Locus 22
草原のセーフティエリアを出て少し歩くと、気配察知に引っかかるものがあった。
数は1体……あれ?
今まで草原で出会ったモンスターは皆、複数だったので少し違和感が生じたが、東の森では普通に1体のモンスターが居たことを思い出し、何もおかしくはないと思い直した。
モンスターの方へ近づいて行くと、視認することができた。
見た目はモノコーンラビットなんだが、なんていうか通常のモノコーンラビットよりもやや大きいというか、でっぷりしている気がする。
それと、夕暮れ時なせいか、はたまた光の加減のせいか、体毛の一部がキラキラ光っている様に見える。
ここは、とりあえず識別してみることにした。
フォーチュンラビット:Lv6・属性:光・耐性:光・弱点:斬・影
フォーチュン……意味は幸運だったかな?
Lv6ということは、東の森のボスウルフと同じ位強いということになる。
今の俺もLvが上がり同じLv6だが、油断していい相手ではない。
そして、俺は素早く装備スキルを入れ替え、シエルを手招きで呼び寄せ、フォーチュンラビットに対する作戦を指示する。
「シエル、悪いが今回は俺の補助を頼みたい。識別したら、耐性が光になっていたから、シエルでは決定的なダメージを与えにくいと思うんだ」
「・・・・・・」
シエルから、『うん、わかった。』っと返事が伝わってくる。
「ありがとな。それじゃシエルは上空からライトアローで牽制してくれ。動きが鈍った所を俺が攻撃を加える。それと、最初はシエルが攻撃してくれ。その方がフォーチュンラビットの注意が逸れるしな」
「・・・・・・!」
シエルから、『がんばる!』という返事が伝わってきた。
「ありがとう。それじゃ行こうか」
そう俺が言うと、シエルはふよふよと上昇しながら、フォーチュンラビットの方へ飛んで行った。
「ハイディング」
俺はハイドアタック狙いで、フォーチュンラビットの背後に回るように移動を開始した。
シエルがフォーチュンラビットの上空5m程到達した時、俺はフォーチュンラビットの後方5m程の所に辿り着いていた。
シエルは既に、ライトアローを生成し終えているようで、シエルの周りには3本の光の矢が浮かんでいた。
「・・・・・・!」
シエルから、『いくよー!』っという合図が伝わってくると、シエルがライトアローをフォーチュンラビットに向けて発射した。
ライトアローは、フォーチュンラビットの逃げ道を塞ぐ様に、3方向(前方・右方・左方)から襲い掛かる。
「ピキュ!?」
フォーチュンラビットは驚きの鳴き声を上げ、咄嗟に避けようとするが、ライトアローの追尾能力により、全て命中する。
「キャゥ!」
しかし、さすが耐性持ちというべきか、フォーチュンラビットのHPバーは1割も減っていなかった。
フォーチュンラビットが、上空にシエルが居ることを発見すると、フォーチュンラビットの周囲に光が収束していき、3本の光の矢を生成していく。
シエルはリキャストタイムが完了していないのか、ライトアローの生成をしていない。
「キュワ!」
フォーチュンラビットがシエルに向け3本のライトアローを発射した。
俺はその瞬間に、フォーチュンラビットに向け駆け出して行った。
フォーチュンラビットは、ライトアローを発射した直後であったためか、こちらを見てはいなかったが、フォーチュンラビットの耳が俺の方に向いているのが見えた。
音で既に察知されているのなら、こちらを見て回避しようとするはずだ。
視認されてしまえば、ハイドアタックの効果はなくなってしまう。
俺は、このままではハイドアタックの効果を発揮できない可能性が高いと思い、先ほど習得したアーツを使うことにした。
俺がフォーチュンラビットに対して攻撃できる間合いに入った所で、フォーチュンラビットがこちらを向いているのを確認した。
やっぱりか。
そう思いつつ、フォーチュンラビットに攻撃を加える。
「ダブルスラッシュ!」
「キャキャゥ!」
フォーチュンラビットから悲鳴が上がり、フォーチュンラビットのHPバーが3割強減る。
フォーチュンラビットはすぐに起き上がり、体制を整える。
その時上空でガラスが割れた様な破砕音が響いてきた。
何事かと、上空を見上げると、シエルの生成したと思しきライトシールドとフォーチュンラビットのライトアローが互いに消滅していくところだった。
シエルのHPバーが少し減っていることから、ライトシールドで全ては防げなかったのだろう。
俺は視線をフォーチュンラビットに戻し、再び攻撃を仕掛けようとするが、フォーチュンラビットは俺に背を向け走り去って行く途中だった。
ある程度の距離が開くとフォーチュンラビットは止まり、フォーチュンラビットの周囲に光が収束していく。
なるほど、フォーチュンラビットはモノコーンラビットと違い、遠距離攻撃型なのか。
そう考えていると、ふいに俺の体全体がぽぅっと光り、そして消えた。
今度は何だと見回してみると、視界の端にMID↑のアイコンが付いていた。
どうやらシエルが、俺にマインドブースター・ライトを掛けてくれたようだ。
さすがシエル、ナイスアシストだ!
そうしていると、フォーチュンラビットのライトアローの生成が終わったようで、俺に向かって発射してくる。
俺には今のところ遠・中距離攻撃の手段がない。
種族スキルの〔混血・竜の息吹(光)〕は、まだリキャストタイムが完了しておらず、また例え使えたとしても、フォーチュンラビットの耐性属性が光であることから、与えられるダメージは微々たるものだろう。
なのでまずは近づかなければ攻撃することができない。
それと、ライトアローには若干の追尾性能があるとはいえ、避け方しだいでは避けられるはずだ。
それなら、避けるためには素早さが必要だよな。
そう考え俺は、アーツを使った。
「ソードダンス!」
俺の体全体と武器が銀白色の燐光に包まれるのを確認すると、俺はフォーチュンラビットに向かって駆け出して行った。
フォーチュンラビットが、放ったライトアローが迫ってくるのを視界に捕らえると、見切りのスキルによってライトアローの到達予測線が赤いラインとして視覚化される。
ライトアローには若干の追尾性能があるためか、最適の行動を取る余地がない。
俺は少し前にシエルとベーシックインセクトが戦っていた場面を思い出し、ライトアローの追尾性能が発揮されないように、ギリギリの所で避けてみた。
1本は避けられたが、残り2本は体勢を崩してしまって、避けることができなかった。
俺は、崩した体制から苦し紛れに、ライトアローが到達する直前にノービスソードを振ってみた。
パキィン!
ノービスソードがライトアローに当たり、ライトアローを破壊することができた。
そのことに少し驚いていると……ドッという音と共に残った1本のライトアローが左肩に刺さり消滅する。
「痛ッ!」
左肩から赤いエフェクトが明滅し、流血を想起させる。
自身のHPバーを確認すると、2割程度のダメージを負っていた。
このことにより、長期戦は厳しいということが分かり、俺は速攻によりフォーチュンラビットを仕留める方針でいくことにした。
幸い当たり所が悪くなければ、フォーチュンラビットのライトアロー3本分のダメージに、耐えることができる。
問題はシエルに掛けてもらった、マインドブースター・ライトの効果時間が後どれくらいなのかが、分からないことだ。
マインドブースター・ライトの分、フォーチュンラビットのライトアローによるダメージが緩和されているはずなので、その効果が切れてしまうと例え当たり所が悪くなくても、3発当たった時点で死ぬ可能性が高い。
こんなことなら、マインドブースター・ライトの持続時間調べておくんだったな。
それと、恐らく次の1撃で倒せないと、俺に勝機はもうなくなると思う。
フォーチュンラビットにまた距離を開けられれば、こちらからの決定打は もちろん、攻撃を入れることすら難しくなるからだ。
ソードダンス中は、剣スキルを使うとソードダンスの効力は消えてしまうし。
ソードダンスだけではまだ、攻撃力が足りない。
……もう後がないし、攻撃力の不足分はバーサークを使えばいいか。
後はどういう攻撃を加えるかだが……アレをやってみるか。
考えが纏まると、俺は右腕を曲げ後ろに引き絞る様にして、右手の指を内側に折り畳み、右手の甲を反らす。
左手の指でノービスソードの剣身の中程の腹を支え、ノービスソードの柄頭を右掌の中心に当てる。
ノービスソードの剣先は、フォーチュンラビットに向けやや下げる。
そうして俺は体勢を素早く整えると、覚悟を決めフォーチュンラビット目指して突進して行った。
フォーチュンラビットとの距離が5m程縮まった時、フォーチュンラビットの周囲に光が収束され始める。
いかん、急げ!
俺はやや前傾姿勢になりつつ速度を上げフォーチュンラビットへと走って行く。
フォーチュンラビットとの距離が10m程になった時、フォーチュンラビットがライトアローを発射した。
迫り来るライトアローが視界に入ると、見切りのスキルによりライトアローの到達予測線が赤いラインとして視認化される。
俺はライトアローの到達予測線に割り込む様にして、本来当たる場所である部分をかばうようにして、フォーチュンラビットに突っ込んで行く。
直進してきたライトアローの1本目を、左腕で受ける。
歯を食いしばり、痛みに耐えつつ前進する。
俺から見て左方から来た2本目のライトアローの到達予測線が首に当たっていたので、首を竦め左肩を上げる。
ライトアローの2本目が左腕の二の腕上部に刺さる。
度重なるダメージにより、左腕に力が入らなくなっているが、それを無視して足を進める。
俺から見て右方から来た3本目のライトアローが、右腕を引いていることにより、がら空きになっている右脇腹に近づいて来る。
3本目のライトアローの到達予測線は依然俺の右脇腹に当たっているのを見て、次に来る痛みに備えた。
そして後少しで命中するっという所で、縁がキラキラ光っている円形の透明な板の様なものに遮られる。
シエルのライトシールドだ。
先程も見たように、ライトシールドにライトアローが突っ込み、ガラスが割れる様な破砕音を響かせながら、互いに消滅していった。
『ナイスだ、シエル!ありがとう。』っと心の中で礼を言いつつ、アーツを使った。
「バーサーク!」
俺の体全体と武器が鮮やかな赤、紅色の燐光に包まれる。
フォーチュンラビットの目前まで到達し、俺は今までの突進で稼いだ運動エネルギーを乗せ、左足で強く踏み込む。
剣先をフォーチュンラビットの目に狙いを定め、ノービスソードの剣身を支えていた左手の指を離し、力の向きを収束するように、左足から腰へ、腰から胸へ、胸から右肩へ、右肩から右腕へと螺旋状に練り上げ、引き絞った矢を放つ様に勢い良く右腕を突き出し、ノービスソードを打ち出す。
打ち出す瞬間、右腕に回転を加えつつ威力を上げることも忘れない。
「キュガッ!?」
ノービスソードの剣先は狙いたがわず、フォーチュンラビットの眼球を刺し貫き、そのまま体内を貫通してフォーチュンラビットの右腰辺りからノービスソードの剣先が生えた。
そして、ノービスソードの剣先が生えたところから……ドパっと少し遅れて、螺旋状の赤いエフェクトが迸った。
すると脳内で『ピロン♪』という音がした後、フォーチュンラビットのHPバーが急速に減っていき、0になるとHPバーを散らせながら光の粒子へと変わっていった。
「ふ~……」
フォーチュンラビットを倒し、安堵していると、シエルがふよふよと飛んで近づいて来る。
「お疲れ様、シエル。助かったよ、ありがとう」
「・・・・・・~♪」
シエルから『どういたしまして~♪』という返事が伝わって来る。
ふと今の自分のHPがどうなっているかが気になり、見てみると既に半分以上が回復していた。
シエルが防いでくれたライトアロー分もあるのだろうが、再生のスキルで回復しているのだろう。
このまま回復しきるまで待ってもいいが、ここは一度セーフティエリアに戻ることにしよう。
俺はシエルに移動することを伝え、再び草原のセーフティエリアに戻って行った。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
リオンが使うことにしたアレとは、昔習った古武術の技です。
本来は左手で剣を支えずに使える技ですが、何分的であるフォーチュンラビットが小さかったため、狙いを定めやすい様に左手で支えています。
名前はうろ覚えのためよく分からないようです。