Locus 90
2016:6/29 マイPC 中破
ここまでお読み頂き、そして評価して下さり、ありがとうございます。
何時の間にやら、総合PV600万並びに、90万ユニークアクセスを突破致しました。
本当にありがとうございます。
では、どうぞ。
げっ! 属性が酸になってる。
酸属性っていうと、あの変異した初見殺しみたいなゼライスを思い出すなぁ。
あれは厳しかった。
プレアダガーも溶かされて、ボロボロにされたし。
でも今ならレベル差もほとんど無いし、シエルやネロと一緒なら、どうにか倒せそうではあるけどな。
あの時は耐久値が∞の防具だったからよかったけど、今は耐久値の上限がある防具だから、極力攻撃を避けるようにしておこう。
つまり、いつも通りということだな。
とりあえず、ウィークネスアイも使って、弱点部位も見つけて置くとしよう。
「ウィークネスアイ」
すると、時計のベルトを伸ばしたような床の丁度中央部の円形をした所に居る、ディザルヴニュートの弱点部位が赤く微発光する。
赤く微発光したのは、先程見たミルク色をした腹、両目、そして尾の付け根だった。
両目は剣を突き刺せば脳にまで容易に達するし、腹は体の部位では最も柔らかい所でもあるので、ある意味納得かな?
そうすると尾の付け根だけど……蜥蜴に似てるし、尻尾の部分が何かしらの栄養を蓄える働きでもあるのかもしれないな。
そう思いながらパーティチャットを使い、アリル達を呼び、シエルとネロにも伝わるように念話で話し掛ける。
『皆、上がって来たから、物音を立てないように注意してこっちに来てくれ』
『分かりました』
『了ー解でっす!』
『シエルとネロもなるべく静かに、移動を頼むな』
『はーい!』
『っ?! …………わ、わかったー。』
ネロからは最初、驚いたようで絶句するような息を飲む音が聞こえたが、シエルが何かを言ったのか、少しの間を置いて了承の声が返って来る。
因みに、何故念話で全員に呼び掛けなかったかというと、レベル0の状態でどの辺りまで念話が届くのか分からなかったからだ。
それでも、後方5~6m位の曲がり角までは届くようなので、次からは念話を使って全員に話し掛ける。
『それと、モンスターの識別結果と弱点部位を話すから、移動しながら聞いてくれ。モンスターの名前は、ディザルヴニュート。レベルは18。属性は、酸属性と水属性。耐性は、水属性と魔法全般。弱点は、斬属性と火属性だ。弱点部位は、両目とミルク色をした腹、それと尻尾の付け根だな』
『酸属性かぁ。持ってるだけなら良いけど、使ってくると厄介なんだよねー』
『ですね。最悪の場合は、装備を失い兼ねませんし』
『えぇー。それは、嫌だなー』
『はい~』
『だな。それじゃ方針としては、どうする? 大事を取って、魔法だけで応戦するか、それとも近接攻撃もするかだけど?』
そう問い掛けるながらアリル達の気配がすく後ろにあることに気付き、後ろを振り向く。
『とーちゃっく! んー……見た感じ床に接触している手や足、お中の部分は溶けてなさそうだし、たぶんミルク色の部分だったら、近接攻撃しても大丈夫じゃないかな?』
『あー……確かに。それじゃ、アリルちゃん達が魔法を放って、怯んでいる内に接敵して仕留めるってことでどう?』
『良いと思いますよ~。時間もあまり無いですし~、ソレで一気にヤっちゃいましょう~』
『だな。それじゃ準備出来次第、一気に行こうか』
『『はーい!』』
そうして、アリル、シエル、ネロが詠唱を開始し、準備が整ったところで、一斉に魔法を放っていく。
「いくよ? ―――グラビティボルテックス!」
『リリース! ライトバースト!』
「ホホォォォーーー!」
「ッ?! ジャァアアア!」
アリルの放ったグラビティボルテックスがディザルヴニュートを竜巻の中に閉じ込めるように発生し、その身を切り裂く。
竜巻の牢獄に入れられたディザルヴニュートは、上昇気流に流されないよう身を縮め、床にへばり付くようにして、耐える。
シエルの放った3つライトバーストが、動けないでいるディザルヴニュートの頭・体・尻尾と連続した光の爆発が発生し、その身を焼き焦がす。
更に、弱点部位であるミルク色の腹の下の影が突如膨張し、ネロの放つ数十ものシャドーエッジが、ディザルヴニュートの脇腹や腹を切り刻んでいく。
HPバーを見てみれば流石に耐性が魔法全般なだけあって、今の魔法攻撃で7割強までしか減らすことができていなかった。
連続した魔法攻撃によって傷付いた体を震わせ、怒りの咆哮を上げそうになるモーションに入るのを見、更に追撃を掛ける。
うまくいけば、2~3秒の隙は作れるだろう。
「トリプルマジック」
「エネルギーボルト!」
「ジャガッグッ?!」
俺が前方へ掲げた左掌から3条の太い青白い雷が迸り、ディザルヴニュートとの間の空中を走り、着雷。
水から上がったばかりであるせいか、伝導率が良かったようで、感電するようにその身を『ビクリッ』と震わせ、その動きを一時的に止める。
そしてその隙に、リーゼリア、ナギ、ユンファが距離を詰め、一斉に斬り付ける。
「チャージスラッシュ!」
「トライスラッシュ!」
「ワイドスラッシュ~!」
「ジャァアアア!」
リーゼリアは強い踏み込みで突進の運動エネルギーを乗せ、ディザルヴニュートのミルク色をした脇腹を×の字を描くようにして斬り裂く。
ナギは、ディザルヴニュートの首下辺りに近付き、素早く3回Nの字に切り裂き、ユンファは俺が教えた弱点部位の1つである、尻尾の根元付近をアーツを使い、唐竹割するように勢い良くパルチザンを振り下ろす。
しかし、勢いが弱かったのか、それとも単にユンファの力が足りなかったのか、丁度骨がある辺りでパルチザンの刃は止まり、ディザルヴニュートの尻尾は切り離せなせていなかった。
HPバーを確認してみれば、弱点属性であったということもあり、残り3割位まで削ることができていた。
俺もリーゼリア達に続き、アドヴァンスドソードを抜剣して、ディザルヴニュートに斬り掛かろうとすると、それは起こった。
「ジャァァァアアアアア!!」
「っく!」
「うわっ!」
「はぅ~!」
ディザルヴニュートが怒りの雄叫びを上げ、そのまま体を捻るようにして半回転し、リーゼリア達を弾き飛ばす。
リーゼリアはディザルヴニュートが雄叫びを上げたのと同時に後ろに飛ぶことで、威力を減衰させそれ程ダメージはないようだが、ナギは反対側の通路へ飛ばされ、ユンファは水路の上に飛ばされ、重力に従い水路に落ちる。
「ナギちゃん! ユンファちゃん!」
そんな二人を心配するアリルの声に釣られ、ディザルヴニュートに弾き飛ばされたナギとユンファの方を見てみれば、2人の持つ武器から白い湯気のようものが立ち上っているのが見えた。
「っ! ナギ! ユンファ! 武器が溶かされてます! すぐにアイテムボックスに入れるか、洗い流して下さい! そのままでは、最悪武器を失うことになりますよ!」
「え?! うん、分かった!」
「は、はい~」
リーゼリアの言に従い、ナギは武器をアイテムボックスへ、ユンファはすぐ近くにある水路の水で武器を洗い出す。
リーゼリアはうまく手甲で武器を庇ったのか武器からは白い湯気のようなものは出ていなかったが、一度2つのカットラスを納剣し、油断無くディザルヴニュートを見ながら、両手に装備していた手甲を取り外していた。
ディザルヴニュートの方を見てみれば、ユンファが斬り付けた傷からは青いエフェクトが迸り、HPバーの隣には赤い雫の絵柄の出血のバッドステータスアイコンが付いていた。
そして何より、先程の雄叫びの後、今まで青黒かった外皮は鮮やかな明るい青へと変化していた。
俺はその変化により恐らく今まで青黒かった外皮に酸が染み出しているのではないか?っと当たりをつけると、その場で半回転したディザルヴニュートは、次なる標的を選ぶように首を巡らす。
まずいな……。
今ディザルヴニュートに一番近いのは、ナギだ。
しかも今は武器が酸に侵されたため、アイテムボックスに武器をしまっている最中で、無防備でもある。
今襲われればかなり危ないし、最悪なす術無く死に戻る可能性もある。
かと言って、今からディザルヴニュートの方へ走っていっても、ディザルヴニュートの方が早いし、ここから遠距離攻撃を行っても、リーゼリアに当たる可能性もある。
なら、遠距離攻撃の射線に入らないようにすれば良いか?
あまりこういうのは好きではないが、仕方無い。
そう判断し、俺は即座にアーツを使い、牽制のための行動に移る。
「リベレイトフォース・ソード!」
ヒィィィン!
アドヴァンスドソードの剣身から鋭い音が発生し、次の瞬間まるで水に濡れたような透明な輝きを剣身に宿したのを確認すると、その場で跳躍。
跳躍の頂点に達したところでディザルヴニュートを狙い、アドヴァンスドソードを振り抜きながらアーツを使う。
「リープスラッシュ!」
「ジャッ?!」
―――ドボンッ!
振り抜かれたアドヴァンスドソードの剣身から青白い斬撃が飛び、後少しでディザルヴニュートに当たる!っというところで、ディザルヴニュートは素早く身を翻し、水路へと飛び込む。
逃げられた?!
でも、ナギの方に行かなかっただけマシか?
そう思いつつ着地し、魚影ならぬ蜥蜴影を探すが、外皮の色が明るい青に変わったせいか保護色のようになり、水路の光を乱反射させた水面にそれらしき姿は見当たらない。
「逃げた……のかな?」
「どうでしょう~?」
そんな会話を聞きながら、注意深く水面を見ていると、ふいにシエルから声が上がる。
『あ! みつけた! ―――リリース! ライトアロー!』
そう言うな否やシエルの周囲から数十もの光の矢が生成され、次々と水路の一角にある水面へと発射されていく。
「ホホオォォォー!」
更にネロも上空からディザルヴニュートを見つけたようで、シエルに続くように、幾つものシャドウエッジを射出し、追い討ちを掛けていく。
ドバボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボンッ!
水面に着弾していく数十の光の矢と黒い剣身により、水路の水面は荒れ、幾つもの水柱が立っては消える。
宛ら魔法の絨毯爆撃のようだ。
水柱が立っているところを注視していると、時折ディザルヴニュートのHPバーのようなものが見えた。
恐らく、シエルのライトアローかネロのシャドウエッジが被弾し、少ないながらもダメージを負ったのだろう。
そうして注意深く水面を観察していると、少ししてシエルとネロの魔法攻撃が止んだ。
水路の水面には水煙が充満しており、水面さえも満足に見ることができない状態になっていた。
一応倒したかどうかの確認のため、ログやクエスト詳細を見てみたが、ディザルヴニュートを倒したというログは確認できず、またモンスターの討伐率が98%から変わっていないことから、まだディザルヴニュートは健在であるということが分かった。
しばらくして、水路の水面を覆っていた水煙が晴れると、そこには穏やかな流れと静謐な水音がする水路があるだけだった。
何処に居る?
そう思いつつも、水面を注視していくが、やはりディザルヴニュートの影も形も見当たらない。
念話を使い、シエルやネロにディザルヴニュートが見えるか聞くが……。
『いなーい』
『みえなーい』
という返事が返ってくるばかりだった。
今度こそ逃げられたか……? っと考えていると、何かに気付いたようにナギが『バッ』っと顔を上げ、後方にいるアリルに声を発する。
「アリルちゃん! 逃げてっ!」
「え?」
その声に反応するようにアリルの方を向けば、アリルが居る通路に程近い水路からディザルヴニュートが飛び出して来るところだった。
俺は瞬時にあの質量相手ではシールド系魔法を1つだけだとあまり効果が無いと考え、すぐ様左手を掲げ、アリルの横に向け魔法を放つ。
「トリプルマジック」
「プロテクトシールド!」
「?!」
ディザルヴニュートがアリルへと飛び掛る空間に、突如として3枚の青白い円形盾が出現する。
1つ1つのプロテクトシールドの大きさは通常の2倍はあり、またそれぞれのプロテクトシールドはある程度離れて出現した。
ディザルヴニュートは一瞬驚くように目を見開いたが、そのまま勢いに乗り、口を大きく開けながら、アリルに突っ込んで行く。
パキャンッ!
1枚目のプロテクトシールドが破壊されると、アリルは状況を悟ったのか、ディザルヴニュートの方を見つつ、腰を落とす。
パキャンッ!
2枚目のプロテクトシールドが破砕されると、アリルは体全体を深く屈め、跳躍の準備を整える。
パキャンッ!
3枚目のプロテクトシールドが砕け散ると同時に、アリルは後方の水路に背を向け跳躍し、ディザルヴニュートの顎から辛くも脱出することに成功する。
そして、跳躍の頂点に達するまでに、背に生えている3対の淡い緑色をした羽を震わせ、更に距離を取るように空中を飛ぶ。
「ジャペッ!」
「熱っ!」
しかし、ディザルヴニュートもただでは帰す気はないようで、空中を飛ぶアリル目掛けて、口から液体を吹き掛ける。
液体は体の前に出すように持っていた杖と手に掛かったようで、先程も見た白い湯気のようなものがアリルの持つ杖から盛大に上がっていた。
アリルは通路を迂回するよう空中を飛び、俺達のいる円形の床の方へと移動して来る。
それを横目に見つつ、俺はすぐ様念話でシエルとネロに指示を出し、パーティチャットで皆に今しがた考えた作戦を伝える。
『分かりました。それで、いきましょう』
『だね! もしも逃げられたりしたら元も子もないし、それに時間もあまり無いしね』
そうしてシエルの準備を待ち、その間にスキルを入れ替え、その後肉声で合図を出して、行動に移る。
『できたよー!』
「分かった。シエル、やってくれ!」
その言葉を合図にネロは俺の影に入り、俺達は全員目を手で押さえて庇う。
『いくよー? ―――リリース! フラッシュライト!』
「ッ?! ―――ジャアァァァ?!!」
シエルが俺の合図と共にフラッシュライトを使うと、ディザルヴニュートの眼前に2つの直径3cm程の小さな光球が出現し、そして次の瞬間、皓々たる凄まじい閃光が、光球から発せられる。
ディザルヴニュートから驚きと混乱するような鳴き声が上がり、湿った何かがのた打ち回るよう音が聞こえる。
俺の目を庇っている手の影が一時的に濃くなり、それ以外の場所は閃光に照らし出され、真昼の時よりも明るくなり、そして元に戻る。
閃光が消えてすぐ、ディザルヴニュートの方を見てみると、HPバーの隣には黒い雲のような盲目のバッドステータスアイコンが付いているのが確認できた。
『それじゃ、いってくる。アリル、ユンファ、サポート頼むな』
『うん、任せて!』
『はいです~!』
そうして、俺はディザルヴニュートの方へ駆け出し、暴れるディザルヴニュートの攻撃?を掻い潜り、ディザルヴニュートのミルク色の腹目掛けて打ち上げる。
「パワースマッシュ!」
ドパァン!
「ジャバッ?!」
ディザルヴニュートから苦悶の声が上がると、その巨体が少し浮き、重心が横に傾ぐ。
「そこです~! ―――フラッドウォータ~!」
「いっけー! ―――エアハンマー!」
「ジャジャジャジャジャジャッ?! ―――ジャガッ?!」
ユンファが掲げた左掌から人の頭程の水球が生じ、その水球から激しい水の流れが放出される。
放出された水の奔流は、狙い違わず浮き上がったミルク色のディザルヴニュートの腹に当たり、更に重心を横に傾ける。
そして、アリルが放ったエアハンマーがディザルヴニュートの顎を搗ち上げ、終にディザルヴニュートを仰向けにさせる。
仰向けにされたディザルヴニュートの背中からは、大量の白い湯気が発生しており、熱した石を水に入れた時のような『ジュワーッ!』っという盛大な音が出ている。
ディザルヴニュートのHPバーを見てみれば残りHPは2割強というところで、アリルのエアハンマーの影響か気絶のバッドステータスが発生していた。
これは好機だ!
気絶していれば、こちらが何をしようとも相手には悟られないし、何より逃げられる心配が無いのが、安心できる。
そう思いつつ、俺は素早くその場から離れ、合図を出す。
「ネロ!」
「ホオォォォー!」
俺がネロに合図を出すとディザルヴニュートの影が不自然に膨張し、その影の中から巨大な顔のない真っ黒のワニのような顎が出現する。
そして、ディザルヴニュートの脇腹へと噛み付きその巨体を拘束する。
「ジャッ?!」
すると、噛み付いたネロのシャドウバイトによる痛みで正気を取り戻したようで、驚きを含む鳴き声を発する。
ディザルヴニュートは慌てたように、手足をバタつかせたり、身を捩ってこの拘束から逃れようとするが、体勢が悪いせいか思うように動けず、更にシャドウバイトの牙が深く刺さる。
「いっくよー! ―――スラッシュバイト!」
そんな風に動けずにいるディザルヴニュートに素早く近付き、ナギはユンファが中途半端に切り裂いた弱点部位の1つである尻尾の付け根を、上下に切り刻む。
バツンッ!
「ジャアァァァーーー!!」
中途半端に切れていた尻尾の付け根は、ナギの攻撃により完全に切り離され、切り口からは夥しい量の青いエフェクトが迸る。
切り離された尻尾は激しくのた打ち、ビチビチと跳ね回るが、次第に動きが鈍くなっていき、最後には光の粒子へと変わっていった。
ディザルヴニュートは命の危機を悟ったのか、悲痛な鳴き声を上げながら、ガムシャラに首や手足を動かし、必死にシャドウバイトの拘束から逃れようとする。
そのかいあってか、シャドウバイトに少しずつ皹が入り、徐々に拘束する力が弱まっていく。
「遅いですよ。―――クロスエクスキューション!」
「ジャバッ!」
そんな中、リーゼリアはディザルヴニュートに駆け寄り、その首筋に、交差させた2つのカットラスを当て、勢い良く振り抜く。
切り裂かれたディザルヴニュートの首からは一拍遅れて大量の青いエフェクトが迸り、次いで、残っていたHPが急速に減少していき、0になったところで光の粒子となり消えていった。
◇◇◇
「お疲れ様でした。まさかボスでもないのに、これほど時間が掛かるとは思いませんでしたよ」
「お疲れ様ー! だよね! ってか今までモンスターが逃げるってことほとんど無かったし、水中に潜ったりするモンスターも居なかったから、余計に手間取ったよねー」
「お疲れ様でした~。でもこれで~、すっきりしました~。やっぱり~、汚れは残したくないですからね~」
「お疲れ様ー。だね! でも武器がボロボロになっちゃたのが悔しいなぁ。せっかく避けたのに、あんな仕打ちするなんて、酷過ぎだよぅ」
「お疲れ様。確かに、あれはきついよな。というか、アリル。飛べたんだな。その羽を使ってる人見たことなかったから、てっきり飾りかと思ってたよ」
『おつかれさまー!』
「キュキュウ!」
「まぁ、そうだろうね。羽なんて普通人には無いから、動かすのに練習がいるし、飛べるようになるまでかなり大変だしね。それに、この羽を動かすのに、毎秒でMP1を消費するから、長時間飛んでいられないし、本当にどうしようも無い時に位しか使えない、緊急手段なんだよ」
「へー、そうなのか」
そうやって互いを労っていると、ふいによく聞く音とインフォメーションが流れた。
『ピロン! 種族Lvが20に達したことにより、パッシブスキル:〔虚空庫〕の能力の一部が解放されました。詳しくは、スキル欄にある虚空庫のスキル説明をご確認下さい』
『ピロン! パパーン♪ コンプリートボーナス、〔称号:容赦無き掃討者達〕を入手しました』
「お! 称号ゲット! やったね!」
「苦労したかいがありました~」
「ですね」
「それじゃ、どんな効果があるか見てみようよ」
「だな」
そうして俺達は取得した称号の効果を確認していった。
〔称号:容赦無き掃討者達〕:一定エリア内に出現する全てのモンスターを討伐した者達の証。
効果:敵対者に止めを刺す毎に、ランダムでATK か M・ATKの値が1上昇する。
但し、日付が変わるのと同時にこの効果はリセットされ、この効果によって上昇した数値は0に戻る。
因みに、虚空庫の方は空間拡張+1というものが開放されて、虚空庫内の枠が1つ増えるというものだった。
「そういえば、お兄ちゃん。あの紫色の雷っていったい何だったの?」
「あー……覚えてたのか」
「当ったり前だよ! あんな衝撃的なこと、そうそう忘れないよ!」
「確かに、気になりますね~。雷を操る魔法何て~、見たことも~、聞いたことも~、ありませんよ~?」
「厳密に言えば雷を操る魔術は存在しますが、紫色や青白いものなんて無かったはずですよ?」
「さぁさぁ、リオンさん。何時かはバレることなんですから、話しちゃって楽になりましょうよ?」
「……はぁ。まぁ、そうだな。使っていれば何時かは誰かに知られることだし、それにそう隠すことでもないしな。だけど、時間が無いことには変わりないから、移動しながら話すからな」
そうして俺達は推定中間地点から出入り口を目指しつつ移動して行き、その道中で無属性魔法のことを話した。
ある程度お金が溜まってから、スキル屋にいったこと。
スキル屋で魔法を買おうとしたが、所持金が圧倒的に足りず一旦諦めたこと。
売られてる魔法の中に、ゲームによっては有ったり無かったりする、無属性魔法が置いてなかったこと気になり、受付カウンターで聞いたところ、置いてはいないという返事だったこと。
無いと言わず、置いていないという返事から、無属性魔法が存在すると判断し、Fランククエストをこなしながら、ディパートの街で情報収集をしたこと。
情報収集2日目にして、複写師のビーンさんが知っていて、東の森の奥地で隠居している友人が、無属性魔法を使えるのだそうで、もしもそこを訪ねるのならと、紹介状を書いてくれたこと。
ビーンさんに教えてもらったその友人宅に行くと、グレイスさんという実年の研究者然とした女性が居たこと。
グレイスさんにどうしても無属性魔法を習得したい旨を伝えると、限定クエストが発生したこと。
そこまで話すと、リーゼリアが声を上げる。
「無属性魔法に、限定クエスト……ですか。なるほど、興味深いです」
「それで、お兄ちゃん。その限定クエストってどんな内容だったの?」
「ああ、指定されたアイテムを指定された時間までに集めて、納品するってやつだったな。途中で死んだり、ログアウトしたりすると失敗扱いになるんだけど、納品するアイテムは既に持っていたアイテムを納品しても特に問題はなかったな……でも、その納品するアイテムの1つ、ゼライスの核片を集め終わった段階で、なんか妙に強い初見殺しのようなモンスターが出たんだよ。アレっていったい何だったんだろうな?」
「「え?」」
「えっと、お兄ちゃん。その妙に強かったモンスターの名前とか覚えてる?」
「いや、どうだっけな……。う~ん、あ。確かドロップアイテムがあったはずだから、ソレ見れば分かるな。ちょっと待っててくれ」
そう言って、メニューを開くと、横からアリル達の驚愕の声が挟まれる。
「え?! ちょっと、お兄ちゃん? 倒しちゃったの?! ウソでしょ?!」
「リオンさん、その冗談は笑えませんよ? いったい何をしたら、アレに勝てるんですか?!」
「あー……、まぁソコは聞かないでくれるとありがたいかなぁ……。あ、名前分かったぞ。ヴェアリアントゼライスだな」
そう答えると、アリル達は一様に絶句し、何かを諦めたような、呆れたような半笑いの表情をしていた。
何がどうしたんだよ?
アリル達が言うには、ヴェアリアントゼライスを初め、同じエリアで一定時間、レベルが5以上下の同種のモンスターを一定数以上倒し続け、一定数以上のレアドロップアイテムを所持していると、そのエリアで出現するモンスターのレベル帯から、大きく外れた個体が出現するのだそうだ。
そのモンスターは、俗に罰則モンスターと呼ばれ、β時代から恐怖の対象として見られていたのだとか。
パニッシュモンスターは、出現してしまうと特定条件を満たさなければ消すことができないらしい。
それで、その条件というのは、
1:一定数以上のレアドロップアイテムを全て捨てること。
2:出現させたプレイヤーが出現したパニッシュモンスターに倒され、24時間経過すること。
3:出現したパニッシュモンスターを倒すこと。
の3つなのだそうだ。
通常、レアドロップアイテムを一定数以上集めるということは難しく、何かしら事情がなければそうそう有り得ないので、出現させたプレイヤーは大体2つ目の条件を満たし、消えてもらうのが常識らしい。
もっとも、大体30~40分経過したら別のエリアに移り、狩りをし、また戻って来るということをすれば、パニッシュモンスターは出現しないそうだ。
また、極少数だがパニッシュモンスターを討伐することに成功したプレイヤーもおり、そのプレイヤー曰く、パニッシュモンスターは倒し方により、ドロップするアイテムが変化するようだ。
更に、特定条件を満たした戦いをすると、パニッシュモンスターをただ倒すだけでは入手できない、1ランク上のアイテムを必ずドロップするらしい。
「はぁ……どうしよう。杖を修理するより、新しく作った方が出費は少なくて良さそうだけど、材料が無いから、ステータスは落ちちゃうだろうなぁ。後2つもキークエストあるのに、途中離脱とか有り得ないよぅ」
アリルは先程のディザルヴニュートとの戦いで、ボロボロになったメインウウェポンの杖を見つつ、ガックリと肩を落とし項垂れる。
「アリルちゃん……」
「……アリル。材料があれば良いのか?」
「え? そうだけど」
「なら、どんな材料がいるんだ? もしも材料に使えそうなものがあれば、提供するし、無ければ今晩狩りに付き合うぞ。せっかくここまでやったんだから、途中離脱なんかしたら寂しいしさ」
「お兄ちゃん……っ! ありがとう!」
「お! リオンさん、やっさしー!」
「頼れるお兄さんって感じですね~」
「コラ! 2人共、チャカさないの!」
俺は若干ナギとユンファの言に照れつつ、気を取り直すようにアリルに声を掛ける。
「あー……それで、どんなアイテムなら良いんだ?」
「えーっと、そうだなぁ……1番重要なのは、魔法の媒体として使える鉱物か結晶だね。コレが無いと今より確実に魔法の威力が減少しちゃうからね。それと杖の材料になる木材と、今回の戦闘で痛感したから腐食耐性みたいな、酸に強い金属があれば最高かな? まぁない場合は、最悪宝玉以外は今の杖を修復して使い回せば、どうにかなると思うしね」
「ふむ、魔法の媒体として使える鉱物か結晶、ねぇ……」
そう俺は呟きつつ、メニュー画面を開き、アイテム欄を見ていく。
「って言っても、そう都合良くあるはず―――「あるぞ」って、え?! ウソォ?!」
「いや、本当だ。一応実体化させて渡すから、使えるかどうか見てくれ」
そう言って俺は、アリルの杖の材料に使えそうなアイテムを次々と実体化させ、アリルに渡す。
素材アイテム 闘争梟の柔羽角:ストライフオウルの羽角。赤茶色をした柔らかな羽毛の束。
この羽毛で作られたものは、所有者の魔力を高める働きがあり、また極珍にしか市場に流れないため、非常に高い値で取引される。
素材アイテム 活性樹の幹片:アクティブプランツの表皮片。衝撃を与えることで硬質化するという特性を持つ変わった幹片。この特性を生かし、昔から後衛用の防具素材として珍重されている。
素材アイテム 黄銅鉱:明るい金色の金属光沢が美しい鉱石。腐食耐性を持ち、ある程度軽いため、精錬しインゴット化することで様々な用途に使われる。
素材アイテム 活性樹の枝:アクティブプランツの枝。良い香りがし、スベスベとした独特な手触りがある枝。加工した後も良い香りがし、所有者の集中力や精神力を活性化させる働きがある。武器・装飾品の材料になる。
素材アイテム 変異ゼライスの核晶:ヴェアリアントゼライスの核晶。ヴェアリアントゼライスの核が急激に熱され、結晶化したもの。欠けることなく結晶化しているものは珍しく、優れた魔法の媒体として非常に高値で取引される。
「…………ん? ……んんっ?! ……えぇっ?!! ちょ、ちょ、ちょっと、お、お兄ちゃん?!」
「ん? どうした? 使えなかったか?」
「いや、使えるけど! 全然使えるけど!!」
「なら、良かった。それじゃソレを使って杖を作れば良いな」
「いや、でも! こんな素材もらえないよ! せめてお金払わせて! ただでもらうなんて、絶対ダメだよ!」
「でも、俺使う予定無いし……それに、アリルは新しい杖を作ってもらうんだから、ここで余計な出費をしちゃダメなんじゃないか? その内獣魔の卵だって、買うんだろ?」
「そ、そうだけど……。でもこの素材、見たことの無いものばっかりだから、たぶんイベント絡みのものだろうし、この核晶なんてさっき話してたパニッシュモンスターのドロップだよ! 無理無理!絶対に無理だよ!!」
「んー……そうまで言うなら、アリルが持ってるアイテムと交換っていうのはどうだ? アリルがいらない、使わないアイテムを出してくれればその中で俺が欲しいものを選ぶからさ」
「えぇー……それは、何か悪いよぉ」
「大丈夫! アリルにさっき渡したアイテムは俺にとって使わないアイテムかもう使わないアイテムだったんだし、人の価値観に合った取引だと思うぞ?」
「んー……じゃぁ、お兄ちゃんはどんなアイテムが欲しいの?」
「そうだな、食材アイテムとかあれば欲しいな」
「食材アイテム……うん、あるよ。それじゃトレード選択するから、欲しいものにチェックを入れて」
「分かった」
その後、俺とアリルは互いにいらない、または使わないアイテムを交換し、互いに欲しいアイテムを入手した。
「お兄ちゃん、ありがとね! これで何とかなりそうだよ」
「どういたしまして。困った時はお互い様だよ」
「よかったね、アリルちゃん!」
「うん♪」
そうやってアリルとアイテムを交換しつつ、他愛の無い話を皆として行くと、地下水路の出入り口に到着した。
ギルドから貸し出されていた鍵を取り出し、鉄格子の嵌った金属製の扉を開けた後外側から閉め、倉庫の扉に掛けた鍵を開ける。
皆が倉庫から出た後、シエルに装飾化してもらい、ネロが俺の影に入っていったことを確認して、倉庫から出て行き、倉庫の鍵を閉めてから急いで、冒険者ギルドへ向かって行った。
◇◇◇
冒険者ギルドに着いたのは、午後6時24分で、正直ギリギリもいいところだった。
「それじゃ、俺は報酬を受け取ってくるから、少し待っててくれ」
「分かりました。私達は後ろの掲示板付近で待ってますから、終わったらパーティチャットで声を掛けて下さい」
「ああ、分かった。それじゃ行って来る」
その後ギルド内で一旦リーゼリア達と別れ、俺は冒険者ギルドの受付カウンターで一番空いているに列に並んでいった。
少し待つとすぐに俺の番が来た。
「こんばんは」
「はい、こんばんは。本日はどのようなご用件で、当ギルドにいらしたのですか?」
「クエスト完了の報告に来ました」
「それでは、ギルドカードと依頼書の提示をお願いします」
「分かりました。では……どうぞ。あ、それとコレ。貸し出されてた鍵です」
俺は素早くギルドカードと依頼書を実体化し、水路の出入り口の鍵も一緒に出し、受付に人に渡す。
「はい、ありがとうございます。それでは、お預かりしますね。少々お待ち下さい」
そう言い、ギルドカードを何やら台座の付いた水晶板に挟んだ後、水晶板に接続されている版行のようなものを依頼書の上に翳した。
すると、依頼書に翳した版行のようなものの版木の部分が赤く光るのが見えた。
そして、そのまま依頼書に赤く光った版木を押し付け、その後少し受け付けカウンターの下でごそごそとする。
「お待たせしました。ではこちらが、お預かりしたギルドカードで、こちらが今回のクエストの報酬となります。お受け取り下さい」
受付の人はそう言うと、木製のバットみたいなものに、俺のギルドカードと布袋を乗せ、こちらに渡して来た。
俺が返却されたギルドカードとその布袋を受け取ると、ファンファーレが鳴り、インフォメーションが流れた。
『パパ~ン♪ クエスト《地下水路に蔓延るモンスターの駆除》をクリアしました。クエスト報酬:汎用魔法習得結晶・火×5 汎用魔法習得結晶・水×5を入手しました』
念のため渡された布袋の中を見てみると、掌大の三角の角が取れたような赤い結晶が5つと、涙滴型の青い結晶が5つ入っていた。
【製作者:グレイス】
消耗アイテム 汎用魔法習得結晶・火:古代文明の術式をスキル習得結晶に転写した、特定技能習得結晶の一つ。使用することで、使用者は火属性汎用魔法を習得することができる。
【製作者:グレイス】
消耗アイテム 汎用魔法習得結晶・水:古代文明の術式をスキル習得結晶に転写した、特定技能習得結晶の一つ。使用することで、使用者は水属性汎用魔法を習得することができる。
って、これもグレイスさんが作ったんかい!
あんななりをしていても、すごい人だったんだな。
人は見かけによらないの典型って、きっとああいうのを言うのだろう。
「確認できました。ありがとうございました」
「はい。またのご利用をお待ちしてます」
俺は受付の人に礼を言い、パーティチャットで皆に声を掛け、掲示板付近に居たリーゼリア達と合流して、ギルドを出て行った。
◇◇◇
ギルドから出てすぐ、俺達は通行人の邪魔にならない所へ集まり、今回の報酬を皆に渡していった。
「確かに受け取りました。リオンさん、皆さん、ありがとうございました。楽しかったです。時間も押してますので、先に失礼しますね。お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様。また明日な」
「お疲れ様!」
「お疲れ様! リアちゃんまたねー!」
「お疲れ様です~」
「それでは、失礼します」
そう言い、リーゼリアはログアウトしていった。
「あ、そういえば。気軽にまた明日って言っちゃったけど、明日の予定とか集合場所とか決めてたりする?」
「あ、はい。それなら大丈夫ですよ。さっき掲示板付近で待っている時、アリルちゃんの杖作成依頼完了が明日の正午頃らしいので、午後2時に教会前で集合になってます」
「そうか、なら良いな」
「それに~、確か教会でもアレを~、管理してましたよね~?」
「ああ、なるほど! だから待ち合わせ場所が、教会の前なんだな」
「うん♪ そゆこと! じゃ、私はそろそろ行くね。早く材料渡せばその分、早く仕上がる可能性があるし。あ、それとお兄ちゃん、お兄ちゃんが使ってた魔法のこと、掲示板に一応乗せて置いた方が良いかもしれないよ? 外で狩りをしていれば、嫌でも何時か誰かに見られるんだし、また根掘り葉掘り聞かれるのも嫌でしょ?」
「まぁ、そうだな。それじゃ、キークエストが終わったら、乗せることにするよ。それまではたぶん外では魔法使わないだろうしな」
「そっか、それならまぁ、大丈夫かな? それじゃお兄ちゃん、ナギちゃん、ユンファちゃん、また明日ね! 無いとは思うけど、抜け駆けは無しだよ?」
「ああ、分かってるよ」
「アリルちゃん、またね!」
「またです~」
そうしてアリルは街の雑踏の中に消えていった。
「さて、それで2人はどうするんだ?」
「私達は~、武器の修復に鍛冶屋でしょうか~?」
「だね! ……あ、そういえばアリルちゃんに渡してた腐食耐性のある鉱石ってまだありますか? なければ取れる場所でもいいんですが、今回の戦闘で酸属性の怖さを知ったので、欲しいんですけど……もちろん! 対価は払いますから。どうでしょうか?」
「それなら~、私もお願いしたいですね~。リオンさん~、お願いできますか~?」
「ああ、構わないよ。でも生憎、鉱石はアリルに全部渡しちゃったから、取れる場所になるけど良いかな?」
「はい! 大丈夫です。」
「私も~、大丈夫です~」
その後、黄銅鉱が採取できる場所を教え、対価に食材アイテムをもらった。
「それじゃ、ボク達も行きますね。リオンさん、情報ありがとうございます。早速行ってみますね。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした~。リオンさん、今日はありがとうございました~。また明日もよろしくお願いしますね~」
「ああ、2人共お疲れ様。こちらこそ、ありがとな。また明日」
そう別れを互いに言い合うとナギ達は先程出て来た、冒険者ギルドに入って行った。
恐らく今からクエストを受け、黄銅鉱を採取するつもりなのだろう。
さて、それじゃ俺もそろそろ移動するとしよう。
少し早めにログアウトして、晩御飯の支度をしても良いのだが、せっかくユンファが教えてくれたことだし、料理ギルドに登録と会員登録をしてから、ログアウトするとしよう。
それとさっきの報酬の汎用魔法も気になるから、料理ギルドに行く道中の人気の無い場所で、習得してしまおう。
そうして俺はメニュー画面から、マップデータを呼び出し、検索を使って料理ギルドの場所を探し、マップデータ上の黄色い光点に向かって歩き出して行った。
◇◇◇
料理ギルドへ向かう道中、丁度人気が少ない路地を発見したので、汎用魔法習得結晶・火と汎用魔法習得結晶・水を使い、汎用魔法を習得した。
〔火属性汎用魔法:イグナイトファイア〕:指定した物や空間に点火する、汎用魔法。
この魔法の威力はINT・MID・LUK の値に依存し、持続時間はINT・MID・DEXの値に依存する。
但し、魔法の発動場所を指定しない場合、利き手の人差し指の先に、魔法が発動する。
消費MP:1 リキャストタイム:3秒
〔水属性汎用魔法:クリエイトウォーター〕:使用者の魔力を水に変換する、汎用魔法。
生み出される水は、使用者のINTの値が高い程美味くなり、生み出される水の最大量はINT・MID・LUK の値に依存し、生み出される水の量は使用者の任意で止めることが可能。
消費MP:1 リキャストタイム:3秒
汎用魔法を習得後、再びマップ上の黄色い光点を目指ししばらく移動していくと、無事料理ギルドへ到着した。
料理ギルドはディパートの街の北区の大通りに面した、一見レストラン風の白い大きな建物だった。
中に入って見ると、出入り口のすぐ近くに受付兼、バーカウンターがあり、バーカウンターの奥には所狭しと様々な酒瓶や酒樽が並べられている。
出入り口から見て右手側には、木造のテーブルと椅子が、テーブル1・椅子4の割合で等間隔で並べられ、宛ら本当にレストランのような雰囲気を出していた。
出入り口から見て左側には、様々な食材や食品、調味料等が置かれ、まるで現実にあるスーパーのような構造をしており、バーカウンターとは違うカウンターが出入り口付近にあり、そこで会計を済ますようになっている。
俺はとりあえず、出入り口で突っ立っていては、他の人の邪魔になると思い、受付と札が付いているバーカウンターの一角へ進んで行った。
「こんばんは」
「はい、こんばんは。本日はどのようなご用件で、当ギルドへいらしたのでしょうか?」
「料理ギルドへの登録と会員登録をお願いしたいのですが」
「当ギルドへの登録には500Rが掛かり、ブランド会員の登録には簡単な質疑応答や審査がありますが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では先に当ギルドへの登録を済ませましょう。登録料は500Rになりますが、大丈夫でしょうか?」
「はい……では、これを」
俺は素早く500Rを実体化させ、受付の人へ渡した。
所持金:23575R⇒23075R
「確かに。それでは、こちらのカードにお名前、種族、年齢、得意料理をご記入の上、カードに付いている水晶板に指を乗せて下さい。指を乗せますと、魔力波形の登録が開始しますので、そのまま少しお待ち下さい」
そう言われ、俺は渡されたカードにリオン、人族、16歳、串焼き・ジュースと記入し、カードの水晶板の上に人差し指を乗せた。
少しすると水晶板の下辺から光の波のようなものが現れ、次第に水晶板の上辺まで登って行き、そして消える。
「はい、ありがとうございました。これで、当料理ギルドへの登録及び、ギルドカードの作成が終わりました。そしてこちらが当料理ギルドのギルドカードになります。紛失されますと、再発行はできますが有料となりますので注意して下さい」
俺はそう言われて渡されたギルドカードを一応鑑定してから、虚空庫にしまった。
証明アイテム 料理ギルド所属証明カード:料理ギルドに所属していることを証明するカード。本人及びギルド職員にのみ、ギルドカードの作成料理履歴以外の詳細情報を閲覧することができる。
「それでは、当ギルドについての説明をさせて頂きます」
内容を要約するとこういうものだった。
まず、ギルドカードには、俺のギルド内でのランクと今まで受けたクエストの履歴と作成した料理の売り上げ、そして今まで作った料理の履歴が確認できるようになっているそうだ。
料理の履歴とは、即ち作成した料理のレシピを指し、この履歴は登録した本人が了承したり、登録した本人が犯罪者にならない限り、例えギルドマスターであっても、他者が勝手に閲覧することはできないらしい。
まぁ、料理のレシピと言えば、料理をする人にとってはとても大切なことなので、勝手に見られ、使われたりすれば、モチベーションの低下や、最悪ゲームを止めることに繋がり兼ねない。
なので、この料理レシピを他者に閲覧できなくさせる措置は、ある意味あって当然なのだろう。
ギルドランクは冒険者ギルドと同じで下から、F・E・D・C・B・A・S・SS・SSS とあり、ランクを上げるのには、料理ギルドでのクエストを一定数以上受注し、クリアするか、作成した料理の売り上げが一定以上になるか、昇格試験を受けて合格するかの3つの手段があるそうだ。
他の説明は冒険者ギルドと同じだったため、適当に聞き流した。
「説明、ありがとうございました」
「いえいえ、これも職務ですから。それでは、何か質問が無ければ、ブランド会員登録の方に移ろうかと思いますが、よろしいですか?」
俺は何か聞くことはないか考えたが、今の時点ではなさそうだと判断し、先を促す。
「はい、お願いします」
「では、奥に個室がありますので、そちらで話しましょう。付いて来て下さい」
そう言って受付の人が、カウンターバーから出て、ギルドの奥にある個室へと先導していった。
奥にあった個室は、高さ2m強、幅3m弱、奥行き5m程の小さな部屋で、部屋の中には、簡素な丸テーブルが1つと、椅子が2脚あるだけだった。
「そちらの椅子にご着席下さい。ご着席後、幾つか質問をしていきますので、それにお答え下さい」
そう言われ俺は個室へと入って行き、進められた椅子へ腰掛けた。
「それでは、質問を始めます。リオンさんは、何故当ギルドのブランド会員になりたいのかの動機をお聞かせ下さい」
「はい。料理ギルドのブランド会員になりたい理由は、自作した食品アイテムの効果が、高かったためです」
「ふむ、続けて下さい」
「先日料理をしていたら、つい作り過ぎてしまい、そのまま死蔵するのも何なので、市場に売りに出そうと考えたのですが、俺自身市場の相場に疎いということもあり、友人に試飲してもらい、意見を聞いたんです。そして、その結果普通に販売しているポーションより美味く、見た目も綺麗で、ある一定の格までは従来のポーションより回復量も多いということで、最低でも1本500Rで売れると言われました。しかし、鑑定で製作者の名前が分かってしまい、回復量や効果が高いものは嫌でも人目を引きますから、心無い人によっては人海戦術等で製作者を突き止め、身勝手な要求を突き付けてくるとも聞いたからです」
「なるほど。そのリオンさんが作成したという料理は今、持っていますでしょうか? 持っていたら出して頂けませんか? 是非とも実際に実物を拝見してみたくなりましたので」
「あ、はい。持ってます。……どうぞ」
俺は素早く自作したライフジュースを次々と実体化していき、とりあえず全部の種類をテーブルに出していった。
「幾つか種類があるのですね。それでは、失礼します」
そう言うと料理ギルドの人は、俺が自作したライフジュースを手に取り、光に透かしたり、蓋を開け、瓶の上を手で扇ぎ、ライフジュースの匂いを嗅いだり、時折じっと見つめたりしていった。
「ふむ、見た目、匂い、効果共にリオンさんのお話通りですね。後は味ですが……試飲をしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。まだたくさんありますし、大丈夫ですよ」
「そうですか。それでは、頂きますね」
そう言い、料理ギルドの人はライフジュース(ミックス味)を手に取り、一息に飲み干す。
「ふぅ。味も良いと。確かにコレなら、身勝手な要求をしてくる心無い輩も出て来そうですね。分かりました。リオンさん、あなたを当料理ギルドのブランド会員として認めましょう」
「ありがとうございます」
「それでは、先程作成したギルドカードの提示をお願いします」
「はい。……どうぞ」
俺は先程しまった料理ギルドのギルドカードを素早く実体化し、料理ギルドの人に手渡す。
「確かに。ではブランド会員登録の手続きをしてまいりますので、少々お待ち下さい。それと、ブランド会員は、個人を示すシンボルが必ず必要になりますので、まだお決めになっていないのでしたら、お待ちの間にでも、ご一考されてはいかがでしょうか? 但し、シンボルを1度決定すると、変更はできなくなりますので、お気を付け下さい」
「分かりました。少し考えてみます」
俺がそう答えると、料理ギルドの人は俺のギルドカードを持って、小部屋を退室して行った。
さて、シンボルかぁ……どんなものにしようかな?
このゲームのアバターであるリオンのことなら、獅子と竜と長剣とかかな?
……いやでも、このブランド会員はそもそも、製作者を分からなくさせるためのものなんだから、俺が作成したってことが、他人に分かってしまうとダメなんだよな。
うーん……かと言って、俺と全く関係無いシンボルってのも、何か寂しい気がするし。
俺に関わる要素があって、尚且つ俺自身とは結びつかないシンボルかぁ……難しいな。
俺は何と気無しに、殺風景の個室内を見回すが、何か参考になるようなものは見当たらなかった。
んー、困ったな。
どうしよう?
そうやって少し悩みつつ、視線を色んな所へ向け、足元の影を見た瞬間、あるアイデアが浮かんだ。
そうだ! 俺の要素とシエルやネロの要素を混ぜよう!
シエルはある意味、一部では有名らしいから、ベースはネロにしよう。
なら俺の要素とシエルの要素はなんだろうか?
俺の要素はさっき出したから、シエルの要素だけど……まず、幼女。
それに、金色、半透明、かわいい、後は陽光かな?
それじゃネロをベースに、今まで出した要素を混ぜてみるかな。
そうして、幾つかの組み合わせの果てに、最もしっくりくる組み合わせが俺の脳内で出来上がると、丁度ブランド会員の手続きをしに行っていた、料理ギルドの人が帰って来た。
「お待たせしました。こちらはお返ししますね」
そう言い、料理ギルドの人はギルドカードを俺に手渡して来た。
返却されたギルドカードを見るが、特に変わったところはなさそうだった。
「あの、シンボルのことに付いてなんですが、少し良いですか?」
「はい、大丈夫ですよ。何なりとご質問下さい」
「じゃぁ、シンボルの色と大きさってどうなるんですか?」
「シンボルの色は、桃・赤・橙・黄・緑・青・藍・紫・黒・白・銀・金の12色から1つを選択して頂くことになります。シンボルの大きさの方は予め決められており、料理を盛る器の大きさによって変化することになります」
「なるほど。それと、シンボルの絵なんですけど、もしかして製作者自身が描くのでしょうか? あまり絵って得意では無いんですが……」
「いえ、ご安心下さい。ある程度指示を頂ければ、当料理ギルドに所属する絵師が、ブランド会員の方に代わり、要望に沿ったシンボルの絵を作成しますよ。もっとも、ご自身で描きたい場合は、ご自身で作成して頂いても構いません」
「そうなんですか。それじゃ、料理ギルドに所属する絵師さんで、お願いします」
「はい、承りました。それでは、どのようなシンボルにするのか、ご希望をお願いします」
俺は、先程考えたネロをベースに、俺とシエルの要素を混ぜたものを話した。
「分かりました。それではシンボルの下絵ができるまで少し時間が掛かりますので、その間にブランド会員について説明をさせて頂きますね」
料理ギルドの人はそう俺に言いつつ、何時の間にか持っていたハンドベルを鳴らし、個室に入って来た他のギルド員と思しき人に、先程シンボルについての希望を書いた紙を渡し、他のギルド員が退室すると、説明を開始していった。
説明を要約すると、こういうことだった。
まず、ブランド会員のシンボルは先程も言われた通り基本、1度正式製作したら、変更することはできなくなる。
但し、ギルド員の不手際でシンボルの主を特定された場合にのみ、再度シンボルの作成の許可が下りるそうだ。
次に、ブランド会員の製作したシンボルはスタンプの魔道具の版木に使用される。
このスタンプは料理ギルド内でしか使えず、更にシンボルを作成した者の魔力波形でしか、押印することができないそうだ。
また押印すると、押印した器に入ったアイテムの製作者が、鑑定しても分からなくなるようになるらしい。
そして押印は、シンボルを作成した者の魔力を極少量消費して、シンボルを押印した器に転写する仕組みのようだ。
押印した器の中身を全て出したり、製作者以外のものを入れてもシンボルは消滅し、蓋を開けてから一定時間経過しても、器に押印されたシンボルは自然消滅して、シンボルの悪用・転用を防ぐと共に、製作者の名前も鑑定できなくするそうだ。
また、押印したアイテムを転売すると、シンボルが消滅して有用なアイテムからゴミへと変化させるらしい。
この仕様も、シンボルの悪用・転用を防ぎ、尚且つブランド会員の権利を守るためのもののようだが、少しもったいない気がしてならないな。
最後に、このブランド会員の会費についてだ。
会費は、一律でスタンプの魔道具で1回押印するたびに、10R払うようになっていて、スタンプの魔道具自体に押印した数がカウントされる仕組みがあるため、誤魔化しは効かないそうだ。
それと、ユンファからの情報通り、スタンプを押印したアイテムを納品すれば、製作者の代わりに市場に出品もしてくれるらしい。
但し、市場で売れ残った場合は、出品した手数料は自分で支払う必要があるようだが。
そうやって説明を聞き終えて少しすると、先程シンボルについての希望を書いた紙を取りに来た、他のギルド員が戻って来た。
完成した下絵を見せてもらうと、俺が考えた通りのシンボルになっていたので、特に変更することなく、正式作成してもらった。
正式作成は下絵を用いて、スタンプの魔道具に記憶させるだけだったので、特に時間を掛けること無く、すぐにできた。
完成したスタンプの絵柄は、獅子のようなフワモコの襟巻きを巻いた、獅子のような尻尾を持った、金色の兎のような動物の後ろに、後光が差しているものだ。
俺は早速、虚空庫の中から作り過ぎて死蔵してあったライフジュースを全て出し、次々に押印していく。
押印には先程の説明にあった通り、極少量の魔力=MPを1消費して、シンボルを器に転写していった。
押印し終えたライフジュースを納品し、市場に出す値段を伝えて、押印した数×10Rを支払い、当初の予定通り市場に出品してもらうことにした。
願わくば、売れ残りが出ないことを祈りたい。
所持金:23075R⇒21975R
その後、俺はスタンプの魔道具を返却し、料理ギルドの人にお礼を言い、料理ギルドから出て行った。
もちろん、スタンプの画像はきちんと撮り、メールに添付して、アリル達に送って置いた。
それじゃ、そろそろ俺もログアウトするとしよう。
明日の待ち合わせまでは、結構時間もあることだし、使い切ったさっき納品したライフジュースの材料を取って、生産三昧も良いかもしれない。
あ、でもカインさんに聞いた、酔いどれオーガが落とす清酒での実験も捨てがたい。
まぁ、どちらにしても生産することには変わらないし、生産するには材料が必要だから、材料集めの進捗具合に応じて、行動することにしよう。
そう俺は今夜の予定を考え、人気の無い路地裏に入り、ネロに宿紋化してもらい、ログアウトして行った。
2016:7/2 作者の懐 大破
2016:7/4 作者の両腕 高速タイピングにより 小破(腱鞘炎)
新しいPC買いました。
2重の意味で痛いです。
PC高い。。。