Locus 108
大変長らくお待たせしました。
モチベーションが蘇生したので、投稿を再開します!
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
では、どうぞ。
ん~……数は右の通路の方が2体多いな。
レベル差のことを考えれば、俺達のパーティで受け持つのがよさそうだ。
空中戦力さえどうにかすれば、右側の敵は俺とネロだけで抑えることもできるだろうから、シエルをダグラス達の応援に向かわせることもできるしな。
そう思案しつつ、声を上げる。
「それじゃ、右の通路の方が数も多いし、そっちを俺達が受け持つよ」
「そうか、助かる。それじゃオレ等は左をやろう」
「それと、空中戦力をどうにかしたら、シエルを向かわせるから、そちらで指示を出してやってくれ。レベル差を考えれば、戦力は多い方がいいだろ?」
「なッ! そりゃ、その方が助かるが……。そういえば、リオン達には実績があったな。分かった。だけど、無理はするなよ」
「分かってる。あぁ、それと相談なんだけど、爆発系の魔法って使ってもいいのか?」
「ん? どういう意味だ?」
「いや、爆発系って威力が高いから、殲滅速度は上がるけど、薬缶の音でモンスターが集まって来たことから考えて、最悪、爆発音で増援が来るかもって思ってさ」
「あ~……それはまずいな。レベル差を考えると、コレ以上の相手は死に繋がるし、無しの方向で頼む」
「ん、了解」
「ミカさんも爆発系は無しでお願いします」
「分かったわ」
そうして、俺・シエル・ネロは右の通路の方へ、ダグラス・アフロディーノ・セルピナ・ミカエリスは、左の通路側へと移動し、迎撃の態勢を取る。
『ということで、シエル! ネロ! この遺跡内では爆発する魔法や魔術は無しで頼む』
『『は~い!』』
『それと、シエルは蝙蝠を仕留めた後、ダグラス達の援護に行ってくれ。ネロは赤い帽子の奴等の足止めと、ダグラス達の背後への防衛を頼む。シャドースワンプだと接近戦が難しくなるから、使うならシャドーバイトでな』
『こうもりをたおしたら、えんごだね! わかったー!』
『ぼうえいかぁ……うん! がんばるー!』
そうやって念話で指示を出して少しすると、空中をバサバサと音を立てつつ移動してくるブラッディバットが、レッドキャップより少し先行する形で飛来する。
そして、魔法の射程に入ったことを確認後、少し引き付けてから魔法を放とうと考えていると、シエルが先制攻撃と言わんばかりに、先駆けて魔法を放った。
『いっけー! プリズミックオーブ! リリース! ライトアロー!』
「「「「キキィーッ!?」」」」
シエルが魔法を発動すると、七色に分かれた数百もの光の矢が通路の上半分を埋め尽くすように飛んでいき、誰がどう見ても過剰だと思える位に滅多刺しに貫き、瞬時に光の粒子へと変える。
更に、残った七色の矢は、ブラッディバットからやや遅れて追従するように走って来ていたレッドキャップへと飛び、少量のダメージと共に、その足を強制的に止めさせることに成功する。
「ホホォォォーーー!」
「「「「「ギャギィッ!?」」」」」
その隙を見逃さず、ネロが魔法を発動させ、比較的暗い通路の影から出現した3つの顔の無い鰐のような顎が、足の止まったレッドキャップ達に食らい付き、コレを拘束する。
属性が近いためか、継続ダメージは微々たるものだが、身長が低いせいで、下は脛の辺りから、上は頤か首下まで挟まれ、身動きが全くできなくなっている。
個体によっては、腕を上げていた者もいたが、上げ方が甘かったようで、精々手首より先が動く程度の自由しか無い状態だ。
『よぉし、たおした! それじゃ、あっちに行ってるね』
シエルは両手でガッツポーズを取ると、ダグラス達が戦っている方を指指し、俺に断りを入れてくる。
『あ、ああ。頼む』
『いってきまーす!』
そして、俺が返事をすると、ダグラス達の方へ文字通り飛んで行った。
う~ん、シエルの飽和攻撃のおかげでやることが無くなったが、まぁ嬉しい誤算ということにしておこう。
それよりも今は、まだ残ってるレッドキャップに専念した方がいいな。
影属性からの派生属性なせいか、影属性魔法じゃダメージは期待できないみたいだし、身動きが取れない今の内に止めを刺した方が無難な気がする。
それとネロには……まだそのままの姿でいてもらおう。
防衛に向くボラシティプラントの姿になると、継続してダメージや効果を発揮するタイプの魔法での効果の威力や時間が短くなるし、最悪すぐに拘束が解けてしまう可能性も否定できないしな。
そう考え、俺はネロに待機を指示し、床にある罠を踏まないように素早く移動し、確実性を上げるためにバーサークを使った後、唯一自由になっている手首だけで振り回している武器に当たらないように、拘束されたレッドキャップ達に接近する。
そして、シャドーバイトから出ている頭や首目掛けて、エキスパートソードを振り抜き、一撃で光の粒子へ変えていった。
さて、これでこちらは一先ず終わりかな。
それにしても、レベル差があるはずなのに、案外早く片付いたな。
ブラッディバットに関しては、2重の弱点属性攻撃に加え、同属性によるチェーンボーナスの蓄積があったし、何より、通路内という移動範囲が限定された空間での戦闘で、逃げ道があまり無かったのもよかったんだろうな。
更に言えば、呪文詠唱というタメが必要無く、ほぼノータイムで飽和攻撃ができるというのも要因の1つとして考えられるから、もしかしなくても【詠唱破棄】と【遅延】のスキルって、組み合わせるとかなり凶悪なスキルなんじゃないだろうか?
まぁ、そのおかげで多少のレベル差をモノともせずに戦えているんだから、文句なんて無いけど、対人戦とかで相手側に使われたら、かなり危ない気がする。
……うん。念のため、対抗手段として、時間がある時にでも【遅延】スキルを覚えるのもいいかもしれないな。
手札は多いことに越したことはないし、いっそのこと、シエルとネロにダブルマジック系統の特殊アーツを覚えさせるのも手かもしれない。
ただ問題なのは、シエルやネロの話を聞いて習得が可能なのかどうかということと、装備スキル枠に空きが無い状態だから、新しいスキルを入れる余地が今のところ無いことだろうか……。
そうやって先程の戦闘のことと、これからの展望を考えていると、ふいに、聞き覚えのある音が鳴り、インフォメーションが流れた。
『ピロン! パパ~ン♪ これまでの行動により、〔称号:死神〕を取得しました』
は?
死神?
何その物騒な称号。
う、う~っむ。
ものすごく気になるけど、今は団体行動中……。
確認と有効化だけならちゃちゃっと済ませられるかもだけど、まだダグラス達が戦闘中だから、確認は後回しにするとしよう。
そう決心し、俺は気配偵知とサウンドアセンブルを併用し、こちらに向かって来るモンスターがいないことを確認後、後方を見る。
すると案の定、未だに戦っているダグラス達の様子が見えた。
ダグラス達の方は、どうやら防戦一方の戦いをしているようだった。
前衛のダグラスとアフロディーノが範囲攻撃で接近してくるレッドキャップ等を抑え、後衛に行かないように前線を維持してはいるが、レッドキャップ達の後方にいる蛙……セラーズフロッグからの魔法攻撃をモロに受け、攻勢に出られずにいる。
後衛のセルピナは、隙を見ては後方のセラーズフロッグに矢を放っているが、レッドキャップが大抵邪魔をして、矢が当たる前に、飛んで来ている矢を武器の腹で防御したり、矢を切り裂いたりして、守っているため、中々思うようにダメージを与えられていない。
ミカエリスと援護に行ったシエルは、セラーズフロッグによる魔法攻撃を防御魔法で防いだり、ダメージが蓄積した前衛の回復に努めたりしているおかげで、未だ戦えているように思える。
あれ? これってまずくないか?
あの様子だとそう遠からず、MPの枯渇という限界がきそうな気がして仕方ないんだけど……。
そう思いつつ、シエルやネロにも聞こえるように、念話を使って一応ダグラス達に話し掛ける。
『こっちは終わったぞ。増援も無いみたいだ』
『え!?』
『ちょッ!』
『はぁ? 終わったぁ!?』
『は、早過ぎではないかな? 我が友よ……』
『まぁ早いことには同意だけど、シエルとネロのおかげで作戦がうまく嵌まったからな』
『そ、そうなのか……』
『ああ。で、そっちの戦況はどうなんだ? 見た感じ、厳しいみたいだし、手伝うぞ?』
『是非頼む! 後ろの蛙のせいで、ミカさんとシエルは回復や防御で手一杯で、決め手に欠ける状態なんだ!』
『正直、シエルちゃんの援護がなかったら、今頃は死に戻っててもおかしくないのです!』
『まぁそれでも、現状はジリ貧なのですけどね。レベル差に加え、数の暴力を実感しているところです』
『です、ね。なので、リオンとネロには蛙をどうにかしてもらいたい。蛙からの魔法攻撃が無ければ、その分姉上とシエルの手が空くから、攻勢に出ることもできるからな』
『分かった。ネロ、こっちの防衛はいいから、ダグラス達の援護に向かうぞ』
『そうなの? わかったー!』
『狙いは、後方にいる蛙だ。飛んで行くと妨害が予想されるから、ネロは影の中を伝って、蛙の後ろから奇襲を掛けてくれ』
『はーい!』
『それと、弱点属性は斬属性だから、シャドーエッジが効果的だ。ただ、いつもみたいに攻撃すると、ダグラス達を巻き込む可能性があるから、その点は注意してな』
『りょうかいでーす!』
そうして、俺とネロはダグラス達が戦っている後方に向かって移動して行き、ダグラス達を助けるため行動を開始していく。
ネロがダグラス達が戦っているすぐ後ろまで到着すると、俺の指示を実行するため、通路にある影の中に入っていくのを確認後、レッドキャップ達の後ろにいるセラーズフロッグ達の注意を引くために攻撃を仕掛ける。
『いくぞ?』
そうダグラス達に分かるように念話で話掛け、気配偵知を使って、レッドキャップの後ろにいるセラーズフロッグに狙いを定めて、魔法を使う。
「ダンパードアームズ……」
種別:大剣 形状:波形諸手剣 数:9
「フランベルジェ×9! 一斉射!」
「ゲゴォッ!?」
「グゲェッ!?」
「ゲガァッ!?」
「「ギギャッ!?」」
「ッギ!?」
「ギギャギュ……」
放たれた9本の刀身が炎のように波打っている特徴を持つ大剣は、狙い通りセラーズフロッグの両脇と背中に突き刺さり、3割強のダメージと共に、強制的に動きと詠唱を止めさせる。
そして、セラーズフロッグが体に刺さった剣をどうにかしようと身動ぎすると、青白い光の粒子となって消え去り、剣が刺さっていた場所からは赤いエフェクトが迸り、流血を想起させる。
セラーズフロッグのHPバーを確認してみれば、出血のバッドステータスアイコンが付いており、時間経過と共に、ジワリ……ジワリ……とHPが減少していっている。
攻撃を受けたセラーズフロッグ達が、自分達を傷付けた相手である俺を見つけようと、アチコチに視線を向けると、その隙を狙ったように魔法が放たれる。
『いくよー? リリース! シャドーバイト! リリース! シャドーエッジ!』
「グゴォッ!? ゲガガァーーー!!」
「ゲググッ!? グゲェーーー!!」
「グガァッ!? ゲゴゴォーーー!!」
セラーズフロッグの背後の影から出現した3つの顔の無い鰐のような顎が、セラーズフロッグの後ろ足から腰にかけて食らい付き、その動きを封じる。
更に、レッドキャップとセラーズフロッグとの間から何十ものシャドーエッジを身動きのとれないセラーズフロッグ達目掛けて射出され、情け容赦無く、そのHPをゴリゴリと削っていく。
同族性による攻撃であるためか、セラーズフロッグと共にシャドーエッジの猛攻に曝されているシャドーバイトは、普段に比べてあまりヒビの侵食は大きくないように感じられる。
そして、シャドーエッジの嵐が過ぎ去ると、そこには、満身創痍のズタボロになっていたセラーズフロッグ達が存在していた。
HPバーを見てみれば、どの個体も残り1割も無い状態だった。
へぇ~。
弱点属性を突いたはずなのに、生き残ったんだな。
レベル差の影響によるものか、将又単純にネロのシャドーエッジの数が足らなかったのか分からないけど、回復されたら厄介だし、止めを刺して置くとしよう。
大剣3本で3割強だったから、2本もあれば十分だろう。
そう考え、すぐ様行動に移す。
「ダンパードアームズ……」
種別:大剣 形状:波形諸手剣 数:6
「フランベルジェ×6! 一斉射!」
「ゴッ!?」
「グギッ!?」
「ガァッ!?」
射出された6本の大剣は、狙い通り2本ずつ、各セラーズフロッグの眉間や口、喉を貫き、その体を光の粒子へと変えていった。
「っしゃぁ! これで心置きなく戦える!」
「ここからは、僕等の番だ!」
「サポートはお任せなのです!」
「嬉しいのは分かるけど、油断しないようにねー」
そうダグラス達が声を上げると、今までの消極的な戦いから一転、果敢に攻め立てるスタイルに変わる。
『わたしもやるー! リリース! ライトソード!』
すると、ダグラスとアフロディーノに触発されたのか、シエルも両手に光で出来た剣を作り出し、前に出て応戦するようになる。
最初はダグラスとアフロディーノも驚いた様子だったが、すぐに気を取り直し、セルピナやミカエリスのサポートの元、ほぼ1対1の状態に持っていき、少しずつだが、しかし確実にHPを減らし、レッドキャップ達を追い詰めていく。
そして、隙を見つけると……。
「ここだ! パリングサーキュラー! コンパクトスイング! ディーノ!」
「ギギィ! グギャッ!? ギュギィッ!」
「任せろ! 食らえ! ハードスラッシュ!」
「ギュァアアアアアア!!」
ダグラスは、振り下ろされたレッドキャップアキサーDの斧を偃月刀の腹で受け流し、その勢いのまま半回転させて石突で殴り付け、更に柄の中程を持って偃月刀の腹で、アフロディーノの側へと殴り飛ばす。
そして、飛ばされて来たレッドキャップアキサーDの頭目掛けて、大上段に構えた両手剣を勢いよく振り下ろし、レッドキャップアキサーDを光の粒子へと変えていく。
「こっちもいくのです! ターゲットサイト! ポーションピッチ!」
「「「ギィ?」」」
セルピナはすかさず3個の瓶を取り出し、レッドキャップ達の頭上に放り投げた。
「トリプルアロー! スナイプショット! ミカさん!」
「ギャギィイイイイ!? イイッ!?」
「ギュガァアアアア!? アギィッ!?」
「ギィゲェエエエエ!? エアッ!?」
そして、弓弦に3本の矢を1度に番え、一瞬の溜めの後、射出。
放たれた3本の矢は、まるで吸い込まれるように、先程投げた3個の瓶のほぼ中心を貫き、瓶を破壊する。
それと同時に、放った3本の矢も青白い光の粒子へと変わり消滅し、砕けた瓶の破片と共に、透明の液体がレッドキャップ達の顔に掛かり、次いで体を伝って足元に到達する。
すると、透明の液体が顔に掛かったレッドキャップ達は、砕けた瓶の破片が目に入ったのか、皆一様に目を押さえ、後退りした瞬間、転倒した。
「ピナちゃん、ナイス足止め! いきますよ? ―――アースニードル! シエルちゃん!」
「ギュギャギャッ!」
「ギィギュゥアアア!」
「ギャガァアアア!」
『はーい! てやー! っ!? とう! しゅばっち!』
ミカエリスが魔法を発動すると、転倒したレッドキャップ達の下から、幾つもの角錐状の土の棘が乱雑に生え、ダメージを与えると共に、レッドキャップアキサーAとレッドキャップフェンサーEを後方へ押しやり、レッドキャップアキサーCを孤立させ、すぐ様シエルに合図を出す。
シエルはその合図に呼応するように、孤立したレッドキャップアキサーCに接近すると、それを察知したのか、苦し紛れに武器を横一線に振るわれる。
しかし、その兆候を感じたシエルは、それより数瞬早く上に回避して、そのまま背後を取る。
そして、両腕をクロスさせてから、レッドキャップアキサーCの首筋にライトソードの刃を当て、一気に振り抜き、首を落とす。
切断されたレッドキャップアキサーCの首からは激しい赤いエフェクトが迸り、その数瞬後、光の粒子となって消えていった。
「ギギャギュギュ?」
「ギギョギャギュギュ! ギャギャギュギョッ!」
すると、レッドキャップ等は何やら相談するかのように声を掛け合うと、何時の間にかずぶ濡れになっていたレッドキャップアキサーAが、未だ転倒したままになっているレッドキャップフェンサーEの前に守るように立ち、持っていた斧を構える。
そしてその直後、それは起こった。
ボンッ! ボボボボボボンッ!
今の今まで転倒していた、レッドキャップフェンサーEを中心に、何かが破裂するような音と共に黒い雲のようなものが発生。
そして、時間経過と共にその雲は煙へと変わっていき、通路を徐々に満たしていく。
「うぉっ! なんだこりゃっ!」
「なっ! これでは前が見え……くっ!」
『んん~? ちょっとみづらい……?』
何だ?
煙幕? それとも毒か?
どちらにしても触れたり、吸ったりするのは危険そうだ。
進行速度は少し遅いようだから、予防になるか分からないけど、一応魔法を掛けておく時間はありそうだな。
ターゲットは……前衛組は既に半分位取り込まれてるし、まだ煙に巻かれてない後衛組にしよう。
自他のレッドキャップごと巻き込んでいるから、即死効果があるという訳でもなさそうだし、この煙の効果を知るためにも、悪いが犠牲になってもらうとしよう。
幸いと言うべきか、有効なバフも止まってしまうが、ステータス異常も停止する魔術もあるし、たぶん大丈夫だろう。
そうして、俺はセルピナとミカエリスと自分自身に対して、風属性汎用魔法【ウィンディネスコート】…風の断層を纏わせる、【プロヴァイドエア】…新鮮な空気を送り続けるを掛けていった。
「ほわっ!?」
「っ!? これは……?」
「えっと。効くかは分からないけど、予防になりそうな魔法を掛けたんだ。事後承諾になって悪いな」
「そうなんですか? そういうことなら大丈夫ですよ」
「リオンさん、ありがとうなのです!」
そうやって少し話していると、流れて来た黒い煙に巻かれていった。
黒い煙に巻かれた後、油断無く辺りを見渡すと、驚いたことに通常の視界がやや暗くなっただけで、普通に見渡すことができた。
感じとしては、隙間の無いサングラスを常に掛けている状態と言えば分かるだろうか。
ただそのせいで、通常薄暗かった場所は闇が濃くなり、普通に見えていた場所は薄暗い状態になってしまっている。
その反面、罠の場所を明確にするために照らした場所やシエルの周囲は普通に見えている。
このことから推察するに、光量が増えれば、煙に巻かれていようとも通常通りに見ることができるのだろう。
但し、罠の場所を明確にするためにエクリプスライトで照らしているので、下手をすると区別がつかない誰かが、罠を踏み抜いてしまう可能性も否定できない。
弱ったなぁ。
ここでエクリプスライトで照らしたことが裏目に出るだなんて、予想つかないよ。
俺やネロはともかく、他は視認して攻撃してるから、最悪同士撃ちもあり得そうだ。
そう考えていると、ふいにパーティチャットで声が掛かる。
『後衛組、無事か!?』
『ああ、俺はな』
『わ、私も大丈夫なのです!』
『こっちも同じく』
『っと。そうなのか? なら、いいが……』
『そっちはどうなんだ?』
『こっちは、オレが毒、ディーノが盲目の状態異常を食らった。んで、今はシエルに護衛をしてもらってる』
『面目ない』
『わたしはなんともないよ~? でもーちょっとみづらくて、たいへんかな~?』
『こっちもだいじょうぶー。かげのなかだから、かな?』
『かもしれないな』
そうやって念話を通じて話していると、ダグラスが疑問の思念を発する。
『ただな、少し妙なんだよ』
『妙? 何か気になることでもあるのか?』
『ああ。こっちは視界が悪いは、状態異常に掛かるはで、満足に身動きとれない状態なのに、あいつらから攻撃がこないんだよ』
『え?』
俺はそうダグラスに言われると、すぐに気配偵知を使いながら、未だ黒い煙に包まれている通路へと目を凝らす。
すると、レッドキャップらしき気配は、自身と同じくらいの何かを引きずりながら、少しずつ通路の壁側へと移動している。
状況から考えるに、恐らく引きずっているのは、さっきセルピナに液体を掛けられたレッドキャップだろうから、もしかして、逃げようとしているのか?
でも、逃げるならわざわざ壁側なんかに行かず、通路を突っ切って行くはずだし、別の目的があると考えるのが妥当か……。
なら、それは何か?
レッドキャップ達は今、窮地に立たされている。
レベル差はあれど、数では劣り、片方はセルピナにより、満足に立つこともできない状態だ。
もう片方のレッドキャップは…………そういえば、何時の間にかずぶ濡れになっていたが、足取りは確固たるものだったな。
って、待てよ?
セルピナによって、生存していた3体のレッドキャップには、例外なく瓶の液体を被って、滑っていたはずだから…………まさか、洗ったのか!?
いや、洗うような暇はあの戦闘中には無かったはずだし、運よく水溜りに突っ込んだと考えるべきだ。
最初にこのインスタンスダンジョンに入った時、陥没した通路に水溜まりが出来ているのも確認できていた。
何より、つい先程まで、セラーズフロッグが水魔法を使っていたから、ある程度の深度を持つ陥没箇所さえあれば、水には困らないはず。
こんな煙幕の中を危なげなく移動できることを考えれば、この煙幕すらも妨げにならない程に、目が良いのだろう。
今は片方を引きずって、水辺に運んでいるからいいが、運び終えたら、煙幕の中から奇襲を受ける可能性がある。
ヤルなら、今しかない!
そこまで考えると、すぐ様ネロに念話で確認をとる。
『ネロ。索敵を使って、レッドキャップ達の位置は分かるか?』
『えっと……うん。わかるよ!』
『なら、合図と共に攻撃をするから、準備を頼む。もちろん、爆発するものや、ダグラス達を巻き込みそうなものは無しな』
『はーい!』
そうして、ネロに準備を進めさせている内に、シエルやダグラス達に思念を送る。
『ダグラス、レッドキャップがしようとしてることが、たぶんだけど分かった』
『ほんとか!?』
『ああ。恐らく、セルピナが浴びせた液体を洗い流す気だ』
『洗い流す?』
『そんな水なんて、何処に……』
『……あ! もしかして、此処に入った時に見た、通路にあった水溜りなのです?』
『いやだが、そんな小さな水溜りで洗い流せるものなのか?』
『できるみたいだぞ? 現に、ずぶ濡れになってたレッドキャップは、しっかりとした足取りで、滑った他のレッドキャップを庇ってたし』
『『あぁ、確かに……』』
『そういえば、そうだったねー』
『で、本題なんだけど、これからレッドキャップを仕留めるために、ネロと攻撃するから、その場から動かないで欲しいんだ。下手に動かれると攻撃が当たるかもしれないし』
『そういうことか。分かった。止めはまかせたぞ』
『と言いますか、この煙幕で見えるんですね』
『私も一応見えますよ? 薄っすらと、ですけど……』
『セルピナ。確実性が無いなら、遠慮してもらいたいのだが』
『わ、分かってるのです! 誤射は私も嫌なのですよ!』
『それは、何よりだ』
『それじゃ、ヤルぞ! ネロ!』
『はーい!』
そうして、俺はネロに合図を出し、未だ同胞を引きずりながら移動するレッドキャップと引きずられているレッドキャップに狙いを定め、魔法を放っていく。
「ダンパードアームズ……」
種別:長剣 形状:細剣式波形剣 数:30
「フラムベルク ×30! 一斉射!」
「「ギギャァァァアアアアア!?」」
レッドキャップ達の頭上から降り注いだ長剣群は、いくつかは狙いを外しつつも、その大半をレッドキャップ等の全身を串刺しにし、確実にHPを削り取り、更に移動も封じる。
そして、その長剣群が青白い光の粒子に変わる瞬間……。
『いっけー! リリース! シャドウパイル!』
「ギャガッ!?」
「ギィッ!?」
レッドキャップ達の中間程にある影から2本の影色の杭が飛び出し、レッドキャップアキサーAのどてっ腹とレッドキャップフェンサーEの頭を刺し貫き、残っていたHPを吹き飛ばして、光の粒子へと変えていった。
◇◇◇
『よし! 終わったぞ』
『お疲れさん。ってかまさか、最後の最後で煙幕を使ってくるとはなぁ』
『お疲れ様です。ええ、しかも見た目と感じとしては、魔法系統でしたからね』
『お疲れさまなのです! そうなのですか? でもでも、相手はフェンサーでしたよ? そんなことって有り得るのでしょうか?』
『お疲れ様! だが、このゲームは自由度が売りなのだ。現に、目の前で起こったことを否定していても仕方無いのではないかな?』
『ああ、お疲れ様。だな。それに魔法系統スキルは、別にクラスに縛られて使えない訳でもないから、有りなんじゃないかな。まぁその分、これからは頭の片隅に、魔法系統スキルを使ってくるかもしれないことを考えておかなきゃだけどな』
『おつかれさまー! ゆだん、たいてき、だね!』
『おつかれさまー! そなえあれば、うれい、なし?』
『あ、ああ。そ、そうだな……』
どうしよう……最近富に、語彙力が向上している……。
しかも、結構難しい四字熟語や慣用句まで……。
本当に、どこでこんなの覚えてくるのだろうか……謎だ。
そうやってシエルとネロの著しい語彙力の成長に若干慄いていると、やや困ったような思念が聞こえる。
『だけど、どうするかなぁ。迎撃には成功したけど、この煙幕じゃ、周囲の探索なんてできないぞ』
『確かに。普通は、盲目に掛かったら、仲間が牽引してくれるものだが、煙幕がある状態では、どこに罠があるかを正確に把握するのは難しいからな』
『ですね。ダグの毒はともかく、ディーノの盲目は厄介です。状態異常を回復するアイテムもありませんし、自然回復を待つにしても時間が掛かり過ぎます』
『そうなんですよねー。煙幕の方は、ダンジョンの外に全員で出れば消えるのですが、そうするとせっかく倒したモンスターは復活してしまうのです。でも、爆発系の魔法を使えば、煙幕は晴れても、モンスターが集まる危険性もありますし、本当に困ったのです』
そうダグラス達が零すのを聞きながら、周囲を見渡すと、先程よりは薄れているとはいえ、未だ通路に大量にたゆたい、視界を暗く染め上げている。
ふむ、確かにまだ煙幕は残っているが、時間経過で薄れているのは確かだ。
…………そういえば、通路の天井に穴が開いていたっけ。
なら、その穴へ煙幕を追いやれば、視界を確保できる可能性はあるな。
爆発系の魔法や魔術だと、発生した音でモンスターが寄って来るかもしれないから、爆風程ではないにせよ、ある程度の指向性と強さを持つ風があればいける気がする。
っとなると…………扇ぐ物が必要か。
手で持つことができ、且つ、ある程度の指向性と風が期待できるものだから…………巨大な扇子か団扇がいいかな?
そこまで考え、俺はダグラス達に念話を用いて、思念を伝達する。
『そのことなんだけど、提案がある』
『提案?』
『何か思いついたんですか?』
『ああ、まずは状態異常についてだ。俺が使える魔術に、多少のデメリットはあれど、今掛かってる状態変化を一時的に停止させるものがあるんだ』
『デメリット、です?』
『それは、どういうものなんだい?』
『ああ。それは、この魔術を掛けると、対象に掛かってる状態変化を全て停止させてしまう点だ。つまり、害のあるデバフや状態異常に限らず、有用なバフも止めてしまうってことだ』
『……なるほどな。それでも、今の状況を考えるならば、掛けてもらった方がいいと思えるが?』
『そうですね』
『……いえ、少し待って下さいなのです。停止ということは、その魔術の効果がなくなった場合はどうなるのです?』
『察しがいいな。もちろん、その魔術の効果がなくなれば、掛かっていたバフ・デバフ・状態異常全てが、止まった時点から効果が再度発揮される』
『ふむ。それなら、その魔術の効果が発揮されている間に、新たに状態変化を受けた場合はどうなるのだろうか?』
『その場合は、魔術の効果で停止するな。言わば、限定的な状態変化無効化状態になるって感じかな』
『なら、話は早い。早速その魔術とやらを掛けてくれよ。今はバフは掛かってないから、気にする必要はないしな』
『だな。それに、こう何も見えないと何時、何が起きるかも分からないから、不安でしょうがなかったんだ』
『分かった。それじゃ、掛けるな』
そう俺は答えつつ、素早くダグラスとアフロディーノを視線選択し、魔術を発動する。
『いくぞ?』
「ダブルマジック――テンポラリリペア!」
すると、ダグラスとアフロディーノを覆うような青白い球形の光が形成される。
形成された青白い光の球は中心へ収縮するように渦を巻きながら急速に小さくなっていき、臍の辺りで銀色の飛沫を弾けさせて消える。
ダグラスとアフロディーノのHPバーに付いている、毒と盲目の状態異常アイコンを見てみれば、各状態異常のアイコンの上から、青白い渦が張り付いて、各状態異常のアイコンが暗くなっていた。
『どうだ? これで、状態異常は停止したはずだけど』
『お? 本当だ! あのチクチクした地味な痛みが無い! それに、HPの減少も止まったぞ。サンキュな』
『こちらも、普通に見える状態になったよ。ありがとう。助かった』
『それは何より。さっきも言ったが、効果がなくなると再発するから、効果がなくなりそうになったら言ってくれ。そしたら、また掛け直すからさ』
『分かった』
『その時になったら、また頼むよ』
そうやって話していると、事の経過を見守っていた女性陣から声が上がる。
『これでどうにかなりそうですね』
『なのです! 後は、この煙幕をどうにかできればなのですが、どうするのです? リオンさん』
『とりあえず、あの天井の穴に向かって扇ごうと思ってる』
『扇ぐ……ですか? でも、風を起こせそうな物は、武器くらいしかありませんよ? それでは、小さくないですか?』
『そうですよねー…………あッ! でも、確かリオンさんって、武器ならなんでも作れましたですよね? なら、空気抵抗の大きな武器を作ればいい気がするのです!』
『だな。それじゃ、ちょっと作って試してみるな』
そう断りを入れ、俺は魔法を使っていく。
「ダンパードアームズ……」
種別:可変式特殊長剣 形状:巨大扇子 数:1
「巨大鉄扇! 待機!」
すると、俺の目の前に、無骨で鈍色をした、全長150cm程の巨大鉄扇が出現し、空中に静止する。
俺はその巨大鉄扇を両手で支え、両側の親骨を持って、外側へ引っ張るようにスライドさせ、扇面を開いていく。
扇面を完全に開き切り、半月状になったら、要の下にある緘尻を扇面が閉じないように持ち、体を捻ってから、思いっきり扇ぐ。
ヒュゥゥゥゥゥルゥンー……!!
すると、中骨の隙間から漏れ出る空気と、扇面の薄い金属が振動し、それなりに大きな音が立つ。
『お、風が来たな』
『思っていたよりも強いですね』
『なのです! あ、見て下さいなのです! かなり煙幕が舞い上がって、移動し始めたのです!』
『確かに、結構流れた感じがあるね。でも、少し音が大きくないかな?』
『だよな。俺もこいつじゃ少し音が大き過ぎると思ってたんだ。1回なら大丈夫みたいだけど、連続したり、複数で扇げば、かなりの音量になるだろうから、別のを試してみるよ』
そう伝え、作った巨大鉄扇を消し、俺は再び考えを纏めた後、魔法を使っていく。
「ダンパードアームズ……」
種別:大剣 形状:巨大団扇 数:1
「ファンズブレイド! 待機!」
すると、今度も無骨な鈍色をした、全長150cm程の剣系統の武器が出現し、空中に静止する。
だが今回は、先程の巨大鉄扇の時のように中骨に相当する場所は無く、巨大な団扇というより、グリップが極端に細くなった、卓球用のラケットと言った方がしっくりくるような形をしていた。
うん、想像通りだな。
俺は再び、両手で支えた後、巨大団扇の柄を持ち、体を捻ってから、思いっきり扇ぐ。
すると、今度はほとんど音はせず、更に先程の巨大鉄扇より多くの風を送ることに成功する。
だが、思いっきり扇いでる最中に、視界の端になにやら点滅しているアイコンがあるのに気付く。
なんだ?
そう思いつつ調べていると、ダグラス達の思念が聞こえてくる。
『おお? 今度はさっきよりも強いな』
『ですね。それに、さっきのような音もしませんし、成功でいいと思いますよ』
『後は、この煙幕がなくなるか、視界の確保に支障がない程度に薄まれば、完璧なのです!』
『それって、矛盾してないかい?』
『細かいことは気にしないのです! それよりも今は、全員で扇いで、煙幕を散らす方が大事なのです!』
『まぁ、一理はあるかな』
『ってな訳だ。リオン。こっちにもその扇ぐ武器を渡してくれ』
『分かった。という訳だから、シエルとネロも手伝ってくれ』
『『はーい!』』
『それと、ネロは影を伝って、こっちに来て欲しい。俺が影に手を置くから、俺の手の平の中心ギリギリに触れられるくらい、影の外に体の一部を出してくれ。そうすれば、予防の効果のあった魔法を掛けられるからな』
『わかったー!』
そうして、俺はネロにこの毒煙幕の予防になる魔法を掛けた後、俺・ダグラス・ミカエリス・セルピナ・アフロディーノに、先程作り上げた巨大団扇型武器のファンズブレイドを1つずつ各自の目の前に出現させた。
シエルには念動力で持てる限界の6本を渡し、ネロにはボラシティプラントに変化してもらってから、振り合う武器が当たらない範囲を考えて、16本渡して、ネロは左の通路に、ネロ以外は右の通路に向けて、思いっきり扇いでいった。
すると、程無くして周囲に立ち込めていた毒煙幕は散り散りになって晴れ、ようやく視界をまともに確保できるまでになった。
「ふぅ~……ようやく晴れたな」
「ですね。ただ扇ぐだけなのに、結構な重労働で、ある意味びっくりしてます」
「でもこれで、安心して探索することができるのです!」
「いやだが、戦闘に続いて重労働の後ですぐ動くとなると、疲労が溜まって、集中力を欠くことになるから、ここは、一時休息を取ることを提案したい。先の戦闘でレベルもいくらか上がっているだろうし、これからダンジョンを攻略する上でも、戦闘力が高い方が何かと有利に働くはずなので、どうだろうか?」
「確かにな。それに、俺も今はインベントリがいっぱいになったってアイコンが出てるから、荷物の整理をしたかったし、丁度いいんじゃないか?」
「そう、だな……。まだ入ったばっかりだが、一旦休憩にするか」
「それがよさそうですね」
「私も賛成なのです!」
「じゃ、決まりだな」
そうして俺達は、互いが見える範囲で、且つ、互いの動きに干渉しないよう、ある程度離れて、休憩に入っていった。
もちろんその間、俺達は無防備になるので、シエルとネロに左右の通路の見張りを頼んだ上でだ。
俺は通路の壁に罠がないことを確認し、壁に背中を預けるように座り、メニューを開いた後、ステータスの確認やドロップアイテムの鑑定をしていく。
すると、アフロディーノが言っていたように、種族レベルが軒並み上がり、俺の種族レベルが5、シエルとネロの種族レベルが4上がっていた。
まずは、ステータスの割り振りを行っていく。
そして、現在の俺のステータスはこのようになっている。
name:リオン
sex:男
age:16
race:人族Lv36
job:冒険者 rank:E
class:マジックソードマンLv29
HP:905 MP:532
STR:236
VIT:180
AGI:234
INT:126
MID:119⇒130
DEX:389
LUK:108⇒112
STP:15⇒0
所持金:26924R 虚空庫 257/1370 {貯金:370万R}
種族スキル:〔混血・竜の息吹(光)〕、〔竜言語Lv1〕
専科スキル:〔魔法剣・無Lv29〕
装備スキル:〔STR増加Lv96〕、〔AGI増加Lv95〕、〔剣術Lv33〕、〔暗殺術・裏Lv3〕、〔歪魔術Lv1〕、〔天眼Lv54〕、〔賦活Master〕、〔詠唱破棄Master〕、〔気配偵知Lv28〕、〔識別Lv84〕、〔汎用魔法〕
控えスキル:〔鑑定Lv84〕、〔煮炊きLv3〕、〔虚空庫 rank4〕、〔錬換Lv1〕、〔毒耐性Lv4〕、〔麻痺耐性Lv5〕、〔調教Master〕
称号:〔思慮深き者〕、〔戦女神の洗礼〕、〔ウルフバスター〕、〔剣舞士〕、〔二刀の心得〕、〔初めての友誼〕、〔知恵を絞りし者〕、〔先駆けの宿主〕、〔解放せし者〕、〔初心者の心得〕、〔異常なる怪力者〕、〔異常なる俊足者〕、〔愚かなる探求者〕、〔踏破せし者達〕、〔完全なる攻略者〕、〔容赦無き掃討者達〕、〔剥ぎ取り上手〕、〔医食同源〕、〔砕撃の頭壊者〕、〔慈悲深き討滅者達〕、〔再起させし者〕、〔斬撃の首刈者〕、〔穿撃の心貫者〕、〔暗技の練達者〕、〔弱肉強食〕、〔叛きし者〕、〔虎殺し〕、〔匙を投げ捨てし者〕、〔我が道を行く者〕、〔大胆なる隠者〕、〔調教の賜〕、〔オーバーキラー〕、〔死神〕
称号スキル:〔念話Lv33〕、〔怪力乱心Lv18〕、〔韋駄天Lv18〕、〔薬膳Lv13〕、〔死神の心得Lv0〕
固有スキル:〔狂暴化Lv6〕、〔軽業Lv46〕、〔頑健Lv59〕、〔強靭Lv42〕、〔拒絶Lv21〕、〔自爆Lv3〕、〔酩酊耐性Lv1〕
ステータスポイントは、スキルによる補正が掛からないMIDに11振り分け、残りはLUKに入れておいた。
MIDにプラス11で、119⇒130へ
LUKにプラス4で、108⇒112へ
次はシエルのステータスだ。
name:シエル
sex:女
race:サニー・スピリットLv24
HP:360 MP:432
STR:0
VIT:105⇒110
AGI:114⇒115
INT:117⇒120
MID:111⇒115
DEX:114⇒116
LUK:104⇒105
STP:16⇒0
種族スキル:〔陽光活性(昼)〕、〔物理半減〕
スキル:〔陽光魔術Lv6〕、〔光耐性Lv9〕、〔影耐性Lv9〕、〔浮遊機動Lv9〕、〔装飾化Lv8〕、〔念動力Lv3〕、〔賦活Master〕、〔毒耐性Lv9〕、〔麻痺耐性Lv5〕、〔訓練の賜〕、〔遅延Lv20〕、〔詠唱破棄Master〕
固有スキル:〔STR返上〕
ステータスポイントは、端数を0か5で揃えるように割り振り、余った1をDEXに割り振った。
VITにプラス5で、105⇒110へ
AGIにプラス1で、114⇒115へ
INTにプラス3で、117⇒120へ
MIDにプラス4で、111⇒115へ
DEXにプラス2で、114⇒116へ
LUKにプラス1で、104⇒105へ
次はネロのステータスだ。
name:ネロ
sex:女
race:シャドービーストLv34
HP:440 MP:540
STR:59
VIT:59⇒60
AGI:69⇒70
INT:77⇒80
MID:59⇒60
DEX:74⇒80
LUK:59
STP:12⇒0
種族スキル:〔影装変化〕、〔影記憶〕
スキル:〔陰影魔術Lv5〕、〔影抵抗Lv5〕、〔影耐性Lv9〕、〔潜影潜行Lv21〕、〔宿紋化Lv4〕、〔潜匿Lv31〕、〔賦活Master〕、〔索敵Lv57〕、〔毒耐性Lv9〕、〔麻痺耐性Lv5〕、〔遅延Lv19〕、〔詠唱破棄Master〕、〔夜目Lv21〕
固有スキル:〔専化影装〕
ステータスポイントは、影装変化前の状態では、あまり関係のないSTRとLUK以外のステータスに割り振り、端数を0で揃えるようにした。
VITにプラス1で、59⇒60へ
AGIにプラス1で、69⇒70へ
INTにプラス3で、77⇒80へ
MIDにプラス1で、59⇒60へ
DEXにプラス6で、74⇒80へ
それじゃ次はドロップアイテムの鑑定だ。
インベントリが満タンになっただけあって、今までで1番多いかもしれないが…………たぶん大丈夫だろう。
素材アイテム 丘鹿の毛皮:ヒルディアーの毛皮。加工することで様々な革製品の材料となるが、牛・豚・馬などの皮革に比べて薄く柔らかいため、なめして細かい加工を要する手袋等の材料に高い適正を持つ。
素材・食材アイテム 丘鹿の肉:ヒルディアーの肉。味は柔らかい牛肉に近いため、比較的高い値段で取り引きされる。加工することで罠に使うこともできる。
素材アイテム 丘鹿の角:ヒルディアーの枝分かれした、乳白色の角。主に装飾品や薬の材料になる。
【特殊討伐ボーナス】
素材アイテム 丘鹿の御首:ヒルディアーの首級。一撃の下落とされ、切断部分より上に一切の傷が無い一級品。適切な処理を施すことで、標本化することができる。角が大きく、美麗である程、高値で取り引きされる。
【特殊討伐ボーナス】
素材アイテム 丘鹿の大毛皮:切断部分より下に一切の傷を持たない、ヒルディアーの大きな毛皮。加工することで、品質の高い様々な革製品を作ることができる。
【特殊討伐ボーナス】
素材・食材アイテム 丘鹿の枝肉:血抜きされ、皮を剥ぎ、頭部・内臓・四肢の先端を取り除いた、ヒルディアーの骨付き肉。完全な血抜きが施されているため、料理してから出されれば、牛の肉と間違う程の美味さを持ち、非常に高い値段で取り引きされる。加工すれば罠にも使えるが、それをする者はほぼいないと言われている。
【特殊討伐ボーナス】
素材アイテム 丘鹿の血液:放血された、大量のヒルディアーの血液。周囲に振り撒くことで、モンスターを無秩序に誘引することができる。振り撒く量が多い程、長く、多くのモンスターを引き寄せ集められる。
素材・食材アイテム 毒蟇蛙の毒肉:毒に犯されてしまった、ポイズントードの肉。加工して、主に罠に利用されるが、毒抜きを行えば、食すこともできる。
素材・食材アイテム 毒蟇蛙の股肉:タンパクな味わいのポイズントードの股肉。一般的に食べられている食材の一つ。加工することで、罠にも利用できる。
素材アイテム 毒蟇蛙の毒腺:有毒な作用を持つ、白色の物質を分泌する、ポイズントードの毒腺。絞ることで、毒液を採取することが可能。適切な処理を施すことで、鎮痛・強心作用を持つ薬となる。
素材・食材アイテム 丘飛蝗の後肢:ヒルズホッパーの後ろ肢。一般的に食べられている食材の一つ。熱処理を施すことで白く変色し、独特の歯触りを有する。新鮮なものは若干の甘みを持ち、生食も可能。
素材アイテム 丘飛蝗の棘硬肢:棘の付いたヒルズホッパーの後ろ肢の膝関節から下の部分。軽く、硬く、更に若干の弾性を持ち、丈夫なため、武具の材料に使われる。
素材アイテム 丘飛蝗の体液:薄緑色をした、ヒルズホッパーの体液。適切な処理を施すことで、薬の材料となる……らしい。
素材アイテム 粘着ゼライスの粘液:スティッキィゼライスの粘液。空気を含ませることで、橙色から白色へと変色し、強い粘性を示す粘液。主に、接着剤として使われる。
素材アイテム 粘着ゼライスの核片:スティッキィゼライスの核片。スティッキィゼライスの核が外気に触れ、硬質化した欠片。魔力伝導率がそこそこ高いため、しばしば後衛系装備の材料に使われる。
素材アイテム 三角大鹿の伸柔毛皮:薄く、柔らかく、更に伸縮性もあって、破れ難いという、極上のトライホーンディアーの毛皮。加工することで、様々な革製品の材料となる。
素材・食材アイテム 三角大鹿の艶肉:トライホーンディアーの艶やかな肉。艶々とした潤い豊かな美しい光沢を持ち、高級牛肉にも勝るとも劣らない程柔らかく、非常に美味。市場に流れることはほとんどないため、価格は時価とまで言われる程。
【部位破壊ボーナス】
素材アイテム 三角大鹿の大角(右):魔力を通すことで、魔力解離を引き起こし、自身以外の魔力を無害な魔素へと変換する特性を持つ、トライホーンディアーの右側の大角。魔力解離には上限があるものの、硬く、重厚でありながら、靭性も持つため折れ難く、魔法や魔力を無害化する特異性から、優れた武具の材料として、珍重されている。また、ほとんど市場に流れることがないため、とても希少性が高く、非常に高い値段で取り引きされる。
【部位破壊ボーナス】
素材アイテム 三角大鹿の大角(左):魔力を通すことで、魔力解離を引き起こし、自身以外の魔力を無害な魔素へと変換する特性を持つ、トライホーンディアーの左側の大角。魔力解離には上限があるものの、硬く、重厚でありながら、靭性も持つため折れ難く、魔法や魔力を無害化する特異性から、優れた武具の材料として、珍重されている。また、ほとんど市場に流れることがないため、とても希少性が高く、非常に高い値段で取り引きされる。
【部位破壊ボーナス】
素材アイテム 三角大鹿の大角(中央):魔力を通すことで、魔力解離を引き起こし、自身以外の魔力を無害な魔素へと変換する特性を持つ、トライホーンディアーの中央の大角。魔力解離には上限があるものの、硬く、重厚でありながら、靭性も持つため折れ難く、魔法や魔力を無害化する特異性から、優れた武具の材料として、珍重されている。また、ほとんど市場に流れることがないため、とても希少性が高く、非常に高い値段で取り引きされる。
素材アイテム 血塗れ蝙蝠の牙:ブラッディバットの牙。容易に肉に突き刺さる程、鋭く尖っているため、取り扱いには注意が必要。主に、装飾品や矢の材料として使われる。
素材アイテム 血塗れ蝙蝠の毛皮:まるで、血に塗れたかのような赤黒い斑模様を持つ、ブラッディバットの毛皮。主に、ローブやマント等の材料に使われる。
素材アイテム 血塗れ蝙蝠の飛膜:まるで、血に塗れ、そのまま乾いたかのような色合いを持つ、ブラッディバットの飛膜。加工することで、様々な革製品となる。
素材・食材アイテム 血塗れ蝙蝠の肉:血を多く含んだ、ブラッディバットの肉。とても血生臭く、そのままでは料理しても食べられたものではないが、上手く血抜きすることができれば、肉質が柔らかい美味しい肉へと変貌する。また、細かく刻み、周囲に振り撒くことで、モンスターを無秩序に誘引することができる。振り撒く量が多い程、長く、多くのモンスターを引き寄せ集められる。
素材アイテム 遺跡蛙の皮:セラーズフロッグの皮。撥水性を持つため、主に雨具や水袋等に利用される。
素材・食材アイテム 遺跡蛙の体肉:セラーズフロッグの体の肉。タンパクな味わいを持つ、一般的な食材の一つ。加工を施せば、罠にも使える。
素材・食材アイテム 遺跡蛙の股肉:セラーズフロッグの股肉。適度に脂がのり、ジューシーでコクと旨味のある味わいを持つ部位。肉質はやや硬めだが、様々な味付けに合い、出汁の役割も果たす。一般的な食材ではあるが、人気が高いため、他の肉より少し高い値段で取り引きされる。加工を施せば、罠にも使えるが、常人であれば、まず使わない。
素材・防具アイテム 名称:赤帽子妖精の鉄長靴 ランク:3 強化上限回数:13回
要求STR:24 ATK9 DEF37 M・DEF20 AGI-11 耐久値:217/300
説明:所々赤い染みのようなものが付いた、レッドキャップの鉄製の長靴。レッドキャップの魔力が染み付き、通常の鉄製防具に比べると、魔法防御能力が高い。但し、妖精専用装備であるため、妖精族以外の種族は、装備することができない。
素材・防具アイテム 名称:赤帽子妖精の赤帽子 ランク:4 強化上限回数:14回
要求STR:5 DEF13 M・DEF27 MP3 耐久値:187/320
生物の赤い血を被った場合:MID上昇(微) 耐久値回復 4/10mℓ
説明:レッドキャップが長年、生物の返り血で赤く染め上げた、元白い帽子。レッドキャップの魔力により変質しているため、血糊の粘っこさや鉄臭さが無い。生物の赤い血を被ることで、装備者の精神を強化し、また、耐久値を回復する特性を備えている。但し、妖精専用装備であるため、妖精族以外の種族は、装備することができない。
素材アイテム 妖血石(赤):妖精の魔力を長年浴び、変質した他生物の血液が固化したもの。精錬することでインゴット化することができる。他生物の血(赤)を浴びることで、耐久値を回復する特性を持つが、それ故、一部から呪われた赤石とも呼ばれている。
強化素材は、ヒルディアーからは、風錬鉱と穿錬鉱が、
ポイズントードからは、地錬鉱と影錬鉱が、
ヒルズホッパーからは、風錬鉱と水錬鉱が、
スティッキィゼライスからは、水錬鉱と鈍錬鉱が、
ブラッディバットからは、影錬鉱と穿錬鉱が、
セラーズフロッグからは、水錬鉱と魔錬鉱が、
レッドキャップからは、影錬鉱と鋭錬鉱がそれぞれ出て、
トライホーンディアーからは、鍛錬鉱が2つ出た。
それにしても……セルピナとアフロディーノを助ける時に首を斬り落としたヒルディアーのドロップが、こんなことになるなんて、幾らなんでも予想できないだろ!
確かに倒し方によって、ドロップアイテムが変わることがあっても、特殊討伐ボーナスなんて初めて見たぞ!?
だけど、これでどういう倒し方をしたら、より多く、より品質の高いドロップアイテムを落とすか分かったから、余裕があれば、これから試していくとしよう。
それとは別に気になるアイテムが2種類。
1つは、トライホーンディアーの角。
魔力を流すことにより、自分以外の魔力を無害な魔素へと変換するってところだ。
どうりであの時、ガトリングナイブズが効かなかった訳だよ。
魔法は、魔力の式で編んで効果を発揮するものだから、魔力を無害な魔素へ変換されたら、そりゃダメージなんて発生しないよな。
それに、この説明文からすると、この魔力解離って能力を保持した武具が作れるみたいだから、是非とも欲しいところだけど、魔力を通すってどうすればいいんだろうな?
うーん…………分からん。
まぁ、コレは今後の課題ということにしておくとしよう。
それで2つ目は、妖血石(赤)ってアイテムだ。
説明文の通りなら、数を集めて精錬すれば、インゴット化できるみたいだから、恐らくは鉱物か結晶の類だと予想される。
それならば、他の鉱物……例えば、対象の体内に触れることで、対象の自己回復能力を低下させる、スタグナイト鋼と合金化することができれば、斬り付けて、相手の自己回復能力を低下させるのと同時に、斬り付けた武器の耐久値を回復させられるっていう、1種のロマン武器もできるだろうし、是非とも1つは欲しいところだ。
もっとも、耐久値を回復させるなら、血液が通っている生物で、血が赤くなくちゃダメだろうけどな。
それじゃ、最後は称号を見てみよう。
〔称号:死神〕:短期間に数多の敵対者を一撃の下、急所攻撃のみで討ち取った者の証。
効果:スキル<死神の心得>を取得。
〔PS〕パッシブスキル:〔死神の心得Lv0〕
このスキル取得者を中心に、半径5+(SLv)m以内にいた者が死んだ時、死んだ者の最大HP・MPの1%分のHP・MPを吸収し、回復する。
但し、あくまで回復であるため、幾ら吸収しようとも、自身のHPとMPの上限が増えることはない。
う~ん、これは有用だけど、ちょっとどうなのだろう?
一定範囲内で死んだ者って括りだから、たぶんモンスターでも、パーティメンバーでも効果を発揮するのだと思う。
しかし、もしも赤の他人に知られたら、ほぼ100%外聞が悪くなりそうな気がしなくともない。
まぁそれでも、ステータスの開示さえしなければ、大丈夫だろうから、有効化しておくとしよう。
死に難くなって、困ることは何もないはずだからな。
そうして、称号スキルの死神の心得を有効化し、他メンバーの様子を見るために、顔を上げ、周囲を窺い見る。
すると、何故かこちらを見ていた、ミカエリスと目が合った。
何となく、少し気まずい感じがし、視線を逸らそうとすると、ふいにパーティチャットで声が掛かる。
『リオンさん。少し聞きたいことがあるのですが、今は大丈夫ですか?』
『え? ああ、うん。大丈夫だけど、聞きたいことって?』
『はい。さっきステータスを確認したところ、光魔法のレベルがカンストして、進化可能になったんですよ』
『それはよかったですね。おめでとうございます』
『ありがとうございます。それで、ですね……シエルちゃんが使っていた光魔法は習得できなかったんですよ。あの光の剣(?)を両手に生やすやつです』
『あー……アレか』
『それにですね。ちょっとシエルちゃんを識別させてもらいましたが、属性が陽光になっていたんです。だからもしかしたら、光魔法の進化先って光魔術以外にもあるのかなと、思いまして』
『なるほど。つまり、シエルが使っていたライトソードの魔法の習得方法と、光魔法の進化先が知りたい、と?』
『はい。できれば、その進化条件もですね。差し支えがなければ、教えてもらえませんか? もちろん、相応の対価は払いますので』
『対価かぁ……。分かってると思うけど、今はアイテムの売買はもちろん、譲渡や交換もダメなんだけど?』
『ええ。ですので、対価は情報で払うつもりです』
『まぁ、それなら大丈夫かな。で、どんな情報を?』
『【魔力感知】と【魔力操作】のスキルの習得方法と、魔力操作で習得できるアーツの習得方法で、どうでしょうか?』
『んー……両方とも知らないスキルだし、対価としての価値はあるだろうけど、【魔力感知】と【魔力操作】って、具体的に何ができるんです?』
『【魔力感知】では、自他の魔力の感知ができるようになります。具体的な利点ですと、例え無機物系モンスターが全く動かずに潜んでいても、事前に何かいると知ることができますね』
『へー……それはいいな』
『【魔力操作】では、ある程度スキルレベルが上がれば、発射した魔法の方向を曲げたり、ある程度の指向性を持たせたり、意図的に消費MPを増減させることで、魔法の威力に強弱を付けられるようになりますね』
『魔法の方向を曲げる!? 指向性を持たせる!? え? そんなことまでできるんですか!?』
『はい。それに、【魔力操作】を用いて、身体能力を強化するアーツの習得方法もです! 如何でしょうか?』
『…………うん、よさそうだな』
『じゃぁ!』
『だけど、2点。待って欲しいところがある』
『待って欲しいところ、ですか? それはいったい……?』
『まず、1点目。ライトソードの魔法はシエルの行動によって昇華された特殊魔法だ。だから、シエルの了解無しに、教えることはできないってことだ。だから、もしもシエルが教えることを拒絶した場合は、悪いけど諦めてもらうことになる』
『それは、仕方ありませんね。発案者の意思を無視して教われば、盗人と同じですし、そこに異存はありませんよ』
『ありがとう。それで2点目だけど、単純に対価が多いんだ。光魔法の進化先とその条件、それと光魔法の特殊魔法の習得方法だと、明らかにこちらが貰い過ぎになる。だから、そっちが提示した対価で、スキルを習得する方法を1つ取り下げるか、こっちが渡す情報……それもスキルを1つ習得するような情報を増やすかしないと、ダメだな』
『それでしたら、スキルの習得方法を増やす方でお願いします。【魔力感知】はともかく、【魔力操作】は、【魔力感知】がないと習得できませんので』
『そうなのか? なら、どんな情報がいいかな?』
『では、さっきの戦闘で気付いたんですが、シエルちゃんって時間経過でMPを回復しますよね? そのスキルの習得方法をお願いします。って、言っておいてなんですが、シエルちゃんの固有スキルとかじゃないですよね?』
『あー……そうだなぁ。シエルの固有スキルもあるが、俺もネロも習得してるスキルもあるから。習得方法さえ分かれば、習得できると思うぞ?』
『そうですか。よかったです』
『じゃ、ちょっとシエルに聞いてみるから、少し待っててくれ』
『分かりました』
そう断りを入れ、俺は念話でシエルに話し掛ける。
『シエル、今少しいいか?』
『ん~? なーにー?』
『ミカさんが、シエルが使ってた光属性魔法のライトソードを覚えたいって言ってるんだけど、教えてもいいか?』
『…………。うん、いいよー! もちろん、ただってわけじゃ、ないんでしょう?』
『ははっ。当たりだ。教える代わりに、ミカさんも別のことを教えてくれるって話だ』
『じゃ、ミカエリスがおしえてくれることをわたしとネロにもおしえてくれれば、いいよー!』
『分かった。それじゃ、無事習得できたら、またシエルとネロに教えるよ。それで、いいか?』
『うん!』
『そうか、ありがとな。それじゃ、見張りの続きを頼むな』
『はーい!』
俺はシエルから色よい返事を貰うと、今度はミカエリスに向けて、念話を使い、話し掛ける。
『ミカさん。シエルからの了解が取れたので、その条件で情報交換をしましょうか』
『はい!』
そうして、俺とミカエリスは互いに利点があると思える情報の交換をし合った。
まず、【魔力感知】の習得方法だが、これは回数をこなすだけの簡単な方法だった。
魔法を撃つ時に発動言語を唱えず、そのまま魔力を消費し、その魔力が抜ける感じを繰り返し感じることで習得できるのだそうだ。
次に、【魔力操作】の習得方法は、【魔力感知】を用いて、体内にある魔力を感じ取り、初めはその魔力に指向性を与え、少しずつ動かせるようになれば、【魔力操作】を習得できるようになるみたいだ。
もしも、体内にある魔力を感じ取り難ければ、【魔力感知】を習得する時のように、魔法を不発させ、抜けていく魔力を感じ取れば、次第に体内にある魔力を感じ取れるようになるとのこと。
最後に、【魔力操作】を用いて習得できるアーツは、体内を流れている魔力の指向性を操り、外に漏れ出すことなく、循環し続ければ、【フィジカルブースト】という身体能力を強化するアーツを習得できるらしい。
このアーツを習得するのに大事なのは、回数をこなすことではなく、どれだけの長さを循環し続けられるかによるものだそうだから、ある程度【魔力操作】に慣れてから、一気にやると、いいのだそうだ。
時間にしておよそ3分間、淀むことなく循環し続けられれば、1発で習得が可能になるみたいだ。
そして、俺はこれ等の情報の対価に、【ライトソード】の習得方法と、光魔法の進化先で、光魔術以外だと、陽光魔術と聖魔術があり、確証は無い推測だと前置きをした上で、陽光魔術は種族的な要因で進化したもので、聖魔術は光魔法で多くのアンデッドを倒したことで、派生したんじゃないかと教えた。
そして、MPの自動回復スキルの【再精】は、クラスがノービスの時に1回で習得したので、MPを完全に枯渇するまで使い、自然回復で満タンまで回復し、それを何度か繰り返すことで、習得できるはずだと答えた。
そうやって、互いの情報を伝え終わり、少し経つと、誰からともなく声が掛かり、休憩が終わった。
◇◇◇
「よし! それじゃ、インスタンスダンジョン攻略に向けて、探索して行くぞ!」
「まだ入り口なはずですが、ここまで来るのに、もの凄く長く感じますね」
「でもでも、それもこれまでなのです! これからは、このインスタンスダンジョンの隅々まで調べて、余すことなく堪能するまでなのです!」
「あー……やる気を出しているところに、水を差すようで悪いのだが。一応、我が盟友たるリオンの都合もあるのだから、長引くようなら、諦めるか、リオンの途中離脱も考えねばならないぞ?」
「……なんてこと! あのディーノが先走らずに、ようやく自重を覚えただなんてッ!?」
「いや、姉上。言いたいことは分かりますけど……。僕だって、先程のことは反省してるのですから、このくらい当然ですよ!」
「まぁ、アレだけのことがあったんだから、当然だわな。んで、リオン。どっちから行くんだ?」
「そうだな……」
俺はダグラスにそう言いながら、気配偵知とサウンドアセンブルを併用し、モンスターの有無を確かめる。
「行くとしたら、右の通路からかな。俺のスキルとアーツで調べられる範囲からは、モンスターの気配や音がしないから、ある程度は安全だろうし。だけどその前に、ディーノが見つけた壁画(?)みたいなものを調べてからにしないか?」
「おっと。そうだった、そうだった。そういえば、ディーノがそんなの見つけたんだっけか」
「何かのヒントかもしれませんし、一応見ておきましょうか」
「なんなら、SSも撮っておけば、後で戻らなくて済むのです!」
「だな」
「じゃ、行くか」
そうして、俺達は初めてこのインスタンスダンジョンに入ったところの向かいの壁にある、壁画の前へと進んで行った。
もちろん、床にある罠に引っ掛からないよう、再度エクリプスライトで罠を照らし出すのも忘れない。
すると、そこには、大きな正方形の縁取りの中に真円状の線と、その円を上下に2分割するように色分けされた壁画があった。
円の内円部には、等間隔で8つ数字が刻まれ、時計で言うところの6の位置に0があり、8と7の間に相当する所には3が、9の位置には6が、というように、3つ刻みで数字が増えていっている。
半月状に2分割された上の壁画は、明るい黄色に、下の壁画は暗い青色で色付けされ、更に上の壁画の12と15の間には太陽が、下の0と3の間には三日月の絵が刻まれている。
そして、円の中心から上の壁画の6の数字へと、15と18の数字の間、下の壁画の21の数字と3の数字へと線が引かれており、6の数字から15と18の数字の間に引かれた線と、21と3の数字から引かれた線によってできた扇型の中に、丸くなって寝ている猫の姿が描かれ、それ以外の扇型の中には、起きている猫の姿が描かれている。
「なんだ、こりゃ?」
「猫……に関する何かでしょうか?」
「あっ! 見て下さいなのです! 枠の下にタイトルらしきものが有るのです!」
そのセルピナの言に引かれるように壁画の下を見ると、確かに小さく、横長の長方形のプレートに何かが書いてある。
早速、しゃがみ込んで、プレートの文字を読んでみると、そこには『猫は日のほとんどを寝て過ごす』と書かれていた。
「猫は日のほとんどを寝て過ごす?」
「それが、この壁画のタイトルなのか?」
「ということは、この壁画に書かれてる数字は、時刻を表していて、この上半分の黄色は日中を、下半分は日没後を表しているってことかな」
「だな。猫は1日の大半を寝て過ごすから、間違いないだろう」
「それじゃ、この寝ている猫が描かれている時間分だけ寝て、起きている猫が描かれている時間分だけ起きてるということなのです? いくらなんでも、寝過ぎな気がするのですよ……」
「まぁ、この時間割通りではないにしろ、平均18時間以上は寝るからなぁ」
「何にせよ、一応SSは撮っておきましょう」
「ですね」
そうして、各自で確認できるよう壁画のSSを撮っていった。
「じゃ、今度こそ行くぞ! 先頭はよろしくな、リオン」
「ああ、任された! 罠を発見したら、照らしていくから、そこは踏まないようにな。それと基本的に壁には触らないようにしてくれ」
「分かった!」
「分かりました!」
「はいなのです!」
「了解だ!」
『はーい!』
『わかったー!』
そうやって意思確認をした後、俺達は隊列を組み、右側の通路へと進んで行った。
本年も後、残すところ半年と少しですが……。
明けましておめでとうございました!(遅過ぎ
また、よろしくお願いします!




