Locus 30
ここまでお読み頂き、そして評価して下さりありがとうございます。
今回は別視点での話となっています。(補足回?)
次回からは、主人公視点に戻ります。
それでは、どうぞ。
~side エルルゥリア~
どうしてこうなった……。
いくら自問しても、答えは一向にでてこない。
東の森に灰色の狼が出現するという話を聞き、居ても立っても居られずパートナーであるノエルと共に、東の森へと入り探すこと3時間強。
ようやく見つかった灰色の狼は、運の良いことに1匹しかおらず、この機会を逃すことのない様にノエルと連携してがんばり、捕まえることに成功した。
その帰りの道中に、フォレストボアを見つけた。
そろそろ防具がへたってきたし、予備の防具も欲しいと思っていたので、ノエルと一緒にコレを狩った。
そうしたら、背後から猛烈な雄叫びと共に、赤っぽい毛並みの大きな猪が現れ、私に突っ込んできた。
私は既の所でこの猪の突撃を躱し、ノエルと共にこいつと戦った。
結果を言えば、ノエルはこの猪に殺され、先程のフォレストボアを狩った後すぐの連戦だったので、MPも残り僅か。
私は後衛系のクラスということもあり、MPが無ければ徒人同然の戦闘力しかないので戦うことを止め、逃げの一手を選んだ。
幸いこの猪は1匹しかいないし、少し走って逃げればその内諦めるだろうと思ったからだ。
しかし、こいつは全然諦める気配がない。
かといって私が諦めて、こいつに殺されでもしたら、せっかく長い時間を掛けて捕まえた灰色の狼のルカをも失うことになってしまう。
それだけは嫌なので、こうして必死になって未だに、逃げ続けているんだけど……。
「はぁ。このストーカー猪、さっさと諦めて巣穴に帰ってくれないかなぁ!」
そう苛立ち紛れに叫んでいると、『また』雄叫びを上げ、私を轢き潰さんと速度を上げて来た。
「プゴォォォオオオオオ!!」
ちらりと背後に目をやると、猪の体全体に橙色のエフェクトが迸り、私との距離をぐんぐん縮めて来ている。
背後を振り向いたせいか、はたまた単に疲れたせいか、足が少し縺れ走る速度を緩めてしまう。
そのせいで、猪に距離を詰められ、背中に2・3回猪の鼻先が当たる感触がする。
「ひぃぃぃやぁあああ! ちょ、ホント誰か助けてぇぇぇえええええ!!!」
私は情けないと分かりつつも、そんな絶叫を上げ全速力で走り始めた。
この猪は周りに木々が少なくなると、こうして橙色のエフェクトを迸りつつ私に、突撃をして来るのだ。
ただ、この突撃の持続時間は短いらしく、私が全速力で走ればギリギリ追いつかれない位の速度なので、結果的には助かっている。
又、今までの経験から木や岩等の障害物にぶつかってもこの突撃は止むらしいのだが、今まで追い着かれそうになるたびにアースシールドを出して事無きを得ていたため、今ではもう残り1回分のMPしか残っていない。
最後の1回分のMPは、万が一の時のために温存しているので使うことができない。
いったい何時になったら、この鬼ごっこから解放されるのか……。
そう思っていると、ふいに「ポーン」という音がした。
私は速度を維持しつつ、視界の端を見てみるとFCのアイコンがあったので、視線入力で選択してみた。
すると、『クレアから、フレンドコールが来ています。』というウィンドウが表示された。
私はこの状況から少しでも逃避したいがため、迷わずフレンドチャットの回線を開いた。
「フレンドチャット オープン」
『エルル、今のあなたの状況は分かっていますので、手短に話しますね』
フレンドチャットの回線を開いた途端、クレアちゃんが出し抜けに驚く様なことを言ってきた。
「へ?!」
そのおかげで私は、思わず変な声を出してしまった。
『いいですか? よく聞いて下さいね。現在私は、東の森にパーティでLv上げを予ての狩りに来ています』
「えっ、あ、うん」
『その途中で、モンスターに追われ逃げている人を見つけました』
「えっ、それって……」
私はその言葉を聞き、心中でもしかしてっと微かな期待を抱いてしまう。
『はい、あなたのことです。そして、パーティで話し合った結果、エルル……あなたを助けることになりました』
「ほ、ほんとにぃいいい!?」
私はつい、期待通りの言葉を聞き、素っ頓狂な声を出してしまっていた。
『ええ、それでですね。今のままでは、共闘ペナルティが発生してまともにダメージを与えられないので、エルルには私達のパーティに入ってもらう必要があります』
共闘ペナルティとは、他のプレイヤー又は、他のパーティが後から既に戦いが始まっているモンスターに攻撃して、経験値やドロップアイテムを横取りされないためのシステムである。
共闘ペナルティは、後から攻撃した他のプレイヤー又は、他のパーティに作用するため、先に攻撃したプレイヤーとパーティを組むことで、このシステムを回避することができる。
因みに、共闘ペナルティの内容は、他のプレイヤー又は、他のパーティが攻撃しているモンスターに対し、与DPが1/10になるというものだ。
「うん。うん! それで?」
『パーティ申請を出すためには、ある程度近づかなければなりませんので、そのモンスターを一度引き離そうと思います』
「えっと……どうやって?」
『それはこちらでやりますので、エルルは私の誘導に従って私達と合流して下さい』
「うん! 分かった!」
いやー助かるなぁ……やっぱり持つべきものは友達だよね♪
『それと、エルルは地属性の魔法を使えましたよね?』
「うん。使えるけど?」
『現在MPは残っていますか?』
「うん……といっても後1回使ったら、打ち止めだけどね」
『なら大丈夫ですね。私が言うタイミングに合わせ、シールド系の地魔法を使って下さい』
「えっ……でも、そうしたらホント私戦闘では、役立たずになっちゃうよ?」
『それについての対策はありますので、心配せず使い切って下さい』
「う、うん。よく分からないけど、分かった!」
『それでは、誘導を始めます。エルルから見て右手側前方の1時の方向に、赤・青・黒の3色岩が円陣を組むようにして、在ります。確認できますか?』
「えっと……うん! 見えたよ!」
『でしたら、エルルがその3色岩の側を通る時、エルルの右手側が赤い岩になるように進んで下さい。分かりますか?』
「えっとつまり、私が3色岩の横を通る時に、私の右側に赤い岩がある状態で通ればいいってことだよね」
『ええ、そうです。間違えますと私達と合流できないので、気を付けて下さいね』
「う、うん。だ、大丈夫、大丈夫。間違えないよ! 絶対に!」
若干声が震えたけど、ルカを失いたくないし、せっかく助けてくれるっていうクレアちゃん達の好意を無にしないためにも、絶対に間違えてたまるもんか!
クレアちゃんが言う方向に進んでいくと、3色岩がしっかりと見えてきた。
今は昼間だったからよかったけど、もしも夜だったりしたら、色を間違えていたかもしれない。
日光に当たっている所の色を見れば一目瞭然だけど、木々の影なんかになっているところの色は、全部似通った黒に見えちゃっているから。
『それでは次に、3色岩の赤い色の隣を通過したら、そのまま直進して行って下さい』
私はクレアちゃんに言われた通り、3色岩の赤い岩が私の右手側になる状態で過ぎ去ると、そのまま直進して行った。
後ろを見て見ると、まだ性懲りも無く赤い大きな猪は、私の後を付いて走っていた。
「クレアちゃん、3色岩を通過したよ」
『はい、こちらでも確認して頂きました。方向も合っているようですし、そのまま直進して行って下さい。しばらくすると、道がやや登り坂の様になってきます。その先に私達が用意した、5m程の短い橋があるので、それを渡れば私達と合流できますよ』
「うん! 了解だよ。後ちょっとだね」
『後少しだからといって、気を抜かない様にして下さいね』
「は~い。分かってるって!」
私は明るい調子で言ったが、実は結構いっぱいいっぱいだったりする。
私の種族特性なのか、妙にこの体は疲れにくい。
しかし、あくまで疲れにくいだけであって、疲れないわけではないのだ。(シャレじゃないよ!)
ゆえに、この猪に追われ始めてからずっと走りっぱなしで、疲労は既にピークに達しようとしていた。
私は心中で、『後少し、後少し』と言いつつ、頑張って足を進めている所だ。
クレアちゃんが言ってた通りしばらく走っていると、道がやや上り坂になってきて、走る速度が段々と遅くなってきてしまう。
私は気力を振り絞る様にして、速度を上げて上り坂を駆け上がって行った。
そしてクレアちゃんから最後の指示が下された。
『では、最後に橋を渡る直前に、エルルの後方にシールド系の地魔法を使って下さい』
私は特に何も考えず、というか何も考えられないほど疲れていたので、クレアちゃんの指示に通りに、橋を渡る直前に私の後ろに向けて魔法を使った。
「アースシールド!」
魔法は問題なく発動し、まるで私の後方から迫り来る猪の視界を遮る様に聳え立った。
そして私はクレアちゃん達が用意した橋を渡り切り、クレアちゃん達と合流を果たした。
クレアちゃんは、覚束無い足取りの私を支えてくれて、『良くがんばりましたね。』と言って、頻りに私の頭を撫でてくれた。
クレアちゃんは私が合流した後すぐ、他の人に向かって何かを言い、その後盛大な水音と生物(猪?)の悲鳴の様なものが聞こえた気がするが、この時の私はそんなこと等が気にならない程疲れていて、荒くなっていた息を整えるのに忙しかったのだった。
~side out~