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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第2章  Fランククエストと隠されし店
41/123

Locus 36 

「「?!」」


「ちょっ! おじいさん、大丈夫ですか?!」


 フィリアは床で倒れてる老人に声を掛けながら駆け寄り、老人を起こして介抱をしようとする。


「あ、フィリア。そんな急に動かしたりなんかしたら……」


 グキッ!


「ぐぅおぉぉぉおおおおおお! こ、こし、腰がぁぁぁあああああ!!」


「えッ? ひゃぁああ! あ、あの、ご、ごご、ごめんなさーい!」


「遅かったか」


 フィリアは慌てふためきながら老人に謝り、老人から離れる。

 もちろん、老人を介抱しようとして、上半身を仰向けにさせるために支えていた両手も放してだ。


 ガツッ! グボギッ!!


「ぐぅぅ……くはッ!」


 その結果、老人は中途半端な高さから上半身を床に叩き付けられ、何か聞こえてはいけない様な音をさせ、意識を手放した。

 俺は床に沈んだ老人へと近づき、老人の口元に手をやり、生きていることを確認した。

 老人の顔色は蒼白を過ぎ去り、土気色をしており、かなり危ない気がする。

 一方フィリアは、自分がやってしまった惨状に顔を青くさせ、口元に手をやりながら、呆然と立ち尽くしている。

 どうしてこんなことになったんだろうか?まぁ考えてても状況は好転しないだろうし、最悪の結果にならない様に、行動するとしますかね。


「えーっと、フィリア? とりあえず、このじいさんにヒールを掛けてやってくれないか?」


「えっ、あ、はい! 分かりました。―――ヒール!」


 フィリアの回復魔法のおかげか、老人の顔色は大分良くなり、危機は脱した様に見える。


「うん。見た感じ大丈夫そうになったかな。それじゃ、このじいさんが起きるまで、この辺りの床に落ちているものを片付けながら、待ってみようか」


「そう、ですね。そうしましょうか」


「それとな、倒れている人を見つけたら、急に動かさずに声だけ掛けるとか、意識があるかとかの確認を先にしなきゃいけないらしいぞ? なんでも急に動かすことで、現状の悪化という結果しか生まない場合があるそうだから」


「はい。身に染みて反省してますぅ」


「よろしい」


 そうして俺とフィリアは、床に散乱していた乾パンの様なものと、床に転がっていた瓶を拾い集めて、片付けた。

 それからしばらくすると、老人は気絶から回復し、気が付いた様だった。


「うぅ……わしは、いったい」


「おっ! じいさん、起きたんだな。よかった~」


「うぅ、ぐすっ。ほんとに、よかったですぅ」


 フィリアは若干涙ぐみながら、老人の無事? を喜んでいる。


 もっとも、涙ぐんでいるのは、老人が気絶する原因を作り、それが止めにならなかったからだろうけどな。


「んん? なんじゃ、おぬしらは」


 俺は気絶から回復した老人に、今まであったことを話した。


 扉にオープンの札が掛かっているから、何かの店だと思い入店したこと。

 入店して、カウンターの方へ行ってみると、老人が倒れていたこと。

 フィリアが老人を介抱しようとして動かしたら、老人の腰を痛めてしまったこと。

 老人から上がった悲鳴?に驚き、つい老人を支えていた両手を放してしまったこと。

 その結果、老人の腰に更なる負担を掛けてしまい、老人は気を失ってしまったこと。

 気を失った老人の生死を確認すると、生きてはいるものの、危機的状況だったことには変わらなかったので、フィリアに頼んで回復魔法を掛けてもらい、事無きを得たこと。

 そして、老人が気が付くまで、床に散乱していたものを片付け、今に至ること。


 そこまで話すと、話の最中常に(いぶか)しげだった老人の顔から疑念が落ち、好々(こうこうや)とした表情へと変わっていった。


「なるほどのぅ、そういうことだったんじゃな」


「あ、あの、その、本当に申し訳ありませんでした!」


 フィリアは老人に対し、深々と頭を下げて謝った。


「俺もすぐに注意できず、すみませんでした」


 俺もフィリアに追従するようにして、老人に頭を下げた。


「あぁ、いや、悪気があったわけじゃなかったんじゃしのぅ、そぅ気にしなさんな」


「えっ、でもそれは……」


「それにのぅ、床の片付けやら、回復魔法での治療やらもしてくれたんじゃし、感謝こそすれ責めたりはできんよ。それに今はこうして、わしは生きておるしのぅ。お譲ちゃんも、そっちの若いのもありがとうなぁ。それに、下手したら誰にも発見されずにそのまま逝くとこじゃたわい」


「い、いえ、そんな」


「まぁまぁ、フィリア。じいさんもこう言っているし、感謝は素直に受け取っておけば良いと思うぞ?人間誰しも間違いはあるんだしさ」


「そうじゃぞ、お嬢ちゃん。そっちの若いのの、言う通りじゃよ」


「う~ん、はい。分かりました」


「うん、うん」


「それで、じいさん。そんな床にいつまでも寝ていたら良くないだろ。ベッドまで運ぶからベッドの場所を教えてくれよ。それと補助はするから、仰向けになってもらえないか?うつ伏せのままだと運び辛いからさ」


「お、おぅ。そうじゃな、よろしく頼むぞい」


「それからフィリアは、俺より先に行って扉とかを開けてくれると助かる」


「はい! 分かりました」


 そうして、俺はじいさんを仰向けにして抱え上げ、ベッドまで運んで行った。

 因みに、運んでいる間に互いの自己紹介を済ませた。

 じいさんの名前は、ランドルさんというそうだ。


「よっと。ランドルさん、この辺りでいいかな」


「おぅ、ありがとうよぅ」


「それで、どうしましょうか? ランドルさんの腰、回復魔法じゃ治らないんですよね?」


「あぁ、それには心配いらん。ちゃんとソレ用の薬が常備してあるからのぅ」


「えっ、そうなんですか?」


「うむ、すまぬがフィリアや、そこの戸棚から薬を出してくれんかのぉ」


「あ、はい。いいですよ。どれですか?」


「上から2段目の、向かって右から3つ目の緑のラベルのやつじゃよ」


「えぇっと、コレですか? 中身空っぽみたいですけど」


 そう言って、フィリアが戸棚から出した薬瓶は、たしかに空っぽだった。


「あちゃー。こりゃ迂闊(うかつ)じゃったわい。まさか、薬が無いとはのぅ」


「ランドルさん、何でしたら薬、買ってきましょうか?」


「いや、この薬はな、わしのオリジナルじゃから、他では売っておらんのじゃよ」


「ええッ! それじゃどうするんですか?」


「うぅむ、そうさのぅ。冒険者ギルドに依頼を出すにしても、すぐに受理されるわけでもないし、どうしたもんかのぅ」


「ランドルさん、その薬の材料って、この辺りで取れるものなんですか?」


「ん? おぅ、そうじゃよ」


「それなら、俺達が取って来ましょうか? 材料があれば、薬作れますよね」


「う~む、そうじゃのぅ。リオン、フィリア、すまんが頼めるじゃろうか?」


「はい、大丈夫ですよ」


「はい! お任せ下さい」


「・・・・・・!」


 シエルから『まかせて!』とやる気でいるのが、伝わってくる。


「シエルもやる気みたいですよ」


「そうかそうか、ありがとうなぁ。それじゃ少し待っとってくれ」


 ランドルさんはそう言うと、枕元(まくらもと)にある羊皮紙に、何やらガリガリと書き記していく。


「うむ、これでよい。リオン、フィリア、それとシエル、薬の材料集めよろしく頼むな」

 

 そう言いながら、ランドルさんは、先程書いていた羊皮紙を俺に渡してくる。


「はい」


「分かりました」


「・・・・・・!」


 シエルから『わかった!』という元気の良い返事が伝わってくる。


 俺達がランドルさんから羊皮紙を受け取りつつ、頼みごとを承諾(しょうだく)すると、突然脳内にインフォメーションが流れた。


『L・クエスト《老店主の頼みごと》を受諾しました』


『これより、L・クエストを開始します』


「「ッ!?」」

 

  L・クエスト?

  L・クエストのLっていったい何の略だ?

 というか、そもそも何が起こったんだ?


 どうやら、フィリアにもさっきのインフォメーションが聞こえていたようで、俺がフィリアの方を見るとフィリアと目が合い、何か言いたそうな雰囲気が伝わってくるのが分かる。

 そうやって、少し俺とフィリアが黙って見つめ合っていると、不審に思ったのかランドルさんが声を掛けてきた。


「んん? どうしたんじゃ、二人とも」


 ここは一旦、L・クエストのことは置いておいて、ランドルさんからの依頼についての話を聞くことにしよう。フィリアとL・クエストについての相談は、薬の材料集めの道中でもできるしな。

 俺は、そう考えランドルさんに、返事をした。


「いえ、なんでもないですよ。なっ、フィリア」


「は、はい。そうなんですよ」


 フィリアは若干挙動が(あや)しかったが、ランドルさんは気に留めることはなかった。


「そうかのぅ。ならいいんじゃが」


「それで、ランドルさん。この羊皮紙に書いてあるのって、薬の材料ですか?」


「おぅ、そうじゃよ」


「えと、知らないものが2つあるんですけど、これ等ってどこで取れるんですか?」


「ん? おお! そうか、知らないものがあるんじゃな。いかん、いかん、つい知ってるものと思って、材料名しか書かんかったわい。それじゃ、説明しとくかの」


 因みに、ランドルさんから渡された羊皮紙には、以下の様に書かれている。


材料: 

  ・活性樹の樹液×1

  ・エネルゲンマッシュルーム×3

  ・キュアハーブ×5

  ・蒸留水  2ℓ


 そして、ランドルさんからの説明で、活性樹は西の森の南西部にあるのだそうだ。

 ランドルさんからの説明を聞くと、マップに黄色い光点が灯ったので、そこに活性樹があるのだろう。

 それとエネルゲンマッシュルームは、西の森に出現するノココというモンスターから取れるとのことだった。


 幸いなことに、薬の材料の半分は既に所持していたので、後は残りの材料を(そろ)えるだけだな。


「よく分かりました。それじゃ、材料取ってきますね」


「うむ、気をつけてな」


「はい。いってきます」


「いってきます!」


 そう言って、俺達はランドルさんの店を出て行った。


「それで、リオンさん。さっきのインフォメーションのことなんですけど……」


「ああ、やっぱりフィリアも聞こえてたんだな。俺もそのことが気になってたんだ。L・クエストのLっていったい何の略称だと思う?」


「う~ん、このゲームのタイトルにある軌跡って意味のローカスとか思いつきますけど、このクエストにそんな意味合いはない様な気がしますし、何なんでしょうね? リオンさんは、何か思いつきますか?」


「俺は伝説って意味のレジェンドがすぐに出てきたけど、このクエストには不釣合いすぎるから、やっぱり分からないな」


「そうですかぁ」


「でも、このクエストをクリアすれば、(おの)ずと分かる様になると思うからさ、このことは一旦置いといて、薬の材料集めをがんばってやってみようぜ」


「そうですね。そうしましょうか!」


「ああ! ……あ、そういえば、ランドルさんの店、何の店だったのか聞きそびれたな」


「あ、そういえば、そうですね。L・クエストのインパクトが強すぎて、すっかり忘れてました。何のお店なんでしょうか。気になりますね~」


「まぁ、俺も正直気にはなるけど、それも材料集めの後にでも、聞けばいいじゃないか。それに、今はランドルさん、腰やられてて、動けないから逃げるなんてことはないだろうしな」


「ふふっ。そうですね」


 そうやって、冗談交(じょうだんま)じりの話をしつつ、俺達は薬の材料を取りに、西の森の南西部へと向かって行った。



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