Locus 111
通路の袋小路になっている無作為転移の罠の場所に到着すると、案の定罠を発動させた時にゴブリンパスファインダーがいた場所の後ろの壁に隠しスペースが存在していた。
一見すると何の変哲もない壁だが、少し押しつつ襖のように向かって左にスライドさせると開く仕組みになっていた。
中には先程拾ったブラッドクレーバーが丁度収まる窪みがあり、安易に落ちないためか、額金具のようなものが、刃の峰部分に2か所と柄の中間に1か所あった。
無作為転移の罠の方を確認してみたが、1発限りだったのか、それとも時間経過で復活するタイプなのかはわからないが、今は天眼で見ても反応はなかった。
しかし、周囲の壁を確認してみると、不自然な縦長のコの字状の青いラインが入っていることに気付いた。
どう不自然かというと、周辺にスイッチが見当たらないのに、壁に隠された何か……恐らく開閉機構があることだ。
こちらに開くためのギミックが存在しないのであれば、ココは出口であり且つ、入り口からの一方通行なのではないかと考えられる。
なので、まだ行ってない通路の先を調べれば、ココへと繋がる隠し通路的なものが見つかる可能性が高く、もしもあれば、セルピナ達救出時の時間短縮になるので、見落とさないようにしたいところだ。
そうして、一通り無作為転移の罠周辺を調べ終え、他に発見するものがなくなった後、木箱と樽があった部屋に戻って行った。
俺は、万が一戦闘が発生することを考え、【バーサーク】…STR・INT2倍、DEF・MID1/2や、【ライオットバーサーク】…STR・INT3倍、DEF・MID1/3を使い、手早く虚空庫へと木箱と樽等を収納していく。
すると、無作為転移のあった通路から入って左手側にあった壁の右隅に、木箱や樽の影に隠すように猫の壁画が存在していた。
タイトルは『鳥を捕って食べる猫』とあり、壁画を十字に線で区切り、中央の十字を囲むように小さな正方形があり、その正方形の中の右下に①、右上に②、左上③、左下④の数字が割り振られていた。
そして、右下の壁画には、草むらに伏せて木の下で何がを啄ばんでいる鳥を狙う猫が、右上の壁画には、草むらに伏せながら、風の音に紛れつつゆっくりと鳥へと近づいていく猫が、左上の壁画には、何かに気を取られている鳥に飛びかかる猫が、左下の壁画には、無残に羽を散らしつつ鳥を捕食している猫の後ろ姿がそれぞれ描かれていた。
俺はその描写に少し引きつつも素早くSSを撮り、タイトルのプレートを外し、虚空庫に入れた。
因みに、鑑定結果はこのとおり。
特殊アイテム タイトルプレート③:鳥を捕って食べる猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
やっぱりあったな壁画……。
隠すようにあったけど重要な壁画かわからないのが辛いな。
まぁ、取りこぼすよりかはマシか。
さて、他にはコレといったものはないみたいだし、戻ってダグラス達と合流するとしよう。
そうして俺は罠を踏まないよう注意しつつ、できるだけ最速で壁画のプレートを回収し、無作為転移の罠で飛ばされた場所に戻っていった。
特殊アイテム タイトルプレート②:草に戯える猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
もちろん、初期位置正面の壁画のプレートも忘れない。
特殊アイテム タイトルプレート①:猫は日のほとんどを寝て過ごすの壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
そして安全と回収忘れがないことを確認後、初期位置正面の壁画から向かって左の通路を進んでいく。
通路の突き当りから道なりに1度右に曲がると、短い直線の通路があった後また右に行ける曲がり角があった。
更にそこを進むと新たな通路と3つの曲がり角が視界に入ってくる。
1つ目は通路口から1番近く、6~7m前方の右側にある曲がり角。
2つ目は通路の丁度中間辺りにあり、2番目に近い左側にある曲がり角。
そして、3つ目通路の突き当りにある、1番遠い右側の曲がり角だ。
俺は簡易マップを見ながら少し考えた後、最も近い2つの光点に近づける道に当たりをつけ、1つ目の通路に入って行く。
すると、新たな通路と4つの曲がり角が見えてくる。
1つ目は通路口から1番近く、2~3m前方の左側にある曲がり角。
2つ目は通路口から少し遠い10m程先にあるやや狭い右側にある曲がり角。
3つ目は2つ目から2~3m程前方にある左側の曲がり角。
そして、4つ目の曲がり角は、通路の突き当りの右側にあった。
簡易マップの位置から推察するに、どうも右側の曲がり角のどちらかの先にいるような気がしたので、まずは近い方の右側にある曲がり角へと進んでいった。
幅1.5m程の曲がり角に入ると、5~6m先の突き当りに見え、更に右に折れる通路が目に入った。
罠の位置に気を付けつつ歩いて行き、周囲を警戒しながら曲がり角に入る。
すると今度は5~6m先の突き当りから左に折れる曲がり角が目に映る。
まさかな……。
そう思いつつも先に進めば、また右に折り返すような曲がり角を発見する。
しかし、簡易マップを見れば着実に2つの光点に近づいていっている。
こうも折り返しが続いていると、少し方向感覚がおかしくなりそうだと思ったが、今は合流が急務だと考え直し、そのまま道なりに進んで行く。
折り返すこと6回目でようやく2つの光点のすぐ近くまで来ることができた。
念のため攻撃されないようにパーティチャットで確認を入れる。
『今簡易マップ上の2つの光点のすぐそばまで来たけど、間違って攻撃しないでくれると助かるな。どっちのペアかはわからないけど』
『了解だ。たぶんオレ達の方だろうな』
『ええ、すぐ近くに来てるのが簡易マップでわかりますからね』
『おおッ! 姉上とダグの方が先に合流できそうなのだね』
『よかったのです! その調子なのですよ、リオンさん!』
そして合計9回目の折り返しの後、猫の壁画がある小さな部屋で待つミカエリスとダグラス達と合流を果たした。
「ふぃー……助かったぜ、リオン」
「ええ、本当にありがとうございます」
「どういたしまして」
「次はディーノ達だな」
「ですね」
「だな。じゃ、行こうか」
「ああ!」
「はい!」
そうして俺が進んできた道を引き返し、ディーノ達がいる光点に近い場所へと歩き出していく。
もちろん、猫の壁画のSSとプレートの回収も忘れない。
因みに壁画には、池や噴水、石臼等で泳いでる魚に前足でちょいちょいと触れる仕草をし、次に熊が鮭を捕るように勢いよく前足を振って魚を水から撥ね飛ばし、最後に両前足で魚を抑え、頭に齧りついている様が描かれていた。
特殊アイテム タイトルプレート⑤:魚を捕って食べる猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
簡易マップ上にある光点の位置だと、ダグラス達がいた場所から斜向かいの方向にある。
よって、可能性が高いのはダグラス達がいた通路の左側の曲がり角か、最初の猫の壁画の左側の通路のから見えた右側の曲がり角だと考えられる。
だが、セルピナ達のこともあるので、ディーノ達と合流できたとしても、また戻ってきてからの探索になると二度手間になってしまう。
ここはやはり、今いる場所から全部探索していくのが逆に手っ取り早いのかもしれない。
序盤の迷宮だから、さすがに途中から妙に曲がりくねって全く別の場所に出るような通路になっているなんてことはないだろうしな。
「じゃ、近場から全部探索しようか。セルピナ達のこともあるし、今後プレートが必要にならないとも限らないしさ」
「そうだな。セルピナの件もあるし全部回るしかないか」
「戻ってきてまた探索というのも効率が悪いですしね」
「隊列はどうする?」
「まぁ、無難に先頭がリオンで真ん中がミカさん、最後尾はオレだろうな」
「わかった。じゃ、それで」
そうして、俺達3人は周囲と罠に気を付けつつ探索を開始していった。
ダグラス達がいた小部屋に繋がる通路から左側にある曲がり角を曲がると、3m程行ったところで突き当りがあり左に行ける通路があった。
道なりに行くと、またすぐに右に曲がり、その後は数m程のまっすぐな通路。
また突き当りがあり、右へと続く曲がり角を進む。
すると、だいたい5~6m間隔で、近い方が右に、遠い方が左に曲がり角があった。
スキルを使いながら近い方の曲がり角に入り少し進むと、小さな部屋の中に新たな猫の壁画を発見する。
タイトルプレートには、『毛づくろいをする猫』とあり、その壁画には様々な格好で猫が自分の体に舌を這わせてる姿が描かれていた。
俺は素早く周りを観察し、他に何もないことを確認後、猫の壁画のSSを撮影してから、壁画のプレートを回収した。
特殊アイテム タイトルプレート④:毛づくろいをする猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
入ってきた通路を戻り、今度は遠い方の……左側の曲がり角に入って行くと、先程の部屋までと同じくらいの短い距離の後、先程より8倍近くも大きな横に長い部屋にたどり着いた。
中にはモンスターはおらず、代わりにというわけではないが、瓦礫に交じりながらも宝箱に酷似した石材が8つ点在していた。
「おぉ! もしかして全部宝箱なのか!?」
「いやいや、まさか……」
そんなダグラスとミカエリスの感想をよそに、天眼と鑑定を使って宝箱に見える石材を見ていく。
すると、8つの内4つはただの石材で、3つは罠、そして残り1つだけが本当の宝箱であるとわかる。
「あー……。残念ながら8個中4個はただの石材だな。それで残りの4個中3個は罠で、本当の宝箱は1個だけだな」
「くぅ~! そんな気はしてたけど、やっぱそんなもんかぁ」
「でも1つだけ本物があるならまだ有情でしょう?」
「まぁなぁ。じゃリオン宝箱の方は任せた!」
「了~解」
「あ、ついでに石材の回収もお願いします。何かに使えるかもしれませんし」
「わかりました」
そうして、俺は先に石材だけを回収し、最後に本物の宝箱へと近づいていく。
罠がないとこを確認後、指を宝箱の上1/3に這わせ、わずかな溝に指を入れ、箱を開けようと試みる。
ガチッ!
しかし、何かに阻まれ数mm蓋が持ち上がっただけになり、宝箱を開けるまでには至らない。
「やっぱり鍵かかってるよなぁ。でも……」
前の経験を活かし、数mmの隙間をのぞくとさっきの宝箱同様に『ll』の錠を見つける。
俺はその錠を確認すると素早く魔法を使い鍵を開けるための武器を作る。
「ダンパードアームズ……」
種別:槌 形状:下敷き 厚さ:1mm 数:1
「ハードマット 待機!」
すると俺の眼前に1枚の鈍色をした下敷きが、時間が停止したように動きを止めたまま宙に浮く。
それを手に取り、宝箱の蓋を持ち上げ続け、隙間に差し込み錠を外す。
鈍色の下敷きが半分程差し込まれると、『ィンッ!』という音と共に錠が外れ、蓋にかかっていた不自然な引っ掛かりが消える。
そしてそのまま蓋を開けると、中には台座にはまった透明な腕輪があった。
装飾アイテム:腕輪 名称:ストアクリスタルバングル ランク:4 強化上限回数:20回
要求STR:3 DEF3 M・DEF8 最大MP+30 MP回復:1/10分 耐久値:530/530
説明:周囲の魔力を蓄積する性質を持つ水晶を加工してできた腕輪。身に着けることでより多くの魔力を保有でき、使う意思により水晶内の魔力を使うことができる。また、使用した水晶内の魔力は時間経過で回復する。
宝箱から中身を回収し、素早く鑑定を終え、ダグラス達の元へ戻ると、待ちきれなかった様子ですぐに声をかけられる。
「リオン、どうだった?」
「あぁ、なかなかいいものじゃないかな」
俺は手に持っていたクリスタルバンクルを掌に乗せよく見えるように差し出す。
「効果の方は……最大MP上昇か」
「ええ、しかも時間経過で回復するおまけつきです」
「だが、MP関連はだれでも欲しいだろうし、まだ全員集まってないから分配は保留だろうな」
「だな」
「ですね」
「それじゃリオン預かっててくれ」
「わかった」
「では戻りましょう。ディーノもいませんし探索を続けましょう」
「そうだな」
「ですね」
そうして俺達は足早に来た道を戻り再度、ダグラス達がいた小部屋に通ずる通路に出た。
通路左手側の十数m離れた曲がり角へ入り2~3m歩くと大きな部屋があった。
さっきいた宝箱風の石材が8個あった部屋より更に1.5倍程大きく、中には所々に汚れた布が敷かれ、点在するやや黒ずんだ樽や木箱には乱雑に木の棒が入れられている。
よく見れば、部屋の中央には焼けた跡と炭化した木の棒の成れの果てがあった。
「ここは……なんだ?」
「感じとしては、レッドキャップの住処……でしょうか?」
「そんな感じですね……あ、宝箱がありますよ」
「よーし! 幸先がいいな!」
「それでは私達はここで警戒してますので、宝箱と周囲の使えそうなものの回収をお願いできますか?」
「わかりました」
俺はそう返事して周囲にあるもの全てを手早く虚空庫に収納し、部屋の隅にあった宝箱を先程と同様にして開け、中身を検める。
そこには、台座にかかった縦に長い円柱状の白い石がついた首飾りがあった。
装飾アイテム:首飾り 名称:ルチルクオーツタリスマン ランク:4 強化上限回数:23回
要求STR:3 DEF3 M・DEF5 M・DEF上昇(小) 妖精族専用装備 耐久値:680/680
説明:とある妖精族が魔除けとして作ったとされる首飾り。白色と見紛う程にルチルが多い水晶が取り付けられた首飾り。所有者への悪意ある魔法を発散させ、魔法からの耐性を引き上げる効果がある。但し、妖精専用装備であるため、妖精族以外の種族は、装備することができない。
ふむ、妖精族専用アイテムか。
M・DEFアップは結構魅力的だけど、種族縛りがあるとなるとこれはディーノ行きか、プレゼント用か、もしくは売却用になりそうだな。
それに既に首飾り枠には聖印があるし、もしも装備できたとしても聖印を外す必要がある。
今後どのタイミングで強化されるかわからないけど、外すことで蓄積された経験値的なものがなくなってしまう可能性もなくはない。
今外すとなんとなくもったいない気がしてならないが……そういえば俺には着けられないものだし、これ以上考えても仕方ないか。
そう考えを切り上げて、ダグラス達の方へ戻っていく。
「お、戻ったか。それで今回はどうだったんだ?」
「あ、うん。まぁ、能力は悪くない……と思うよ?」
「歯切れが悪いですね? 何か問題でもありましたか?」
「まぁ、見てもらえればわかりますよ」
そう言って、手に持ってた首飾りを掌に乗せて差し出す。
「ふむ……どれどれ」
「拝見しますね」
それから数秒後2人はなんともいえない顔になる。
「あ~……なるほどな。コレは仕方ないな」
「ですね。ディーノ用にするか売却いきですね」
「能力はいいだけにちょっと惜しいんですよね」
「わかる」
「わかります」
「だけどランダム生成だしこういうこともあるだろ」
「だな。それじゃ戻るか」
「ああ」
「ええ」
そしてまた来た道を戻り、この通路にある最後の突き当りにある曲がり角へと入って行った。
数m進むとまた突き当りがあり、右に曲がった後少し歩くと新たな猫の壁画のある小さな部屋を見つけた。
タイトルプレートには、『高所から難なく飛び降りる猫』とあり、木の上や建物の上、塀の上や大岩の上から猫が飛び降り、難なく地面に着地してる様子が描かれていた。
俺はまた素早く周りを注視して、他に何もないことを確認後、猫の壁画のSSを撮影してから、壁画のプレートを回収した。
特殊アイテム タイトルプレート⑥:高所から難なく飛び降りる猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
「この通路はこれで全部か?」
「ああ、見落としはないと思うし、この通路で回収できるのは全部取ったんじゃないか?」
「でしたら次に行きましょうか。あまり遅いとディーノ達が心配ですし」
「そうだな」
「ですね」
再び俺達は来た道を戻り、初期位置正面の壁画から向かって左の通路の道なりに行った先へと引き返した。
残りは通路の丁度中間辺りにあり、2番目に近い左側にある曲がり角と、通路の突き当りにある、1番奥にある右側の曲がり角だ。
初志貫徹の勢いで近い方の通路に入る、すると少し長い通路の先に幅約10m高さ3m強、奥行き8m弱の今までで1番大きな部屋に出た。
周囲をくまなく見渡すと、文字のある壁を見つけた。
壁には、『どの猫も必ずすることは何か?』と書かれており、その問の下に丁度プレートが1つ収まるくらいの窪みを発見する。
「これは簡単だな」
「ええ、猫を見てれば誰しもたどり着く答えですね」
「ああ、猫の語源になったアレだよな」
因みに、猫の語源は『寝子』。
よく寝る姿からつけられたといわれている。
俺達は互いの意見に賛同するようにコクリとうなずきあった。
「じゃ、リオンよろしくな」
「ああ」
俺は素早く回収したプレートを実体化させ壁に書かれている問に対する答えになるプレート……『猫は日のほとんどを寝て過ごす』を手に取る。
そして、そのプレートを窪みに嵌め込んだ。
スゥーーー……ズズズズズズ…………ゴコン!
すると壁の一部に綺麗な線が入った後、下にスライドするように壁が消えて行き、新たな通路が開かれる。
しかし、よく見てみると2m程の先にまた文字が書かれた壁があるのが見つかる。
そして、俺は以前コレと同じギミックをみたことがあることを思い出す。
あれは確か、カタコンベでもあった別のフロアに行く時の二重扉か?
なら、この先はこことは違うフロアがあるということに……。
「おっ! 開いたな。ってまだ先があるのか?」
「みたいですね」
そう言って、更に先に進もうとする二人を引き留めるため声を上げる。
「ちょっと待って二人とも。こういうギミックは以前別のダンジョンで見たことあるんだ」
「そうなのか? それで?」
「前のダンジョンではこういう二重扉の後に、別のフロアが広がってたんだ。だからこの先の扉を開いた場合、次のフロアからモンスターが入ってくる可能性も考えられないか?」
「次のフロアへの入り口ですか……」
「そういうことなら今開けるのはよくないな。まだ全員そろってないし。……だけど、問の確認だけはしておこうぜ。問の内容が分かれば道中や合流後も考えることができるしな」
「そうですね」
「確かに。それじゃ問だけ確認して最後の通路に行くか」
「ああ!」
「ええ!」
そして壁には『猫にとっての完全食は何か?』というものだった。
「えっと……完全食ってなんだ?」
「完全食というのはソレだけ食べていれば生きられる食べ物のことですよ」
「もう少し詳しくいうと、健康を維持するために必要な栄養素が全て含まれた食べ物のことだな」
「なるほど?」
「ダグ……ちゃんとわかってますか?」
「も、もちろんだとも! アレだろ? カレーとかのことだろ? 完全食って」
「まぁ、人間の場合はソレで合ってるけどね」
「ですが猫の場合だと……なんでしょうね? 大好きみたいですし、お魚とかでしょうか?」
「いや、そうでもないよ。魚だけだと逆に病気になるって獣医さんいってたし」
「ってことはリオンは答えがなんだかわかるのか?」
「ああ。答えは鼠らしいぞ? だいたいどこにでもいて、肉だけでなく内臓に含まれる消化された植物等を一緒に摂取することで、利用しやすい状態に消化された様々な栄養素を得られるからだそうだ」
「なるほど。勉強になりますね」
「ってことは答えのプレートは……『鼠を捕まえて食べる猫』になる感じか」
「だな。でもそのプレートはセルピナ達のところにあって使えないし、ここはこのままにして、最後の通路の探索に行くしかないな」
「だな」
「そうですね」
そうしてまたもや来た道を引き返し、最後の通路へと入って行った。
奥まった場所だったためか、ちらほらいるモンスターを手早く倒しつつ通路を進んで行く。
すると、左右と正面で別れる十字路を発見した。
向かって左側の通路を見ると、5~6m程先に大きな部屋があり、7匹のモンスターの反応がうかがえた。
向かって右側の通路を見ると十数m先に崩落の少ない袋小路があり、少し他の通路より暗くなっているが、そこには石材の形をした宝箱が1つ鎮座しているのが見える。
但し、宝箱がある小部屋までの通路には、今までの通路の3倍近くの罠の反応が見て取れた。
そして正面の通路には、7~8m進んだところが突き当りになり右に折れた曲がり角があった。
簡易マップを見れば、正面の通路の先と思しき場所にディーノとネロを示す2つの光点が確認できた。
「さて、どこからにする?」
「リオンさん、周辺の状況はどうですか?」
「そうだな……まず、左の通路の先の部屋。そこにはモンスターがいるな」
「数は?」
「7匹だな」
「今のところ部屋から出てくる気配はないからなるべく音を立てないようにすれば、案外気づかれないかもしれないな」
「なるほど。無用な戦闘を避けるためですね」
「そのとおり! なんだけど……今までにセルピナ達がいる部屋の扉を開けるプレートは見つかってないから、たぶんあの部屋にあると思うんだよな。ディーノ達がいる部屋の壁画は『機嫌の良い猫、悪い猫』というタイトルだったし」
「なるほどな。それなら戦力は多いに越したことはないから、ディーノ達と合流後の方が安全性が増すな。で、他は?」
「他は、少し暗くて見え難いと思うけど、右の通路の先は袋小路になってて、宝箱が1つあるな。ただ……通路の中の罠の数が今まで通った通路の3倍くらいあるのが怖いんだよな」
「3倍……だとッ!?」
「逆にいえば、それ程守る価値のあるアイテムの可能性があるってことですよね?」
「はたまた、ただの素材アイテムって可能性もありそうだけどな」
「後は正面の通路だが……たぶんこの先にディーノ達がいそうだよな」
「ですね。簡易マップを見る限りだとそこに繋がっていそうな通路は正面だけですし」
「だったら、合流を優先しようか?」
俺がそう答えると、ダグラスは少し考えるようにうつむいた後、頭を振って否定の声を上げる。
「……いや、まだモンスターがいる以上持ち出される可能性は否定できない。所持していればいいが、隠されたら最悪見つからないかもしれないから、できれば宝箱を取っておきたいんだが……リオン、行けるか?」
「んー……たぶん俺だけなら大丈夫だと思うけど、その間ダグラス達を置いてくことになるぞ?」
「う~ん。まぁ見える範囲だし大丈夫な気もするが……」
「あ、それなら。リオンさんのスキルでまた影の中に避難させてもらえば安全ではないですか?」
「なるほど、確かに! じゃ、その案でいこうか。今準備するからちょっと待ってくれ」
俺はそう断りを入れてから影属性汎用魔法の【シャドーロッジ】を使い、通路にある影を利用して簡易セーフティエリアの入り口を作った。
「よし、できたぞ」
俺の声を合図に事故が起きないように、ミカエリス、ダグラスの順でシャドーロッジ内に入って行く。
また、事故対策として、出る時は反対にダグラス、ミカエリスの順に出る予定だ。
二人が完全に入ったこと確認し、俺はMPの残量を見てから魔法を使う。
「ダンパードアームズ……」
種別:槌 形状:大きいお盆 数:8
「ビッグトレイ 全待機!」
すると考えた通り、空中に大きな銀色のお盆が2m程ごとに出現し、時間停止しているように空間に留まる。
どうやらステータスが上がって、任意で出現させる範囲が広がったようだ。
俺はうまくいったことを確認すると、念のため足音を消す【ハイドストーク】を使った後、空中のお盆に飛び移り、飛び石を渡るように空中を移動する。
ちらりと後ろを向けば、ビッグトレイは俺が足を離した数瞬後に青い粒子となって空中に溶けていっていた。
無事宝箱のある小部屋に到着し、宝箱の蓋を持ち上げ隙間から錠を確認する。
そして、LUK上昇の魔法を使ってから、また薄い下敷きを生み出して錠を開け、宝箱の中身を見る。
そこには、縦20㎝強、横40cm弱の板状にびっしりと小さい結晶体がついている群晶のようなものがあった。
素材アイテム ストアクリスタルクラスター:蓄魔水晶の集合結晶体。周囲の魔力を吸収し蓄積する特性を持つ水晶の集合結晶体。鑑賞品としての価値も高く、内包する魔力が最大に達すると虹色に光り輝くといわれている。
これは……さっき回収したストアクリスタルバンクルの素材になったアイテムか?
いや、クラスターってついてるし、ただの素材より少しいいものかもしれないな。
そんなことを考えつつも宝箱から出して手に取り少し鑑賞していると、急速に自身の中から何かが抜けていく感覚がしていく。
そういえばと、先程の説明を思いだしMPバーを見れば、みるみるMPバーが減っていることに驚愕する。
この減りのスピードはやばいと感じ、すぐに虚空庫の入口を出して中に放り込んだ。
ストアクリスタルクラスターをしまったことでMPの減少は止まったが、たったあれだけの接触で1/4弱ものMPを吸われてしまっていた。
しかし、体から魔力が抜ける感覚が、魔法を不発したときより長く、そして鮮明に感じられた。
もしかしたら、【魔力感知】習得の手助けになるかもしれない。
ただ、MPの吸収速度がすごく早いので、下手をするとMPが枯渇しきってしまう危険性もありそうだな。
MPバーを確認しながら虚空庫の入り口を出しておいて、その上で持ったままでいればいけそうかもしれない。
まぁ、分配でもらえるまでは捕らぬ狸の皮算用なので、もしももらえたら試してみるのもいいかもしれないな。
そう考えながら、虚空庫内のアイテム欄にあるストアクリスタルクラスターを見ると、鑑定した時の詳細以外に『魔力充填率8%』という表記が増えていた。
結構吸われたのに、まだ92%も入ることに驚きつつも、充填率が最大になったらどんなに綺麗になるのか少し見てみたい気持ちも湧き上がった。
それから気を取り直し、一応MPリキッドで減少したMPを回復する。
何気にMPリキッドを使ったのは初めてだが、ハーブの良い香りがする蒸気がすぅーっと立ち上り、数瞬全身を包んだ後、残り香もなく空中に溶けて消えて行く様はなんともいえない感動と興奮を実感させる。
そして再び、空中に銀色の大きいお盆を出現させ、ダグラス達が待つ十字路に戻っていき、パーティチャットで戻ってきたことを知らせる。
『お待たせ。取ってきたぞ』
『おう! お疲れさん』
『ありがとうございます!』
『んじゃ、出るから周囲の警戒よろしくな』
『ああ、わかった』
そうしてパーティーチャットが途切れると、通路にあった影に設置したシャドーロッジの入り口から、潜水中から水面に出てくるように、ダグラスの頭、肩、腕、体、腰、足といった順に影から姿を現す。
こういう風に外からは見えるんだなと益体のないこと考えていると、ミカエリスも次いで影の中から出てきていた。
「んしょっと……ふぅ。リオンさん、ありがとうございました」
「リオン、ありがとな」
「どういたしまして」
「それじゃ、さっそくだが首尾はどうだった?」
「あ、それは私も気になってました。どうでしたか?」
「あー……それのことなんだけど、宝箱から出して虚空庫に入れるまでの短い間で、結構な量のMPを吸われたから、今は直接出さない方がいいと思うんだ。だから、すまないがコレで勘弁してくれ」
俺はそういいながら素早く先程のアイテムと説明を可視化させ、ダグラスとミカエリスに見せた。
素材アイテム ストアクリスタルクラスター:蓄魔水晶の集合結晶体。周囲の魔力を吸収し蓄積する特性を持つ水晶の集合結晶体。鑑賞品としての価値も高く、内包する魔力が最大に達すると虹色に光り輝くといわれている。
【魔力充填率8%】
「なるほどな、周囲の魔力を吸収して溜めるのか」
「先程結構な量といいましたが、ここには8%とありますが、どのくらい吸われたんですか?」
「だいたい最大MPの1/4だから……130くらいかな?」
「ッ……そんなに!」
「……確かにえぐいなその量は。そういうことなら今は出さなくて大丈夫だぜ」
「助かるよ」
「じゃ、ディーノ達を迎えに行くか」
「そうですね。ようやくです」
「簡易マップ見てたらわかると思うけど、一応パーティチャットで連絡入れてからの方がいいよな?」
「だな。いきなり攻撃されても困るしな」
「ですね。事前連絡した方が無難でしょうね」
そうして、ネロにも聞こえるように念話でもうすぐ着くから攻撃しないよういい含め、正面の通路の突き当りを右に曲がり、しばらく歩いた後、横8m弱、縦3m強、高さ2m強のほとんど通路と見まごう様な横に長い部屋にたどり着いた。
入って左の方は崩落が激しく、部屋の1/3が土砂と瓦礫で埋まり、それ以上先へは行けなくなっていた。
天眼で注意深く見てみたが、特に隠されたものなどはなかった。
逆の方を見れば、部屋の隅にディーノとネロがいつでも迎撃できる態勢を作りながらおり、更にその後ろの壁に猫の壁画があった。
「ディーノ、ネロ、お待たせ。迎えに来たよ」
「おぉ! その声は我が盟友リオン!」
「ホォーッ!? キュ~ゥウ!」
「おぉっとっととと!? ネロ、嬉しいのはわかるけど、近くにモンスターがいるからもうちょっと静かにな」
俺の姿を見たネロは、梟の姿から元の兎の姿に戻りながら跳びかかって来る。
俺は慌ててネロを受け止め、声量を落とすよう注意を促す。
「キュッ!」
ネロはこくこくとうなずくと、さっそくとばかりに俺の体をよじ登り、定位置の俺の後頭部に張り付き、頭頂部付近に頬擦りを始める。
長い間離れていた反動か、結構熱心に擦り付けていて髪が心配になる勢いだが、ゲーム内なので大丈夫だと思いたい。
さ、流石に……禿たりしない……よな?
「私もダグもいますよ?」
「どうやらモンスターとは出くわさなかったみたいだな」
「姉上! ダグも!」
「しーッ! ディーノもう少し声を落として! 近くにモンスターがいるので気づかれてしまうでしょ?」
「あ、すみません。ってまだモンスターが残ってるんですか?」
「あぁ。ちょっと戻ったところの近くの部屋にな。しかもセルピナ達がいる部屋の鍵になるプレートがある可能性が高いから、戻って戦う必要がある」
「……なるほど。数は?」
「7匹だ」
「ディーノとネロの追加で、前衛2、中衛1、後衛2でバランスも上々だしすぐ倒せるだろ」
「ですね」
「あ、提案なんだけど、最初にミカさんにフラッシュライト使って目を眩ませて、更にネロのシャドウスワンプで拘束してから一気に叩くのはどうかな?」
「ほう、いいなソレ」
「ええ、安全で確実に、ですね」
「流石は我が盟友だ!」
「キュウ!」
「よし、それじゃ戻ってサクッと倒そうか」
「だな!」
「はい!」
「ああ!」
「キュウッ!」
そうして俺達は来た道を戻り、十字路の右側の通路へと進んで行った。
もういらないかもしれないけど、一応プレートの回収とSSも撮っておく。
特殊アイテム タイトルプレート⑧:機嫌の良い猫、悪い猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
因みに壁画には、中央に縦線が1本あり、左側には尻尾をピンッっと伸ばした機嫌の良い猫が、右側には尻尾をくねらせている機嫌の悪い猫が、座ったり歩いてたりする描写でそれぞれ描かれていた。
そしてその道中、パーティチャットでセルピナに無事アフロディーノとネロと合流したことや、ギミックを解くプレートの場所の目星もついたから、もうしばらく待って欲しいと伝えた。
セルピナの最初の返事は何故か『あ、おかまいなくなのです!』といった不思議と強い否定だったが、そのすぐ後に取り繕うように慌てだした後『すみません、間違えました! お待ちしてますなのです!』といった返答が返って来た。
これは少しまずい気がしてきた。
シエルという明かりがあるにせよ、暗闇は人を狂わすというし、精神が病み始めたのかもしれない。
なるべく早くギミックを解いて出してあげなくちゃいけないな。
そう決意を新たにしつつ、移動すると目的の部屋の前に到着する。
部屋の大きさは縦8m弱、横10m強、高さ3m程の若干横に広い大きな部屋。
部屋の入口は部屋の横幅の丁度中間の辺りにあり、部屋を覗いた感じ壁画は見当たらなかった。
俺は皆に止まるよう念話で伝え、アーツを使って中の様子を確認した。
中にいたのは、セラーズフロッグ3匹にレッドキャップ3匹、そしてブラッディバットが1匹。
その後、少し相談してから小石を部屋の中心に投げ込み、モンスターの視線を集めた瞬間、ミカエリスのフラッシュライトで盲目状態にし、更にネロのシャドースワンプで動きを鈍化させ、その隙に総攻撃して次々と光の粒子へと変えていった。
「よし! 片づいたな」
「壁画は……ありましたね」
壁画は、部屋の入口から入って左側の隅にあった。
丁度入り口からは死角となっていて見えない位置にあったようだ。
ということは、アレは反対側かな?
「ええ。タイトルは……『猫は周囲をヒゲで察知する』ですね」
壁画には猫が狭い穴や隙間を通ろうとするところや微風でヒゲがそよいでるところ、そして食べ物や獲物に対し鼻より先にヒゲを伸ばしている様が描かれていた。
特殊アイテム タイトルプレート⑦:猫は周囲をヒゲで察知するの壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
「それじゃ、プレートを回収してっと。んー……あ、あったあった」
俺は壁画に近づき、タイトルプレートを回収後、天眼を使い注意深く部屋の中を見渡す。
すると案の定、青い光を発する隠しスイッチを発見する。
隠しスイッチは部屋の入口から入って右側の隅の上の方にあり、高さにして2m程のところで、腕を伸ばせばギリギリ届くところにあった。
「リオン、何か見つけたのか?」
「ああ。たぶんゴブリンパスファインダーが発動させた無作為転移の罠があったところに通じる隠し通路のスイッチだと思う」
「本当ですか!? それならピナちゃんの所まですぐに行けますね!」
「だが盟友よ。何故そのようなことがわかるんだい?」
「あぁ、無作為転移の罠があったところを調べた時に、隠された仕掛けを見つけたんだ。だけど、あっちからじゃ開けられなくてさ」
「なるほど? 簡易マップ的に丁度あそこの反対側だし可能性は高そうだな」
「ですね。ここから回り道するのは大変ですし、せっかくここまで探索して回ったのですから、この際全部見ておきませんか?」
「確かに、もしも近道なら結構な時間短縮になりますからね」
「ってなわけで、リオン頼んだ!」
「わかった。けど……何か出てくるかもしれないから一応警戒はしといてくれるといいかな」
「おう、了解だ」
「わかりました」
「任せたまえ!」
「キュウッ!」
そうして俺は隠しスイッチの前まで来て、周囲の罠に気をつけながら、手を伸ばしてスイッチを押し込んだ。
スゥーーー……ズズズズズズ…………ゴコン!
すると入り口から入って右側の壁の中心の一部に綺麗な線が入った後、下にスライドするように壁が消えて行き、新たな通路が開かれる。
更に、新たな通路口が開くのと連動するように、少し遅れて新たな通路の先が開けて向こう側から光が差し込んできていた。
天眼の望遠効果を使って見てみると、セルピナとシエルが閉じ込められているギミック部屋の扉が視認できた。
どうやら本当に向こう側へと続く隠し通路だったようだ。
念のため時間経過で通路が閉じないか確認してるとダグラス達から声がかかる。
「やったじゃねぇか、リオン! 簡易マップで見た限りだと本当にあっちに繋がってるみたいだぞ!」
「ナイスですリオンさん! これでピナちゃん達と早く合流できますね!」
「うんうん。これで遠回りせずに済みますね」
「だな。……うん。時間経過で閉じそうにもないし、ちょっと暗いけど罠はなさそうだ。念のため明かりはつけた方がいいか?」
「そう……だな。転ぶと面倒だし頼めるか?」
「わかった」
そうして俺は隠し通路の天井に等間隔で3つの光球を張り付け、全員で隠し通路を渡って行った。
特に何事もなく渡り切り、念のため渡り切ってから通路口が閉じないか確認後、セルピナとシエルが閉じ込められている部屋の前に来た。
いきなり開けて攻撃されても困るので、念話を使って事前に連絡を入れる。
『セルピナ、シエル、お待たせ。ギミック扉の鍵になるプレートを見つけて来たから、今から開けるぞ』
『え……? あ、あぁぁぁはぃ! わ、わかりましたなのです!』
『んぅ? もうそんなにたったの?』
セルピナは何か慌てた様子で、シエルは思いの他楽しい時間だったのか、待たせていた時間を苦にしてないような不思議そうな思念を発した。
そして、ギミック扉の答えのプレートを扉の凹みに嵌め込むと……。
ズズズズズズ…………ゴコン!
ギミック扉自体が下へスライドして行き、部屋の入口が露わになる。
中は縦横高さ3m弱の立方体のような部屋で、中央にポツンっと石材型の宝箱があり、部屋の入口からみて正面の壁の真ん中に猫の壁画があった。
セルピナはその宝箱に腰掛け、シエルはセルピナの隣に浮かんでいた。
「よかった。薄闇で結構な時間経ってたから心配だったけど、結構元気そうだな」
「セルピナ、シエル待たせたな!」
「ピナちゃん、シエルちゃん迎えに来るの遅くてごめんなさいね」
「盟友のいう通り。闇は精神を犯すので心配だったが、元気そうで何よりだね」
「キュー! キュー!」
「皆さん……あ、ありがとうございましたなのです! 暗かったけどシエルちゃんのおかげで寂しくはなかったので、その点は大丈夫だったのです! (別の意味では危なかったのですけど)」
『おぉー! せいぞろいだね! このばあいってなんていえばいいのかな? おかえり? ただいま?』
「んー……ただいまかな? ってセルピナ? 最後の方何かいったか?」
「い、いえいえいえいえいえいえ! なんでもないのです! なんにもいってないのです! 大丈夫なのですよ!」
「お、おぅ。そうか。それならいいんだ」
「さて、それじゃここの宝箱の確認して、プレートを回収したら、次のフロア前で分配するか」
「ですね。私は既に頂きましたが、他の品々も結構いいものですから、期待してていいですよ?」
「ほぅ! それは楽しみですね!」
「こっちでは探索をあまりできませんでしたが、それはそれとしてとっても楽しみなのです!」
「それじゃ、宝箱開けるからちょっと待っててくれ」
そういって、これまでやってきたようにLUK上昇の魔法をかけてから宝箱の溝を探し、蓋を開けようとして鍵に阻まれ、錠を確認後ダンパートアームズで下敷きを作り、鍵を外して宝箱を開ける。
中に入っていたのは、所々に穴の開いた1束の矢だった。
念のためすぐに手には取らず、鑑定を使ってみる。
道具アイテム:矢 名称:ブリードアロー ランク:4 強化上限回数:-
要求STR:3 ATK47 突き刺さり時強制出血 耐久値:134/134
説明:ブラッディバットの牙を利用されて作られた矢。矢全体が管状になっているため、鏃部分が刺されば強制的に出血させる機能を有している。その反面、同ランク帯の矢に比べて脆くなっている。
これは中々えぐいものが出てきたな。
矢に限らず、何かが体に刺さった場合、抜かずにそのままにしておけば滲むことはあれど、それほどすぐに出血は起きないものだ。
まぁ、動きは鈍くなるし、痛いしで大変だろうけどな。
それなのに、この矢は刺さりさえすれば、抜かずとも出血が起こせて、弱体化も狙えるのだからやられた方は相当嫌なはずだ。
ただ、場合によっては周囲のモンスターを血の臭いで引き付けてしまう可能性もあるから、ここぞという時に使うのがよさそうではあるけどな。
「おっ! 開いたか。リオンどうだった?」
「あぁ。中身に矢だった。しかも結構えぐい感じだ」
「矢ですか……ピナちゃんどうしますか?」
「えぐい? ちょっと興味があるが……盟友よ、見せてもらってもよいだろうか?」
「今は、し……じゃなかった。リオンさんに作ってもらったのがあるのですが……たくさんあればある程助かるのです! それにリオンさんの負担も減りますしね」
「ありがとうな、セルピナ」
「はぅッ! い、いえいえなのです! そ、それでは見せて頂きますなのです!」
「ああ、どうぞ」
そういって、俺は宝箱から出した1束の矢を両手に乗せ皆の前に差し出した。
「こいつは……えぐいな……」
「ええ。コレを撃ち込まれる相手に同情してしまいそうです」
「ですが、その反面攻撃手段としては魅力的ではありますよ?」
「うわー……コレは予想以上なのですよ……でも、出血で弱体化も狙えますし、ディーノさんのいう通りなのですよ」
「これは決まりでいいんじゃないか?」
「ですね。現状ピナちゃんにしか使えませんし、ピナちゃんも乗り気ですからね」
「はいです! なので分配の時はコレをもらいたいのですよ!」
「異議なし!」
「だな」
「それじゃ、プレートを回収したら、このフロア最後のギミック扉前まで戻るぞ。そこで分配と小休止を挟んで、次のフロア探索だ!」
「ですね。ピナちゃんにはまた少し待ってもらうことになっちゃいますけど、リオンさんは動きっぱなしですしね」
「え、いや俺は別に平気だけど……」
「いやいやダンジョンを甘く見ちゃダメだぞ我が盟友よ! 何時何処で何が起きるかわからないのだダンジョンなのだから!」
「そうなのです! いざという時、とっさに動けなかったりしたら大変なのです! 休憩は大事なのですよ、リオンさん!」
「あ、あぁ。そうだな。ありがとう、そうするよ」
そうして、プレートを回収して念のためSSも撮った後、先程通って来た隠し通路を通り、次のフロアへと続く2重扉の前へと戻って行った。
特殊アイテム タイトルプレート⑨:鼠を捕まえて食べる猫の壁画のタイトルプレート。特定の場所に嵌め込めばナニカが起こる……かもしれない。
注意:このアイテムはダンジョン外に持ち出すと、自然消滅します。
因みに壁画には、森の中、街の裏道、建物の中等の様々な場所での猫と鼠の壮絶な追いかけっこが描かれており、最終的には捕まり、頭から口に含まれ、両前足で体を押さえて寝転がってる様が描かれていた。
毎度のことながら少し引く描写だな……まぁ慣れたけど。
嫌な慣れではあるが……。
到着後、少し相談した結果、ブラッドクレーバーはダグラスが、ストアクリスタルバングルをミカエリスが、ルチルクオーツタリスマンをアフロディーノが、ブリードアローをセルピナが、そしてストアクリスタルクラスターを俺がそれぞれ受け取り、途中で回収した錆びた武器や木箱や樽、腐った水等は多少のバラつきはあるものの全員で等分し、分配していった。
もちろん、預かっていたネコナミンAも忘れずに全員に渡しておく。
分配の後、シエルとネロに通路の警戒をお願いして、俺達は事故防止のため部屋にバラバラに別れて十分な距離を保ち、小休止に入っていった。
俺の昇格試験の最中ということもあるが、セルピナをあまり待たせるのも悪いし、素材の鑑定は後回しにして、ステータスのチェックだけ手早くすませるとしよう。
そうしてステータスの確認をしていくと、俺の種族レベルが1つ上がり、進化可能なスキルが2つと、スキルレベルの上昇により新たなアーツと魔術と魔法を習得していた。
シエルとネロの戦闘参加も少しだったし、その後は戦闘していなかったこともあり、種族レベルは上がっておらずステータスもそのままだが、シエルは何故か新しいスキルとアーツを1つずつ獲得していた。
まずは俺のステータスだ。
name:リオン
sex:男
age:16
race:人族Lv37
job:冒険者 rank:E
class:マジックソードマンMaster
HP:925 MP:542
STR:236
VIT:185
AGI:234
INT:129⇒132
MID:130
DEX:341
LUK:115
STP:3⇒0
所持金:26924R 虚空庫 267/1445 {貯金:370万R}
種族スキル:〔混血・竜の息吹(光)〕、〔竜言語Lv1〕
専科スキル:〔魔法剣・無Master〕
装備スキル:〔STR増加Master〕、〔AGI増加Master〕、〔剣術Lv36〕、〔暗殺術・裏Lv6〕、〔歪魔術Lv3〕、〔天眼Lv62〕、〔賦活Master〕、〔詠唱破棄Master〕、〔気配偵知Lv34〕、〔識別Lv88〕、〔汎用魔法〕
控えスキル:〔鑑定Lv86〕、〔煮炊きLv3〕、〔虚空庫 rank4〕、〔錬換Lv1〕、〔毒耐性Lv4〕、〔麻痺耐性Lv5〕、〔調教Master〕
称号:〔思慮深き者〕、〔戦女神の洗礼〕、〔ウルフバスター〕、〔剣舞士〕、〔二刀の心得〕、〔初めての友誼〕、〔知恵を絞りし者〕、〔先駆けの宿主〕、〔解放せし者〕、〔初心者の心得〕、〔異常なる怪力者〕、〔異常なる俊足者〕、〔愚かなる探求者〕、〔踏破せし者達〕、〔完全なる攻略者〕、〔容赦無き掃討者達〕、〔剥ぎ取り上手〕、〔医食同源〕、〔砕撃の頭壊者〕、〔慈悲深き討滅者達〕、〔再起させし者〕、〔斬撃の首刈者〕、〔穿撃の心貫者〕、〔暗技の練達者〕、〔弱肉強食〕、〔叛きし者〕、〔虎殺し〕、〔匙を投げ捨てし者〕、〔我が道を行く者〕、〔大胆なる隠者〕、〔調教の賜〕、〔オーバーキラー〕、〔死神〕
称号スキル:〔念話Lv35〕、〔怪力乱心Lv18〕、〔韋駄天Lv18〕、〔薬膳Lv13〕、〔死神の心得Lv4〕
固有スキル:〔狂暴化Lv7〕、〔軽業Lv47〕、〔頑健Lv60〕、〔強靭Lv46〕、〔拒絶Lv21〕、〔自爆Lv3〕、〔酩酊耐性Lv1〕
ステータスポイントは、魔法の威力を少しでも上げるためINTに全振りした。
INTにプラス3で、129⇒132へ
□ ディザーム:相手の武器または持ち手を強打し、武器や所持物等を落とさせる技。基本、互いのSTR・DEX・LUK の値の対抗となるが、その時々の状況・状態・立ち位置等の影響により成否が変化する。このアーツが成功した場合、相手は武器や所持物を取り落とし、高確率で部分麻痺・腕が発生する。但し、このアーツが失敗した場合、ただの攻撃となる。
消費MP:18 リキャストタイム:3分
□ ヴォ―テクス:視認指定した特定の場所を空間ごと捻じる攻性妨害魔術。捻じる威力は、INT・MID・LUK の値に依存し、捻じる速度はINT・AGI・DEX の値に依存し、捻じる範囲はINT・DEX・LUK の値に依存する。但し、一定以上離れた場所で発動した場合、距離に応じて威力と速度が減衰し、消費MPも増加するため扱いには注意する必要がある。
消費MP:20 リキャストタイム:30秒
□ ウェーブインパクト:武器に属性の無い魔力を充填し、突き刺すことで周囲に衝撃波を発生させる、付与系攻性魔法。この魔法の威力は、使用者のINT・MID・LUK の値に依存し、衝撃波の範囲は、使用者のINT・DEX・LUK の値に依存する。また、この魔法の性質上、衝撃波の範囲内の外縁部であるほど威力が増す。
消費MP:20 リキャストタイム:3分
因みに、ディザームが剣術スキルのアーツで、ヴォ―テクスが歪魔術の魔術、そしてウェーブインパクトが魔法剣・無で習得できる最後の魔法になる。
次はスキルの派生進化の方を見ていく。
〔STR増加Master〕▽
〔ES〕エンハンススキル:〔STR増強Lv0〕
130+(SLv)分STRにプラス補正。 MAXSLv300
〔AGI増加Master〕▽
〔ES〕エンハンススキル:〔AGI増強Lv0〕
130+(SLv)分AGIにプラス補正。 MAXSLv300
NEW
〔STR増加Master〕+〔AGI増加Master〕▽
〔ES〕エンハンススキル:〔速攻Lv0〕
130+(SLv)分STRとAGIにプラス補正。 MAXSLv300
これは迷う必要はないな。
統合進化しても内容は変わらないし、何より枠1つ分空くから、むしろやらない手はない。
〔ES〕エンハンススキル:〔STR増加Master〕+〔ES〕エンハンススキル:〔AGI増加Master〕=統合進化⇒〔ES〕エンハンススキル:〔速攻Lv0〕
〔ES〕エンハンススキル:〔速攻Lv0〕
130+(SLv)分STRとAGIにプラス補正。 MAXSLv300
それじゃ空いた枠に別のスキルを入れて……こんな感じかな?
name:リオン
sex:男
age:16
race:人族Lv37
job:冒険者 rank:E
class:マジックソードマンMaster
HP:925 MP:542
STR:256
VIT:185
AGI:254
INT:132
MID:130
DEX:394
LUK:115
所持金:26924R 虚空庫 267/1445 {貯金:370万R}
種族スキル:〔混血・竜の息吹(光)〕、〔竜言語Lv1〕
専科スキル:〔魔法剣・無Master〕
装備スキル:〔速攻Lv0〕、〔剣術Lv36〕、〔暗殺術・裏Lv6〕、〔歪魔術Lv3〕、〔天眼Lv62〕、〔賦活Master〕、〔詠唱破棄Master〕、〔気配偵知Lv34〕、〔識別Lv88〕、〔汎用魔法〕、〔煮炊きLv3〕
控えスキル:〔鑑定Lv86〕、〔虚空庫 rank4〕、〔錬換Lv1〕、〔毒耐性Lv4〕、〔麻痺耐性Lv5〕、〔調教Master〕
称号:〔思慮深き者〕、〔戦女神の洗礼〕、〔ウルフバスター〕、〔剣舞士〕、〔二刀の心得〕、〔初めての友誼〕、〔知恵を絞りし者〕、〔先駆けの宿主〕、〔解放せし者〕、〔初心者の心得〕、〔異常なる怪力者〕、〔異常なる俊足者〕、〔愚かなる探求者〕、〔踏破せし者達〕、〔完全なる攻略者〕、〔容赦無き掃討者達〕、〔剥ぎ取り上手〕、〔医食同源〕、〔砕撃の頭壊者〕、〔慈悲深き討滅者達〕、〔再起させし者〕、〔斬撃の首刈者〕、〔穿撃の心貫者〕、〔暗技の練達者〕、〔弱肉強食〕、〔叛きし者〕、〔虎殺し〕、〔匙を投げ捨てし者〕、〔我が道を行く者〕、〔大胆なる隠者〕、〔調教の賜〕、〔オーバーキラー〕、〔死神〕
称号スキル:〔念話Lv35〕、〔怪力乱心Lv18〕、〔韋駄天Lv18〕、〔薬膳Lv13〕、〔死神の心得Lv4〕
固有スキル:〔狂暴化Lv7〕、〔軽業Lv47〕、〔頑健Lv60〕、〔強靭Lv46〕、〔拒絶Lv21〕、〔自爆Lv3〕、〔酩酊耐性Lv1〕
さて、それじゃ最後に問題のシエルのスキルとアーツを確認しておこう。
〔AS〕アクティブスキル:〔鍵Lv0〕
30+(SLv)分DEXにプラス補正。
10+(SLv)分LUKにプラス補正。
魔法が関与してない開錠、閉錠成功率上昇。
魔法が関与してない錠の破壊確率低下。 MAXSLv100
□ ストラクチャーアイ・ロック:魔法が関与してない錠の構造を視覚化することができる。持続時間は、INT・DEX・LUK の値に依存する。
消費MP:20 リキャストタイム:60秒
これはどういうことだろうか?
シエルに今回宝箱を開ける手伝いは最初の1回のみで、それ以降宝箱には触れていないはず。
スキルの説明から、恐らくは鍵のかかった宝箱を開錠・閉錠を繰り返したことで習得したのだと思うが、そういった指示を出した覚えはない。
ということは……状況から考えてセルピナと待っていた時間に習得したとみるべきだな。
スキルもアーツもすごく有用で今後活躍が期待できるから全然問題はないけど、一応事実確認だけはしておこう。
まずは、本人から。
『シエル、警戒しながらでいいから、ちょっといいか?』
『ん~……? な~に~?』
『セルピナと一緒に閉じ込められてた間にシエルが新しいスキルとアーツを習得してたみたいなんだけど、何か心当たりとかあるか?』
『それってどんなのなの?』
『あぁ。鍵ってスキルで宝箱にある鍵を外したり付けたりする時の成功確率を上げたり、鍵を触る時に壊す確率を下げたりする効果だな。それとアーツの方は魔法がかかってない鍵の作りを見ることができるみたいだ』
『そっか~。う~ん……じゃぁ、あのときセルピナがだまちゃったときにやったことかなぁ?』
『セルピナがだまった時にやったこと? というかその時の状況とかわかるか?』
『え、うん。えっとねぇ……わたしたちがとじこめられてすぐにね、たからばこがあるのをみつけたの』
『うん』
『それでね。リオンがあけてるのはみてたからわたしもあけられるとおもってあけようとしたの。でもね、セルピナがかぎもかかってるし、あけるのはリオンたちがきてからのほうがいいよっていったから、あけるのはやめたの』
『それで?』
『うん。そしたらねセルピナがね。なんかはなしたそうにしてたけど、もじもじしてだまっちゃってつまらなかったから、たからばこはあけずに、かぎであそんでたの!』
『あぁ、なるほど。それでか』
『とってもたのしかったの!』
『そ、そうか。それはなにより』
『そのあとはセルピナもちょこっとことばがへんだったけどはなしかけてくれて、いっぱいいっしょにあそんだんだよ?』
『そうなんだな。楽しかったか?』
『うん! いろいろあそびをおぼえたから、こんどはネロにおしえてあげて、いっしょにあそぶの!』
『そうだな。そうして上げてくれ。それじゃシエル話してくれてありがとうな。引き続き見張りをお願いな』
『うん! まかせて!』
そうしてシエルとの念話を切り、鍵のスキルとそのアーツを有効化した。
name:シエル
sex:女
race:サニー・スピリットLv24
HP:360 MP:432
STR:0
VIT:110
AGI:115
INT:120
MID:115
DEX:146
LUK:115
種族スキル:〔陽光活性(昼)〕、〔物理半減〕
スキル:〔陽光魔術Lv7〕、〔光耐性Lv9〕、〔影耐性Lv9〕、〔浮遊機動Lv10〕、〔装飾化Lv8〕、〔念動力Lv6〕、〔賦活Master〕、〔毒耐性Lv9〕、〔麻痺耐性Lv5〕、〔訓練の賜〕、〔遅延Lv20〕、〔詠唱破棄Master〕、〔鍵Lv0〕
固有スキル:〔STR返上〕
完全にただの幸運だったみたいだな。
これならセルピナに事情を聞く必要はなさそうだ。
それに、俺達プレイヤーと違ってモンスターであるシエルやネロにはスキル枠の概念はないみたいだし、行動の幅が増えることになるから、こういう幸運は大歓迎だ。
だけど、鍵のスキルの説明には錠が壊れる可能性もあるみたいだったから、何かを触る時にはもう少し注意しておいた方がいいな。
壊れて大惨事! なんてことにはなりたくないからな。
そうやってステータスやスキル、アーツの確認と有効化を終えて少し経つとダグラスからの声が上がる。
「よし! それじゃ、そろそろいいか?」
「ええ。問題ありません」
「ああ! 状態異常も回復したし、準備万端だ!」
「私も大丈夫なのです!」
「俺もだ」
「じゃ、リオン。シエルとネロを呼び戻してくれ。そしたらギミック扉を開けて次のフロアに行くぞ!」
「わかった」
俺はそう答えつつ念話を使い、シエルとネロを呼び戻す。
『シエル、ネロ。見張りありがとうな。移動するから戻って来てくれ』
『はーい!』
『わかったー!』
シエルとネロが通路から帰って来るのを確認後、俺は『鼠を捕って食べる猫』のプレートを実体化させ、2枚目の2重扉の窪みにプレートを嵌め込んだ。
スゥーーー……ズズズズズズ…………ゴコン!
すると壁の一部に綺麗な線が入った後、下にスライドするように壁が消えて行き、新たな通路が開かれる。
新たな通路の中を見ると今までの通路とは少し違い、通路のあちこちに木が生え、ところどころにドングリのような木の実が落ちていた。
光を求めてか、崩落した天井の穴に向かって生えた木のおかげで通路内は更に薄暗く、その上木の根や落ちてる木の実のせいで足元まで悪いおまけ付き。
これはより注意して進む必要がありそうだな。
「うへ~。雰囲気満点だな、こりゃ」
「でも進むしかありませんよね」
「何を弱気なことをいってるんだい、ダグ? 冒険はここからが本番だよ?」
「そうなのです! こっちでは半分くらい閉じ込められてましたが、その分次こそは獅子奮迅の活躍をしてみせるのです!」
「ははっ! やる気があるのはいいけど、声量には気をつけてね」
「あ、はい。ごめんなさいなのです」
「それと、シエルと遊んでくれてありがとうな。すごく楽しかったって」
「あ、いえいえいえいえ! 私の方こそかわいくて癒されてすっごく楽しかったし、嬉しかったのです。だからお相子なのですよ?」
「そっか」
「それじゃ、行くぞ! 引き続き、先頭はリオン、次いでディーノ、ミカさん、オレ、セルピナは最後尾を頼む。シエルとネロは遊撃をだな」
『ゆうげき! がんばる!』
『まかせてー!』
「それとリオン。明かりの方を頼めるか? 流石にこれだけ暗いとほとんど何も見えないからな」
「わかった。今までみたいに天井付近から照らせばいいか? それとも誰かの装備に明かりを貼り付けるか?」
「え、そんなこともできるのか? んー……いや、今まで通り天井から照らしてくれ。戦闘になったら動き回って光が邪魔になりそうだしな」
「了~解」
そうして、俺達は隊列を組み、次のフロアへと入って行った。
長い……ステータス部分を除いても2万字超えてる(涙)




