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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第2章  Fランククエストと隠されし店
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Locus 35   

 街へ戻る道中は、特に何事もなく進路上のモンスターのみを倒し、街へ着くことができた。


「ふぃ~。よかったー! 無事にもどってこられて。クレアちゃん、フィリア、リオン、それとシエル、ほんとにありがとね」


 エルルゥリアは俺達の方を向き、頭を下げながらお礼を言ってくる。


「はい! 無事に助けられてよかったです」


「だな。でも次からは気を付けろよ? もしも次同じようなことがあっても、また助けられるかなんて分からないんだからな」


「そうですよ、エルル! 今回助かったからといって、次回もそうだとは限らないんですからね」


 クレアさんは左手を腰に当て、右手の人差し指を立てながら、エルルゥリアに言い聞かせる。


「分かってるよぉ~。もぉークレアちゃんもリオンも心配性だなぁ。でも、ありがとね。それじゃ、そろそろ私行くね。私でできることなら手伝うから、何かあったら呼んでよね。またねー」


 エルルゥリアはそう言って、逃げる様に街の雑踏の中へと消えていった。


「んもぅ、エルルったら! ごめんなさいね、フィリアさん、リオンさん」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


「そうですよ、気にしてませんから」


「ありがとうございます」


「それじゃ、クレアさん。防具の素材を渡しておきますね」


 俺は、クレアさんにトレード申請を出し、今回の狩りと今までの狩りで集まった素材を渡した。


「はい、確かに。これだけの量の素材があれば、4部位くらいの防具ができそうですけど、どうしますか?」


「う~ん……クレアさんならどの部位が良いと思いますか?」


「私、ですか? そうですね~……私なら、内着・外着・腕部・足部でしょうか」


「では、それでお願いします」


「分かりました。デザインや色はどうしますか?」


「デザインはおまかせで、色は……黒、灰、もしくは白でお願いします」


「デザインはこちらに任せ、色は黒・灰・白ですね。それから強化素材があるなら、各部位5・6回分までなら失敗せず強化可能ですが、どうしますか?」


「是非お願いします。強化素材は結構溜まっているんで」


 そう言って俺は、再びクレアさんにトレード申請を出し、強化素材を渡して強化の方向性を頼んでおく。


「はい。(うけたまわ)りました」


「あっ、クレアさん。代金ってどの位になりますか?」


「そうですね……今回は、エルルのことでお世話にもなりましたし、レア素材の持ち込みにより、私の裁縫師としてのLvも上がるでしょうし、加工料のみで結構ですよ」


「えっ、でも、さすがにそれは……」


「これは、エルルを助けて下さったお礼と、私の裁縫師としてのLv上げにもなるという打算込みでの考えもあってのことですし、大丈夫ですよ。それに、これからの常連さんへのサービスでもありますからね」


 クレアさんは、茶目っ気たっぷりといった表情を浮かべつつ、俺にウインクをする。


「ははっ。分かりました。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいますね」


「あ、クレアさん。それなら、私もいいですか?」


「ええ。フィリアさんもエルルを助けるのに尽力をして下さいましたし、大丈夫ですよ」


 そうして、フィリアはデザインやら装備部位やらを決め、クレアさんに素材を渡した。


「はい。では、出来上がりましたら、ご連絡いたしますね。それでは、フィリアさん、リオンさん、そしてシエルさん、お疲れ様でした。また後日に」


 クレアさんはそう言うと、街の方へと歩き出して行った。

 クレアさんを見送った後、俺はまだこの場に残っているフィリアに声を掛けた。


「フィリア、今回狩りに誘ってくれて、ありがとな。ちょっと予想外な出会いもあったけど、楽しかったよ」


「はい! こちらこそ、ありがとうございました。それでですね、その……リオンさんは、この後何か予定とかってありますか?」


「ん? そうだな……予定という程のものでもないけど、行ってみたい場所はあるかな」


「行ってみたい場所、ですか? もしもお邪魔でなければ、ご一緒しても良いですか? 私この後、特に予定ないですし」


「ああ、かまわないよ。むしろ、その場所についての意見も欲しくて、誰かに頼もうと思ってたから助かるよ」


「は、はい! 私で良ければ」

 

「うん、ありがとな。それじゃ、行こうか」


 そうして、俺は今から向かう所の説明を道中にしていった。


「今までよく通っていた場所に、突然認識できるようになった、お店ですか?」


「ああ、Fランククエストを10種以上クリアしてから、その店が認識できる様になったんだ。その時は、店の扉にオープンの札が掛かっていたんだけど、入れなかったんだよな」


「そうなんですかぁ~、不思議ですね」


「それで、今はFランククエストを30種クリアしているから、もしかしたら店に入れるかもって思ってさ。……あ。そういえばフィリアって、今Fランククエストっていくつクリアしているんだ?」


「えっと、ちょっと待って下さい」


 フィリアは立ち止まり、アイテムボックスからなにやらカードを取り出すと、カードの操作をし始める。


 アイテムボックスから取り出したカードは、恐らくギルドカードなのだろう。

 あのカードには、受けたクエストの履歴(りれき)が見られる様になっているから、たぶんその履歴を確認しているのだと思う。


 しばらくすると、フィリアはカードから視線を上げ、こちらを向いた。


「クリアしたFランククエストは、7つですね」


「7つか……それじゃ、認識できないかもな。でもどんな風に見えるかの意見も聞いてみたいし、行くだけ行ってみようか」


「はい!」


 それから更に10分程歩き、(くだん)の店の前に到着した。


「フィリア、今その件の店の前にいるんだけど、どうだ?」


「えっとですね……私には、窓の無い民家か倉庫の裏手にしか見えませんね」


「そうか、やっぱり認識できていないんだな」


「すみません」


 フィリアは済まなそうに頭を下げ、ションボリしている。


「いや、責めているわけじゃないんだから、そう気落ちするなよ」


「うぅ、はい。ありがとうございます」


 さて、どうしたものかな。

 ここまで連れて来ておいて、件の店を見せられないってのは、少しかわいそうだよな。

 ……よし! とりあえず実験して、その結果以還では、フィリアには謝ってまた後日に来ることにしよう。


「フィリア、少し実験してみたいから、手伝いを頼めるか?」


「実験……ですか?」


「ああ。っていっても、パーティを組むだけだけどな」


 そう言って、俺はフィリアにパーティ申請を出すと、すぐに申請を受諾(じゅだく)された。

 

 何故俺がパーティを組むかというと、パーティを組むことで、個々の枠組みが1つの枠組みに統合され、統合された枠組みの中で条件を満たしている者の効果を得るといういうことを期待してのことだ。

 これは、このゲームに共闘ペナルティというシステムがあり、その回避方法がパーティを組むということだからだ。

 つまり、今回の場合でいうと、俺が件の店を認識できるという効果をパーティを組むことで、パーティ内で共有するということだ。

 うまくいくかは分からないが、さて……どうなるかな。


「それじゃ、フィリア。今度はどう見えている?」


「えっと……ッ! お、お店が見えます! 扉にオープンの札が掛かっているお店です!」


「おぉ~。とりあえず、実験は成功かな?」


「はい! それではさっそく入ってみましょう。リオンさん!」


 フィリアは興奮しているのか、ややテンションが高い様に見える。


「そうだな。よし、入ってみるか」


 そう言って俺は、店の扉の取っ手を引き開けた。

 扉を開けると、扉の上部に付いていたベルが鳴り、店内に客の来訪を知らしめすかの様に、『カラン、カラン、カラーン』と音が鳴り響く。

 そして、そのまま店内に足を進めようとすると、後ろから『ゴツッ!』という鈍い音と共に、『キャッ!』というかわいらしい?悲鳴が聞こえてきた。

 俺は何事だと思い後ろを振り返ってみると、フィリアが涙目になりながら(ひたい)を押さえ、しゃがんでいるのが見えた。


「えっと……フィリア? どうしたんだ、そんな所でしゃがみ込んだりなんかして」


「えぅ、その……入れないんです。何か透明な壁の様なものに(はば)まれて」


「透明な壁……か」


 俺にはそんな透明な壁の様なものはなく、普通に店内に入れたんだけどな。

 どうやらパーティを組んだだけじゃ、認識はできても店内に入ることまではできないようだ。

 ずいぶんと用心深い店だな。

 せっかく認識できるようになったのだから、ここでお預けだなんてあんまりと言えばあんまりだし、どうにかしてやりたいんだけど……。

 俺は少し考え、とりあえず考え付いたことを試すため、フィリアに再び声を掛ける。


「フィリア、また考えたことを試してみたいんだけど、手伝ってもらえるか?」


「はい、いいですよッ! やりましょう、リオンさん! 私もこのお店に入ってみたいですし。それで、何をするんですか?」


 フィリアは、余程この店に入りたいのか、俺の提案にすごい勢いで食い付いてくる。


「あ、あぁ。昔何かの本で読んだことのあることを、試そうと思ってな。その本では、とある結界の通行証(パス)を持つ者と身体的接触を持つことで、その結界を通ることができたんだ。だから……はい」


 俺はそう言いながら、フィリアに手を差し出した。

 フィリアは少し逡巡(しゅんじゅん)した後、俺の手を取った。

 俺はフィリアが手を取ったことを確認すると、そのまま引っ張り上げて、まずはフィリアを立たせてやる。

 そして、そのまま手を繋ぎつつ、件の店の中へと歩を進めて行った。

 すると今度は、フィリアが透明な壁に阻まれることなく、すんなりと入店することができた。

 フィリアはこのまま店内に行こうと言ったが、俺はもう少し試したいことがあると言って、実験に付き合ってもらった。

 その結果、以下のことが分かった。


 ①:入店した後は、入店条件を満たした者との身体的接触がなくなっても、店外に強制的に弾き出されることはない。

 ②:一度入店すると、パーティを解散させた後でも認識・入店条件を満たしていない者も、店を認識することはできる。

 ③:一度入店しても、入店条件を満たしている者とパーティを組み、身体的接触がなければ、入店条件を満たしていない者は、再度入店することができない。

 ④:入店した後は、入店条件を満たしていない者がどのような状態でも、店外に出ることは可能。


 その後、俺とフィリアは件の店の中へと入って行った。


 店内を見渡すと、(たな)(たる)の上の(かご)の中には、様々な(びん)が置かれていた。

 ある瓶には、赤い粉状のものが入っており、またある瓶にはエメラルドグリーンの液体が入っている。

 他の瓶には、橙色の飴玉(あめだま)の様なものがいくつも入っていたり、円筒形(えんとうけい)のクッキー?の様なものがいくつも入っているものもあれば、乾燥したスティック状のものや、串に刺さった干し肉の様なものが、いくつも入っているものもある。


 いったいこの店は、何の店なのだろうか?

 まさか、お菓子屋さんだなんてことは、ないと思いたいけど。


 そうやって店内を見て回りながら、カウンターの方へと近づいて行くとそこには、床に何かの瓶の中身と思しき乾パンの様なものが散乱しており、その付近には床にうつ伏せで倒れている、一人の老人が居たのだった。


 

ここまでお読み頂き、そして評価して下さり、ありがとうございます。

ノービスソードのクリエイトボーナス分の値の加算をし忘れていたため、各ステータスの一部の値を修正しました。

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