Locus 93
接続障害が起きると、執筆すらできないんですね。
おかげで、予定が狂ってしまいましたよ。
では、どうぞ。
ログインしました。
現在の時刻は、午後1時40分少し過ぎ。
因みにログインした場所は、前回のログアウトからまだ12時間が経過していないので、荒ぶる仔豚亭で泊まった部屋の中だ。
いつもより……といっても、実質泊まったのは3回だが、大通りを行き交うプレイヤーが多いせいか、部屋に居ながらも、外からガヤガヤと賑わう様が聞こえて来る。
採光用の窓から大通りの方を見てみてれば、大通りに通じる小道の1つの先から、多くのプレイヤーが道を行き来きし、そしてちらほらとこの辺りでは見かけないモンスター……恐らく獣魔と思しきものを連れているのが確認できた。
あー……やっぱり、混んでそうだなぁ。
獣魔屋の開店が今日の午前10時だったから、多少は良くなってるとは思うけど、移動がし辛そうだ。
でもその分、シエルやネロを連れていても、変に目立つことはなさそうかな。
ここから中央区にある教会までは、およそディパートの1区画分の距離があるけど、今のステータスで通常時であれば、10分程で着くことができるだろう。
だけど、流石に行き交うプレイヤーがこうも多いと、倍の時間でも難しいかもしれない。
まぁ、それならそれで、普通の道を使わなければ良いというだけだから、手が無い訳でもないけどな。
そう思いつつ、素早くメニューを開き、念のため現在のステータスを確認する。
sex:男
age:16
race:人族Lv24
job:冒険者 rank:E
class:マジックソードマンLv9
HP:606 MP:412
STR:150
VIT:72
AGI:148
INT:75
MID:80
DEX:157
LUK:60
所持金:86275R 虚空庫 169/626
種族スキル:〔混血・竜の息吹(光)〕、〔竜言語Lv1〕
専科スキル:〔魔法剣・無Lv9〕
装備スキル:〔STR増加Lv52〕、〔AGI増加Lv52〕、〔剣術Lv15〕、〔暗殺術Lv11〕、〔梟の目Lv49〕、〔見切りLv29〕、〔調教Lv32〕、〔賦活Lv8〕、〔気配感知Lv14〕、〔識別Lv40〕
控えスキル:〔鑑定Lv40〕、〔料理Lv21〕、〔無属性魔法Lv18〕、〔虚空庫 rank3〕、〔錬成Lv13〕、〔詠唱破棄Master〕、〔毒耐性Lv2〕、〔麻痺耐性Lv3〕、〔汎用魔法〕、〔発見Lv29〕
称号:〔思慮深き者〕、〔戦女神の洗礼〕、〔ウルフバスター〕、〔剣舞士〕、〔二刀の心得〕、〔初めての友誼〕、〔知恵を絞りし者〕、〔先駆けの宿主〕、〔解放せし者〕、〔初心者の心得〕、〔異常なる怪力者〕、〔異常なる俊足者〕、〔愚かなる探求者〕、〔踏破せし者達〕、〔完全なる攻略者〕、〔容赦無き掃討者達〕、〔剥ぎ取り上手〕、〔医食同源〕
称号スキル:〔念話Lv4〕、〔怪力乱心Lv4〕、〔韋駄天Lv4〕、〔薬膳Lv0〕
固有スキル:〔狂化Lv24〕、〔軽業Lv8〕、〔頑健Lv15〕
うん、まぁこのステータスなら大丈夫だろう。
だけど、できればもう少し度胸が付くまで、使いたくはなかったかなぁ。
それでも、待ち合わせに遅れるなんてことになるよりかは、遥かにマシだろうから、ここは羞恥心は捨て去り、移動することにしよう。
旅じゃないけど、この際、恥は掻き捨てだ!
っとその前に、まずは約束の履行をしないとな。
そう思い、俺は素早く、シエルの装飾化とネロの宿紋化を解き、出てきてもらう。
「シエル、ネロ、おまたせ。約束通り、これからはどこでも一緒に行けるぞ。今まで我慢させて、悪かったな。」
『んーん、へいきだよ!それに、リオンだってやくそくまもってくれたもん!』
シエルは軽く首を横に振った後、にぱぁっという擬音が似合う明るい笑顔で答える。
「キュキュウ! キュゥウ! キュウッ!」
ネロもシエルに習うように、しきりに首を縦に振りつつ、体全体で同意を表現する。
「そっか、シエルもネロも、ありがとな」
『どういたしましてー!』
「キュウー!」
「それじゃ、時間も押してることだし、シエル、ネロ。アリル達との待ち合わせ場所に行くぞ」
『はーい!』
「キュキュウ!」
そうして俺達は泊まった部屋から出て行き、荒ぶる子豚亭を後にして行った。
◇◇◇
荒ぶる子豚亭を出てからすぐ、俺はマップデータを見て、袋小路になっている場所を探し、そこへ向かって行く。
そして、目的地に到着して周囲に人が居ないことを確認し、現在の時間を横目に見つつ、シエルとネロに話し掛けていく。
「残り時間は15分を切ったか……ギリギリかな? シエル、ネロ。表通りはかなり人が多いから、上から行くぞ」
俺はそう言いつつ、右手の人差し指を1本だけ立てる。
『うえー?』
「キュゥウ?」
すると、シエルとネロは俺が指差す方向を見上げながら、疑問の声を上げる。
「ああ。つまり、前に移動した時みたいに屋根から屋根へ移動して、アリル達との待ち合わせ場所である教会まで、直行するってことだ。っといっても、前回とは少し違って屋根から屋根へ飛び移ったりするんだけどな。人や家屋なんかの障害物が無い場所だから、移動時間も少なく済みそうだってのもある」
『う~ん?』
「キュゥ~?」
「あはは、少し難しかったかな。そうだな、分かり易く言うと、シエルやネロは空を飛べるから、道に沿って飛んだり、木々を避けながら飛んだりするよりも、何も無い空中を移動する時の方が、早く移動できるよな」
『うん!』
「キュウ!」
「だから、俺もそれに習って、何も無い空中って道を通るってことだよ」
『なるほど~』
「キュキュ~ウ」
「あーそういえば、ネロはどうするんだ? そのままの姿で俺かシエルと一緒に行くか、それとも影装変化して自分で移動するかだけど……」
「……キュウ! キュゥゥゥウ!」
ネロはどこで覚えたのか、両前足を使い、人間がやるように手をポンと叩くような仕草をすると、ネロの影が膨張していき、影の繭を形成する。
そして次の瞬間、影の繭が割れ、中から色違いのストライフオウルが姿を現す。
「ホオォォォー!」
「なるほど、そっちを選んだか。それじゃ、早速移動して行くぞ。目指すは、待ち合わせ場所の教会前だ」
『はーい!』
「ホオォォォー!」
その後俺は、三角跳びの要領で壁を蹴り、家屋の屋根へと上って行き、シエルはそのまま上空へ昇り、ネロも羽ばたいて屋根の上へと上昇していく。
そして、屋根の上で待ち合わせ場所である教会を確認した後、俺はフードを深く被り、気休めにハイディングとハイドストークを使い、シエルとネロに念話で指示を出しつつ、駆け出してして行った。
◇◇◇
ある時は屋根伝いに駆け、ある時は屋根から屋根へと飛び移り、持ち前の高いSTR・AGI・DEXに任せ、止まること無く、家屋の上を移動して行く。
ある程度、この若干普通ではない道を駆けて行くことに慣れると、更にソードダンスやバーサークを使い、走行速度を上げていく。
気休めで掛けたハイディングやハイドストークは、以外にも効果を発揮しており、全身から銀白色の燐光や赤いオーラを発しているにも関わらず、道行くプレイヤーやNPC等は、こちらに関心を向けるということはないようだった。
走行速度を上げながら疾走しつつも、チラリと下を見てみれば、フィリアのクアやネロとは全く違う様々な姿の獣魔が確認できた。
本当は目にした全ての獣魔を識別してみたかったが、屋根の上という不安定な場所を足場に、全力疾走中ということもあり、脇見走行し続けると、足を踏み外す危険性を考え、その中でも、特に目を引く獣魔に対してのみ、俺は識別を使って見ることにする。
まずは、あの全体が茶色い、全長1m程の蜥蜴っぽいやつからだ。
グラン:ランドバーン・パピィ:Lv0・属性:地・耐性:地・打・弱点:風
ほほぅ、ランドバーン……つまり、地竜か。
ゲームによっては出てきたり出てこなかったりするけど、強さはワイバーンと同列扱いで、分類は亜竜だったかな?
まぁ、パピィって付いているから、ランドバーンの幼生体といったところだろうな。
よし! 次は……うん、あの羽人族を小さくしたような、1対の薄桃色をした羽を持つ妖精っぽいのにしよう。
イリス:ピクシー:Lv0・属性:風・耐性:風・弱点:-
へぇ、ピクシーかぁ。
フェアリーって種族がいるから、てっきり普通に思い浮かべるオーソドックスな小型の妖精は、いないと思ってたけど、いたんだな。
ピクシーっていったら、悪戯妖精の代名詞といった存在だから、このゲームが基本? に忠実なら、宿主は大変だろうな。
それじゃ次にいってみよう。
うーんと、今度はあの2本の角を持った黒い馬にしてみるか。
シェリル:リトル・バイコーン:Lv0・属性:影・耐性:影・弱点:光
ふむ、バイコーンか。
確かバイコーンってユニコーンの亜種で、純潔を司るユニコーンに対し、不純を司るとかだったかな?
ゲームによっては邪悪なモンスターとして出てきたりもするけど、大抵は雄しかいないユニコーンの逆で、雌しかいないって設定が多かったな。
それ故に、ユニコーンは清い乙女にしか気を許さないという逸話から来たのか、バイコーンは荒々しい丈夫をにしか懐かないという話をどこかで見た記憶がある。
というか、名前からして雌である可能性は高そうだ。
もっとも、こちらもリトルと付いているので、まだ子馬なのだろうけどな。
そうやって時折、目に付いた獣魔を識別していきながら疾走して行くと、目的地である教会に隣接した中央広場が見えてきた。
遠目ながらも中央広場には、正式サービス開始時よりは少ないが、かなりのプレイヤーが集まっており、更に幾人かのプレイヤーが何体かのテイムモンスターや獣魔を出していて、宛らモンスターの見本市のようになっていた。
うわぁ……何もこんな時に集まらなくてもいいだろうに。
そう思いつつ時計を見ると、約束の時間まで後5分といったところだった。
まずいな……あの集団を迂回して、教会まで行く時間はなさそうだ。
まぁだからといって、集合時間までに到着する、ということを諦める気はないけどな。
仕方無い、ここは腹を括って跳ぶとするか。
リミットブレイクを使った時のステータスよりは幾分か劣るが、助走による勢いと、アーツによるブーストが掛かれば、たぶんあそこにいる集団位は跳び越えられる気はするな。
だけど万が一のために、目標地点は中央広場の中心にある噴水にしておこう。
例え着地に失敗しても、水が緩衝材になってくれるだろうし、他のプレイヤーの上に落下するよりかは絶対に良いからな。
そう考えながら、これまでの移動中の経験から軽く逆算し、俺は先程掛けたソードダンスにバーサークを重ね掛けして、紅色の燐光を全身から発する。
それと一応、保険も掛けて置くとしよう。
本当は俺もやった方が良いのだが、アリルと約束したし、それに今の装備スキルに入っていないため、使おうと思っても使えない。
どこまで衝撃に耐えられるかは分からないが、まぁ何もしないよりかは、マシなはずだ。
そう考え、俺は即座に念話で、俺のやや前方を飛ぶシエルとネロに指示を出す。
『シエル、ネロ。これから中央広場に向かって跳ぶから、サポートを頼む。俺が合図したら、シエルはライトウォールを俺の足元に水平……面を上にするように出してくれ。ネロもシエルと同じように、シャドーシールドを盾の面が上になるように、俺の足元に出して欲しい。』
『んと、ライトウォールのめんのぶぶんをうえにするようにだね。りょーかいだよ!』
『シャドーシールドのめんをうえに……うん、わかったー!』
『それとできれば、多重発動のアーツを使って、ライトウォールやシャドーシールドが面同士で重なり合うように隙間無く、くっ付けてくれると助かるな。できるか?』
『すきまなく、くっつけるー。うん、やれるよ!』
『めんどうしで、かさねるー。うん!だいじょうぶ!』
『そうか、それじゃよろしくな。』
『『はーい!』』
そうして、俺は効果が切れそうなハイディングとハイドストークを掛け直し、助走として最も良さそうな屋根を探し、移動していく。
そして覚悟を決め、走り幅跳びの要領で屋根を踏み切り、目標に向かって一気に跳躍する。
目測で15~6mは離れていた距離が、跳躍と同時にどんどん縮まり、目標となる噴水の上が近付くにつれ、それ以外の風景は瞬時に後ろへ流れていく。
跳躍の頂点に達し重力に引かれ落下しながらも、慣性により更に距離を伸ばし、目標の噴水の上に差し掛かると同時に合図を出す。
『シエル!』
『リリース! ライトウォール!』
すると、俺の足のすぐ下に白く発光する縦2m強、横3m弱の大きな壁が出現する。
俺はそれを視認するとすぐに着地の態勢に入り、ライトウォールと接触する瞬間、全身のバネを使い、衝撃をなるべく拡散させる。
ピキキキキキキキキキッ!
それでも、落下の衝撃は逃がしきれず、ライトウォールに接触した俺の足元を中心に、亀裂が蜘蛛の巣状に広がっていくが、亀裂が入るだけで、ライトウォールが砕ける様子は無い。
そして、俺はそのまま着地の反動を利用し、体を深く沈め、アーツを使って、更に教会の正面と側面を繋ぐ角を目指し、再度跳躍する。
「ドッジムーブ!」
俺は、先程の跳躍で稼いだ慣性をアーツで補い、まるで人間砲弾のように次なる目標地点に向かって跳んで行く。
ドッジムーブにより瞬間的に更に倍化されたAGIにより、先程の跳躍より速く空中を跳び抜け、目標地点を越えそうになるのを、無理やり体を捻って修正し、すかさずネロに合図を出す。
『ネロ!』
『リリース! シャドーシールド!』
すると、俺の足のすぐ下に、影が凝縮したような色合いの凧型盾が、本来攻撃を受ける面を上にし、俺が頼んだ通り、5枚のシャドーシールドの面同士が接触するように、出現する。
俺はそれを視認した後すぐに、着地の態勢に入り、先程と同じように、シャドーシールドに接触する瞬間、全身のバネを使って、衝撃をできるだけ逃がす。
パキャキャキャキャキャキャキャキャキャッ!
しかし、無理やり体を捻り、強引に着地したためか、シャドーシールドに接触した俺の足元を中心に、蜘蛛の巣状に激しく亀裂が走っていく。
っく、いかん! 割れる!
そう思った瞬間、不意に今まで聞こえていた周りの喧騒が一切無くなり、更に目に見える全ての色彩が消えた。
俺は再び、あらゆる音と全ての色彩が失われた、静寂と白黒だけが存在する世界へと至る。
それと同時に、俺以外の動き全てが、ゆっくりと動き出す。
5段重ねの1番上にあるシャドーシールド全体に亀裂が走る中、シャドーシールドに両手を乗せ、着地時に崩れた態勢を直す。
パキャシャシンッッッ!
5段重ねの1番上にあるシャドーシールドが砕け、そのすぐ下の2番目にあるシャドーシールドに亀裂が生じ、その罅割れが拡大していく中、俺は更に体を深く沈め、着地の衝撃を逃がすと共に、着地時の反動を用いて、再び跳躍するための力を溜める。
パキャシャリィンッッッ!!
5段重ねの2番目にあるシャドーシールドも砕け、その下にある3番目のシャドーシールドにも亀裂が入る中、俺は4番目のシャドーシールドを物理的に踏み抜く勢いで、両手、両足のバネを解き放ち、最終目的地へ向け、シャドーシールドから跳び退る。
パキャシャリャリリィィィィィンッッッ!!!
シャドーシールドから跳躍した直後、まるで堰を切ったかのように、5段重ねのシャドーシールドが崩壊し、俺の体全体を包んでいた紅色の燐光は消え去り、また消えていた周囲の喧騒と目に映る色彩が戻ってくる。
俺は後方から聞こえて来る、ガラスが激しく割れるような、凄まじい破砕音を聞きつつ、何とかうまくいったことに安堵した。
そして、最後の跳躍の頂点に達したところで、着地時に掛かる負荷を軽減するため、オーガスピリットを使い、最終目的地である教会入り口へと落下していった。
◇◆◇
一方、リオンが無駄に高い精神集中を発揮して、脳のリミッターまでも強制的に外している頃……。
「う~ん、まだ来ないね。お兄ちゃん、どうしたんだろ?」
「やっぱり、この混雑具合に巻き込まれて、移動が遅れてるんじゃないかな?」
「確かに、獣魔屋が開店してからは、獣魔の卵の購入や、どんな獣魔がいるかを見るために、どんどんプレイヤーが押し寄せて来てますから、その可能性は十分にありそうですね」
「でも~、まだ集合時間になっていませんし~、リオンさんのことですから~、もしかしたら私達が想像もしないような方法とかで~、移動してるかもしれませんよ~?」
「んんー……。いくらお兄ちゃんが、やらかし体質でも、ソレは無いんじゃないかなぁ? 第一こんな序盤の街じゃ、移動手段なんて徒歩か、いいとこ人力の荷車位だよ?」
「ですね。しかもアリルの話よれば、リオンさんは今日の午後から、シエルちゃんやネロちゃんを出して移動するそうじゃないですか。こんな見晴らしの良い場所で、あんなに目立つシエルちゃんが見えないのは不自然ですよ」
「だよね~。それに、ユンファちゃん。その集合時間まで後2分だよ」
パキャシャリャリリィィィィィンッッッ!!!
そうやって話していると、不意に何かが激しく割れる音が頭上から響いてくる。
「ひゃぅっ!」
「うわぁっ!?」
「「っ!?」」
「な、何?! 今の音ー?!」
「あーもぅ、びっくりしたぁ。何か上の方で凄い音がした、よね?」
「え、ええ。何か……ガラスのような物の、破砕音、でしょうか?」
「はぅ~、まだ心臓がドキドキしてますぅ~」
「この辺りでガラスがあって、あんな大きな音がする物かぁ……もしかして、教会のステンドグラスとかかな?」
「なるほど! 確かにそれなら、あんな大きな音が立ちそうではあるよね。突発イベントか何かかな?」
「ん~、どうでしょうか?」
ズダンッ!
そうして、先程聞こえてきた大きな破砕音の方を向きながら話していると、アリル達のすぐ後ろから、何か重たいものが、地面に打ち付けられたような音がする。
「ひぅっ!?」
「はぅっ!?」
「ひゃっ!?」
「こ、今度は、何~?!」
不意打ち気味に聞こえた音を確認するように、アリル達は素早く後ろを振り向けば、地面に立て膝を着いた、今の今まで集合場所に居なかった、よく見知った人物がそこに居た。
「……え? え?! お、お兄ちゃん?!」
「「「っ! リオンさん?!」」」
◇◆◇
「ふぅ~。よっと、……お? ギリギリだけど何とか間に合ったみたいだな。よかった、よかった」
俺は立ち上がりながら、時計を見てみると、約束の時間の午後2時まで、後1分と少しだった。
そしてそのまま、着地した時に声がした方を見て、声を掛ける。
「アリル、皆、昨日ぶり。何か異様に道が混んでてさ。空いてる所を通って来たんだけど、結局こんなギリギリの時間になっちゃって、すまなかったな。今思えば、事前に連絡を入れて置けばよかったよな。……って、どうしたんだ? そんな顔をして?」
そう言いながら、待ち合わせ場所に来ていたアリル達を見てみれば、皆一様に、まるで信じられないものでも見たかのように、目を大きく見開き、口をポカンと開けたまま、固まっていた。
本当に、いったいどうしたんだろう?
そう思いつつ、アリル達の方を見ていると、頭上からシエルの声と羽ばたきの音が聞こえてくる。
『どうだった? うまくできてたー?』
その声に引かれ、頭上を見上げれば、シエルとネロが上空から降りてくるところだった。
「ああ、ばっちりできたよ。シエル、ネロ、ありがとな」
『えへへ~。よかったー!』
シエルは俺がお礼を言うと、はにかむように笑い、安堵の声を上げる。
「ホホオォォォー! ―――ッキュウ!」
ネロも嬉しそうに声を上げると、何を思ったのか、上空から降りてくる途中で、専化影装を解き、俺へ向かって落下してくる。
「おっと! ……はぁ。もぅ、ネロ危ないじゃないか。うまく取れなかったら、どうするんだよ」
「キュウ! キュキュウ!」
俺がそう注意をするが、ネロは分かっているんだか、分かっていないのか、よく分からない元気の良い鳴き声を上げ、そのまま俺の体をよじ登り、お気に入りの場所である俺の頭の上へと到達する。
「キュウ!」
そして頷きながら、何やら満足気に一声鳴く。
はぁ、なんだかなぁ……。
そうやってシエルやネロの相手をしていると、ようやく正気に戻ったようだが、何故か問い詰められるように声を掛けられる。
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん! 今、どっから来たの?!」
「そうですよ! リオンさんを待ってたら、いきなり現れて、すっごくびっくりしたんですからね!」
「こんな見晴らしの良い場所で、私達全員に悟られずに近付いてくるなんて、いったいどんな手品を使ったんですか?! 普通じゃ、有り得ませんよ?!」
「ほんとですよ~! もぅびっくりし過ぎて~、心臓が口から飛び出るかと思いましたよぉ~!」
「あー、えっと……ごめん?」
「「「「なんで疑問系(なの?!)/(なんですか?!)」」」」
俺は皆の剣幕押され、とりあえず謝ってみたが、どうやら逆効果だったらしい。
うーっむ、ギリギリだったとはいえ、集合時間には間に合ったはずなんだけどなぁ。
何がいけなかったのだろうか?
「まぁまぁ、落ち着けって。どうやってここに来たかは、後で説明するからさ。今はとりあえず、教会に入らないか? 何かさっきから他のプレイヤー達がこっちを見てて、居心地が悪いしさ」
「……むぅ。言いたいことは色々あるけど、確かにこの状況はあまり良くなさそうだね」
「だね。どんな理由があるか分からないけど、じっと見られるってのは落ち着かないからね」
「ですね」
「はい~」
「それじゃ、行こうか」
そうして俺達は、周囲のプレイヤーの目から逃れるように、教会の中へと入っていった。
◇◇◇
教会の中に入ると、やはり最初に目に入るのは、7柱の女神が佇むように描かれている、荘厳かつ美麗なステンドグラスだった。
正式サービス開始日に俺の我侭で訪れた時と、全く変わっておらず、採光も兼ねているステンドグラスに陽光が差すことで、色彩豊かで様々な形の光が、教会内を照らすように降り注いでいる。
「ほえー。初めて来たけど、教会の中ってこんな風になってたんだねー」
「綺麗ですね~」
「確かに。外から見るのと、中から見るのとでは、印象がまるで違いますね」
「ここに来るのは2度目だけど、本当に綺麗だよねー。ね、お兄ちゃん!」
「ああ、そうだな」
そうアリルに返事をしながら、教会の最奥の壁の上にあるステンドグラスで描かれている7柱の女神を眺める。
ステンドグラスに描かれている7柱の女神を順に見ていると、ふと戦女神ユーフォリアに目が止まった。
そういえば、今日はまだ祈ってなかったな。
せっかく目の前に御神体が描かれているものがあるんだし、初日の時のように、ここで祈って置こうかな。
そう思い、俺はその場で瞑目して、心の中で戦女神ユーフォリアに祈りを捧げた。
すると、ふいに聞き覚えのある音が鳴り、インフォメーションが流れた。
『ピロリン♪ 装飾アイテム:ユーフォリアの聖印の強化条件を満たしました。詳しくは、装備欄にあるユーフォリアの聖印の説明をご確認下さい』
俺は若干驚きながらも、素早くメニューを開き、装備欄にあるユーフォリアの聖印の説明を見てみた。
装飾アイテム:首飾り 名称:ユーフォリアの聖印 ランク:3 強化条件:???
MID10 要求STR- 耐久値∞ バインド属性
説明:戦女神ユーフォリアの聖印。僅かだが神気を宿しており、所有者の精神力を高める働きがある。
強化条件は未だに???となっていて分からなかったが、記憶が確かなら、初めてコレをもらった時に鑑定した内容が、少し変わっているようだった。
前に見た時よりランクは1つ上がり、能力値も5上がっており、尚且つ説明も少し変わっているように見えた。
確かに、強化されているみたいだな。
でも、何が原因で強化されたんだろう?
考えられることは、そうだなぁ……御神体が描かれたステンドグラスを見てから、祈りを捧げたことかな?
でもそれだけだと、何だか条件が優し過ぎる気がする。
うーん……分からん。
まぁいいや、このことは一旦置いておいて、暇な時にでも検証してみることにしよう。
そう考えながらメニューを閉じると、ふいにアリルから声が掛かる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「あーいや、なんでもない。それより、そろそろ奥に行かないか? ステンドグラスや教会の内装が珍しいのは分かるけど、今回の目的は別だろ?」
「そういえば、そうだったね。それじゃ、アライアンスを組んで置こうよ。クエストを受ける時に慌てるのも何か、おかしいしね」
「そうだな」
そうして、俺はリーゼリアにアライアンス申請を出し、アライアンスを組んだ後、教会の奥に居る神父の方へと進んで行き、またパーティリーダーを押し付けられ、代表として話し掛けることになった。
「こんにちは」
「はい、こんにちは。おや、あなたはあの時の」
「覚えているんですか?」
「ええ、覚えていますとも。神に祈りを捧げて、あんなに嬉しそうにしていた方々ですからね」
「あ、あははは……。あの時は、その、騒がしくしてしまい、すみませんでした」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それで、今日はどういった用でいらしたのですか?」
「ああ、はい。えっと、汎用魔法の習得をお願いしたいのですが……取り扱ってますか?」
「ええ、ございますよ。汎用魔法の習得ですと、ご寄進か、奉仕活動をして頂く必要がありますが、いかが致しますか?」
寄進ってことは教会に寄付金か寄贈物を渡すことで、汎用魔法を貰うってことだよな。
キークエスト関連なら、やっぱり何かしらの依頼って形を取るはずだから、奉仕活動の方が依頼って形にぴったり当てはまると思う。
だけど、寄進には寄贈物を渡すことも含まれるから、特定アイテムを納品するという依頼である可能性もある。
汎用魔法を管理しているなら、汎用魔法の価値も分かってるはずだし、寄贈物の指定があっても不思議ではない。
まぁ、普通だったらそんなことはないんだけど、万が一があると困るので、一応相談はして置こう。
「うーん、少し待って下さい。……だ、そうだけど、どうする?」
俺は神父にそう断りを入れた後、振り返りながら、すぐ後ろにいたアリル達にそう問い掛ける。
「まぁ、順当に考えれば奉仕活動だよね」
「だね。寄進って、お金を寄付するってことでしょ? だったらやっぱり、クエストが発生しそうな、奉仕活動の方がいいんじゃないかな?」
「ですが、寄進には、お金の寄付の他に、物を贈るという意味もありますから、指定した物の納品という形のクエストが出されるかもしれませんよ? ですよね、リオンさん」
「ああ、俺もそのことが引っ掛かってな。万が一があったらまずいかと思って、相談したんだけど……悩ましいな」
「でしたら~、神父様に直接聞いたらどうでしょうか~? 寄進が寄付のことだけなのか~、それとも寄贈もありなのか~、それが分かるだけでも~、かなり選択の幅が縮まると思いますよ~?」
「それも手か」
「ですね」
「それじゃ、選択としては、まず寄進が寄付だけなのか、寄贈もありか聞いて、寄付だけなら、奉仕活動を。寄贈もありなら、どんな物を寄贈するのか聞いて、判断ってところかな?」
「だね!」
「分かった、それじゃ、聞いてみるよ」
「お願いします~」
相談が終わり、再び神父の方へ向き直る。
「ご相談は終わりましたか?」
「はい」
「それで、ご寄進か、奉仕活動か、どちらになさいますか?」
「そのことなのですが、少し質問してもいいでしょうか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ではまず寄進の方ですが、寄進はお金の寄付だけですか? それとも寄贈物もありますか?」
「汎用魔法の習得に関して言えば、ご寄進は、お金の寄付だけになりますよ」
「そうなんですか? 因みに、如何程寄付すれば?」
「地の汎用魔法は、10万R。光の汎用魔法は、3万Rのご寄進になります」
「地の汎用魔法は、光の汎用魔法の3倍以上、ですか。何か、高過ぎませんか?」
「ええ、まぁ。ですが、この地の汎用魔法があれば、生活していく上で、必ず必要なものを得られるようになりますから、そのことを考えれば、安い位だと私は思いますよ」
ふむ、冒険者ギルドで入手した火と水の汎用魔法を考えるに、光の汎用魔法は恐らく、明かりの魔法なんじゃないかと思われる。
だけど、地の汎用魔法って、どんな効果を及ぼすのかが、全く想像がつかないんだよな。
生活していく上で、必ず必要になるものを得られるか、う~ん……分からん。
まぁいいや、先に何があるとか分かっちゃうと、面白みも無いだろし、楽しみは後に取って置くとしよう。
「なるほどー」
「他に何か、質問はありますか?」
「ああ、いえ。もう大丈夫です」
「では、改めまして、ご寄進か、奉仕活動か、どちらになさいますか?」
「奉仕活動でお願いします」
「分かりました。それでは……ここ最近、墓場で妙な音を聞くという相談が、墓守をしているガルシアからありましたので、その原因を調べ、可能なら解決をお願いします」
そう神父が言うと、突然脳内にインフォメーションが流れた。
『クエスト《墓守の悩み事》を受諾しました』
『これより、クエストを開始します』
「分かりました。あ、墓守ってことは、ガルシアさんは墓場に居るんですよね?」
「ええ、そうなりますね」
「すみませんが、場所を知らないので、墓場が何処にあるのか教えてもらえませんか?」
「分かりました。それでしたら、墓場までの簡単な地図を書きますから、それを見て頂ければ大丈夫だと思いますよ。それから、ガルシアへの手紙を書きますので、それを私からだと渡して下さい。そうすれば、詳しい事情を話してくれるでしょうから」
「助かります。よろしくお願いします」
「それでは、少々お待ち下さい」
そう言うと、神父は説教台を離れ、教会内の奥にある扉を開け、中に入って行く。
そのまましばらく待つと、手に2枚の羊皮紙を持って神父が戻って来た。
「お待たせしました。それでは、こちらがガルシアへの手紙で、こちらが墓場までの地図になります」
そう言われ俺は、神父から羊皮紙を丸めて、中央を紐で縛り、封蝋まで押されたガルシアへの手紙と、墓場までの道のりが書かれた、地図を受け取った。
墓場までの地図を見ると、街のマップデータの南端に黄色い光点が灯った。
恐らくここが、墓場の場所なのだろう。
「それでは、よろしくお願いします。あなた方に神の導きがあらんことを。いってらっしゃい」
「はい。ありがとうございます。それでは、いってきます」
そうして、俺は奉仕活動という名のクエストを受注して、まだ墓場への地図を見てないアリル達に渡し、教会を出て行った。
◇◇◇
「さて、それじゃ無事クエストを受けられたことだし、一応クエストの詳細を見ておこうよ。もちろん、もう1つの方もね」
「ですね~」
その後クエスト詳細を見てみると、先程受けた《墓守の悩み事》のクエスト詳細は出ていたが、まだキークエストに繋がる要因をクリアしていないのか、キークエストのクエスト詳細は出ていなかった。
因みに、現在の時点ではこのようになっている。
『依頼名:墓守の悩み事
依頼内容:
教会に持ち込まれた相談事の解決。
依頼目的:
近頃、墓守をしているガルシアが、墓場で妙な音を聞くようだ。
墓守に詳しい説明を聞き、悩み事を解決しよう!
依頼報酬:
汎用魔法習得結晶・地 汎用魔法習得結晶・光 』
「んー、無いね」
「だねー。ってことは、まだ何か条件があるだろうね」
「昨日のことを考えるなら、遺跡か、特殊施設のような場所が判明するといったところでしょうか?ギルドで受けた依頼では、最初から場所の特定が済んでいましたしね」
「なるほど! 確かに在り得そうだな」
「ということは~、今回の依頼中に~、それに該当する場所を探さないといけない訳ですね~。探索はちょっと苦手なんですけど~、がんばるしかありませんね~」
「それでは、早速移動して行きましょうか。墓場で妙な音がしたというのが本当なら、高確率でアンデッド絡みでしょうし、日が昇っている時間帯なら、弱体化中かもしれませんしね」
「だね!っと、そういえばお兄ちゃん。結局どうやって集合場所に来たの? 後で話してくれるって言ったよね?」
「ああ、そのことか。それじゃ、移動中に話すな」
「あ、それと! もしもお兄ちゃんが持ってるスキルのことに関係するなら、話す時はパーティチャットの方が良いよ。誰が、何処で、聞いてるか分からないからね」
「分かった。アリル、ありがとな」
そうして俺達は、マップデータ上にある南端の黄色い光点を目指しながら移動して行き、その道中で俺がどうやって集合場所まで来たのかを話した。
突発イベントのモンスターから入手した、力の欠片で固有スキル〔軽業〕を習得したこと。
軽業の効果によって、三次元的機動制限が完全解除されたこと。
シエルが進化した時に、ストーキングして来たプレイヤーを撒く時に、最近特殊な制限が解除されたことを思い出し、実際に動いてみると、街の屋根の上に上れたこと。
そして、今日ログインしてみれば、道が異様に混んでいたので、誰も居ない屋根の上なら、最短距離で集合場所に向かえると思い、屋根を走って移動して行ったこと。
そこまで話すと、アリルが納得の声を上げる。
『なるほど~、それであんな音と、着地したような格好をしてたんだね』
『へぇ~、屋根の上ですか。確かに人通りは無いでしょうし、目的地までも最短で行けそうですね。そういうプレイ方法もあるのかぁ。何か忍者みたいで格好良いし、ボクにもできないかな?』
『そうですね……。初期GPで取れるスキルや、リオンさんのように力の欠片で習得する以外ですと、地道にスキルを育てて、統合進化させるしかありませんね』
『え?! ギフトポイントで取れたの?! くぅ~! 知ってれば取ってたのに! それで、リアちゃん。どんなスキルを育てて、何ていうスキルにすればいいの?』
『確か……〔跳躍〕〔突進〕〔重心移動〕のレベルを最大まで上げれば、リオンさんが習得した〔軽業〕になるはずですよ』
『因みに、〔跳躍〕は何回かジャンプして、〔突進〕はスタートダッシュするみたいに走って、回数をこなせば、習得できるよ。〔重心移動〕はちょっと分からないけど』
『あー、それなら。スキルを習得できるかは分からないけど、重心移動のトレーニングなら、前にやったことがあるぞ?』
『そうなんですか?! それって、いったいどんな?』
『得物……武器を振って、体がブレないようにするために、下半身を鍛える方法なんだけどな。やり方は、まず足を肩幅に開いて、屈むように腰を落とす。この時、足の爪先が45度になるよう外側に開いて、膝の角度を90度になるようにして、上半身は背筋を伸ばしたまま、前傾45度になるように倒す。そして、そのまま足を動かして、前後に移動するってやつだな』
『う~ん、何か難しそうですね。リオンさん、1度そのトレーニングを実際にやって見せてもらえませんか?流石に聞いただけだと、実践するのは厳しそうですから』
『ああ、分かった。それじゃ、このクエストが終わった頃にでも、また言ってくれ』
『はい、ありがとうございます』
そうやってパーティチャットで話して行くと、今までディパート内で見たどの門とも違う、黒い格子でできた門があった。
格子でできた門は目測で、縦3m強、横5m弱はあり、見た感じ閉まってはいるものの、鍵は掛かっておらず、少し押してやれば、簡単に開くものだった。
マップデータを見てみれば、黄色い光点が灯っているのはこの奥のようなので、恐らくここが街と墓場との境界なのだろう。
その後、俺達は黒い格子の門を通り、マップデータに灯っている黄色い光点に向かって移動して行った。
◇◇◇
黒い格子門を通り、歩行者を誘導するかのように植えられてできた並木道をしばらく進んで行くと、並木道が途切れ、広い場所へと出た。
その場所は若干勾配があるものの、かなり広く、丈の短い草花がまるで絨毯のように生い茂り、幾つもの花崗岩のような光沢のある直方体の石塊……墓石が並んでいる。
周囲を軽く見渡してみれば、参拝している者は居らず、代わりに、この広大な墓地の片隅に、小さな一軒家が建っているのが見えた。
「うわぁー。結構広いね」
「ですね。しかし、序盤の街にしてはかなり大きいディパートの墓地ですから、この位広くなければ、死者を埋葬仕切れないのではないでしょうか?」
「ああー。そう言われれば、確かにそうかも」
「それで~、その墓守のガルシアさんは~、何処にいるのでしょうか~?」
「それはたぶん、あの隅にある家にいるんじゃないか? マップデータの光点も丁度あの家に重なるみたいだしな」
「ですね! それじゃ、早速行ってみよう!」
そうして、俺達は広大な墓場の隅に建っている家屋へと向かって行き、家の扉を4回ノックした後、声を掛ける。
「こんにちはー。ごめんくださーい」
「あいよー。ちょっと待ってくれー」
と中からややくぐもった声がした。
そのまま少し待っていると、人の気配が扉にだんだんと近付いて来て、その数瞬後、扉が開かれた。
「待たせたな。それで、どうしたんだ? 何か用か?」
中から現れたのは、くすんだ金髪を短く刈り込み、よく日に焼けたがっしりとした体格を持った、碧眼の中年の男だった。
「あ、はい。失礼ですが、あなたがガルシアさんですか?」
「ん? ああ。そうだが?」
「申し遅れました。俺はリオンといいます。教会の神父様からの依頼で、墓守のガルシアさんの悩み事を解決するように言われてこちらに来ました。それで……これが、神父様から渡すように言われた手紙です」
俺はそう言いながら、素早く神父に渡された手紙を実体化させ、扉から出てきた男性……ガルシアさんに手渡した。
「神父様から? ……ということは、あの件のことかな」
ガルシアさんはそうこぼすと、受け取った神父からの手紙の封を開け、中を読み込んでいった。
それから少しすると、ガルシアさんは読み込んでいった手紙から、顔を上げる。
「なるほど、話は分かった。ようは、おまえさん等が、神父様の代わりに、今回の件の解決に尽力してくれるってことだよな。それじゃ、話すが。事の発端は今から3日前。いつものように夕方に墓場の巡回をしていると、何処からか木切れを落としたような、『カランカラーン』っていう音がしたんだ。参拝者は皆帰ったはずだし、墓場とは言え、ここは街の外壁に囲まれているから、モンスターが入って来たなんてことも考え辛いから、何かの聞き間違いかと思って、一応耳を澄ませてみるが、それっきり音は聞こえなかった。だけど、その翌日の朝方に巡回していると、今度はスコップ何かを石畳で引き摺ったような、『ガリガリガリガリ』って音が聞こえて来たんだよ。昨日とは違う音だったけど、またかと思って、念のため耳を澄ませてみると、前回とは違い、また別の『カラカラカラカラ』って音が聞こえてきたんだ。それで、こいつはヤバイかもしれないって思って、神父様に相談したって訳だ」
「ふむ……その奇妙な音がした場所とかって分かりますか?」
「ああ、確か2回とも左手側にディパートの街並みが見えていたから、南側だったはずだぞ。だが、その音を聞いた場所は2回とも違っていたけどな。ほら、ここからでも見えるだろ。あそこの外壁の辺りだ」
そう言ってガルシアは墓場を囲っている四方の壁の内、南側の外壁を指さした。
「あそこ、ですか。範囲が広いですね。すみませんが、一応そこに案内をお願いできませんか? 流石に口頭での説明だけでは、詳しい場所の特定はできませんので」
「おう、分かった。それじゃ付いていて来てくれ」
それから、ガルシアさんの案内の下、ガルシアさんが奇妙な音を聞いたという場所に連れて行ってもらい、全員で手分けして、近くに怪しいものや、音の出るようなもの、ガルシアさんが聞いたという音が自体が出ないか等、スキルを駆使して探してみたが、一向に見つかる気配はなかった。
そして、1度全員で集まり、情報を整理した方がいいかと思い始めた矢先、俺の頭の上に張り付いたままだったネロが何かを訴えるように、キュウキュウ鳴きながら、前足で俺の頭をぺしぺし叩いてくる。
『ネロ、どうしたんだ?』
『ねぇねぇ、あっちのほうに、なにかいるよー』
『あっち? それって何処のことだ?』
『んーとねぇ……はいってきたほうと、はんたいのほう、かなー?』
『っていうと南側か。ネロ、その何かが居る所まで案内はできるか?』
『うん、いけるよー』
そうネロが念話で答えると、ネロは俺の頭から飛び降り、地面に着地して、影装変化を使い、色違いのストライフオウルへとその身を変える。
そして、そのまま空中へと飛び上がり、先導するようにゆっくりと、墓場の南側へと飛んで行く。
俺はそんなネロを追いかけながら、パーティチャットで皆にネロが何かを見つけたことを話し、今その場所に向かっていることを話すと、探索は1度切り上げ、ネロが向かった場所へと集合することになった。
その後、ネロの案内の下、ネロが何かが居ると言った場所へと到着すると、他の墓石の10倍以上の大きさで、ガラス光沢のある真っ黒な墓碑があった。
真っ黒な墓碑は他の墓石とは違い、寝かされている墓石の上辺にもう1枚墓石がくっ付いたような形をしており、横からみればL字状のように見える。
立っている方の墓碑には、複雑な紋様が緻密に彫り込まれており、その中央には数字の6と9が組み合わさったような模様が刻まれ、見ようによっては、一種の芸術品のようにも見える。
寝ている方の墓碑には、何やら文章のようなものが彫り込まれていたが、風雨に長く晒されていたせいか、内容までは分からなかった。
『ネロ、何か居るってのはここか?』
『うーんと、せいかくには、そこのしたかな?』
そうネロに言われ、俺は素早く気配感知を使ってみると、確かにこの墓碑の下から、何かの気配がする。
しかし、スキルのレベルが低いせいか、将又この墓碑自体が何かの気配を遮断しているのか、その気配の大きさや数がよく分からない。
そうやって、真っ黒な墓碑を観察したり、墓碑の下の気配を探っていると、アリル達が到着した。
「お兄ちゃん、何か分かった?」
「いや、ネロが教えてくれた以上のことは、まだ何も」
「ネロちゃんが、教えてくれたこと、ですか? いったい何なんだったんです?」
「ああ、ネロが言うには、この真っ黒な墓碑の下に何かが居るって言うから、スキルを使って調べてみたら、本当に何かの気配がしたんだよ。ただ、俺のスキルのレベルが低いからか、この墓碑自体が何かの気配を遮断しているせいか、何かの気配の大きさや数は分からなかったけどな」
「へぇ~、この下に……。あ、本当だ! 何か気配が分かり難いけど、確かに何か居るっぽいね。ってことは、この真っ黒い墓碑の下が、次のキークエスト関連の場所なのかな?」
「―――センスマジック! うん、何の魔法かは分からないけど、その文章みたいなものが彫られてる方に魔法が掛かっているみたいだね。これまでのことを考えると、気配遮断か隠蔽、それと下に居る何かが出て来れないようにする、封印とかかな?」
「魔法まで掛かっているということは、それだけ重要な何かがあるということでしょうし、キークエスト関連の場所である可能性は、高そうですね」
「そうだとすると~、この真っ黒な墓碑はいったいどなたのなんでしょう~? 大きさからして~、普通じゃありませんし~、王侯貴族みたいな~、上流階級の方達でも~、入っているんですかね~?」
そうユンファが疑問を口にすると、ようやく追い着いて来たガルシアさんが、俺達と合流を果たす。
「はぁ、はぁ……お、おまえさん等。ふぅ、ふぅ……足、速過ぎ! こちとら、ただの一般人なんだから、も、もう少し、手加減してくれても、良くねぇか?」
「あぁー、すみません。つい」
「それより、ガルシアさん。この真っ黒な墓碑って何だか分かりますか?」
「え? あ、ああ。それか。それは、確かこのディパートの街を作るために森を切り開いた、開拓者達の墓だって、先代に聞いたな。何でも、このディパートを作る前は、強力なモンスターが蔓延る、危険地帯だったらしく、死傷者が大勢出たから、その慰霊も兼ねて、立派な墓にしたそうだ」
「なるほど、ただ黒い墓碑ではなく、慰霊碑でしたか。……ということは、この慰霊碑の下に居るのは、その時の開拓者達のアンデッドと考えるのが自然でしょうか?」
「更に言えば、ガルシアさんが聞いたっていう音の位置から考えて、この墓場の下に、少なくともガルシアさんが聞いた奇妙な音が反響する空間が、ある可能性もあるかな」
「は? アンデッド!? 地下空間!? それは、いったいどういうことなんだ?」
ガルシアさんにそう尋ねられ、俺達は現在調べて分かっていることを伝え、更に、分かっていることに基づいた推論を話した。
「なるほど、慰霊碑の下に居る何かの気配に、慰霊碑に掛けられた魔法。それに、オレが聞いた奇妙な音の位置か……。そう言われれば、確かに何かしらの空間が下にある可能性はあるし、墓の下にいるといえば、アンデッドと考えるのが妥当か」
「それで、どうしますか? ガルシアさん」
「どうするってそりゃぁ、アンデッドが足の下に居るかもしれないなんて聞いたら、安心できないから、できれば全部倒してもらいたいな」
「分かりました。では、そうすることにしましょう」
「でも、リアちゃん。まだその地下空間への入り口は見つかってないよ?」
「それについてですが、恐らくこの慰霊碑が、その入り口なのではないでしょうか。このすぐ下に何かしらの気配が動かずに居るということは、裏を返せば何かあると言っているようなものです。ですので、この慰霊碑周辺を探せば、地下への入り口か、それに準ずる場所を示すギミックか何かが、あるはずだと思いますよ」
「まぁ確かに、この慰霊碑が1番怪しいから、その可能性は高そうだよな」
そうリーゼリアの意見に賛同しつつ、俺は素早くメニューを開き、装備スキルを入れ替えて、慰霊碑を色々な方向から見てみる。
すると、慰霊碑の真後ろにも彫られている、数字の6と9が組み合わさったような紋様が、赤く発光しているのを発見する。
「見つけた。たぶんコレがスイッチだと思う」
「おおっ! それじゃ、早速押してみて下さいよ、リオンさん」
「いや、ちょっと待って! もしかしたら罠とか仕掛けられてるかもしれないから、ナギちゃん。一応、確認をお願い」
「あー、そういえば、その可能性もあったね。分かった。それじゃ、ちょっと見てみるね」
「それと、ナギ。この慰霊碑のすぐ下にアンデッドが居るかもしれないんですから、何の合図も無しに、スイッチを作動させたりしないで下さいね」
「ういうい、了解だよ」
その後、ナギが罠の有無を調べ、罠が無いことが分かると、万が一、慰霊碑の入り口が開いて、慰霊碑のすぐ下に居る存在……推定アンデッドが襲い掛かって来ても対応できるよう、全員武装していった。
因みに、アリルの武器は昨日渡した素材で新調されており、全長1m強の杖で、染色してあるのか、杖の両端以外は白色をしている。
杖の片方の先端には、鮮やかな桃色のヴェアリアントゼライスの核晶が嵌め込まれ、その下半分は黄銅鉱に包まれ、鈍器としても使えるようになっている。
もう片方の先端も黄銅鉱で作られていて、以前の武器と同じように円錐状になっており、突き刺すこともできるような形状になっている。
また、ナギやユンファの武器にも、それぞれ黄銅鉱が使われているようで、ナギの方は、手の甲の部分に付けられている、小さい盾のようなところが黄金色に変わり、ユンファの方は、パルチザンの穂先自体丸ごと変わっていた。
それからガルシアさんは、戦闘に巻き込まれないように、俺達の後方へ退避してもらった。
そうして、準備が整ったところで、ナギに合図を出し、慰霊碑の裏に付いているギミックを作動してもらった。
カチンッ! ズズズズズズズズズズズズズズズ……!
すると、何かが外れるような音がし、次いで魔法の掛かった方の墓碑が横に滑るように動き、次第に地下への入り口が開いていく。
それと同時に、慰霊碑のすぐ下に居た何かの全容も次第に、明らかになっていく。
全体的に乳白色をしており、生物として必ず必要な、肉や皮はおろか、神経や血液さえも無く、一般的に、骸骨と呼ばれる存在。
しかし、眼窩だけは、常に皓々と赤く輝き、その存在がただの骸骨でないことを証明する。
その骸骨達は、すぐに動こうとはせず、地下への入り口が完全に開くのを、まだかまだかと待つかのように、『カカカカカカカカッ!』と歯を鳴らし、その存在を主張する。
…………ズゴゴンッ!
そしてついに、地下への入り口が完全に開くと、慰霊碑のすぐ下に居た骸骨達の姿を全て視認できるようになり、その瞬間、即座に識別を行う。
スケルトンA:Lv18・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打
スケルトンB:Lv19・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打
スケルトンC:Lv17・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打
スケルトンD:Lv17・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打
スケルトンE:Lv18・属性:影・耐性:影・斬・弱点:火・光・打
俺はスケルトン達が、出て来たらいつでも攻撃できるよう、迎撃の態勢を取り、身構える。
…………しかし。
スケルトン達は何故か一向に、慰霊碑の下からは出て来ず、ただひたすら、その存在だけを主張するように、歯を打ち鳴らすだけであった。
「……あれ? 襲って、来ない?」
「みたい、ですね」
「もしかして~、日が出てる内は~、外に出られないのではないでしょうか~? アンデッドといえば~、日光が弱点であっても~、不思議ではないですし~」
「そういえば、ファンタジーものでは、日光の下で普通に活動できるアンデッドって、かなり高位の存在じゃないと、できなかったりするよね」
「ってことは、日が暮れるまでは、こいつ等はこのままってこと……なのか? せっかくここまで準備したのに、コレって……何かあんまりな気がするな」
「でも、被害が出るよりかは、ずっと良いよ。それより……こう、地下への入り口を遮られてても邪魔だから消えてもらおうか。っということで、シエルちゃん! 後は任せた!」
アリルはそうシエルに言いながら、サムズアップをした。
『まかされたー!』
すると、シエルは満面の笑みを浮かべつつ、アリルの真似をするように、サムズアップをして、了承の意を伝える。
そして、そのまま詠唱を開始していき、詠唱が終わったところで、スケルトン達がひしめく地下への入り口に、魔法を放つ。
『いっくよー! ―――リリース! ライトバースト!』
すると、3つの小さい光球がスケルトン達の中心へと現れ、次の瞬間連続した3つの爆音と閃光を放ち、光が収まった頃には、スケルトン達は跡形も無く消えていた。
まぁ、弱点属性のダメージに同属性によるチェーンボーナスが発生して、更に最大で4レベルも種族レベルが離れていれば、何かしらの特殊なスキルか、奇跡でも起こらない限り、耐えられるものじゃないから、当然といえば当然の結果なんだけどな。
その後、俺達はキークエストの詳細が開示されたのを確認した後、ガルシアさんにこれから地下空間に向かい、アンデッドを殲滅してくることを伝えた。
それと、もしも俺達が日没までに戻らなかったら、ガルシアさんの安全のためにも、この地下空間の入り口を閉めてもらうように頼み、俺達は地下空間改め、地下墓地へと降りて行った。
『依頼名:墓守の悩み事
依頼内容:
近頃、墓守をしているガルシアが、墓場で妙な音を聞くようだ。
墓守のガルシアに詳しい説明を聞いたところ、アンデッドが湧いた可能性がある。
速やかにコレを排除し、ガルシアの悩みを解決しよう。
依頼目的:地下墓地に出没する全アンデッドの討滅。
依頼報酬:
汎用魔法習得結晶・地 汎用魔法習得結晶・光 』
『キークエスト【復活!古の遺構】 1/3
・第1クエストクリア! ●●●
・地下墓地に出没するモンスターを9割以上倒せ 0/100% ○○○
・????? 』
因みに、慰霊碑の表裏の中心に彫られていた、数字の6と9が組み合わさったような紋様は、生命神アウルラディアの聖印です。




