Locus 92
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何時の間にやら、総合PV735万並びに、100万ユニークアクセスを突破致しました。
本当にありがとうございます。
では、どうぞ。
ログインしました。
現在の時間は、午前8時10分少し過ぎ。
さて、一応酒は手に入ったが、酔いどれオーガのドロップで入手した酒の度数は、入手順に……98度、16度、59度、32度、92度、85度となっていて、漬けるのに適さない度数のものがほとんどだ。
俺の家では酒に果実やハーブ等を漬ける時は、アルコール度数35度のホワイトリキュールを使っているので、それに習って酒の度数を35度に統一しようと思う。
それでどうやって35度の酒を入手するかというと、答えは割りと簡単だ。
手段としては、まず蒸留酒を用意して、その酒精のみの酒がアルコール飲料全体の35%になるように蒸留水や純水とを混ぜれば、アルコール度数35の酒ができるということになる。
だからまず、このバラバラの度数をどうにかするために、蒸留酒を作る必要がある。
蒸留酒を入手する当ては、2つ。
料理ギルドか酒場で蒸留してもらい、酒精のみの酒を作ることか、錬成のレベルを上げ、抽出錬成が使えるようになることだ。
酒場や料理ギルドでは蒸留水が売られているので、恐らくだが蒸留器具があるのではないかと思う。
まだこのゲームが始まってから1週間しか経っていないが、その間に1度でも蒸留水の仕入れをしている様子はなかったので、店自体で作っていると考えた方が自然だったからだ。
なので、蒸留器具があった場合、器具の扱いに慣れている人に代行で酒を蒸留してもらうと思っている。
また、買える値段だったら、いっそのこと蒸留器具自体を購入するのもいいかもしれない。
やることは、水より沸点の低いアルコールのみを沸騰させて、集めて冷やすだけだから、器具があって使い方が分かれば、俺でもできそうだしな。
それになかった場合は、潔く諦めて、錬成のレベル上げをがんばるとしよう。
まぁ同じ種類の酒なら、度数が違っていても混ぜれば度数の均一化はできるが、今回俺が持っている酒では、どう計算しても35度の酒にはならないので、諦める他なかったというのもあるけどな。
それじゃ早速行動して行くとしよう。
時は有限だしな。
そうして、俺はネロに出て来てもらい、ネロがいつものように影に入ったところを見届けてから、料理ギルドへと歩いて行った。
◇◇◇
料理ギルドに到着すると、早速受付カウンターで酒の蒸留ができるかどうかを聞いてみる。
すると、有料でだが蒸留が可能だと言われたので、お願いすることにした。
蒸留代 1ℓで100R:1200R
蒸留酒ができるまでの間、俺は蒸留でできる蒸留酒の量と35度の酒の量を計算をして、待ち時間を潰していく。
まずアルコール度数は、アルコール飲料に対するエタノールの体積濃度を百分率(パーセント、%)で表示した割合のことだ。
つまり、100mℓのアルコール飲料中に、何mℓのエタノールが含まれているかということで、度数が決定するということになる。
厳密に言えば、この状態の時の体積濃度を測るには、測定時の温度を決めなければならなず、日本では酒税法で15℃と決められているが、ゲーム内でそこまで再現されるのかどうか不明なため、このことは一旦置いておく。
そして、これらを踏まえて計算していと……。
各度数を割合に直し、1000を掛け、全て加算し2倍にした数値が、精製される蒸留酒の総量となる。
(980+160+590+320+920+850)×2=7640(mℓ)⇒7.64(ℓ)
精製された蒸留酒の総量を35で割り、小数点以上の値に100を掛けた数値が、35度の酒の総量となる。
7640÷35=218…10
218×100=21800(mℓ)⇒21.8(ℓ)
う~ん、入手した酒の量のおよそ2倍弱だな。
まぁ、度数が下がる分酒精以外の液体が多くなるから、妥当なところだろう。
漬け込むには各種大体2ℓ位が必要になるから、最大で10種作れそうかな?
そうやって計算しながら今後のことを考えていると、蒸留が終わったようなので、代金を支払い蒸留酒を受け取る。
素材・食材アイテム 純酒精:数多の酒の主成分であり、無色透明で特有の芳香を持ち、揮発性と可燃性を兼ね備えた液体。殺菌・消毒・医薬・溶媒・不凍液の材料や燃料等の様々な材料に用いられる。また、呑み干すことで生命力を回復させることができるが、呑み干して無事でいられる者は少ない。
効果:HP30%回復 VIT300未満で、酩酊付与 VIT200未満で、昏酔付与
お、恐ろしい。
昏酔ってことは、酔いが回って気絶するってことだよな。
しかも、どの位の時間か明記されてないところを見るに、呑んだ者のVITの値に依存ってところだろうか?
どちらにせよ、最近は徐々に上がって来たが、VITの値が低いことに変わりは無いので、絶対に純酒精の状態のまま呑まないようにしよう。
万が一外で呑んでもしたら、まず間違いなく昏酔状態の時に敵対者に殺られるだろうからな。
因みに、蒸留器具は特殊な魔道具であるらしく、一番小型なものでも230万Rとかなり良いお値段だったので購入は断念した。
所持金:83075R⇒81875R
よし、料理ギルドですることはコレで全部かな?
…………あ。
そういえば、酒に漬けるにしても容器が足りない気がするな。
これじゃ、実験も満足に出来ないところだった。
危ない、危ない。
瓶(大)×30個:3000R
所持金:81875R⇒78875R
うん、これで良し。
それじゃ今度こそは大丈夫だと思うので移動して行こう。
これから生産活動をしていく訳なんだけど……今日の午前10時から獣魔屋が開店するから、ディパート内にプレイヤーが多くなって移動もし辛くなりそうだし、また荒ぶる仔豚亭で泊まり、夢現フィールドの方で生産することにしよう。
もちろん!スキルのレベルは早く上がることに越したことは無いので、経験値上昇の食事も込みでな。
その後、俺は料理ギルドから出て行き、荒ぶる仔豚亭へと向かって行った。
◇◇◇
俺は荒ぶる仔豚亭に到着するとすぐに、食事付きで泊まり、部屋に備え付けられていたソフトドリンク……夢現の雫を飲み干して、夢現フィールドへ移動? して行き、経験値上昇の効果が付いているのを確認後、素早く総合生産ギルドへ急行していった。
そして総合生産ギルドに着いた俺は、早速カウンター窓口へと行き、300Rを払って2階の個室スペースへと進んで行く。
所持金:78875R⇒78075R
それじゃまずは、錬成のレベル上げから始めるとしよう。
経験値の上昇効果が有限ということもあるけど、これからは自力で酒精が作れるようになれば、蒸留代を節約できるからな。
無駄遣いはなるべく減らした方が、何かすごく欲しい物があった時に助かるから、言わば未来のための貯金とも言えるのではないだろうか?
まぁ、それはさて置き、ちゃっちゃと錬成していくとしよう。
手順は分かってるし、あまり時間を掛けない方が、実験に使う時間も増えるしな。
それと、蒸留水から不可思議な純水に溶媒が変わるから、効果や味が変化するかどうかの確認もしておこう。
そうして俺は素早く装備スキルを入れ替え、虚空庫内にあるアイテムを次々と実体化させていき、空の器にクリエイトウォーターで生み出した、不可思議な純水を入れていく。
もちろん、バーサークを使いINTの値を倍化させることも忘れない。
少し味見をしてみると、最初に味見したときよりも口当たりがまろやかで、美味しく感じられた。
やはり説明にある通り、INTの値が上がる程味が良くなるようだ。
それなら次は、この水を使ってできたアイテムがどう変わるかだけど……まぁ、やってみれば良いか。
そう思い、クリエイトウォーターで生み出した水と実体化させたエネルゲンマッシュルームを錬成しようとすると、足元の影からネロが出て来て、何かを訴えるように、俺の足をぺちぺちと叩く。
なんだろう?とりあえず念話を使って聞いてみるか。
『ん? どうしたんだ、ネロ?』
『ねぇねぇ、シエルおねぇちゃんはー?』
あ、そういえば今日はまだシエル出してなかったな。
そう気付き、俺は素早くシエルの装飾化を解く。
「シエル、ごめんな。出すのを忘れてた。それとネロも教えてくれてありがとう。今後も何か俺が忘れてたりしたら、教えてくれると助かる」
『も~しょうがないなぁ。つぎからはきをつけてね?』
『うん、わかったー!』
「ああ、分かってるよ。それじゃ俺は生産活動をしてるから、その間シエルとネロはその辺りで遊んで待ってくれ」
『はーい!』
「キュウ!」
さてと、それじゃ気を取り直して錬成していくとしよう。
そうして俺は、クリエイトウォーターで生み出した不可思議な純水2ℓとエネルゲンマッシュルームとを視線選択して、錬成していった。
「錬成!」
すると、視線選択した不可思議な純水とエネルゲンマッシュルームが一瞬白い光に包まれて消えると、そこには薄っすらと青白く光る水が出来上がる。
ふむ……見た目では変わったところは無いな。
なら効果の方はどうだろう?
【製作者:リオン】
素材・消耗アイテム ライフウォーター:生命力が豊富に溶け込んだ水。飲むことで生命力を回復することができる。
効果:HP100回復 使用期限:364日23時間59分
効果の方も特に変わって無いみたいだな。
なら、後は味だけど……うん、普通? に美味いな。
まんまミネラルウォーターの味だ。
どうやら味が美味くなるだけで、見た目も効果も変わらないみたいだ。
素であるライフウォーターがコレなら、ライフジュースの味が良くなることはあっても、悪くなったりすることはなさそうだな。
ポーションの方は分からないが、少なくとも美味くなる水で苦味が強まるなんてことは無いように思える。
まぁ念のため、ポーションを作った時に試飲してみればいいか。
ともかく、今はライフウォーターとライフジュースを作っていくことに専念するとしよう。
錬成のレベルも今は0なので、経験値上昇の効果も相まって、レベルが上がるのも早いだろうし、うまくいけば、抽出錬成も習得できるかもしれないしな。
その後、俺は経験値上昇の効果が切れない内に、ライフウォーターとライフジュースを量産していった。
◇◇◇
―――1時間後
俺は料理のアーツの状態促進を掛け、作成したライフジュースの瓶を次々に、見えない肩掛け鞄の方に入れて寝かせていく。
これでよし!っと。
後は漬かるのを待つだけだな。
因みに、ライフウォーターとライフジュースを量産し終わると、思惑通り錬成のレベルが上がっており、過去ログによると錬成のレベルが5に達した時に、抽出錬成を習得することができていたみたいだった。
□ 抽出錬成:各種のアイテムを構成する要素の内の1つを抽出することができる。
SLv上昇と共に、抽出されたアイテムの品質が良くなり、選択できる要素も増加する。
但し、抽出されなかった他の構成要素は失われる。
消費MP:使用したアイテムの数とランクにより変動
リキャストタイム:5秒
それじゃ、待っている間は純酒精を35度の酒にして、ポーションを作っていこう。
まず、先程料理ギルドで試算した計算に沿って、純酒精700mℓに不可思議な純水1300mℓを入れ、良く混ぜる。
そして、お酒特有の恐らく糖分によってできるモヤモヤが、ある程度収まったら器に入れて完成。
【製作者:リオン】
素材・食材アイテム 焼酎・甲類(35度):焼酎の1種にして、アルコール度数36未満に加水調整した酒。無色透明でくせの無い味を持つため、料理や果実酒等の材料として広く使われている。
効果:HP20%回復 VIT100未満で、酩酊付与 VIT80未満で昏酔付与
うん、良い感じだな。
流石に味の方は分からないが……香りは現実でも嗅いだことのある、お酒特有の良い匂いだ。
それでも説明の方には、果実酒等の材料としてーっとあるから、たぶん大丈夫だろう。
次はコレにキュアハーブを漬け込んでいく。
この時好みによっては、氷砂糖や香り付けになるようなものを一緒に入れたりするが、一応実験ということもあるので、初めは基準となるようそのまま漬けることにする。
漬ける時間を短縮するため、料理のアーツの状態促進を掛けるが、お酒は年月が経つにつれコクやまろやかさ、そして旨みが増すものらしい。
俺の家で作っていたお酒は2年で漬け込み完了と言っていたはずだから、コレを基準に、2年・6年・10年と漬けたものを作ることにする。
1度の状態促進ではぜんぜん促進具合が足らないので、リキャストタイムが終わり次第重ね掛けして、漬ける時間を短縮していく。
そしてできた酒をお玉で掬い、ポーション瓶に移して鑑定してみる。
【製作者:リオン】
消耗・素材・食材アイテム HPリキュール(2年物):呑み干すことでHPが回復する薬酒。2年間漬け置いたことで、酒独特の尖りと薬草特有の苦味が減り、口当たりが若干良くなった若い酒。
効果:HP25%回復 VIT90未満で、酩酊付与 VIT70未満で、昏酔付与
【製作者:リオン】
消耗・素材・食材アイテム HPリキュール(6年物):呑み干すことでHPが回復する薬酒。6年間漬け置いたことで、酒独特の尖りと薬草特有の青臭さが無くなり、まろやかな風味を出すようになった、熟成酒。
効果:HP30%回復 VIT70未満で、酩酊付与 VIT50未満で、昏酔付与
【製作者:リオン】
消耗・素材・食材アイテム HPリキュール(10年物):呑み干すことでHPが回復する薬酒。10年漬け置いたことで、まろやかな風味と僅かな苦味の中に確かなコクが存在するようになった、長期熟成酒。
効果:HP35%回復 VIT50未満で、酩酊付与 VIT30未満で、昏酔付与
因みに、各種HPリキュールの色は、2年物が濃い緑、6年物が薄い緑、10年物が薄い黄緑で、いづれも濁りは一切無い透明な仕上がりになっていた。
う~ん、2年物は普通にHPポーションを作った時に比べると、回復量が減ってしまっている。
残念だけど、コレは失敗作かな?
VITも90以上無いと酩酊状態になっちゃうし、ただ余分な手間が掛かっただけで、アイテムとしての旨味が現時点では0だ。
もっとも、アイテムとしての旨味は0だが、料理スキルのレベル上げの足し位にはなったかもしれないけどな。
さて、作ったからには味見をしてみた方が良いのだが……。
2年物だと、呑んだら確実に酩酊状態になってしまうから、試飲するなら6年物と10年物になるな。
まぁ、酩酊状態で味の良し悪しが分かるなら、呑んでも良いかもしれないが、酩酊……つまり酔っ払った状態で、正しい判断が下せるかどうか分からないので、今回は2年物は止めておくとしよう。
それでは改めて、試飲していこう。
まずは、6年物のHPリキュールからだ。
そうして俺は人生初であろう飲酒に若干躊躇しつつ、覚悟を決めて一気に煽り呑む。
……うん?
何ていうか、最初にお酒特有の香りが来るんだけど、その後に来る酒の味が市販のお茶っぽい感じ?
まぁ、一気呑みは少し辛いものがあるが、口の中で少し転がして、唾液と混ぜるようにすれば大丈夫っぽいな。
美味しいか不味いかで言えば、美味しいに分類されるのかな?
初めて酒を呑んだから、酒の味わい方? みたいなのがよく分からないが、俺個人の意見としては、若干酒臭い緑茶味という評価になる。
よし!それじゃ今度は、10年物のHPリキュールにいってみよう。
そして先程と同じ様に、ポーション瓶に入れられた10年物のHPリキュールを口へ運んでいく。
……お?
何かさっきの6年物に比べると、圧倒的に甘みが強いな。
香りも強すぎず弱すぎず、丁度良い塩梅で、酒自体の風味と喧嘩することが無い。
だけど、やっぱり味はお茶なんだよなぁ。
普通の緑茶とは違って甘みが強い分、影に隠れる程度の苦味が引き立ち、良いアクセントになっている。
酒特有の香りも無いし、これなら結構ごくごく呑めそうだな。
そう思っていると、ふいに視界が歪み、まるで遊園地のコーヒーカップに乗り、全力で回してみた後の様に、見ているもの全てがグラグラと揺れて、視線が定まらなくなる。
っ!? いったい何が……?
そう考えながらも、少しでも情報を集めるため、ブレる視線を動かして周囲を見てみると、視界の端に頬を赤くした人型がコップ? を持ち、頭から~°を出している、つい昨夜も見た覚えのある、酩酊のバッドステータスアイコンが付いているのが見えた。
……え? 酩酊状態になってる!? なんで!?
そうやって驚いている間も、視界は歪み続け、視線は一向に定まらず、次第に気分が悪くなってくる。
まずいな、このまま立っていると何処に突っ込むか分からないし、最悪机にある料理道具や作った酒を落とし兼ねない。
まずは座ってから、どうして酩酊の状態異常に掛かったのか考えよう。
椅子だと上体がふらふらと安定しないから、座るなら床かな。
そうして俺は近くにあるものに足や手、体を引っ掛けないように恐る恐る移動し、どうにか何事もなく壁際の床に腰を下ろすことに成功する。
壁際の床に座ると、壁と床からひんやりとした冷気が感じられ、酒で火照った体と頭を冷やし、少ないながらも正常な思考を取り戻させる。
あー……、気持ち良いー……。
何か視界の方は見てると気持ち悪くなるから、見ないように目を閉じておこうかな。
しっかし、こんなに壁や床が気持ち良いと、思わず寝ちゃいそうだな…………っは!
いかんいかん、危うく本当に寝るところだった。
仕方ない、気持ち悪くなるけど、寝るよりはましだろうから、目は開けておくことにしよう。
さて、それでどうして急に酩酊状態になったかだけど。
このゲームって妙にリアルっぽくするところがあるからなぁ。
んー……もしかして、体内で分解されず残ったアルコールが蓄積している状態なのかもしれない。
そうすると、自身のVITの値は体内のアルコールを分解する代謝の数値で、その代謝の数値を超えたから酩酊状態になったってところだろう。
うん、大体筋は通っているかな。
それよりも、どうやったらこの酩酊の状態異常が解けるか……だけど。
順当に考えれば自然回復だろうけど、どの位掛かるか分からないし、何よりこのままじゃ生産活動を続けることができない。
せっかく個室を借りたのに、半分以上何もしないまま時間が過ぎていくのはもったいなさ過ぎるし、最悪の場合、現実と同じ様にアルコールが抜けるまで6時間前後も行動できない可能性も捨て切れない。
故に、至急この状態から回復する手立てを考える必要がある。
対処方としてすぐに思い付くのは、体内のアルコール濃度を薄めるために水を飲むこと位だが、これでは短縮される時間なんて高が知れてる。
それに今日の午後2時からはアリル達との待ち合わせもあるし、そんなに時間を掛けて酩酊の状態異常を解いている暇はない。
何か……何かもっと早くこの酩酊を解除する方法は……。
そうやって酩酊に関することを脳裏に思い浮かべていくと、ふいにあることを思い出す。
そういえば、酔いどれオーガは酒を嘔吐することによって、衰弱状態を経るが、酩酊の状態から比較的早く回復していたな。
なら、俺も同じようにすれば、酩酊を解くことができるか?
ふむ、可能性としてはありそうだが、今の俺の状態では狙いは甘くなるし、力だって入り難くなっているから、上手く胃付近を強打することはできなさそうかな。
そうでなくとも、普通態と自分を殴ろうとすれば、自然と力を弱めてしまうものなので、その手の訓練を積んでいないと、自分自身に効率の良い打撃を打つこと等できるはずもない。
…………はぁ、仕方ない。
こんなことを頼むのは気が引けるが、時間は待ってくれないし、またシエルとネロにお願いするとしよう。
問題はどういうことを頼むかだけど……胃付近を殴るってことは、物理的な力が必要になってくるから、シエルには向かないので、頼むならネロだな。
それでネロにどうやって打撃を入れてもらうかだが、物理で殴るか、魔法で殴るかだな。
物理なら、ボラシティプラントに影装変化してもらい、根っこで殴る。
魔法なら、ストライフオウルに影装変化してもらって、シャドウブロウで殴る。
うーん迷うなぁ。
物理の場合は、ピンポイントで胃付近を打てるか不安だし。
魔法の場合は、魔法を受けた反動で俺が吹っ飛び部屋の中の物を壊しそうで、心配になる。
俺自身が被る被害を度外視すれば、物理で殴った方が俺をボラシティプラントの根っこで拘束できるから、明らかに部屋の中の物を壊す可能性は低くなりそうだな。
ん~……よし! ここは、物理でいくとしよう。
シエルには桶を準備してもらって、合図をしたら俺の顎の下に固定してもらえるようにすれば、大丈夫かな。
そこまで考えて、俺はこの状況を打開するため、即座に行動に出る。
「スィウェウ、ウェオ」
しかし、言葉がしっかりと発声できず、意味不明な音が出るだけだった。
やばい! 呂律が回ってない!
なら、念話ならどうだ?
そう考えつつ、すぐ様念話を使い、シエルとネロに呼び掛ける。
『シエル、ネロ! また少し手伝ってくれないか?』
『ん~? なに~?』
『どうしたの~?』
すると、シエルとネロはこちら振り向き、シエルは空中を滑るように、ネロは床をトコトコと小走りするように、近付いて来る。
『わ! どうしたの? だいじょうぶ?』
『かおまっかー!』
『えっと、今は酩酊の状態異常に掛かってるから、大丈夫ではないな。顔が赤いのはお酒のせいだと思うぞ?』
『そうなんだー。それで、なにをてつだえばいいの?』
『ふむふむ、おさけ? ってもののせいなんだね。てつだい? なにするの?』
『手伝いの目的は、この酩酊の状態異常を解くことだ。ここまではいいか?』
『うん! いいよー!』
『うん、だいじょうぶー!』
『そっか。それならまずは、ネロにボラシティプラントに影装変化してもらって、俺の手足を拘束して欲しい。その後、この辺りをボラシティプラントの根っこで強打してくれ』
俺はそう説明しつつ、若干だるい腕を上げ、胃がある辺りの腹を指し示す。
『えッ?! そんなことして、だいじょうぶなの? いたそうだよ?』
『まぁ、多少の痛みはあるだろうけど、我慢するから大丈夫だよ。それに、今回はこのまま自然回復にまかせて時間を潰すことができないから、少しでも早く回復する可能性に賭けたいってこともあるんだよ。だから、嫌な役を押し付けるようで悪いけど、頼むよ』
『う~ん、そういうことならしかたないかな~?』
『それと、服の上からだと場所がよく分からないだろうから、服は捲ってから、叩いてくれ』
『うん、わかったー!』
『次にシエル。シエルには流し台付近にある桶を持って来てもらって、俺が合図したらその桶を俺の顎の辺りに浮かべて、固定して欲しいんだ。頼めるか?』
『うん、やれるよー!』
『ありがとな。それじゃ、早速準備を始めてくれ』
『『はーい!』』
そうシエルとネロは元気良く返事をすると、シエルは流し台の方へ桶を持ちに行き、ネロは自身の影を膨張させ、影の繭を形成して、その繭から色違いのボラシティプラントの姿を現す。
その後、ネロは先程の指示通りに数多の根っこを使い俺の手足を拘束し、服を捲くり上げる。
手足を拘束する時、大の字に拘束しようとしていたので、少しでも他の所に当たらないよう、新たに指示を出し、弓弦のように両手首と両足首を拘束して、吊り下げる形にした。
そう指示をしていると、シエルが念動で桶を運んで来たのが確認できたので、ネロに周囲の物に引っ掛からないよう頼んで、準備が整うのを待つ。
ってかよく考えると、もしもこんな状況を誰かに見られでもしたら、絶対に変な風に誤解されるよな。
いくら状態異常を解くためとはいえ、やっていることは変態行為……俗にSMとか呼ばれる行為に見えなくともない。
まぁ、俺にそんな性癖は無いし、叩かれて喜ぶ趣味も無いけど、人の主観はそれぞれなので、当てにはならない。
なので、これはあくまで状態異常を直す治療行為であって、やましいことをしている訳では決してない!っと主張しても、信じてもらえる可能性は良くて半々位だろう。
そう考えると、酩酊状態になったのが、他の人がいない個室であって本当によかったかな……。
そうやってしみじみ思っていると、ネロから準備完了の声が掛かる。
『じゅんびできたよー』
『分かった、それじゃ……始めてくれ』
『はーい! いくよー? そー……れっ!』
ヒュッ―――ドパァンッ!!
「っぐぐ!」
ネロが合図を出すと鋭い風切り音が鳴り、次の瞬間衝撃波を伴った爆音が俺の腹で炸裂する。
俺は思わず叫びそうになるその痛みを、根性で無理やり押さえ込むと、胃の辺りから熱くて若干酸っぱい臭いのする液体が、競り上がってくるのが分かる。
来た!
『ネロ、成功だ! だから一先ず追撃は中止して、もう少しそのままでいてくれ』
『わかったー』
そうやってネロと念話で話していると、競り上がって来た液体が喉を焼きながら通過し、次第に口内に溜まっていく。
『シエル!』
『はーい!』
俺がシエルに合図を出すと、先程頼んだように俺の顎の辺りに桶が空中を飛んで来て、そして空中で固定されたかのように、静止する。
「……う゛う゛っ…………ぅおうぇ~ーーー」
俺は迫り来る嘔吐感に身をまかせ、一気に口内の液体を吐き出していく。
吐き出された液体は、昨夜見たような虹色で、こんな状態であるにも関わらず、色だけは綺麗なんだけどなぁっと思いつつ、更に競り上がってくる液体を残らず吐いていく。
少しして虹色の液体が出なくなると、いつか体験した倦怠感が体全体を襲い、次いで視界の端にはALL×0.5というアイコンが表示されているのが確認できた。
ここまでは予想通りだな。
後は、この衰弱状態が解除されるまで待てばいいな。
酔いどれオーガは3~5分位で衰弱状態が解除されるってことだったから、あの時の俺の酔い方からして10分位かな?
そう考えながら、俺は手伝ってくれたシエルとネロにお礼を言う。
「シエル、ネロ、助かったよ。とりあえず、普通に話せる位には回復したよ。本当に、ありがとうな」
『どういたしましてー!』
「シュァァァアアアアアー!」
「とは言え、すぐにいつも通り動ける訳じゃないから、少し休む必要はあるけどな。それで、シエル。悪いけど、この桶を流し台へ運んで置いてくれないか? 動けるようになったら、洗っておくからさ」
『うん、わかったー!』
「あ、それと! 見た目は綺麗だけど、本当は汚いものだから、その液体で遊ばないようにな」
『はーい!』
「よし、それじゃネロ。下ろしてから拘束を解いてくれ」
「シュルァァァー!」
それから俺は、ネロに吊り上げられていた状態から下ろしてもらい、手足の拘束を解いてもらった後、改めてシエルとネロにお礼を言い、衰弱状態が解除されるまで床に座り、回復するのを待っていった。
◇◇◇
衰弱状態から回復してから、シエルに運んでもらった桶を洗い終えると、個室スペースを使える時間が残り1時間と少しになっていた。
結構時間を取られたな。
でも、自然回復よりかは時間を短縮できたことだし、前向きに考えて行動するとしよう。
それから、たった2本呑んだだけで酩酊の状態異常を起こすんじゃ、気軽に使うことはできそうにないな。
うーん……このまま捨てたり、死蔵したりするのは何かもったいないし、2度手間になるけど、作成したお酒の酒気を蒸発させることにしよう。
そうすれば、少なくとも酩酊の状態異常を起こすことはなくなるはずだしな。
確かアルコールの沸点は……85℃位だったかな?
最初、料理キットになんで温度計が入っているのか不思議だったけど、こういう温度を測る繊細な料理等に使うのだと思えば、今では納得できるというものだ。
よし!それじゃ早速作ったHPリキュールの酒気を蒸発させていこう。
まず、漬け置いた年数別にHPリキュールを鍋に入れ、火に掛ける。
左手で温度計を持ち、鍋の底に当たらないように支え、右手でHPリキュールの酒気が効率よく蒸発できるようにお玉で掻き混ぜていく。
HPリキュールの温度が、85度を超えないように火を調節しつつ、しばらく熱し続ける。
鍋から出る湯気からアルコール臭がほとんどしなくなったら、鍋を火から下ろし、鍋の中身を冷ましていく。
そして人肌程度に冷めたら、お玉で鍋にある液体を掬い、ポーション瓶に移して鑑定してみる。
【製作者:リオン】
消耗アイテム HPポーション(煎茶風味):飲み干すことでHPを回復させる薬水。
効果:HP35%回復 使用期限:後29日23時間
【製作者:リオン】
消耗アイテム HPポーション(番茶風味):飲み干すことでHPを回復させる薬水。
効果:HP40%回復 使用期限:後29日23時間
【製作者:リオン】
消耗アイテム HPポーション(玉露風味):飲み干すことでHPを回復させる薬水。
効果:HP45%回復 使用期限:後29日23時間
……えっと、何コレ?
え?! ちょっと待って!
何で味ってか、風味がお茶になってんの?!
確かにHPリキュールの時、妙にお茶っぽい味だとは思ったけどさ!
そうやって少し驚いていると、ふいに昨夜聞いた音が鳴りインフォメーションが流れる。
『ピロン! パパーン♪ これまでの行動により、〔称号:医食同源〕を入手しました』
今度は称号だとっ?!
いったい何がどうなってるんだよ!
…………はぁ。
何か疲れたし、深く考えるのはよそう。
とりあえず、入手した称号の説明を読んでみるとするかな。
〔称号:医食同源〕:料理系スキルのみを使い、薬品アイテムの効能を最大限引き出した者の証。
効果:スキル〔薬膳〕を取得。
〔PS〕パッシブスキル:〔薬膳Lv0〕
30+(SLv)分DEXにプラス補正。
SLv上昇と共に、料理系スキルで生み出したアイテムの効果が上昇し、稀に追加効果を付与する。
但し、既に効果が上限に達している場合は、その限りではない。 MAXSLv100
なるほど、つまり料理のスキル(アーツを含む)だけで、HPポーションの回復上限にまで達したことが原因のようだ。
あの時、酒の蒸留を料理ギルドで頼まず、自力(抽出錬成)で蒸留してたら取得できなかったんだろうな。
ある意味、発想の勝利と呼ぶべきだろうか?
まぁ、あって困るものでもないし、ありがたく有効活用させてもらうとしよう。
さて、それで個室スペースを使える残り時間なのだが……後20分弱といったところか。
35度の加水調整酒はまだあるけど、肝心の漬けるものが無いんだよな。
果物はライフジュースに使ってしまったし、今からまたキュアハーブを漬けるにしても、状態促進を重ね掛けしていく時間が足りない。
他に残っていてすぐに使えそうなものは……僅かに残った純酒精と少し余分に取って来たエネルゲンマッシュルーム、それに蟻蜜や砂糖といったところ位だな。
ふむ、少し早いが個室を出るのも手だが、ここは少し遊んでみるのも良いかもしれない。
よし、決めた!
本当は食べ物で遊ぶなんてことはしちゃいけないが、この世界はゲームなんだし、楽しんで何ぼだ!
ここは1つ、純酒精とエネルゲンマッシュルームを錬成してみよう!
純酒精だけでもかなり危険な効果だったけど、混ぜ合わせることで他の効能を高める働きがあるエネルゲンマッシュルームが加わることで、どんな効果を生み出すか純粋に興味があるしな。
コレが所謂、怖いもの見たさってやつなのかもしれないが、錬成するだけなら、時間が掛からず、すぐに結果が分かるというのもある。
そうして俺は、35度の加水調整酒に使わなかった純酒精の残り全て(10mℓ)と、エネルゲンマッシュルーム1個を視線選択し、錬成していった。
「錬成!」
すると、視線選択した純酒精とエネルゲンマッシュルームが一瞬白い光に包まれて消えると、小瓶に入った、仄かに青白い光を発し、時折同色の稲光が液体中を走る液体が、出来上がっていた。
あれ? 好奇心と興味本位で錬成しちゃったけど、何かまずったかも……。
い、いやでも、見た目が少しおかしいだけで、効果の方は以外とまともかもしれないから、希望を捨てずに鑑定してみるとしよう。
だ、大丈夫だよね?
そう思いつつ俺は意を決して、鑑定を使って見る。
【製作者:リオン】
消耗・素材・食材アイテム ライフスピリッツ:生命力が豊富に溶け込んだ純酒精。揮発性が非常に高く、足元に振り撒くことで瞬時に気化し、近くに居る者の生命力を回復することができる。
但し、強靭な肉体を持っていない限り、嗅いだだけで昏酔してしまうので、使用には十分な注意が必要となる。
また、強い可燃性とうつろい易い性質を持つため、取り扱いにも十分な注意が必要となる。
効果:HP300回復 VIT500未満で、酩酊付与 VIT300未満で、昏酔付与
経口摂取時:VIT100未満で、昏酔付与+確率で即死
…………希望は潰えた。
やってしまった。
どうしよう、こんなの危なすぎて、使うに使えない。
というか、強い可燃性は分かるけど、うつろい易い性質って何だろう?
分類上まだ、素材・食材アイテムってあるからまだ何かに使えるんだろうけど、瓶から出すだけで気化するみたいだから、料理するだけでも命掛けになりそうだな。
んー……何かの拍子に瓶が壊れでもしたら大惨事確定だし、かといって捨てるにしてもすぐ気化するんじゃ、風が吹けば広範囲に拡散して、危険極まりない。
瓶ごと捨てても、誰かに拾われでもして使われたりすれば、最悪逆恨みを買うことも有り得る。
なら、自分の手で加工して無害化するか、有効に使えるアイテムにするかだな。
無害化は割りと簡単で、抽出錬成して、純酒精かエネルゲンマッシュルームを取り出せば良い。
だけど、純酒精にしてもエネルゲンマッシュルームにしても、ある程度苦労して入手した素材だから、自業自得とはいえ、無駄にするのは気が引ける。
よって、ダメ元でも有効に使えるアイテムにしてみようと思う。
気軽に使えればベストだが、元がこれだけ凶悪なので、そこまで高望みはしないことにする。
さし当たって、まずは……不可思議な純水で希釈してみるとしよう。
希釈倍率は10倍だと、あの凶悪な効果を薄めるのには弱そうだから、100倍かな?
そうして俺は、バーサークを使いながらクリエイトウォーターを使っていき、不可思議な純水を出していく。
その後不可思議な純水の量を量り、990mℓを取り置き、ライフスピリッツと錬成していく。
「錬成!」
すると、視線選択したライフスピリッツと不可思議な純水が一瞬白い光に包まれて消えると、そこには僅かに青白く光る液体が出来上がっていた。
ふむ、青白い発光が少し弱まって、時折走っていた稲光が消えたな。
それじゃ、効果の方はどうなったかな?
【製作者:リオン】
消耗・素材・食材アイテム ライフスピリッツ(百倍希釈):生命力が溶け込んだ加水希釈酒。揮発性が非常に高く、足元に振り撒くことで瞬時に気化し、近くに居る者の生命力を回復することができる。
但し、強い肉体を持っていないと、嗅いだだけで酔ってしまうので、使用には十分な注意が必要となる。
また、うつろい易い性質を持つため、取り扱いにも十分な注意が必要となる。
効果:100mℓでHP30回復 VIT50未満で、酩酊付与 VIT30未満で、昏酔付与
経口摂取時:VIT100未満で、酩酊付与 VIT80未満で、昏酔付与
お!大分安全な効果になったな。
特に!確率で即死という物騒な効果が無くなったのが大きい。
それでも経口摂取すれば、今の俺のVITでは確実に酩酊状態になってしまうので、念のため更に10倍に希釈するとしよう。
【製作者:リオン】
消耗・素材・食材アイテム ライフスピリッツ(千倍希釈):生命力が微かに溶け込んだ加水希釈酒。揮発性が非常に高く、足元に振り撒くことで瞬時に気化し、近くに居る者の生命力を回復することができる。
但し、うつろい易い性質を持つため、取り扱いには十分な注意が必要となる。
効果:100mℓでHP15回復 VIT25未満で、酩酊付与 VIT15未満で、昏酔付与
経口摂取時:VIT50未満で、酩酊付与 VIT40未満で、昏酔付与
うん、これで安心だ。
回復量は初心者ポーションの半分になり、ライフスピリッツ(千倍希釈)の総量が10ℓにまでなったが、あんな危険極まり無いものを持っているよりかはマシだから、別に良いけどな。
しかし、本当にこのうつろい易い性質って何だろうな?
普通酒を1000倍に希釈すれば、揮発性なんてほぼなくなると思うんだけど、効果が減衰するどころか、そのまま残ってるし。
……もしかすると、うつろい易い性質というのは、特定の効能をそのまま移すことができる性質なのかもしれない。
そして、100倍、1000倍に希釈して、そのまま移った効能は、揮発性が非常に高いことから、このうつろい易い性質が保有できる効能は1つであると仮定できる。
このうつろい易い性質に選ばれる効能がランダムなのかどうか分からないが、もしもランダムであるなら、最初の凶悪な効果を持つライフスピリッツ(原液)から派生しそうな効能は4つ。
1:非常に高い揮発性
2:強い可燃性
3:豊富な生命力
4:強烈な酒気
このあたりは実際に実験をしてみなければ分からないが、4番目以外の効能が移ってくれれば、色々なものが作れそうではあるな。
4番目の効能が移った時は、仕方が無いので抽出錬成して無害化するしか手段がなさそうだから、その時は素直に諦めるとしよう。
それはさて置き、今はこの仮定が正しいかどうかを実験してみよう。
仮定が正しければ、このライフスピリッツ(千倍希釈)を使ってアイテムを作っても、非常に高い揮発性がそのまま移るはずだしな。
それで何を作るかだけど…………今回は酩酊状態になって時間を取られ、串焼きの補充ができていない。
なので、3瓶丸ごと残っている香草を使ってみようと思う。
うまくいけば、MP回復アイテムになるかもしれないしな。
それとせっかく抽出錬成を使えるようになったので、香草の構成要素を抽出してみるとしよう。
まずは香草を瓶から取り出し、取り出した香草を木の器に入れ、視線選択して抽出錬成を使う。
「抽出錬成!」
すると、目の前にウィンドウが出て来て、抽出できる香草の構成要素の選択が可能になる。
現在の選べるのは、繊維と水(薬効有り)と水(薬効無し)の3つなので、水(薬効有り)を選択する。
選択した瞬間、視線選択した香草は白い光に包まれて消え、香草が入っていた器に、香草特有の匂いを立たせたクリアグリーンの液体が入っていた。
なるほど、こういう風になるのか。
これなら、料理器具も使わないし、時間も掛からないから結構便利だな。
よし! それじゃ、コレとライフスピリッツ(千倍希釈)を錬成してみよう。
さて、どんな効果になるかな?楽しみだ。
そうして俺は、香草から抽出錬成したクリアグリーンの液体と、ライフスピリッツ(千倍希釈)を視線選択し、錬成していった。
「錬成!」
すると、視線選択した香草から抽出錬成したクリアグリーンの液体と、ライフスピリッツ(千倍希釈)が一瞬白い光に包まれて消え、大きな瓶に入った、薄っすらと光を発する、濁りが一切無い緑色の液体が、出来上がっていた。
ふむ、見た目では特におかしいところは無いな。
後は効果の方だけど、さてどうなっているかな?
【製作者:リオン】
消耗アイテム MPリキッド:振り撒くことでMPを回復する薬液。揮発性が非常に高く、足元に振り撒くことで瞬時に気化し、近くに居る者の魔力を回復することができる。また、経口摂取でも回復することはできるが、中確率で麻痺状態に掛かるので、注意が必要。
効果:100mℓでMP100回復 (範囲:半径1m)
経口摂取時:100mℓでMP120回復+中確率で麻痺付与
……ん?
おおー!
すっごく使い易くなってる!
というか、HP回復要素は何処にいったんだ?
……まさかうつろい易い性質って、何かしら効果がある別のものを混ぜると、うつろい易い性質が保有する効能以外は移らないのか?
う~っむ、コレもいくつか実験しないことには分からないな。
それよりも、今気が付いたんだけど、揮発性が非常に高いと、ポーション瓶に移し替えるの難しくないか?
どうやっても、外気に触れて気化しないように移し替えるのは無理っぽいんだけど。
んー、どうしよう?
そうやって悩んでいると、終了5分前の合図であるベルが鳴った。
えーここでかぁ。
しょうがないから、コレはこのままにして、片付けを始めるとするか。
ライフポーションもいつの間にか漬かり切ったみたいだし、料理ギルドで詰め替えて、押印してから2/3位納品するとしよう。
それと、今回作成したお茶味のポーションも出してみようかな?
MPリキッドの方は……ダメ元で料理ギルドの人に何か良いアイテムか何かないか聞いてみるとしよう。
もしかすると、何かあるかもしれないしな。
そうして、使った料理キットと作成したアイテムを片付け、忘れ物がないかを確認し、シエルに装飾化してもらい、ネロに移動することを伝え、影に入ったところで、個室スペースを出て行った。
◇◇◇
総合生産ギルドを出て、料理ギルドに向かっていると、ふいに『ポーン』という音が聞こえてきた。
軽く周囲を見渡すと、視界の端にFCと書かれたアイコンが見える。
俺が視線入力で、そのアイコンを選択するとウィンドウが現れ、『ヴァルスからフレンドコールが来ています』と出た。
ヴァルスからってことは、防具ができたのかな?
フレンドコールが通じるということは、ヴァルスもこっち……夢現フィールドに来ているのだろう。
俺はそう思いつつ、往来中の人の邪魔にならない所へ移動して、音声入力で回線を開いた。
「フレンドチャット オープン」
『よぉ、リオン。頼まれていた防具ができたぞ』
「お! やっぱりか。それじゃ受け取りに行くよ。何時なら大丈夫だ?」
『今からでもいいぞ?ただ、午後からはリアルの用があるから、来るなら12時30分までに来てくれ』
「分かった、それなら今から行くよ。ああ、それと、防具の値段だけど、いくらになる?」
『防具の値段は、2万3000Rだな。手持ちが無いんなら取り置いておくぞ?』
「いや、大丈夫だ。それで、ヴァルスは今何処にいるんだ?」
『ああ、それならリオンと初めて会った、南区にある露天通りに居るぞ。覚えてるか?』
「ああ、大丈夫だ。それじゃ今から行くな」
『おう! んじゃ待ってるぜ』
そう言ってヴァルスとのフレンドチャットの回線が切れた。
よし!目的地変更だ。
まだヴァルスが言っていた時間まで40分位あるが、待たせるのも悪いし、なるべく早く行くとしよう。
出来上がった防具っていうのも、早く見てみたいしな。
そうして、俺は料理ギルドとは真逆の方向にある、露天通りを目指して移動して行った。
◇◇◇
移動すること数分で目的のヴァルスの露天に到着することができた。
ヴァルスはまだ俺が来たことに気付いていないようで、集中しながら空中を指差すような仕草から、恐らくアイテム欄でも見ているのだろう。
「ヴァルス、来たぞ」
「お? 早かったな。さっきフレンドコールしてから、まだ数分しか経ってないぞ? もしかして、結構近場に居たりしたのか?」
「いや。方向的には真逆の所に居たんだけど、出来上がった防具を早く見てみたくて、急いで来たんだ」
「そうなのか? そんなに期待してもらえると、鍛冶師冥利に尽きるってもんだな」
「それで、その防具ってどんなのなんだ?」
「ああ、それじゃ出来上がった防具を渡すから、試着してみてくれ。何処かおかしい所があれば直すから、遠慮せず、言ってくれよ」
そうヴァルスは言うと、トレード画面を開き、防具を送ってくる。
俺は早速防具を受け取り、防具を実体化させ、見てから試着していく。
【製作者:ヴァルス】
防具アイテム:鎧 名称:マルチストラクトサイド(黒) ランク:3 強化上限回数:18回
DEF27 M・DEF16 要求STR:18 耐久値:380/380
衝撃緩和:微
説明:複数の素材を加工し、張り合わせて作られた胸当て。
複数の素材を張り合わせることで、胸当て自体の耐久強度を引き上げ、構造上、受けた衝撃を分散させ、装備者の負担を軽減させる働きを持つ。
マルチストラクトサイドは、全体的に黒く染め上げられており、光を反射しないように胸当ての表面にはツヤ消しの処理が施されている。
複数の素材を張り合わせているだけあって、重さは多少あるが、体を曲げたり捻ったりしても、体の動きを阻害するようなことはない。
また、胸当てに付けられているバンドは、ある程度伸縮するようで、体に胸当てがフィットしていながらも、体を締め付けるような違和感も無かった。
「うん、大丈夫みたいだ。気に入ったよ。ヴァルス、ありがとな」
「そりゃ、よかった」
「それじゃえっと……はいコレ。防具の代金な。確認してくれ」
「ん、分かった。っと、ひの、ふの、みの……うん、確かに。それじゃ、また何かあれば言ってくれ。素材の売却でも、インゴットの作成でも大歓迎だからよ」
「それなら、今からでもいいか? 確か6回までなら失敗せずに強化できるんだったよな」
「ああ、そういうことか。それで何をどれだけ強化すればいいんだ?」
「今受け取った防具を6回強化してくれ。使うのは……影錬石4つとコレとコレで頼む」
そう言いつつ、素早くアイテムを実体化させて、ヴァルスに手渡す。
「ちょっ!?こんなの何処で手に入れたんだよ。あー……いや、言わなくて良い。今のはただの独り言だ。独り言だが…………できれば出所を教えてくれないか? もちろん対価は払うからよ」
「んー……まぁ、いいけど。それじゃ、今回の強化代なしでとかでどう?」
「は? そんなに安くていいのか? いや、こっちは助かるから別いいんだが……」
「それ程大した情報って訳でもないしな。この情報が出るのだって、少し早いか、遅いかだけだろうし」
そう言ってから俺は、ヴァルスとパーティを組み、パーティチャットでランク3以上の武装具を強化することができる、水錬鉱や地錬鉱をどうやって入手し、恐らく突発イベントやクエストモンスター以外の、20Lv以上のモンスターからなら入手できる可能性があることを話した。
「なるほど、確かに有り得そうだな。というか、そんなモンスターが居たんだな。外で戦う時は、注意しするとしよう。……よし! それじゃ約束通りその防具を強化するから、強化石と防具を渡してくれ」
「分かった」
俺はそう答えると、ヴァルスに先程受け取った防具に影錬石4つと、水錬鉱、地錬鉱を渡していった。
そして、そのまま少し待つとヴァルスから強化し終わった防具を渡された。
【製作者:ヴァルス】
防具アイテム:鎧 名称:マルチストラクトサイド(黒) ランク:3 強化上限回数:12回
DEF30 M・ATK4 M・DEF16 DEX3 要求STR:24 耐久値:380/380
衝撃緩和:微
説明:複数の素材を加工し、張り合わせて作られた胸当て。
複数の素材を張り合わせることで、胸当て自体の耐久強度を引き上げ、構造上、受けた衝撃を分散させ、装備者の負担を軽減させる働きを持つ。
「それじゃ、またよろしくな」
「ああ、またな」
そう互いに別れを告げ、俺はヴァルスの露天を後にした。
所持金:78075R⇒55075R
さて、それじゃ今度こそ料理ギルドに向かうとしよう。
そうして、再び料理ギルドへと歩いて行った。
◇◇◇
料理ギルドに到着すると、その足で受付カウンターまで行き、周囲にプレイヤーが居ないことを確認して、ブランドスタンプの貸し出し申請を行い、ついでにダメ元で、揮発性が非常に高い液体を移し替えるのに使えそうな道具がないか聞く。
すると、そういう液体を入れ替えるのに使う魔道具があるというので、見せてもらった。
その魔道具の外見は、まんま昔じぃちゃんの家で見た、給油ポンプの形をしていた。
しかし、そんな見てくれとは違い、魔力を消費することで、2つの給油ポンプの口とその口に繋がるノズルが物体を透過して、液体が入った器に蓋したまま、中身を移し替えることができるという優れものだった。
しかし、耐久度が回復できず、連続最大使用時間が100時間の消耗品でも、33万Rも掛かり。
耐久度を自分のMPを消費することで回復させることができるものは、158万Rとかなり高い値段だった。
なので必然的に、1時間で1000Rの貸し出しを使い、MPリキッドを入れ替えることにした。
【製作者:リオン】
消耗アイテム MPリキッド:振り撒くことでMPを回復する薬液。揮発性が非常に高く、足元に振り撒くことで瞬時に気化し、近くに居る者の魔力を回復することができる。また、経口摂取でも回復することはできるが、中確率で麻痺状態に掛かるので、注意が必要。
効果:MP100回復 (範囲:半径1m)
経口摂取時:MP120回復+中確率で麻痺付与
所持金:55075R⇒54075R
ブランドスタンプの貸し出し申請が通ると、ブランドマークの押印は個室で行うように言われ、料理ギルドにある個室の鍵を渡される。
その後、料理ギルドの人に案内された個室に入り、出来上がったライフジュースをポーション瓶に移し替え、次々にブランドマークを押印していった。
しばらくすると、出来上がったライフジュース全てに押印し終わったので、今度は今日初めて作ったお茶味のポーションにブランドマークを押印していく。
だが、お茶味のポーション瓶を手に持ち、先程のようにブランドマークを押印しようとしても、ブランドスタンプが反応しない。
あれ? おかしいな? もしかして壊れた……とか?
いやいやいやいや、教わった通りに魔力を込めて使っただけだし、押印した数も1000にも満たないのに、もう故障とか有り得ないだろ。
まぁ、押印できないものを持ってても仕方無いし、ここは正直に言って許してもらうとしよう。
できれば、弁償とかは無いといいなぁ。
そう思いながら、俺は若干遅い歩みで個室を離れ、先程ブランドスタンプの貸し出し申請を行った受付けへと向かって行き、声を掛ける。
「あのー、すみません。何故かコレ動かなくなったんですけど、どうしたら良いですか?」
「え? 動かなくなった? おかしいですね。そうそう壊れるものではないはずなんですけど……。それでは少しお預かりしますね」
そう受付のギルド員が言うと、ブランドスタンプを持って、受付の奥にある部屋へと消えて行く。
そのまま少し待っていると、先程のギルド員が受付の奥から戻って来る。
「確認してみましたが、何処も故障はしていませんでしたよ」
「え?! そうなんですか? でも、今回初めて作ったものに使おうとしたら、動きませんでしたよ?」
「ああ。なるほど、そういうことですか。それは故障ではなく、仕様ですよ。コレを使うには、事前に登録してある作品でなければ、反応しないようになってますから」
「え、どうしてそんな……」
「それは、万が一製作者本人様が、作成したものが不出来であったり、他者に害を及ぼすものであったりした場合、その作品流出を事前に防ぐための措置ですね。ですからすみませんが、新しい作品にコレを使う場合は、また新たに提出してもらい、審査を受けて下さい」
「確かに、変なものを出品するのはよくないですね。分かりました。それでは……この4つの審査の方をよろしくお願いします」
「はい、承りました。場合によりけり、試飲や試用をする時がありますが、大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「分かりました。それでは審査して参りますので、少々お待ち下さい」
そう言うと、その受付のギルド員は渡した4つのアイテムを持ち、再び受付の奥にある部屋へと消えて行った。
俺は待っている間、料理ギルドの中を見て歩き、時間を潰していく。
そうしてしばらくすると、4つのアイテムを渡したギルド員が戻って来た。
「お待たせしました。どれも見た目、味、効果共にすばらしい出来栄えで、4つ共審査を抜けることができました。ですが……ものは相談なのですが、こちらの3つのレシピを当料理ギルドへ売ってはもらえませんか?」
「えっと……理由を聞いても?」
「はい。理由はいくつかありますが、主な理由は、こちらの3つは料理系スキルのみで、作成されているからなのです」
「そんなこと、よく分かりましたね」
「ええ、これでも料理ギルドに勤めるギルドスタッフですから、その程度のことを分からずして、ギルドスタッフは名乗れませんからね」
「はぁ、そういうものですか」
「ええ、そういうものなのです。それで、どうでしょう? 売っては頂けませんでしょうか?」
「んー、そうですねー。半分偶然で出来たようなものですけど、値段しだいですかねぇ?」
「なるほど、確かに。値段も提示せずに、交渉が上手くいく道理はありませんでしたね。真に申し訳ございません」
「あー、いえ」
「ふむ……それでは、もしもまだ現物としてこちらの3種が残っているなら、サンプルとして即金で購入しましょう。価格はそれぞれ、1本に付き、35%のものを400R、40%のものを600R、そして、45%のものを800Rで買い取らせて頂きます。また、レシピの方は、リオンさんが作ればいつでも売却することができるものですので、お売りして頂くこちら3種の売り上げの合計10%を恒久的に、支払うというものでどうでしょうか?」
えぇー!
何この条件、破格過ぎやしないだろうか?
いやでも、料理ギルドの人が、俺を騙す理由が無いし、ギルドにレシピを売るってことは、言い方は悪いが、ギルドが認めた金蔓だってことだろうし、現実にある特許の使用料みたいなものなのかもしれないな。
確か何処かで特許1個に付き、通常の使用料は3~4%だというのを見た覚えがあるから、3個で10%なら、妥当なところなのだろう。
それに俺も、生産系プレイヤーみたいにずっと同じ薬を作り続けるのは難しいので、コレは良い機会かもしれないな。
考え方を変えれば、レシピの使用料で何もしなくてもお金を稼げているということになるんだし、お金はいくらあっても困らないから、いざ何か入用になった時、慌てなくて済みそうだから、売っちゃっても良いんじゃないだろうか?
……うん、別にエネルゲンマッシュルームみたいな特殊な素材を使っている訳ではないし、売っちゃっても特に問題は無いかな。
よし、売ろう!
「分かりました。その値段でお売りします」
「そうですか、ありがとうございます。それでは、あちらの個室で契約を行いましょう。こういうことはきちんしませんと、後で揉めることになり兼ねませんから」
その後、俺は料理ギルドと契約を交わし、今日初めて作った3種のお茶味ポーションのレシピと現物を料理ギルドに売り払った。
流石にすぐには、3種のお茶味ポーションを作成することができないので、作成手順の確立と量産体制が整う、1週間後までは、販売をしないことになった。
契約した3種のお茶味ポーションの売り上げの10%は、1ヶ月ごとに納金されることになり、その都度料理ギルドから手紙で知らせてもらえることになった。
しかし、納金されたお金は、やはり最大で1週間しか取り置くことができないようで、取りにこなかった場合、受け取りの意志無しと判断され、そのまま料理ギルドの運営資金に回されるそうだが、納金されるお金は、何処にある料理ギルドでも受け取りができるようにしてもらえた。
また、Cランクになれば、ギルドで口座を作れるようになるそうなので、Cランクまでは本気で生産活動をする必要があるかもしれない。
更に、今回の契約により売り上げが一定以上に達したことになり、料理ギルドのランクがFからEへと上がった。
そして、契約が無事終わった後で、MPリキッドの登録をしてもらい、また個室に戻り、MPリキッド全てにブランドマークを押印していった。
押印が終わるともう正午を過ぎていた。
まずい、アリル達との待ち合わせは2時だ!
下手をすると、遅刻の可能性もあるから、慌てずに急ぐとしよう。
因みに、MPリキッドの方は、まだ売らない。
まだ1度も使ったことがないので、実際にどんな使い心地なのかも分からないし、せっかくなのでアリル達に1度試してもらって、使った感想とかを聞いてから値段を決めようかと思ったからだ。
そうして、俺はなるべく早く市場に出すライフジュースを納品して、料理ギルドを出てから、人気の無い路地裏でネロを宿紋化して、ログアウトして行ったのだった。
所持金:54075R⇒90075R⇒86275R
※お酒は二十歳になってから!
そして、長くなり過ぎたので、切りました。
すみません! (≧m≦)




