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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第4章  夢現フィールドと再起の遺構
107/123

Locus 96




 あの後、俺達は都合2回、回廊の始めで戦闘し、2度回廊及び小部屋の探索をしていった。

 戦闘では作戦がうまく(はま)り、特に苦戦することなく、アンデッド達を討滅することができた。

 ただ、俺の討滅スピードが他の前衛(リーゼリア・ナギ)よりも早かったため、俺に集中してスケルトン達が攻めて来ることとなり、アリル達からは、「体を張った(おとり)行動ナイス!」っと言われたが、少々複雑な気分になったのはココだけの秘密だ。

 囮役をした覚えはないんだけどなぁ……どうしてこうなった。


 それと、その過程で新たな称号を入手した。


〔称号:砕撃の頭壊者〕:一撃の下、多くの敵対者の頭を砕き割った者の証。


効果:部位・頭に対し、打属性での与ダメージ上昇(小)+ひるみ、気絶発生確率上昇(微)+低確率で即時部位破壊発生


但し、頭部に部位破壊可能な部位が無い場合は、その限りではない。


 この称号は説明にある通り、スケルトンの弱点部位である頭を1撃で、爆砕していった結果なのだろう。

 効果に部位・頭とあるので、他の部位も同様に1撃で切断したり、貫通させたりすれば、別の称号を入手できる可能性もある。


 今回はスケルトンの弱点部位に弱点属性2つ(打属性と火属性)、それとレベル差で壊せたようなものだから、もし試すなら、ステータス差が大きく離れた相手でなければ容易に達成できそうにないな。

 そうすると、草原に居るモンスターを相手取るのがいいかな?

 今のレベルなら、ヴェアリアントゼライスみたいな罰則(パニッシュ)モンスターが出ても返り討ちにできるだろうし、それにあの時みたいに俺だけってこともないし…………うん、今度試してみるのも一興かもしれないな。


 また合計3度の回廊と小部屋の探索で、イベントアイテムである分かたれた女神像は全て(そろ)った。

 イベントアイテムが全て(そろ)った時点で、未探索の小部屋が後3つ残っていたが、何かのアイテムを取り損なう可能性もあったので、念のため皆で順次回って行った。

 すると、最後の小部屋にあった2人の女性像の台座にも反応があり、ナギに罠の有無を見てもらった結果、台座以外の場所を触るとダメージを受ける罠が仕掛けられているのが分かった。


 解除方法は、台座を一定以上の高さに持ち上げると、罠が解除される仕組みらしく、俺達は少し話し合った後、台座を(リオン)とリーゼリアで支えながら持ち上げていった。

 台座込みの2人の女性像は見た目に反して軽く、50cm程持ち上げたところで、台座の上にあった2人の女性像は、モンスターを倒した時のように、光の粒子になって消えていった。


 台座を見てみると、台座の上には何かを嵌め込むような2つのレールがあり、下には今まで見て来た数字の6と9が組み合わさったような紋様が、反転して()り込んであった。

 台座を一応鑑定してみると、案の定イベントアイテムであることが分かった。 


イベントアイテム  何かの台座:何かを乗せるための台座。対応する場所に置くことで、その真価を発揮する……かもしれない。


 説明と状況から考えて、分かたれた女神像を置くための台座のようだった。

 もしも、探索を2人の女性像が揃った時点で止めていたら、2度手間になって時間を無駄に浪費することになっただろう。

 ある意味正しく『罠』なんだろうけど、なんて嫌らしい仕掛けなんだ!

 分かたれた女神像の欠片は! 8つだけだと思わせておいて、実はもう1つの台座(パーツ)が必要になるだなんて、普通考えもしないはずだから、事前に気付けて本当に良かったよな。


 そうして、地下墓地(カタコンベ)2階層の3つ目の回廊を進んで行くと、小さな広間に辿(たど)り着いた。


 小さな広間は半径5~6m程あり、壁の高さは3m強、天井は半球状をしており、一番高い所は7~8mはありそうだった。

 壁は全て棚になっており、その棚には様々な種族の髑髏(どくろ)が所狭しと収められている。

 しかし今までとは違い、材質が異なる床や壁等は見当たらない。

 小さな広間の中心には、半径50cm強程のお(ぼん)状に(くぼ)んだ場所があり、その窪みには、数字の6と9が組み合わさったような紋様が、彫り込んであった。


「あれ? また、行き止まりみたいだね」


「でも~、今度は材質の異なる壁も床もありませんよ~?」


「確かに。ですが、見て下さい。床の中心部に、先程入手した台座に描かれていた紋様の鏡写しになったものがありますよ。恐らくは、あそこに台座込みの完成された2人の女性像を置けば、仕掛けが作動するんじゃないでしょうか?」


「それじゃ、まず台座を置いてみよっか。ということで、お兄ちゃんよろしくね!」


「ああ、分かった」


 アリルにそう言われ、先程入手した台座を素早く実体化させ、お盆状に窪んでいる床の中心部に持っていき、鏡写しになっている紋様に合わせるようにして、台座を嵌め込んだ。

 

 ゴトッ…………カチッ―――シュイィィィン!


 すると次の瞬間、何かが完全に嵌る音がした後、台座を嵌め込んだ場所から柔らかな赤熱灯のような光が()れ出し、そして消える。

 光が消えた後に台座を(さわ)ってみると、完全に嵌め込んだ床と一体化したようで、どんなに力を入れてみてもビクともしなくなった。


「「おおー! 光ったー!」」


「リオンさん、どうですか?」


「完全にくっ付いたみたいだな。もう、動かすことも取り外すこともできそうになさそうだ」


「そうですか」


「でしたら~、他のパーツも同じような仕掛け~……つまり~、レールに各パーツを嵌め込むと~、一体化しちゃうかもしれませんね~」


「……確かに。下手に組み立てると、他のパーツが上手く組み合わさらないかもしれませんね」


「ねね、もしも組み立てに失敗したらどうなるの? もう先に進めなくなっちゃうのかな?」


「んー……考えられるとしたら、失敗した時点で全てのパーツが元の場所に戻る? とかかな?」


「もしくは、1度この地下墓地(カタコンベ)から出て、再度入り直すとかもあるかもな。ただその場合は、今まで解いた仕掛けとか全て未開封状態に戻るかも、だけど」


「どちらにせよ、時間的にも確かめる訳にはいきませんから、ここは慎重に組み立てていくことにしましょう。それに、この台座にあるレールは、(ひね)り込むようにして固定するもののようですし、台座と組み合わせるのは最後の方が良さそうですね」


「だね! それじゃ、お兄ちゃん。実体化の方お願いね!」


「ああ」


 そうして俺は、次々と分かたれた女神像を実体化していった。

 分かたれた女神像の各部位には様々な角度から嵌め込むためのレールがあり、特に注意が必要そうなのは、台座同様捻り込むようにして組み合わせる、頭部。

 それと、互いの背中を物理的に組み合わせるためのレールが付いた、胴体だ。


 胴体の背には胴体同士を連結させるレールと溝が互いにあり、胴体同士以外を先に組み合わせてしまうと、どうしても胴体同士をくっ付ける隙間が無くなってしまうため、最初に連結する必要がある。

 頭部の方は、胴体を連結した後なら、フードから(こぼ)れる髪の色を参考にして、髪の色が同色同士になるように、連結すれば特に問題は無い。


 その後、俺達は組み立てる順番をしっかり決めてから、分かたれた女神像を組み立てていった。

 組み立てる順番通りに連結していった結果、無事何処のパーツも入らない、(あま)るということも無く、背中合わせに祈る、2人の女性像が出来上がった。

 そして、いざ台座に嵌め込むという時に、1つ困ったことに気が付いた。


「……なぁ、この2人の女性像って、どっち側に嵌め込めば良いんだ?」


「どっち側って、どういうこと? お兄ちゃん」


「いや、捻り込むと半回転するから、最初に嵌め込む時はそのことを考えて、嵌めればいいんだけど……元々の2人の女性像ってどっちが黒髪で、どっちが白髪だったっけ?」


「ああー。なるほど、そういうことですか。んんー……そう言われれば、はっきりとは覚えていませんね」


「だね~。あんまり気を付けて見てなかったし、ボクもちょっと分からないかな?」


「私もですね~」


「アリルは、覚えてるか?」


「んー、自信を持っての断言できないかな? だけどそれなら、少し戻って2人の女性像を見てくればいいんじゃないかな? 周囲に残存したモンスターや罠は無かったんだし、皆で手分けして確認して来れば、情報の精度も高くなるしね」


「ですね。それに、少し面倒でもSS(スクリーンショット)を取ってくれば、尚良いかもしれませんね。再度確認するのも容易になる訳ですし」


「それもそうだな」


 それから、俺達は一旦探索した小部屋へと戻っていき、各自で2人の女性像の確認をしていった。

 その結果、2人の女性像は小部屋の入り口側から見て、向かって右側の女性の髪は白く、向かって左側の女性の髪は黒いことが分かった。


「それじゃ、嵌め込む方向も分かったことだし、この辺りで少し休憩しない? 連戦続きだったから、ドロップアイテムも結構溜まってて、容量が少し心元無いしさ」


「だね、さんせーい!」


「確かに~、少し疲れましたね~」


「リオンさんも良いですか?」


「ああ、確かに少し疲れた気がするし、丁度良いんじゃないかな?」


「それでは、休憩にしましょうか。先程キークエストの詳細を見たところ、この地下墓地での第1条件はクリアしたみたいでしたので、次はいよいよボス戦でしょうから、そのつもりでいて下さいね」


 そう言われ、俺はリーゼリアの言葉を確かめるように、クエスト詳細を見てみた。


『キークエスト【復活! 古の遺構】  1/3


・第1クエストクリア!  ●●●


・モンスターから浄化の制御球を取り戻せ  0/1  ●○○


・?????                                                                                                     』


 すると、確かに何時の間にか第1条件はクリアしており、新たな条件が開示されていた。

 因みに、第1条件のモンスターの討伐率は、93%になっていた。


「浄化の制御球かぁ。ってことは、今度の属性は光か火かな?」


「それと、神聖魔法とかもありそうだよね。神聖魔法って教会関係のクラスじゃないと取れないみたいだし、字面(じづら)からしてアンデッドとは相容(あいい)れなさそうだしね」


「まぁ、確かに。しかしそれですと、今回はシエルちゃんだけに任せることになりそうですね。私達の中で該当(がいとう)する属性魔法を持っているのは、シエルちゃんの光だけですし」


「ですね~」


「そういえばお兄ちゃんが、スケルトン達を殴っている時、爆発するような音と一緒に、炎も出てたみたいだけど、アレは魔法じゃないの?」


「あー、アレか。アレは魔法じゃなくてアーツだな。だからたぶん、制御球が変換・吸収するのは無理だと思うぞ?」


「そっかー、それじゃ仕方無いね」


 その後、俺達は互いに目の届く範囲でバラけて、各自で休憩を取っていった。


 俺も適当な所に座り、ステータスの確認や入手したドロップアイテムの鑑定と整理等を行っていく。

 流石に格下ばかりだったため、俺やシエル、ネロの種族レベルは1つも上がっていなかった。

 ドロップアイテムの方は倒した数が多かったこともあり、アイテムによっては1スタック以上あるアイテムもあった。

 また強化素材は、20レベル以上のモンスターでもイベントクエストだったためか、○○鉱ではなく、○○石だけしか入手できていなかった。

 しかし、イベントクエストではなかった場合、○○鉱が出るはずだったことを()まえてか、今まで最大で1体のモンスターに付き、2個までだった強化素材が、最大で3個まで出ているという変化があった。


素材アイテム  骨灰(こっかい):急激に熱されたため灰化した骨。原型を一切保っていないため、何処の部位の骨かは分からない。薬・肥料・研磨剤(けんまざい)等の様々なものの材料になる。


素材アイテム  骨炭(こつたん):急激に熱されたため炭化した骨。原型を保った状態であるため、しっかり調べれば何処の部位の骨であるかは分かる。主に濾過(ろか)や脱色のための材料に使われる。


素材アイテム  骨片:何かの骨の欠片。ある程度形は残っているが、何処の部位の骨であるかは分からない。薬・()料・触媒(しょくばい)等の様々なものの材料になる。


素材アイテム  骨:何かの骨。原型を保った状態であるため、しっかり調べれば何処の部位の骨であるかは分かる。薬・肥料・触媒等の様々なものの材料になる。


素材・武器アイテム  骸骨(がいこつ)剣士の()び鉄剣:スケルトンソードマンのアイアンソード。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰(いつぶ)して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 35  最大耐久値 30


素材・武器アイテム  骸骨軽剣士の錆び小鉄剣:スケルトンフェンサーのアイアンショートソード。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 30  最大耐久値 30


素材・武器アイテム  骸骨軽剣士の錆び鉄短剣:スケルトンフェンサーのアイアンダガー。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 25  最大耐久値 30


素材・武器アイテム  骸骨戦士の錆び鉄斧:スケルトンウォーリアーのアイアンアックス。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 37  DEX -4  最大耐久値 30


素材・武器アイテム  骸骨戦士の錆び鉄槌:スケルトンウォーリアーのアイアンメイス。長い年月により錆びが浮き、重さは増したが、全体的に(もろ)くなっている。武器として使うことも可能だが、耐久力に不安があるため、あまり信頼はできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 42  DEX -10  最大耐久値 40


素材・武器アイテム  骸骨槌士の錆び鉄槌:スケルトンクラッシャーのアイアンハンマー。長い年月により錆びが浮き、重さは増したが、全体的に(もろ)くなっている。武器として使うことも可能だが、耐久力に不安があるため、あまり信頼はできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 48  DEX -15  最大耐久値 50


素材・武器アイテム  骸骨槍士の錆び短鉄槍:スケルトンランサーのアイアンショートスピア。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 24  最大耐久値 30


素材・武器アイテム  骸骨槍士の錆び鉄槍:スケルトンランサーのアイアンスピア。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 28  最大耐久値 40


素材・武器アイテム  骸骨弓士の錆び鉄矢:スケルトンアーチャーのアイアンアロー。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 20  最大耐久値 20


素材・武器アイテム  骸骨弓士の古弓:スケルトンアーチャーのオールドボウ。長い年月により腐食が進み、何時壊れてもおかしくない状態となっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に(まき)の代わりか、畑の肥料に使われることが多い。

ATK 3  最大耐久値 30


素材・道具アイテム  骸骨弓士の古矢筒:スケルトンアーチャーのオールドシリンダー。長い年月により腐食が進み、何時壊れてもおかしくない状態となっている。道具として使うことも可能だが、耐久性に問題があり、あまり期待することはできない。主に(まき)の代わりか、畑の肥料に使われることが多い。

最大装填(さいだいそうてん)数 50本  最大耐久値 30


素材・武器アイテム  骸骨部隊長の錆び鉄曲刀:スケルトンリーダーのアイアンサーベル。長い年月により錆びが浮き、斬れ味が悪くなっている。武器として使うことも可能だが、威力・耐久共にあまり期待することはできない。主に鋳潰して、別の何かの材料に使われることが多い。

ATK 40  最大耐久値 50


素材・防具アイテム  骸骨部隊長の古皮鎧:スケルトンリーダーのオールドレザーアーマー。長い年月により腐食が進み、何時壊れてもおかしくない状態となっている。防具として使うことも可能だが、耐久性に問題があり、あまり期待することはできない。主に(まき)の代わりか、畑の肥料に使われることが多い。

DEF 23  最大耐久値 50


 因みに、骨灰はボーンイーターのドロップアイテムで、骨炭は上の階層にいた推定(すいてい)労働者スケルトンのドロップアイテムとなっている。

 そして何故こんなドロップアイテムになってしまったかだが、簡単に言えば上の階層にいたボーンイーターや労働者スケルトンを、ユニゾンマジックで焼滅させてしまったからだ。

 今まででも何度かあったが、モンスターを仕留める方法によってドロップアイテムが変化するということがあったので、少し残念だが仕方が無いことだと思い、割り切ることにする。


 強化素材は、ボーンイーターからは、影錬石と穿錬石が。

 スケルトンからは、影錬石と鈍錬石が、

 スケルトンアキサーからは、影錬石と鋭錬石が、

 スケルトンピッカーからは、影錬石と穿錬石が、

 スケルトンシャベラーからは、影錬石と鈍錬石が、

 スカルゴーストからは、影錬石と魔錬石が、

 スケルトンソードマンからは、影錬石と火錬石が、

 スケルトンフェンサーからは、影錬石と風錬石が、

 スケルトンウォーリアーからは、影錬石と地錬石が、

 スケルトンクラッシャーからは、影錬石と鈍錬石が、

 スケルトンランサーからは、影錬石と穿錬石が、

 スケルトンアーチャーからは、影錬石と水錬石が、

 スケルトンリーダーからは、影錬石と鋭錬石が、それぞれ出ていた。


 そうしてドロップアイテムの鑑定を終え、アイテムの整理が終わってから周囲を見渡すと、まだ俺以外のメンバーは真剣な顔付きで空中をながめたり、何かを動かすように指を動かしていた。

 察するに、ステータスポイントの割り振りや新たに習得したスキルかアーツの詳細でも見ているのだろう。

 探索をはさんでいるとはいえ、休憩らしい休憩もせず、1度の戦闘で50体は下らないアンデッドの団体を3度も討滅していったのだから、色々上がっていてもおかしくはないはずだしな。


 見た感じ、まだ掛かりそうだし、どうやって時間を潰そうかな?

 HPやMPは賦活の効果で勝手に回復していくから、アイテムを使って回復する必要もないし、種族レベルも上がってないからステータスポイントの割り振りもない。

 う~ん…………あ、そうだ!

 そういえば派生進化した天眼の説明に、限定的な過去を見通すことができるってあったから、それがどういう風に見えるか試してみることにしよう。

 まぁレベルは多少上がったけど、まだ1(けた)台だから劇的な変化とかはあまり期待できないと思うけどな。


 そう考え、俺は『過去を見たい!』という意志を込めながら、それとなく視線を周囲に走らせる。

 すると、俺の視界に入った床一面に、何かというか誰か? の足跡あしあとと思しきものが無数に、蛍光色のように発光しながら付いているのが見えた。

 よく見ると、新しい足跡程強く光り、古い足跡程発する光が弱いようだった。

 

 なるほど、こういう風に見えるのか。

 でも、こんなに足跡が多いと、どれが誰の足跡かよく分からないな。

 たぶん、俺が今座っている場所の前にある、強い蛍光を発している足跡が俺のだとは思うけど……。


 そう思うと、ふいに推定俺の足跡だと思われる足跡以外が消え去り、過去俺が歩いたと予想される場所のみが蛍光色で発光するようになった。

 

 おお! 汎用魔法の時もそうだったけど、この天眼の限定的な過去視も、ある程度俺の思考に合わせて操作できるみたいだな。

 これなら、何かを追うようなことになっても役に立ちそうだ。

 今は足跡しか視認化できないけど、スキルレベルが上がれば、さかのぼれる過去も長くなったり、過去そこに居たものの姿も見られるようになったりするのかな?


 そうやって天眼のスキルの効果を試していると、休憩時間が終わる合図が出され、次第に自然と小さな広間の中心にある台座へと集まっていくのが見えた。

 俺もすぐに天眼の限定的な過去視を使うの止め、その場から離れ、回廊で遊んでいるシエルとネロを呼び戻しながら、台座の方へと向かって行く。

 全員が集まったことを確認後、今まで放置していた2人の女性像を小さな広間の中心にある台座に嵌め込むことから始める。


「それではリオンさん、お願いします」


「分かった。それじゃ、台座に嵌め込んでいくな」


 俺はそう言った後、小さな広間の入り口から見て右側に黒髪の女性像が来るように台座に乗せ、動かす方向を間違えないようにして、そのまま半回転させる。


 ゴトゴトッ……ズチュルルルルル――ガチッ!


 レールが()み合い、やや不快な音を立てつつレールを(すべ)り、そして止まる。

 すると、台座をお盆状に陥没(かんぼつ)した床に嵌めこんだ時と同じように、柔らかな赤熱灯のような光を台座込みの2人の女性像全体から発し、()いで消える。

 

 カキンッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………ゴゴンッ!


 何かが外れるような音がすると、次第に2人の女性像が乗った床が小さな広間の奥へと動きだし、新たな地下への階段が姿を現す。

 地下への階段は十数段程あり、その先には更に奥へと続く通路が延びていた。


 気配感知を使ってみれば、少し遠くにこれまで何度も感じてきた人より少し小さい気配と、ボーリング球位の大きさの気配が幾つか。

 それに、常人より縦にも横にも少し大きな気配が2つあることが分かった。

 恐らくは、この通路の先にスケルトン系とスカルゴーストの取り巻きに加え、この地下墓地カタコンベでのボスモンスターに相当するモンスターが居るのだろう。


「少し遠いけど、この奥から気配がするな」


「んん~? ……あ、ほんとうだ」


「気配、ですか……。その気配は、こちらに近付いて来てますか?」


「――いや。多少動き回っているみたいだけど、こちらへは来てないな」


「それに、何だか同じところをグルグル巡回じゅんかいしてるっぽいよ」


「ってことは、少なくとも現時点では、気付かれてないってことだよね」


「ですね~。気付かれていれば~、今までみたいに~、移動して来るはずですし~」


「なら、今が好機ですね。早速行動して行くことにしましょう。この通路の先がどうなっているかは分かりませんので、ナギとリオンさんは、また先行偵察せんこうていさつをお願いします。私達は少ししてから突入して行きますので、その間に情報収集をお願いします。状況次第では、そのまま乱戦になる可能性もありますので、十分注意して下さいね」


「ほいほい、了ー解だよ!」


「分かった。そっちも一応気を付けてくれよ」


「うん! お兄ちゃん達もね」


「お気を付けて~」


「シエル、ネロ。アリル達をよろしくな」


『うん、まかせてー!』


 シエルは胸をドンと叩きながら、元気良く返事を返す。


「キュキュウ! ンキュッ!」


 ネロもこくこくと頷いた後、敬礼するように右前足を上げ、若干顔を反らせるようにして、俺達を見送る。


 その後、俺とナギはアリル達と1度別れ、新たに開いた地下への階段をアーツを使いつつ、慎重しんちょうに下りて行く。

 十数段からなるのゆるやかな勾配こうばいの階段を下りて行くと、若干狭い通路に出た。

 通路の幅は目測で2m弱、高さは3m程で、およそ4~5m間隔で壁から1/3迫り出す形で、赤・橙・黄・白で彩られたステンドグラスのようなものが巻き付いている柱が並んでいる。


 通路の奥に目をやれば、何やら大きなとびらのようなものが見える。

 現在いる通路より大きく、その全体像までは見えないが、目を凝らすようすると、天眼によりズームアップされ、地下墓地の第1階層で見た、数字の6と9が組み合わさったような紋様を中心に、その両隣をフードを被った女性が祈るように両手を組み、互いに向き合うような扉画とびらえであるように見える。


 再び気配感知を使ってみれば、その大きな扉の向こうからモンスターの気配が感じられた。


 ふむ、扉を開ける程の知能が無いのか、それとも地縛霊じばくれいのように、そのエリアから出られない、離れられないということなのかな?

 

 そう思いつつも俺は通路の先へ行くナギから離れすぎないように、通路の奥へと進んで行く。

 そうやってしばらく歩いて行くと、先程見えた大きな扉の前に辿り着いた。


 扉の大きさは、縦4m強、横5m弱もあり、材質は黒っぽい石のようだが、触ってみると木のような質感がある不思議なものだった。

 扉は俺達が入って来た方から押し開くタイプのようで、周囲にある床や壁、天井等とは見るからに材質が異なることから、たぶん後付けされた扉なのだろう。

 扉の下を良く見れば、床にある回路のようなみぞに嵌め込むようにして扉の一部を入れ、扉の一部が溝内をすべらないよう何かの金属で補強してある。

 

『でかいな』


『はい。でも、こんなに大きいと、開けるのが大変そうですね』


『確かにその心配もあるけど、その前に鍵が掛かってたり罠があったりすると困るから、その有無を調べてくれるか?』


『分かりました』


 そうナギに頼むと、ナギは扉の中心へと移動して行き、スキルを使い鍵と罠の有無を調べる。


『無いみたいですね』


『そうか。だとすると、後はこの扉を開けられるかどうかだよな』


『ですね。識別をしようにも視認できないとできませんし、動き回っているせいで数も把握はあくし辛いですしね』


『んー……まぁ、一応やれることはやっておこうか。見た目は石材みたいだけど、質感は木材だったから、案外それ程重くないかもしれないしな』


『そうなんですか?それでどっちが開けますか?』


『俺が開けてみるよ。たぶんナギよりはSTRの値は高いだろうから、もしも重かった場合でも開けられる可能性が高いしな』


『分かりました。それじゃ、扉を大きく開けると気付かれるかもですし、お試しってことで、ちょこっと開けてみて下さい』


『分かった』


『それと、見た目に反して扉が軽かったりすると、勢い良くバーンっと開いちゃうかもですから、力はじょ々に入れる感じでお願いします』


『あー、確かに。ありがとう、気を付けるよ』


『いえいえ』


 そうして、ナギの忠告に従いつつ、扉の中心へと移動して行き、両扉に両手の平をくっ付けた後、徐々に力を入れるようにして扉を押し開く。 

 扉は石材のような見た目にしては軽かったが、最低でも片扉だけで米俵こめだわらぴょう分……およそ60kg相当はありそうな手応えを感じた。


 そして扉が少し開き、2~3cm程の隙間すきまを作り出す。

 俺はその隙間を維持いじするように力を入れ続け、ナギと一緒に中の様子をうかがっていく。


 扉の中には、横に広い円形をしたドーム状の空間があった。

 部屋は目測で幅50m弱、高さ5m強、奥行き20m程の大きな部屋で、曲線を描く横壁には、縦に長い五角形のくぼみが幾つもあり、その中に石棺が1つずつ収められている。

 また、地下墓地ここの1階層にあった部屋と同じように、天井を支えるための支柱のようなものが、およそ3m程の間隔で多数立ち並んでおり、その支柱全てに、赤・橙・黄・白で彩られたステンドグラスのようなものが、巻き付いている。


 部屋の最奥には、この地下墓地の床や壁、天井等と違う材質で出来た大きな黒い石版がかれ、その上に等間隔に離された石棺が3つ、安置されていた。

 安置されている3つの石棺の後ろには、扉画と同じ、数字の6と9が組み合わさった紋様を中心に、その両隣をフードを被った女性が祈るように両手を組み、互いに向き合う壁画が描かれている。

 

 そして、回廊で戦ったスケルトンリーダーを除く、スケルトン系アンデッドが各種3体ずつと、スカルゴーストが9体。

 それに加え今までに見たことのないアンデッドが3体居た。


 3体の内2体は、他のスケルトンの2倍近く大きく、本来骨の周りに付くはずの筋肉の変わりに、骨で出来た鎧のようなものを全身にまとっている。

 骨で出来た鎧は動きに合わせなめらかに動くことから、恐らくあの鎧も体の一部なのだろう。

 

 骨の鎧を付けたアンデッドの片方は、背中から骨の翼と骨の尻尾を生やし、頭には2本の角があり、体の半分が隠れる程の大きな白い盾と白い槍を持ち、もう片方は額のやや上から1本の角を生やし、手に常人の背丈程もある巨大な白い槌を持っている。


 残りの1体は、大きさこそ今までに見たスケルトン系と同じだが、骨が全体的に赤黒く、黒いローブを羽織はおり、手に赤黒い杖を持っている。


 それらを視界に入れつつ、気配感知で周囲を警戒しながら、素早くナギと手分けして、識別を行っていき、更に弱点部位の場所もさぐる。

 弱点部位は…………スケルトン系共通の頭部みたいだな。


スケルトンソードマンA・C:Lv21・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光

 

スケルトンソードマンB:Lv22・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンフェンサーA・B:Lv22・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンフェンサーC:Lv21・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンウォーリアーA・B・C:Lv22・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンクラッシャーA・B・C:Lv21・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンランサーA:Lv21・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンランサーB・C:Lv22・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンアーチャーA・B・C:Lv21・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スカルゴーストA・D・F・G・I:Lv21・属性:影・耐性:影・物理・弱点:火・光


スカルゴーストB・C・E・H:Lv21・属性:影・耐性:影・物理・弱点:火・光


アーマードスケルトンソルジャー:Lv23・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


アーマードスケルトンガードナー:Lv23・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


スケルトンマジシャン・リモース:Lv23・属性:影・耐性:影・斬・突・弱点:打・火・光


 うん、分かってはいたけど、取り巻きが多いな。

 こうも雑魚が多いと、敵味方入り乱れての乱戦になりそうだ。

 戦い方次第では、この扉で迎え撃つ形にすれば、少なくとも後ろを気にする必要はなさそうかな。

 だけど、敵にアーチャーやマジシャン、それにスカルゴーストが居ることを考えれば、動かない良い的になってしまう可能性が高い。 

 

 そうなると最も良い方法は、戦闘開幕時のユニゾンマジックで雑魚を一掃。

 あわよくば、そのままボスクラスの3体の始末かな?

 

 そうやって考えていると、後発組みのアリル達が到着し、パーティチャットで声が掛けられる。


『とうーちゃく! どう? 何か分かった?』


『ああ、大体な。ちょっと待ってくれ。ナギ、一旦閉めるぞ』


『分かりました』


 そう断りを入れ、俺は扉を開けるために維持していた力を少しずつ抜くようにして、音を立てないようゆっくりと閉めた。

 その後、俺とナギは先行偵察で分かったことをアリル達に話す。


『多すぎる取り巻きに、多数の支柱』


『それに、推定ボスクラスのモンスターが3体かぁ』


『厄介ですね~』


『更に言えば、遠距離攻撃を持つアーチャーに加え、ボスクラスアンデッドの内の1体が魔法を使うマジシャンが居るってのがもうね……』


『だな。部屋内に入れば乱戦になるだろうし、扉を開けて迎え撃つ形にすれば、背中に気を払う必要は無くなるけど、アーチャーやマジシャンの恰好かっこうの的になる可能性が高いだろうな』


『う~ん、だとするとここはやっぱり、しょぱなにユニゾンマジックを使って、取り巻きの一掃をした方が良さそうだね!』


『ですね~。使うのなら~、やはり1番威力の高い~、ブラスティックコロナでしょうか~?』


『んー……アレですか。確かに威力も大きく、見た目的にもアンデッドに有効そうですが、対処はどうするのですか?』


『そんなの、せっかくここに大きな扉があるんだし、コレを爆風避けに使えば良いんじゃないかな?この扉こちら側から押し開くタイプだから、爆風が来たら閉めちゃえば、こっちに来る心配はしなくて良いと思うよ』


『ふむ、一理ありますね。リオンさんはどう思いますか?』


『ん? そうだな…………この扉の材質からして、元々この地下墓地カタコンベにあったものじゃなくて、後付けにされたものみたいだから、こちら側からある程度支えないと、最悪扉が吹っ飛ぶ可能性もあるんじゃないかな。だから、扉の中央にシールド系やウォール系の魔法で擬似ぎじ的なかんぬきを掛けて、閂が爆風に耐えられずひび割れて来たら、全員で扉を抑えるなり、退避するなりすれば良いと思うんだが、どうだろう?』


『なるほど~。この扉が後付けされたものなら~、十分に有り得そうですね~』


『確かに、材質から見てもこの施設?のものとは違いますし、爆風で吹き飛ぶなり、壊れるなりする可能性はありますね』


『おおー! 流石お兄ちゃん、具体的な解答例で、分かり易い! その提案に乗ったー!』


『ボクもー!』


『私も~、賛成です~』


『私からも異論はありませんので、その案でユニゾンマジックを撃った後の対応をするとしましょう』


『だね! それと、ユニゾンマジックが消えた後、誰がどのアンデッドを受け持つか決めとこうよ』


『そうですね。先の回廊での戦いで幾らか種族レベルもスキルレベルも上がったはずですし、まず取り巻きは残らないでしょうから、ボスクラスの3体の内、どのボスクラスアンデッドと誰が戦うかを事前に決めて置きましょうか』


 その後、互いの戦闘スタイルや相手の見た目と名称からの相性を考え、誰がどのボスクラスアンデッドと戦うか話し合い、決定した。


 アーマードスケルトンソルジャー VS ユンファ & ネロ


 アーマードスケルトンガードナー VS リオン & シエル


 スケルトンマジシャン・リモース  VS リーゼリア & ナギ & アリル


 そして、作戦を実行するべく、すみやかつ、静かに行動を起こしていく。


 まず、扉の片方ずつを魔法を使わないリーゼリアとナギで押し開き、小さな隙間を作る。

 そして部屋の中を視認できるようになったらタイミング見計みはからい、ユニゾンマジックにつなげるための最初の魔法を放つ。


「それじゃ、いくよ? ―――グラビティボルテックス!」


 アリルが魔法の発動言語を唱えると同時に、部屋の中にいたアンデッドが侵入者アリルに気付いたようにこちらを向くが、その次の瞬間、部屋の中に居たアンデッドの密集地の中心に、突如として逆巻く竜巻が発生する。


 回廊での戦闘で種族レベルやスキルレベルが上がったおかげか、最初に見た時の規模の2倍以上になっており、急速に流れる気流によりアンデッド達を切り裂きながら、その竜巻の中心へと引き寄せる。

 魔法で生み出した風であるせいか、空中を飛ぶ実体無きスカルゴーストさえも竜巻の中心へと吸い寄せ、その中心へと捕らえていく。


 アリルの魔法で身動きが取れなくなったのを合図に、リーゼリアとナギが更に扉を押し開け、人が2~3人通れる位の隙間を作り出し、その隙間から次なる魔法を放つ。


「ここです~。―――フラッドウォータ~!」


 ユンファが構えたパルチザンの穂先ほさきから一抱え程の水球が生じ、その水球から勢い良く大量の水流が放出される。

 放出された水の激流は、狙いたがわずアリルの放ったグラビティボルテックスへと到達し、そして水という物質を巻き上げ、更に荒々しくその範囲を拡大させながら、渦を巻く。

 

 柱の影や石棺につかまり、今まで難を逃れていたボスクラスの3体も激しい水流に流され、抵抗空ていこうむなしく水竜巻の中心へといざなわれ、他のアンデッドと共に水圧のおりへととらわれていく。


 俺はそんな光景を横目に、リーゼリアとナギが押し広げた扉の隙間から部屋の中へと入っていき、巨大な水竜巻との距離を測り、次なる一手のための魔法を放つ。

 

「とっ! ショットガンボルト!」


 俺が前方にかかげた左手の平から、30発前後の青白い雷散弾を巨大な水竜巻に向かって発射する。

 発射された雷散弾は、激しく逆巻く水竜巻に全て取り込まれ、青白い雷が水竜巻の中を縦横無尽に駆け巡り、水竜巻の中心に囚われているアンデッド達に更なるダメージを与えていく。

 

 俺は雷散弾が水竜巻に取り込まれていくのを確認すると、すぐ様反転し、リーゼリアとナギが押し広げた扉の隙間から部屋の外へと脱出する。

 そして、俺が部屋の外へ出るのと同時に、取り巻きのアンデッド達を一掃するための仕上げの魔法を放つ。


『よーし、いっくよー! ―――ライトバースト!』


 すると、荷電した水竜巻の中心に小さな光球が現れ、青白い雷をまといながら次第に肥大化していく。


 ソレを確認した瞬間、次の作戦を実行するため、扉を押し開けていたリーゼリアとナギに声が掛かる。


「準備できたよ。リアちゃん、ナギちゃん、離れて!」


 その声に従うように、リーゼリアとナギは押し開けていた扉の前から離れる。

 今まで中途半端ちゅうとはんぱに開けられていた扉は、(さなが)ら重力に引かれて落ちるリンゴのごとく、元の場所へと戻り、少々耳障みみざわりで乱暴な音を立てた後、完全に閉まる。


「今です~。―――アクアシールド~!」

「トリプルマジック――プロテクトシールド!」

「リリース!ウィンドシールド!」

『ライトウォール!』

「ホホオォォォー!」


 そして、扉が完全に閉まった瞬間に、扉の閂兼、爆風による圧力が掛かるタイミングを計るための魔法を次々に放っていく。

 扉の中央には、最も強度が高いシエルのライトウォールを配置し、その延長上にある左右の扉の間を補強するように、シールド系魔法を配置していく。

 防御系魔法を配置した後、俺達は素早く移動し、事前に話し合って決めた所定の位置……各扉の前へと並んでいった。


 カッ! ―――ボゴォォォォォオオオオオオオーーーーーーーーーン!!


 ピシッピシピシッ―――ピキャキャキャキャキャキキキキキキキキキキキン!!


 俺達が所定の位置に着いた次の瞬間、扉の向こうからくぐもった爆音が聞こえ、その1ぱく後に、扉に配置した全ての防御系魔法の表面にヒビが走っていく。


「来た! 全員、ん張れ!」


「「「はい!」」」


「はいです~」


『はーい!』


「キュキュウ!」


 俺の号令を合図に扉の前に陣取っていたメンバーが、爆風をやり過ごすため全力で扉を押し、扉が吹き飛ばないように必死で抑える。

 抑えられた扉は、防御系魔法の援助えんじょもあり、どうにか爆風による圧力と俺達の押す力が拮抗きっこうし、扉が吹き飛ぶの防いでいる。

 

 しかし、完全に密封している訳ではないので、部屋と扉との間にある小さな隙間から抑え付けられた爆風に押し出されて、熱された空気が勢い良く吹き出し、周囲の温度を否応無しに上げていく。


「うぅ、分かってはいたけど、やっぱり暑い!」


我慢がまんして下さい! 今その場を離れたら、これまでの努力が水の泡ですよ!」


「そうだよ! それに、扉が熱風の大半を防いでくれてるから、前の時よりかなりマシだよ!」


「暑いのは皆同じですよ~」


「分かってるよ! 言ってみただけだってばぁ!」


「まぁ、この状態もそう長いこと続く訳じゃないし、もう少しガンバってみてくれよ。扉に掛かっている圧力も心無しか減って来てるみたいだしさ」


「え? …………あ、ほんとだ。何かほんのちょっとだけ軽くなって来てる気がしますね。」


 そうやって話ながら扉を押さえ続けていると、次第に部屋と扉の小さな隙間から吹き出していた熱風の勢いが弱まっていき、少しすると完全に止まる。

 それにともない、扉に掛かっていた圧力も消えていき、扉を押さえていた力を抜くと、『ボフッ!』っという音がして扉が少し開き、そして閉まる。


 気配感知を使ってみれば、部屋の中からは左右の壁側から1つずつと、最奥の壁辺りから1つの合計3つの気配が感じられた。

 その後、扉を全力で押し開けて部屋の中に入ると、予想通り取り巻きは見当たらず、様々な場所の天井や柱、壁際等に、アンデッドの残滓ざんしと思しき光の粒子がキラキラと光っていた。


 気配感知で調べた気配の方を見てみれば、向かって右側の壁際には、うつ伏せで倒れているアーマードスケルトンソルジャーがおり、そのHPは残り3割程となっている。

 反対の向かって左側の壁際では、背中を壁に預けるような形で座り込んでいるアーマードスケルトンガードナーがおり、そのHPは2割を切っていた。

 最奥の壁際を見てみれば、等間隔で並ぶ3つの石棺で見難いが、黒いローブを着た赤黒い骸骨のスケルトンマジシャン・リモースが、横たわるようにして倒れており、残りのHPはおよそ3割といったところだった。


 そして、共通して生き?残っている3体のボスクラスアンデッド達のHPバーには、盲目(もうもく)火傷やけどと気絶のバッドステータスアイコンが付いていた。

 気絶のバッドステータスアイコンに注視してみると、弱点属性による攻撃だったためか、それともユニゾンマジックだったせいか、通常より数字が大きく、現時点で28と表示されていた。


「ん? ……気絶してる? なら今が仕留める好機!」


「追撃します! リオンさん、変換魔法バフを下さい!」


「あ、ボクも欲しい! ユンファちゃん、お願い!」


 そう要望を出すと、すぐ様担当する推定ボスクラスアンデッドの方へ駆け出して行く。


「分かった。いくぞ? ―――マジックウェポン!」


「はいです~。―――ウォーターウェポン~!」


 リーゼリアとナギの要請ようせいを受け、俺は即座に、ユンファは少し遅れてから変換魔法を使う。

 変換魔法が掛けられると、2人の持つ武器に青白い光と澄んだ青い光をそれぞれ纏うようになる。


「ありがとうございます! 出ししみは無しです! 一気にいきますよ!」


「アイアイ、サー!」


「了解でっす!」

 

 対象の側まで接敵すると、リーゼリアとナギは今あるMPを使い切る勢いでアーツを連続でたたき込み、HPを削っていく。

 そして、魔法の準備が整うと……。


「詠唱完了! リアちゃん、ナギちゃん、離れて! いっくよー! ―――リリース! エアハンマー!」


 アリルの注意喚起に合わせ、すぐにその場から後退し、味方の魔法による同士討ちを避ける。

 リーゼリアとナギが離れたのを確認した次の瞬間、気絶しているスケルトンマジシャン・リモースの上空に、多数の空気塊が集まっていき、その数瞬後、スケルトンマジシャン・リモースの頭に殺到(さっとう)する。

 弱点部位に弱点属性で攻撃しているためか、空気の槌が1撃ずつ当たるたび、スケルトンマジシャン・リモースのHPはガクガクと減少していき、全ての空気の槌が当たる前に、光の粒子へと変わっていった。





 ◇◇◇




 俺はリーゼリアに変換魔法を掛けた後、俺が担当するアーマードスケルトンガードナーの方へと駆け寄って行く。

 シエルは既に詠唱準備に取り掛かっており、扉の上空付近に滞空しながら、油断無くアーマードスケルトンガードナーの動向をうかがっている。

 気絶のバッドステータスによりまだ動き出す気配は無いが、見るからにスケルトンよりも頑丈がんじょうそうな体躯(たいく)を見て、即座に弱点部位である頭を集中的に攻める方針を立てる。


 ここからは時間との勝負! 気絶から回復するまでにできるだけ多くのHPを削り取る!

 

「バーサーク! ――炎撃武攻!」


 バーサークの使用により、俺の体全体を赤いオーラが覆い、次いで一時的にその色が濃くなり、そして戻る。


 俺は突進の力を上乗せさせるように、アーマードスケルトンガードナーの少し手前で前方に跳躍し、アーマードスケルトンガードナーの頭をり、更に空中で体をひねってかかとを落とす。

 蹴打がアーマードスケルトンガードナーに当たると、『ボゴンッ!ドゴンッ!』という爆音を響かせながら爆炎が上がり、ガクンガクンとHPを大きく削りつつ、わずかながらも、その頭部にヒビを入れていく。


 流石に防衛系のクラスなだけあって防御力は高く、今までのように1撃で爆砕することはできないが、弱点部位による攻撃に、弱点属性である火属性と打属性、先の回廊での戦闘で入手した称号の効果と、STRを倍化させるバーサークの効果により、ただひたすら殴り続けるだけで、面白いようにHPがガリガリと減っていく。


 ちらりと反対側を見てみれば、アーマードスケルトンソルジャーをボラシティプラントに影装変化したネロが、数多のつる状の根でグルグル巻きに体を拘束こうそくし、弱点部位である頭を、アーマードスケルトンソルジャーが持っていた巨大な白い槌で、まるで釘の頭を打つように殴り付けていた。


 殴り付ける毎にアーマードスケルトンソルジャーのHPは減少していき、また時折、ネロが巨大な槌を振り上げた瞬間を見計らって、ユンファから打属性のあるアクアストライクやアンデッドには良く効く回復魔法のキュアウォーターを浴びせ掛け、アーマードスケルトンソルジャーのHPの削減に拍車を掛けている。


 俺はその光景を見て、ふともちつきみたいだと思ってしまったが、やってることは限りなくえげつないことなので、きっと気のせいだと思い直す。


 そうやって、ネロ達の方を横目に見つつ、アーマードスケルトンガードナーの頭を殴っていると、詠唱が終わったようで、シエルから声を掛けられる。


『じゅんびできたよー! はなれてー!』


 俺はすぐ様その場から後方へ跳躍し、そのままシエルの方へ移動して、アーマードスケルトンガードナーから距離をとる。

 俺が十分にアーマードスケルトンガードナーから離れるのを見ると、シエルから魔法が放たれる。


『いっくよー! リリース! ライトバースト!』


 すると、アーマードスケルトンガードナーの頭を3方向から囲むように小さな光球が出現し、更にあごの下と頭頂部にも1つずつ小さな光球が出現する。

 次の瞬間、連続した5つの爆音と閃光を放ち、光が収まった頃には、アーマードスケルトンガードナーの上半身が跡形あとかたも無く消し飛んでいた。

 そして、残っていた下半身も次いで、止まっていた時間が動き出すかのように光の粒子へと変わっていった。




 ◇◇◇




 推定ボスクラスアンデッドを全て倒し切った後、俺達は部屋の最奥部にある等間隔に並んだ3つの石棺の前で合流した。


「お疲れ様でした」


「お疲れ様! あんなに上手く作戦が嵌ると、すっごく楽しいね!」


「だね! まさか、アンデッドが気絶するとは思わなかったよ。普通アンデッドって状態異常に掛かり辛いはずなのに、嬉しい誤算だったよね!」


「お疲れ様でした~。ですね~。こちらの被害が0で~、相手を封殺できたのが大きいですよね~」


「だな! お疲れ様」


『おつかれさまー!』


「キュキュウ!」


 そうやって互いに労いの言葉を掛けていると、ふいにアリルとナギがそわそわし出す。


「ねね。そろそろかな?」


「うん。さっき確認したけど、討伐率が100%になってたから、来るならそろそろだと思うよ」


 その話を聞き、俺は素早くメニューを開き、クエスト詳細を見てみる。


『キークエスト【復活! 古の遺構】  1/3


・第1クエストクリア!  ●●●


・制御球を浄化なる魔力で満たし、制御球が示す場所に安置して、機構を再稼動させろ   0/300MP  ●●○


・?????                                                                                                     』


 すると、確かに何時の間にやら第1条件の討伐率は100%になっており、更に第2条件までクリアして、新たな条件が開示されていた。


 第2条件までクリアできているなら、浄化の制御球は既に誰かの鞄にあるということなのだろう。

 どうせ次の条件を満たすために必要になってくるのだし、先にそれらしいアイテムが無いか見ておこうかな?


 そう考え、入手したドロップアイテムを確認しようとすると、ふいにアリル達が待ち望んでいた、よく聞く音とインフォメーションが流れた。


『ピロン! パパーン♪ コンプリートボーナス、〔称号:慈悲(じひ)深き討滅者達〕を入手しました』


「おおー! 来たぁーーー!」


「予想通りだね!」


「少し期待してただけに、本当に取れると嬉しさも一入ひとしおですね」


「ですね~」


「だな」


 そうやって話していると、更に聞きなれ始めた音と、驚くべき内容のインフォメーションが流れる。


『ピロン! 保有称号数が20に達したことにより、装備スキル枠が1つ増加しました。スキルの装備は、別途スキル画面から行って下さい』


「えっ?!」


 俺は思わず出た驚きの声と共に、開いていたメニュー欄を操作し、装備スキル枠を確認する。

 すると、インフォメーションにあった通り、装備スキルの枠が1つ増えており、何も装備されていないスキル枠がそこにあった。


「ん? どうしたの、お兄ちゃん。そんな声出して?」


 そんなアリルの声にられてか、不思議そうな表情で他のメンバーもこちらを窺う。


「いや、そのー……。スキル装備枠が増えたみたい、なんだ」


「「……え?」」


「……はい?」


「……ほえ?」


「「「「えぇええええええーーー!!」」」」


「ちょっとぉ?! お兄ちゃん、どういうこと?! ねぇ!どういうことなの!!」


「装備枠が増えた?! それが本当なら、大発見ですよ! リオンさん!」


「装備枠はゲームを進めることで増えるとは聞いていましたが、もう増やすことができるんですか?! リオンさん、いったいどうやったんですか?!」


「確かに~、気になりますね~。リオンさん~、今度は何をやらかしたんですか~?」


「えぇっと……とりあえず、落ち着いて。何があったかは後でちゃんと説明するから、今は第2条件の浄化の制御球の実体化を優先させないか? この地下墓地に出没するモンスターも全部討伐できたから、話の最中に襲われる心配はしなくて良いし、それに俺達が話している間にシエルに浄化の制御球の魔力を回復してもらえれば、良い訳だしさ」


「んむむむ。まぁ、確かに。昨日よりかは早く出没モンスターの全滅はできたけど、日没までにここから出なきゃいけないからね」


「だね。せっかくクエストをクリアしても、閉じ込められちゃかなわないもんね」


くやしいですが、一理ありますね。多少時間に余裕があるとはいえ、地上に無事出られるまで、なるべく時間の浪費は避けるべきですしね」


「すっごく気になりますが~、仕方ありませんね~」


 その後、全員でドロップアイテムの確認をしたところ、それらしきアイテム?球?というものが見つかったので、早速さっそく実体化して鑑定してみた。

 制御球の見た目は循環の制御球と同じ直径5cm程の透明感のある灰色の球体で、今回制御球を所持していたのはアリルだった。


イベントアイテム  浄化の制御球:とある先史文明の遺構の制御兼、動力としての役割を果たす部品にして、装置。現在は内包する魔力が枯渇こかつしているため、作動及び、起動させることができない。

また、対応する属性魔法を打ち込むことで、魔法を変換し、魔力を回復する機能を有する。

但し、対応しない属性魔法を打ち込んだ場合、それまでに溜めた魔力を全て発散・放出してしまうので、魔力が完全に溜まるまで、注意する必要がある。


 浄化の制御球を確認した後、制御球をシエルに渡しながら、制御球に魔法を打ち込むように頼み、最初の1発が無事吸収され、灰色だった制御球から白い光が灯るのを見てから、どうして装備枠が増えたのか話していった。


「なるほど、保有称号数の数によるボーナスですか」


「それなら確かに、有り得なくはないかな? 称号って基本、普通じゃないことして得られるものだし」


「でも、保有称号数20って、難易度高くない? ボクまだ10個にも届いてないよ!」


「そういえば~、装備枠が増える前って~、他に何かボーナスってなかったんですか~?」


「いや、あったぞ。保有称号数10で、ステータスポイントを10ポイント入手できたな」


「ほうほう、保有称号数10個ですか。まずはそこを目指してガンバってみようかな」


「ですね」


「それでアリル、相談なんだが……。この情報ってどうしたら良いと思う?」


「んー……そうだなぁ~。見た目で分からなければ、(わざ々公開する必要も無いし、秘匿(ひとく)しちゃえば良いよ。称号保有数20って今だとかなり難しい部類に入る条件だから、すぐにどうこうできる訳じゃないし、場合によってはガセネタだって言われる可能性が高いしね。それに、今は難しいだけであって、これからもゲームをプレイしていけば入手できる称号もそれなりに増えていくし、その内誰かが条件をクリアして公開していくと思うから、大丈夫だと思うよ」


「そうか。なら、書き込みは止めとくよ」


 そう答えながらもクエスト詳細を見てみると、208/300MPとなっており、満タンになるまでもう少し時間が掛かりそうだと分かり、その間に先程入手した称号の説明を読み込んでいく。


〔称号:慈悲深き討滅者達〕:一定エリア内に出現する全てのアンデッドを討滅した者達の証。


効果:アンデッドに止めを刺す毎に、ランダムでDEF か M・DEFの値が1上昇する。

但し、日付が変わるのと同時にこの効果はリセットされ、この効果によって上昇した数値は0に戻る。


 称号の確認が終わり、クエスト詳細を再度見てみれば、262/300MPとなっていて、リリース系のライトバーストなら1度で満タンまでいきそうになったので、念話でシエルに呼びかけ、MP量を調整するように指示を出す。


 そしてMP量を調整した最後の魔法が浄化の制御球に放たれ、魔法が制御球に当たる寸前で跡形も無く消え去る。


 その次の瞬間、浄化の制御球が白い光をぽぅっと纏い、『リィィィィィン!』というすずやかな鈴のを辺りに響かせると、今度は浄化の制御球から白い光の帯が照射される。

 

 カキンッ! ――ゴウンゴウンゴウン―――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 照射された光の帯は最奥部の壁にある数字の6と9が組み合わさった紋様の中心に当たると、何かを外したような音が響き、数字の6と9が組み合わさった紋様が3度回転し、次いで最奥の壁画が左右に割れ、次第に新たな通路が口を開けていく。


 ガシュンッ! ガシュンッ! ガシュンッ! ガシュンッ! ガシュンッ!…………


 更にその通路の口が開くのと連動するように、壁画の裏にあった幾つもの隔壁(かくへき)のようなものが、上下に左右にと交互に開いていく。


 …………ガガコンッ!


 複数の音が鳴り止むと、そこには地下墓地の最奥部から更に壁の中へと続く、新たな通路ができあがっていた。

 シエルの念動で支えられた浄化の制御球からは、先程から変わらず白い光の帯を、新たな通路の先へと照射したままだ。


「はぁー! 2回目とはいえ、やっぱりこういう仕掛けはすごいね!」


「だね! こう……未知への期待感が高まるよね!」


「まぁ、1度似たような仕掛けを見てますから、前回程新鮮味はありませんけどね」


「確かにな。この後どんな事が起こるのかも、何となく想像がついちゃうしな」


「残念ですけど~、その通りなんですよね~。むしろ~、保有称号数20で装備スキル枠が1つ増加するって情報の方が~、驚きに満ちてましたからね~」


 それから俺達は、浄化の制御球から照射される光の帯を頼りに、最奥部から新しい通路へと進んで行った。

 新たな通路口に入りしばらく歩くと、通路の勾配が段々と下がると同時に、通路自体が次第にカーブを描くようになり、まるで螺旋状の下り坂を下りているような感覚におちいる。


 周囲の風景は変わることなく、また先が見えない不安から、同じ場所をぐるぐると歩いているような錯覚さっかくを起こし、人によっては気分が悪くなる可能性もあるかもしれない。


 そう考えながらも、アリル達の談笑を聞きながら根気良く、道形みちなりに下って行くと、通路が終わっており、そこには、地下墓地カタコンベ第2層終点の小さな広間位の部屋へと辿たどり着いた。


 部屋の中には、部屋の中奥付近に高さ1m程の真っ黒な祭壇さいだんのようなものと、その周囲を取り囲むように、赤・橙・黄・白で彩られたステンドグラスのようなものが巻きついた柱が、4本あるだけだった。

 シエルの持つ浄化の制御球からは依然として、白い光の帯を照射しており、その光は祭壇の中心部にある窪みを指している。


「あそこが今回の制御球を収める場所みたいだね」


「だな。それじゃ、シエル。念のため、またあの祭壇には近付かないようにして、念動で制御球を置いてみてくれ」


『はーい!』


 シエルは右手を上げ、元気良く返事をすると、滑るように俺達の近くへ移動する。

 そこから念動を使って、浄化の制御球を部屋の中央にある祭壇の上まで運び、祭壇の窪みへと嵌め込んだ。


 コトッ……カチッ! フォンッ! フォンッ! フォンッ! フォンッ! フォンッ!


 すると浄化の制御球を嵌め込んだふちが迫り上がり、浄化の制御球を台座から離れないよう拘束・固定する。

 次いで、浄化の制御球を中心に祭壇から基盤の回路の様な模様が浮かび上がり、更に部屋全体にも基盤の回路のような模様が浮かび上がる。

 そして突然、脳内に普段のインフォメーションとは違う、機械的な声が響き渡る。


《浄化の制御球の再接続及び、魔力の再供給を確認》

《これより当機の再稼動準備を開始---完了》

《再稼動にあたり、当機の命令権限を有する保持者をサーチ---完了》

《現在当機の制御室にて、5つのゲスト権限を確認》

《ゲスト権限保有者に、当機の再稼動許可を申請します》


 機械的な声がそう言うと、俺達5人の前にウィンドウが現れ、『魔力浄化機構の管理者が、ゲスト権限保持者に対し、魔力浄化機構の再稼動を申請しました。申請を受諾しますか? Yes/No 』と出た。

 俺達は互いの顔を見た後1度頷き、次々にYesを押していく。


 Yesを押していくと、いつものように確認ウィンドウが現れ、『魔力浄化機構の再稼動申請を受諾すると、魔力浄化機構自体が故障及び、破損するまで停止させることができなくなります。本当に魔力浄化機構の再稼動申請を受諾しますか? Yes/No 』と出たので、再度皆に目配せしてから頷き合い、Yesを押した。


 すると再び、機械的な声が脳内に響いてくる。


《ゲスト権限保持者全員から申請受諾を確認》

《これより当機:魔力浄化機構の再稼動を始めます》

《魔力浄化機構内の魔素の乱れを精査---完了》

《再稼動理想状態であるため、そのまま実行---完了》

《当機は正常に再稼動しました》


 機械的な声が魔力浄化機構が正常に稼動したと告げると、部屋の中央にある祭壇と部屋全体に浮かび上がった基盤の回路のような模様が、先程まで居た地下墓地(カタコンベの床や壁、天井のようにへこんで溝のようになる。

 更に、昨日見た地下水路の溝のように、時折スーっと光が基盤の回路のような模様に沿そって流れて行き、また祭壇を囲むように立っている柱に巻きついている、赤・橙・黄・白で彩られたステンドグラスのようなものからも光が漏れ出し、部屋の中を温暖色に染め上げる。


 クエストの詳細を見てみれば、クエスト条件が表示されていた場所に、第2クエストクリアの文字が表示され、その隣にあった3つの丸も全て染色されていた。


『キークエスト【復活! 古の遺構】  2/3


・第1クエストクリア!  ●●●


・第2クエストクリア!  ●●●


・?????                                                                                                       』


「どうやら今回も無事に、クエストをクリアすることができたみたいですね」


「だね! でも、日没までに地上に出ないと閉じ込められることになるから、まだ安心はできないけどね」


「あぁー。そういえば、そうだったね。えっと……今が5時40分を少し過ぎた位だから、日の入りまで後50分近くの猶予(ゆうよがあるね」


「まぁ、前回みたく生存しているモンスターは居ないから、地下墓地を駆け抜けるだけで良いけど、階段が多いから、途中で休憩を挟むことになるなら、50分でもギリギリじゃないか?」


「でしたら~、すぐにでも戻りませんか~? 報酬の汎用魔法も気になりますし~、雑談等は地上に出てから~、思う存分すれば良い訳ですし~」


「ですね。それでは、戻りましょうか」


「あ!それじゃ、ただ戻るだけじゃつまらないし、競争しない? 賞品は……ビリの人が今度全員に何か(おごるとか!」


「いいねソレ、乗った!」


『きょうそう? おもしろそう!』


「負けませんよ~!」


「ホオォォォー、ホオォォォー!」


「え? いや、(わざ)々競争まですることは―――」


「それじゃ始めるよ? よーい、ドーン!」


「って、始めるの早!」


 そうして、俺達は何故か地上まで競争して地下墓地を脱することになり、地上への出口に向かって疾走(しっそう、或いは飛んで行ったのだった。



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