて、食品アイテム等を作成することができる。 MAXSLv30
〔AS〕アクティブスキル:〔気配察知Lv0〕
SLv上昇と共に、より精度が高く、察知範囲が広がるようになる。
察知範囲は、自分を中心に半径5×(1+SLv)m MAXSLv30
〔PS〕パッシブスキル:〔虚空庫 rank1〕
(1+種族Lv)の2乗分のアイテムを1種類100個までいれられる倉庫。
この中では時間が止まっており、中に入れたものは時間の影響を受けない。
種族Lvが一定以上に達すると、rankが上がり能力が開放される。 MAXrank10
使い方:手に持っているものを収納したいと考えると、暗青色の渦が発生し、その渦に収納したいものを入れることで収納することが可能。
取り出したい時は、出したいものを思い浮かべるか、メニューにある虚空庫内アイテム一覧を参照し、取り出したいアイテムを選択することで、取り出すことが可能。
〔PS〕パッシブスキル:〔梟の目Lv0〕
5+(SLv)分DEXにプラス補正。
SLv上昇と共に、昼夜問わずより遠くを見通せるようになる。 MAXSLv50
〔PS〕パッシブスキル:〔発見Lv0〕
SLv上昇と共に、より巧妙に隠されたものや、見つけ難いものが視界に入っていれば赤く光って見える。 MAXSLv30
〔称号:思慮深き者〕:注意深く物事を考え、思いを巡らせることのできる者。
効果:INT3
といったものだった。そして現在の俺のステータスはこちら。
name:リオン
sex:男
age:16
race:人族Lv0
job:自由人 rank-
class:ノービスLv0
HP:146 MP:72
STR:18
VIT:8
AGI:18
INT:11
MID:9
DEX:19
LUK:8
所持金:950R 虚空庫:0/1
種族スキル:〔混血・竜の息吹(光)〕、〔竜言語Lv0〕
装備スキル:〔STR増加Lv0〕、〔AGI増加Lv0〕、〔鑑定Lv0〕、〔剣Lv0〕、〔料理Lv0〕、〔気配察知Lv0〕、〔虚空庫 rank1〕、〔梟の目Lv0〕、〔発見Lv0〕、〔 〕
称号:〔思慮深き者〕
武器:ノービスソード ATK15+1(ノービスグラブ分) HP50
頭部:
外着:丈夫な服(上・下)
内着:丈夫な下着(上・下)
胴部:ノービスアーマー DEF3
腕部:ノービスグラブ DEF2 ATK1
腰部:
脚部:
足部:ノービスシューズ DEF2 AGI1
装飾: