19
彼女はとても、嬉しそうにしていた。
にこにこと近寄っては来るけれども、私のパーソナルスペースには絶対自分からは入ってこない彼女を少しずつ、信頼し始めた。
後輩とはこんなものなのだろうか、可愛い妹みたいなものだろうか。
人に、自分の好きな本を好きになってもらうのは、同意してもらうのは、とても嬉しいことだった。
私のことをすごいすごいと慕ってくれるのは、なんだか悪い気がしなかった。
床に座り込み一生懸命に読む姿は、去年の先輩には私はこう見えていたのかな、なんて思うこともあった。
夏の、季節になった。
夏服に袖を通した。
まだ梅雨に入ったばかりで蒸しっとしている。
一年生達はまだ夏服が届いていないらしく、すこし大きめのセーラー服をひらひらさせていた。
そんな紺色の制服を着た子に背中を触られびっくりしたのだ。
嫌ではなかったけれどとても恥ずかしかった。
図書館に出て、小さな子に抱きつかれながら、頭を撫でていたあの子をみて、
何故だかとてもショックだったし、また恥ずかしくなった。
いつもにこにこそわそわとしている唯とは、違う顔をしていた。友達だろうか恋人なのだろうか分からないが、違う顔をしていた。
好かれているなどと自惚れていたが、本当はあの子から気を遣われているだけで別に好かれている訳ではなかったのでは、と。
別にそんなに親しくないのだから、
後輩が、図書館の隅であんなことをしていても、ショックを受けるなんておかしい。
どちらにせよ、あれは私が見てはいけないものだったのだ。
ショックというほど私は苦しくなっていない、
ただびっくりしてしまっただけだ。と言い聞かせた。
びっくりして、頭から離れない。
戻ってきた彼女と自然に会話出来ない。
見てなかったように過ごさなければならないのだから不自然な状態で会っては行けない。
そう思い、唯が戻ってこないうちに、桜は荷物をまとめ先に部室から出て行った。




