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「昨日借りてた本、もう読み終わったんですか?」
「いや、明日から連休だから、借り足そうかと…」
でも、それは重くありませんか…と告げると、
あ…
と返された。
桜の腕にはすでに4冊ほどの単行本があり、さらに数冊の文庫本を追加しようとしていたところだった。
「…何かおすすめとか、ないですか」
耳が熱い。
「あの、先輩の好きなやつで全然よくて、
出来れば、薄いというかあんまり難しくないやつで…」
しどろもどろしていると、
桜は手に持っていた文庫本を一冊渡してくれた。
でもこれは先輩が読みたいやつなのでは…と疑問を浮かべたまま動くことが出来ないでいると、
「今読んでるあの本、面白い?
少し読みづらいんじゃない?」
私がずっと本を読み進められずにいたのに気づいていたらしい。
「これ、ずっと前から好きで、何度も読み返してるの。そんなに難しくないから、読みやすいと思うの。」
「あの本、好きな作家さんだから読んでみたのだけど、私は少し読みづらくて。で、読みづらそうにしてるから…余計なお世話だったらごめんなさい」
「あの、ありがとうございます!
わわ私らあんまり本読んだことなくて、これを気に本好きになりたいなーなんて思っちゃったりしてて…」
緊張と嬉しさでうまく気持ちも伝えられていないし、おそらく顔も真っ赤で、変に思われてるのではないだろうかと不安まで出てきて、いっぱいいっぱいだった。
司書さんに、雑談するなら外で、と注意を受けてしまい、
先輩が少し恥ずかしそうに、部室行こう。と声をかけてくれた。
その日はいつもよりたくさん、たくさん先輩のことが知れた。