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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第4章  夢現フィールドと再起の遺構
109/123

Locus 98

 お読み頂き、そして評価して下さりありがとうございます。

 おかげ様で、925万PV並びに、120万ユニークアクセスを突破致しました。

 本当にありがとうございます。


 そして、遅れてすみません。

 では、どうぞ。

「「「えぇえええええええーーー?!」」」


 キークエストの詳細を見ていると、アリルとナギとユンファから何やら意外そうな声が上がる。


「ん? なんだ? どうかしたのか?」


「どうしたも、こうしたも無いよ! なんで今回に限ってクエスト詳細のヒントが、リドル風なの?! コレは何かの陰謀(いんぼう)なの?!」


「だよね! そうとしか思えないよ! 何で今、リドル風でクエスト詳細を出さなきゃいけないのか、意味が分からないよ!」


「ですです~!」


 何が気に食わないのか、アリル達からは何故か、不満と非難の嵐が吹き荒れていた。

 俺は苦笑しつつも、その問い掛け?に答える。


「陰謀って……。そういう意図は特に無いと思うぞ?」


「そうですよ。それに、その様子では気付いていないみたいですが、コレまでの第1、第2クエストにも、リドル風のヒントはありましたよ。ですよね? リオンさん」


「ああ、確かにあったな」


「あれ? そうなの?」


「え?! うっそぉ!」


「そんなもの~、ありましたっけ~?」


「まぁ、見る人によっては、リドルですらないような内容だったしな。それに、第2クエストの方は特に考えること無く答えに行き着いたから、印象に残って無いのも(うなず)けるしな」


「ですね。あの時は(めずら)しくアリルがパパッと答えを出しましたから、覚えていないのでしょうね」


「ぐぬぬぬぬ……。リドル解きはほとんどリアちゃん任せだから、反論できない~」


「う~ん……確かに。反論の余地0だもんね」


「ですね~。ん~……それでしたら~、今までにあった~、リドル風のクエストのヒントって~、何だったんでしょうか~?」


「あーそのことか。前のクエスト詳細を見れば分かるけど、制御球に込める魔力……属性魔法についてのところだな」


「もっと分かり易く言えば、循環せし魔力と浄化なる魔力って下りですね」


「あぁ~! なるほど! ソコかぁ!」


「そう言われれば、直接的な言い回しじゃないね」


「全く~、気付きませんでした~」


「まぁ、そういう訳だから、リドル風のクエストのヒントが出てきても特におかしいことはないぞ」


「むしろ、こんな書庫でモンスターを倒せとかの討伐系のヒントを出されるよりも、よっぽど合理的ですよ」


「むぅ……。そういうことなら、仕方無いかな?でも、前のヒントならともかく、今回のヒントは全く意味が分からないよ? この地下書庫には私達しか居ないのに、賢者とか出てくるし」


「だね。それに賢者の遺言を見ろとか、この賢者って既に死んでるんじゃないかな?」


「もしかして~、幽霊さんを探す必要があるのでしょうか~?」


 リドル風のヒントを見て、迷走しているアリル達。

 そのアリル達の意見を否定するように、リーゼリアが声を掛ける。


「いえ、恐らくは今までのヒント同様、比喩(ひゆ)表現を用いて書かれているのだと思いますよ」


「比喩~……? なんだっけ、ソレ?」


「簡単に言うと、何かに例えて表現するってことだな」


「何かって、何にです?」


「そうですね……まず、この文をキーワードごとに区分すると、【背に火傷を負いし】・【灰色の】・【賢者】・【遺言】、の4つに分けることができますから、この中で別の何かに例えることのできるものを考えれば良いんじゃないでしょうか」


「だな。その中で何かに例えて表現しているものは……たぶん、【賢者】だろうな。【背に火傷を負いし】も【灰色の】も、【賢者】に掛かる言葉……修飾語(しゅうしょくご)だからそのままの意味に(とら)えて良いと思う。【遺言】も【賢者】に掛かっている言葉だけど名詞だし、半ば独立した言葉だけど、コレもそのままの意味でいい気がするな」


「なるほど~。勉強になります~」


「そうすると、【賢者】が何を指す言葉なのか、なんだけど……。誰か分かる人いる? 因みに、ボクは分からないよ」


「ん~……。私も~、分かりませんね~」


「私も分からないかな。前にも言ったけど……そもそも、こういうリドルを解くには、ある程度幅広い、様々な知識が要るから、自他共に認める(かたよ)った知識しか持ってない私じゃ、解くことは難しい。というか、ほぼ無理! だね。今なら脳筋の(そし)りも甘んじて受ける所存!」


「だね! ボクもパズルなら()だしも、ナゾナゾ解きは得意じゃないし、事リドルに関しては、戦力外の何者でもないから、適材適所ってことで、ボク達は本の整理をしてた方がいいかもね」


「私もです~。ですので~、心苦しいのですけど~、リドルの方は~、リアちゃんとリオンさんにお任せします~」


「いや、脳筋って……。それで良いのか、妹よ……」


「はぁ~。やはり、こうなりましたか。仕方ありませんね。今回は他にやることもありますし、ソレで構いませんが、やることの無い場合はリドル解明のため少しは手伝って下さいね。さすがに1人で解くのには限度がありますから」


「うん、了解だよ!」


「もちろんだよ!」


「はいです~!」


 アリル、ナギ、ユンファはやや胡散(うさん)臭いような満面の笑みを浮かべつつ、元気良く返事を返す。

 その後、まずはカウンターの上に置かれた山のように積まれた、返却された資料本の方へと行き、置かれていた本の整理を始める。


 因みに、シエルとネロは、地下書庫に着いた当初は、かくれんぼと鬼ごっこを混ぜたような遊びをしていたが、アリル達が本の整理をし始めてからは、シエルは念動で、ネロはストライフオウルに影装変化して、その手伝いをしている。


「はぁ~。返事だけは良いのですけどね……」


「リーゼリア……苦労してるんだな。その……相談には乗れると思うから、何かあれば言ってくれ。後、妹がアレで何かすまん」


「ご心配、ありがとうございます。ですが、ナギも言ってましたが、適材適所ですから、大丈夫ですよ。互いにできないことを(おぎな)い合ってこそのパーティですからね。私も遠距離攻撃や回復魔法、罠の有無や周辺の警戒等で助かってますから、お互い様というやつです」


「そうか。なら、大丈夫そうだな」


 そうやってリーゼリアと話していると、カウンターで返却された資料本を整理していたアリルから、声が掛かる。


「それはそうと、結局【賢者】は何を指す言葉だったの?」


「あー、ソレな。う~ん……俺は一応ソレも含めて全部分かったけど、リーゼリアはどうだ?」


「私ですか? そうですね……【賢者】が何を指し、【背に火傷を負いし】と【灰色の】が何を言っているかも分かりましたが、【遺言】だけがちょっと分からないんですよね。私の行き着いた解釈だと、ヒントにしては、幅が広すぎる気がして」


「そうなのか? それなら、リーゼリアの解釈を聞いてその都度、俺が補足するって形で答え合わせしてみるってのはどうだ?」


「良いですね。そうしましょうか」

 

 そうして、俺とリーゼリアはキークエストのクエスト詳細にあった、リドル風のヒントの解釈を披露(ひろう)していく。


「ではまず、【賢者】についてですが、一般的に【賢者】とはどういう人物のことをいうでしょうか?」


「えっと~、物知りな人、とかかな?」


「漢字のまま解釈するなら~、やっぱり賢い人~、でしょうか~?」


「物語だといろんな事を知っている人だったりするよね」


「ですね。つまり【賢者】とは多くの知識を有する者ということです。そして、ココ……地下書庫において多くの知識を有するものというのは、本に当たります。本は様々な知識を文章として列記して集めたものだからです」


「おおー! なるほどー!」


「さすがリアちゃん! ()えてるね!」


「すごいです~!」


 アリル達の賞賛を受けつつリーゼリアは、こんな感じになりましたが、どうでしょうか?と言うように、コチラに目を向けて来る。

 俺はそんな視線に頷き返し、同じ解釈に行き着いたことを知らせる。


「それを踏まえますと、【背に火傷を負いし】というのは、本にある背……つまり背表紙に、火傷=火による傷……()げ跡があるということになり、【灰色の】はその本の装丁(そうてい)を表しているのだと思います。リオンさんの方ではどうでしょうか?」


「ああ。俺の方でもそこまでは同じ解釈になったな。それで、リーゼリアはどう【遺言】の部分を解釈したんだ?」


「えっと、そうですね。【遺言】は故人が自らの死後のために遺した言葉や文章……つまりその本に書かれている内容全てが当て嵌るんじゃないかと、考えたんです。ですが、ソレだとヒントにしては漠然(ばくぜん)とし過ぎているし、範囲も広過ぎる気がして……」


「あーなるほど。リーゼリアはソッチで考えたのか」


「リオンさんは、違うんですか?」


「ああ。俺は【遺言】はその人が遺す最後の言葉って解釈したな。ほら、よくサスペンスや復讐劇とかで、犯人が相手を殺す時に、その相手が言った言葉を聞いて犯人が、『それがお前の【遺言】だな。』って言ったりするじゃないか」


「ふむ、最後の言葉、ですか。そう言われれば、そんなことをよく言いますね」


「ああ。それで最後の言葉と言えば、何処にあると思う?」


「それは……本ですから、最後のページではないでしょうか?」


「だな。つまり、今回のヒントは……『背表紙に焦げ跡が付いた、灰色の本の最後のページを見ろ』って解釈になるってことだな」


「おぉー……! リアちゃんもお兄ちゃんもすっごーい!」


「だね! でもやっぱり、ボクにはリドルが無理ってよく分かったよ」


「確かに~。私では~、到底正解にたどり着くことはできたかったでしょうね~。お2人共すごいです~」


「いえ、柔軟な考えができれば、誰でも解けるものだと思いますよ? ですが、これでやるべきことが分かりましたし、本の整理をしながら、背表紙に焦げ後が付いた、灰色の本を探すとしましょうか」


「だな」


「だね!」


「よーっし! そういうのなら、けっこう得意だよ」


「はぅ~。探し物ですか~。リドルよりかはマシですけど~、苦手なんですよね~。困りました~」


「泣き言を言わない! 皆でやればある程度探すのだって早いはずだし、がんばっていこうよ! ね?」


「うぅ~。分かりました~。がんばってみます~」


「その意気その意気。それと、シエル、ネロ。2人には、探索を頼みたい。本を運ぶのは俺達でやるから、背表紙に焦げ跡の付いた灰色の本を探してくれ。それで、もしも見つかったら、教えて欲しい」


『うん! わかったー!』


「ホオォォォー!」


「ありがとう。それじゃ、よろしくな」


 そうして俺達人間組は、まずカウンターの上に積まれた本を整理した後、その本をそれぞれの書架へと運んで行き、モンスター組は、俺の指示通りに書架へと向かって行き、背表紙に焦げ跡が付いた灰色の本を探していった。


 因みに、汎用魔法を習得するために受けた、《地下書庫の整頓》のクエスト詳細は現時点では、以下のようになっている。


『依頼名:地下書庫の整頓


依頼内容:

街役場の人から、地下書庫の整頓を依頼された。

休憩は自由に取って構わないらしいが、期限は明日いっぱいまでだそうだ。

期限を過ぎないよう気を付けつつ、地下書庫内にある資料本を請求番号に沿って、元あった場所に全て戻そう。


依頼目的:地下書庫内にある資料本の整頓。


依頼報酬:

汎用魔法習得結晶・風  汎用魔法習得結晶・影


依頼状況:返却率 73/100%  整頓率 48/100%     』




 ◇◇◇




 あの後、5分、10分、30分と整理しながら本を請求番号通りに戻していくが、目当ての本は(いま)だ見つかっていない。

 シエルやネロの方でもまだ見つからないようで、一向に発見の報は無かった。


 そうやって黙々と資料本を片付けていると、単純作業に飽きたのか、パーティチャットで声が上がる。


『そういえば、あの……審査員の人の質問って、結局何だったんだろうね?』


『何と言われましても~、審査のための質問だったのでは~?』


『いや、そうじゃなくて。あの質問に対して、嘘偽りがなければ誰でも合格できたのかなぁ? って思ってさ。それに、話している内容が嘘かどうかなんて、早々分からないと思うんだけど、どうやって見分けたのかな?』


『それはたぶん、あの審査員の人が掛けていた眼鏡の効果とかじゃないかな? センス系の魔法で、嘘を見破る、センスライや本当の事を言っているか分かる、センストゥルーっていうのがあるから、その効果が付与された魔道具って可能性も十分あるよ』


『へ~。そんな魔法もあるのか』


『うん! 結構種類も豊富だけど、ある分野? に特化した効果ばかりだから、使い勝手は悪いけどね。でもその分、特定の事象に対しては絶大な効果を発揮するから、中々バカにできないんだよね』


『あっ! それじゃもしかして、ガルシアさんが掛けてた片眼鏡(モノクル)にも、そういう効果が付与されていたかもしれないね』


『ですね~。もしも掛かっていたとすれば~、あの時の状況から考えて~、生者と死者を見分けるようなものと~、私達が嘘を言っていないかどうかを調べるものですかね~?』


『確かに、ありそうですね。ですが、質問の内容を思い出してみますと、ソレだけでは無理のように思えますね』


『だな。最初の質問が、何処で或いは誰に、汎用魔法のことを聞いたか、だったしな。可能性としては……特定の人物からの紹介か、それに準ずるようなことが無いと、ダメだったのかもしれないな』


『なるほど~。それなら特定人物との関与についての質問で~、嘘偽り無く答えれば~、ほぼ~! その特定人物からの紹介とも言えますね~』


『そのことを踏まえますと、今やっている依頼は、差し詰め特定人物からの紹介では足らない部分を計るための試験といったところでしょうか』


『え?! 審査って、質問だけで終わりじゃなかったの?!』


『審査員の人もこれで質問は終わります。とは言っていたけど、これで審査を終了しますとは言ってなかったからな。可能性としては十分有り得ると思うぞ?』


『うへぇ~……。ちょっと慎重(しんちょう)過ぎないかな? それぇ』


『まぁ、仕方無いじゃない? 悪用される可能性がある汎用魔法らしいから、使い手の選別に多少慎重になっても、なり過ぎることは無いんだと思うよ』


 そうやって雑談に興じながら、せっせと資料本を対応する書架へと戻していくと。

 何時の間にカウンターの下に入っていたのか、ネロが1冊の本を掴みつつ飛び上がり、その本を持って俺の所に飛んで来る。


『お! もしかして、見つけたのか?』


『うん! たぶんコレだとおもうよー』


 俺は若干期待を込めつつも、念話でそうネロに尋ねると、案の定ネロは見つけたことを肯定(こうてい)する言葉が返ってくる。

 

 俺は飛んで来たネロから本を受け取ると、その本は俺達が探していた条件に合致する、背表紙に焦げ跡が付いた、灰色の装丁の本だった。


「おお! ネロ、お手柄(てがら)だな。よくやった! えらいぞ」


「ホホオォォォー!」


 そうやってネロを褒めつつ、一先ず俺達が出した解釈が正しかったのかを調べるため、素早くメニューを開き、キークエストのクエスト詳細の部分を開きながら、ネロが持って来た本の一番後ろページを開け見てみる。

 すると、キークエストのクエスト詳細の第1条件がクリアになり、第2条件が開示されていた。



『キークエスト【復活! 古の遺構】  2/3


・第1クエストクリア!  ●●●


・第2クエストクリア!  ●●●


・灰色の賢者の遺言に従い、五色(ごしき)の賢者を正しき寝所(しんじょ)へと(いざな)え  0/5  ●○○○


                                                        』




 今度は五色の賢者を正しき寝所へと誘え、か……。

 文面的には恐らく、こんな感じかな?


 五色の賢者…5つの各色に装丁された本

 正しい寝所…どれかの書架の特定の場所

 誘え…持っていけ

 

 まぁ、灰色の賢者の遺言を見れば、詳しいことも分かるだろうけど、目的の本も見つかったことを皆に伝える方が先決だな。

 このままだと、絶対に見つからない本を、永遠に探すことになる破目になるしな。


 そう考え、俺はネロ同様、背表紙に焦げ跡の付いた、灰色の装丁の本を探しているシエルにも分かるよう、念話で全員に話し掛ける。


『皆! ネロが目的の本を見つけてくれたぞ。クエスト詳細にあった通り、遺言……最後のページを見たら、第2条件も開示されたから、間違い無いはずだ。このまま口頭で内容を話しても良いけど、実際に見た方が、何か解決の糸口みたいなものを(つか)めるかもしれないから、1度全員カウンターに戻って来てくれ』


『分かりました』


『うん! 分かったー』

 

『了解でっす!』


『分かりました~。』


『はーい!』


 その後、俺もカウンター付近へと戻り、少し待つと、全員が揃った。

 それから、灰色の賢者の遺言を順々に回して読んでいった。

 件の本の最後のページには、他の本のページに書かれている手書きの文とは違い、まるで現実にある書物のように、全て均等の大きさで、(ゆが)み等は無い、印刷された活字が記されていた。


 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


  五色の賢者を正しき寝所へ導かれよ さすれば道は開かれん


  五色の賢者は 同居人 最も大いなる黒き家にて 居を構う


  五色の賢者は 働き者 日がな一日その背に日を浴び 陽光色に輝く背を持つ


  赤き賢者は 暑がりや 常にいと涼しき気在りし場所にて 眠りゆく


  青き賢者は 寒がりや 常にいと暖かき気在りし場所にて 眠りゆく


  白き賢者は 怖がりや 常に最も早き光差しし場所にて 眠りゆく 


  黒き賢者は 怖いもの知らず 常に最も早き闇訪れし場所にて 眠りゆく


  黄金の賢者は 臆病(おくびょう)者 常に最も守り厚き場所にて 眠りゆく


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ふむふむ、なるほど~。コレなら、上から3行目までなら、私でも分かるね♪ アレでしょ? 【五色の賢者】っていうのは、赤・青・白・黒・黄金の5色の装丁を持つ本のことで、【正しき寝所へ導かれよ さすれば道は開かれん】っていうのは、対応する場所に各5色の本を置くことで、何処かに(つな)がる道が(あらわ)れるってことでしょ?」


「だね。それと、【五色の賢者は 同居人 最も大いなる黒き家にて 居を構う】ってのは、5色の装丁を持つ本を置く正しい場所は、あの1番大きい黒い書架にあるってことだよね」


「ですね~。それに~、【五色の賢者は 働き者 日がな一日その背に日を浴び 陽光色に輝く背を持つ】というのは~、5色の装丁を持つ本全ての背表紙が~、陽光色~……たぶん金色をしているということではないでしょうか~? もしも違っていても~、この灰色の装丁の本と同様のものなら~、請求番号が背表紙に無い本を探せば良いはずですしね~」


「ふむ、そこまでは良いようですね。リオンさんはどうですか?」


「俺も同じ解釈になったな」


「ふふーん♪ 私だってできる時はできるんだよ!」


「やったね! アリルちゃん、ユンファちゃん!」


「はいです~。これで~、脳筋の汚名も返上できます~!」


「ははっ。それで後は、その下の5行の解釈だけど……」


「あ、それじゃ私達は、本の整理をしてるね。今ので結構頭使ったから、これ以上は無理そうだし」


「だね。いや~、がんばったなぁ! 頭が疲れて無かったら、もう少しいけたんだけど……ホントウザンエンダナァー」


「ということで~、リオンさん~、リアちゃん~。後はよろしくお願いしますね~! 何か分かりましたら~、また(しら)せて下さいです~」


 そう俺が次のリドルに進もうとすると、アリル・ナギ・ユンファは、まるで事前に示し合わせていたかのように、息をピッタリと合わせながら言い訳を始め、そそくさとまだカウンターの上に積まれている本の山へと向かって行った。


 いや、そこまで露骨に嫌がらないでも良いだろうに……。

 別に、リドルの解読を無理強いする心算(つもり)は無いんだけど、そんな逃げる程嫌だったのだろうか?

 

「はぁ。あの子達はもぅ。仕方ありません。残りは私とリオンさんで解くことにしましょうか」


「だな。っと、そうだ。……おーい! 本の整理しながらでいいからー、背表紙が金色でー、本の装丁が赤・青・白・黒・黄金の本を探しておいてくれー!」


「はーい!」


「分かりましたー!」


「探してみます~!」


 俺が思い出すように、【五色の賢者】を見つけるように頼むと、アリル達から色好い返事が返ってくる。


「これでよしっと。ああそれと、シエル、ネロ、引き続き本の探索を頼みたい。今度探す本は、背表紙が金色で、本の表と裏がそれぞれ、赤・青・白・黒・黄金色の物だけど、大丈夫そうか?」


 俺は今持っている背表紙に焦げ跡の付いた灰色の装丁の本で、探索して欲しい本の外見を説明し、シエルとネロに質問する。


『えっと……いちばんせまいところがきんいろで、それいがいのおおきいところが、あか・あお・しろ・くろ・おうごんいろのほんだね! うん、わかったー!』


「ホオォォォー! ホオォォォー!」


 シエルはひまわりのような笑顔を浮かべつつ、返事を返し、ネロはコクコクと頷いた後、元気良く返事をするように、鳴き声を上げる。


「うん、良さそうだな。それじゃ、よろしくな」


『いってきまーす!』


「ホオォォォー!」


 俺がそう頼むと、シエルとネロは資料本が納められている書架へと移動していった。


「さて、それじゃ考えていくか」


「はい」


 そうして、俺とリーゼリアは、灰色の賢者の遺言にある文章の解読を始めていった。


 まず、今までで分かっていることを整理すると……。


 【五色の賢者】を正しい場所に納めることで、何処か別の場所へと通じる道が現れること。

 【五色の賢者】の外見は、背表紙が金色で、各5冊の本の装丁が、赤・青・白・黒・黄金色であること。

 【五色の賢者】を納める場所は、1番大きな黒い書架になること。

 

 そして、これらのことを踏まえると、後足りない情報は【五色の賢者】を納める正確な場所だ。


 その正確な場所を示す文が5行目以降になる。


  赤き賢者は 暑がりや 常にいと涼しき気在りし場所にて 眠りゆく


  青き賢者は 寒がりや 常にいと暖かき気在りし場所にて 眠りゆく


  白き賢者は 怖がりや 常に最も早き光差しし場所にて 眠りゆく 


  黒き賢者は 怖いもの知らず 常に最も早き闇訪れし場所にて 眠りゆく


  黄金の賢者は 臆病者 常に最も守り厚き場所にて 眠りゆく


 各文の頭……1小節目が、どの色をした装丁の本かを表し、2小節目で各色の賢者の性格……というか、本を擬人化した場合の後付けのようなものになっており、3小節目の前半の文で、その詳しい場所を示している。

 3小節目の後半の【場所にて】から、4小節目の【眠りゆく】は全て共通だが、特にコレというヒントでは無いので、置いておくとする。


 以上のことを念頭に、各色の本を何処に納めるかを考えると、このようになる。


 赤い装丁で金色の背表紙を持つ本を納める場所⇒いと涼しき気在りし場所


 青い装丁で金色の背表紙を持つ本を納める場所⇒いと暖かき気在りし場所


 白い装丁で金色の背表紙を持つ本を納める場所⇒最も早き光差しし場所


 黒い装丁で金色の背表紙を持つ本を納める場所⇒最も早き闇訪れし場所


 黄金色の装丁で金色の背表紙を持つ本を納める場所⇒最も守り厚き場所


 

 そしてここから更に、文を分かり易く解読していく。

 まず、赤と青の賢者の文に出てくる【気】とは空気のことで、一般に冷たい空気は下に、暖かい空気は上に流れる。

 このことから推察するに、【赤い賢者】の寝所は黒い書架の1番下の何処かに、【青き賢者】の寝所は黒い書架の1番上の何処かとなる。


 だが、この解釈ではまだ足りない部分がある。

 それは、各文に含まれる【いと】と【最も】というところだ。

 この【いと】は古語で、現代語に訳すと『とても』とか、『はなはだしい』とかで、普通の状態ではなく何かを強調する働きを持つ言葉だ。

 【最も】は現代語ではあるが、ある意味合いやグループの中で1番を意味する言葉で、先程の【いと】と同様に、普通や標準等ではないことを表すための言葉になる。


 そして、ここで言うところの普通とは何を意味するかだが……あの1番大きな黒い書架の中には、【五色の賢者】以外の本が入っており、請求番号で何処にどの本が入るか決まっている。

 そのことから考え、この普通は【五色の賢者】以外の賢者……つまり、このキークエストに関係無い他の資料本を指すことになる。


 だけど、この考えを通すためには、ある前提が必要な訳で……残念なことにここからでは、この地下書庫内で1番大きい黒い書架を見ても、その前提が存在するか分からない。

 …………仕方ない。

 リドルの解読はまだ終わっていないが、前提条件が揃って無いと導き出した答えが合わないことになるので、ここは先に黒い書架を調べてみることにしよう。

 

 そう思い、俺はすぐ近くでリドルの解読をしているリーゼリアに声を掛ける。


「リーゼリア、ちょっといいか?」


「あ、はい。なんでしょうか? ……はっ! まさかとは思いますが、もう解けたんですか?!」


「あー、いや。まだ途中だな。で、その考え中に少し気になることが出て来たんだ」


「気になること、ですか?」


「ああ。それで、その気になることを解消するために、少しこの場から離れることを伝えて置きたくてな」


「そういうことですか。分かりました。私はここで引き続き、解読をしていますので、何かあればパーティチャットで連絡を下さい」


「分かった」


 そうして俺は1度リーゼリアと別れ、気になったことを確かめるべく、黒い書架へと向かって行った。

 

 黒い書架より少し小さい薄茶色の書架という障害物はあったが、黒い書架までの道が入り組んでいる訳でもないので、然程時間は掛からずに、目的の書架の前まで到着することができた。


 黒い書架は、高さは3m、幅4m強、奥行き40cm弱で、他の書架に比べ、段が2つ多い7段で、各棚を区切る仕切りも2つ多く5つある。

 対して、他の書架は、目測で高さ2m、幅3m強と、1回り小さいが、奥行きは黒い書架と同じ位だった。

 

 黒い書架の裏に回ってみると、本を収納する棚は無く、つるりとした背面に、1辺が1m程の逆正三角に各辺の1/3辺りから別の辺の1/3辺りまで弧を描くように結ばれ、逆Yの字の怒筋に見える紋様が()り込まれていた。


 黒い書架の下を見てみれば、この地下書庫と一体化しているようで、まるで床から書架が生えているように、悠然と(そび)え立ち、まるで周囲の薄茶色の書架を睥睨(へいげい)しているようにも見える。

 反対に、薄茶色の書架の方は後付けらしく、全力で持ち上げたり、押したりすれば、資料本が入ったままの書架だったが、僅かにだが動かすことができた。


 しっかし、大きいとは思っていたけど、こんなに大きいと上の棚にある本とか取り難くないかな?


 そう思いつつ、再び黒い書架の正面へ立ち、黒い書架の全体を(なが)めて見ると、書架の端には高い場所の棚から本を取るための梯子(はしご)が掛かっているのが見える。

 

 なるほど、あれに乗って本の出し入れをするのか。

 さて、それじゃ疑問も解消されたことだし、前提条件の確認をしていくとしますか。

 今のところ解読できたのは、赤と青の賢者の寝所の場所だ。

 但し、正確な位置までは分かっていないが、他の本を納める所よりも上や下にあることは分かったから、その辺りを慎重に調べて行くとしよう。

 梯子に乗ったまま調べるのは危ないから、まずは赤の賢者の寝所の位置の特定からかな。


 そうして、俺は黒い書架の1番下の棚の更に下の部分に手を()わせながら、慎重にそれらしい所が無いか探していく。

 因みに、見落とし等が無いように、しっかりと見ているが、発見のスキルから天眼のスキルへと進化したにも関わらず、スキルレベルが足りないのか、今のところ隠された何かに反応する(きざ)しは無い。


 そうやってしばらく手を、書架の1番下の棚の更に下の部分を()でるように調べていくと、中央の仕切り……数にして、両端から数えて3つ目の仕切りの真下に、丁度本を1冊入れるのに適したスリットがあるのを見つけた。


 スリット部分はバネ仕掛けなのか、(ふた)部分を押し開くことで、本が1冊入る位の(すき)間ができる仕掛けになっており、押し開いた蓋から手を離すと、蓋は元の位置に戻り、パッと見、何処にスリットがあるのか分からないようになった。


 なるほど!こういう仕掛けか。

 コレならおいそれとは見つからないだろうから、街役場の人達にもバレることは無いだろうな。

 だけど、これで前提条件は揃った訳だから、俺の解読に対する裏付けが取れたことになるな。

 

 そうすると、一旦ここは戻ってリドルの解読を進めるより、他に同じ様なスリットみたいな場所を探して当てる方が良いかもしれないな。

 あ、いやでも……今のところ暫定(ざんてい)的に解読できた場所は2つだから、他の3箇所の解読結果が無いと、闇雲にこの大きい黒い書架を、文字通り手探りで探すことになるから、非効率的か。


 ふむ……それなら、暫定的に解読できたもう1つの場所を特定したら、リーゼリアの所に戻るべきかな?

 いや、戻らずに解読できたか聞けばいい気もするが……とりあえず、現在分かっていることの報告を先にするとしよう。


『リーゼリア、今大丈夫か?』


『あーはい。大丈夫ですよ。それで、気になっていたことはどうでしたか?』


『ああ、当たりだった。その結果、暫定【五色の賢者】の正しい寝所の内の1つを発見した』


『おお! さすがですね。それで、どの色の寝所を見つけたんですか?』


『一応、赤の寝所のつもりだ。さっき、この黒い書架に来る前に解けたのは、赤と青の寝所の位置だったからな』


『なるほど。それは丁度良いかもしれませんね』


『ん? どういう意味だ?』


『私の方では、赤と青の寝所が何処にあるか分からなかったので飛ばし、つい先程、白と黒の寝所の位置を解読したところなんですよ』


『へぇ。そりゃ本当に、丁度良いタイミングだな。それで、どう解読したんだ?』


『はい。白と黒の賢者の文に出てくる【光差しし】と【闇訪れし】ですが、恐らく同一のものの動きを2つに分けて表現しているものだと考えたんです』


『どうしてそう思ったんだ?』


『それは2行目にある、【五色の賢者は 同居人 最も大いなる黒き家にて 居を構う】という文から、黒い書架のことを家に例えているのが分かりますよね?』


『ああ』


『それで、家に居る状態で時間による変動が起こる事象で、最も早く光が差す現象と、最も早く闇が訪れる現象は何か? と考え、その結果……太陽の運行によってもたらされる事象であると推測しました』


『あぁ! なるほど。確かに太陽の日の出は、最も早く光が差す現象で、太陽の日の入りは、最も早く闇が訪れる現象と言えそうだな』


『はい。ですので、白い賢者の正しい寝所は太陽の光が1番早く差す、東端(とうたん)に、黒い賢者の正しい寝所は太陽の光が1番早く届かなくなる、西端になるんだと思います』


『おぉ~。そう聞くと、ソレしかないって感じの解答だな。……うん、理にも適っているし、おかしいところも無い。すごいな。完璧な模範解答なんじゃないか?』


『いえいえ。リオンさんなら、しっかりと考える時間があれば、この解釈にすぐに行き着くと思いますよ? 様々な知識量としては、この中では1番だと思いますし、柔軟(じゅうなん)な発想も持ってますしね』


『ん~、そんなことは無いと思うけど……まぁいいか。それよりもリーゼリアは、どの方角が何処かとか分かったりするか?』


『え? ……そうですねー……この街役場の入り口が南にあって、途中で審査員に案内された部屋がありましたけど……入り口からほぼ直進で、この地下書庫への入り口へと案内されましたから、恐らく地下書庫へ降りる階段がある方が、南でしょうね』


『そっか。ということは、顔を南に向けて……左側が東、右側が西だな。リーゼリアの解釈が正しければ、左端と右端に本を入れるスリットか何かあるはずだから、ちょっと探してみるな』


『それでは、私もそちらに行きます。2人の方が探すの早いでしょうし、純粋に気にもなりますから』


『分かった。それじゃ、俺は左側……東の方を探してるから、リーゼリアは西……反対の方を頼む』


『分かりました』


 その後、程無くしてリーゼリアが合流し、どうやって【五色の賢者】の正しい寝所らしき場所を見つけたか、実践しつつ説明し、先程決めた担当の場所を手で撫で(さす)りして、探索する。

 しかし、黒い書架の東端に位置する書架の側面や、暫定赤の賢者の正しい寝所を発見した時のように一番端の仕切りを触りつつ調べるが、一向にソレらしきものが見当たらない。

 リーゼリアの解釈が間違っていたとは考え難い。

 それなら、調べた所以外で、東端に位置する場所は……書架の側面の内側とかだろうか?


 そう考え、俺はまばらに本が入っている黒い書架の側面の内側に位置する場所を、下の段から順に、丁寧(ていねい)に触りながら、調べていった。

 すると、7段ある内の中央の段……数にして、上と下の両方から数えて、4段目の書架の側面の内側に位置する若干奥まった所に、直径3cm程の半円の(くぼ)みを発見する。

 窪みに指を掛け、力を入れてみると、内側に引く開き戸のようになり、丁度1冊の本が入る位の長方形の窪みが姿を現す。

 

 なるほど、今度はこういう仕掛けか。

 よく考えてみれば、書架の端の仕切りや書架の側面等は、よく人が触ったり、不意に接触してしまう場所であるから、不用意に触れてすぐに分かるような所なんかにはしないよな。

 さて、それっぽい場所も分かったことだし、リーゼリアの方はどうなってるか聞いてみるとしよう。

 

『リーゼリア、こっちは見つかったけど、そっちはどうだ?』


『いえ、まだ見つかってません。リオンさんが言ってたように、手で撫で摩りしてるんですけど、何処にもそれらしい反応は無いですね。リオンさんの方は、何処にあったんですか?』


『俺の方は、この書架の側面の内側だな。詳しい場所は、1番上の段と1番下の両方の段から数えて、4段目の内側の側面の若干奥まった所に、直径3cm位の半円の窪みを見つけたんだ。それで、その半円の窪みに指を引っ掛けて、引っ張ったら本が1冊入る位の窪みが出たんだ』


『なるほど……そんな所に。…………あ、こちらにもありました。どうやら聞いた限りでは、同じ仕掛けのようですね』


『へぇ~。文章も色も対になっていたし、仕掛けの方も対になってたのかな? まぁとにかく、コレでリーゼリアの解釈が合っていたってことになるから、残りは後1つだな』


『そうなりますね。残りは、【黄金の賢者は 臆病者 常に最も守り厚き場所にて 眠りゆく】という文ですね』


『ん~……キーワードは【最も守り厚き場所】だよな』


『はい、私もソコだと思います』


『守りが厚いって、普通はどう思う?』


『それは……防御力が高いとか、守っている人が多いとか、でしょうか?』


『ふむ……守っている人が多い……か。…………そういえば、正体は本なのに、本のことを賢者って言って、擬人化してるよな』


『あー、確かに。ということは……縦横に並んでいる本の数が1番多い場所の中間地点が、【最も守り厚き場所】になるのではないでしょうか?』


『だな。そうすると……書架に納められる本の数は普通決まっているが、【黄金の賢者】以外の赤・青・白・黒の賢者を嵌め込む場所があるから、【黄金の賢者】以外の四色の賢者の正しい寝所を対同士で結んだ線の交点の部分が、暫定【黄金の賢者】の正しい寝所の場所になる訳だな』


『…………確かに、ソコが【黄金の賢者】の正しい寝所になる気がしますね。東端も西端も1番上と1番下から数えて、4段目にありましたから、その段の丁度中間地点になるのは……両端から数えて3つ目の仕切りになりますね』


『お! その仕切りの真下に、推定赤の賢者の正しい寝所があったから、たぶん間違い無いんじゃないか? まだ青の賢者の正しい寝所は見つけてないけど、3つの正しい寝所から出た線の交点だから、ほぼ確定で良いと思うぞ』


『ですね。ですが、場所の確認はして置いた方が良いはずですから、念のため、実際に見て置きましょう』


『分かった』


 その後、俺とリーゼリアは、推定【黄金の賢者】の正しい寝所と思しき場所を手で実際になぞりながら調べ、(つい)にはその場所をつきとめることに成功した。

 しかし、その場所は確かにソコにあるのに、今までの赤・白・黒の正しき寝所のように仕掛けを動かし、本が入るような隙間があるのかどうかの確認はとれなかった。

 

 仕掛けとしては、推定赤の賢者の正しき寝所に似ていたが、どうやら2つの蓋を押し開けるタイプのようで、その押し開く蓋に何かが引っ掛かっていて、蓋を押し開けることができなかった。


「ん~、開きませんね。場所はココで合っているはずですから、何らかの条件が足りないのでしょうか?」


「う~ん……条件ねぇ。何か条件を示唆(しさ)するようなヒントとかあったかなぁ?」


 俺はそう(つぶや)きつつ、再度灰色の賢者の遺言の最後の行を見ていく。


 【黄金の賢者は 臆病者 常に最も守り厚き場所にて 眠りゆく】


「臆病者に……常に最も守り厚き場所、か……もしかして、この黒い書架に対応する全ての本を納めないと、仕掛けの鍵が開かないのかもしれないな。常にってことは、常時、何時もってことだから、黒い書架という家に、対応する全ての賢者という守り人が居ないと安心できないんじゃないか? ヒントの文にも、【黄金の賢者は 臆病者】ってある位だしさ」


「あー……言われてみれば、そんな気がしますね。確かに臆病者らしいです」


「だろ? まぁ、今言った推測が合っているかどうか確認するためには、この黒い書架を対応する本で()め尽くさなきゃいけないから、先にこの地下書庫の整理を済ます方が、後々楽かもしれないな」


「ですね。それでは、一先ずそういう方向で行動して行きましょうか。どちらにせよ、地下書庫の整理はしなきゃいけませんしね」


「だな。それじゃ、アリル達に事情を話して、地下書庫の整頓をがんばるとしようか」


 そうして、俺は念話で、リーゼリアはパーティチャットで、今までのことを報告し、皆の協力の下、【五色の賢者】の探索と地下書庫の整頓を行っていった。




 ◇◇◇




 ―――2時間後。


 皆の(たゆ)まぬ努力のかいあって、日付が変わる20分前で、汎用魔法が報酬のクエストを終わらせることができた。


『依頼名:地下書庫の整頓


依頼内容:

街役場の人から、地下書庫の整頓を依頼された。

休憩は自由に取って構わないらしいが、期限は明日いっぱいまでだそうだ。

期限を過ぎないよう気を付けつつ、地下書庫内にある資料本を請求番号に沿って、元あった場所に全て戻そう。


依頼目的:地下書庫内にある資料本の整頓。


依頼報酬:

汎用魔法習得結晶・風  汎用魔法習得結晶・影


依頼状況:返却率 100/100%  整頓率 100/100%     』


 そして現在、【五色の賢者】の内【黄金の賢者】以外を正しい寝所へと誘い、後は【黄金の賢者】を推定正しい寝所へと運び入れる段になっている。


 因みに、【五色の賢者】と称される5冊の本の内容は、特定の種族言語を習得していないと読めないものがあり、結局【青き賢者】の水性生物の生態と特徴を書き記されていたものと、【黄金の賢者】の竜の習性についての記録と考察という2冊の内容しか読み取ることができなかった。 


「……よし、確認できたぞ。やっぱり、この黒い書架に対応する本を全て正しく収納しないと、ロックが外れない仕組みになっていたみたいだな」


「はぁ~。ここまで長かったー!」


「だね~。シエルちゃんとネロちゃんを入れて、7人も居たのに、本の整理に2時間以上も掛かったもんねー」


「ですです~。本は当分見たくなくなりました~」


「ですが苦労した分、達成感もありますし、偶にはこんなことがあっても良いと思いますよ? それに、今後の展開次第では、その溜まった鬱憤(うっぷん)を晴らす、絶好の機会が来るかもしれませんしね」


「本当、そうであって欲しいところだよ」


「それじゃ、入れるから少し離れててくれ。今までのことから、人を巻き込んで怪我をさせるような仕掛けは無かったけど、用心するに()したことは無いからな」


「了解でっす!」


「分かりました!」


「はいです~」


『はーい!』


「キュゥウ!」


「はい。リオンさんも、気を付けて下さいね」


「ああ、ありがとな。それじゃ、入れるぞ」


 そうして、俺は黒い書架の中央部にある、スリットに全面黄金色に輝く本を差込み、奥まで差し込んだことを確認後、更に背表紙を押して、完全にスリットの中へと、本を押し込む。


 ―――カチッ――ズズズズズズズズズズズズ……


 バネ仕掛けのスイッチを押し込むような手応えを感じると、黒い書架自体が自転するように時計回りに動き出す。


 ―――カチンッ! ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 黒い書架が時計回りに1回転すると、何かが外れるような音を響かせ、黒い書架が地下書庫の奥の方へと次第に移動していく。


 …………ゴゴンッ! ―――バシュシュシュシュシュシュシュシュシュンッ!!


 黒い書架の移動が終わった次の瞬間、黒い書架が動いた後の床に横線の切れ目が生じ、一瞬にして床だったものが段々に沈み、階段へと変化する。

 

 空気を勢い良く抜くような音が鳴り止むと、そこには新たな地下への入り口が出来上がっていた。

 新たな地下への入り口の階段は緩やかなカーブと勾配(こうばい)を描いており、まるで螺旋階段のようになっており、その先がどうなっているかは分からない。

 但し、今までと違い、階段の溝が光っているため、足元に注意する必要はなさそうだった。


「おおー! 床が一瞬で沈んで、階段になったー!」


「今までに無いタイプの反応だね!」


「ですね~。新鮮味を失わせない、(たくみ)の心意気が感じられますね~」


「いや、そこまで考えてのことではないと思うんだが……」


「確かに。それはそうと、新しい道も開いたことですし、これで恐らくはキークエストの新たな条件が開示されたのではないでしょうか?」


「あー、そう言えば今ので、第2条件をクリアしたんだったね」


「それじゃ、クエスト詳細を確認してみよっか」


「ですね~」


 その後、クエスト詳細を見てみると、案の定キークエストの第2条件がクリアになっており、第3条件の詳細が開示されていた。



『キークエスト【復活! 古の遺構】  2/3


・第1クエストクリア!  ●●●


・第2クエストクリア!  ●●●


・守護者を倒し、空間の制御球を奪取しろ  0/1  ●●○○


                                   』


「いっよーし! 戦闘条件きたー!」


「溜まりに溜まったこの鬱憤、一気に晴らすチャンスだね!」


「このチャンスは逃せませんよ~!」


 余程ストレスが溜まっていたのか、アリル達のテンションは異常に高い。


「ずっと本の整頓や請求番号の仕分けで、色々と溜まっているのは分かりますが、油断は禁物ですよ」


「そうだぞ。それに、今までと違って守護者を倒して、制御球を奪取しろってあるから、この遺跡ってか施設ってまだ現役である可能性も十分にあるから、本当に気を付けた方が良いと思うぞ? せっかくここまで誰1人欠かすことなくこれたんだし、このまま全員でクエストクリアしたいじゃないか」


「むむ! 確かにまだこの施設が生きている可能性はありそうだね。地下への階段も明かりがいらない位明るいし。……うん、不測の事態になってからじゃ遅いしね。しっかり、気を引き締めるとするよ!」


「うんうん! 注意1秒、怪我1生ってやつだね!」


「ですね~」


 そうして俺達は隊列を組み、新たに出来た地下への階段を下りて行った。

 しばらくぐるぐると、緩やかな螺旋階段を下へ下へと下りていくと、何時しか階段が終わり、その先には、半径十数m強、高さ20m程の広い半球上の空間が広がっていた。


 ドーム状の床や壁、天井には、これまでの地下施設と同様に、基盤の回路のような溝が無数に彫られており、その溝から白い光を発し、ドーム内を真昼の(ごと)く照らし出している。

 

 こちらからドーム内を見ている入り口の反対側を見ると、そこには、天井に届かんばかりの巨大な扉があり、その扉の中心部に、地下書庫にあった黒い書架の裏面でも見た、逆正三角に各辺の1/3辺りから別の辺の1/3辺りまで()を描くように結ばれ、逆Yの字の怒筋(どすじ)に見える紋様が()り込まれていた。

 

 そして(あたか)もその扉を守るように、その巨大な扉の前には、このドーム状の空間を守護する存在であろう、ずんぐりむっくりとした、灰色の大きな人型のようなものが、鎮座(ちんざ)していた。

 その存在を簡単に言い表すなら、巨大なゴーレムというのが相応しいだろうか。

 

 巨大なゴーレムは未だ片膝を着く形で待機しているため確かなことは言えないが、目測で全長5~6m程もあり、両腕が両足よりも長いように見えるため、灰色の無骨(ぶこつ)なゴリラに見えなくともない。

 体の各関節部分には、動きを滑らかにするためか、何かの結晶のような大きな球体が嵌め込まれている。

 両肩と背中からはまるで、そこから結晶が生えているかのように、先が鋭利になった不思議な透明感のある灰色の結晶が天を突かんばかりに存在を主張していた。

 

 そんな守護者を俺達は見ると、より正確な情報を得ようと、長く続いていた螺旋階段を下り、ドーム状の部屋の入り口付近へと移動する。


 プワァー! プワァー! プワァー! プワァー! プワァー! プワァー! 


 すると、突然けたたましいサイレンのような音が鳴り、次いで機械的だが、今までに聞いたことのない声がドーム状の部屋から響き渡る。


「守護領域内ニテ 所属不明勢力 7機ヲ 確認!」


 聞いたことの無い声は、つい先程まで見ていた巨大なゴーレムから発せられているようで、片膝を着いて微動だにしなかった巨体をスムーズに動かし、直立するように立ち上がると、右腕をこちらに向けるように(かか)げる。

 掲げた右腕の先からは、青白い光が次第に収束していき、まるで今にも撃ち出さんとする寸前のように見えた。


「警 告!」


 ゴーレムからのその言葉を発するのと同時に、天眼のスキルによって、攻撃到達予測の範囲が視覚化され、視界内がまばらな(まだら)に赤く染まる。


 まずいっ!


 俺はそう思った瞬間、即座に赤い斑が比較的密集している場所にシールド系の魔法を使いながら、念話で素早く全員に注意勧告という名の指示を出す。


「トリプルマジック――プロテクトシールド!」

『全員散れ!』


「「「「「『っ?!』」」」」」


「武器ヲ 捨テロ! 抵抗スレバ 敵ト見ナス!」


 ドババババババババババババババババババババ!!


 俺が緊急回避の指示を出すのと同時に、ゴーレムから警告の言葉と共に、無慈悲な青白い弾丸が発射される。

 

 発射された青白い弾丸は、命中精度が低いのか、将又(はたまた)威嚇(いかく)射撃だからなのか、1発撃つたびに弾丸は全く別の射角を辿り進むため、天眼の効果が無しでは、完全な回避をするのも難しい。

 それでも、咄嗟(とっさ)の指示が功を奏したのか、相手側からの先制攻撃を無防備で受けることは無く、多少の被弾はあれど、すぐに命に関わる程のダメージを受けることは、避けられた。


 そうやって何とか全員がバラけ、被害を最小に抑えたところで、ゴーレムからの声が再び聞こえてくる。


「回避 行動ヲ 確認! ヨク 訓練サレタ 敵ト 断定!」


 その言葉から、(わざ)と、警告と同時に攻撃を仕掛けてきたことが分かる。


「コレヨリ 殲滅モードニ 移行シマス!」


 何やら物騒(ぶっそう)なモードチェンジを宣言(せんげん)すると、そのゴーレムの各関節にある球体と頭部にある目が無茶苦茶な色に目まぐるしく変化し、最終的にはその全てが真っ赤に染まる。


「-ガッ--ガギギッ---ゴォオオオオオオオーーー!!」


 俺はそんな変化を油断無く見据(みす)えながら、すぐ様識別を行う。


バリアブルゴーレム・マッドネス:Lv25・属性:-・耐性:-・弱点:魔法


 マッドネスってことは……こ、こいつ、狂ってるのか?!



 年内には第4章本編を終わらせたいなぁ……。(願望)


 因みに、逆正三角に各辺の1/3辺りから別の辺の1/3辺りまで()を描くように結ばれ、逆Yの字の怒筋(どすじ)に見える紋様とは、叡智(えいち)神エイワズの聖印です。


尚、今回の作中でリーゼリアが『太陽の光が1番早く届かなくなる』と言ってますが、正しくは太陽が沈んだ後にできる影……つまり夕闇が1番早くできる方角というのが正しい答えになります。

ヒントの一部が『最も早き闇訪れし場所』ですからね。


奇しくも、場所を割り出す答えが同じだったため、その辺りには気付いていません。

現実でも、例えば計算式は間違っているのに、答えはあってるとかってありますよね?

正にソレです。


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― 新着の感想 ―
最も早き光差しし場所→東端 最も早き闇訪れし場所→西端 とありますが、両方とも東端だと思いますよ 東から上って西に沈むんだから、東から暗くなり始めて太陽のある西が最後まで明るいはずです なので西端を正…
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