Locus 10
アイテムの鑑定と整理が終わり、再び狩りを始めることにした。
セーフティエリアを出て少しすると、大型犬程もある蟻を見つけた。
俺はさっそく識別を使ってみる。
ウォーカーアント:Lv5・属性-・耐性:斬・弱点属性:火・打
なんか見える情報が増えてる。
斬耐性かぁ、剣がメインウェポンだとやや不利だが、弱点属性に打属性があるから、そこをついてみようか。
ウォーカーアント……歩哨蟻か働き蟻か、どっちだろうな?
それと、ベーシックインセクトと同じ様に、殻に覆われてない関節部分と、腹には斬撃有効だと思うので、機会があれば狙ってみようかな。
俺は、とりあえずの戦法を決め、ウォーカーアントに近づいていった。
周囲を気配察知で調べ他にモンスターがいないことを確認した。
俺はウォーカーアントの背後から近づき、攻撃を仕掛けた。
「ハイドアタック」
剣の腹でウォーカーアントを殴ると、甲殻がベコリと凹み、2~3m程吹き飛んだ。
「ギギィーーー!」
ウォーカーアントのHPバーを見ると、6割位減っていた。
草原のモンスターやポイズンスネークなら今の一撃で倒せていたのだが、このウォーカーアントはHPが今までのモンスターよりも高いようだ。
足をバタつかせ起き上がり、敵対者である俺を見つけると、咆哮を上げながら、突進して来た。
「ギィーーー!」
俺から、2m程の距離で跳び上がり、その巨体で押し倒そうとしてくる。
俺は即座にウォーカーアントの着地点を見極め、回避する。
ウォーカーアントが着地し、足を踏ん張る所を狙い、足関節目掛けて剣を振るう。
「スラッシュ!」
「ギギィー!」
ウォーカーアントは足関節を切断され、悲鳴?を上げつつ体勢を崩す。
俺はその隙に、ウォーカーアントの首筋に狙いを定め、剣を振り下ろす。
「ネックハント!」
「ギッ!」
ウォーカーアントの首を撥ね飛ばすと、HPバーは急速に減っていき、0になるとウォーカーアントは光の粒子になり消えていった。
倒すことはできたが、もしも別の蟻を相手にしている時に、あの巨体で押し倒されたら恐らくは、脱出困難か詰むだろう。
ゆえに、これからは今のように、1人で戦うなら1対1にして戦うようにしようと思う。
この巨体を1度に2体以上は危ないし、リスクは少ないほうが良いしな。
そうやって気配察知を使い、採取ポイントで採取しつつ、ウォーカーアントが1体の時を狙って狩っていった。
そうして、1時間程ウォーカーアントを狩り、そろそろセーフティエリアに戻ってログアウトしようと思った時、ふいに遠吠えが聞こえた。
俺は立ち止まり、即座に気配察知を使い、周囲の気配を探る。
すると前方2時の方向10m程に3体のおそらくドック系のモンスターがいるのが察知できた。
草原でドッグ系は散々戦って来たので、戦法は同じでも大丈夫だろうと判断し、迎撃の体制を取る。
彼我の距離が5m程になった時、灰色の山犬のようなモンスターが3体見えた。
視認できるとすぐに、識別を使う。
フォレストウルフA・C・Lv5・属性-・耐性:魔法・弱点:斬
フォレストウルフB・Lv4・属性-・耐性:魔法・弱点:斬
俺は接敵すると、首・頭を狙い斬り付けて戦った。
結果からいえば、戦闘自体は楽勝で草原でのワイルドドッグ相手に無双しただけあって、あっさり終わった。
しかし、問題があった…………こいつら、仲間を呼ぶのだ。
例えば、最初の時のように3体で来た場合、最初の1体目を倒すと、俺から一番遠い個体のフォレストウルフが遠吠えを行い、仲間を呼ぶ。
1度の遠吠えで来る仲間は、2~3体だ。
1体倒すごとに、戦力は2~3倍になると考えると、うんざりしてくるよ。
そうこうするうちに、また1体仕留めると俺から最も遠い個体のフォレストウルフが吠える。
そして、今俺の周りは、フォレストウルフ達によって囲まれていた。
ざっと見て、十数体は居るかな?
死に戻りという手もあるけど、今まで集めた素材や食材が一部といえどパーになるのは、もったいないので、それはほんとうにどうしようもない時としよう。
因みに、このゲームのデスペナルティは、1時間のステータス半減と、所持金の半減、それと持ち物が2~3個ドロップすることだ。
運が悪いと装備品まで落とすことがあるそうだ。
鼠算式に増えるフォレストウルフを倒す時に、複数同時に倒したり、増員するための遠吠えモーションに入った固体に対して小石を投げ、邪魔をして増員をされないように、頑張った。
結果…………一時的に増員を防ぐことに成功したが、その反面無理な体勢からの投石と範囲攻撃後の技後硬直時に受けるダメージが、地味に蓄積していっている。
その受けたダメージを回復している隙に仲間を呼ばれ、ということをもう3回も繰り返して、チュートリアルの報酬で6本あった初心者ポーションは全て使い、もう後がない状態だ。
え? 何故作った串焼きを使わないかって?
それは、戦闘中には使えない、いや使えるには使えるが、串焼きを使うことによって発生するデメリットの方がメリットより多いからだ。
まず、動きながら串焼きを口に運ぶことで、死角ができ、回避し辛くなる。
次に、串焼きの肉を全て食べ切らないと、回復はしない。
最後に、戦いながら串焼き(というか串)を持ちつつ口に近づけると、目に刺さる危険性があること。
この三重苦から、串焼きを使っていない現状だ。
さらに言えば、もしも串焼きを落として、フォレストウルフに食べられて回復でもされたりしたら目も当てられないからな。
俺はここで、戦法を短期殲滅戦から長期持久戦に切り替えることにした。
無理な体勢からの投石と、アーツによる技後硬直でダメージが蓄積するなら、それ等をやめればいい。
そういう結論に達し、現在俺の周囲には、さっきの倍位の数のフォレストウルフが居る。
そして良いことに、さっきの倍位のフォレストウルフに囲まれてから、フォレストウルフを倒しても、仲間を呼ばれることがなくなったということだ。
ただ、仲間を呼ばれなくなったこの状態がいつまで続くか分からない。
なので、この数の攻撃を避け、いなし、流し、時には受け、被ダメージを最小に抑え、いかに早く殲滅するかが、生き残るための鍵となる。
俺は、思考が加速するのを実感しつつ、フォレストウルフの殲滅速度を上げていった。
動きは最小限に、1撃で倒せる所を狙い攻撃を加える。
薙ぎ、払い、流し、突き、受け、殴る。
どんどん加速する思考につられてか、昔じぃちゃんにやらされた、百人組み手の時の感覚に似ているなと、場違いなことを思い出す。
加速する思考、迫り来るフォレストウルフの猛攻。
流し、払い、突き、打ち、受け、薙ぎ、いなし、避け、殴る。
最初になくなったのは、嗅覚だった。
鼻孔から入って来る全てのにおいが消えると同時に、攻撃精度と行動速度が増した気がした。
打ち、避け、いなし、払い、受け、殴り、避け、流し、突き、受け、打つ。
急な変化に驚きつつも、体は冷静に対処する。
避け、打ち、流し、薙ぎ、いなし、払い、殴り、避け、流し、打ち、いなし、避け、『突く』!?
突いた瞬間足元が滑り、予定した突きより深く突き刺してしまう。
すぐに抜けなくなるなる剣。
それは、今までの猛攻をしのぎ、多くのフォレストウルフを屠って来た者にできた隙。
俺は抜けなくなった剣とは反対方向から迫りくるフォレストウルフを見据え、さらに思考を加速させる。
次になくなったのは、聴覚だ。
俺はあらゆる音の無い静寂を極めた様な世界へと辿り着くと、周りのフォレストウルフがゆっくり動いている様に見えた。
俺は普段通り動けて、周囲のフォレストウルフはゆっくりと動いている、そんな世界だ。
フォレストウルフがゆっくりと飛び掛かる。
回避―――不可能
フォレストウルフがゆっくりと迫り来る。
受ける―――ダメ―――攻撃―――困難
フォレストウルフが口を開く。
代用―――防具―――無理―――素手―――リスク高し
フォレストウルフの牙が迫る。
代用―――持ち物―――腰―――ダガー
フォレストウルフが頭上に迫る。
左手―――抜剣―――鼻先―――迎撃!
頭上から飛び掛って来たフォレストウルフを、サブウェポンとして持っていたダガーで斬り付けた。
サブウェポンとして持っていただけだが、装備アイテムとして補正が掛からないだけで、使用することはできる。
フォレストウルフが痛みでひるんだところで、右手に持った剣をさらに深く突き刺し、そして抜く。
その後は、両手に持った武器で手数にまかせて、フォレストウルフを蹂躙・殲滅していった。
思考加速中の主人公について、補足説明?
極限の集中状態になると、不要な情報が遮断されます。
これにより、遮断された分神経が更に研ぎ澄まされ、反射神経の能力が倍化されます。
このようなことは、現実でもアスリートや武道経験者でも起きていることです。
主人公でいうと、昔やらされた百人組み手中に至った様ですね。
人間1度経験したことは、何かに切っ掛けがあれば、またできるものです。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます。