Locus 3
「では、次のクエストに参りましょう」
チュートリアルクエスト⑦<モンスターを倒そう!>
「最後は実戦です。今までのクエスト内容を思い出し、実際にモンスターを3体討伐してみて下さい。この戦闘ではスキルの習得や経験値は入手できませんが、モンスタードロップは入手できますので、がんばって下さい。そして、今回はHPが0になってもデスペナルティは発生せず、クエストを達成するまで何度でも挑戦可能となっていますので、安心して戦闘に臨んで下さい」
なるほど、戦闘に不馴れな者でも、失敗を恐れずに戦える安心設定だ。
「準備はよろしいですか?」
こうした実戦は、祖父に護身の一環として古武術を習っていた時以来である。
勘を取り戻すつもりで、戦いに臨もうと思う。
そして俺は、すでに習慣となっていることを心の中でし、ナビさんに返事をした。
「お願いします」
「では、始めます」
そうナビさんが言うと、前方5m程の所にモンスターがポップ(湧出)した。
モンスターは、額に円錐状の角を生やした全長30cm(角や耳は含まない)程の兎だった。
名前は識別のスキルがなかったので分からなかった。
兎は俺に気づいたようで、こちらに向かって走って来て、俺との距離が残り1m程になると、角を向け勢い良く飛び掛って来た。
「うおっ!」
びっくりして横に飛び退いて、運よく避けることに成功する。
やっぱり結構鈍ってるなぁ。
もう少し集中して、取り組んだ方がいいな。
俺はすぐに、剣を構え迎撃の態勢をとる。
兎は着地後すぐに反転して、助走をつけ再び飛び掛って来た。
今度はよく見ていたため、慌てることなく対処できた。
飛び掛ってくる兎を避けながら、兎が突っ込んで行く進行方向から兎に向け剣を振った。
「キャゥ!」
剣が当たったらしく、兎のHPバーは1割程減っていた。
兎は怒り心頭といった感じで、着地後また反転して飛び掛って来る。
俺は今度はアーツを使ってみようと、使う意志を込めてアーツ名を唱えつつ剣を振った。
「スラッシュ!」
「ギャゥ!」
先程よりも痛そうな悲鳴?を上げ、兎のHPバーはさらに3割程減った。
兎は着地後、小刻みに飛び跳ね、フェイントをかけるような動きを見せる。
俺は注意深く、動向を見守り反撃の時を待った。
その間に、スラッシュのリキャストタイムが終わり、再使用が可能となる。
「ギュー!」
兎が吼えつつまた、勢いよく飛び掛って来た。
俺は兎を避けつつ剣を下から上に振りぬくようにしてアーツを使った。
「スラッシュ!」
「キューーーッ!」
兎は断末魔のような鳴き声をと共にHPバーを散らして、光の粒子になって消えた。
「あれ? まだHP6割くらいあったはずなのに、倒せちゃったんだけど……」
さっきアーツで攻撃した時は、3割くらいのダメージだったはずなんだけどなぁ。
そう思いつつも、さっきの兎から取れたドロップアイテムを確認する。
?角?×1、?皮?×1、?肉?×2
俺は、スキルを使いアイテムを鑑定してみた。
素材アイテム 一角兎の角:モノコーンラビットの角。微かにだが癒しの効能を含んでいる。
素材アイテム 一角兎の毛皮:モノコーンラビットの毛皮。フワッフワな毛並みで、女性に人気の一品。
食材アイテム 一角兎の肉:モノコーンラビットの肉。淡白な味わいで低カロリー。
おぉー! ドロップアイテムは鑑定するとこういう風になるのかぁ。
……あっ! これであの兎の正式名称が分かるな。
モノコーンラビットか、見たまんまだな。
でも、これでドロップ品を鑑定すれば、モンスターの名称だけは分かるようになるな。
ドロップ品を鑑定し終えたところで、さっきのことをナビさんに聞いてみる。
「ナビさん、1回目のアーツを使った時に、3割くらいのダメージを与えたのに、2回目のアーツを使った時は、残り6割くらいのHPを全損できたんですけど、それってどうしてなんでしょうか?」
「それはウィークポイントに攻撃を当てたことにより、与ダメージが倍化したためですね」
「ウィークポイントですか?」
「はい。ウィークポイントとは、その相手の弱点となる場所のことです。相手により弱点の場所は異なりますが、生物であれば大抵、頭・首・心臓といった場所がウィークポイントになりますね」
「なるほど~。良く分かりました」
効率よく敵を倒すならなるべく狙っていけたらいいよな。
今後は、無理なく狙っていこうと思います。
「では2体目に行ってみましょう。準備はよろしいですか?」
俺が頷くと、次のモンスターがポップした。
今度のモンスターは様々なRPGでお馴染みの、スライム(仮)だ。
識別がないので、モンスターの正式名称が分からないが暫定スライムでいいだろう。
外見は半透明の青いジェルの塊で、塊の中心部に赤黒い球体が浮き沈みしている。
進行速度は遅く容易に接近できるが、油断はしないように用心してスライムに近づく。
俺はスライムに近づくと、剣を振りかぶり先制攻撃を仕掛ける。
素早く3回斬り付けるが、スライムのHPバーは減少した様子がない。
今度が突き刺してみたが、やはりHPバーは減っていなかった。
しかし、剣を突き刺した時赤黒い球体が、剣先から遠のくような動きをみせたので、おそらく赤黒い球体に当たれば、ダメージを与えられるのではないだろうか?っと考えていると。
スライムが青いジェルの塊の一部を鞭のように伸ばし、攻撃してきた。
あるときは横に薙ぎ払い、あるときは上から下に振り下ろして、俺に襲い掛かってくる。
俺は冷静に対処し、スライムからの攻撃を全て避けることに成功していた、しかし鞭を振り回され接近する余裕がなくなっていた。
無傷でなければ接近も容易だろうが、こちらにはスライムに対する有効な攻撃法がまだ分かってない状態だ。
その状態であの攻撃の中に突っ込んで行くのはリスクが高すぎる。
そうして俺はスライムに対して有効な攻撃を入れられず、しばらくスライムからの攻撃を避け続けた。
スライムからの攻撃を避け続けつつ観察してると、鞭の振り下ろしの時に勢い余って地面を打ってしまっているとき、ジェルが振動してスライムの動きが若干鈍っているように見えた。
俺はその後数回スライムが鞭を振り下ろす所を確認し、考えが合っていることを確信する。
それに先程は、斬り付けと突き刺しだけしか攻撃を試していなかったので、今度は打撃を試してみようと思った。
スライムが次に鞭を振り下ろし地面を打った時が勝負だ。
そう思い、スライムの攻撃を避けつつ機会を待つ。
そしてその時が来た。
スライムが鞭を振り下ろし地面を打った瞬間、俺はスライムに接近して、剣の腹でスライムを殴った。
ベチッ!
水面を掌で打った時の様な音がした。
スライムのジェルは鞭で地面を打ったときよりも大きく振動し、スライムの動きが目に見えて鈍った。
スライムのHPバーを確認すると1割程HPバーが減少していた。
「ふぅ~。やっとダメージが入ったか。」
俺はそう呟きつつも、この機に一気にスライムに攻撃を加えていく。
「スマッシュ!」
パァン!
ビンタした時の様ないい音がした。
スライムのジェルの部分が振動して、攻撃を加えた所からジェル全体に波紋が出ていた。
スライムの動きは完全に止まっておりHPバーはさらに3割程減少していた。
ジェルの中心の赤黒い球体も動きを止めているようだったので、攻撃してみた。
「ピアース!」
まるでゴムボールを突いた様な感触が手に伝わり、赤黒い球体を刺し貫いた。
するとスライムのHPバーは砕け散り、スライムは光の粒子になって消えた。
今の戦闘でおそらくスライムのウィークポイントは青いジェルに包まれた赤黒い球体だったのだろう。
これでスライムに対する戦い方も分かったことだし、次からは狙っていこうと思う。
しっかし他のRPGとかでは雑魚の代名詞扱いされてるのに、結構強かったなぁ。
チュートリアルで先に戦えていてほんとに良かった。
そうこうしているうちに、スライムのドロップアイテムが入手できたので、鑑定してみた。
素材アイテム ゼライスの粘液:ゼライスのジェルの部分から取れた粘液。ベトベトしている。
素材アイテム ゼライスの核片:ゼライスの核が外気に触れ硬質化した欠片。
これでまたあのスライム(仮)の正式名称が分かった。
ゼライスというのか……ゼラチンに似た名前だな。
案外ゼライスの粘液を乾燥させたらできたりしてな。
今度試してみよう。
「では、3体目に行ってみましょう。準備はよろしいですか?」
「はい。お願いします」
俺がそう返事をすると、最後のモンスターがポップした。
今度のモンスターは虫の様に見える。
若草色をした体表、6本の節足、虫特有のアゴ、ここまでは現実でも見られる普通の虫の特徴だ。
しかし、この虫はまず大きさが違う。
全長50cm程、体高30cm程もある。
6本ある節足の先には、蜘蛛やダニによく見られる、鉤状突起があり、さらに単眼が5つある。
目は等間隔に並び、血の様な色をしている。
やはり、名前は分からなかった。
識別のスキル、ゲーム内の店とかに売ってないかな?
「ギィーーー!」
虫がこちらを発見したようで、鳴きながら俺に接近して来る。
俺は素早く剣を構えると、迎え撃った。
虫は器用に両前足を持ち上げ、交互に爪で攻撃して来た。
右、左、右、右、左、右、左、っと時折フェイントを混ぜての攻撃。
俺はその攻撃を避け、弾き、時には受け流し、隙を見ては反撃をする。
しかし、その甲殻に阻まれ、弾かれ、ダメージは与えられても微々たるものだった。
剣が虫の甲殻に弾かれた隙に虫は距離を詰め、俺の肩口を噛み付いた。
「痛っ!」
俺は咄嗟に虫を剣の腹で殴り飛ばし、噛まれた所を見た。
そこは赤いエフェクトが明滅しており、まるで本当に血を流しているかのように見えた。
この『SLO』ではペインアブソーバー(痛覚緩和システム)が導入されていて、ゲーム内での痛みは現実の1/10に抑えられている。
それでも俺は、受けた痛みと攻撃を受けた時の衝撃に驚き、パニクってしまった。
虫の方を見ると、殴ったことによりひっくり返って、足をバタつかせて起き上がるところだった。
虫のHPバーを確認すると殴る前に比べ、1割程HPが減っていた。
ダメージを与えるなら打属性か、甲殻のない関節か、柔らかい腹が狙い目かなぁ。
そう考えていると、再度虫が鳴き声を上げながら襲い掛かって来る。
俺は虫がノービスソードの間合いに入って来たところで、剣の腹で殴りつけた。
「スマッシュ!」
「ギィガッ!」
虫は1m程吹き飛び、またひっくり返り、足をバタつかせて起き上がろうとする。
俺はすぐに近寄り、腹を刺し切り裂いた。
「ギギィィィーーー!」
虫は悲鳴?を上げ、虫の腹には青いエフェクトが迸り、激しい明滅を繰り返す。
HPバーを見てみれば、残りHPが半分程になっており、虫のHPバーの横には赤い雫が描かれていたアイコンが出ていた。
よく見ていると、虫のHPバーが時間と共に少しずつ減少していくのが分かる。
俺は立ち上がろうとする虫を剣の腹で殴り、再び転倒させ、甲殻に包まれていない首関節目掛けて、剣を振り下ろした。
「スラッシュ!」
「ギッ!」
虫の首が斬り飛ばされ、HPバーが急速に減っていき0になると、虫は光の粒子になり消えた。
今回は特に苦戦した気がする。初めてダメージを食らってパ二クってしまった。
今回はまだ、1対1だったからよかったが、もしも他にも敵がいたらソレは隙以外の何者でもないだろう。
よく反省して、次に生かしていこうと思う。
反省していると、虫のドロップアイテムが入手できていたので、さっそく鑑定してみる。
素材アイテム 基本蟲の甲殻:ベーシックインセクトの甲殻。軽く硬いためよく防具の材料として使われる。
食材アイテム 基本蟲の足:ベーシックインセクトの足。殻の下はタンパクで若干の甘みがあり、酒のつまみとしてよく食べられる。
素材アイテム 基本蟲の体液:ベーシックインセクトの体液。薄い青色をしている液体で、薬の材料になる。
食材アイテム!? さっきの虫の足食べられるのか……。
いやでも、現実にはないものを食べてみたくて料理スキル取ったんだし。
何事も経験だよな……それに、説明には酒のつまみとしてよく食べられるってあるから大丈夫……なはずだ。
それよりもさっきの戦闘中に虫にでたアイコンのことをナビさんに聞いておこう。
「ナビさん、さっきの戦いの最中にベーシックインセクトのHPバーの横に、出ていたアイコンって何ですか?」
「あれは、状態異常・出血を表すアイコンです。効果は一定時間経過によるHPダメージです。さらに、状態異常・出血によるHPダメージが一定以上になると、ステータス減少も併発しますが、今回は併発前に決着がついたため、その効果は現れなかったようです」
状態異常か……他にはどんなのがあるのかな? 参考に聞いてみよう。
「他には、どんな状態異常があるんですか?」
「他には、肉体系状態異常の毒・麻痺・睡眠等があり、出血もこの肉体系状態異常に含まれます。肉体系状態異常はVITの値が高い程発生する確率が下がります。又、精神系状態異常というものもあり、怒り・混乱・魅了等といった精神に作用するものがあります。精神系状態異常は、MIDの値が高い程発生する確率が下がります。状態異常のアイコン一覧はメニューのヘルプにありますので、後程そちらをご確認下さい」
「なるほど、よく分かりました。ありがとうございます」
そう返事をすると、ファンファーレが鳴りインフォメーションが流れた。
『パパ~ン♪ クエストを達成しました。クエスト報酬:初心者ポーション×6、を入手しました』
「お疲れ様でした。これでチュートリアルを終了します。何か質問はございますか?」
俺は軽く考えるが、質問することを思いつかなかったので、首を振った。
「では、これより『SLO』の開始エリアに転送します。リオンさんの今後に幸あらんことを。いってらっしゃいませ」
そうして俺は、光に包まれた。