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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第5章
121/123

Locus 109

長らく休載していたにもかかわらず、お読み頂き、そして評価して下さり、ありがとうございます。

おかげ様で、1600万PV及び、ユニークアクセス数が200万を突破していました!


本当に、ありがとうございます!


お待たせしました。

では、どうぞ。

 右側の通路の床にある罠をエクリプスライトで照らしながら、慎重且つ、迅速に進み、しばらくすると、直進と左側へと通じる分かれ道に出た。

 

「分かれ道か……。どうする?」


「ちょっと待ってくれ。今、調べる。セルピナは、後方の警戒を頼む」


「り、了解なのです!」


 俺はダグラスにそう断りを入れ、セルピナに警戒を促した後、素早く気配偵知とサウンドアセンブルを使い、周囲の状況を調べる。

 

 すると、左側の通路の奥からいくつかの動く気配とモンスターの足音らしき、『ペタペタ』『カツカツ』といった音が聞こえ、反対に正面の通路からは、何の気配も音もしてこなかった。


「左からはいくつかの気配と音がするけど、正面からはどちらも無いな。先に調べるなら、正面からか?」


「だな。それでいいよな?」


 ダグラスがそう言いながら後ろを振り向くと、皆賛成の意を示すように、頷き返す。


「それじゃ、リオン頼む」


「分かった」


 そうして、また俺が先頭になり、正面の通路へと歩を進めていく。

 通路を歩きつつ、罠のある場所を照らしながら十数m移動して行くと、右に折れた曲がり角にぶつかった。

 すぐ様、気配偵知とサウンドアセンブルを使うが、やはり何の気配も音もしない。

 念のために、ミカエリスに何か反応があるか聞くが、ソレも無いようなので、何かあってもすぐに動けるようにしながら、油断無く曲がり角を曲がる。


 角を曲がると、3~4m程の短い通路と天井まで隙間なく(そび)え立つ壁がある、袋小路へと突き当たった。


「行き止まりか?」


「みたい、ですね」


「では、引き返えそうか?」


「いや、一応何かないか調べるよ。初めてインスタンスダンジョンに潜った時、こういう何の変哲もない壁や何もない部屋なんかを調べるのは、ダンジョン攻略では鉄則らしいし」


「それもそうだな。それじゃ頼む。オレ等は後ろを警戒してるよ」


「ああ、頼むな」


 そうして、俺は出来る限り早く、だが見落としがないよう、しっかりと周辺を確認していく。


「んー…………あっ」


 すると、行き止まりの壁の高さ3~4m程の一部が、青色の長方形に光って見えた。


 青色……つまり、無害な隠されたモノである証だ。


 発見のスキルと他の2つのスキルが統合進化して、天眼になった時、ベースになった各能力が強化されて、隠された何かを判別できるようになったから、まず間違いない。


 確か、無害なものは青、有害なものは赤、有益なものは緑だったからな。


 ならアレは、差し詰め隠しスイッチのようなモノかな?

 ただの開閉装置なら、有益でも有害でもないのも頷けるから、たぶん合ってるはずだ。

 まぁそれでも、開けた先までは分からないから、用心だけはしておくとしよう。 


 そう考えながら、俺はダグラス達に声を掛ける。


「見つけた。たぶん、隠しスイッチだと思う」


「おぉ!」


「やりましたね!」


「よく見つけたなぁ」


「流石は、リオンさんなのです!」


「っと言っても、場所が場所だからなぁ……シエル! ちょっと手伝ってくれないか?」


 そう言うと、シエルは俺の方へ滑るように飛び、こちらへと移動してくる。


『なになに~? おてつだい? なにすればいいのー?』


「ああ。今から魔法を使って場所を指定するから、そこを押して欲しいんだ。指定できたら合図を出すから、その合図の後に押してくれ」


『はーい!』


 そうして、エクリプスライトを中空に灯し、青色の長方形にすっぽりと入るような円形の平行光線を出し、指定箇所を照らす。


 因みに、中空に灯した理由は、手ブレ防止のためだ。

 周囲に罠はなさそうだけど、何かあって、誤って罠の場所を照らさないとも限らないからな。


『ここー?』


「ああ、そこそこ。他には触らず、その照らされてる所だけ頼むな。周囲に罠はなさそうだけど、一応な。それじゃシエル、やってくれ」


『うん! わかったー! いくよー? うん、しょっと』


 ズココココココココココ…………ゴドンッ!


 シエルが俺の合図の後指定した場所を押し込むと、行き止まりになっていた壁が下へスライドし、まるで石材の上で小岩を引き()ってるような音を響かせながら、床の中へと入っていく。

 そして、壁が全て床に収納されると、硬く重い物が石畳(いしだたみ)の上に乱暴に置いたような音を出し、静止する。

 

『「「「「おぉーーー!!」」」」』


「キューーー!!」


 するとそこには、新たな小部屋への入り口が姿を現した。

 

 中を見てみると、今まで見てきた天井のように崩落はしていないため光源がなく、常人では見通すことが難しい、薄闇が広がっていた。


「って、暗いな。中はどうなってんだ?」


「確かに……。崩落してないから、中が見えませんね」


 そう話しているダグラス達をよそに、俺の目には、通路から漏れ出す光だけで、中に何があるか把握できた。

 

 あるものは2つ。

 1つは、向かって右側の壁にある、先程も見た猫が描かれた、しかしソレとは全く別の壁画。

 もう1つは、部屋の向かって左奥にある、やや角が取れ、自然とそのような形になったとさえ思える、一抱え程の横に長い直方体をした石材……の形をした宝箱だろうな。


 一見ただの風景の一部にしか見えないが、前に潜ったインスタンスダンジョンでも、周囲の風景に溶け込むようにあったし、それに俺の目には、石材の中から緑色の光が見えるから、仮に宝箱でなかったにしても有益なものがあることは確実だ。

 隠された採取エリアであれば、赤い光が立ち昇ってるしな。


 問題は、石材に埋まってる場合どうすればいいかだけど…………まぁ、その時はその時かな。


 そう考えながら、俺は断りを入れるように声を上げる。


「じゃ、中を照らすよ。壁画()あるみたいだし、照らした方がSSも撮り易いだろうからな」


「ってか、リオンは見えるのかよ!」


「も? ですか?」


「ということは、もしかするのですッ!?」


「流石は我が盟友(とも)。何事にも、そつがない!」


「まぁ、な。いくぞ? ライトアップ!」


 俺は部屋の中央の天井付近に視線を定め、光球を出現させ、小部屋の中を照らし出す。


「ほぉー……。中は他に比べて、結構キレイなんだな」


「ですね。細かいヒビこそあれ、(こけ)や水溜り、床の凹みもありませんし」


「そ、それで! アレはあるのですか!?」


「アレって……もしかして、宝箱のことかい?」


「そうなのです! ダンジョンと言えば、宝箱! 夢と希望が詰まった、魅惑のプレゼントボックス! インスタンスダンジョンごとで形状は異なるみたいですけど……宝箱無くして、ダンジョンは語れないのです!」


「お、おぅ……。そうか。まぁ、醍醐味(だいごみ)ではあるよな。ってそういえば、セルピナもインスタンスダンジョンが初めてだっけ」


「はいなのです! だから、画像とかではなく、1度は自分の目で見てみたかったのです!」


「なるほどな。なら、よかったかもな。たぶんだけど、アレがこのインスタンスダンジョンでの宝箱……だと思うぞ? ほら、あの向かって左の奥にある、石材みたいなのだ」


 そう言いつつ、俺は小部屋の左の奥にある石材を指し示す。


「あれ、なのです? ただの大きな石材みたいなのですが……」


「まぁ、初めて見れば、そういう感想になるよな。俺もそうだったし」


 そうやって話ていると、驚きの声と共にダグラスから声が掛かる。


「何!? リオン、宝箱があるのか?」


「ああ。ってか、開けてないから本当に宝箱かは、まだ分からないけど、十中八九はそうだと思うぞ?」


「ほぉー。因みに根拠は?」


「んー……そうだな。そういうスキルがある、とだけ言っておくよ」


「そうか……。まぁ、他人のスキルを詮索するのはマナー違反だしな。それじゃ、リオン。頼むな」


「分かった」


 そうして、俺は新たな小部屋へと入って行き、宝箱と思しき石材の前へと進んで行く。

 そして、LUK上昇の魔法【フォーチュンブースター・ノート】を自分に掛けた後、見た感じどこにも罠らしき赤い光がなかったので、手で()(さす)り、何かないか調べていく。


 すると、石材の上1/3辺りに、妙な違和感を覚える場所があることを発見する。

 言うなればソレは、(かす)かな(みぞ)というべきもので、その溝に沿()って指を走らせれば、石材をぐるりと1周しているようだった。


 ココか!


 そう思いつつ、石材の宝箱の両側の上辺を両手で挟むようにして力を入れ、上方に持ち上げる。


 ガチッ!


 しかし、石材の(ふた)は数mm上に上がった後、何かに当たってそれ以上上へは行かない。


 ん?

 あれ?


 2度3度確かめるように、力を入れて石材を上へ持ち上げようとするが、そのたびに何かに当たる音を立て、一向に石材の蓋は持ち上がる気配をみせない。


 これはもしかして…………鍵が掛かってる?


 そう考え始めるとほぼ同時に、こちらの様子の変化に気付いたのか、ダグラス達からパーティチャットが掛かる。


『リオン、どうした?』


『何かありましたか?』


『あ、ああ。あったは、あったのかな。鍵が掛かってる、みたいなんだ。この宝箱』


『へ?』


『あー……』


『それは普通のことなのでは?』


『ですです! 大切な物や貴重な物には、鍵は必須なのですよ!』


『まぁ普通は、2人の言う通りなんだが、今まではそうでもなかったんだわ』


『ええ。この丘陵地帯以外。少なくともディパート……通称:始まりの街周辺の草原・東の森・西の森でのインスタンスダンジョンの宝箱には、鍵は掛かってなかったんですよ』


『そうなのですか?』


『そうなのです!?』


『ああ。だから、そのまま開けられると思ってたんだけど……当てが外れたな』


『鍵開けはできないのです?』


『少なくとも、俺はできないな。そういうセルピナは?』


『わ、私もまだなのです! 今までやる必要も機会もなかったので』


『そっかぁ……』


『一応聞くけど、誰か鍵開けできたりする人は?』


『オレはできないな』


『私もできませんね』


『僕も無理だね!』


『だよなぁ。どうする? 諦めて、壁画だけ撮っていくか?』


『うーん……。心情的には、ソレは避けたいな』


『ですね。せっかくリオンさんやシエルちゃんがいるのですから』


『どうにかできないのです?』


『どうにかって、言ってもなー』


()じ開けたりは、できないのかい?』


『抉じ開けるかぁ……。剣だと……少し太すぎるな。引っ掛ける所も少ないし。テコも使えそうにない』


『バールのような物は作れないか?』


『どうだろ? 作れはするだろうけど、1回使ったら壊れる仕様だから、抉じ開けるまで耐えられるかどうか、だけど……』


 と、そこまで答えた時、何か引っ掛かりを覚える。


 あれ? 

 そういえば、前に何か習得した時に、こういう場面で使えそうなのがなかったっけ?

 …………あったような気がする、な。

 だけど何だったかな?

 うーん……習得したものは多かったから、思い出せないけど、見てみれば思い出すかな?


 そう思い、素早くメニューを開き、スキル画面を呼び出し、習得したものを見ていく。

 そして…………ソレを見つけ出す。


 そうか! これなら使えるかも!

 それに…………うん、かなり狭いけどアレも見える。

 なんの材質かはちょっと分からないけど、ファンタジーによくある魔法鉱石じゃなきゃたぶんいけるはずだ。

 ただコレを使うなら、1人じゃ厳しいな。

 万が一その人が開けることを考えると……やっぱり、助手はシエルか。


 そう考えていると、再び動きを止めた俺にパーティチャットで声が掛かる。


『あのあの、リオンさん?』


『ああ、悪い。ちょっと考え事してただけだ』


『考え事……です?』


『ああ。だけど、そのおかげでなんとかなるかもしれない』


『なっ!? マジか!』


『といっても確証がある訳じゃないから、あんまり期待されても困るけどな』


『それでも十分ですよ』


『ですね。何をするかは分からないが、僕は盟友(とも)であるリオンを信じるだけさ。それで失敗したとしても力が及ばなかったのは僕達も一緒だからね。決して、責めたりはしないよ!』


『は、ははは……』


 なんだろう、アフロディーノの全幅の信頼が重い……。

 なんで会ったばかりで、ここまで言えるのだろうか?

 そこまで信頼されるようなこと、何か俺やったかな?

 まぁいい、今はこの問題を解決することだけ考えるとしよう。


 そうして俺は、新たに浮上しようとした問題を考えないようにして、石材型の宝箱を開けるために行動していく。


『まず、シエル』


『はーい!』


『シエルにはまた手伝いを頼みたい』


『てつだいだね! だいじょうぶだよ~。なにをすればいいの?』


『ああ。俺がいいと言うまで、この石材型の宝箱の蓋部分を支えてて欲しいんだ。もちろん、今のままじゃ開けられないけど、開けようとするとガチッ! って音がするから、その音がしたところで、蓋を上げるのを止めて、支えてくれ』


『わかったー!』


『じゃ、よろしくな』


『いくよー? うんしょっと』


 ガチッ!


 シエルが念動力で石材型の宝箱の蓋を持ち上げると、すぐに何かに当たる音共に、それ以上上がらなくなる。


 その瞬間、俺は即座に腹()いになり、石材型の宝箱の蓋と宝箱本体との間へ目を向け、目当ての(じょう)を見つける。


 錠は『ll』のような形をしており、両端はあるが、真ん中はないという変わった形をしていた。

 宝箱の横面から間を覗き込み、錠の大きさを目測で測ってみると横1cmを2本と、奥行き2cm程であることが分かった。 

 蓋と本体との間はせいぜい5mmもあればいい程度だが、まぁやってやれないことはなさそうだ。


 俺はそのことを確認すると、素早くアーツと魔法を立て続けに使っていく。


「ダブルマジック――フォーチュンブースター・ノート」


 俺とシエルの体全体が青白く光り、そして消え、俺とシエルのHPバーの上にLUK↑のアイコンが付く。


「トリプルマジック――エクリプスライト」


 石材型の宝箱の錠の正面と少し離れた左右に平行光線を出す光球が3つ出現し、宝箱を照らす。

 その後、光の範囲を絞り、石材の宝箱の間から見える錠を見え易いにように3方向から照らし出し、ようやく前準備が終わる。


 本番はここからだ。

 そう思いながら、今のMP残量を確認後、念のためアーツを使ってから魔法を使う。


「バーサーク――バーナードファイア」


 すると、俺の体全体を赤いオーラが包み込んだ後、俺の利き手……右手の人差し指の先に小さな、しかし力強い赤い炎が灯る。

 それを確認後、形状を長さ5cm、直径3mmの針金状に変化させ、下手を打たないように、細心の注意を払いながら、宝箱の間から見える錠へと当て、焼き切っていく。


 石の焦げる臭いと、バーナードファイアによって撒き散らされる熱と光を我慢しつつ、1本、2本と焼き切る。

 2本目が切れたところで、MPの残量は半分に挿しかかろうとしていたので、すぐにバーナードファイアを消し、素早く両手で石材型の宝箱の蓋を持ち、シエルに合図を出す。


「シエル、ありがとな。もう支えなくても大丈夫だ」


『そうなの? じゃ、はなすね』


 そう言うとシエルが支えが消え、俺の両手に先程に感じた重さが掛かる。


 さて、これで開くはずだけど、中身は大丈夫かな?

 結構な熱と光だったし、石を焼く悪臭もあったから、変質や劣化とかしてないといいけど。

 

 そう考えながら、意を決し、石材型の宝箱の蓋を開ける。


「おぉ! 開いたぞ!」


「開き、ましたねぇ……」


「流石はリオンさんなのです!」


「僕は信じていたよ! 君はやってくれると!」


 そんな声を聞きつつ中を確認すると、Uの字型の石棒の残骸と台座に()まった指輪が1つあった。

 指輪は見た感じ、銀色の金属で出来ており、オーバルカボッション型の黒と黒灰色の縞がある石が嵌まっている。


 蓋の方を見ると、正面……開けた方に程近い蓋の裏に、∩の字型の石棒が2つのフックでぶら下がっており、また、正面の箱の裏側の底辺付近には、下から上に緩やかに反る全長5cm程の石棒が突き出していた。

 恐らくこの仕掛けが鍵の役割をしていたのだろう。

 

 今この仕掛けを見てみれば、鍵そのものを焼き切らなくても、薄く硬い鉄板のようなものがあれば、宝箱の表面に錠前がなくても、宝箱の本体と蓋との間に差し入れて、開錠が可能であったことがうかがえる。

 次に同じような宝箱があれば、試してみた方が、MP的にもいいかもしれない。


 最悪、同じ構造なら、宝箱自体を持ち上げて傾ければ、鍵は開く可能性もありそうだ。

 だけど……中身が固定されてなくて、更に割れ物…何かの瓶詰めだった場合、壊れるかもしれないから、どうやっても鍵が開かない時の最終手段にした方がいい気がするな。


 そう考えた後、俺はその指輪を慎重に手に取り、スキルを入れ替えてから、鑑定を使ってみた。


装飾アイテム:指輪  名称:オニキスリング  ランク:4  強化上限回数:24回


要求STR:2  DEF2  M・DEF5  影属性軽減(小)  闇属性軽減(微)  耐久値:720/720


説明:濃淡のある黒色が織り成すコントラストが美しい、黒縞瑪瑙(めのう)が嵌め込まれた、装飾品としても価値が高い、銀製の指輪。影と闇属性の魔力を帯びており、所有者に同属性からのダメージを軽減する働きを持つ。

 

 …………うん。

 これは当たりなんじゃないだろうか。

 能力値は平凡だけど、特殊能力が2つ付いているのが大きいし、ランクもレアに入る4。

 更には、有限の耐久値が700超えなんて、初めて見た気がする。

 

 そう考えながら、指輪を持って罠を踏まないように注意しつつ、ダグラス達の方へ戻って行った。


「お! リオン、どうだった? 何かいいの出たか?」


「ああ。能力値は平凡だけど、特殊能力が2つ付いてるから、結構いいんじゃないかな」


 そう言いながら、俺は手に持っていた指輪を見せる。


「へー。出たのは指輪かぁ。どれどれ」


「特殊能力が2つ、ですか。……っ!? これは!」


「すっごくキレイなのですー!」


「確かに、美術品と見まごうがばかりの造形だ……美しい」


 するとダグラス達は口々に感想を言い合いつつ、その場で鑑定をし、指輪の能力を調べる。


「さて、それじゃ鑑定も全員済んだだろうから、分配をするか」


「はい……」


「なのです!」


「だな」


「ああ」


「じゃ、この指輪が欲しいやつはいるか?」


「はい!」


 そうやってダグラスが全員に聞くと、すぐ様ミカエリスが勢い良く挙手する。


「ふむ……。ミカさんだけか? 他に欲しい奴は……」


 ダグラスはそう言いながら、周囲を見回すが、誰も手を上げる気配はない。


「いない、みたいだな。じゃ、コレはミカさんのでってことで」


 そうダグラスは言うと、アフロディーノが持っていた指輪を受け取った後、ミカエリスに手渡す。


「っ! ありがとうございますッ!」


 ミカエリスは、若干、感極まったような感じの返事を返しつつ、嬉しそうに、いそいそと指輪を装備し始める。


 因みに、装備した場所は、左手の中指だ。


「よかったですね。姉上」


「ええ。自分で選んだとは言え、いつまでも弱点属性を放置するのは心配でしたので、よかったです」


「じゃ、分配も問題無く終わったことだし、壁画を見たら、また探索に行くぞ」


「だな」


「はいなのです!」


「了解だ」


「ええ」


 そうして、俺達はその場にシエルとネロを見張りとして置いていき、隠し部屋の中の壁画を見に行った。


 隠し部屋にあった壁画のタイトルは、『草にそばえる猫』とあり、エノコロ草に似た植物にじゃれ付いている絵が描かれていた。

 俺達は、後で各自で確認ができるようにSSを撮り、その場を後にし、シエルとネロと合流する。


 そして来た道を戻り、先程の分かれ道の左側…現在の方向からだと右側の通路へと向かって行った。


 油断無く気配偵知を使いながら行けば、先程も感じた気配がいくつかあり、シエルやネロにも聞こえるように、念話で注意を促しつつ、モンスターを発見した際には、モンスターの弱点箇所を皆に伝え、レッドキャップ達を優先するように倒し、順調に攻略を進めて行った。


 そうやって、進路上のモンスター達を倒しながら移動して行くと、また分かれ道に行き当たった。


 今度の分かれ道は右側と正面だが、右側の奥は部屋に通じているようだった。

 反対に正面の通路の奥は、左右に分かれる通路の壁が見えており、その先までは分からなくなっている。


「また分かれ道か……」


「次はどっちに行きますか?」


「そうだな…………」


 俺はそう答えつつ、素早く気配偵知とサウンドアセンブルを使い、周囲の状況を精査する。

 

 すると、右側の通路の先にある部屋からは何の気配も音もしなかったが、逆に正面の通路の先にある左右の通路に、いくつかの気配と足音が聞こえてきた。


「右側の通路がよさそうだな。何の気配も音もしないから、比較的安全だと思うし」


「なら、右側だな」


 そうして、俺達は罠に気を付けつつ、右側の通路に進んで行った。


 右側の通路の先へ辿り着くと、そこには奥行き16~17m、幅7~8m、高さ4~5m程の縦長の直方体のような部屋があった。


 部屋の中には、乱雑に積まれた木箱や(たる)があり、それらの中には()びの浮いた短剣や斧が突っ込まれて、放置されている。

 よく見れば、既に朽ちている木箱や樽もあり、物によっては、天井に開いた穴から入ったのか、水気を帯びて黒ずみ、腐っているものもある。


 俺はすかさず周囲の状況を調べるため、アーツを使いながら、部屋の中に視線を走らせ、その結果を声に出す。


「周囲に俺達以外の気配はなし、それと見える範囲での罠もないかな」


「それじゃ、手分けして探索でもするか?」


「そうだな。この数を俺とシエルだけじゃ厳しいだろうから、そうしよう。ただ、通路に誰もいないと不意打ちが怖いから、ネロとシエルに見張りは頼みたいかな」


「ですね。それと、もしも何か開けるタイプの物を見つけたら、手は出さずに、リオンさんやシエルちゃんに知らせましょう。私達が開けては、最悪、中身がグレードダウンしてしまうかもしれませんし」


「なのです!」


「確かに、その可能性もありますね」


「じゃ、方針はそれで決定だな。後は……リオン、何かあるか?」


「んー……そうだな。今はまだこの部屋の中や周辺にモンスターはいないけど、大きな音を立てれば、引き寄せる事になるだろうから、なるべく静かに、かな。それと、ぱっと見た感じ、武器アイテムがあるみたいだけど、どうしようか?」


「そういえば、リオンは今、他のプレイヤーからアイテムの受け渡しができないんだったな」


「そうなのでした。でもでも、そうすると、この部屋にある物全て、何かしらのアイテムになってしまうのですから、リオンさん以外が取得すると、リオンさんにアイテムを渡せなくなっちゃうのです!」


「ふむ……。盟友(とも)だけを除け者にするのは本意ではないし、困ったな」


「…………いえ、少し待って下さい。リオンさん、確か先程私達と合流した後に、大きな岩を収納していませんでしたか?」


「え、あ、ああ。してたけど?」


「なら、ここにあるアイテムを複数人で持ち上げて、リオンさんが先の大きな岩と同様に収納してしまえばいいのでは? そうすれば、リオンさんだけがアイテムを取得できないということもないでしょうし」


「なるほど! それは名案ですね!」


「確かにそれなら、後から取得後の分配も可能だな! よし、それでいこう!」


「それなら、シエルにも手伝ってもらった方がいいかも。あ、だけど、見張りが減るか」


「では、私がシエルちゃんの代わりに見張りをしますよ。STRにあまり振ってないので、重過ぎると物を持ち上げる事もできませんし」


「分かりました。それじゃ、お願いしますね。ってな訳で、シエルは俺達の手伝いを、ネロはミカさんと一緒に、通路の見張りを頼むな」


『はーい!』


『まかされたー!』


 そうして、俺とダグラス、アフロディーノとセルピナ、シエルで部屋の中の物を持ち上げ、持ち上げた物の下に虚空庫の入り口を配置して、部屋の中のアイテムを次々に収納していった。

 時間にしておよそ7~8分が過ぎると、部屋の中にあった物のほとんどが収納され、今まで部屋の中にあった物で隠されていたものが、2つ新たに見つかった。


 1つ目は、この部屋に入って来た入り口とは別の通路口で、そこから通路の方を(のぞ)けば、今までと同様に床や壁にある罠以外では、20数m先の壁にある、何かしらの文字が書かれた扉のようなものと、その数m先に先程確認した直進の通路の先と思しき曲がり角。

 そして、更にその数十m奥には複数のレッドキャップとセラーズフロッグ達の姿が見てとれた。


 この時点で俺達は軽く話し合った末に、セルピナに新たな通路口の警戒をまかせることにして、作業を再開していった。


 そして2つ目は、石造りの床に巧妙に隠された、隠し床だった。

 

 俺は、隠し床の周りにある、土埃や苔で隠されたメジリ部分全てに、エキスパートソードを差し込んだ後、1番安定し易い場所を探ってから、エキスパートソードを使って梃子(てこ)の要領で隠し床を持ち上げた。

 すると、中には縦16~7cm、横30cm、高さ4~5cm程の横に長い大きさの木箱があり、その中には7本の小瓶が入っていた。

 小瓶の表面にはラベルのようなものがはられており、このアイテムの名前と思しきものの下に、青色の果物…恐らくはブルーベリーの粒を(かか)げ、後光を背負った黒色の毛並みで金色の瞳を持つ猫が、描かれていた。


 俺はその内の1つを手に取り、すかさず鑑定をしてみる。


消耗アイテム  ネコナミンA:服用することにより、一定時間盲目状態を完全予防する薬液。効果時間は、服用者のINT・LUK の値に依存し、また一時的に夜目Lv5の効果も付与される。味はブルーベリー味。但し、既に盲目状態である場合、効果は発揮されない。


 はぁッ!?

 盲目の状態異常の完全予防薬だとッ!

 しかも、夜目のLv5までの効果も付与されるとかッ!!

 これって絶対、このインスタンスダンジョンの攻略に必須のアイテムじゃないだろうか。

 なんせ、このアイテムさえあれば、レッドキャップが使う煙幕の脅威度が格段に下がるからな。


 数もシエルやネロをも含めた7つあるし、これは見つけられて本当によかったよ。

 だけど使うとしたら、アフロディーノの盲目状態が回復してからだろうな。

 今は俺の魔術で効果は停止してるけど、盲目状態に掛かっていることには違いないし、せっかく良い効果を持っているんだから、有効活用したいよな。

 

 そう思っていると、ふいにセルピナから若干焦った感じのするパーティチャットが入る。


『み、皆さん! 気付かれたのです!』


『分かった。迎撃にまわる。数と構成は分かるか?』


『えとえと、赤帽子が……3! 蛙が……4! なのです!』


『セルピナ。途中に曲がり道があるはずなんだけど、そっちに行ってるか?』


『あ、えっと、はい! 赤帽子と蛙が1ずつ、そっちに行きましたのです!』


『わかった。それじゃ、オレとリオンとシエルでそっちを受け持つから、今セルピナがいる方は、オレ等以外で対応してくれ。それとこっちを倒し切ったら、挟み撃ちしに行くから、そのつもりでな』


『はいなのです!』


『了解した!』


『分かったわ』


『ああ』


 その後、俺はシエルとダグラスと共に、この部屋に入って来た方を、アフロディーノとミカエリス、セルピナとネロは、新たに発見した方の通路口で迎撃をしていった。


 厄介な煙幕を使われないためにも、優先的にレッドキャップを攻撃し、若干ダメージを受けながらも煙幕を使うことなく、なんとか倒し切ることができると、セルピナから再度パーティチャットが入る。


『新しいモンスターが出たのです!』


『何? どんなやつだ?』


『名前は、ゴブリンパスファインダー。レベルは35。耐性が地で、属性と弱点が共に無しなのです。見た目は、登山装備を持ったゴブリンなのです』


 パスファインダー……?

 確か意味は、探検者や開拓者だったはず。

 ってことは、探検や開拓に特化したゴブリンということだろうか?


『状況は?』


『今のところ攻撃はしてきてはいないのです。でも、こちらの攻撃の妨害や相手のモンスターを回復させるのが地味に厄介なのですよ』


『ふむ、支援型か? まぁいい。こっちは後は蛙だけだから、倒したら、そっちの後方から奇襲をかける。それまで、持ちこたえてくれ』


『はいなのです!』


『それとディーノは、一旦部屋の中まで下がれ。そろそろリオンの魔術が解けるぞ』


『っ!? 確かに、そろそろ時間か。了解した。一時後退するので、掛け直しを頼みたい』


『分かった。ダグラス、俺も一旦下がるぞ』


『ああ』


 そうして、俺は部屋の中まで一時的に後退した後、もう一方の通路から来たアフロディーノと合流し、前方で戦っているダグラスとアフロディーノを視界に入れ、状態変化を一時的に停止する魔術の【テンポラリリペア】を掛け直し、それぞれの通路に戻り、再びモンスターとの戦いに加わっていく。

  

 そして、俺達がいる通路のモンスターを倒し終え、挟み撃ちのためにアフロディーノ達が戦っている方の通路へと続く通路口へ差し掛かると、ソレは起こった。


 通路口から見えるT字路に、先程セルピナの言っていた、登山装備の緑色の肌をした子鬼が、人をおちょくるような仕草…(あっかんべー、おしりぺんぺん、セクシーポーズ等)をした後、ケタケタと笑いながら、T字路の左、つまり、アフロディーノ達が戦っている通路の奥へと移動していった。


 なんだったんだ、今のは……。


 そう思っていると、その数秒後、以前どこかで見た覚えのある、橙色のオーラを振りまきつつ、早足くらいのスピードで直進して行くセルピナとミカエリスとネロ。


「は?」


「今のは、セルピナ達か? いったい何をやってるんだ……」


 そうこぼしていると、ふいにアフロディーノからパーティチャットが来る。


『すまない! やられた!』


『ディーノか。いったい何があった?』


『あのゴブリンの挑発に姉上達が掛かってしまったんだ!』


『何!?』


 なるほど、挑発か!

 ってことは、あの橙色のオーラを見たのは、このゲームを始めたばかりの時にパーティを組んだ、アレスさんのアーツでだな。

 ただあの時は、声で挑発してたけど、今さっきのゴブリンパスファインダーの動きを見るに、人をおちょくる様な動作で挑発してたし、全く別のアーツなのかもしれない。


『僕は、リオンの魔術のおかげで掛からなかったが、姉上達は……』


『それで、ディーノは今どんな状況だ?』


『僕は、未だに残ってる蛙2匹の相手をしている』


『分かった。まずは合流しよう。合図をしたら、ディーノは後退して、通路横の部屋の壁に張り付いてくれ』


『了解だ!』


 そうして俺達は、アフロディーノが相手をしているセラーズフロッグを視界に入れた後、合図を送り、アフロディーノが退避したのを確認後、魔法で一気にダメージを与え、光の粒子へと変えていく。


「助かった! ありがとう!」


「それはいい。それよりミカさん達を追うぞ!」


「ああ!」


『うん!』


 そう返事を返しつつ、すぐ様反転し、通路の奥へと進んで行った。

 通路をしばらく進むと、通路の真ん中付近には罠がなく、通路の端に比較的多くの罠が点在していた。


 これは、もしかして、罠の有無関係なく直進していったのか?

 なら、少なからずダメージも負っているはず。

 こんなことなら、アリルに簡易ステータスの見方を聞いておくんだったな。

 挑発で正気を失っているなら、回復にも気は回らないだろうから、長引くとまずい!


 そう考えながら、発動してない罠を避けつつ追っていくと、通路の最奥の少し手前で、ゴブリンパスファインダーに突進するかのように、単調な動きで近接戦闘を仕掛けていた。

 見た感じ、怒りで我を忘れている様に見える。


 ゴブリンパスファインダー:Lv35・属性:-・耐性:地・弱点:-


 各自のHPを確認してみれば、通路の罠をそのまま受けていたせいか、ネロが3割、セルピナとミカエリスは2割と残りがかなり少なくなっていた。

 更に、通路の最奥に目を向けてみれば、他の罠とは比べ物にならない程大きい罠が仕掛けられているのが、見える。

 あの大きさからして、落とし穴か、つり天井か……どっちにしろ、あそこまで行かせるのはまずい!


 いや、それよりも回復の方が先か。


「シエル! 前方のネロ達に回復魔法を頼む!」


『はーい!』


 そうシエルに指示を出しながら、自分も回復魔法を使う。


「トリプルマジック――ヒーリングボルト!」


『リリース! キュアライトサークル!』


 3条の青白い雷がミカエリス達の頭上からそれぞれに落ち、その体全体を瞬時に青白い雷が縦横無尽に駆け巡り、そして消え、更に3重の光の円がミカエリス達を包み込み、そのHPをほぼ完全に回復させる。


 すると、ゴブリンパスファインダーは一瞬こちらに気付いたような、嫌そうな顔を向けた後、更におちょくるような仕草をし、ミカエリス達の注意を引いて、最奥へと誘っていく。


 うーん、妙に人間くさいというか、表情豊かだな。

 状況を考えてか、ミカエリス達を更に奥に連れて行こうとするあたり、知能は高そうだ。


 それよりも問題なのが、現在のミカエリス達がいる場所から、ゴブリンパスファインダーが向かおうとしている罠がある場所まで、あまり距離がない事だ。

 更に言えば、たぶんこのまま走って行っても間に合わない。


 一瞬で距離を縮めるアーツを使えば行けなくはないだろうが、俺1人だとミカエリス達全員を引き止めることはできない。

 アフロディーノは俺のドッジムーブに似たアーツを持ってるのは知っているけど、問題はダグラスとシエルなんだよな。

 ……一応確認をしておくか。


「ダグラス、ディーノ。このままだと追い付くのに少し時間が掛かるから、早く距離を縮められるアーツとかってあるか?」


「え? あ、ああ。あるにはあるが……」


「盟友よ、何故それ程急ぐんだい?」


「簡単に説明すると、この最奥に今まで見たことがない程に大きな罠があるみたいで、そこにあのゴブリンがミカさん達を連れて行こうとしてるんだよ」


「げ、マジか」


「それは、まずいね」


「だから、一刻も早くミカさん達に追い付いて、最奥から遠ざけなきゃいけないんだけど、たぶんこのまま走っても間に合わないし、さっきダグラス達に魔術を掛けたばかりだから、あの魔術もまだ使えない」


「分かった。そういうことなら仕方ないな」


「ああ。出し渋って場合ではないね」


「それと、シエル」


『ん? なーに?』


「念動力で物を持つ要領で、俺の左腕につかまることはできるか?」


『やってみるー! えっと、こう? かな』


 シエルがそう言うと、俺の左腕に誰かにつかまれているような感覚がする。


「ちょっと動かすぞ」


 俺はそう断りを入れ、すぐに軽く左腕を上下させる。

 すると、その動きに合わせ、シエル自体も上下に移動する。


『おぉ~!! おもしろーい!』


 シエルはこんな状況であるにもかかわらず、目をキラキラさせながら、喜色満面な笑みを浮かべ、楽しそうにする。


「よさそうだな。っと、あんまり悠長にもしてられないな」


 俺はシエルの実験が成功した後、再びミカエリス達の動向を確認すると、罠の範囲まで後3~4歩というところまで来ていた。


「ダグラス! ディーノ!」


「分かってる、先に行くぞ――ホップ!」


 そうダグラスは言った後、5~6m距離を瞬時に低空で跳び、距離を稼ぐ。


「たぶん真ん中を行けば、罠はないよね?」


「ああ、ミカさん達が(おとこ)解除していったみたいだしな」


「ステップ!」

 

 ダグラスは着地後、別のアーツを使い、また低空を6~7m程跳んで行く。


 因みに漢解除とは、わざと罠に掛かって罠を無効化する荒業で、その姿が言い訳もせず堂々としている様から、漢らしさを彷彿(ほうふつ)させたことにより、その名がつけられたらしい。  


「シエル、さっきの要領で、俺の腕から肩につかまり直してくれ」


『はーい!』


 シエルは嬉しそうに返事をすると、今度は俺の両肩に重りのない誰かがつかまっている感じがする。


「ジャンプ!」


 2回目の着地後、更に別のアーツを使い、低空を7~8m程跳び、距離を詰めて行く。


「じゃ、行くぞ!――ドッジムーブ!」


「ああ!――カバームーブ!」


『わーい!』


「フラッシュムーブ!」


 俺とつかまっていたシエル、そしてアフロディーノは、20m以上はある距離を一瞬で縮め、また残り10m程の距離を一気に稼いだダグラスも、既に罠の範囲内に入ってしまっているミカエリス達と合流を果たす。


「ッ!?」


「ダグラスとディーノはミカさんを! シエルはセルピナを頼む! 俺はネロをやる!」


「分かった!」


「任された!」


『えっと、ひきもどせばいいんだよね? わかったー!』


 そう早口に言い、ゴブリンパスファインダーの動向に気を配りつつ、避難を優先させるために行動していく。


 俺は、低空でふらふらと飛んでいるネロの動きを見極め、タイミングを計って両足をなんとか掴むことに成功する。

 だが、やはりそれだけで正気に戻ることはなく、まるで抵抗するように力強く羽ばたき、中々思う通りに後退させてくれない。


「っく! ネロ、暴れるな!」


 そうやって、ネロに声を掛けながら、周囲を見てみれば、どこも似たような状態で、うまく移動できていないようだった。


 時間がないっていうのに!


 そう思いつつ、悪戦苦闘しながら徐々に後ろに移動していると、ふいに下から青白い光に照らされる。


 光に釣られ、下を見てみれば、いつの間にか青白い光を発する巨大な魔法陣が存在していた。


「「なっ!?」」


「まずっ!」


 魔法陣は除々にその光を強め、光量を増していく。


「キヒヒッ!」

 

 俺はその声を聞いた瞬間顔を上げ、声のした方を向くと、してやったりと言いたげなニンマリとした嫌らしい笑みを浮かべつつ、通路の最奥にある壁に手を当てていたゴブリンパスファインダーを見つけた。


 やられたッ!


 そう思ったのも束の間、魔法陣から発せられる光が極限まで膨張し、視界を塗りつぶすように輝き、ゴブリンパスファインダー諸共俺達を包み込んでいったのだった。



明けましておめでとうございました!(遅過ぎ

また、よろしくお願いします!

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