Locus 28
そろそろ引き上げ、セーフティエリアに移動しようとした時、ふいにクレアさんがこんなことを言った。
「皆さん、何か聞こえませんか?」
俺はクレアさんの方を見ると、クレアさんは目を瞑りながら、猫耳ならぬ豹耳をピコピコと動かしていた。
今度はフィリアの方を見るが、フィリアは耳を澄ます様にしているが、結果は芳しくないようで、しきりに首をかしげている。
一応俺も、自分の耳の後ろに手を置き、耳を澄ませてみる。
すると、さっきまでは聞こえなかった様々な音が聞こえるようになった。
木々の枝葉が森を吹き抜ける風により、互いに擦れ合いサワサワと音を発し、時折小鳥と思しき鳴き声が『ピピピッ、チチチッ』っと聞こえてくる。
俺はそれらの音を意図的に意識の外へ出し、クレアさんが言っていた音を探してみる。
耳から聞こえてくる全ての音から、自然に発する音とそうでない音とを分け、選別していく。
その結果、なにやら腹に響く様な『ドドドドドド!』という音と、誰かが何かを叫んでいる様な音が聞こえた。
そして、それ等の音が聞こえた後、脳内で『ピロン♪』という音がした。
俺は素早くメニューを開くと、新しいアーツを習得していた。
新しく習得したアーツは、暗殺スキルのアーツでこういうものだった。
□ サウンドアセンブル:自身を中心に、一定範囲以内の音を任意で取捨選択し、集音することができる。
SLv上昇と共に、より精度が増し集音可能範囲が広がる。
持続時間は、DEX・MID・LUK の値に依存する。
消費MP:10 リキャストタイム:60秒
俺はさっそく有効化し、このアーツを使ってみた。
「サウンドアセンブル」
先程耳を澄ませていた時に聞こえていた雑音はなく、俺が聞きたい音のみがより鮮明に聞こえ、音が声に、声が言葉として認識することができた。
「・・・・・・て・・・・・・・・・・・・」
「・・・す・・・けて・・・・・・・・・・・・!」
「ひぃぃぃやぁあああ!ちょ、ホント誰か助けてぇぇぇえええええ!!!」
真に切羽詰まった、もう後が残されていない、ただただ悲痛な叫び声が俺の耳に入って来る。
さらに、その悲痛な叫びのすぐ後に、『ドドドドドド!』っという腹の底に響く様な地鳴りと、怒りに染まっている様な、『プゴォォォオオオオオ!!』という鳴き声が聞こえて来た。
「クレアさん、どうやら誰かが、モンスターに追われて逃げているみたいですよ」
俺がアーツを使い、聞こえてきた情報をクレアさんに伝えると、クレアさんは目を見張り少し驚いた様な顔をした。
「たしかですか?」
「はい、集音の様な効果のアーツを使ったので、まず間違いないかと」
「ふむ、フィリアさんはどうしたいですか?」
「えっと~……助けを求めているなら、助けて上げたいです」
フィリアはやや戸惑いつつ自分の意見を言った。
「リオンさんは、どう思いますか?」
「残酷かもしれませんが、放っておけばいいと思います。知り合いならまだしも、赤の他人ならトレインしつつ、MPKされるリスクもありますし」
「クレアさんの意見はどうですか?」
そうフィリアがクレアさんに聞いた。
「そう……ですね。私もリオンさんの意見に賛成ですが、フィリアさんの意見も尊重したいですので、こういうのはどうでしょうか?折衷案として、私達3人の中の誰かの知り合いなら助けに入る。そうでないなら助けないというのはどうでしょう」
俺はフィリアの方へと視線を向けると、フィリアも俺に視線を向け互いに頷くと、クレアさんの折衷案に賛成し、その案で行動することにした。
「問題は、どうやってその追われている人を特定するかですが……」
クレアさんは腕を組みつつ、困った様に言った。
「それなら少し危険ですが、俺が視認してから識別すれば、その追われている人の特定ができるはずですよ。このゲーム、たしか同一の名前は付けられない様になってましたよね?」
「ええ、そうですね。お願いできますか? リオンさん」
「分かりました。……っと、もう気配察知の圏内に入って来てますね」
「そうなんですか?」
「ああ、まだ距離はあるけど、10時の方向だな」
そう俺はフィリアに答え、件の人を探すように視線を向け、目を凝らす。
少しすると、フードを深く被りながら全速力で逃走している人とその少し後ろから猛追してきている、赤っぽい色の大きな猪が見えた。
俺はそれ等を視認すると、すぐに識別を使ってみた。
エルルゥリア・悪鬼人族・Lv5・属性:地・影・耐性-・弱点:光
レッドボア・Lv8・属性-・耐性:突・弱点-
俺が識別の結果を2人に話すと、クレアさんがなんだかとても疲れた様な、それでいて済まなそうなそうな顔をした。
「本当に申し訳ありません。あのような折衷案を出しておきながら……ソレ、私の知り合いといいますか、リアルフレです」
「えッ!? それなら助けに行かないとですね。」
「そうですね。そういう案でしたし、早く助けに行きましょう、クレアさん」
「お二人共、ありがとうございます」
そう言うと、クレアさんは両手を前で重ねながらお辞儀をした。
「・・・・・・!」
シエルも俺達に賛同する様に、というか『わたしもたすけるー!』と賛同し、クレアさんの前でピカピカと光る。
「シエルも助ける気、満々の様ですよ」
そう言って、シエルが言いたいことを代弁し、クレアさんに伝える。
「シエルさんもありがとうございます」
クレアさんはそう言い、再度お辞儀をした。
「それでは、私はエルルに連絡を取りますので、エルルと合流する場所に移動しましょう」
そうして俺達はクレアさんに、付いて行き移動を開始した。