Locus 11
フォレストウルフが残り3体になったところで、黒毛金眼の他のフォレストウルフに比べ1回り以上大きな狼が現れた。
その黒い狼を視界に入れつつ、識別を行う。
ボスウルフ・Lv6・属性:-・耐性:魔法・弱点:光
ボスウルフが吼えるモーションを取ると、残っていた3体のフォレストウルフが赤と緑が混じった様な黒いオーラに包まれた。
ボスウルフがまた吼える様なモーションを取ると、それが合図だったのか、フォレストウルフ達が一斉に襲い掛かって来た。
ボスウルフが来る前に比べ少し速く動いてる様に見えたが、今の俺にとって大した差は感じなかった。
1体目は、ノービスソードで首を切り付け、2体目は、ダガーで心臓部を刺し、3体目は、ノービスソードで脳天を叩き砕いた。
後に残ったのは、こいつ……ボスウルフのみ。
ボスウルフは、四肢を踏ん張り、全身の毛を逆立て、まるで威嚇するときのように、吼えた。(おそらく)
「ウオォォォォォーーーン!!」
俺には、ボスウルフが吼えているかもしれないとしか分からないが、ボスウルフのアーツなのか、今まで普通に動かせていた体が急に重くなったように感じた。
その隙を逃さず、ボスウルフは俺を押し倒す勢いで、猛烈な突進を繰り出して来た。
かろうじて、剣の腹で防御することができたが、勢いに負け押し倒されてしまった。
せっかくの思考加速による、行動力の倍化も押さえ込まれてしまえば関係ない。
ボスウルフは剣を銜えつつ力を掛け、俺の咽に牙を突き立て様としてくる。
俺のHPはじわりじわりと、ボスウルフが力を掛け続けて来ることにより減少していく。
ここでさらに色覚がなくなり、俺の見る風景から色がなくなった。
そこは白と黒しかない世界。
加速する思考の中、この状況を打開する手を考える。
押さえ込まれているゆえ、回避や流すという行動はできない。
ボスウルフが体重を掛け伸し掛かっているので、払い退けることも不可能。
同様に、ボスウルフが体重を掛け伸し掛かっているため、例え両足でボスウルフを蹴り上げたとしても、今のこの体制が崩れ、牙を咽元に突き立てられるだろう。
何かないかと、再度ボスウルフに識別を掛ける。
ボスウルフ・Lv6・属性:-・耐性:魔法・弱点:光
弱点:光……先程の咆哮……っ!
俺は今のこの状況を変える唯一の手を思いついた。
やり直しは利かない、1発勝負。
コレがもし、魔法に属するものでも弱点ではあるのだから、少なくとも普通には効くだろうと願い、俺は一か八かの賭けに出る。
狙いをボスウルフの目周辺にして、ソレを使う。
ソレを使おうとする意志に反応して、口内に温かい何かが溢れて来るのを感じ、ソレをボスウルフ目掛けて解き放つ!
「ガァァァァァアアアーーーーー!!」
俺の口から、口の大きさより明らかに太い光線が発射され、ボスウルフの目と頭を焼く。
「ギャウゥゥゥン!」
ボスウルフは仰け反り、体勢を大きく崩した。
俺はこの隙に、ボスウルフの下から両足で蹴り上げ、ボスウルフを転がして脱出する。
ボスウルフのHPバーは5分程減っており、さらにHPバーの横には、渦巻き模様のアイコンと黒い雲のようなアイコンが出ていた。
察するに混乱と盲目のバッドステータスが発生した様だ。
俺はこの機に、無防備に転がっているボスウルフに、今使える全てのアーツを叩き込んでいく。
「ハイドアタック!」
現在盲目状態であるためか、問題なく発動してボスウルフのHPバーを1割程度減少させる。
「ネックハント!」
「スラッシュ!」
「レイスラッシュ!」
チェーンボーナスでも発生したのか、同属性のアーツを重ねるたびに、ボスウルフのHPバーはより多く減少していった。
ネックハントで、1割5分。
スラッシュを首筋に当て、2割。
レイスラッシュを首筋に当て、2割5分。
ボスウルフのHPバーを見ると、残り3割を切っていた。
さらに、HPバーの横には赤い雫が描かれたアイコン……出血のバッドステータスが発生していた。
ボスウルフのHPバーの横の混乱と盲目のバッドステータスアイコンが点滅しているのを見て、急いで攻撃を加えていく。
「ヘッドクラッシュ!」
「スマッシュ!」
剣の与DP倍率のせいか、斬属性の攻撃よりダメージは少なかった。
ヘッドクラッシュで、5分。
スマッシュを脳天に叩き込んで、1割。
今回の攻撃後、混乱と盲目のバッドステータスは消えてしまったが、新たに星が回っているアイコンが出ていた。
気絶のバッドステータスが発生したみたいだ。
しかし、あまり時間はないようだ。
気絶のバッドステータスアイコンの右下に10と表示されていて、刻々と数字が減っているからだ。
俺は一気に畳み掛ける様にして、アーツを使い攻撃する。
「ストライクハート!」
「ピアース!」
ストライクハートで、3分。
この時、低確率発動の即死は付与されなかったので、すぐに次のアーツを使った。
ピアースをストライクハートで刺した所に刺し込んで、6分。
俺は全てのアーツを使い切り、その技後硬直の蓄積により、動けないでいた。
そうしていると、ボスウルフが正気を取り戻したようだ。
ボスウルフのHPバーを見ると、残り数ドット残っていた。
くそっ! せっかくここまでやったのに、足りないなんて!
動けずにいる俺に、ボスウルフは前足を振り上げ……。
振り下ろす直前に、HPバーを散らしながら光の粒子に変わっていった。
俺はボスウルフのHPバーの横に、アイコンがあったのを目の端で捉えることができた。
あれはおそらく、出血のバッドステータスアイコンだったのだろう。
残り数ドットもしくはもっとを、出血によるHPスリップダメージで減少したんだと思う。
ここで、自分のHPバーを確認すると、残り1割もない。
数字で表すと11だった。
今回は運良く助かったが、次からは慢心等せず、もっと慎重に行動しようと思う。
そう思っていると、ファンファーレとインフォメーションが滝の様に流れたが、俺は今それ等に構っている余裕がなかった。
ボスウルフを倒し、俺の目と耳、鼻が正常に戻った時思考加速の反動か、ものすごく体がだるいのだ。
それに、今別のモンスターに襲われたら、死に戻り確実。
なので、速やかに且つ、静かに来た道を戻り、セーフティエリアまで戻って行った。
それにしても、種族スキルを使う時、スキルを唱えたら竜言語が出たのには驚いたなぁ。