Locus 104
持病…気管支喘息の悪化は鳴りを潜め、手足口病は、タイピングが苦にならない程度までになったので、ガンバって執筆を再開!
そしてふと見れば、1200万PVを突破という快挙!
本当に、ありがとうございます!
お待たせしました。
では、どうぞ!
気配偵知を使いながら、気の向くままに丘陵地帯を進み、採取ポイントや指定素材である滑り草の特徴に似た植物が無いか探していく。
因みに滑り草の特徴は、全長20cm程で、現実にある水仙花のような葉っぱに、花弁が6枚の青紫色の花だ。
いくら新しいエリアに行くからといって、事前に情報収集を怠る理由にはならないので、しっかりと調べられる情報は調べて来ている。
よって、ある程度採取・採掘できるアイテムや出現するモンスターの分布も分かっている。
この丘陵地帯に限らず、アイテムは採取・採掘ポイント以外でも取ることは可能だ。
それは、ほとんどのエリアで拾える、石系統アイテムがその証拠となる。
石系統アイテムは無造作にその辺りの地面に落ちていて、拾うことによって、採取したことになる。
そして、その石系統アイテムと同じように、採取・採掘ポイントではない場所でも、採取・採掘は可能であると最近では分かってきた。
つまり、その辺りに生えている草木や、風景の一部だと思われていた岩壁や岩等も、引き千切ったり、引き抜いたり、或いは鋏や斧、ピッケル等の道具を使えば、採取・採掘アイテムを入手することができるのだ。
もっとも、採取ポイントではない場所での採取は、日が変わるごとに採取できる場所がランダムに変わるし、採掘できる場所では、採掘ポイント程大量且つ、豊富な種類の鉱石を入手することはできない。
言わば、採取ポイントはその採取アイテムの群生地、採掘ポイントはその採掘アイテムの鉱脈と言い変えることができる。
そのため、採取ポイント以外での採取は、採取ポイントで取れないような多種多様で、何に使うのか分からないようなアイテムが、採掘ポイント以外での採掘は、採掘ポイントでは取れない、珍しいアイテムが取れるようになっているらしい。
もちろん、珍しい当たりばかりではなく、石系統素材という外れもあり、むしろその外れの方が出易い傾向にあるようだ。
それでも、採掘ポイントでは取れないような珍しい素材を求め、色んな場所で採掘するプレイヤーは後を絶たない。
それに取り尽せば、採取・採掘ポイントとは違い、例え日付が変わったとしても同じ場所で、採取・採掘できる保障はどこにもない。
なので、未だに残っている群生地や鉱脈等は、通常、人に見つかっていないか見つけ難い場所にあるのが相場であり、取り尽していれば消えてしまう採取・採掘場所が見つからないのは、ただ単に運がなかったと、巡り合わせが悪かったと諦めも付く。
だが、モンスターは違う。
モンスターは、特定エリアごとに種類は変わるが、長時間……それも十数分もの間、気配偵知を使っていても、その気配の欠片さえも捉えることができていない等、異常の一言だ。
いくら丘陵地帯という小さな起伏が幾つも連なり、小さな林や疎らな低木の茂み等があって、探し辛い地形をしていたにしても、ここまでモンスターを1体も見掛けることが無いというのは、おかし過ぎる。
これは何か、突発イベントでも起きているのかもしれないな。
そう俺は訝しげに考えていると、遠方から微かに、何かと何かが争っているような音が聞こえて来る。
俺はその音の場所を特定するため、即座に暗殺系アーツの【サウンドアセンブル】を使い、何処からその音が出ているか突き止める。
方角は、今俺がいる位置から2時の方向、気配偵知が反応しないことを見るに、その音の発生源は気配偵知の効果範囲よりもまだ遠くなのだろう。
そうやって結論付けると、俺は念のためシエルに丘の地表ギリギリの所を飛ぶように、ネロは影の中に入り潜匿するように指示を出し、俺は暗殺系アーツの【ハイディング】…姿を暗ます、【ハイドストーク】…足音を消す、【インビジブルハーミット】…認識を阻害するを使い、この異常事態の原因を探るべく、争う音がした方向へ向かって行く。
小さな丘を3つ、大きな丘を2つ超えたそこには、俄かには信じ難い光景が存在していた。
幾つかの小さな丘に囲まれ、丘陵地帯にしては比較的広く平坦な土地。
その中心部には1人の純白の翼を生やした女性がおり、その女性を背にして取り囲むように戦っている、男性2人と女性1人の合計3人。
そして、その周囲を完全包囲し、果敢に攻め立てる大量のモンスター。
確かにこの戦力差なら、救援要請が来ていてもおかしくはない。
ぱっと見、100体はなさそうだけど、50体は超えていそうな感じだ。
だが、戦力差として見れば、絶望的だろうことは一目で分かる。
救いといえば、モンスター側に飛行戦力がいないことか。
不特定多数との戦闘時に、上空からのヒット&アウェイは厄介極まりないからな。
むしろ、圧倒的な戦力差であるにも関わらず、未だに健在であるという事の方が驚きに満ちている。
姿からして、襲っている種類は全部で4種類。
枝分かれして後ろに長く伸びる2本の角を持つ、体高1.5m強(角は含まない)、全長2m弱の牡鹿。
遠目には茶褐色の岩の塊のようにも見える、体高50cm強、全長1m程の蟇蛙。
前後に細長く、薄茶色の羽と若草色の体を持つ、体高1m弱、全長1.5m強の殿様飛蝗。
草原にもいたものより2回り程大きく、全体的に明るい橙色をしている、ゼライス種。
なるほど、何が原因でこんな数のモンスターに襲われているのか分からないが、丘陵地帯に入ってもモンスターを見なかった理由は分かったな。
気配偵知の感じからして、あそこで戦っている4人を含めて、レベル的には俺達より弱いみたいだけど……。
そう思いつつ、一応識別を使ってみる。
ヒルディアーB・F・H・I・J・N・P・S:Lv26・属性:-・耐性:打・弱点:火・突
ヒルディアーA・D・E・K・M・O・Q:Lv27・属性:-・耐性:打・弱点:火・突
ヒルディアーC・G・L・R・T:Lv28・属性:-・耐性:打・弱点:火・突
ポイズントードA・D・E・F・H・K:Lv26・属性:地・耐性:地・毒・弱点:斬・突
ポイズントードB・C・G・I・J・L・M:Lv27・属性:地・耐性:地・毒・弱点:斬・突
ヒルズホッパーD・G・I・N・O・P:Lv26・属性:-・耐性:斬・弱点:火・打
ヒルズホッパーA・C・E・F・K・L・Q:Lv27・属性:-・耐性:斬・弱点:火・打
ヒルズホッパーB・H・J・M:Lv28・属性:-・耐性:斬・弱点:火・打
スティッキーゼライスB・C・D・F・G:Lv26・属性:-・耐性:斬・打・弱点:突・魔法
スティッキーゼライスA・E・H・I・J・K:Lv27・属性:-・耐性:斬・打・弱点:突・魔法
ミカエリス:天翼人族:Lv27・属性:光・地・耐性:-・弱点:影
アフロディーノ:水人族:Lv27・属性:-・耐性:毒・弱点:-
セルピナ:猫人族:Lv26・属性:-・耐性:麻痺・弱点:-
ダグラス:人族:Lv26・属性:-・耐性:毒・弱点-
最大で4、最低で2レベル差ということは、俺が与えるダメージは20~40%上がることになるな。
シエルとネロも〔遅延〕や〔詠唱破棄〕のおかげで、即座に複数の魔法を撃つことができるし、一気に奇襲を仕掛ければ、何とかなりそうかな?
このまま放って置いて、今戦っている人達が全滅すると、今度は俺が正面切って戦う羽目にもなりかねないし、純粋になんでこんな状況になったのか、聞いてみたくもある。
まぁ一応、確認のためにさっき来ていた救援要請を受けてみて、共闘ペナルティが解除されたら、介入して行くとしよう。
救難信号が発せられた場所は、多少変わっている可能性はあるが、ほぼ100%の確率であの人達が救援要請を出したはずだし、違ったらその時はその時だ。
そうして、俺はこれからの行動の指示を念話でシエルとネロに出し、出しっぱなしにしていた救援要請のウィンドウのYesボタンを押す。
すると、救難信号が発せられた場所が、今見ている場所で、共闘ペナルティが解除されたインフォメーションが流れたところで、俺達は行動を開始する。
丘の上でエキスパートソードを抜剣した後、斜面へ飛び出し駆け下りながら、音も無く救難信号を出したプレイヤーを襲っているモンスター群の背後に向かって行く。
天眼の効果のズームアップで襲われているプレイヤーの動向を窺うと、はっとしたように猫人族の女性…セルピナが顔を上げ、勢い良く後ろを振り向いて、背後にいる他の仲間に何かを言っている。
アレは恐らく、タイミング的に、俺……というか、他のプレイヤーが救援要請を受諾したことが伝わったのだろう。
だけど、その行動は軽率過ぎるだろう。
そう思っていると、次の瞬間、予想通り今まで何とか保っていた均衡が崩れることになる。
嬉しさ故に、つい後ろを振り向いてしまったのだろうが、今まで対峙していたモンスターから文字通り目を離し、明確な油断を招いてしまう。
そのことに逸早く気付いたと思われる天翼人族の女性…ミカエリスからセルピナに対し、注意喚起の言葉が投げ掛けられるが、セルピナが再び前を向こうとする前に、対峙していたモンスター…ヒルディアーが攻撃のモーションをとる。
まずいッ!
ここからじゃアーツを使った移動をしたとしても、あそこまで辿り着けないし、シエルやネロにしても、まだ移動が終わってないから、魔法を撃ったとしても届かない。
後数秒あればギリギリ行けるとは思うが、それまで無事でいられるかどうか……。
そう瞬時に考えを巡らせつつ、更に急ぐように速度を上げると、ソレは起こった。
何かのアーツを使ったのか、ミカエリスを囲むようにしてモンスターと戦っていた水人族の男性…アフロディーノが、普通の人では出せないようなスピードで移動し、セルピナをかばうようにモンスターの前へ躍り出る。
そして、間髪を入れずヒルディアーの強烈な突き上げにより、宙を舞い、地面に叩き付けられ動かなくなる。
HPバーを注視してみれば、残りは1割有るか無いか位で、死んではいないようだが、一気に大量のダメージを受けたためか、気絶のバッドステータスアイコンが付いていた。
ナイスだ、アフロディーノ!
その男気、無駄にはしない!
そう思いつつ、アフロディーノによって稼がれた数秒により到達できた場所から、斜面に倒れ込むような姿勢を取り、アーツを使いながらその場で跳躍する。
「ドッジムーブ」
20数mはある距離が一気に縮まり、さっきまで見ていた情景がより鮮明に分かるようになる。
セルピナはかばったアフロディーノに駆け寄り、何か悲鳴じみた声で呼び掛けてはガクガクと揺さぶっているが、一向に起きる気配は無い。
その間、瓦解した陣形から溢れ出したモンスター達が、セルピナとアフロディーノへと襲い掛かっていく。
その光景を見た瞬間、幾度かの訓練により、ある程度自発的に行えるようになった思考加速を使い、状況を把握する。
突出して近付いていくモンスターは7体。
内1体は、アフロディーノを打ち上げたヒルディアーで最も近く、距離にして3~4m。
例え、あの場に行けたとしても、誰かを守りながら複数のモンスターを相手取るのは難しい。
なら、1番近いやつは倒して、先行して来そうなモンスターは、足止めするのがベスト。
そう判断し、次の跳躍に移る中、セルピナとアフロディーノへ突出して襲い掛かるモンスター6体に、牽制の魔法を放つ。
「ダンパードアームズ……」
種別:片刃剣 形状:ブーメラン 数:6
「ブーメランエッジ×6! 一斉射!」
すると、俺の周りに、無骨でくの字型をした鈍色のブーメランが6つ出現し、ファイアの声と共に、大きな弧を描きながら、発射される。
無事発射されたことを横目に、俺はすぐ様次なるアーツを使う。
「アサシネイト……」
瞬間、まだ数十mは離れていた距離が瞬時に無くなり、俺の目の前には、今にもアフロディーノを揺さぶるセルピナ達へと踏み付けようとする、ヒルディアーの後ろ姿が現れる。
ヒルディアーは、空気の流れを感じたのか耳をピクリと動かした後、振り向く素振りを見せるが、その一瞬の隙を突くように、アーツを重ね掛けして、一気にエキスパートソードを振り抜く。
「ネックハント」
「エッジ!」
ドッ!
「ピィ?」
運動エネルギーの乗った一振りは、狙い違わずヒルディアーの首……弱点部位に当たり、ネックハントの効果も合わさり、1撃の元、ヒルディアーの首は断ち斬られ、空中をクルクルと飛んだ後、まるで出来の悪いボールのように地面を2度3度とジグザグに転がりその動きを止める。
「は? え?! く、首ィ?!」
「「「「「「ッ?!」」」」」」
「これは……!」
「来たか!」
そしてその直後、首を断ち斬られたヒルディアーは光の粒子になって消え去り、先程発射した無骨なブーメランが、突出してこちらに攻め込もうとしていた6体に当たり、その動きを強制的に止めさせる。
俺は周囲を確認すると同時に、念話でシエルとネロに確認を行いつつ、ここに来た理由を分かるように声に出す。
『シエル、ネロ。準備できたか?』
「救援要請を受けて来た!」
『うん! できたよー!』
『こっちもだいじょうぶー!』
「これより助太刀を開始する!」
「救援が来た……のです?」
「でも……どこに?」
「声しか聞こえないが……」
『分かった。それじゃシエルはチャージを頼む。その後は合図を待ってから始めてくれ』
『『はーい!』』
『いくよー? ソーラーチャージ!』
すると、上空15~16m程で太陽とは違う新たな光源が発生する。
少し上を見てみれば、金色をした光の球のようなものを急速に吸収し、その体全体から黄金色の眩い光を放っているシエルがいるのが見える。
シエルのソーラーチャージにより、周囲にいるモンスター達の気が上に逸れたのを確認し、その間に魔法の範囲にいそうなプレイヤーに声を掛ける。
「えっと……そこの偃月刀持ってる人、もう少し下がった方がいいですよ? そのままそこにいると、巻き込まれそうですし」
「は? 巻き込まれ……? っ!!」
俺がそう忠告すると、偃月刀を持った人族の男性…ダグラスは即座にその場から後退し、ミカエリスの近くに行くように移動する。
俺はダグラスが十分な距離を取ったことを確認した後、念話でネロに合図を出す。
『ネロ、やってくれ』
『はーい! リリース! シャドースワンプ! リリース! シャドーバイト!』
「「「「「ピィッ?!」」」」
「「「「「ゲグッ?!」」」」
「「「「「シャガッ?!」」」」」
「「「「「ッツ?!」」」」」
「なっ?!」
「ほえ?」
「はぁ?!」
ネロが魔法を発動すると、今や俺達を取り囲んでいた50以上のモンスターの足元が濃淡のある影色の歪なドーナツ状の沼へと変貌し、その移動を阻害。
更に、その沼から這い出ようとしたモンスターごと、出現した6つの顔の無い鰐のような顎が食らい付き、ダメージと共により強固な拘束を施す。
気配偵知を使いながら周囲をぐるりと見てみるが、どうやら2重の拘束からの取りこぼしは無いように見える。
反属性同士だと攻撃が幾らか減衰するって掲示板にあったし、シエルからの追撃は、もう少しシャドーバイトのヒビがいってからの方が良いかな。
俺はそう考え、シャドーバイトの経過を横目に、近くにいたセルピナに話し掛ける。
「とりあえず、そこの猫人族の人」
「えぅ? え?! 私のことです?」
セルピナもどうやら俺の姿を見ることができていないようで、ひどく慌てた声を出す。
「そそ。そこで気絶してる人にこのポーションを飲ませてやって。運が良ければ、起きるかもしれないし」
そう言って、俺はいつか作ったポーションを取り出し投げ渡す。
「おっととと。これを……です? 分かりましたのです」
セルピナは初め、ポーション瓶を見ながら、いぶかしむような顔をしていたが、鑑定を行ったのか、了承の意を表す。
まぁ、鑑定だけじゃ、効能が高いだけのポーションだしな。
俺はセルピナが気絶しているアフロディーノを下ろし、ポーション瓶の蓋を開けたところで、音も無くその場から離れる。
そしておよそ5m程離れた辺りで、セルピナはアフロディーノの気道を確保するようにして、顔を若干上に向かせ、俺が渡したポーション瓶の口をアフロディーノの口に入れ、その中身を流し込む。
「ぶるぅぅぅ?! わぁっはぁ?!」
「へ? きゃぁああああああ?!」
瞬間、セルピナによって流し込まれたポーションを盛大に噴き出しながら、アフロディーノは飛び起きる。
流し込まれたポーションの大半を吐き出したためか、HPは2割と少しまでしか回復できていないが、まぁ気絶したままの状態よりはマシだろう。
セルピナは驚きつつもアフロディーノが噴き出したポーションを避けられたようだし、結果オーライにして置くとしよう。
「がぁあああああ! ぐえぇぶぅぉう! うぼをぉぉぉおおおおお!」
「ちょっ! アフロさん? アフロさーん?! アフロディーノさぁあああああん?!!」
アフロディーノは口内に残ったポーションにより、悶絶しながら辺りをのた打ち回っているが、俺もアレを途中で吐き出したとは言え、口にしても死ななかったし、放って置いても問題無いはずだ。
仮にもってか、アレでも正式な回復薬だしな。……うん、大丈夫だろ。
さて、そろそろいいかな?
ネロのシャドーバイトにより全体的に2~3割程のダメージを負い、シャドーバイトの方はほぼ全体にまでヒビが入っている。
シャドーバイトの拘束が解けると少し厄介になるし、このあたりが頃合かな?
そう思い、俺はシエルへと合図を出す。
『シエル、やってくれ!』
『まってましたー! いっくよー? プリズミックオーブ! リリース! ライトアロー!』
「「「「「ピィーッ?!」」」」
「「「「「ゲグッ?! ガァッ?!」」」」
「「「「「シャガッ?! ジェギッ?!」」」」」
「「「「「ッツ?!」」」」」
「はい?」
「なっ?!」
「「っ?!」」
シエルが魔法を発動すると、上空からネロが拘束しているモンスター達に、七色に分かれた数百もの光の矢が降り注ぎ、刺し貫く。
弱点属性が突属性のモンスターには効果的で、数本の矢に刺されると、その体を光の粒子へと変えていき、腹や頭等の重要器官を穿たれたモンスター達も次々と光の粒子となっていく。
例外は、その攻撃から逃れられた個体と核に当たらなければ、あまり効果のないゼライス種だが、それも長くは続かない。
『いっけー! リリース! レイビーム! からの~ぐるぐるー!』
上空から歪なドーナツ状の沼へ、放射上に放たれた7本の光線。
その光線は歪なドーナツ状の沼に照射された直後、各光線がバラバラの軌跡を描きながら高速回転し、歪な7本の焼け跡を残す。
それにより、まだ残っていたモンスターの大半のHPは消し飛び、7本の光線の後を追うように光の粒子を巻き上げる。
7本の光線の照射が終わると、影色の沼には、未だ存命のモンスターがちらほらと沼地をジタバタしつつ、もがいているのが見える。
残ったモンスターは、ヒルディアーが2体とポイズントードが1体、それとヒルズホッパーが2体の合計5体。
シエルとネロにはがんばってもらったし、後始末は俺がやるか。
そう考え、俺はまだ存命のモンスターに狙いを定め、魔法を放つ。
「ダンパードアームズ……」
種別:長剣 形状:刺突式両手剣 数:15
「エストック×15! 一斉射!」
「「ピィーーー!」」
「ゲガァ! グゴォ!」
「「シャギィィィー!」」
放たれた15本の大きな針のような長剣は、HPが比較的多いヒルディアーに、5本と4本、ポイズントードとヒルズホッパーに2本ずつ刺さり、そのHPを残らず消し飛ばし、光の粒子へと変えていった。
俺は油断せず再度、気配偵知を使い残っているモンスターがいないか見るが、視覚的にも気配的にも残っているモンスターはいないように感じた。
「ふぅ。ひとまず、こんなところかな」
そうひとりごちり、俺は念話でシエルとネロを労いながら、新たな指示を出し、ハイディングとインビジブルハーミットの効果を解除した後、救援要請を出したと思しき人達の下へ移動して行った。
◇◇◇
「救援要請を受けて下さり、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「マジ助かった。本当ありがとな」
「えとえと……あ、ありがとうございましたのです! ほんっとーに! 助かりましたのです!!」
「どういたしまして」
「それで、ですね? あの、助けてもらっておいて、こんなことを言うのは厚かましいかと思いますが……もしも水とかの何か口を濯げるものを持っていたら、頂けないでしょうか? もちろん、ただとは言いません。払える範囲でなら、対価も支払います。ですので、お願いできませんか? このままでは、ディーノ……弟がちょっと不憫過ぎますし、弟もお礼を自分の口で言いたいでしょうしね」
天翼人族の女性…ミカエリスはそう言いつつ、未だ地面で喘ぎながら口の中の苦味と戦っている、水人族の男性…アフロディーノをかわいそうな子を見る目で見つめる。
俺は若干罪悪感を覚えつつ、クエストの不合格条件のこともあり、対価云々のことを断りながら、返事を返す。
「あー……いえ、ただの水程度で対価は取りませんよ。元を正せば俺が渡したポーションが原因ですしね。それで、何か器とかって持ってますか? なければこっちで用意しますけど……?」
「あ、お願いできますか?」
ミカエリスは、済まなそうな表情をしつつ、返答してくる。
「分かりました。それでは少々お待ちを」
俺は断りを入れ、どんな器にするか少し考える。
ポーション(45%回復)を口に含んだ時、結構な水を使って口を濯いだ記憶があるから、本当は桶や樽なんかの大量の水を入れられる物がいいんだろうけど、持ってないし、ここは昔どこかで見たことのあるアレを生成するとしよう。
確か……見た目は、取っ手の付いた小さな樽、だったよな。
そう考えた後、魔法を使う。
「クリエイトテイブルウェア・ジョッキ」
すると、青白い淡い光が収束していき、小さな樽に取っ手がついた形を形成すると発光が止み、それと同時にイメージした通りのジョッキが姿を現す。
「「「おおぉ~~~!」」」
俺はそのジョッキの取っ手を手に持ち、更に魔法を使い、水を注ぐ。
「クリエイトウォーター」
中空に直径1cm程の青い光が灯り、次いで青い光と同じ直径位の水が放出される。
俺は中空に灯った青い光を大きくし、水の量を調節しながら、ジョッキの中を水で満たしていく。
ジョッキの口から1~1.5cm程まで水を入れて、中空に灯った青い光を消し、ジョッキの取っ手以外を持ちながら、ミカエリスにジョッキの取っ手を向けて、渡す。
「お待たせしました。どうぞ。水です。少々重いかもしれないので、注意して下さいね」
「っとと! はい、ありがとうございます。それでは、渡して来ますね」
「あっ! 私も手伝うのです!」
そう言うと、ミカエリスとセルピナは2人でジョッキを支え、少し離れた所で孤独な戦いを強いられているアフロディーノに近寄って行く。
そんな2人を見送っていると、ふいに1人残ったダグラスから声を掛けられる。
「度々すまないな」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、なんであんな数のモンスターに襲われてたんですか?」
「あぁー……そのことなんだが、実はオレもよく分かってなくてな」
「そうなんですか?」
「ああ。せいぜい分かっていることと言えば、この近くにインスタンスダンジョンが出現したらしいってことと、何時の間にか呪いのアイコンが付いていたってことだけだ。本当に何時呪いなんて受けたのかさっぱり覚えてないが、モンスターに襲われた要因の1つである可能性はありそうだな。もっとも、モンスターのレベルが上がっていることから、インスタンスダンジョンが4段階目に入ったことが関係している可能性の方が高そうだけど……詳しいことは分からなくてな。すまんな」
「いえ、知らないことと知っていることじゃ、対応の仕方も精神的な安定も違いますから、要因の1つでも分かれば恩の字ですよ。それにしても、インスタンスダンジョンですか。面倒な……」
「と言ってもまぁ、オレが知っているのがソレだけだってだけで、他のメンバーに聞けば何か分かるかもしれないけどな。それであんたは、何しにココへ?」
「ああ、クエストですよ」
「クエスト? 差し支えなければ、どんなクエストか聞いてもいいか?」
「ええ。何てことの無い、ギルドの昇格クエストです」
「昇格クエスト? それでココに来てるってことは、Dランク昇格クエストか?」
「よく分かりましたね。その通りです」
「まぁ、戦闘系ギルドのDランク昇格クエストはココでの納品クエストだから、知っていればすぐに分かることだ」
「なるほど」
そうやって話していると、ようやく孤独な戦いが終わったのか、ミカエリスとセルピナを伴い、アフロディーノのこちらに向かって来る。
「先程は見苦しい姿を見せ、申し訳ないことをした。すまなかった。君が助けてくれたそうだね。ありがとう。あのままでは全滅も有り得ただろう。本当に助かったよ。それと、美味しい水もありがとう。今までに飲んだことのない程美味しい水だった。本当に! 本当にありがとう!」
「い、いや。どういたしまして。水については、俺にも非はあるから、気にしないでくれてい―」
「とんでもない! 僕はあの時大きなダメージを受け気絶していた。聞けば、HPを大量に回復するポーションで、更に運が良ければ気絶をも回復する代物を何の躊躇も無く、渡してくれたと言うじゃないか! そんな貴重なアイテムをスルっと渡してくれた君に、感謝こそすれ、恨むこと等有りはしない! だから安心して、この僕の感謝という思いを受け取ってはくれないだろうか?!」
「あ、ああ。そういうことなら」
「ありがとう! おっと、そういえばまだ名乗っていなかったね。僕の名はアフロディーノ! 友愛を込めて、ディーノと呼んで欲しい! アフロではなく、ディーノ、とね!!」
「あ、ああ。うん。分かった。ディーノ。これでいいか?」
「ありがとう! そういえば、君の名を聞いていなかったな。よければ、名を聞かせてもらえないだろうか?」
「あ、ああ。俺はリオンという」
「そうか! リオン、リオンか! うん、良い響きの綺麗な名前だな!」
「あ、ありがと……う?」
「僕の名もある―「はいはい、そこまで! リオンさんが困っているでしょう? 少しは落ち着きなさい、ディーノ」
「あ、姉上……。もしかして、またやってしまったのだろうか?」
「そうよ。といってもそれほど深刻という程ではないでしょうけどね」
「そうか……。リオン、申し訳無い。僕はどうにも熱くなり易いらしく、こう……心を揺さぶるようなことがあると、歯止めが利かなくなる性質なんだ。言い訳にしかならないが、悪気はなかったんだ。どうか、許して欲しい」
アフロディーノはそう言うと、綺麗な90度角のお辞儀をし、謝罪してくる。
「いや、少しびっくりしたけど、大丈夫だ。気にしてないよ」
「リオン……!! ありがとう! ありがとう!!」
「あ、あははは……」
アフロディーノは感極まったように、俺の手をがっしりと握り締め、お礼を言葉を熱苦しく言う。
言っちゃなんだけど、暑苦し過ぎるだろ!
そう心中で叫んでいると、見張りを頼んでいたシエルが上空から下りて来た。
「ん? シエル、どうした? モンスターか?」
『うん! まだすこしとおいけど、こっちにむかってきてるよ』
「え?! シッ?! ふむぐ!!」
「カーソルは青。ってことは、こいつはテイムモンスターか、獣魔ってことか……」
「かわいらしい子ですね~。召喚獣って可能性もありますけどね。状況から考えて、リオンさんの所の子でしょうか?」
「おおっ! これは可憐でありながら、美しいお嬢さんだな。陽光のような黄金の光を全身に湛え、まるで小さな女神のようだ!」
外野がというよりは、主にアフロディーノがうるさいのだが、今はそのことは横に置いて置き、シエルの言葉に耳を傾ける。
「それで、数は?」
『いちー!』
シエルは人差し指をピンっと立て、前に出すようにして、答える。
「見た目は分かるか?」
『んーっとねー……おっきな3ほんのつのをもった、おっきなしかだったー』
シエルは両手をいっぱいに広げ、どれだけ大きいかを表現し、頭の上に指を3本立てた手を置き、どのような形状をしていたか、身振り手振りで伝えてくる。
「なるほど。3本の角を持った大きな鹿型モンスターか……」
俺が呟くように言うと、その声に反応して、ダグラスが声を掛けてくる。
「なぁリオン。もしかしてモンスターが来てるのか?」
「ああ、はい。まだ少し遠いみたいだけど、こちらに向かって来ているらしいです」
「どんなモンスターなんだ?」
「シエル……この子が言うには、大きな3本の角を持った大きな鹿型モンスターみたいですね」
「げっ! マジかよ……」
「何か知ってるんですか?」
「ああ。そいつはこの丘陵地帯で出るレアモンスターのトライホーンディアーだ。通常のレベルは28のはずだが、インスタンスダンジョンが4段階目に入っているなら、レベルは2つ上がって30になってる可能性もある」
「レベル30……。例えレアモンスターであってもやってやれない相手ではないですが……」
「分かってる。オレ達のことだろう?」
「はい。さすがにこの人数を守りながら戦うのは難しいですね。相手がトライホーンディアー1体だけならいいんですけど、そううまいことにはならないでしょうし。この近くにセーフティエリアとかって無いんですか?」
俺がそう聞くと、ダグラスは後ろで雑談をしていた3人に声を掛け、近くにセーフティエリアがあるかどうか聞き、その後代表して俺の質問に答える。
「悪い。誰も知らないみたいだ」
「それじゃ、その呪いについては、誰か知りませんか?」
「えとえと、そ、それについては、わ、私が知っていますのです」
「その呪いはどういった効果なんですか?」
「あの、その……こ、この呪いは、一定時間周囲のモンスターからヘイトを自動的に稼いで、確実に狙われるという効果なのです。言うなれば、歩くモンスターホイホイなのです」
「その効果時間はどの位残ってますか?」
「あぅ、えっと……大体20分位なのです」
「20分…………っ!」
そうやって話を聞いていると、念のため使っておいた気配偵知に反応が出る。
猶予はもうあまり無い。
「仕方ないですね。分かりました。それでは、その呪いの効果が切れるまで、安全な所に避難していてもらいましょう。せっかく助けたのに、ここで死なれては、寝覚めが悪いですしね。シエル、ネロ。悪いけど、足止めをよろしく」
『はーい!』
シエルは元気いっぱいに返事をすると、トライホーンディアーがいると思しき方向へ、文字通り飛んで行く。
『わかったー!』
何時の間にか俺の影に入っていたネロも、ストライフオウルの姿で俺の影から飛び出し、シエルの後を付いて行くように、飛んで行った。
俺はそんなシエルとネロを見送りながら、素早くメニューを開いて、スキルを入れ替え、前に作った大岩を虚空庫から出す。
「おや? お嬢さん、どちらへ?」
「黒い、梟? いったいどこから?」
「え? 安全な場所、なのです?」
「おいおい、まさかその岩の影に隠れていろとか言わないよな」
「よく分かりましたね。その通り、この岩の影に隠れてもらいます。と言っても、正確には、この岩の影の中に、ですけどね」
「……っ?! まさか、影属性汎用魔法【シャドーロッジ】ですか?!」
「正解です。ですが、この魔法を使用するにあたって、使用者の契約相手かフレンドしか入ることができませんので、俺とフレンド登録をしてもらえませんか? もちろん、その呪いの効果が切れた後で、フレンド登録を解除してもらっても構いませんので」
俺がそう提案すると、アフロディーノを筆頭に、心外だと言わんばかりに、抗議の声が次々と上がる。
「何を言う、盟友よ! こちらは助けてもらう身で、そのような不遜なことを言うはずないであろう! 見損なわないで頂きたい!」
「そうですよ、リオンさん。むしろフレンド登録はこちらからお願いしたい位なんですから、そんな悲しいこと言わないで下さい」
「そ、そそ、そうなのです! しっ! ……じゃなかった。リオンさんは何も悪くはないのです!」
「そうだぜ、リオン。ディーノの言う通りだ。こちらは助けてもらう身で、そんな贅沢を言ったら罰が当たるってもんだ。それに、ミカさん同様、オレもリオンとフレンドになりたかったし、呪い解除だけのために、フレンドになる気はさらさらないぞ」
「……ふっ。そうですか」
「それと! もうこれからはフレンドになるんだから、その作ったような敬語は無しな。聞いててむず痒くなってくる」
「ん、了解」
その後、4人とフレンド登録し合い、順次シャドーロッジの中へ避難してもらった。
因みに、シャドーロッジの中は、夜のログハウス然といった形状をしており、出入り口である影が光源の役割をしている。
光源は、直視が難しいような明かりではなく、月の光のような柔らかい光だが、不思議とシャドーロッジ内を見渡せる程の光量を持っており、またシャドーロッジを作り出した者であるなら、ある程度内装は自由に変えることもできる。
さて、とりあえずこれで避難は完了したことだし、シエルとネロの応援に向かうとしよう。
相手はレアモンスターらしいが、3つの大きな角を持つ、大きな鹿か……。
見た目が格好良ければ、ネロに覚えさせるのもいいかもしれない。
枠もまだ残っているし、昔の映画のように乗ってみるのも面白そうだ。
そうして、俺はシエルとネロが進んでいった方向へと移動して行った。
そぉい! (・ω・ ⊃ )⊃≡ (目標Σ【壁】ぐしゃっ!




