Locus 37
西の森のやや南よりに到着した俺達は、さっそく森の中へ入り、薬の材料となるエネルゲンマッシュルームが取れる、ノココというモンスターを探した。
森の奥へ進む様に少し行くと、気配察知に引っ掛かるものがあった。
俺はそのことをフィリアとシエルに伝えて、気配のあった方へと向かって行った。
ある程度近づくと、遠目ながら視認することができたモンスター達が居た。
そこには、全長1m弱の巨大なキノコに短い手足が生え、明るい茶色の傘のすぐ下にくりくりとした円らな瞳と、三角形の口が付いた不可思議なものが2体と、遠近感が狂ったのではないかと思える程の大きな蜂っぽいモンスターが1匹居た。
蜂っぽいモンスターは目測で、全長40cm程(羽や針は含まない)だろうか。
そして俺は、それ等を視界に入れつつ、すぐ様識別を使ったみた。
ノココA:Lv7・属性:-・耐性:打・弱点:火・斬
ノココB:Lv6・属性:-・耐性:打・弱点:火・斬
ポイズンビー:Lv6・属性:-・耐性:麻痺・弱点:火・打
どうやら、あの巨大なキノコの様な不可思議なもの(たぶんモンスター)が、目的のノココのようだ。
それとポイズンビーだが、耐性が麻痺になっていることから、恐らく麻痺毒を使うのではないかと思われる。
俺は識別で分かったことを、フィリアとシエルに教え、今後の戦いの方針について話始めた。
「それで、フィリア。どういう風に戦うかだけど、何か意見とかあるか?」
「う~ん、これといった作戦とかは無いですけど、毒持ちのポイズンビーは、先に倒した方が良いと思います。後は、パーティリーダーであるリオンさんの指示に従いますよ」
まさかの丸投げだった。
せめて、もう少し意見とか出して欲しかったけどな。
仕方ない、こちらで何か考えてみるか。
こっちは前衛が1、後衛2のパーティになるんだけど、仮に俺がノココ2体を抑え、フィリアとシエルがポイズンビーに攻撃を集中させたとしても、前回戦ったポイズンモルフォより、ポイズンビーの方が動きが速い。
そのためシエルのライトアローはともかく、フィリアのファイアーボールは避けられてしまう可能性が高い。
それに、フィリアは回復が専門だ。
攻撃魔法によってのMPの無駄撃ちは、極力避けたい。
それなら、無駄撃ちさせないためには、どうすればいいか……答えは、避けさせなければ良い。
だけど、俺には拘束系のアーツはもちろん、魔法すら使えない。
フィリアも拘束系のアーツか魔法があれば何か、言ってくるだろうしな。
シエルは……そういえば、拘束系ではないが妨害系の魔法を最近習得したっけ。
ノココにも一応目?は付いているし、たぶん何とかなると思う。
もしも効果が無くても、意表を突くきっかけ位にはなるだろう。
俺はそこまで考え、その後どう動くかの考えをまとめ、フィリアとシエルに作戦を伝えて、行動に移ることにした。
幸い、モンスター達は先程の場所からほとんど動いていないので、問題なく戦いを仕掛けることができる。
「それじゃ、シエル始めてくれ」
俺達はこれからシエルがやることに巻き込まれないよう、目に手を翳し、シエルに合図を出す。
「・・・・・・!」
シエルから『フラッシュライト!』と唱えているのが伝わってくる。
すると、モンスター達の中心に、直径3cm程の光球が出現した瞬間、目を焼く様な凄まじい閃光が光球から発せられる。
「ッ?!」
「「ニョコッ?!」」
モンスター達の方から強い閃光が発生したことで、俺達の目を覆っている手の影が一時的に濃くなり、目以外の場所は閃光によりまざまざと照らし出され、そして元に戻る。
閃光が消えてすぐモンスター達を確認すると、皆HPバーの横に黒い雲が描かれている盲目のバッドステータスアイコンが付いていた。
「フィリア!」
俺はフィリアに合図を出し、そのままノココ達の方へと駆け出して行った。
「はい! いきます。―――ファイアーボール!」
フィリアから発射された拳大の火球が、フラフラと滞空しているポイズンビーに着弾、炎上し、その衝撃でポイズンビーは地へと落下する。
「・・・・・・!」
シエルから『ライトアロー!』と唱えるのが伝わってくると、7本もの光の矢が次々にポイズンビーを刺し貫き、ポイズンビーを光の粒子へと変えた。
シエルがポイズンビーを倒した頃、まだ盲目状態でいるノココ達の所に到着した俺は、この隙に攻撃を叩き込んでいく。
「レイスラッシュ!」
「ダブルスラッシュ!」
「サークルスラッシュ!」
「二゛ョーーー!!」
「ニョコーー!」
弱点である斬属性アーツを連続で叩き込むことで、チェーンボーナスが発生したのか、ノココBは断末魔の様な悲鳴を上げ、光の粒子へと変わる。
そして、ノココAは攻撃により生じた衝撃で吹き飛び、痛みの混じった悲鳴を上げながら、転がり離れて行く。
HPバーを確認すると、残り2割弱といったところだ。
ノココBを先に倒すことができたのは、おそらくLvがノココAに比べ低かったからだろう。
「止めは、私が!―――ファイアーボール!」
「二゛ョコーーー!!」
フィリアから放たれた拳大の火球が、俺の攻撃により吹き飛び転がされたノココAに着弾し燃え上がり、残りのHPを消し飛ばして光の粒子に変えた。
「お疲れ様、フィリア、シエル。なんとかうまくいったみたいだな」
「お疲れ様です。そうですね、こちらの被害なしの完封勝利でしたね♪ よかったです」
「・・・・・・!」
シエルから『おつかれさまー!』と元気良く言っているのが伝わってくる。
「だな。それじゃ、この調子でどんどん狩っていこうか」
「はい! どんどんいきましょう!」
「・・・・・・!」
シエルから『おーーー!』と賛同するような声が伝わってくる。
その後俺達は、同じ様にして気配察知でノココを探しては、狩っていった。
◇◆◇◆◇
―――おかしい。
あれから十数体はノココを狩って、ノココから出たドロップアイテムを鑑定し調べてみたのだが、薬の材料であるエネルゲンマッシュルームは、1つもなかった。
ランドルさんは、珍しいものだと言っていなかったけど、何か聞き落としでもあるのかなぁ。
因みに、ドロップアイテムの鑑定結果はこうだった。
食材アイテム 毒蜂の羽:ポイズンビーの羽。揚げるとパリパリとした食感がし、酒のつまみとして食される、酒場の定番メニューの一つ。
素材アイテム 毒蜂の甲殻:ポイズンビーの甲殻。軽く、丈夫で橙色と黒褐色の縞模様が美しく、防具の材料になる。
素材アイテム 毒蜂の針:ポイズンビーの針。針自体に毒を含んでおり、取り扱いには注意が必要。武器の材料になる。
食材アイテム 自由歩行茸の傘:ノココの傘。多くは、明るい茶色をしており、極稀に金色の輪の模様が付いた傘が存在する。金色の輪の模様が付いた傘は、この辺りで取れる高級食材の一つで、高値で取引されている。通常のものでも十分に美味く、様々な料理の材料として使われている。
食材アイテム 自由歩行茸の亡骸(焦):焼け焦げたノココの亡骸。所々削ればまだ、食べることが可能。やや焦げ臭い。
食材アイテム 自由歩行茸の亡骸(斬):細斬れになったノココの亡骸。程良い大きさになっており、そのまま料理することが可能。手間要らずでヘルシーということから、巷の奥様方に人気な一品。
食材アイテム 自由歩行茸の亡骸(穴):穴の開いたノココの亡骸。どこか哀愁の漂うその姿は、無意識に涙を誘うと言われている。
注意!:この食材を使った料理を食べると、悲しくもないのに涙が溢れるという報告が多数有り!
精神力の低い方は、絶対に食べないで下さい!
素材・食材アイテム 自由歩行茸の胞子:ノココの胞子。黄色いサラサラとた粉状をしており、焙ることで甘みが増し、良い調味料となる。また、風通しの良い木陰等に蒔き、魔力を与えるとノココが生まれる。定期的に魔力を与えると懐くことがあるという。
強化素材は、ポイズンビーからは、水錬石と穿錬石が、ノココからは、運錬石と鈍錬石がそれぞれ出た。
う~ん、たしかランドルさんは、ノココから『取れる』って言ったんだよな。
…………まさか。
いや、でも、現状はソレしか原因が考え付かない。
まぁ、一人でうだうだと考えていても仕方ないし、とりあえずフィリアと話してみるとしよう。
俺はそう考え、半ば確信の様なものを持ちながら、フィリアに話掛けた。
「なぁ、フィリア。モンスターからドロップアイテムを入手する時って、普通なんて言うと思う?」
「えッ? そうですね~普通は、ドロップアイテムを『落とす』とか、ドロップアイテムが『出る』とかじゃないでしょうか」
「だよな。なら、『取れる』って言う時は、どういった時だと思う?」
「『取れる』ですか? 『取れる』は、やっぱり採取や採掘の時だと思いますけど……どうしたんですか、そんな質問なんかして?」
「いや、何。ちょっとした確認をと、思ってね。そうか……やっぱり、そうだよな」
「何が、やっぱりなんですか?」
「フィリア、俺達すごい間違いをしていたかもしれないんだ」
「間違い……ですか?」
「ああ。だからソレを確認するためにも、もう一度ノココを探しに行こう」
「えーっと、つまりどういうことですか?」
「つまり、ノココを倒してドロップアイテムを入手するんじゃなくて、ノココからエネルゲンマッシュルームを採取する。ということなんじゃないかと思ってな」
「えッ?! でも、ノココには何も生えてなかったですよ。何も無いのに、どうやって採取するんですか?」
「まぁ、その辺りはそういうことに対応したスキルがあるから、そのスキルを使ってみるつもりだ。なんにしても、このままじゃ何も進展しないからさ。行動あるのみってやつだよ」
「うーん、確かに。分かりました。それじゃ、またノココを探しに行きましょう、リオンさん」
「ああ、ありがとな。よし、行こう!」
それから程なくして、ノココが見つかった。
今度はノココが3体だけで、ポイズンビーは居なかった。
「それじゃ、ちょっと装備スキルを変えて見てみるな」
俺はそう言って、素早くメニューを開き、発見のスキルを装備してノココを見た。
すると、案の定ノココの傘の中程の所が、キラキラと赤く光っている固体が居るのが見えた。
「リオンさん、どうですか?」
「当たりだ。まん中に居るノココの傘の中に、隠された採取ポイントと同じ光を出しているやつがいる」
「おおッ! それじゃ、リオンさん。私は、その光とか見えませんから、採取の方をお願いしますね。私とシエルちゃんは、他のノココの相手をしますから」
「了解。任された」
俺がそう返事をすると、フィリアはコクリと頷き、フィリアはシエルを伴い他のノココへと近づいて行った。
そうして俺は、素早く隠された採取ポイントと同じ光を出しているノココに近寄って行った。
俺がノココに近寄ると、ノココは『なーに?』といった不思議そうな表情を浮かべ、俺を見上げてくる。
ずいぶんと警戒心のないモンスターなんだな。
これなら、ランドルさんのような人(NPC)でも簡単に採取できるのかもしれないな。
俺はそんなことを考えつつ、ノココの傘の中心部分に切れ目を入れ、力尽でノココの傘を左右に割る。
「ニョコッ?!」
ノココは傘を割られた時点で、急に短い手足をわたわたとさせて慌て出したが、俺は素早く目的のものを見つけ、採取した。
すると、多少切れ目を入れたことでHPバーが少し減り、9割強残っていたノココのHPバーが急速に減っていき、残り1割程にまで減少した。
その後、『ニョココーーー!』と泣きながら悲鳴を上げ、傘の中から?茸?を採取されたノココは走り去って行った。
……なんだろう、この何とも言えない罪悪感は。
俺は走り去っていったノココの方を見ながら、なんとなく悪いことをした気分になったが、気を取り直して、ノココの傘の中から採取した、ザ・キノコという外見をした?茸?を鑑定してみた。
素材アイテム エネルゲンマッシュルーム:ノココの生命力が茸状に結晶化したもの。見た目は、仄かな青白い光を宿したクリスタル状のマッシュルームで、とても美しい。結晶状であるため、観賞物としても扱われる。他のものと混ぜ合わせることで、他のものの効能を高める働きがある。
俺がエネルゲンマッシュルームの鑑定を終え、後2つのエネルゲンマッシュルームを採取するために、また先程の様な気分を味わなければならないかと、少しげんなりしていると、他のノココの相手をしていたフィリア達が戻って来た。
「リオンさん、お疲れ様です。それでどうでしたか?」
「ああ、取れたよ。これが、探していたものだ」
俺は、先程ノココから採取、鑑定したエネルゲンマッシュルームを、フィリアに手渡してやった。
「わぁー! これ、すっごくきれいじゃないですか!」
フィリアは、手渡したエネルゲンマッシュルームを日の光に透かすかのようにしながら、眺めている。
「あ、ああ。まぁ……そうだな」
「んん? どうしたんですか、何か歯切れ悪そうですけど」
フィリアは俺の顔を見ながら、不思議そうな顔をしている。
ノココからエネルゲンマッシュルームを採取した時に感じた罪悪感が原因だが、そんなことを言って心配を掛けるのも悪いと思い、俺は誤魔化すことにした。
「いや、なんでもないよ。それより、やっと入手法が分かったんだからさっさと集めて、もう一つの方の材料を集めに行こう。このままだと、最悪日が暮れてしまうしさ」
「あ、そうですね。夜になると、出現するモンスターが強くなるんでしたよね。分かりました。すぐに行きましょう」
そうして、俺達は同じようにしてエネルゲンマッシュルームを採取し、無事薬の材料の既定数を集め切ることができた。
その後俺達は、もう一つの材料を集めるため、マップ上に黄色い光点の灯った場所へと移動して行った。




