Locus 100
お待たせしました。
前回、続きは早い内に投稿したいと思います。
っと言ったはずなのに、何故か1週間が経過している不思議。
どうして、こうなった?
では、どうぞ。
って、そっか。そういえば、こいつ狂っているんだっけ。
それなら、おかしい行動取っても仕方無い……かもしれないけど、納得はしたくないなぁ。
そう思いながら、今後に備えて、どんな変化が起こるか粒さに観察する。
すると、ふいにバリアブルゴーレム・マッドネスの体表全てが、淡い白っぽい光で覆われる。
HPバーを見れば、新たに人型の周囲に光っているヴェールのようなものを纏ったアイコンが付いていた。
確か、アンチマジックバリアって言ってたよな。
字面からして、魔法防御上昇系? ……いや、魔法抵抗系かな。
属性抵抗系スキルは、確率で特定属性からの攻撃を無効化するから、その魔法版だと考えればいいな。
確率の大きさにもよって、無効化の頻度は違うけど、使われる側だとかなり厄介であると言える。
ということは、変換魔法を使った武器攻撃や、遠距離からの魔法も決定打にはならない可能性が有る訳か。
…………いやでも、弱点部位はそのままだから、弱点部位を狙えば或いは……。
そう考えている間にも、バリアブルゴーレム・マッドネスの行動準備は続く。
バリアブルゴーレム・マッドネスは仰け反っていた上体を戻し、今まで行動する時は前傾姿勢だった背筋を伸ばして、完全に直立する。
そして、長大な両腕を床に着かない程度に伸ばすと、次の瞬間、バリアブルゴーレム・マッドネスは、腰部と頚部に嵌っている赤い球体を軸として上体を回転し始める。
回転スピードはかなり速く、振り回される巨腕に巻き込まれれば、最悪1撃で死に戻りも在り得そうだ。
おいおい。
まさか、そのまま突っ込んで来る気じゃないよな?
そんな風に考えていると、パーティチャットから声が掛かる。
『皆! 散開しつつ、急いでその場から離れて! 対軍戦ってことは、広範囲攻撃か、無差別攻撃だろうから、固まってると、巻き添えを食らうよ!』
『確かにそれは危険ですね。ですが、離れ過ぎては、何かあった時すぐにフォローができませんし、各自の距離が20m以内になるように調節した方が良いでしょうね』
『あ、それもそうだね』
『分かりました~』
『こっちも、了解だ』
俺はアリルとリーゼリアの案に乗るように返事を返し、すぐ様その場を後にする。
もちろん移動しながら、念話でシエルとネロにも指示を出すのも忘れない。
そうして、前衛組は一旦離れた距離を更に広げるため、バリアブルゴーレム・マッドネスを中心に、地上後衛組を含めて、5角形の形を取るように散開していく。
因みに、ドーム状の部屋の入り口から右側10m地点にアリルが、左側10m地点にユンファが居り、バリアブルゴーレム・マッドネスを中心に、アリル側から反時計周りにリーゼリアが、ユンファ側から時計周りにナギが現在散開中で、俺はドーム状の部屋の入り口から見えた、天井に届かんばかりの巨大な扉の方へ移動中だ。
散開しながら、バリアブルゴーレム・マッドネスの様子にも気を払っていると、ふいに回転している上半身に連なる巨腕の先が白く光り出し、高速回転により床上ギリギリのところに白い光の輪が生まれる。
その光景が目に映ると、天眼の効果により、自転しているバリアブルゴーレム・マッドネスの巨腕の先から赤いラインが四方八方に伸び、途中からその軌道が散開しつつある俺達と上空に居るシエルとネロへと、集中していく。
軌道が変わる?
……まさか、属性変化に伴い、魔法の種類も変化するのか?!
まずい! 光魔法には追尾性能が!
そう考えながら、即座に迎撃体勢を取りつつ、シエルやネロにも聞こえるように、念話で注意を促す。
『追尾性のある光魔法が来る! 各自注意してくれ!』
『『『『『『っ?!』』』』』』
間に合うかは微妙だけど、やらないよりかはマシなはず!
抵抗系は確率で特定攻撃を無効化するけど、数を撃てば無効化されない確率も上がる。
それに、属性変化さえ起きれば、追尾性が失われる事になるのだから、今回限りの勝利?条件は満たすことも可能。
そう考えつつも素早く魔法を使い、属性変化による追尾性の消失を狙う。
「ダブルマジック――ショットガンボルト!」
前方に掲げられた左手から、30前後の紫色の雷散弾を発射し、バリアブルゴーレム・マッドネスに攻撃を仕掛ける。
その数瞬後に、バリアブルゴーレム・マッドネスの白い光の輪から、7本の光の矢が放たれる。
放たれた光の矢は、3方向に別れ、その内の2本は上空のネロに、内3本はアリルに、内2本は俺に向って来る。
俺はその向って来る光の矢を視界に入れると、天眼のスキルにより視覚化された予測範囲に重なるように、エキスパートソードを振るい、2本の光の矢を斬り壊す。
ネロは、迫り来る2本の光の矢を急旋回で回避し、アリルはエアカッターで迎撃して、3本の光の矢を風の刃で対消滅させる。
そして俺達の迎撃、或いは回避が成功すると共に、俺が放ったショットガンボルトが、バリアブルゴーレム・マッドネスに着雷する。
着雷したショットガンボルトは、バリアブルゴーレム・マッドネスの体表を覆っている白く淡い光に阻まれ、その半数は消失したが、残りの半数が何とか当たり、目論み通りバリアブルゴーレム・マッドネスに属性変化を起こさせる。
属性が変化したことにより、先程まで艶やかで明暗のある白だった体表の色が、元の灰色に変わっていった。
それに伴い、白い光の輪も青白い光の輪へと変色し、それ以後全方位に発射されたのは、戦闘開幕時にバラ撒かれた、追尾性の無い青白い魔法弾となった。
俺は天眼のスキルによって、俺自身に直撃する青白い弾丸のみを斬り壊し、再度識別を使う。
すると、バリアブルゴーレム・マッドネスの属性と耐性が、元の属性無しへ戻っていた。
『お兄ちゃん、ナイス機転!』
『ありがとうございます。さすがに追尾性有りですと、避けるのには限界がありますから』
『リオンさん、ありがとう!』
『助かります~』
『どういたしまして。少し遅れはしたけど、何とか間に合ってよかったよ』
そうやって話している内にも、バリアブルゴーレム・マッドネスは上に横に、斜めにと巨腕を動かし、青白い魔法弾を無差別に撒き散らしていく。
そんな中、俺は変わらず1箇所に立ち止まったまま、天眼のスキルによって俺自身に直撃するであろう魔法弾のみを斬り壊し、体力の温存を図る。
リーゼリアやナギは終始回避に徹し、どうしても避けきれ無いものは武器を盾代わりにして凌いでいる。
アリルとユンファも主に回避優先の行動を取り、避けきれないものは魔法で迎撃したり、防御したりしている。
上空にいるシエルとネロも同様に、回避行動を主に行っているが、時折隙を見ては他のメンバーをかばうように、魔法を放っている。
見た感じまだHPに余裕はあるようで、回復液や回復魔法を使っている素振りはまだ無い。
『だね! そういえば、気付いた? アレの特性』
『特性って、各属性魔法が当たるたびに、体表の色が変わるアレ、ですか?』
『そそ! 戦闘も終盤だし、ここらで敵情報の共有が必要かな? って思ってさ。何か分かった事とか無い?』
『はぅ~。ごめんなさいです~。私には~、分かりませんでした~』
『私も生憎と、それ以上のことは……。すみません』
『そっかー。私もなんだよねー。んー……じゃ、ナギちゃんはどうだった?』
『ボクはあるよ!』
『おおっ! 何々?! どんな事が分かったの?』
『ドキドキですぅ~』
『うん、あのね。体表が変わってから何が変わったのか気になって、識別を使ってみたんだよ。そうしたら、あのゴーレムの属性と耐性が変化してたんだ』
『属性と、耐性が、ですか?』
『うん! 青い体表と時は、水属性と水耐性に、黒い体表の時は、影属性と影耐性に、白い体表の時は、光属性と光耐性って具合にね。確認はできなかったけど、たぶんアリルちゃんの風魔法が当たった時は、風属性と風耐性になってたんじゃないかな?』
『ほうほう、なるほどねー』
『それと耐性が変化したからかもだけど、普通は同属性で連続に攻撃が当たると、チェーンボーナスが発生するよね?』
『しますね~』
『でも、アレには発生してなかったみたいなんだよね。耐性属性限定ではあるようだけど、同属性の連続したダメージが入っても、逆にダメージが減っていたんだ』
『あー、ナギも見てたんだな。ってことは、見間違いじゃなかったのか、アレ』
『そうなんですか?! ……俄かには信じ難いことですけど、別地点に居る2人が見たなら、間違いは無さそうですね』
『チェーンボーナスが狙えないってのは痛手だよねー。お兄ちゃんは、何かある? 分かったこと』
『そうだな。後俺があるのは……疑問が1つと分かったことが2つかな?』
『疑問、ですか? それは、どんな?』
『ああ。ナギも言ってたけど、耐性属性が有る時に、同属性の連続したダメージが入ってダメージが減った後、ある時を境に、ダメージが入らなくなって、逆にHPが回復し出したんだ』
『『『えっ?!』』』
『確かですか?』
『ああ。少量ずつではあったが、確かに回復してたな』
『それは厄介だね。それが本当なら、詠唱時間が比較的短く消費MPが低い、基本魔法の連射が封じられたことになるね』
『……ん? そういえば、リオンさんって何を疑問に思ったの? 耐性属性がある時、耐性属性と同じ属性で複数回攻撃が当たると、ある時を境に、ダメージが回復するって分かったんでしょ?』
『まぁ、そうだが……それだけじゃなくてな。システム的な話、耐性系スキルのレベルが上がれば、特定属性からのダメージは減少していくだろ?』
『ん~? それは~、そうでしょうね~』
『っ?! まさか……』
『それで、耐性属性と同じ属性で複数回攻撃が当たると、だんだんと与えるダメージが減っていったのは、もしかして、耐性のレベルが上がったからじゃないか? って思ったんだよ。ある時を境にダメージが無くなったのは、耐性が無効になったとかじゃないかなって』
『なるほどね。レベルアップの速度が異常だけど、可能性としては十分に有ると思うよ。先史文明から今まで生きていた訳だしね。差し詰め、ダメージが回復したのは、無効から吸収に進化したってところじゃないかな?』
『吸収、ね……。それってシステム的には有り得ることなのか? 具体的には、プレイヤー側が習得可能かどうかってことだけど』
『う~ん、どうだろう? 確か吸収系に進化できるかは、その種族との相性によって変わるって話だったから、可能性としては0じゃないと思うけど?』
『そうなのか』
『それで~、もう1つは何だったんですか~?』
『ああ……もう1つは、あのゴーレムが発していた言葉に、【アンチマジックバリア展開】ってのがあって、言葉の字面から魔法抵抗系のスキルだと考えたんだ』
『魔法抵抗系、ですか?』
『ああ。で、さっきあのゴーレムが魔法弾……というか、最初は魔法の矢だったけど、それを発射した直後に撃った魔法も、抵抗系スキルが発動しているなら、確率で幾らか無効化されることを予想して、通常の倍の数になるようにしたんだ。結果は見ての通り、何とか属性変化は起こすことができた。だけど、その過程で発射した魔法の半数はあのゴーレムの体表に届いた瞬間、掻き消されたんだ』
『ちょっ?! 半分も?!』
『ってことは、魔法無効化確率1/2?! 高過ぎじゃないかな?! ソレ!』
『っと、言うことは、ですよ……。現時点では前衛は近付けず、後衛の魔法頼みであるにも関わらず、高威力の魔法を使ったとしても、2発に1発は無効化される計算になり、魔法無効化を避けるために手数の多い魔法を使えば、最悪回復されてしまうっと、こういうことですか』
『あらら~、困りましたね~。現状のままでは~、ほぼ~! 詰んでますよ~。コレ~』
そうパーティチャットで相談を進めていると、少し引っ掛かる違和感のようなものを覚える。
『なぁ。何かこの無差別攻撃、長くないか?』
『あー……。そう言われれば、ずっと無差別攻撃が続いてますね』
『それは仕方無いと思うよ? 対軍殲滅戦なら、軍が殲滅されるまで、攻撃を続けてもおかしくは無いしね』
『ですね。それに、狂っても精密機械なだけあってか、だんだんと無差別攻撃なのに、命中精度が向上してますから、時間が経てば経つ程、こちらが不利になっていきますね』
リーゼリアの言葉に釣られるように、アリル達の様子を見れば、なるほど。確かに最初の頃に比べ、他のメンバーを狙うかのように、魔法弾の数が増え、被弾も多くなっているようだ。
HPバーを見てみれば、アリル達は3~4割程ダメージを受けており、HPが5割前後になると、回復液を口にしている。
上空のシエルとネロを見てみると、賦活の効果もあってか、アリル達程ではないにしろ、1~2割位のダメージを負っており、そのせいか、アリル達をかばうように使っていた魔法も途絶えていた。
あー……確かにこのままだと、まずいな。
今は回復液があるから良いけど、それもいつかは無くなり、いずれ耐え切れなくなる。
近付いて攻撃しようにも、あの高速回転させてる巨腕を止めないと、ただの自殺行為だし。
魔法を撃とうにも、あのゴーレムの特性が邪魔で、決定打にはならない。
ほんと、どうしたものかな?
そう考えていると、ふいに俺の体全体と武器を覆っていた赤いオーラが消える。
どうやら、バーサークの効果時間が切れたようだ。
って、やば!
これじゃ、魔法を斬り壊せないじゃないか。
そう瞬時に思い至り、飛んで来る魔法弾を避けつつ、すぐ様アーツを使う。
「ソードダンス!」
すると、白銀色の燐光が俺の体全体と武器を新たに包み込む。
そしてその直後、エキスパートソードの刃から伸びていた、青白く結晶化していた魔力も砕け散る。
こちらも丁度効果が切れたみたいだな。
まぁ、今では接近戦は無理だから、特に困ることはないけど。
『それじゃ、どうするの? っというか、ずっとああいう攻撃って続けられるものなの?狂っているからって、ちょっと反則過ぎじゃないかな?』
『そうでもありませんよ~。既存のアーツである~、ラッシュやディフェンシブスタンス~、私のインフィニティスライサーも~、特定条件を満たしていれば~、発動後ずっと~、使い続けることができますから~』
『そうなのか?』
『はい~。最も~、使った時間に比例して~、リキャストタイムは長くなりますけどね~』
『……ふむ。それで、その条件ってのは?』
『ラッシュの場合は~、攻撃間隔が5秒以上開くと解除で~、ディフェンシブスタンスは~、一定量以上のダメージを受けると解除するようですよ~。私の場合は~、その場から動くと解除ですね~』
『なるほどな。それじゃ、バリアブルゴーレム・マッドネスも同じような特定条件を満たせば、この弾幕も無くせるってことか』
『確かに、その可能性は高いでしょうが、どうするんですか? 動かそうにもあの巨体ですし。攻撃間隔はともかく、一定量以上のダメージとなると、前衛が近付けない以上、後衛の魔法頼みになってしまい、最悪回復される恐れもありますよ?』
『だよなぁ』
『それに今みたいに、こんなに弾幕がある程度集中するようになったら、詠唱判定が難しい攻性魔法はもちろん、回復系も防御系魔法も使うのは、もう無理だよ』
『くぅ~! こんなことなら、投擲を取って置けばよかったよ。ホンっと! 今回のクエストでは、後悔が先に立たないことばかりで、困っちゃうよね』
『むしろ~、魔法はリオンさんが撃った方が良いと思いますよ~。今まで見た感じ~、詠唱せず魔法を撃っているみたいですし~、詠唱を溜めて放っている訳でもないのに~、同じ魔法を1度に複数撃ってますから~、抵抗対策もできてますし~。何より~、属性がありませんから~、属性変化も起きませんしね~』
『だよね! それに、前々から言うかどうか迷ってたけど、お兄ちゃんのそのスキルとかって、かなりずるいよね。魔法を発動する上で必要な詠唱が無いから、魔法の撃ち合いになったら、必ず先手を取れるし、何かしながら撃つ高等技術の、ながら撃ちも使いたい放題。その上、明らかに通常の威力を逸脱した同種の魔法を複数一緒に放つとか、ほんと何なのソレ!』
『いやー、何と言われても…………発想と努力の結晶?』
『なんで疑問系なの?! とにかく、お兄ちゃん!』
『ん、なんだ?』
『対価は払うから、その2つを教えて下さい、お願いします!』
アリルは何故か、敬語になっていた。
『あ~! ずるいですよ~、アリルちゃん~。そういうことなら~、私も教えて欲しいですよ~。もちろん対価も払いますから~!』
『え、えぇー……?』
『はいはい! ストーップ! そういう交渉は、この戦闘が終わってからやってね』
『ですね! アリルもユンファも少しは状況を考えて、発言して下さい』
『むむ、確かに今話すことでもなかったね。ごめんごめん』
『すみませんでした~』
『それで、現状をどうするかだったよね。ん~そうだなぁ……もしも現状で安全に攻撃を仕掛けられるとしたら、物理攻撃による遠距離攻撃の投擲か弓矢が1番かな? お兄ちゃん、使えたりしない?』
『いや、さすがにそう都合良くは…………ん? 物理攻撃による遠距離攻撃?』
俺はアリルに返事を返そうとして、アリルの言葉の一部から、あるアーツの事を思い出す。
『何かあるんですか?! リオンさん!』
『あぁ、うん、まぁ。一応聞くけど、武器スキルによるアーツって、魔法……じゃ、無い、よな?』
『武器スキルによるアーツ、ですか? そうですね。一説にはアーツも魔法も魔力を使っていることから、魔法の一種であると言われていますが、このゲームでは別もののはずです』
『なら、いけそうかな。ただ、リキャストタイムが長いアーツだから、やり直しは利かないと思ってくれ』
『分かりました』
『それと、ユンファ』
『なんでしょう~、リオンさん~?』
『ユンファが言ってたインフィニティスライサーって、その場から動くと解除されるんだよな?』
『そうですよ~』
『なら、足場が崩れたりした場合でも、解除ってされるのか?』
『ん~、どうでしょうか~? 今まで足場が崩れたりしたことが無いので~、その辺りはちょっと分からないですね~。でも~、状況的に考えて~、解除はされると思いますよ~。足場を崩されれば~、少なからず~、動くことにはなりますし~』
『そうか、分かった』
俺はユンファにそう言いつつ、この後キーになるアーツのリキャストタイムが完了しているか確認する。
うん、大丈夫そうだな。
『それじゃ、リオンさんの好きなタイミングで始めて下さい。ボク達はあのゴーレムの動きが止まったら、行動を開始しますから』
『分かった。それと、もしも俺の攻撃で、あのゴーレムの動きが止まらなかった場合のことも考えて、ネロに足場を崩すよう指示を出して置くから、近付く際は注意して置いてくれ』
『え? 足場を、ですか? わ、分かりました。注意して置きます』
俺はその言葉を聞いた後、すぐに念話を使い、シエルとネロに指示を出し、行動を開始する。
眼前に迫り来る魔法弾を斬り壊しつつ、アーツを使っていく。
「マジックミューティレイト」
アーツが発動し、俺が持っているエキスパートソードの剣身を青白いオーラが包み込む。
その瞬間、今まで俺の体全体と武器を覆っていた白銀の燐光が消え失せる。
そういえばマジックミューティレイトって、剣系アーツだったけ。
まぁ、ソードダンス無しでも、魔法弾の斬り壊しはできるから、別に良いけどな。
そう考えながらも、俺に向かって発射されてくる魔法弾をエキスパートソードで斬り壊しつつ、次のアーツを使う。
「バーサーク!」
バーサークが再び発動し、赤いオーラが俺の体全体と武器を包み込み、剣身のみマジックミューティレイトの青白いオーラと赤いオーラが混じり合い、薄紫色のオーラに包まれる。
俺はバリアブルゴーレム・マッドネスとの距離を目測で測り、アーツが届く範囲まで前進し、距離を詰める。
そして彼我の距離が7~8m程の所で止まり、バリアブルゴーレム・マッドネスの両腕がこちらを向いていないタイミングを計り、この攻撃の肝であるアーツを使う。
「スパイラル……」
アーツを使う意思に反応して、剣身に薄紫色の螺旋状のエネルギーを纏い、馬上槍の形状を生成する。
「「ちょっ?!」」
「はい?」
「あら~?」
すると、対軍戦闘に入った今の今まで言葉を発さず沈黙していたバリアブルゴーレム・マッドネスから、言葉が聞こえてくる。
「 ビビッ! 魔法力外ノ 高エネルギー反応ヲ 検知! 」
だが遅い!
その長大な両腕を振り回していた遠心力は大きく、容易にその運動は止められるものではない。
仮に避けられたとしても、その無差別攻撃が止まりさえすれば、後はどうとでもなる。
そう思いつつ、発動言語を言い切る。
「シェイバー!」
突き出しと同時に、エキスパートソードの剣身を起点に薄紫色のエネルギーが急速旋回しながら発射される。
エネルギー状の部分は次第に膨張していき、無差別攻撃による最後の魔法弾を破壊しつつも、バリアブルゴーレム・マッドネスへと放出されていった。
すると、膨張する薄紫色のエネルギーがバリアブルゴーレム・マッドネスに当たる直前、またしてもバリアブルゴーレム・マッドネスの声が聞こえてくる。
「 予想被害甚大! リフューザルバリア 緊急展開!」
バヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!
「なっ!」
「「「「っ?!」」」」
そこには、ある意味予想もしていなかった光景が生み出されていた。
バリアブルゴーレム・マッドネスは振り回していた長大な両腕を無理やり床に叩きつけるようにして体勢を整え、魔法を壊すマジックミューティレイトを付与されたスパイラルシェイバーを、透明感のある青白い障壁で止めていたのだ。
スパイラルシェイバーにより放出されたエネルギーと、バリアブルゴーレム・マッドネスが張った青白い障壁は互いに鬩ぎ合い、凄まじい火花を四方へと飛ばしている。
未だ放出され続けているスパイラルシェイバーを見てみれば、その勢いはまだ残っており、バリアブルゴーレム・マッドネスの前に展開された障壁に穴を穿たんばかりに急速旋回し続けている。
俺は放出されるエネルギーの行く末を見守っていると、スパイラルシェイバーが当たっている障壁の中央部からヒビが入り始め、次第にその数と大きさが増していく。
パキャァァァンッ!
「ゴガアァァァーーー!」
そして、ガラスが割れるようなかん高い音を響かせると同時に、若干威力を減じたスパイラルシェイバーがバリアブルゴーレム・マッドネスの無防備な頭へ直撃し、上体を仰け反らせる。
HPバーを見てみれば、威力を減らされて尚、3割程のHPが減っていた。
さて、これでやれることはやった。
今はスパイラルシェイバーの技後硬直で動けないし、後は皆の行動を待つだけだな。
そう思いつつも、油断無くバリアブルゴーレム・マッドネスの動向を窺う。
「ゴオォォォー! グオオ?!」
すると、仰け反っていた上体を起こし、技後硬直で動けないでいる俺を見つけると、歓喜するように雄叫びを上げた次の瞬間、バリアブルゴーレム・マッドネスの足元が沈む。
沈んでいる足元を見れば、そこは濃淡のある影で出来た沼が出来上がっていた。
どうやら、先程ネロに指示した保険が、うまく作用したみたいだな。
あの巨体である分、重量もすごかったようで、気付いた頃には、既に腿まで影で出来た沼に沈んでいた。
攻防に使っていた巨大な両腕は、体を支えるのに使われ、迂闊に動けば、更に沼に嵌ることになるため、動くに動けない。
移動の要である両足は沼に完全に没し、その役割自体が封じられる始末。
そして、動けず、攻撃も防御を出来ないゴーレムなぞ、最早ただでかい的と成り下がった瞬間でもあった。
「ネロちゃん、ナイスアシスト! この機に一気に削るよー!」
「ですね! 今まで散々やられたお返しです!」
声のした方を見てみると、ナギとリーゼリアがバリアブルゴーレム・マッドネスを挟み込むようにして移動して行き、影の沼から出ている両腕の関節部分をアーツで滅多斬りにしていく。
「ゴグアァァァーーー!」
HPバーを見れば、残っているMPを使い切る勢いで攻撃しているせいか、将又武器による属性耐性が無く、チェーンボーナスが発生しているのか、見る見る内にHPが減少していく。
そして、ある時を境に、バリアブルゴーレム・マッドネスの両肘関節に嵌っている赤い球体全体にヒビが入り、その色を失う。
再びHPバーを見てみれば、残りHPは5割と少しになっており、新たにDEX↓のアイコンが付与されていた。
更に、アリル達の仮説を証明するかの如く、色を失った両肘関節からは小さな火花が常時瞬き、徐々に極少量ずつ、HPが減少していっている。
そうこうしていると、何時の間に移動したのかバリアブルゴーレム・マッドネスを挟んだ斜向かい……つまり、バリアブルゴーレム・マッドネスの背後にアリルとユンファが待機しており、新たなアイコンが付いたあたりで、アリルから注意喚起の声が掛かる。
「準備できたよ! リアちゃん、ナギちゃん離れて!」
「はい! 後はお願いします!」
「あと半分だよ! やっちゃって!」
リーゼリアとナギはそう言いつつ、素早くその場を離れ、アリル達の魔法の範囲から離脱していく。
そして、リーゼリアとナギが十分に離れたところで、後衛組の魔法が放たれる。
「それじゃ、いっくよー! ―――リリース! エーテルガスト!」
「私もいきます~! ―――アクアドロップ~!」
「ゴグッ?! ゴガガガァーーー!」
死角から放たれた二陣の風の突風は、動けぬただの的に成り下がったバリアブルゴーレム・マッドネスには、避けることは叶わず、その背と左肩に残った弱点部位へと、無慈悲に迫る。
だが、魔法抵抗系スキルは依然として発動しているようで、左肩に当たった方のエーテルガストは、ダメージを与える前に光の粒子となって消え去り、魔法抵抗が発動しなかった方のエーテルガストが、背中に生えた結晶に吹き荒ぶ。
その瞬間、バリアブルゴーレム・マッドネスの体表が薄緑色へと変わり、これ以上影の沼に沈まないように、背後から押し込まれる烈風に、壊れた両腕で無理やり耐えながら、何とか姿勢を保つ。
そして、その瞬間を待っていたかのように、バリアブルゴーレム・マッドネスの頭上数mから、巨大な水球が落下し、その大質量でバリアブルゴーレム・マッドネスを押し潰す。
その結果、今度はバリアブルゴーレム・マッドネスの体表が群青色へと変化し、影の沼にドップリと腰まで浸かり、最早脱出は困難を極めているようだった。
『いくよー! ―――リリース! ライトバースト!』
ピキャキャキキキィン!
「ゴグガガガァーーー!」
シエルがライトバーストを唱えると、背中に生えている結晶の周辺に5つ光球と、左肩に生えている結晶の周辺に4つの光球が出現する。
そして次の瞬間その全てが爆発するが、バリアブルゴーレム・マッドネスのアンチマジックバリアの効力によりその半数が消失し、バリアブルゴーレム・マッドネスの体表も明暗のある白へと変化する。
しかし、爆発のダメージは着実に効いているようで、背中と左肩に生えた結晶に大きくヒビが入る。
HPバーを見てみれば、残りHPは1割を切っている。
よし!なかなかうまく連携が取れてるな。
この調子でいけば、もうすぐ倒せそうだ。
『ここだよー! ―――リリース! シャドウブロウ!』
そう思っていると、ふいに音も無くバリアブルゴーレム・マッドネスを捕らえてる影の沼から、6つの影色をした巨大な拳が撃ち出され、バリアブルゴーレム・マッドネスの背中と左肩にある結晶へと殺到していく。
っ! 今度はネロか!
結晶に影色をした拳が到達すると、やはり常時展開しているアンチマジックバリアの効力により、その数を減らされる。
そして…………。
パキャキャァァァンッ!!
「グゴオオオオオォォォーーー?!」
結果、背中の結晶には2つの拳が、左肩の結晶には1つの拳が到達し、強かに打ち付けた瞬間、2つの結晶が砕け散る音を響かせながら、バリアブルゴーレム・マッドネスの体表が、艶の無い濃淡のある黒へと変化する。
それと同時に、バリアブルゴーレム・マッドネスの下半身と動きを封じていた影の沼が消え去り、バリアブルゴーレム・マッドネスの下半身が解放される。
HPバーを見てみれば、不思議なことに全損はしておらず、辛うじてHPが本の僅かに残っていた。
は? なんで?!
どう見ても今の攻撃は、オーバーキルだろ!
そう少し憤慨混じりに思っていると、その疑問を解消するような注意喚起のパーティチャットが聞こえて来る。
『皆、気を付けて! たぶんそいつ、忍耐持ちだよ!』
『忍耐? それって確か……致死ダメージを受けた時、余剰分のダメージをMPで受けて、HP1で耐えるってやつだっけ?』
『そそ! だから、MPが残っている内は、まだ安心できないよ!』
そうしていると、バリアブルゴーレム・マッドネスから再び言葉が聞こえる。
「 全外部ブースターノ 全壊ヲ 確認! ジェネレーターヘノ 過負荷 規定値ヲ 突破! 戦闘続行困難! 既定ニ元付キ コレヨリ コード:BBヲ 実行シマス! 」
バリアブルゴーレム・マッドネスは何やら怪しいコード名を発すると、全身を覆っていたアンチマジックバリアの光が消え、体表の色も黒から灰へと変わっていく。
更にバリアブルゴーレム・マッドネスの頭上には、新たにMPバーが表示される。
MPバーは全部で5本あり、その内の2本は既に無く、3本目のMPバーがおよそ6割程残っていた。
バリアブルゴーレム・マッドネスはその長大な両腕をだらりと垂れ下げ、安定性を持たせるためか、膝を折り、腰を下ろし、正座するような状態になる。
『なぁ。何か俺、すごく嫌な予感がするんだけど……』
『あ、リオンさんもですか? 実は、私もなんですよ。奇遇ですね……』
そして、バリアブルゴーレム・マッドネスの体が完全に安定すると、バリアブルゴーレム・マッドネスから次なる言葉が発せられる。
「 全変圧弁 並ビニ 全チャンバー 解放! 残存エネルギーノ 逆流ヲ 開始! 」
すると、バリアブルゴーレム・マッドネスの全体に一瞬光の回路が見えるように光った後、各関節に嵌っている赤い球体の光が、体の末端部分から順に弱まり、逆にバリアブルゴーレム・マッドネスの胸の中心のコア付近の外装が、赤い光を帯びていく。
「 臨界マデ 残リ180秒! カウントヲ 60デ固定! エネルギー臨界 ト共ニ 敵勢力ヲ 巻キ込ミ 自爆シマス! 」
自爆の声に釣られ、バリアブルゴーレム・マッドネスの方を見てみれば、HPバーの上に赤い文字で180.00と数字が表示され、小数点以下の数字が目紛しく変わり、刻々と小数点以上の数字が減少していく。
『えぇ~!? 自爆ぅ~!?』
『嫌な予感、的中してしまいましたね』
『それで、あまり時間も無いっぽいけど、どうするの? 逃げる?』
『いや、ちょっと待った! ゲームによっては違うけど、自爆すると大抵ドロップアイテムがゴミ一歩手前並になるから、倒した方が良いと思うんだけど』
『私もお兄ちゃんに賛成だね! βの時は、敵モンスターが自爆すると、経験値入らなかったから、最悪このままにすると、イベントアイテムは別にしても、他には何も入手できないかも!』
『うっわ~。それは、エロイね! エロ過ぎだね!』
『エ、エロ、イ?』
因みに、『エロイ』とは、えげつない・ろくでもない・いやらしいの頭文字を取った短縮系のことを指す。
『それでは、倒すということで良いですね? 近接攻撃をする人は胸から下を、魔法攻撃する人は胸から上を攻撃するようにして下さい。それとリオンさんは、シエルちゃんとネロちゃんに指示をお願いします』
『『はい!』』
『了解です~!』
『分かった!』
俺はリーゼリアにそう返事をし、その後シエルとネロに念話で指示を出す。
『シエル! ネロ! 後3分以内に、あのゴーレムを倒さなきゃいけない。力を貸してくれ!』
『うん、いいよー!』
『まかせてー!』
シエルとネロは、無邪気且つ快く返事をする。
『ありがとう。それで、方法はそっちに任せるから、なるべく短時間で多くのダメージを与えてくれ』
『はーい!』
『わかったー!』
『それと、魔法を撃つ時は、あのゴーレムの胸から上を狙って撃ってくれ。胸より下だと、他のメンバーを巻き込み兼ねないからな』
『むねよりうえなら、いいんだよね。わかったー!』
『うん! りょーかいだよ!』
シエルとネロは元気良く返事を返すと、シエルは空中を滑るように上昇し、地上7~8mの所で浮遊して、バリアブルゴーレム・マッドネスを見据えながら、詠唱を始める。
ネロは俺が近接戦をすることを予想してか、俺の影から出て、アリルの方へと飛んで行く。
理由としては、少しでもダメージが上がるように、影に潜み、潜匿状態になるためと、バリアブルゴーレム・マッドネスからある程度離れることで、今回の標的であるバリアブルゴーレム・マッドネスの胸から上への視界を確保するためだろう。
さて、それじゃ俺も行動していくとしよう。
短時間で効率良くダメージを与えるなら、やっぱり弱点部位だよな。
さっきの自爆コードが実行されてから、何か変わったかもしれないし、一応再度識別とウィークネスアイを使って置く。
すると、自爆コードのせいか、弱点が魔法全般と全属性になっており、更に弱点部位がバリアブルゴーレム・マッドネスの体全体になっていた。
なるほど、たった3分で倒せるか若干不安だったけど、これならできそうかな?
そう思いつつ、この情報を共有するため、念話で全員に話し掛ける。
『皆、朗報だ! そいつの弱点部位が体全体に変わり、弱点に元の魔法全般に加え全属性が増えてる。今なら何処に当てても、ダメージが倍化するぞ!』
『よっしゃー! それじゃ、当て放題ですね! やっるぞー!』
『これなら武器を当てる場所を気にしなくてよさそうですね。リオンさん、私とナギに変換魔法をお願いします!』
『分かった』
『お兄ちゃん、グッジョブ! これならいける!』
『情報助かります~』
『『・・・・・・』』
バリアブルゴーレム・マッドネスの情報を伝えると、アリル達は勝機があるのが分かったようで奮起する。
シエルとネロは詠唱に集中しているせいか、返事は無いが、念話は問題無く発動しているから、内容は伝わっているはずなので、大丈夫だろう。
そうして、リーゼリアとナギがバリアブルゴーレム・マッドネスに走っていくのを見ながら、念話で合図を出しながら、魔法を放つ。
『いくぞ?』
「ダブルマジック――マジックウェポン!」
すると、リーゼリアとナギの持つ武器が、青白い光を発するようになる。
『助かります!』
『ありがとう、リオンさん!』
2人はそう言うと、微動だにしないバリアブルゴーレム・マッドネスの左腕と右足へと駆け寄る。
更にユンファも自分で変換魔法を掛け、バリアブルゴーレム・マッドネスの右腕へ走って行き、一斉に連続でアーツを使い、バリアブルゴーレム・マッドネスのMPを削っていく。
「はぁっ! ―――チャージスラッシュ!」
「スラッシュ!」
「レイスラッシュ!」
「サークルスラッシュ!」
「ダブルスラッシュ!」
「クロススラッシュ!」
「クロスエクスキューション!」
「アサルトダンス・ヘキサディア!」
「スラッシュ!」
……
「とりゃー! ―――ストライクバッシュ!」
「シールドバッシュ!」
「リバウンドバッシュ!」
「スラッシュバイト!」
「トライスラッシュ!」
「ブランディッシュエッジ!」
「シールドバッシュ!」
……
「いきます~! ―――スピニングスライド~!」
「アッパーライン~!」
「リバースライン~!」
「ワイドスラッシュ~!」
「インフィニティスライサ~!」
リーゼリアは斬属性アーツのみを使い、同属性によるチェーンボーナスで、ダメージの底上げをし、リキャストタイムが終わったアーツを再使用しては、うまくチェーンボーナスを繋げていく。
ナギは打属性の連続攻撃から斬属性の連続攻撃へと繋げ、2種類の属性のチェーンボーナスによるダメージ増加と、リキャストタイムをうまく使い分け、着実にダメージを積み重ねていく。
ユンファは踏み込みと同時に、横回転しながら助走と遠心力を乗せた斬撃を放ち、アッパーラインによる斬り上げから、リバースラインによる斬り下げですぐ様床に下り、更に広範囲の斬撃を打ち込みながら体勢を整え、動かなければ永遠に斬り続けることができるアーツで、ダメージを増やしていく。
MPバーを見てみれば、さすが弱点部位に弱点属性での攻撃は利くようで、3人の猛攻により3本目に残っていた6割程のMPは既に無く、4本目のMPバーに差し掛かり、残り時間は後140秒弱となっていた。
俺はそんな様子を横目に見つつ、今あるMP残量と残り時間、リキャストタイムが終わったアーツのことを考え、即座に行動に移る。
「クインティプルマジック―――エネルギーボルト!」
右手に持ったエキスパートソードを体の後ろへ下げ、反対の左手を前方に掲げ、掌の少し前から、極太の5条の紫電をバリアブルゴーレム・マッドネスの赤熱化し始めている胸部へと発射する。
狙い違わず全ての紫電がバリアブルゴーレム・マッドネスに着雷するのと同時に、俺は近接攻撃ができる残った場所……バリアブルゴーレム・マッドネスの左足へと素早く移動しながら、アーツと魔法を使う。
「ソードダンス!」
「マジックブレード!」
すると、再び白銀色の燐光が俺の体全体と武器を覆い、バーサークの赤いオーラと混じり合い、鮮やかな赤……紅色の燐光へと変化する。
更に、エキスパートソードの剣身の刃先と切っ先から青白い光が染み出し、ある所までいくと物質化する。
物質化した刃の色と紅色の燐光が混じり合い、色鮮やかな紅紫色へと変わる。
俺はその変化を確認した後、到着したバリアブルゴーレム・マッドネスの左足前で、強く、素早く連続した斬撃を浴びせ続ける。
ちらりとMPバーを見てみれば、先程の魔法攻撃と近接攻撃組のダメージ量によって、残り1本と2割程になり、残り時間の方は100秒を切っていた。
そうしてそのまま斬り続けていると、バリアブルゴーレム・マッドネスのMPバーが残り1本弱になった時、MPが無くなったのか、リーゼリアとナギの攻撃が止まり、今までの連続アーツの使用によって蓄積した技後硬直で行動不能となる。
『すみません、私達はここまでのようです。』
『ごめん! 後のことはお願い!』
『分かった。もし動けるようになったら、また頼むな』
『お任せ下さいです~』
そう返事をしつつ攻撃を続けるが、リーゼリアとナギの離脱により、DPS……秒間ダメージ量が減少し、目に見えてバリアブルゴーレム・マッドネスのMPバーの減りが遅くなる。
そしてバリアブルゴーレム・マッドネスの残りMPが8割に差し掛かるのと同時に、ついにカウントダウンが始まる。
「 60…… 59…… 58…… 57…… 」
バリアブルゴーレム・マッドネスを見てみれば、胸部位は完全に赤熱化し、胸部に近い頭・両肩・腰の外装も徐々にヒビ割れるように赤い光を放ち始める。
っく、まずい!
まだアリル、シエル、ネロの魔法があるとはいえ、やっぱりリーゼリアとナギの離脱はでかいな。
だけど、焦ってどうなるものでもないし、ここは冷静に攻撃し続けるしかないか。
そうもどかしさを覚えつつも、黙々とバリアブルゴーレム・マッドネスの左足を切り裂き続ける。
そして、残り時間が40秒になったところで、突如、バリアブルゴーレム・マッドネスの上半身に四方八方から影色の波が押し寄せ、その身に撃ち払っていく。
っ! ネロか!
そう思うと、その攻撃に続くように、待ちに待った声が聞こえてくる。
『よし! 準備完了! いっくよー!』
『こっちもできたー! いちおう、きをつけてねー!』
『やっとか!』
『決めちゃって下さい~』
「リリース! エアハンマー!」
『リリース! ライトバースト!』
アリルが魔法を放つと、バリアブルゴーレム・マッドネスの頭上に十数の空気塊が出現し、その数瞬後、全ての空気塊がバリアブルゴーレム・マッドネスの頭に殺到していく。
魔法による弱点攻撃に加え、打属性のチェーンボーナスも発生し、そのMPをガリガリと削っていく。
そして、シエルが魔法の発動言語を唱えた直後、バリアブルゴーレム・マッドネスのすぐ近くに俺とユンファが居ることを考慮してか、バリアブルゴーレム・マッドネスの頭の周りに十数個の光球が出現し、次の瞬間連続した爆音と閃光を発する。
そんな中、バリアブルゴーレム・マッドネスのカウントダウンの声に重なり、事務的な別の声が混ざる。
「 残存エネルギー 急速低下中! コッ…ココー ドッドド :ビィBッ ジジッ…行……フッ…能! 」
そして、その爆音と閃光が止むとの同時に、カウントダウンの声が止まり……。
「 機ノゥ……停…シッ…… 」
というバリアブルゴーレム・マッドネスの声と共に、胸部の赤熱化と戦闘開始から灯り続けていたバリアブルゴーレム・マッドネスの単眼の光が消える。
その直後、バリアブルゴーレム・マッドネスの巨体全てが光の粒子へと変わり、まるで爆発するように、俺達の視界を埋め尽くしていった。




