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Struggle Locus On-line  作者: 武陵桃源
第4章  夢現フィールドと再起の遺構
105/123

Locus 94

 台風直撃⇒停電⇒PCフリーズ&回線切断状態

 ということがありまして、遅くなりました。

 すみません。

 では、どうぞ。


 昨日決めた隊列を組みつつ、地下墓地(カタコンベ)への階段を下りて行く。

 階段には照明になりそうなものはなかったが、シエル自体が光源となり、若干薄暗くとも移動する分には問題無い光量になった。

 前回の地下水路へ下りる階段でもそうだったが、シエル様々だな。


 そうやってしばらく下りて行くと、幅6~7m、高さ3m強、奥行き15m前後の部屋に出た。

 部屋の中には、(ふた)の無い石棺(せきかん)が十数個と、地下水路で見たような、床・壁・天井にある基盤の回路のような形をした幾つもの(みぞ)があったが、地下水路とは違い、こちらは現実の赤熱灯のような(あたた)かい光を発していた。

 部屋の四隅(よすみ)と各石棺の間には、天井を支えるかのような柱が立っており、赤・橙・黄・白で(いろど)られたステンドグラスのようなものが、その柱に巻き付いている。

 

 敵の奇襲に備え、すぐ様気配感知で調べてみるが、部屋の中からは何かが居る気配は特に感じ取られなかった。


「ふむ。とりあえず、この部屋には何も居ないみたいだな」


「ですね。ボクの方でも何も引っ掛かりませんし」


「それにしても、地下墓地っていう位だから、もっと(ほこり)っぽかったり、カビ臭かったりするのかと思ったけど、そんなことないね」


「確かに……不思議ですね」


「ですけど~、嫌な臭いに(なや)まされずに()むのは~、正直大歓迎ですよ~! ああいうコモッタ臭いは~、最悪服や髪にまで移りますからね~」


「ああー、ソレは言えてるね~」


「それじゃ早速、探索と討伐をして行こっか! キークエストの方が、地下墓地に居るモンスターの90%を倒すことで、汎用魔法が報酬のクエストが、地下墓地に居る全アンデッドの討滅だったけど、変に残すのも面倒だし、今回もモンスターの全滅で良いよね?」


「はい、良いと思いますよ。それに昨日のことを考えれば、全てのモンスターを倒すことで何かしらの称号を得ることができるかもしれませんし。そうでなくとも、全てのモンスターを倒せば、それ以上隠れているモンスターや見つけていないモンスターが居ないことになりますから、結果的に汎用魔法が報酬のクエストが確実にクリアできますからね」


「だな」


「さんせーい!」


「分かりました~」


「さて、方針が決まったところで、とりあえず……この部屋の探索からかな? ここから見える範囲でも、隠された採取ポイントがあるみたいだし」


「え?! そうなの?」


「隠された採取ポイント~、ですか~。何が取れるのか~、わくわくしますね~」


「それでは、リオンさん。その採取場所までの案内をお願いします。ナギは念のため、リオンさんが指定した採取ポイントに罠が無いかどうかの確認をお願いします」


「ういうい、了解だよ!」


 そうして部屋の中にあった3ヶ所の隠された採取ポイントへと皆を案内して行き、ナギから罠が無いことの確認が取れた後、各自でそれぞれの採取ポイントで採取を行っていった。

 因みに、隠された採取ポイントの内2ヶ所は、蓋の取れた石棺の中にあり、1ヶ所は部屋の隅にあった瓦礫(がれき)……恐らく、砕けた石棺の蓋が積み重なったであろう場所にあった。



素材アイテム  骨粉(こっぷん):何かの骨の粉末。原形を一切止めておらず、何処の部位の骨であるかさえも分からない。畑等の土地に()くことで、()料にすることができる。


素材アイテム  骨糞(こっぷん):内容物のほとんどが、何かの骨で出来た何かの(ふん)。原形を一切止めておらず、何処の部位の骨であるかさえも分からない。畑等の土地に撒くことで、肥料にすることができる。


素材アイテム  古びた襤褸(ぼろ)切れ:長い年月が経ち、()り切れ、ボロボロになった布切れ。少し力を入れれば、容易に引き裂くことができる程強度は弱いが、細かくして畑等の土地に混ぜることで、肥料にすることができる。


素材アイテム  ()ちかけた木切れ:長い年月が経ち、ボロボロに朽ちかけた木切れ。少し力を入れれば、容易に手折ることができる程強度は弱いが、そのまま細かくしたり、燃やして灰にしてから、畑等の土地に混ぜることで、肥料にすることができる。


素材アイテム  (ひど)く軽い石:所々に大小の穴が開いた、軽い石。物によっては水に浮かぶこともあり、別名:浮石(フロートストーン)と呼ばれている。また、細かく砕いて畑等の土地に混ぜることで、水捌(みずは)けを良くすることができる。


素材アイテム  何かの卵殻(らんかく)片:何かが孵化(ふか)した後のような、白い卵の殻の破片。少し力を入れれば破砕することが可能な程脆(ほどもろ)いが、畑等の土地に細かくしてから撒くことで、肥料にすることができる。



「見事に、畑関係の生産素材一色ですね」


「居るかどうか分からないけど、職業(ジョブ)科業(クラス)農家(ファーマー)のプレイヤーになんか渡せば、喜ばれそうだよね」

  

「ん~……でもここで取れるってことは、元は人骨でしょ? 流石にゲーム内であっても、ボクとしてはちょっと嫌かなぁ。コレで作った野菜なんて、何か(のろ)われそうじゃない?」


「確かに~、ゲーム内とはいえ~、私も~、人骨の肥料で出来たお野菜とかは~、食べたくはないですね~」


「現実でだったら俺も嫌だけど、ゲーム内でなら別に気にならないかな? 直接口に、人骨が入る訳でもないし」


「私もお兄ちゃんと同じかな。体に悪影響が無くて、不味くなければ、だけど」


「ええー?! リオンさんもアリルちゃんも、(きも)()わり過ぎだよ! どうしたら、そんな風に考えられるの?!」


「だってゲームなら、現実でできないようなこともできるし、どんなことをしても最終的には死に戻りっていうやり直しが()くから、やったもん勝ちかなって」


「それにゲームは楽しむものなんだから、普通じゃできないことができるのって、すごく楽しくないか?」


「確かに、現実でできないようなことができた時とかは、わくわくして楽しいですし。そういう考えも分かる気がしますね」


「なるほど~」


「うぅ~ん。そう言われればそうなんだけど……。やっぱり人骨はちょっとなぁ」


「まぁ、そう難しく考える必要は無いと思うぞ? 楽しんで何ぼなんだから、受け入れられないことはスッパリと諦めて、楽しくできる事をやれば良いんだからさ」


「ですよね! そうします!」


「も~、ナギちゃんたら、現金なんだからー……」


「それでは引き続き、探索して行きましょうか。隠された採取ポイントに骨で出来た糞や卵の殻があったことから、恐らくアンデッド以外もいるでしょうし、各自でも注意を(おこた)らないようにして下さい」


「分かった」


「はーい!」


「了解だよ!」


「分かりました~」


『はーい!』


「キュウ!」


 そうして、俺達は今居る部屋に他に何か無いかスキルを駆使して探索し、これ以上何も無いことが分かると、部屋の奥へと進んで行き、奥にあった通路口から延びている階段を下りていった。

 

 階段を下りた先は左右に分かれたT字路になっており、下りてきた階段の正面には、周囲の壁・天井・床とは材質が異なった、つるりとした壁があった。

 壁の大きさは、目測で幅2m弱、高さ3m弱程で、壁には、地上でも見た数字の6と9が組み合わさったような紋様を中心に、その両隣をフードのようなものを被った女性が祈るように両手を組み、互いに向き合うような壁画が()られていた。

 よく見てみれば、向かって右側の女性の髪は白く、向かって左側の女性の髪は黒く描かれている。


 左右に分かれた通路は、幅3m弱、高さ5m程と人が2人並んで歩いても余裕が持てる位広い。

 右側の通路の先は、少し行くと曲がり角になっており、その先までは分からない。

 左側の通路の先は、別の通路口が開いており、その先にはまた下りの階段があるのが見えた。


「分かれ道……だね。どっちにいこうか?」


「その前に、この見るからに怪しい、壁画を調べてみない? この数字の6と9が組み合わさったような紋様って、慰霊碑の表裏に彫られてたのと同じだよね?」


「確かにそうですね。リオンさん、ナギ、お願いできますか?」


「分かった、見てみるよ」


「ほーい、了解だよ」


 その後スキルを使って壁画を調べてみるが、特に何も見つからなかった。


「んー。この壁画自体には、仕掛けはなさそうだな」


「ですね。罠とかも無いっぽいよ」


「そうですか。それでは……どちらの通路へ行きましょうか?」


「う~ん、どっちでもいい気がするけど……お兄ちゃんはどっちが良いと思う?」


「ん? そうだな、俺は右側が良いかな?」


「右~、ですか~? 何か~、理由でもあるんですか~?」


「ああ。っといっても、あくまで俺の私見だけどな。もしもこの先でモンスターに待ち伏せされていたとしたら、どっちの方が戦い易いかと思ってさ」


「戦い易い……あ、なるほど。そういうことですか」


「リアちゃん、今ので分かったの? いったい、どうゆうこと?」


「ええ。つまり、仮にこの左右の先でモンスターに待ち伏せされていた場合、右のある程度広いこの通路で戦うか、左にある階段という足場が悪く、視界の確保が困難で、この通路に比べ狭い空間での戦闘とではどちらが、有利に戦えるかということですよ」


「それと付け加えるなら、戦闘音や生き物の気配に引かれて、後方からモンスターが来た場合もだな」


「なるほど! 確かに狭い場所で戦うより、広い方が何かと動き易いよね」


「万が一バックアタックを受けた時も、狭い場所だと最悪仲間が邪魔で身動きが取れないかもしれないしね」


「それに~、もしも魔法を使う個体がいれば~、狭い場所で固まって動けないでいるなんて~、恰好(かっこう)(まと)以外の何者でもないですしね~」


「まぁ、可能性の話で、本当にそうなるかは分からないけど、(そな)えあれば(うれ)い無しって言うだろ? それに、そういうことが無くても、右側のモンスターが居なくなれば、左側で苦戦を()いられたとしても、安全に後退できる余裕が持てるしな」


「そこまで考えているなんて、流石はお兄ちゃんだね!」


納得(なっとく)しました~」


「それじゃ、右側に行くってことで、決定! だね」


「ええ、私も異論はありませし、早速移動して行きましょう。ナギは先行して偵察を、リオンさんはナギの護衛(ごえい)をお願いします。私達はこの場に残り、左側を警戒していますから、何かあったらパーティチャットで連絡を下さい」


「それじゃ、行って来るね!」


「分かった。そちらも気を付けてな。シエルもネロも、もしもの時は頼んだぞ」


『はーい! いってらっしゃーい!』


 シエルは元気良く返事をしつつ、右手を上げ、腕をブンブンと振る。


「キュウ!」


 ネロも大きく1つ(うなず)くと、敬礼のようなポーズを取りつつ返事をするように鳴き声を上げる。


 アリル達と一旦別れた後、俺とナギは右側の通路の先へと進んで行った。

 道なりに歩いて行くと、先程見えた角を左に曲がり、また少し歩いて行くと、今度は右の曲がり角にぶつかった。

 右の曲がり角を通過し、しばらく行くと、先程採取した部屋の4倍はありそうな大きな部屋に着いた。


 その大きな部屋の壁には縦に長い五角形の(くぼ)みが幾つもあり、その中に石棺が1つずつ収められているのが見えた。

 部屋の中には、天井を支えるための支柱のようなものが、およそ2m程の間隔で多数立ち並んでおり、その支柱全てに、最初の部屋で見た柱のように、赤・橙・黄・白で彩られたステンドグラスのようなものが、巻き付いている。

 部屋の中央には、高さ30cm程の台座の上に、祈るように両手を組んで、背中合わせに立っている、2人の女性像があり、まるでここに眠っている死者達を見守り、鎮魂(ちんこん)の祈りを捧げているかのように見える。


 俺とナギはスキルとアーツを使い、気配を殺しつつ部屋の入り口付近へと慎重(しんちょう)に近付いて行き、部屋の中を徘徊(はいかい)しているモンスター達に視線を走らせていく。

 どうやらここにいるモンスターは、アンデッドが4種類と、それ以外が1種類居るようだ。


 この大部屋に居るモンスターで最も多く、この地下墓地の入り口でも見た、スケルトン。

 次に多いのが、三方の壁際にそれぞれ3~4匹程度で固まっている、白い甲殻を持つ、全長1m程もあるダンゴ虫に似た甲虫(こうちゅう)

 そして1番少ないが、通常のスケルトンとは少し違い、手に武器や道具を持っているスケルトンが各種1体ずつ。


 俺は気配感知を使い、()らしが無いように気を付けつつ、数回にわたり識別を行い、大部屋の中に居るモンスターを見ていった。


スケルトンA・F・I:Lv18・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打


スケルトンB・D・E・J・K:Lv17・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打

 

スケルトンC・G・H:Lv19・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打


スケルトンアキサー:Lv19・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打


スケルトンピッカー:Lv19・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打


スケルトンシャベラー:Lv19・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打


ボーンイーターA・B・G・I・J:Lv17・属性:地・影・耐性:斬・突・影・弱点:火・風・打


ボーンイーターC・D・E・F・H:Lv18・属性:地・影・耐性:斬・突・影・弱点:火・風・打


 ふむ、全部で24体か……多いな。

 レベルはあまり高くはないけど、天井を支えるためにある多数の支柱のせいで、武器の取り回しがし難そうだから、乱戦になったら危ないかもしれないな。

 むしろ大部屋に居るモンスター達の弱点属性に、打属性と火属性があるから、下手にアドヴァンスドソードを振り回すよりも、拳打(けんだ)で攻撃する方が良いかもしれない。

 それと弱点部位だけど……うん、スケルトン系は頭蓋骨が弱点で、ボーンイーターの方は場所の特定が若干し辛いけど、たぶん甲殻に(おお)われてない、腹? 側っぽいかな。


 そうやって考えていると、ナギから大部屋にいるモンスター達の視察が終わったことを()げられ、未だ大部屋を徘徊しているモンスター達に気取られないよう注意を払いながら、物音を立てないようにそっと、その場を後にし、アリル達が待つ場所へと戻って行った。


「ただいまー。戻ったよー」


「おかえりー! それで、どうだった?」


 そう言われ、俺とナギは偵察で分かったことをアリル達に話す。


「総勢24体のモンスターに、多数の支柱、ですか。厄介(やっかい)ですね」


「ですね~。レベル自体は~、先程見たのとそんなに変わらないみたいだけど~、そんなにたくさんの柱が立っていると~、武器による攻撃は~、難しそうですね~」


「だな。特にユンファの持つ長得物だと、満足に振ることもできないんじゃないか?」


「だねー。なら、ユンファちゃんには魔法で攻撃してもらえば良いかな? 弱点属性に打属性が入ってるから、結構効きそうだし、それにユンファちゃんと一緒なら、うまくすれば『アレ』も狙えるしね」


「ん? アレ? 何のことだ?」


「それはですね~。特定条件を満たすようにして~、2属性以上の魔法を放つと~、ユニゾンマジックっという~、所謂(いわゆる)合体魔法が発生するんですよ~。もっとも~、その特定条件っていうのは~、各ユニゾンマジック(ごと)によって~、全く異なりますけどね~」


「それでも、ユニゾンマジックが発生すれば、魔法の範囲と威力が上がるし、経験値もおいしいから、狙って出せるようになれば、戦闘もある程度有利に進められて、スキルの成長も早くなって、一石四鳥? なんだよ」


「へー、そうなのか。……あ、そういえば。魔法で思い出したけど、コイツを渡すのを忘れてたな。新作なんだけど、よかったらまた、試してみてくれないか?」


 そう言いつつ、俺は素早くMPリキッドを実体化させていき、魔法を使わないリーゼリアとナギに10本ずつ、今回は魔法主体で戦うアリルとユンファに20本ずつ手渡す。


「えっ、コレって……」


「MP回復アイテムじゃないですか?! いいんですか? こんなに頂いて?」


「ああ。この先がどの位あるか分からないし、昨日みたいにMPが足らなくなったら危ないだろ? それなら、用心して置くことに越したことはないしな。そのついでに、使い心地の感想とかもらえれば良いから、遠慮(えんりょ)せずに使ってくれよ」


「そういうことなら、使わせて頂きますね。リオンさん、ありがとうございます」


「ありがとうございます~」


「あ、コレって、振り撒いて使うタイプなんだね。回復量は固定で、100。しかも、半径1m以内だったら、複数人でも回復できそうだね」


「加えて言うなら、経口摂取……つまり、飲むことでも回復できるというか、飲んだ方が回復する量は多いけど、中確率で麻痺の状態異常に掛かるから、街中やセーフティエリア以外では、飲まない方が良いだろうな」


「ですね。戦闘中に麻痺なんてしたら、集中的に狙われますもんね」


「これで、MP切れの心配は無くなったし、そろそろこの地下墓地を攻略するための方針を決めよっか」


「だな」


「ですね~」


「今回気を付けるべきことは、大きな空間に短い間隔で多数の柱が立っていることから、擬似的な狭い空間になっているため、武器による攻撃が困難になると思われることですね」


「それと、耐性属性に影属性が多いことから、ネロちゃんの魔法もかな?」


「だけど昨日見た影から拳が出た魔法なら、たぶん打属性だから、あの魔法だったら、普通に効くんじゃないかな?」


「それじゃネロには、遊撃を頼もうか。通常はシャドウブロウで攻撃して、ここぞという時には、ボラシティプラントに影装変化してもらえれば、打属性で攻撃できるしな」


「なるほど、良さそうですね。それでは、前衛である(リーゼリア)とリオンさん、遊撃であるナギは武器の横振りをなるべく避けて、攻撃するようにしましょう。武器が柱に引っ掛かれば、手痛い反撃を受けることになりますからね。もしあればですが、格闘武器や短剣等の武器の(リーチ)が短い武器の方が、引っ掛かり辛いでしょうから、実用に耐えるものなら装備を交換した方が無難でしょうね」


「そう、だよな。分かった」


「まぁ、ボクは最初から武器の丈は短いから、たぶん大丈夫かな。予備の短剣もあるし」


「後は、アリルとシエルちゃんの後衛に、ユンファが加わって、戦闘開幕時に範囲魔法を撃った後、魔法主体で攻撃してもらえれば良いですかね」


「うん、良いんじゃないか。あ、それと、シエル。レイビームだと柱が邪魔して、モンスターにうまく当たらないと思うから、使うならライトバーストの方を頼むな」


『はーい!』


「そういえば~、リオンさんの魔法って電気っぽいですよね~。昨日の戦闘でも~、モンスターが感電? するみたいに~、(しび)れてましたし~。アリルちゃん~、属性は無属性ですけど~、案外風や水と相性は良さそうじゃないですか~?」


「あー、言われてみればそう、かも? ユニゾンマジックも2属性以上で発生するし、3属性でもいけるかもしれないね。むしろ、いけそうな気がするよ! ユニゾンマジックは1度発生しちゃえば、その後何してもしばらくの間は発生し続けるから、ダメ元でやってみるのもいいかもね。……うん。ってな訳で、お兄ちゃん! 昨日範囲魔法使えるって言ってたよね?」


「え、あ、ああ。確かに使えるけど。撃ったことが無いから、射程がちょっとな分からないけどな」


「んー……それだとちょっと、危ないかなぁ? 私達はここで待ってるから、ちょっと上で試し撃ちして来てくれないかな?」


「え? 今からか?」


「そ! 今から。大事なことだし、それにいつまでも自分の魔法の射程が分からないのも嫌でしょ? 良い機会だし、パパッっとやっちゃって来てよ。ほら、早く!」


「はぁ。まぁ、いいけど。それじゃ、ちょっと行ってくるな」


 そう言って俺は、アリルに言われた通り、再び最初の部屋に戻り、無属性魔法の範囲魔法の試し撃ちをして、ついでに装備スキルを入れ替え、また階下へと戻る。

 因みに射程は、初期魔法のエネルギーボルトより(はる)かに短く、およそ7~8mといった所だった。


「戻ったぞ」


「おかえりー!」


「おかえりなさいです~」


『おかえりなさーい!』


「キュゥーウ!」


「それじゃ、行こっか」


 それから、俺達はなるべく足音を立てないように移動して行き、先程偵察に向かった大部屋へと進んで行く。

 そして、中の様子を(うかが)いながら、奇襲時の手順の指示をパーティチャットを通して受け、その内容を念話を使って、更にシエルとネロに伝える。


『お兄ちゃん、できそう? 肝心なのは2秒遅れて、だからね!』


『大丈夫ですか~?』


『つまり俺は、アリルからは4秒、ユンファからは2秒遅れて魔法を撃てば良いんだよな』


『そそ! それとユニゾンマジックの成否は、ログを見てみれば分かるから、魔法を撃った後に確認してみれば良いよ』


『成功していれば~、【ユニゾンマジック】何々が発生しましたって~、ログが流れますから~、見ればすぐに分かりますよ~』


『なるほどな。ならその後に、シエルに魔法を撃ってもらえればいいよな』


『だね!』


『ですね~』


 そう2人の了解を得た後、俺は念話を使い、シエルとネロに指示を出していく。


『それじゃシエルは、俺が魔法を撃った後、少ししたらモンスターが一番密集しているところにライトバーストを打ち込んでくれ』


『はーい!』


『ネロの方は、魔法の範囲から逃れたモンスターを集中的に狙って攻撃。乱戦になるようなら、臨機応変に対応してくれ』


『わかったー!』


『それでは、開幕時の範囲魔法後、各自臨機応変に対応をお願いします。魔法組は乱戦に入ったら、範囲魔法は控えるようにして下さい。それと武器を振るう時は、柱に気を付けて攻撃しましょう』


 そうして大体の動きの確認をした後、俺達はタイミングを見計みはからって、行動していく。


「それじゃ、いくよ? ―――グラビティボルテックス!」


 アリルが宝玉が嵌った方の杖の先端を大部屋に向けながらそう唱えると、大部屋の中心にある背中合わせに立っている2人の女性像の周囲に、突如として逆巻く竜巻が発生する。

 スキルレベルが上昇したおかげか、竜巻の規模が昨日より大きくなっており、急速に流れる気流によりモンスター達を切り裂きながら、その竜巻の中心へと引き寄せていく。

 竜巻の発生している範囲に居ないモンスター達も、竜巻の中心へと吸い寄せられまいとするが、自重が軽いせいか、そのほとんどが失敗に終わり、竜巻の中心へと吸い込まれていく。


「ここです~。―――フラッドウォータ~!」


 ユンファが構えたパルチザンの穂先ほさきから人の頭程の水球が生じ、その水球から激しい水の流れが放出される。

 放出された水の奔流ほんりゅうは、吸い込まれるようにアリルの放ったグラビティボルテックスへと到達し、そして水という物質を巻き上げ、更に激しくその範囲を拡大させながら、渦を巻く。

 さながら、地上を行く竜巻が、湖や海の水を巻き上げてできた、水竜巻のようだ。


 意図的か偶然か、柱の影や地下墓地の床にある溝につかまっていたモンスターも強力な水流によって吸い上げられ、水竜巻の中心へと流され、水圧のおりへととらわれていく。


「っ! ショットガンボルト!」


 俺は水竜巻との距離をはかり、前に左腕を掲げるようにして、左掌(ひだりてのひら)から20前後の青白い雷散弾を発射する。 

 発射された雷散弾は、力強く逆巻く水竜巻に全て取り込まれ、青白い雷が水竜巻の中を縦横無尽に駆け巡り、水竜巻の中心に居るモンスター達に更なるダメージを与えていく。


「うっひゃー! これはすごいね!」


「ですね~。中心に居るモンスター達なんて~、今にも潰れそうな程~、密集してますしね~」


「確かに、予想外に強い魔法になってますね。恐ろしい限りです」


「あ、お兄ちゃん。ちゃんと成功してるっぽいよ。やったね!」


 そう言われ、俺は素早くメニューを開き、ログを確認してみる。

 すると下から2番目のログには『【ユニゾンマジック】:アクアトルネードが発生しました』とあり、1番下には『【ユニゾンマジック】:プラズミックサイクロンが発生しました』というログがあった。

 どうやら、無事成功したみたいだな。


 荷電した水竜巻の中心を見てみれば、多数のHPバーが時を経る毎に、ガリガリと削れていっている。

 中には、既に半分を下回っているものもあり、このままの状態がもう少し続けば、幾つかの個体はそのまま倒し切ることも可能かもしれない。

 そう思っていると、ふいに俺にしか聞こえないシエルから声が聞こえてくる。


『んと、もういいかな? それじゃ、いっくよー! ―――ライトバースト!』


 すると、荷電した水竜巻の中心に小さな光球が現れ、青白い雷を(まと)いながら次第に肥大化していく。


 って、あれ? 何か反応がおかしくないか?

 いつもはすぐに爆発するはずなのに……まさか!


 そう思い、すぐにログを確認して見る。

 そしてそこには、案の定『【ユニゾンマジック】:ブラスティックコロナが発生しました』というログがあった。


 ブラスティックコロナ?

 ~icで終わってるってことは形容詞だから、元はブラストかな?

 ブラストを直訳すると爆風や衝撃波のことで、コロナは確か高温ガスだったはずだから……あれ? 何か嫌な予感がする。


 そしてその予感が的中するように、ふいに目の前が真っ赤に染まる。

 やばい! ここユニゾンマジックの効果範囲内だ。

 そう(さと)った瞬間、俺は即座に全力で後ろへ跳び、更に丁度ユニゾンマジックの効果範囲外である、アリル達が居る通路口まで退避する。


「あれ? お兄ちゃん、どうしたの?」


「簡単に言えば、ユニゾンマジックの範囲が大きいから、避難してきたんだよ。それとこれは念のためだ。皆少し下がってくれ! ―――トリプルマジック――プロテクトシールド!」


『ライトウォール!』


「キュキュウ!」


 俺の考えを読んだのか、危機的本能が働いたのか、俺がプロテクトシールドを葵紋のように重ねて通路口と大部屋の間に出現させると、それに続くように、俺のプロテクトシールドの前にシエルのライトウォールが立ち、ネロのシャドーシールドが、俺のプロテクトシールドの下をカバーするように出現する。


 カッ! ―――ドゴォォォォォオオオオオオオーーーーーーーーーン!!


 ピシッピキキキキキン―――パキャァァァアアアアアン!


「「っく!」」


「うわっ?!」


「ひゃっ?!」


「はぅっ?!」


『おおー! すっごーい!』


「・・・・・・」


 そして、それ等の防御系魔法が完成した次の瞬間に、大部屋の中心から凄まじい閃光と爆発が吹き荒れ、爆風に耐え切れなかった、シエルのライトウォールが砕け散り、更に、俺とネロが張ったシールド系魔法にも次々と(ひび)が入っていき、(ふさ)げ切れなかった大部屋と通路口との隙間からやや熱い風が俺達がいる通路へと入ってくる。


「うわっ! 暑っ! てか熱い?!」


「ひゃっ! ちょっ! ダメ! お、お兄ちゃん、こっち見ちゃダメ! ダメなんだからね! 絶対だよ!」


「はぅ~! ま、前が見えません~! それに何か熱いですぅ~!」


『おおー……。こっちも、すっごーい!』


 ネロはちゃっかり俺の影に入っているようで、特に被害は無いようだが、俺やアリル達はシールド系魔法で防ぎきれなかった熱風に(あお)られ、肌が比較的多く露出しているナギは、通路の奥へ慌てて避難して行き、アリルやユンファはローブやスカートが激しくはためき、何か色々と危ないことになっている。


 シエルは何かすごいものを見たようだが、気にしない! 気にしてはいけない!

 言動が幼いから、たぶん何を見たか聞けば教えてくれるだろうが、己が内から発せられる『ダメ! 聞くな! 止めろ!』という俺の(かん)が再び激しい警鐘(けいしょう)を鳴らしているので、今回も放って置くことにする。


 大体どんなことになっているかは想像が付くし、(わざ)々自分から地雷原に足を突っ込むようなことをする必要も無いしな。

 万が一バレたら事だろうし、好奇心は時として猫をも殺すのだ!

 だから、俺は何も知らない! 何も聞いていないんだ!


「ああ、分かった。大丈夫、そっちが良いって言うまで見ないから、安心してくれ」


 俺はそう、そ知らぬ風に返事しつつも、アリルの言に従うように、残ったシールド系魔法の様子を見てみる。

 皹は止まること無くどんどんと広がっていき、少しするとシールド系魔法全体に行き渡り、次の瞬間俺とネロが張ったシールド系魔法が砕け散る。

 しかしそれと同時に、今まで大部屋で発生していた大爆発による爆風が止み、粉塵煙(ふんじんえん)が徐々に晴れていき、大部屋の中の様子が分かるようになっていった。


 大部屋の中には動くものは一切なくなっており、モンスターの残滓(ざんし)と思しき光の粒子が大部屋の中心部でキラキラと光っているだけだった。

 念のため気配感知で調べてみたが、やはり大部屋の中からは何の気配も感じられなかった。


 さて、後ろはしばらく見ることはできないし、どうしようかな?

 そう思いながら何と無く大部屋の方に視線を走らせていくと、大部屋の中心に背中合わせに立っている、2人の女性像に目がいった。


 そういえば、T字路の壁に2人の女性が彫られていた壁画があったけ。

 その女性達は互いに向き合うようにして描かれていて、確か右側に描かれていた女性の髪は白だったはずだ。

 だけど、今見えている女性像は背中合わせになっている。

 うん、怪しいな。

 せっかくだし、調べてみるとするか。


 そうして、俺は大部屋の中心に立っている2人の女性像の方へ歩き出して行った。

 少し歩いて行くと、支柱と支柱の間に何かが落ちているのに、気が付いた。

 近付いて見てみると、そこには1本のシャベルがあった。


 なんでこんなものが落ちてるんだ?

 確かに、スケルトンシャべラーとかいうモンスターは居たけど、普通ドロップアイテムって自動的にパーティ内の誰かの(かばん)に入るはず……なんだけど、何か特殊なアイテムなのか?


 そう思い、俺は落ちているシャベルを拾い上げ、そのまま鑑定を使ってみる。



武器・道具アイテム:槍・シャベル  名称:開拓者のシャベル  ランク:3  強化上限回数:15回


ATK24  DEX8  採取数UP  要求STR10  耐久値112/280  


与DP倍率:斬0.1 打1.2 突0.3 魔0.1


説明:大昔の開拓者が愛用していたシャベル。武器としても料理器具としても扱うことも可能な、優れた道具の1つ。採取時に使用することで、採取アイテムを通常より多く取得できる効果を持つ。但し、場所によりけり、効果を発揮できない場合もある。


 

 う~ん、コレは確かに、ある意味特殊なアイテムではあるな。

 採取数アップとか、生産系プレイヤー垂涎(すいぜん)ものだろう。

 単純に、採取クエストでも役に立つし、これはきちんと相談する必要がありそうだな。

 耐久値はさっきの爆発で減ったのか半分以下になってるけど、耐久値の回復ができない訳じゃないみたいだから、使い捨てじゃないのも嬉しい。

 他に(おの)を持ったスケルトンアキサーと、鶴嘴(つるはし)を持ったスケルトンピッカーが居たから、同じような効果の特殊な斧や鶴嘴が、この大部屋の何処かにあるかもしれないな。

 

 そう考えていると、ふと後ろから誰かが近付いて来る足音がし、次いで声を掛けられる。


「リオンさん、何をしているのですか?」


「ん? ああ、っと、リーゼリアか」

 

 俺は何気なく後ろを振り向こうとしたが、まだアリル達から了解を得ていないことに気付き、リーゼリアに背を向けたまま、話す。


「リオンさん、もう後ろを向いても大丈夫ですよ。今では身だしなみを整えてるだけですからね」


「そうなのか? そいつは何よりだ」


 そう言いつつ、俺はくるりとリーゼリアの方へ向き直る。


「ええ。それで、こんなところで何をしていたんですか?」


 俺はそう問われ、ここに来るまでの経緯を話した。


「なるほど、分かりました。それでしたら、その斧と鶴嘴の探索はこちらで引き受けましょう。ですので、その間にリオンさんは中心にある女性像の方を調べて下さい」


「分かった。それじゃ、シエルとネロにも探索を手伝うように言っておくよ」


「ありがとうございます。助かります。流石に、この広い部屋を1人で探すのは大変ですからね」


 それから、念話でシエルとネロに、この広い部屋の中にあるかもしれない斧と鶴嘴の探索を頼み、俺は中心にある2人の女性像へと近付いていき、女性像を様々な角度から見て、何かしら隠されたものが無いか調べる。

 すると、通路口とは反対側の方から見た台座に、赤く光る場所があった。


 さて、何か隠されたものは見つかったけど、どうしようかな?

 安易に触って罠とか発動させるとまずいだろうし、一応ナギに見てもらった方がいいよな。

 そう思い、通路口の方を見てみれば、丁度アリル達がこちらへ移動して来ているところだった。


 そして、そのままアリル達の到着を待ち、アリル達にこれまでの経緯を話し、ナギに赤く光った場所に罠が無いか確認してもらう。

 罠は特に無いようだったので、赤く光った場所に触れてスライドさせるようにすると、中からレバーがあるのが見つかった。

 試しに、そのレバーを倒してみると、台座の上にある2人の女性像が右回りで、1/4回る仕掛けになっていた。

 女性像の髪を見てみると、現在通路口の方に黒い髪の女性が向いているので、あの壁画通りの状態にすれば何かあるはずだと思い、再度台座にあるレバーを2度倒し、白い髪の女性が通路口の方を向くように操作する。


 すると、白い髪の女性像が『ぽぅ』っと淡い光を発し、そして元に戻る。


「これで終わり? 何か変わったのかな?」


「どうでしょうか~?」


「まぁ順当にいけば、あのT字路の壁画か、左側の通路の先にある同じような仕掛けを動かせば、変化はあるんじゃないかな?」


「だろうな」


 そうやってギミックを動かした後、話していると、探索し終えたリーゼリア達が帰って来た。


「ただいま戻りました」


『ただいまー!』


「ホオォォォー!」


「ああ、おかえり。シエルもネロもありがとうな。どうだったって、その持っているものを見れば分かるか」


「はい。リオンさんが言った通り、ありましたよ。耐久値は2つ共半分以下ですが、効果の方はシャベルのものとは別でしたね。確認してみて下さい」


 そう言われ、差し出された斧と鶴嘴を受け取り、素早く鑑定を行う。



武器・道具アイテム:斧・(まさかり)  名称:開拓者の鉞  ランク:3  強化上限回数:15回


ATK28  DEX-3  伐採数UP  要求STR13  耐久値139/300  


与DP倍率:斬1.2 打0.5 突0.1 魔0.1


説明:大昔の開拓者が愛用していた鉞。武器としても扱うことも可能な、優れた道具の1つ。伐採時に使用することで、伐採アイテムを通常より多く取得できる効果を持つ。但し、場所によりけり、効果を発揮できない場合もある。



武器・道具アイテム:刺突槌・鶴嘴  名称:開拓者の鶴嘴  ランク:3  強化上限回数:15回


ATK26  DEX-2  採掘数UP  要求STR13  耐久値121/260  


与DP倍率:斬0 打0.4 突1.4 魔0.1


説明:大昔の開拓者が愛用していた鶴嘴。武器としても扱うことも可能な、優れた道具の1つ。採掘時に使用することで、採掘アイテムを通常より多く取得できる効果を持つ。但し、場所によりけり、効果を発揮できない場合もある。



 うん、やっぱり良い効果だな。

 そう思いつつも、鑑定し終わった鉞と鶴嘴をまだ見ていないアリル達に渡していく。


「それでコレ等をどうやって配分しようか? 無難にじゃんけんとかか?」


「そのことなんですが、もしかしたらこの階層に埋葬(まいそう)されているのは、開拓中に亡くなった労働者なんじゃないかと思うのですが、どうでしょうか? 敵のモンスターに剣や槍等の武器を持ったスケルトンは居ませんでしたし、最初に訪れた部屋でも、生産系アイテムしか採取できなかったのも、それが原因かもしれませんよ?」


「なるほどな。確かに、言われてみればそんな感じがするな」


「ですので、恐らく左側の通路の先にも同じような武器兼道具アイテムを持った、労働者スケルトンが居る可能性があると思うんです。なので、配分は左側の通路の先にいるモンスターを倒してからでも、遅くは無いんじゃないでしょうか?」


 そうやってリーゼリアと相談していると、武器兼道具の鑑定が終わったのか、アリル達が会話に入ってくる。


「うん! ボクもリアちゃんの案で良いと思うな。どれかは被るかもしれないけど、人数分集まるかもしれないしね」


「私も~、賛成です~。私にはモンスターの気配とか分かりませんけど~、配分とかするなら~、後顧(こうこ)(うれ)いを無くしてから~、やった方が良いと思いますからね~」


「私も賛成かな。後からゲットできたアイテムの方が欲しいってなったりすると面倒だし、それに背後からモンスターに襲われる心配は無い方が良いしね」


「そうか。皆に不満とか無いなら、俺はそれでいいよ」


「そうですか、よかったです」


「あ、それと! さっきのユニゾンマジックとか今まで見たこと無かったから、少し実験してみたいんだけど……どうかな? 他のユニゾンマジックの法則とか、条件とか分かれば、これからの戦闘で役立つかもしれないし!」


「んー……そうですねぇ。今のところ戦闘で働いているのは、アリル達ですし、日没までまだ時間もありますし、私は構いませんが」


「ボクも別に良いよ。今後の戦闘とかで役立つ可能性があるなら、やった方が良いよ! まだ先だろうけど、クラン対抗戦とかあった時に、動き易くなるかもしれないしさ」


「私も純粋に興味がありますし~、いいですよ~。ユニゾンマジックが発生すれば~、経験値もおいしいですしね~」


「俺も確かに興味はあるな。何かのはずみに、ユニゾンマジックが発生したりすると危ないし、ある程度パターンを知って置いた方が良さそうだしな」


「やった! それじゃ、少しでも時間を節約するためにも、またさっきのユニゾンマジックで左側の通路の先も一掃(いっそう)しようよ! 爆風や熱風が(すご)かったけど、(あらかじ)め来るって分かってたら、対応もできるしね」


「まぁ、確かに」


「それじゃ、早速左側に行ってみよう!」


 そうして、俺達は1度T字路まで戻って行った。

 すると、最初見た時の壁画に変化があり、数字の6と9が組み合わさった紋様の6の部分に当たる所が白く発光していた。


「あっ! 壁画の一部が光ってるよ!」


「恐らく、さっきの大部屋で動かしたギミックの影響でしょうね」


「まだ半分が光ってないから、たぶん左側の部屋で同じような仕掛けを動かせば、光るか、この壁画自体が動くんじゃないかな?」


「だろうな。ガルシアさんが言ってた、大量に出た死者という割りには、埋葬されている数が少ない気がするし、キークエストの討滅パーセントも50に満たないしな」


「ですね~」


 そう話をしながら左側の階段口まで行き、そこからまた俺とナギで先行して行く。

 階段を少し下りた先にはまた通路があり、その通路の先を左に曲がり、曲がった先を右に曲がりしばらく歩くと先程と同じような大部屋に辿(たど)り着いた。

 部屋の中心には、同じように背中合わせに立っている2人の女性像があり、また2m程の間隔で多数の支柱が立っていた。


 そして、その部屋に居るモンスター達を識別した後、アリル達をパーティチャットで呼び、先程と同じように、ユニゾンマジックで大部屋のモンスター達を一掃していった。


 モンスターを一掃した後、中心にあった女性像を調べてみると、右側の大部屋にあったように、女性像を動かす仕掛けを発見し、ナギに罠が無いか確認してもらった。

 今度も罠は無かったようだったが、女性像をすぐに動かすと、最悪、あのT字路にあった壁画からモンスターが出てくる可能性を考え、ここから移動する直前まで動かさないことになった。


 その後、リーゼリアとナギは、先程の大部屋の時のように、特殊な武器兼道具が落ちてないか探しに行き、その間にそれ以外の魔法が使えるメンバーで、ユニゾンマジックの検証と実験をしていった。

 組み合わせる属性を変え、使う魔法を変え、時にはどんな効果があるのか見ただけでは分からず、合成のレベル上げに使っていた大岩を的にし、気配感知でリーゼリアやナギを巻き込まない方向になるよう気を付けて、ユニゾンマジックを発生させていき、以下のことが分かった。


 まず、有属性同士のユニゾンマジックは、相性の良い属性同士でなければ発生しない。

 足りない属性はあったものの、火と地以外の有属性は揃っていたので、たぶん間違いないだろう。

 

 これはアリルから聞いた話だが、各6属性(火・水・風・地・光・影)には、同一対象にほぼ同時に魔法を当てることにより、与えるダメージが増加する属性が存在するらしい。

 その組み合わせが、光と火・火と風・水と風・水と地・地と影、の5種類なのだそうだ。

 

 そして現状、この5種類の組み合わせでしか、ユニゾンマジックは発生してなかったみたいだ……今までは!


 ここで今まで存在を確認されていなかった、無属性魔法が出て来て、その前提条件が(くつがえ)されることになった。

 何故そうなるかは分からないが、今まで発生していた有属性同士のユニゾンマジックと同じように、組み合わされる魔法の種類こそ違うが、無属性魔法とでは、どの有属性とでもユニゾンマジックが発生できたことに起因している。

 これがその一覧になる。


〔水〕フラッドウォーター + 〔無〕エネルギーボルト ⇒【ユニゾンマジック】:エレクトリックゲイザー 


〔風〕グラビティボルテックス + 〔無〕ショットガンボルト ⇒【ユニゾンマジック】:ボルティックトルネード


〔光〕ライトバースト + 〔無〕エネルギーボルト ⇒【ユニゾンマジック】:スパークルバースト


〔影〕シャドウェーブ + 〔無〕ショットガンボルト ⇒【ユニゾンマジック】:シャドウファンタズマ

 

 また、既に発生していたユニゾンマジックから、新たに別のユニゾンマジックに進化? させることもできた。


〔風〕グラビティボルテックス + 〔水〕フラッドウォーター ⇒【ユニゾンマジック】:アクアトルネード 


【ユニゾンマジック】:アクアトルネード + 〔無〕ショットガンボルト ⇒【ユニゾンマジック】:プラズミックサイクロン


【ユニゾンマジック】:プラズミックサイクロン +〔光〕ライトバースト ⇒【ユニゾンマジック】:ブラスティックコロナ


【ユニゾンマジック】:プラズミックサイクロン +〔影〕シャドーウェーブ ⇒【ユニゾンマジック】:バニッシュホール


 更に、本来反属性同士では互いのダメージを減衰させるだけだが、特定条件下にある無属性魔法を間に挟むことによって、全く新しいユニゾンマジックを発生させることもできた。


〔光〕フラッシュライト + 〔無〕プロテクトシールド(表面をフラッシュライト側に) +〔影〕ブラインドシャドー ⇒【ユニゾンマジック】:ディストーションスフィア


 因みに各魔法の見た目と効果は……。


 エレクトリックゲイザーが、荷電水流の放出。

 ボルティックトルネードが、放電竜巻による吸引。

 スパークルバーストが、雷光球による爆発。

 シャドウファンタズマが、オーロラの様に表面の色彩が変化する影色の波動。

 アクアトルネードが、水竜巻による吸引。


 プラズミックサイクロンが、荷電水竜巻による吸引。

 ブラスティックコロナが、青白い雷を纏った光の球が肥大化していき、臨界(りんかい)に達してからの大爆発。


 バニッシュホールが、威力と規模が縮小したようなブラックホールで、範囲内の移動可能のものを全て飲み込む。飲み込んだものが何処に行ったかは分からない。


 ディストーションスフィアが、黒白の雷を放電しながら、特定範囲まで膨張して行き球型を形作り、範囲いっぱいまで広がった瞬間、一気に収縮して範囲内のものを消し去る。

 恐らく破壊可能なものであれば、地面さえも飲み込んで、半球状に消滅するものと思われる。


 また、ユニゾンマジックを発生させていった結果、俺のクラスレベルと魔法のレベル、それとシエルの魔法のレベルが上がり、新たな魔法を習得した。


□  マジックブレード:武器又は剣身から、属性の無い魔力で剣身を生み出し、一時的に武器の射程を伸ばす魔法。

この魔法によって伸びる射程の長さと持続時間は、使用者のINT・MID・LUK の値に依存し、生み出された剣身の威力と強度は、使用者のINT・DEX・LUK の値に依存する。

消費MP:15  リキャストタイム:60秒


□  ショックボルト:魔力を純粋なエネルギーに変換し、接触状態から対象を攻撃する、ゼロ距離攻性魔法。接触している状態なら例え見えていなくとも、発動することが可能。

魔法の威力は、使用者のINT・MID・LUK の値に依存する。

消費MP:20  リキャストタイム:10秒

  

□  ライトシール:光に魔力を作用させ、衰退の効果がある光へと性質変換させた減衰魔法。

使用者から半径20m以内の対象に対して、ランダムで単一ステータスを減少させる。

魔法の威力と持続時間は、使用者のINT・MID・LUK の値に依存する。

消費MP:20  リキャストタイム:50秒

 

 そうやって実験を繰り返し、ある程度の成果が上がる頃には、ようやくこちらの大部屋に飛び散っていた、武器兼道具を拾い集め終えた、リーゼリアとナギが戻って来た。

 拾って来た武器兼道具は、前の大部屋で拾ったものと種類と数が同じで、開拓者の~と名称の始めに付いている、シャベル・鉞・鶴嘴が各2本ずつの計6本になった。

 

 分配については、最低でも各自で1本ずつはもらえるようになったため、汎用魔法の情報や、MPリキッド等のアイテムを感想をもらうためとはいえ、ただで融通(ゆうずう)していることから、俺が2本もらうことになった。

 それならと、俺は余りもので良いからと好きなアイテムを選ぶようにアリル達に言うと、最終的には、シャベルと鶴嘴が手元に残った。


 因みに、アリルとユンファは鉞、リーゼリアは鶴嘴、ナギはシャベルをもらっていった。


 そうして、特殊な効果を持ったアイテムの分配が無事に済んだ後、大部屋の中心にある2人の女性像を回転させ、大部屋の入り口に黒い髪の女性像が向くようにする。

 すると、先程見たように黒い髪の女性像が『ぽぅ』っと黒く光り、その後元に戻る。


 その変化を見届けた後、また壁画があるT字路に戻ると、壁画の中心に描かれている数字の6と9が組み合わさったような紋様の9の部分が黒い光を放っており、地上の慰霊碑の裏にあった仕掛けと同じように、動かすことができるようになっていた。

 

 仕掛けを動かすと、周囲の床・壁・天井とは違う、つるりとした材質の壁が、まるでモンスターを倒した時のように光の粒子になり、跡形(あとかた)も無く消え去った。

 壁が消え去った所には、新たな通路口が開いており、その少し先には更なる地下へ降りる階段があった。

 そして俺達は、その場で念のためHPとMP、現在の時刻を確認した上で、その階段を下りて行った。



『キークエスト【復活! 古の遺構】  1/3


・第1クエストクリア!  ●●●


・地下墓地に出没するモンスターを9割以上倒せ  32/100%  ○○○


・?????                                                                                                     』


 

作者:時にシエルさんや、あなたはあの大爆発の折に、いったい何を見たんですか?


シエル:んとねー、すっごいこまかいもようがついた、ぱ―――。


リオン:シエル!? しー! しぃー!! そんなこと律儀に答えなくていいから!


ネロ :キュウ?(首を傾げる仕草


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[一言] すっごい細かい模様がついたパンツ!?!?(クソデカ大声)
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