Locus 32
ズガガガガガガ―――ピギィィィイイイイイ!!―――ドゥン!!
スパイラルシェイバーによって放出された赤いエネルギーと土煙が消えた後そこには、凄まじい破壊の痕跡が残っていた。
高威力で放出された極太の赤いエネルギーにより地面が抉れ、Uの字型の溝が5m以上にも渡りできている。
「「「…………」」」
さらに、放出された赤いエネルギーの進路上にあった木々はそのエネルギーにより穿ち、削られ、今も尚自重に耐え切れず『ミシミシミシッ! バキッバキバキバキ! ……ズズン!!』と音を立てながら、次々と倒壊していっている。
一方レッドボアは、耐性が突属性であったためか、HPバーは3割強しか減っておらず、エルルゥリアが与えたダメージ量と合わせても、5割に届いているかいないかといったところだ。
魔法で強化してもらい、現状で最大の一撃であったにもかかわらず、思ったよりレッドボアにダメージを与えられなくて凹むべきか、それともレッドボアのタフネスっぷりに感心した方がいいのか、悩みどころである。
だけど、ダメージ量は思ったよりなかったものの、当初の目的であるエルルゥリアが与えたダメージ量を上回る、ということはできた。
レッドボアの方を注視して見ると、HPバーの横に気絶のバッドステータスアイコンが出ているのが見えた。
俺は、現在スパイラルシェイバーの技後硬直で動けないので、他の皆に声を掛ける。
「皆! レッドボアが気絶している内に、攻撃を!」
「「「ッ! はい!」」」
フィリアやクレアさんは呆然と、エルルゥリアは金魚みたいに口をパクパクとさせていたが、俺が声を掛けると正気に戻った様で、すぐに反応があった。
「・・・・・・!」
シエルから『わかった!』という返事が伝わって来る。
「ウォン!」
そうして、皆から遠距離での(一部除く)一斉攻撃が行われた。
「ファイアーボール!」
フィリアから拳大の火球が発射され、着弾し、レッドボアの体表が炎上し火の粉を振り撒く。
「シャドーエッジ!」
エルルゥリアがそう唱えると、レッドボアの影が膨張・拡大し、3方向から影を固めた様な仄暗い剣身が出現し、レッドボアへと殺到していく。
「アクアストライク!」
クレアさんから大人の頭程もある水球が発射され、レッドボアに当たると水しぶきを上げつつ砕け散る。
「・・・・・・!」
シエルから『ライトアロー!』と唱えるのが伝わって来ると、3本の光の矢がレッドボアの顔周辺に次々と着弾(着矢?)していく。
シエルのライトアローが消えた後、ちょうどレッドボアが気絶から回復し立ち上がろうとした瞬間、何時の間にかルカがレッドボアの側に居り、レッドボアの耳元で『ウォオオオオオーーーン!』と威嚇するように吼えた。
するとレッドボアは起き抜けで驚いた様で、『ビクッ!』と体を震わせ硬直してしまう。
「エイミングサイト」
「キャストエッジ!」
その隙を狙ったかの様に、クレアさんがレッドボアの顔面目掛けて、4本のナイフを投げ付けた。
「プガップギィ!」
―――キン! カン!
しかし、最初に当たった2本の投げナイフによる痛みで正気にもどったのか、残りの2本の投げナイフはレッドボアの牙で弾かれてしまった。
ルカはレッドボアが俺達の方へ突っ込んでこない様に、ヒット&アウェイを繰り返してレッドボアの注意を引き付けている。
レッドボアのHPバーを確認してみると、残り3割弱といったところだった。
レッドボアと俺達の間には、スパイラルシェイバーで倒壊していった木々のバリケードが形成されており、容易にこちらに来ることができなくなっている。
しかし、いくら即席のバリケードがあれど、もしもレッドボアがこちらに突っ込んできたら、パーティは分断され最悪各個撃破されかねない。
俺はそう危惧しつつ、クレアさんの作戦通りレッドボアの注意を引くため駆け寄り、攻撃していった。
「ダブルスラッシュ!」
「プギギィ!」
俺はレッドボアの側に着くと同時に切り込み、レッドボアの注意を引く。
幸い、今まで稼いだヘイト(敵愾心)により、レッドボアのダーゲットは予想通り俺へと、釘付けになる。
俺は敢えてレッドボアの正面に立ち、ノービスソードで攻撃をいなし、弾き、受け、隙を見つけては、ちまちまと攻撃していった。
そしてレッドボアの注意が完全に俺に向けば……。
「ッ! 今です!―――セットバックスナイプ!」
「ファイアーボール!」
「シャドーエッジ!」
「・・・・・・!」
中衛として投げナイフで攻撃していたクレアさんが合図を出し、後方へ飛び退くと同時にナイフを飛ばして牽制を行い、後衛組みが一斉に魔法での遠距離攻撃を行う。
その後、レッドボアの注意が後衛組みへと向けられたら、俺が再度レッドボアへ攻撃してダメージを与え、注意を引き付けるということを繰り返している。
そして、レッドボアのHPバーが残り1割を切った時、ソレは起こった。
「プゴォォォオオオオオ!!」
レッドボアは怒りに満ちた様な雄叫びを上げると、赤く脈動するオーラを纏い、前足を上げて器用に後ろ足だけで立ち上がった。
俺は見切りのスキルにより目の前が真っ赤に染まった。
こんなことは今までに一度も無かったが、これはやばいと思い『下がって!』と皆に注意を促しながら、俺もすぐ様後方へと下がった。
ズダァァァーン!
レッドボアが上げた前足を振り下ろすと、腹の底に響く様な大きな音と共に、前足を打ち付けた所から放射状に衝撃波が走り、俺達を襲った。
「ぐッ!」
「ギャゥン!」
後衛組みとクレアさんは、レッドボアの範囲攻撃の射程外に退避できた様でダメージはなかったが、俺とルカは退く距離が足りなかったためダメージを受けてしまった。
ルカは今の一撃でHPが半分程になり、俺はバーサークの影響で最大HPの6割強ものダメージを負ってしまっていた。
いくら回復力に特化した魔法をフィリアが使えようとも、この量を一気に回復するのは厳しいだろうと判断し、即座にシエルに指示を出す。
「シエル! マインドブースター・ライトをフィリアとクレアさん、それとシエル自身に掛けて、回復魔法の底上げを頼む!」
「・・・・・・!」
シエルから『わかった!』という返事が伝わってくる。
それから程無くして、フィリアとクレアさんの体全体がポゥっと光りそして消えた。
「シエルちゃん、ありがとう!」
「シエルさん、ありがとうございます!それでは、フィリアさんはリオンさんの回復を。私とシエルさんは、ルカさんの回復を行いましょう」
「分かりました。ではいきます!―――ヒール!」
「こちらもいきます!―――キュアウォーター!」
「・・・・・・!」
シエルから『キュアライト!』と唱えているのが伝わってくる。
フィリア達のおかげで、ルカのHPバーは全回復し、俺のHPバーはおよそ9割まで回復した。
「ありがとう、フィリア! 助かった」
「ウォン!」
「さっきのは衝撃波だよね? それならッ!―――ガードブースター・アース!」
俺の足元からややくすんだ黄色い光の礫が俺の周囲に浮かび上がり、それ等が俺の体に吸着すると、体全体が若干暗い黄色の光に包まれ、そして消える。
視界の端を見ると、VIT↑のアイコンが新たに付いているのが確認できた。
「まぁ、気休めかもしれないけど、ないよりはマシでしょ」
「エルル、ありがとな」
「うん♪ それじゃ念のため皆にも掛けておくね」
そう言ってエルルゥリアは、次々とガードブースター・アースを掛けていった。
さて、問題はレッドボアへの対処だが……クレアさんからの作戦変更はないし、とりあえずあの範囲攻撃に注意しつつ、攻撃をしてみますかね。
俺はそう考えながら、レッドボアへと走り寄り攻撃を加えていった。




