Locus 27
ログインしました。現在の時刻は、午後1時を少し回ったところ。
俺はさっそく移動を開始し、待ち合わせ場所に歩いていった。
待ち合わせ場所に向かう途中、ちらほらとテイムモンスターを連れて歩いているプレイヤーを見かけた。
足を止めず観察していると、どうやら他の人達にテイムモンスターのことで、呼び止められることはないようだった。
ふむ、これならシエルを出しながら、街を歩いても大丈夫かな。
そう俺は判断し、シエルの装飾化を解いた。
「シエル、ここ最近あまり出してやれなくて、ごめんな。でも、シエルみたいなテイムモンスターを連れている人が増えてきているから、これからは街中でも気兼ねなく、装飾化しなくても連れて行けそうだぞ」
「・・・・・・?」
シエルから、『ほんとう?』っとやや期待の混じった返事が伝わってくる。
「ああ。これからは一緒にいられるな」
「・・・・・・♪」
シエルから、『わーい♪』という嬉しそうな返事が伝わってくる。
そうして俺は、シエルに移動することを伝え、待ち合わせ場所へと歩を進めて行った。
このまま行けば、待ち合わせ時間の5分前には到着することができるだろう。
しばらく歩き、待ち合わせ場所に到着すると、既にフィリア達と思しき2人組が来ていた。
薄桃色の髪とエルフ特有の長い耳をしてるが、以前会った時と違いRPG等でよく見られる、白を基調としたローブに、神官が被るような帽子……ビレッタを身に付けていた。
武器は、ノービスメイスを1周り大きくした様な、白っぽいメイスを背負っている。
う~ん……フィリアっぽいけど、間違えたら恥ずかしいし、ここは識別を使ってみることにしよう。
そう思い、俺はフィリア達と思しき2人組に、識別を使った。
フィリア・森人族・Lv5・属性:火・癒・耐性-・弱点-
クレア・豹人族・Lv5・属性:水・耐性-・弱点-
ほうほう、こういう風になるのか。
フィリアだという確認もできたことだし、俺も合流するとしよう。
俺はフィリアに近づきつつ、声を掛けた。
「よっ! フィリア久しぶりだな。今回は迷わなかったんだな。感心感心」
「あ、リオンさん! お久しぶりです……って、毎回迷ったりなんかしませんよ。それに、もう何回もここを通っているんですから」
フィリアは、やや拗ねる様な口調でそう言った。
「それもそっか。それでその人が?」
「あ、はい。紹介しますね。こちらが私の友達のクレアさんと言います」
「お初にお目に掛かります。クレアと申します。普段は生産職の裁縫師をしております。種族は、猫人族の豹人族です。どうぞよろしくお願いします」
そう言って、クレアさんは両手を前で重ねるようにして、お辞儀をした。
「こ、これはご丁寧に……えっと初めまして、俺はリオンと言います。種族は人族です。こちらこそよろしくお願いします」
俺はクレアさんに返礼するように、頭を下げた。
クレアさんは、優しいお姉さんといった印象だ。髪は濃い目の金色のショートヘアで、目は琥珀色をしている。
クレアさんの服装は、若草色のエプロンドレスに、膝まであるブーツを履き、頭には白いレースの様なものが付いたカチューシャを付けている。
言葉遣いが丁寧過ぎるが、クレアさん自体の声質が柔らかいものであるため、冷たい印象はない。
武器は、腰に短剣を差している。
因みに、豹人族とは、猫人族のレア種族らしい。
「なぁフィリア、その防具ってか服装ってもしかして……」
「はい♪ クレアさんに作ってもらったんですよ」
「やっぱりそうか。いいな~、俺なんかまだ初期装備のままだよ」
「それでしたら、リオンさん。もしよろしければ、防具をお作りしましょうか?」
「えッ! いいんですか?」
「はい。フィリアさんの御友人ですし、これも何かの縁ということでどうでしょうか?」
「是非お願いします! それなりの素材はあるので、それでお願いできますか?」
「はい、それでしたら今回の狩りが終わってから、お渡しいただければお作りしますよ。出来上がり次第、ご連絡いたしますので取りにいらして下さい」
「分かりました。よろしくお願いします」
そうして、俺はクレアさんと互いにフレンド登録をし合った。
「そういえば、リオンさんの周りに浮かんでいるものって……?」
「ん? ああ、俺のテイムモンスターでシエルって言うんだ」
俺がシエルを軽く紹介すると、シエルがフィリア達の前まで行き、ピカピカと光る。
「えっと、あの~これって?」
「シエルがフィリア達によろしくって挨拶してるんだよ」
「なるほど! 私はフィリアと言います。こちらこそよろしくね、シエルちゃん」
「私は、クレアと申します。こちらこそよろしくお願いします、シエルさん」
そうこうしている内に約束の時間の午後1時半になり、俺達は当初の目的地である東の森に向け、移動していった。
東の森に行く道中、パーティ内での役割を決めた。
その結果。
俺は前衛で、モンスターを攻撃することでヘイト(敵愾心)を稼ぎ、モンスターを中衛・後衛へと行かせない様にする役割。
クレアさんは中衛で、モンスターが前衛から離れようとしたり、中衛・後衛に狙いを変えようとした時に牽制し、チャンスがあれば攻撃を仕掛けるようだ。
フィリアとシエルは後衛で、MPに気を付けつつ魔法で攻撃したり、HPが半分程になったら随時回復するといった感じだ。
これ等はあくまで今回のパーティ戦の基本であり、戦闘時には臨機応変に対応することになっている。
因みに、俺は気配察知や識別を持っていることから、斥候役も兼ねている。
東の森に到着後、俺はさっそく気配察知を使いモンスターを探していった。
気配察知を使いながら少し歩くと、気配察知に引っかかるものがあったので、皆に注意を促しそちらに進んで行く。
視認できる距離まで近づくとそこには、猪っぽいモンスターが2匹と、青い羽が綺麗な蝶の様なモンスターが2匹居た。
俺はすぐ様識別を使ってみた。
フォレストボアA・B・Lv5・属性-・耐性:突・弱点:打
ポイズンモルフォA・B・Lv4・属性-・耐性:眠り・弱点:火・斬
ここで注目するところは、ポイズンモルフォの耐性が眠りになっているところだ。
これは恐らく、ポイズンモルフォが眠り毒を用いた攻撃をするということなのだと思う。
俺は皆に、毒持ちと思われるポイズンモルフォのことを話した。
その結果、俺達は奇襲を仕掛け、速攻によりポイズンモルフォを仕留めることにした。
俺はおいそれと使える中・遠距離攻撃の手段がないため、陽動兼囮役となった。
「ハイディング」
俺は皆から分かれてからすぐに、ハイディングを使い姿や気配を暗ませながら、移動を開始していった。
そして現在、モンスターの一団を大きく迂回し、背後に回ったところだ。
フィリア達の方を見ると、準備ができたようなので俺は、2匹いるフォレストボアの間に入る様に駆け寄り、攻撃を行った。
「レイスラッシュ!」
「サークルスラッシュ!」
「プギィ?!」
「プゴォ?!」
俺の背後からの奇襲により、フォレストボアA・Bから驚きと痛みによる悲鳴が入り混じった様な、鳴き声が上がった。
HPバーを確認してみると、フォレストボアA・B共に、3割強HPバーが減っていた。
俺の攻撃により、フォレストボアA・BとポイズンモルフォA・Bの注意が俺に向けられると、フィリア達が作戦通り攻撃を開始した。
「エイミングサイト」
「キャストエッジ!」
「「ッ?!」」
クレアさんが投げた4本のナイフが、狙い誤らずポイズンモルフォA・Bの羽に風穴を開け、地に落とす。
「ファイアーボール!」
「・・・・・・!」
フィリアが放った拳大の火球が、地に落ちたポイズンモルフォBに着弾し燃え上がり、シエルが放ったライトアローの内の2本は、地に落ちたポイズンモルフォAの頭と腹を刺し貫き、光の粒子へと変えた。
そして残り1本のライトアローは、燃え上がっているポイズンモルフォBの腹を刺し、こちらも光の粒子に変える。
「アクアストライク!」
クレアさんが、フォレストボアAに大人の頭程の大きさの水球を当ててダメージを与え、フォレストボアAの気を引く。
「こちらはお任せ下さい」
そうクレアさんは言うと、フォレストボアAにヒット&アウェイを繰り返し、徐々に俺から離れていく。
俺は素早くフォレストボアBの横側に移動しつつ、決してフォレストボアBの正面に立たない様に注意して、攻撃を加えていった。
しかし、厚い毛皮に覆われているせいかダメージをあまり与えることができていない。
俺は効率良くダメージを与えられる頭・首・心臓を狙おうとしたが、頭や首に攻撃をしようとするとフォレストボアBが振り回す牙に当たってしまう。
そして心臓部分を狙うにはフォレストボアBを横転させなければ心臓部を見ることさえできない。
俺は一縷の望みを賭け、普段は使っていないアーツを使って見た。
「ウィークネスアイ」
ウィークネスアイの効果により、俺の目にはフォレストボアBの弱点部分が赤く微発光し、視覚化される。
微発光し視覚化されたのは、チュートリアルフィールドでナビさんが言っていた様に、生物の弱点である頭・首・心臓部位を除くと、短い4本ある足の関節部分が発光している。
そういえば、馬等はその巨体故に、心臓の働きだけでは全身の血流が上手くいかず、足を動かす事によってソレを補ってるらしいから、それと同じなのかな。
俺はとりあえず真偽を確かめるため、弱点であるらしい膝関節を狙って攻撃する。
攻撃したのは後ろ足だ。
「スマッシュ!」
「プギィ!」
まるで細い枝を圧し折った時の様な手応えがあった。
どうやら、うまくフォレストボアBの膝関節を砕くことができたようだ。
フォレストボアBは、俺が後ろ足の膝関節を砕いたことで後ろ足を引きずり、動きを鈍らせている。
俺は念のため同じように残った後ろ足を叩き折り、動けないようにしてから止めに頭を狙い、アーツを使った。
「パワースマッシュ!」
ノービスソードを両手で持ち、勢い良く振り下ろす様にして、フォレストボアBに攻撃する。
「ピギィッ!!」
壺を粉砕する様な手応えと共に、フォレストボアBの頭蓋骨を叩き砕くと、HPバーが急速に減少していき0になると、光の粒子へと変わっていった。
俺がフォレストボアBを倒しクレアさんの方を見ると、フィリア・クレアさん・シエルの3人(?)が連携し、もうすぐフォレストボアAを倒し切るところだった。
フォレストボアの弱点である打属性を持つメイスで、果敢に攻撃をする回復役。
フォレストボアAの注意を投げナイフで引きつつ、短剣で着実にダメージを積み重ねていくクレアさん。
フォレストボアの耐性が突属性であるためか、攻撃はせずHPが減少したら回復させ、時折ライトシールドで受けるダメージを緩和させるシエル。
互いが互いをフォローし合い、見事な連携をみせている。
「これで終わりです。―――フルスイング!」
フォレストボアAのHPが残り後少しという時、フィリアが両手で柄を持ちながらメイスを振り被り、思いきり振り切った。
すると『ボグゥ!』っという音と共に、フォレストボアAの体にメイスが減り込む。
「ピギィー!」
その1撃がフォレストボアAのHPを削り切り、フォレストボアAが光の粒子へと変わっていった。
その後俺達は、1時間程同じ様にして狩りをしていった。