Locus 110
もう3年も経つんですね
時間の流れは速いものです
3万字超えてしまったので切りました
すみません
あけましておめでとうございます!
一瞬の浮遊感と共に、何かがすっぽ抜けるような感じがし、平衡を保つため無意識に2歩、3歩と蹈鞴を踏みつつ後退すると、何かに背中を強かに打ち、止まる。
「っ!? 痛ったぁ~! あっ! やばッ!」
そして、今いる場所のことを思い出し、すぐ様不用意に踏み抜いた、或いは今の背中打ちで発動したかもしれない罠に対応できるように、背中を何かから離して態勢を整える。
…………―――――――――何も……起きない?
しかし、予想に反して数秒経っても何も起こる気配がない。
尚且つ、慎重に辺りを見渡すことにより、あることに気が付く。
「あれは……開いた宝箱?」
俺のいる場所から前方3~4m程の所には、見覚えのある黒い煤のようなものが付いた、開けてそのままになっている石造りの宝箱があった。
俺は半ば確信めいた予感を持ちつつ、背後を振り返る。
「……やっぱりか」
すると案の定、そこには先程SSを撮った『草に戯える猫』というタイトルの壁画が存在していた。
これがここにある……違うか。
俺がここにいて、周囲に誰もいないということは、恐らく先程の魔方陣は無作為転移の罠といったところか。
即死級の罠よりかは幾らかはマシだが、攻略途中のダンジョン内でバラバラになるのは危な過ぎる!
いくら格下が多くてもスキルによる事前察知がなければ奇襲を受け易くなるし、遭遇戦にでもなれば最悪、各個撃破もあり得るしな。
できれば早急に合流したいところだけど……。
そう思いながら、ダンジョン内の簡易マップを開き、他のメンバーがどの辺りに転移させられたのかを確認すると同時に、今まで通って明るくなっている場所にパーティメンバーを示す光点は1つ……つまり俺しかいなかった。
だが、幸か不幸か、未だ行っておらず暗くなっている場所に、2つの光点が寄り添うようにして、別々に3組存在しているのを発見する。
どうやら俺だけが1人で、他は2人1組で転移させられたようだ。
別に単独行動でも構わないが、なんとなく仕様に悪意を感じるのは気のせいだろうか?
もしも今いる隠し部屋を開けていなかったら、中から開けるギミックがなかった場合、閉じ込められることになる。
これが純粋な戦闘職とかならまだ挽回できる余地があるが、俺のように斥候系スキルを所有するプレイヤーが動けなくなることは、攻略に支障が出るレベルだ。
周囲のモンスターの動向はおろか、道中の罠がどこにあるかも分からないからな。
偶然ならいいが……いや、偶然だと仮定しても、どうやって判別したのかがわからないか。
それでもその点も含め、仮に何かの意思が介入した結果なら、厄介極まりない事になる。
今はまだ、ただの憶測の域だが、セルピナのいる場所次第では、優先的に倒す必要が出てきそうだ。
そうやって考えを巡らせていると、ふいにパーティチャットから声が掛かる。
『全員無事かッ!?』
『ピナちゃん! リオンさん! ディーノ! 無事なら返事をしてッ!』
『その声は、ダグラスとミカさんか。死に戻ってないのは確認済みだけど、そっちこそ無事なのか?』
『リオンか! ああ、今のところはな』
『っ~~~! 頭を打ったのです。なんで私はこんな真っ暗な……。いえ、シエルちゃんもいますし、真っ暗ではないですが。どうして私とシエルちゃんは、こんな場所にいるのです?』
『聞こえてますよ、姉上。それに皆も無事そうだね。声を聞いた限りでは、だけど』
『ディーノも無事か。よかった』
そうやって互いの無事を報告し合っていると、おずおずとした感じで、ミカエリスから思念が届く。
『あの、それでなんですが、今ピナちゃんも言った通り、何がどうなって今の状況になっているか聞いてもいいですか? 気付いたら、ダグと一緒に知らない場所にいるのですが……』
『ああ、それなら簡単ですよ。姉上とセルピナ、そしてネロにゴブリンパスファインダーの挑発がキマリ、そいつの誘導によって罠を発動されて、今に至ります』
『道中にあった罠を漢解除してましたので、回復をしつつ救助に行ったんですけど、罠発動までに間に合わなくて、全員巻き込まれちゃったんですよ』
『まさか、あそこまでゴブリンパスファインダーの挑発の影響が強いとはなぁ。ミカさん達を罠の有効範囲から出そうとしたけど、すごく抵抗されたから仕方ないっちゃぁ、仕方なかったんだが』
『それは…………。ご迷惑をお掛けしました』
『そうだったのですね』
『まぁ、幸いにも全員まだ死に戻ってないし、挽回は可能だろう』
『だな』
『ああ!』
『ありがとうございます』
『ありがとうなのです!』
『それでなんだが、話の内容から察するに、ダグラスとミカさん、セルピナとシエル、ディーノとネロが一緒にいるってことでいいか?』
『え? あ、ああ。確かにオレはミカさんといるな』
『私もシエルちゃんといますから、その通りなのです!』
『よく分かったな。流石は我が盟友だ!』
そうやって確認を取っていると、ミカエリスから質問が投げかけられる。
『……ちょっと待って下さい。もしかしてリオンさん、今1人なんですか?』
『ええ、そうですよ。因みに会話以外で分かった理由は、簡易マップで場所の特定をした時に、俺以外のパーティメンバーの光点が2つずつあったからだな』
『なるほど……簡易マップか』
『そ、それで、リオンさんは大丈夫なんですか?』
『ああ、特に問題はないかな。今のところ周囲にモンスターはいないし、既に通った後の場所だから道筋はわかるしな。それよりもこれからのことだけど……』
『分かってる。まずは合流だろうな。だが、現状全員の状況が分からないと動きようもないし、まずは報告を頼む』
『ですね』
『確かに』
『なのです!』
『だな』
そうして、俺達は互いの状況を話し合った。
そして分かったのは、以下の通り。
リオン:既に開けた隠し部屋の中で、『草に戯える猫』というタイトルの壁画の前に
ダグラスとミカエリス:未だ行ってない、左の通路の先らしき場所にある、『魚を捕って食べる猫』というタイトルの壁画の前に
セルピナとシエル:ゴブリンパスファインダーと遭遇した通路にある、まだ開けてない部屋の中で、『鼠を捕って食べる猫』というタイトルの壁画の前に
アフロディーノとネロ:未だ行ってない、左の通路の何処かにある部屋の中で、『機嫌の良い猫、悪い猫』というタイトルの壁画の前に
因みに、セルピナとシエルがいる場所には宝箱もあるらしい。
これはもう、決まりでいい気がする。
斥候系スキル持ちが、2人共閉じ込められる環境に強制転移させられるなんて、おかし過ぎる。
これが序盤のダンジョンでなかったなら、違っていたかもしれないが、探検や開拓に特化した個体なら、罠の操作方法を習得していてもおかしくない。
今思えば、ミカさん達が誘導されて行った通路もそうだ。
いくら自意識の無い2人が、全く別の場所を移動していても、通った場所全ての罠を発動させられるはずがない。
なぜなら、2人は2足歩行で移動しているのだから、必ず歩いていない場所もあるはずなのだ。
なのに、まるでローラーで地均しでも行ったかのように、キレイに罠がないのは不自然過ぎる。
ネロについては、そもそも宙を飛んでいるから罠を発動させようがないから論外だしな。
やはり、二の轍を踏まないようにするには、ゴブリンパスファインダーの討伐は急務といえるだろう。
挑発のこともあるし、発見したら速攻で倒しに掛かるとしよう。
『どうやら、猫の壁画の前に全員飛ばされたようだな』
『みたいだな。しかもこりゃ、大分バラバラだ』
『ええ。それに、ここまで猫の壁画が多いとなると、他の場所にも結構あるかもしれませんね』
『ですね。恐らく何かのギミック関連だと思いますので、攻略するためにも全て見つけたいところですね』
『ですです! あ、もしかしたら、さっき調べていた部屋にもあるかもなのです。まだ木箱や樽が残ってましたし』
『あー、確かに』
『ですが、道中の罠のことを考えると、迂闊な行動もできませんから、調べるにしても合流してからになりそうですね』
『ですね。更に悪いことに、罠の発見やモンスターの気配が分かるセルピナが閉じ込められているので、必然的に合流が遅れるのがもどかしいね』
『これはもう、リオンさんに迎えに来てもらうしかないのです!』
『それしかないな。回復手段に乏しくなかったら、強行軍もあり得たかもだが。現状が恨めしいぜ』
『そうですね。せめて道中の罠をどうにかできれば、移動もできたんでしょうが……』
『んー……。それなら一応案がありますよ? ただ、一概に安全とはいい難いので、緊急時以外では、あまりお勧めしませんけど』
『そんな方法があるのですか!?』
『どんなの、です?』
『要は、罠にかからなければいいんだから、進行方向の床を先が長い棒のような物で打ち付けるか、MPがもったいないですけど、魔法を撃ったりして罠を発動させた後に移動すれば……』
『先が長い棒か……よかったじゃないかダグ。丁度槍があって』
『まぁ、そうなんだけどよ。ただそうすると、間違いなく大きな音を立てることになるから、モンスターと会う可能性が高まることになるんだよなぁ』
『あー……。それは避けたいね』
『だから、どうしてもその場から離れたい場合に限り、使った方がいいと思うんだ』
『だな。まぁ、選択肢があるだけ、まだマシか』
『ですね。最終手段にしましょうか』
そうやって緊急移動手段を決めた後、本題に入るかのようにダグラスが思念を発する。
『さて、それじゃ合流についてだが……。リオン、そこから1番近い場所ってどこになる?』
『そう……だな。たぶん、セルピナとシエルがいる所かな』
『そうか。それじゃ、セルピナ達と合流してから、初期地点から左の通路方面に来てくれ』
『了解。それとセルピナがいってた、さっき調べてた部屋についてはどうする?』
『んー……。残りも少なかったし、回収できるならしといてくれ。壁画があった場合は、SSと報告をよろしくな』
『分かった』
そうして、俺はパーティは組んでいるものの、初日以来の同行者の無い擬似ソロ状態で、合流に向け、移動を開始していった。
◇◆◇
念のため気配偵知を使いつつ、道中の罠を避けて、セルピナとシエルがいる部屋を目指して、移動していく。
しばらく歩いた後、気配偵知に引っ掛かる反応を捉えると、ほぼ同時にセルピナからパーティチャットで声がかかる。
『リ、リオンさん、なんか壁の向こうから、引っ掻いたり叩く音が、聞こえるのですがッ!?』
『その反応はこっちでも捉えてる。たぶん、さっき俺達を罠で飛ばした、ゴブリンパスファインダーだと思う』
『でも、どうしてココの壁を引っ掻いたり、叩いたりしてるのですか?』
『んー……そうだな。考えられることは2つ。1つは、単純にそこに普通に開かない扉があるから、開けようとしていること。パスファインダーなんて名前がついているくらいだから、探検心や開拓心に惹かれるものでもあるんじゃないかな』
『な、なるほどなのです。確かに、ダンジョンや遺跡なんかに入ったら、全部調べ尽くしたい気になるのです! それで、もう1つはなんなのです?』
『もう1つは、中にいるセルピナ達に気付いたからかな? 追撃をしたいのか、略奪をしたいのかはわからないけど……守護者ではないから、撃退は無いと思う』
偏見かもしれないが、ゴブリンという種族は基本的に何かを生み出すことはせず、誰かから奪った物や拾ってきた物を使っているイメージが強い。
作品によっては異なるけど、繁殖を必要とする場合は、だいたい二足歩行の女性が犠牲になる。
流石にR—18作品ではないので、そういうことを目的として扉を開けようとしているとは思いたくない。
しかし、放っておくこともできないし、何より相手より先に気付けたことは僥倖であるといえる。
今は、セルピナ達がいる部屋の中に意識が向いてるだろうし、背後から急襲するのに打って付けだ。
サクっと倒して、早いとこ全員と合流して、探索を進めたいところだな。
因みに、繁殖を必要としない場合、木の股の間から自然と生まれるらしい。
『そ、そうなのですね』
『すぐに行けると思うけど、念のため扉が開かれた時に備えて、防衛か攻撃態勢をしてた方がいいかもな。シエルにもそう伝えて上げて欲しい』
『わ、わかりましたのです! リオンさんも気を付けて下さいなのです!』
『ああ』
そう会話を締めくくると、俺は囁くように暗殺系アーツの【ハイディング】…姿を暗ます、【ハイドストーク】…足音を消す、【インビジブルハーミット】…認識を阻害するを使い、ゴブリンパスファインダー暗殺のための準備をする。
そして、もう1つのアーツのリキャストタイムが終わっていることを確認し、音も無く移動を開始した。
移動から数十秒後、木箱と樽があった部屋に続くT字路に到着する。
左の通路を道なりに行けば目的地は目と鼻の先だが、流石に暗殺系アーツを使っていようとも、何かしらのアクシデントが無いとも限らないので、ゴブリンパスファインダーのすぐ側に出る事は躊躇われる。
なので確実を期すため、右の通路を進み、木箱や樽があった部屋を経由して、セルピナとシエルがいる部屋の扉の前が見える通路口から顔を出し、視線を走らせる方法を取る。
視線を向けてみれば、セルピナの報告通り未だ開く気配を見せない扉を前にして、やや乱暴に扉の様々な所を赤い短剣のようなもので叩いたり、自前の爪で扉の縁を引っ掻いていた。
扉を注視してみると、扉の表面に何か文字が書かれているようなので、恐らく正しい解答で開くギミック扉なことが窺える。
未だに扉が開く兆候を一切見せないことから、癇癪を起こし、実力行使に出たようにも見える。
幸いなことに、見た感じ、扉を開けることに集中しており、俺が近くに来ていることに気付いた様子はない。
仕掛けるなら今がチャンスだろう。
俺はそう判断すると、エキスパートソードを抜剣し、囁く程の声量でアーツを使う。
「アサシネイト」
瞬間、俺の視界が切り替わり、目の前に登山用のバックパックが目に映る。
そして、自分がやらかしたことに気が付く。
あ……失敗した。
なぜなら、ゴブリンパスファインダーの死角に入っても、腰から上全てを遮るバックパックのせいで、狙っていた首も頭も見えなくなっていたからだ。
俺は一瞬呆けるが、ここからでもやりようはあると考え直す。
まだゴブリンパスファインダーは背後の俺に気付いてないし、視界が遮られたなら、視界が開けるようにすればいいだけなのだから。
俺は半ば癖になりつつある思考加速を使い、自問自答しつつ、状況の整理を行う。
こちらの攻撃を当てるためにはどうすればいい?
簡単だ、視界と攻撃範囲を遮るバックパックを動かせばいい。
だが、動かす段階でこちらの動きを阻害するような行動は慎むべきだ。
であれば、わざと物音を立て、相手の動きを誘導してはどうだろう?
右手にエキスパートソードを持ってるから、振り抜くのに邪魔になり難いのは左側にバックパックがある時だ。
なら、誘導に適切な行動は……!
そこまで考え、俺はすぐさま左手で腰に差してあるパライズスティンガーを抜剣。
そして、左手首のスナップだけで、自分の後ろを通るようにして、右側の通路に投げ、一拍後に1歩後ろに下がる。
カランッ! カランッ! カラララララー……ッ!
「ツッ!?」
石畳に木刀を落としたような音が辺りに鳴り響くと、ビクッ! っとバックパックが1度縦に揺れ、その後素早く左右に、体ごと向かせ通路に目を走らせるゴブリンパスファインダー。
「ギギ?」
そして、俺が投げたパライズスティンガーを見つけ、訝しむように声を上げ、首を傾げながら一時的にその動きを止める。
ここだ!
俺は理想的な位置にゴブリンパスファインダーが来たことを確認すると、首を狙って即座にアーツを放つ。
「ステルスレイザー!」
「ギッ!?」
瞬間、コマ落ちしたかのように、振り上げていた腕が一瞬で振り下ろした位置にあり、少し遅れてゴブリンパスファインダーの首から緑色のエフェクトが迸る。
そして、その後ろにあった巻き布をも両断する。
斬り飛ばされたゴブリンパスファインダーの首は縦回転しながら、左側の通路に落ち、その数瞬後に光の粒子へと変わり、次いで体も光の粒子へと変わって消えた。
ドサッ
キンッ! カララン……ッ!
しかし、何故かゴブリンパスファインダーが背負っていた登山装備のバックパックと峰の先端に輪がついた真っ赤な包丁のようなものがその場に残された。
不思議に思いつつも、念のためすぐに拾わず、鑑定を使ってみる。
武器アイテム:短剣 名称:ブラッドクレーバー ランク:4 強化上限回数:34回
ATK66 M・ATK6 耐久値回復(赤血):1/10ml 獣特攻(小) 耐久値:790/794
与DP倍率:斬1.2 打0.6 突0 魔1.0
説明:妖血石でできた獣肉包丁型の短剣。一定量の赤い血液を浴びることで、耐久値を回復する特性を持ち、また獣系モンスターに対しての特攻効果をも合わせ持つ。包丁の形をしているが、短剣であるため料理系スキルによる補正はかからない。
特殊アイテム 探検家小鬼の落とし物(大):ゴブリンパスファインダーの大きな落とし物。中身は出してからのお楽しみ! LUKの値が高い程良い物が出る……らしい。
ちょっと待って欲しい。
コレはどういうモノなのだろうか?
ブラッドクレーバーはわかる気がする。
たぶん、カタコンベで拾ったシャベルとかと同じ感じで、ゴブリンパスファインダーが元々持っていた装備ではなく、このダンジョンで手に入れたアイテムなのだろう。
だが、この特殊アイテムは……うーん。
どちらにしても報告案件だな。
ブラッドクレーバーも落とし物(大)も相談して分配した方が後腐れないだろう。
まだ確認はできていないが、ゴブリンパスファインダーがいた無作為転移の罠辺りが怪しそうだ。
別の何かがないとも限らないし、後で確認するのが無難だろうな。
それにしても初めてステルスレイザーを使ったが、ちょっと気持ちが悪い使い心地だったな。
自分が斬り付けようとした場所を自動で、しかも本当に目にも留まらないスピードで勝手に動かされるんだから、違和感が半端じゃない。
間違って、斬り付ける軌道上に反対の手や腕、アイテムを置いてあればそのまま切り裂いてしまいそうだ。
使う時は注意が必要だし、この仕様に慣れるまでしばらくかかるだろうな。
さて、まずは報告からだな。
中では何時ゴブリンパスファインダーが入って来るかと、迎撃態勢を取ってるだろうから、その心配はないと安心させた方が、精神衛生上確実に良いからな。
そう考えつつ、セルピナに念話で話しかける。
『セルピナ、終わったよ』
『え? お、終わったのです?』
『ああ、ゴブリンパスファインダーは倒した。だからもう、迎撃態勢は解いていいぞ? シエルにもそう伝えてくれ』
『わかったのです!』
『じゃ、ちょっと待っててくれ、開錠できるか見てみるからさ』
『お願いしますなのです!』
そうやって念話を終了し、正面にある扉を注視し、彫られている文言を読む。
扉には、こう彫られてあった。
[猫にとっての周囲を知るための手段は何か? 該当する壁画のプレートを収めよ、さすれば扉は開かれん]
俺が扉の文字を読み終わった次の瞬間、どこからか「カチッ」っという微かな音が鳴るのが聞こえた。
そして、他のメンバーもその音を聞き不安に駆られたのか、一斉にパーティチャットがかかって来る。
『リオン! 何をした!?』
『リオンさん! 何か音がしたんですが!』
『盟友よ! 先程何かの音が聞こえたのだが!?』
『リ、リオンさん! 今、カチッって! カチッって音が聞こえたのです!』
しかも俺が何かした前提で……まぁ、俺が原因なんだけどな。
『大丈夫大丈夫、落ち着いてくれ。セルピナとシエルがいる扉の文字を読んだら、ギミックが作動したっぽいだけだから』
『ギミックが作動? どんな効果かわかるか?』
『ああ、たぶんだけど……猫の壁画のタイトル部分のプレートが、取り外せるようになってるはずだ。扉に対応した猫の壁画のプレートを嵌め込まないと、開かないみたいだし』
『タイトル部分のプレート? ……お、マジだ。取り外せるようになってるな』
『確かに……』
『なるほどコレの音だったのか……』
『本当なのです!』
『それで、ギミックの答えはたぶんわかるんだけど、鍵になるプレートがどこにあるかわからないから、セルピナとシエルはもう少しこのままの状態でいてもらうことになりそうなんだ』
ギミックの答えは、恐らくヒゲだ。
猫のヒゲは主に「距離を測るセンサー」、「風向きや風の流れを掴むセンサー」、「温度を測るセンサー」、「気持ちを表す手段」の4つの役割がある。
そしてもしも、ヒゲを切られたり、ストレスや病等で抜け落ちたりしてしまえば、猫は自信がなくすことがあるからだ。
それによって、移動したり、飛び移ったりができなくなり、部屋の片隅でショボンと落ち込んだまま、その場からあまり動けなくなってしまうこともある。
また、毛根の部分にはたくさんの神経が集中しているので、痛みを感じて神経質になってしまうことも……。
因みに、何故かストレスが溜まると白血球が少なくなり、それが免疫力の低下となってあらわれ、顔の毛穴に住んでいるといわれるニキビダニが皮膚炎を起こし、抜け毛に繋がることがあったりもする。
だから、猫の健康を思うなら、ヒゲへの接触は極力避け、むやみやたらと触れないよう心掛けるといいだろう。
『それじゃ、先にオレ達を拾ってもらって、最後に救出になりそうだな』
『ですね』
『仕方ないな』
『残念なのです……』
『あ、そういえば、さっきゴブリンパスファインダーを倒してから妙なアイテムを落としたんだけど……どうしようか?』
『妙なアイテム、だと?』
『それはどういう……?』
『えっと、特殊アイテムで探検家小鬼の落とし物(大)というものなんだけど、説明にある通りならLUKの値が高い程いいものが出るらしいんだ』
『ふむ? 何にしても最初の決め事を変えるつもりはないが……わざわざソレをいうってことは、ドロップアイテムじゃないのか?』
『ああ、自然とインベントリに入ってるタイプじゃなくて、倒したらその場にそのまま残ったんだ。それと説明を見る限りこのダンジョンで入手したらしいアイテムも残したな』
『そちらに関しては、掲示板で情報が載ってましたね。ダンジョン内で奪われたアイテムを持ったモンスターを倒すと、その場所で奪われたアイテムが散乱すると』
『なら、そっちは宝扱いで後で分配すればよくないですか?』
『だな、そっちは合流後分配するとしよう』
『異議なし、なのです!』
『それでその特殊アイテムについてなんだが……ゴブリンパスファインダーを1対1で倒したのはリオンなんだから、リオンがそのままもらえばいいんじゃないか?』
『ですね。流石に戦闘に参加せず分配を強請るのはずうずうし過ぎるかと』
『僕も賛成だね。リオンがもらうべきものだ。その資格は君だけにある』
『わ、私も同意するのです! リオンさんだけが戦って倒したんですから! 私達がもらったらおかしいのです!』
『だとよ。だから、遠慮せずにもらっとけ』
『ああ、わかった。ありがとうな』
『礼をいわれるようなことじゃないぞ?』
『ふふ、そうですよ』
『そのとおり!』
『あたりまえのことなのです!』
『そっか。じゃ、これから合流に向かうよ』
『ああ、なるべく早く頼む。何時モンスターが来るかひやひやものだからな』
『ですが、道中の壁画を見逃しても2度手間ですし、軽く探索しつつ来てもらえると助かりますね』
『ですね』
『リ、リオンさん、お手数かけますのです……』
『わかった。セルピナ、そういうこともあるよ。冒険なんだからさ。あ、それと解放するまでの間シエルと遊んでもらえると助かるかな? たぶん暇を持て余しちゃうだろうし』
『わ、わわ、わかりましたのです! せ、せいいっぱい務めさせて頂きます、なのです!』
『あ、ああ。頼むな』
そうして、やや食い気味に返事をされたのを疑問に思いつつもその場を後にし、とりあえず通路の先の無作為転移の罠のあった場所へと移動を開始して行った。




