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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第2章  Fランククエストと隠されし店
33/123

Locus 29 

 俺達がクレアさんに付いてしばらく歩くと、そこは眼下に小川が流れる小高い(がけ)の上だった。

 崖から眼下の小川までの高さは目測で3m強、反対側に見える崖までの距離は5m弱といったところだ。

 クレアさんが立てた作戦は、ここから反対側の崖に簡単な橋を掛け、エルルゥリアが橋を渡ったらレッドボアが渡れない様にして、時間を稼ぐとのことだった。


 時間を稼ぐ理由は、エルルゥリアが一定距離内にいなければパーティ申請ができず、その申請中に襲われることを危惧(きぐ)してのことだ。

 又、クレアさんが言うには、エルルゥリアは後衛系のクラスなのでMPが残り少ないから逃げているという見解ゆえ、エルルゥリアのMPを回復させるための時間稼ぎという反面もある。


「それでは私はエルルと話しますので、その内に準備を整えたいと思います。すみませんがリオンさん、木を切って持って来て頂けませんか?」


「……えッ? この森に生えてる木って、切れるものなんですか?」


「この森の木に限らず、その辺にある石や岩等も攻撃を加えることで、砕いたり、切ったりすることは可能ですよ。ただ、日付が変わりますと元に戻りますが」


「へーそうなんですか。分かりました。それで、どの位の木を切って持って来ればいいですか?」


「そうですね~……直径10cm、長さ5~6mの木を5・6本程お願いします」


「分かりました。それじゃ取って来ますね」


「それとあまり遠くですと時間が掛かってしまいますので、なるべく近場でお願いします。フィリアさんはここで待っていて下さい」


「分かりました。リオンさん、大丈夫だとは思いますが、気を付けて下さいね」


「ああ、ありがとう。それじゃちょっと行ってくるな」


 そう言って、俺はフィリア達と一度分かれ、クレアさんが言っていた橋の材料に良さそうな木を探しに行った。

 木を探して少し歩くと、良さそうな木を見つけることができた。


 俺は、Fランククエストの薪割りの手伝いの時のことを思い出し、今回も時間が限られているので迷わず、バーサークとソードダンスの重ね掛けをして、木を伐採(ばっさい)していった。

 もちろん、伐採した木々の枝葉を切り落とすことも忘れない。


 薪割りと違い今回は生木(なまき)だったが、問題なくこちらもスパスパ切ることができた。

 薪割りがプリンの様な硬さなら、今回の生木は木綿豆腐(もめんどうふ)といったところだろうか。


 俺は伐採した木々を、マジックバック(インベントリ)に入れていき、フィリア達の所へと戻って行った。


「戻りました」


「あ、リオンさん。おかえりなさいです」


「お疲れ様です。さっそくで申し訳ないのですが、取って来て下さった木々を実体化して、このロープで(むす)んで橋を作って頂けますか?」


「分かりました」


 俺はクレアさんからロープを受け取り、切って来た木々を実体化させた。


「あ、私も手伝います」


「助かるよ、ありがとな」


「いえいえ、どういたしまして」


「それと、橋に使う木は4本でお願いします。残った木は別に使いますので、全部は結ばないで下さいね」


 そうして、俺とフィリアは木々にロープを結んでいき、簡単な橋が出来上がった。

 ロープは真ん中と両端付近の3箇所(かしょ)に結び、すぐにバラけない様にしつつ安定性を持たせた。


「よし、こんなものかな」


「ですね」


「クレアさん、ロープ結び終わりましたよ」


 そう言いつつ俺がクレアさんの方へと振り向くと、クレアさんの両手には何時の間にか、木でできた(くい)が2本握(ほんにぎ)られていた。


「ありがとうございます。それでは、ソレを運んで橋を掛けましょう」


「あの~クレアさん?その杭はいったい、何に使うんでしょうか?」


 フィリアも俺と同じことを考えていたようで、(しき)りに(うなず)いている。


「あぁ、これはですね。橋を掛ける時に橋が安定するように、地面に打ち込むための杭です」


「なるほど、分かりました」


「ほぉ~。クレアさんよく考えてて、すごいです」


「ふふっ。ありがとうございます」


 そうして、俺達3人は橋を持ち上げ、橋を掛ける崖の近くまで運んだ。


「そういえばクレアさん、どうやってこの橋を向こう側の崖に掛けるんですか?まさか、橋を持ち上げて掛けるとかじゃないですよね?」


 そうフィリアが疑問を口にした。


「俺も気になってたんですが、どうするんですか?」


「ご心配にはおよびません。その辺は抜かりありませんから」


 そうクレアさんは、微笑(ほほえ)みを浮かべつつ、片方が輪になった長いロープを取り出した。


「ええっと、それは?」


「このロープの輪の中に輪の下のロープを入れ、輪を作ってその輪の大きさを調整して、橋の先端付近に通して、()ね橋の様にして橋を掛けようと思います」


「なるほど、カウボーイなんかが使う、投げ(なわ)を使うんですね」


「はい。この使い方ならロープの長さも調整できますし、引っ張れば輪も()まりますし、使い易いと思いますので」


 その後俺達は、向こう側の橋の先端付近に投げ縄を掛け、引き(しぼ)り、こちら側の橋の両端付近の地面に、杭を刺して橋を安定させた。

 次に、投げ縄の輪でない方を橋の後方にある木の枝に引っ掛け、滑車(かっしゃ)の代わりにする。

 仕上げに、ロープを引きつつ橋を持ち上げ、位置を調整し、ゆっくりとロープを引っ張りながらのばしていき、無事に橋を掛けることに成功した。


 因みに、出来上がったのはこんな感じだ。


消耗アイテム:橋  名称:簡易跳ね橋  ランク:1  強化上限回数:-


DEF8  要求STR:40  耐久値:80/80


説明:城門等でよく見られる可動橋の簡易版。

跳ね橋を上げ下げするロープを木の枝に引っ掛け、滑車の代わりにしていることで跳ね橋を可動させる者を若干楽にさせる働きがある。

橋の両側に木の杭があるため、跳ね橋を上下可動させる時、安定感があり可動させやすい。

但し、本物の滑車ではないので、ロープの磨耗(まもう)が若干早い。


 少しすると、エルルゥリアから連絡があり、クレアさん(いわ)く、もう少しでこちらと合流できるそうなので、エルルゥリアが方向を間違えていないかどうかを調べて欲しいと言われた。

 俺は気配察知を使い、こちらにそれらしき気配が2つ、近づいて来ていることをクレアさんに伝えた。


 それからしばらく待っていると、橋を(はさ)んだ前方にフードを深く被り、こちらへ走って来る人を見つけた。

 俺は念のため識別を使い、件の人であるかを確認した。


エルルゥリア・悪鬼人族(デモノイド)・Lv5・属性:地・影・耐性-・弱点:光


 確認が終わり、その事をクレアさんに伝えると、クレアさんがエルルゥリアに対し何か指示を出していた。


「フィリア、もしもレッドボアが、崖と崖との間を()()えて来ようとして、ジャンプしたら教えてくれ」


「あ、はい。分かりました。でも、もしそうしたらどうするんですか?」


「その時は、この跳ね橋を落として、レッドボアを下の小川に落とすつもりだ」


「なるほど!分かりました。ジャンプしたら知らせればいいんですね」


「ああ。頼むな」


「はい、お任せ下さい!」


 そうフィリアと話している内に、エルルゥリアが橋の手前まで辿(たど)り着いていた。


「アースシールド!」


 エルルゥリアは、橋を渡る直前に一瞬後ろを振り向き、魔法を使った。

 すると、エルルゥリアのすぐ後ろに、レッドボアの視界を(さまた)げる様にして、土壁が出現した。


 これは恐らく、先程クレアさんが出した指示なのだろう。

 この指示の目的は、レッドボアの視界を遮り崖があることを悟らせないことと、アースシールドを破壊させることでレッドボアの走る速度を減らすことだと思う。


 そう俺が思っていると、エルルゥリアは(またた)く間に跳ね橋を渡り切り、クレアさんの前まで行くと膝から崩れ落ちる様にして、クレアさんに倒れ掛かって行った。

 そんなエルルゥリアの頭を()でつつ、クレアさんはエルルゥリアを支えている。


「リオンさん、お願いします!」


 俺はクレアさんからの合図を受け、跳ね橋のロープを手繰(たぐ)り、橋を上げた。

 完全に跳ね橋を上げてしまうと、最悪の場合こちらに倒れて来てしまうので、若干傾けつつ跳ね橋を持ち上げ、その状態を維持(いじ)する。


 跳ね橋を上げ、少しすると腹の底に響く様な『ドドドドドド!』という音と共に、『プゴォォォオオオオオ!!』という鳴き声がし、そのすぐ後に『バッガァアン!』という音が聞こえてきた。


「ッ! リオンさん! 跳びました!」

 俺はフィリアからの声に反応し、すぐ様ロープから手を離し、さらに勢いが付く様に倒れかけている跳ね橋を押し、レッドボアへと跳ね橋を落とした。


 さすがに空中では回避ができなかったようで、『ゴゥン!』という音と共に『プギィ!?』という鳴き声が聞こえた後、盛大な水しぶきを上げながらレッドボアは、崖下の小川へと落ちていった。


「ピギィイイイ! プギィイイイ!」

 

 眼下の小川へと落ちていったレッドボアを確認した後、俺は素早く跳ね橋を上げ、ロープを木の幹に縛り付け、固定した。

 跳ね橋はかなり乱暴に落とし、大きな音を立てながら地面を2・3回バウンドしたが、ざっと見た限りでは損傷はなかった。


 俺はもう一度レッドボアを見てみると、ちょうど体を起こして立ち上がるところだった。

 レッドボアは体勢を立て直し、周囲を見回した後視線をこちらに向け、怒りの宿った様な目で(にら)み付けると、『プゴォォォオオオオオ!!』という雄叫びを上げ、小川を下って行った。


「ふぅ。どうやら一旦引き離すことが、できたみたいだな」


「そ、そうですね。あの赤い猪がリオンさんが言った通りに、こちらに跳んで来たことには、心臓が口から飛び出るくらい驚きましたけど、作戦がうまくいって良かったですね♪」


「ああ、だけどまたすぐに、こちらに来るだろうから、今の内に対レッドボア戦に(そな)えておかなきゃな」


 そうして俺達は、エルルゥリアを介抱(かいほう)しているクレアさんの方へと歩いて行った。



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